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スロウ・ライフ プロローグ - (2007/10/06 (土) 22:57:26) のソース
#center(){{{ &ref(prologue.jpg) }}} 貴女はまるで、童話の中の御姫様。 伏せられた瞳に動かない唇。 そんな貴女を見ながら、まだ起きない貴女を思い描く。 貴女は、花の様に笑い、風のように走るのかしら。 貴女は、月の様に佇み、影のように寄り添うのかしら。 貴女は、海の様に優しく、山のように大らかなのかしら。 貴女は、優しく微笑む天使かしら。 貴女は、意地悪く笑う悪魔かしら。 朝は私を起こしてくれるのかしら、それとも私が起こすのかしら。 ご飯を一緒に食べられるかしら、一緒に洗いものも出来るかしら。 私と一緒にお出かけ出来るかしら、一緒に買いも出来るかしら。 貴女は、こんな私を笑うかしら? まだ見ぬ貴女、まだ出会えぬ貴女。 そんな貴女を思い描く私を、笑うかしら。 馬鹿な主だと、愚かな主だと笑うかしら。 でも、良いわ。 貴女と笑って暮らせるのなら。 「お初にお目にかかる。私の識別名はエウクランテ。貴女が私の主であろうか?」 部屋の真ん中に置かれたテーブルの上で、彼女は言った。 一人用のテーブルの上でもなお、その小ささが目立つ彼女は当然人では無い。 武装神姫。 人類の科学の結晶、慎重15cmにして人と同じ外見と、人と同じ心持った機械仕掛けの御姫様。 「そうよ、私が貴女の主? になるの」 絨毯に直に腰を下した私と、彼女の目線にはやはり差がある。 テーブルの分を差し引いても、まだまだ彼女の方が低い。 「それでは主、僭越ながら主の名を聞かせて頂けるだろうか?」 貴女は至極冷静に振舞っているけれど、時折視線が部屋中に飛ぶのを私は見逃さない。 本棚、机、ぬいぐるみ。 どれもが初めて見るものばかりなのだろう。 それを考え、これからを考えると自然と笑みが浮かんでくる。 「私の名前は加奈美。戸坂加奈美よ」 私の笑みに釣られたのか、貴女もようやく笑ってくれた、 とても機械とは思えない。自然で和やかな微笑。 「加奈美……か。とても良い名だ、主。それでは私にも名を与えてはくれないだろうか?」 小首を傾げる動作も、とても機械には見えない。 その全てが新鮮で、愛おしくて、私は不思議な気持ちで貴女の為に考えた、貴女だけの名を呼ぶ。 「……シルフィ、それが貴女の名前よ」 それを聞いた瞬間の貴女の顔は、本当に嬉しそうで、幸せそうで。 私も釣られて嬉しくなるような、素敵な笑顔。 「素晴らしき名だ、主。感謝する」 これから始まる貴女と私の生活。 大きな事件も、胸躍る冒険もいらない。 ただ流れる毎日に、身を委ねて楽しみたい。 「これからよろしくね、シルフィ」 「こちらこそ、主」 [[先頭へ>スロウ・ライフ]] [[次へ>スロウ・ライフ 1話]] &counter()