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第2章 月下美人(2) - (2007/09/13 (木) 22:16:44) のソース
降雨、豪雨、風雨、雷雨。 「カンナっ、いそげ!!」 「わかり切ってる事言わないで!!」 急げだなんて、当たり前だ。だって秋子が泣いてる。あのツクハちゃんも、泣いてる。今間に合わなかったら、“友達”を救えなかったら、私は絶対後悔するから。だから、当たり前だ。ただ走るだけ、悲劇を止める為に。 『・・・それにしても遅いわね、その相原って子』 「遅いって言っても、秋子が来てから10分も経ってないけど? 大体アタシ達待ち合わせの時間なんて知らないんだから、秋子が早く来ただけかも知れないよ?」 『甘い!! 例え待ち合わせが何時であろうと、相手より早く来るのがオトコの甲斐性ってモンでしょ!!』 イヤホン越しに熱弁するアニーちゃんをそこそこにあしらい、アタシはまた物陰から駅前に立つ秋子を覗き見る。結局、押し切られてアタシは友達の尾行なんてしちゃっている。後でばれたら怒るだろうな秋子。 『それにしてもあなたの親友、初デートの割に冴えない格好よね。確かに男っ気無し』 胸ボタンにつけた小型カメラで映像もあっちに送られているからって、今度は秋子のダメ出しに入るアニーちゃん。確かに、秋子はジーンズにスニーカー、それと地味めなパーカーだけ。デート、と言われると飾り気は足りないと思う。 「でも・・・、何気にお気にのブレスとかしてるし、普段から考えれば十分張り切ってるよ、秋子は(下手するとジャージで出歩く位だし)。大体、場所が場所だから」 『ああ、そう言えば場所のチョイス自体が問題だったわね。確かに神姫センターでミニスカは無意味だわ。あれ・・・どうやら張本人が来たみたいよ』 言われて見回すと、確かに相原君らしき人影が秋子に近付いてきた。服は秋子に輪をかけてラフ。デートと言うより遊ぶ気満々みたいだ。あ! もう一言二言も交わさない内に駅に入ってちゃった! 見失う前に追いかけないと!! 2人の後に飛び乗った電車に揺られて十数分、降りて徒歩数分。目的のヒメガミ神姫センターに辿り着いた。場所は一応知っていたけれど、実際目にしてみると結構大きい。そして予想以上に混んでいる。 『ここは正式規格のリアルバトルフィールドを設置しているから、ファーストランカーの試合もよくあるのよ。だからね』 「そのリアルバトルとか、ファーストランカーって何なの? アタシやったこと無いから判らないんだけど」 『公式神姫バトルはサード、セカンド、ファーストってランク付けされててね、ファーストランカーはそのてっぺんのランクに居る奴の事よ。それから、神姫バトルは神姫を壊さないようバーチャルでのバトルが主流なんだけど、ファーストだけは破壊の危険もある現実でガチの殴り合いするって暗黙の了解があるのよ。プライドがどーとかこーとかで。で、それが出来る施設がここにはあるという訳』 「殴り合い、かあ・・・」 そんな事、みんな良くやるなって思う。もし、それがロウだったら、アタシは・・・ 『ところで、見失っちゃうから早く追いかけてよ』 「え!? ああ゛っ!!」 人ごみを掻き分け追いつくと、何故か2人は案内看板の前で立ち止まっていた。口論してる?(あ、しているのは秋子じゃなくてポシェットから顔出したツクハちゃんの方か)。ええと、右手がバトルスタジアムで、左手がショッピングモールみたい。 『うっわ~、相原って子、ツレにウインドウショッピングもさせない気? ホント判って無いわね』 「え、でもショップって武装とかを売ってるだけでしょ? 秋子は欲しがらないんじゃないかなぁ」 『甘いわね。その角の方見てみなさい。ここは普通の神姫用服飾の店舗もあるのよ』 あ、アニーちゃんの言うとおりに、そこには人形服みたいなのが沢山並んだお店がある。あれって猫型だっけ?神姫がちゃんと売り子してる。へえ、こういう店もあるんだ。私も後で寄ってみよう、ロウが喜びそうなものもあるかも。 『大体、ショッピングなんてオンナノコが一番輝く時じゃない? 眺めてるだけでも色々うはうはだし、こうどれが似合うーだの甘酸っぱい会話とかしちゃったりすれば一気に進展ってなるのに、それを見逃すなんてホント勿体ないったらああもう・・・』 「アニーちゃん、言い方微妙におっさん臭いよ」 『あたしはどっちだっていいのよ。よし、こうなったら奥の手よ!! アニーちゃん3秒ハッキング!!』 