文章系@2009.1


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タイトルが無いものに関しては無題で。
とりあえずまとめてるだけなので、問題があるようであればお手数ですが作者さん修正お願いします。



無題(恐らく)

作:◆4c4pP9RpKE
お題:内容参照

ミノタウルスって知ってる?
「藪から棒だな、確か……なんかの神話の怪物、だろ?」
そう、ミノス王の息子。
彼はなんとなくの知識で答える。私は確固たる自信と裏付けで答える。
確固たる自信と裏付け=ソースはWIKI。
「それがどうしたんだよ」
先を促す彼は焦れる。
話を焦らす私は笑む。
笑む私、実はS。
愉しい……。

ミノス王は、海の王ポセイドンに白い雄牛を借りたんだって。
だけど、あんまり美しい牛だから、借りパクしちゃった。
そうしたら、ミノス王の御妃さま、白い雄牛に惚れちゃったんだ。
雌牛のキグルミを着て、白い雄牛と、ヤったの。
そうして生れた鬼子がミノタウルス。
「……神話ってなんか結構グロいな」
グロいかな。でも、私は好き。
「はは、お前変わってるよなぁ」
彼はにやにや笑みを浮かべて、夜の街へと門をくぐる。
「じゃ、俺仕事いって来るわ」
いってらっしゃい。

彼はホスト=そしてヒモ。
きっと帰ってくるのは、私が、正月の風物詩、面倒なハガキをコタツで数えて居る頃だ。
初日の出はクラブの帰りに、ラーメン屋で拝むのだろう。
彼は借りて来た綺麗な雄牛。
私は欲情する愚かな妃。
お腹の子が丑年にうまれる予定なのも、なんら不思議では無いのかもしれない。
彼にいつ話すべきか。




それはとても普通な正月

作:◆7FtGTaokck
お題:内容参照

空に雨の流星が翔け隣の犬がにゃーと鳴く頃、目が覚めた。
カーテンを開けると海のような青空に白い雲。新年の始まりである正月に相応しい天気だ。
門が乱暴に開く音が聞こえる。音はドアを開け、目の前の正体を現した。
「明けちゃったじゃん!」
「明けたねぇ」
「初日の出見忘れたよ!」
ああ、そういえばそんな約束もしていたな。
彼は笑いながら部屋のコタツにもぐりこむ。
「はい、はがき」
「ありがとね」
数枚の四角い紙にはどれも型に嵌めたような言葉が連なっている。
一枚だけ筆だと思しき物で力強く書かれたものがあったが残念なことに達筆すぎて読めない。
「あ、それ私が書いたの。うまいでしょー」
ほんのりと膨らんでいる胸を張る。サイズはきっとBかC。日本人はこのくらいがいい。
だが最近のばk……いや、日本人といえばおっぱい=巨乳と来たもんだ。全く腹が立つ。
あんな巨乳なんざアニメだとかゲームだとかで十分なのだ。最もそこでも必要はないと思うがね。
必要以上に脂肪の付いたものなど、肉風s……いや、牛の乳となんら変わりないのだ。
「ど、どうかしたの? 私の顔に何か付いてる?」
顔を赤くして目線を逸らす彼女。実に可愛らしい。彼はそう思う。
「何も付いてないよ。さてと、まずはミミズの解読を始めようか」
「ミミズ? ……ミミズだとぉ!」
彼の頭を殴る彼女。笑いながら受ける彼。
「あー、初詣も行かないとな。振袖着てこないのか?」
「面倒だもの」
いつものコートを手に取ると外へと出る。
シンとした空気が新年が来たことを教えてくれる。
「正月だねぇ」
彼はぽつりと呟いた。


