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「友人」 - (2007/07/10 (火) 20:00:42) のソース
*第09話 「友人」 草リーグでの初陣を勝利で飾ってから約半年。 俺とルーシーは3rd・2ndと公式順位を上げて行き、いつの間にやら最高ランクの1stリーグに籍を置いていた。 フィールドの状況と相手の能力を早い段階で把握するルーシーの戦術が功を成したおかげで、とんとん拍子の三拍子…というほど簡単ではなかったにせよ、デビュー半年で1stというのはかなり早いそうだ。 まぁ世の中には、たった3ヵ月で1st入りしたっていう鶴畑コンツェルンの次男坊みたいなのもいる。 俺自身は戦った事もないし、彼の試合も見た事がないのでどんな人間かは知らないが……さぞ凄腕なんだろう。 神姫の世界は広いぜ。 正直そう真面目に取り組んでいたわけでもない俺みたいなのがこんな上位にいていいんだろうかと思う気持ちが大半なんだが……ここは相棒の頑張りに対する正統な見返りってもんだろうと納得してる。 で、今日も今日とて近所の中級センターに足を運んだのだが…… 「んおぉう!? そこにいるのは我が盟友ではないかッ!」 「よう上等兵」 「ぅワガハイは大佐であるッ! 勝手に降格するなァッ!」 この男は大佐和軍治(おおさわ・ぐんじ)…記念すべき(?)俺たちの初戦の相手。 どこぞの大学で『ミリタリー研究会』の会長をしているらしく、あだ名は「大佐(たいさ)」だそうな。 相変わらず地味なんだかカラフルなんだか解らん服装に加えてバカ声張り上げるもんだから目立つこと目立つこと。 「まったく……同期の桜たる貴様でなければ上官侮辱罪で投獄しておるところだぞッ!」 『お前は同期でもないし上官でもない』というお約束のツッコミはしない。 この半年でツッコミ疲れたから。 「しかしいつも思う事ではあるが、我が初戦の相手がいまや押しも押されぬ1stリーガーとは、ワガハイも実に鼻が高い!」 俺とまったく同じ日に神姫デビューしたコイツは、今も草リーグや3rdリーグにいる。 理由は……まぁ色々と。 別に俺自身、高いリーグに進むのがエラいとも思っちゃいないし、何より本人が楽しそうだからいいけどな。 「B3も久しぶり」 「サー・イエス・サー」 俺の言葉に反応し、大佐和の肩の上でビシッと敬礼したのはヴァッフェバニーのB3(ビー・キューブ)。 ミリタリーマニアなマスターに倣ってか、口調や態度は軍人そのものって感じだ。 「うむ、久しく貴様の顔も見ていなかったからな。 近々救援物資を届けてやろうと思っていた所だ」 「また人ン家で酒盛りする気か? 勘弁してくれ」 以前、大佐和は『救援物資の配給と戦略・戦術会議』と称して俺の家に酒とつまみを大量に持ち込んだ事がある。 まったく、大学生の宴会好きに付き合わされるのはもうこりごりだ。 「何を言うか、大体貴様の生活は不健康に過ぎる! 部下の管理は上官の務めであるからなッ!」 「一応遼平さんの生活は私が管理しているんですが」 ポツリと呟くルーシー。 『会議』の後の惨状を思い出したのか頬が引きつっていたりする。 ……ハタチも過ぎた男2人が、神姫に怒鳴られながら二日酔いの頭を抱えてデリバリーのピザやコンビニ弁当、レトルト・ジャンクフードの食器に包装、ビールやワインの空き缶、空き瓶を片っ端から掃除する姿というのは、正直言って人様に見せられたもんじゃなかった。 「ンむぅ……おおそうだ! 今日は貴様に折り入って頼みがある!」 その時の剣幕を思い出したのか、大佐和はあからさま話題を変えてきた。 「実はワガハイの大学に『ボードゲーム愛好会』なる組織が存在する。 まぁ常に最前線で剣林弾雨を切り抜けるワガハイらから見れば、所詮は盤上での不健康な遊戯に過ぎん。 それゆえ前々から意見の衝突はあったのだが……最近は連中も武装神姫に傾倒し始めたようで、何かにつけてワガハイらに絡んでくる始末」 相手の事は知らんが、性格から考えて積極的にカラんでるのは多分コイツの方だろう。 「人様に迷惑かけるなよ三等兵」 「ワガハイ悪者ッ!? というか大佐だと言っておろうが!」 「あー悪い悪い階級とかそういうの疎くてなぁ」 「それはともかく……そういう訳なので、僅かでも勝率を上げる為のアドバイスなどくれると助かるのだが」 「後先考えない特攻精神を抑えるだけで、勝率はだいぶ上がると思いますよ?」 ルーシーの言葉に、大佐和は「何の事だか解らない」という顔をする。 「あー……お前って格闘ゲームやると必殺技だけ連発する系だろ」 「ンなぁにをアタリマエの事を。 最高の一撃で最大のダメージを与え敵を屠る! これぞ大和男子(やまとおのこ)の魂というものであろうがッ!」 「だからダメなんだっつの。 黙って見てりゃ銃もミサイルもバカスカ撃てるだけ撃ちまくるし、少しは弾数とかスタミナ配分とかペース配分とか」 「たわけッ! 弾もスタミナも切れる前に倒してしまえば事は済む! 故にペース配分などワガハイ的には不要ッ!」 「倒せてねぇからアドバイスしろったの寝言かコラ」 「遼平さん、どうどう」 ルーシーの言葉に、少しクールダウン。 ……ったく、コイツの大鑑巨砲主義は何とかならないのか。 話は戻るが、大佐和が勝てない理由は正にこれ。 デビュー以来まったく変わらない特攻スタイル……何しろ、しばらく隠れたり逃げ回ったりしてれば勝手に弾切れ起こして接近戦しか出来なくなる。 そうなったらこっちの飛び道具を撃ち込んでKOってなもんだから、今じゃデビューしたての中学生にすらボロ負けする始末。 これで自分の戦術に問題があると気づく素振りすらないんだからどうにもならない。 「相手を見てからアレコレ戦法を変えるなど卑怯奇天烈摩訶不思議! 真の戦士、真の勇者とは、けして己の信念を曲げぬ者にこそ与えられる尊称なのだッ! 違うかァB3ッ!?」 「サー、コマンダー」 「B3、お前アレだぞ? 自分の主人だから仕方ないのかも知れんが、世の中には『言ってやる優しさ』ってのもあるぞ?」 「仕方ないとはナニゴトかっ!?」 ふと見れば、周囲のお客さんたちがこっちを見てくすくす笑ってる。 違います。 僕ら芸人じゃありません。 アンコールとか言われても困ります。 ちなみにルーシーはあまりの羞恥に耐えかねて俺の服の中に入ってしまっている。 ……マスターを見捨てて逃げるなよ。 前話[[「初戦」]]へ [[『不良品』トップページ]]へ 次話[[「予約」]]へ