「え? なにを・・・!?」 明音、警告音、赤光。 “只今、バトルスタジアムサーバーに障害が発生致しました。誠に申し訳ありませんが、機能復旧までしばらくの間、バトルスタジアムは使用停止とさせて頂きます” 『これでイヤでもショッピングに行くでしょ』 「・・・アニーちゃん、どうやったのか知らないけど、力技すぎ」 ---- 「あれ!? いきなり何だよ? スタジアムがダメになったってのか?」 「ふ~ん!! ショップ寄りたいしゅーこちゃんを無視した甲斐性ナシにバチが当たったんです~!!」 「・・・行きたいって言ったのはツクハの方でしょう?」 法善寺に諌められても、彼女のツクハって言う神姫は俺に喰いかかるのをやめない。ホントにマスターと対照的な神姫だよな、面白いけど。 「タケヤ少尉、どちらにしろ、現状のままここに留まるのは得策とは言えません。彼女の提言を推奨いたします」 頭の後ろから声。今までなりを潜めていた俺の神姫、フォートブラッグのフォトンがナップザックからやっと顔を出してきた。 「フォトン、ずっと中で何してたんだ?」 「センサーユニットの調整です。破損しているMGシステムの代替措置を、バトルまでに完璧にしておくべきと考えました」 「ホント真面目だよな、おま・・・」 「あっ!! あなたがフォトンちゃん? うっわ~っいです!!」 「あっちょっ、ツクハ!? あう!?」 「え? おわっ!?」 法善寺がヘンな声を上げたと思えば、あっという間に白緑の神姫は彼女をよじ登り、俺の肩口に飛び移ってきていた。今その小さい腕が目に刺さりそうで危なかったってば。 「つーはツクハです! フォトンちゃん、以後よろしくです♪ らぶ~です♪」 「はい、よろしくお願いいたします、ツクハ様」 「様なんて他人行儀いいですよ~♪ これから親密になるですから♪」 「・・了解です、ツクハ」 「ちょと俺の上で暴れるなって!」 「とりあえず、移動しましょう。・・・恥ずかしいから」 落ち着いて周りを見れば、周りの視線が痛かった。 法善寺がモール内にベンチを見つけ、肩で暴れている2人をつまみ下ろしてから腰掛ける。さっきからずっと法善寺の神姫はフォトンにべったりだ。 「はう~、やっぱり写真よりずっとカワイイです~♪」 「ホントに面白い性格してるな、法善寺の神姫」 「・・ごめんなさい相原君。フォトンちゃんも」 「いえ、本日はツクハと親交を深める為と少尉に指示されておりましたから」 「・・真面目ね」 「真面目といえば法善寺だろ。ま、神姫を学校に持ってきたのはびびったけど」 「コラ~! しゅーこちゃんをいじめるなです~! しゅーこちゃんがつーを学校に連れてってくれるのにはエーゲ海よりもふか~い訳が・・・」 「判ってる。だから言わないって。でもカッコいいよな、そういうの」 「・・・」 急に法善寺が黙る。俺、何か悪い事言ったかな? でも俺は実際そういう神姫を大事にしてるのっていいなって思ったんだ。今までの仲間ってあんまり神姫を友達みたいにしなかったし、やっぱ女子の方がそういう風に接するのかな? 良くわかんないけど。 「ねーところで、フォトンちゃんってなんでコイツを少尉って呼ぶです?」 「だってその方がカッコいいだろ? じゃあお前は何がいいんだよ?」 「そーですねー、メディコとかいいです!! 愛の治療で手取り足取り腰取り・・ぐふふ・・・」 「・・・ツクハ、ヘンな笑い方しないの」 「法善寺は、参謀って感じだよな。頭良いし」 「え!? あ、うん・・・」 「・・・法善寺様、照れておられるのですか?」 「? フォトン、それってどういう事?」 「・・・」 良く判らないけどともかく法善寺は照れているらしい。さっき黙ったのもそうか。ああ、きっと今まで神姫仲間が居なかったから、こういうの慣れてないのかもな。 「・・・やっぱりアンタはつーの敵です」 「差し出がましいようですが、少尉はもう少し女性の心への配慮を覚えた方が良いと思われます」 「フォトンまで、なんだよソレ」 “サーバーのメンテナンスが終了致しました。只今より、バトルスタジアムの使用を再開致します” 「スタジアム、直ったって。行ってみましょう」 「え~! まだお買い物してないですの~!!」 「ツクハ、我侭はやめてよ。買い物は後でも行けるでしょう。相原君、何か見たいものがあったんでしょう」 「うん、今日はファーストランカーの試合が幾つかあるらしいからな。あ、そうだ、時間があったら俺のフォトンともバトルしてくんない?」 