ときめきファンタジーⅢ

作:◆LNPZY.1xLA
お題:内容参照

1/2
「この門を通ったからには、屍となるかこの私を倒すしか出るすべは無い。それは
 知っているのだろう? 勇者よ」
「まあ、そうなんですけど……」
 仲間を置いて単身その部屋に入った青年がぼやいた。城の最奥だけあって、
豪華な部屋である。光源は蝋燭のみ、床は赤絨毯。青年の引き締まった体つきと
いかにも上等な剣は彼を強く見せていたが、顔つきは「少年」ともいえそうな幼さを
残していた。戦闘ともなれば眼光鋭く魔物共を薙ぎ倒してきたものだが、今回ばかりは
ボスキャラを前に――げんなりしていた。
「俺、魔物退治は平和のためにやってるつもりだったんです」
「ほう?」
 男は少し顔を伏せた。白に近い金の髪が、サラリと顔にかかる。魔物は面白がるように
相づちをうつ。
「日常を取り戻すんだ、って。だってそうでしょう? 今のこの有り様は、ねじ曲げられた
 狂った世界なんだ」
 海のように澄んだ碧眼に、影がよぎった。
「ある日いきなりこんな世界に放り込まれた。俺がじゃない、俺達みんながだ。突然
 こんな外見になって、電化製品は姿を消して、なのに病院なんかは都合よく不自然に
 変わりはなくて」
 彼が話すのはまぎれもない真実であった。なんの前フリもなく、「魔王」と名乗る
超科学的な第三者に歪められた――この国の過去。
「『倒したら全て元に戻してやる』? じゃあ倒しますよ。RPGのキャラクターなんて
 自分で本当になるもんじゃ無いんです」
「それがどうした。今さらそれを言うのか?」
 魔物の巨体が、笑うように震えた。彼ら魔物を倒すには、弓、剣、棍棒などの原始的な武具と
魔法しか手はない。青年が超人的な体力と剣術を得て勇者となった日、この国からは
重火器が消え、一部の人々が手から火が出たりする能力に目覚めた。魔物を拉致して
研究しようと考えた者は多かったが、研究施設はことごとく魔王により封印されていた。
「だって今日、正月ですよ? こたつにみかんで、テレビ見ながら家族で年賀はがき来るの
 待ってる日ですよ? それなのに、現実を見れば勇者が盗賊や魔法使いと旅に出て、
 踊り子が酒場で踊って、王様が城で困っている。なんだよ『王様』って、ここ
 日本だろ!?……こんな世界は間違っている。ゲーム脳だかゆとり世代だかの俺らですら、
 心底そう感じている。――そのつもりでした」

2/2
 王様は、かつてはとある中小企業の副社長だったらしいと噂に聞く。
マスメディアの大抵が無い今はそれが精一杯だ。勇者は苦笑とも自嘲ともつかない笑みに
顔を歪める。
「映画に出てきそうな虫みたいなクリーチャーの群れを殲滅した時も、俺の身長よりも
 ずっとデカいバケモノを殴り飛ばした時も、初めて生で見たドラゴンの首を断ち切って
 やった時も。楽しんでなんかない、強さに溺れても、『勇者』に酔いしれてもいない、
 つもりでした」
 勇者は笑う。目の前の魔物を見据えて。
「違いますね、俺。かっこいい自分が好きで、それがモチベーションだったんだなあ」
 ゆっくりと剣を構える。この程度のダンジョンなら何度も攻略してきた。やる気が
なくても恐らくは一撃で決着はつくだろう。だからこそ勇者は自分を鼓舞するでもなく、
哀れな化け物に本心を吐露する。
「倒すんなら、格好よくて強そうな、ゲームとか映画みたいなクリーチャーがいいです。
 だから今ものッすごい萎えてるんですけど、勇者として、まあ、やることはやりますね」
 勇者は小さく息を吸った。その呼吸を察知し、魔物は神経を尖らせ、じりっと蹄を
持ち上げる。
「――ぅおりゃあッ!」
 一閃。剣がその身を煌めかせ、魔物に襲い掛かる。勝負は呆気なくついた。勇者の一撃は
易々と皮を破り肉を絶ち、骨すらも分かつ。魔物は自分の死に気づいているのだろうか、
文字通り一刀両断にされ、断面から鮮血を噴き出す。半身がドサ、ドサ、と落ちた。
四肢を痙攣させ、光を失った瞳が虚空をうつす。
「はぁ……」
 剣を空中で振る。買ったばかりの傘のように血糊や油は弾かれ、輝きを取り戻した。
それを鞘に収め、勇者はガラガラと壁の崩れる音を聞く。退路だ。いつのまに日の出の
時刻を迎えていたのだろう、現れた廊下の窓から差し込む光がまぶしい。勇者はパーティーと
合流するために歩き出した。部屋を出る前に、ちらりと魔物をかえりみて、再びため息をつくと
歩を進める。
 残されたのは、乳牛と見た目は何一つ変わらない魔物の死体だけだった。四つ足で
白と黒の、ちいさな角の。


開けるな危険

作:◆phHQ0dmfn2
お題:「門」

1/2
『この門、開けるべからず』
 まったく困ったものだ。開けるなと言われたら開けたくなるのが人情だ。俺の場合、特
にその傾向が強いらしい。昔から『やるな』と言われると、ついついやってしまい、痛い
目に遭っている。
 門に書かれた警告文を見るたび、開けたくて開けたくてたまらなくなる。しかし、そん
なことはできないのだ。
 重く分厚い鋼鉄製の扉の前で、ひとりため息をつく。いつものことだ。

 今頃、門の向こうはどうなっているのだろう?
 暇さえあれば、そんなことを考える。外の様子を知る手だてはない、そのことが余計に
想像心をかき立てる。花畑が広がる楽園だろうか? いや、おそらくは地獄が広がってい
るに違いない。放射能にまみれ、荒れ果てた大地が……

 今から五年前、世界中を巻き込んだ核戦争が起こった。
 一発の核ミサイルが発射されたのを皮切りに、連鎖的に報復攻撃が始まり、あっと言う
間に世界中が焼き尽くされた。軍人だった俺と少数の者たちは、この地下施設にいたおか
げで、たまたま難を逃れることが出来た。他にも生き残った人類がいるかもしれないが、
通信、交通手段が途絶えた今となっては知る由もない。

2/2
 この施設は外界とは完全に隔絶されている、放射能の心配はない。地熱エネルギーで装
置を動かし、食料生産から水・空気の循環まで、必要なことはすべてまかなえる。
 ここは、人類最後の生き残りが乗る箱舟なのかもしれない。

 しかし、そんな生活を続けた俺たちの体は、次第に弱っていった。やはり人は大地に立
ち、陽の光を浴びなければ生きていけないのだろう。仲間は一人、また一人と死に、俺が
最後の生き残りというわけだ。
 そして、俺の体にもついにガタが出始めた。おそらく長くはないだろう。

 俺は決心した、門の外に出よう。どうせ死ぬなら大地の上で死にたい。それが人間らし
い死に方というものだ。
 制御装置にコードを打ち込みロックを解除する。これで出られる。重い足を引きずりな
がら、門の前にゆき、開門スイッチを入れた。
 だが扉が開くその瞬間、緊張の糸が切れたのか全身の力が抜け、俺はその場に倒れてし
まった。目の前が暗くなり、意識が薄れる。
 残念だ……死ぬ前に、一目でいいから外の世界を見たかった。まあ天罰だろうな。何し
ろ、世界がこんなことになったのは全て俺の責任なのだ。

『このボタン、押すべからず』
 核ミサイルの発射係だった俺は、誘惑に負けボタンを……


嵐の中で輝いて

作:◆NN1orQGDus
お題:「正月」

1/2
 お正月も三が日の最終日だと言うのに、彼は浮かない顔だ。
 お雑煮代わりのお汁粉が駄目だったのかな、と思ってしまう。
「ねえ、やっぱりお雑煮の方が良かった?」
「……いや、別に?」
 素っ気ない返事がちょっとイラつくけれども、暗い表情が気になって仕方ない。
「ねえ、どうかしたの? 元気ないよ。気分転換に何処か遊びに行かない?」
 彼の目をじぃっと覗き込けれど、濁った瞳は私の姿を映さない。
「……ちょっと静かにしてくれないか。今日はそんな気分じゃないんだ」
 ボソボソと呟く声には、張りがなくて、まるでカトンボみたいだ。
「でもさあ、心配だよ。じゃあさ、ビデオでも見る? 勧められたから撮っておいたんだよ、ガンダム」
 少々オタク気質のある彼が布教に近い感じで勧めて来たガンダムを見れば彼の機嫌も良くなるかな、とビデオをセットした。
 テレビの画面にロボットが出てきて、うにゃうにゃびゅんびゅんと、パキューンパキューンと光線銃を撃ち合って戦い始めた。
「ねえ、スゴいよね。武力介入だってさ」
「……違う! こんなのじゃ駄目だ!」
 突然、彼はクワッと眼を大きく見開くと、コタツの上に飛び乗る。
「ちょ、ちょっと! やめてよね! コタツが壊れる……じゃない?」
 我が家唯一の暖房器具が壊されたら地獄だ。彼を怒鳴りつけて睨むけど、彼の勢いに気圧された。
 なんと言えば良いのやら、湯気が出そうな勢いだ。
「“やめてよね”じゃない! オマエ、今日が何の日かわかってるのか? 卑怯なジオンがブリティッシュ作戦でアイランド・イフィッシュは毒ガスだぞ? 保志は関係ないんだ、星なんだ!」
 呆気にとられてしまった私をビシッと指差して、彼は更に続ける。
「シロウは目の前で家族が血を吐いて死ぬんだぞ? 最初に殺したのは味方なんだぞ? ナダさんは薬物で身体ボロボロで頭飛ばされても前に進んだんだぞ?」
 テンションが上がり過ぎたのか、うおぉ、と叫んで怒りながら泣き始める。
「ね、ねえ。指差さないでちょっと落ち着こうよ、ね?」