「いや、それは・・・」 「ばっかもの~!!!! オンナノコを争いに駆り立てるなんてそんなフトドキモノは全員死刑です!!」 「はっ!? 武装神姫がバトルするのは普通・・・」 「問答無用!!!」 「・・・ごめんなさい相原君、ツクハは神姫が好きすぎて戦わないの」 「そうなのか? ・・・まあ、そんな神姫がいたって・・・」 「Ho―、Ho―、Ho―・・・」 投擲、飛、接触、芥。 「あん? ゴミぃ!? お前か、コレを投げた奴は! なめた真似してくれるじゃねえか!!」 「え!?」 立ち上がった途端に怒声が飛んで来た。振り向けば、それは(言っちゃ悪いけど)鼻ピアスの似合わない革ジャンを着た太目の人だった。手にしているのはガムか何かの紙くずみたいだ。 「いや、俺はそんなもん知りません!」 「知らねえ訳があるか!! 飛んできたこっちの方には、お前たちしかいねえんだよ!! ガキが女連れて調子乗ってんのか!!」 「ちょっと、彼女は関係ないし、そんな物を投げた覚えも無いって!」 「そうですっ!! コイツはともかくしゅーこちゃんにインネンふっかけるたぁこのつーが許さないですよブタ野郎!!」 「ちょっとツクハ、煽らないで!!」 「ああん? 神姫が息巻いてんじゃねえぞコラっ! 痛い目・・・」 「吉田、その位にしておけ。人目があるんだぞ」 「山田、だがよ・・・」 「だから“人目を気にせずにツブせる”やり方にすればいいんだよ。判るだろ?」 激怒寸前だった太目の人を、後ろから今度は短髪で細身の人が引き止める。この人よりまともそうな格好に見えるけれど、目つきがヤクザみたいで怖い。その目がぎろりとこっちを向いた。 「君、連れがヘンな疑いをかけてすまなかったな。ちょっとこいつ、さっきのバトルでファーストランカーにこっぴどくやられて気が立ってたんだよ」 「ああ、はい・・・」 「だが、実際このままだとお互いの気が晴れないのも確かだ。君たちも神姫やっているようだし、ここは一つバトルで決着をつけないか? 俺達はリアルバトル主体なんだが、今日はあまり戦ってくれる相手が居なくて、な?」 寒気のする視線。丁寧に見えるけれど、俺達は思いきり脅迫されている。“リアルバトルを受けなければ酷い目に遭う”って。でも、バトルを受けたって無事に済むワケないし、フォトンはこの前のバトルの損傷が残っているし、法善寺を巻き込むことには変わらない。どうすりゃいいんだ・・・ 「当然ですっ!! オマエら凸凹コンビの鼻をヘシ折ってやるですよ!!!」 「ってまた法善寺の神姫!? 受けたら・・・」 「あの、今のは私の神姫が・・・」 「受けるか。じゃあスタジアムの方へ行こうや」 法善寺が弁解するスキも与えずに、2人は歩き去ってしまう。 「相原君、御免なさい。庇ってくれたのに。ツクハ、自分の言った事が判ってるの?」 「大丈夫ですよ! つーはヤローには一切手加減しないのです!!」 「戦うのって、神姫よ? ツクハは女の子を傷つけるなんて出来ないでしょう?」 「・・・あ。」 「ともかく、バトルは俺のフォトンで何とかするから。行けるか、フォトン」 「・・・戦力的には圧倒的に不利です。ですが、今回の主目的はマスター達の安全の確保であり、自分が敗北すれば事態は収拾する為問題ありません」 「馬鹿っ!! お前が壊れるだろ、そうなったら!!」 「そうですっ!! つーが居る限りそんな事させません!! フォトンちゃんもしゅーこちゃんも、ついでにオマエも全員無事でらぶ&ぴーす!!」 やけに自信たっぷりに宣言する法善寺の神姫。神姫と戦えないのにどうして・・・ あれ?そう言えば、じゃあどうして法善寺はこいつに戦闘経験があるなんて言ったんだ? 「・・・私は、あなたにこれ以上戦わせたくない。あんなになるまで」 「しゅーこちゃん、大丈夫ですよ。最近はつーも“説得の仕方”判ったですから」 不安げな俺たちの顔を見ても、尚も根拠の無い余裕で笑う彼女。だけどさ、何でかその姿がカッコよく見えて、俺は・・・ 「任せて・・いいのか?」 「アンタはその代わりしゅーこちゃんをちゃんと守るのですよ? 逃げたら去勢してやるです!!」 「・・・ツクハ、下品。相原君、本当にごめんなさい、ツクハが・・・」 「いやいいって法善寺。え~とツクハだったよな、約束する。法善寺は俺が守る」 「当然です!!」 俺は、こいつなら信頼してもいいって思えたんだ。 けど、そのバトルが無かったらなって、俺は後悔する事になる。 [[目次へ>G・L《Gender Less》]]