「ザク相手に生身だぞ? 絶望的なんだぞ? どんどん死んでくんだぞ? 遺体すら残らないで血煙だぞ? オマエはなんとも思わないのか?」

2/2
 コタツの上で咽び泣く彼の言葉は物悲しい響きだ。もらい泣きはしないけれども、別の意味で泣けてきた。
「え、えーと……ザク? 確か……ルナマリアじゃなくて……シャア……だっけ?」 記憶の片隅にから僅かばかりの知識をインディ・ジョーンズばりに発掘したけど、やっぱりそれは地雷だった。
 せめて吉村先生にしておけば、と思ったけれども、時すでに遅しだ。
 ギラギラと眼を輝かせた彼が、奇声と共に私の胸に飛び込んできた。
「違う! オマエは種厨か? それともジオンなのか? 戦争はポケットの中で俺はオマエと添い遂げる!」
「や、やめてよ! 服が汚れるじゃない!」
 折角おめかししたのに、おニューの服が涙と鼻水と涎で汚される。
 それだけじゃない。のし掛かられたから絵的にかなりヤバイ。危険信号が点滅する。
 でも、こういうのも悪くないな、と思ったら、彼が急に真顔になった。
「……オマエ、結構小さいんだな」
 何が? 胸が?
 その言葉が私から理性と人間性を奪った。
「余計なお世話! 歯を食い縛れっ!」
 握り締めた左拳が彼の顔面を捉える。
 大袈裟に吹っ飛びながら彼はニヤリと笑う。どうかなってしまったのだろうか。
「これが若さ……じゃない! ここは“親父にも……”だろ! 俺は駄目だ! ガンダムになれない!」
 訳の解らない事を叫びながら、彼は床に頭をガンガンと打ち付ける様に土下座しはじめた。
 打ち所が悪かった……と言うよりは、浅かったのかも知れない。呆れて出るのはため息ばかり。
「レビル将軍、ゴップ閣下! 申し訳ありません! ジオンに兵無しです!」

 なんなのこのシュールな光景。いったい私にどうしろと?

 了。


問い起せども創発の

作:◆LV2BMtMVK6
お題:内容参照

 この歳になって、わたくしにも欲が出てきたように思う。
我が事を思うとは面妖な謂いだが、はっきりと意識されたのはごく最近のことではあるのだ。
欲と一言に云ったが、欲と言っても物欲の類いではない。金銭は不浄にあらず、
富貴は汚物にあらず、財貨は塵芥にあらざれど、不自由なき程あれば求めるにや及ぶ。
所有欲や色欲は元より身の枷、望んで追うに値せず、人らしく生きる妨げに過ぎぬ。
貴方は欲に引き回されて生きてはいまいか。いや、これは失敬、生き方は自由。
だが、覚えておいて頂いていつの日か何かの助けになるなら重畳。
わたくし愚考を幾重か重ねて上の如き思いに至るは閑話休題。
さて、欲に話は戻る。その欲が何であるとはっきり明言する事は出来ないのだが、兎も角は欲である。
恐らくはひとつの体験がその思いを強めたものらしい。
少しく時間を頂こう。

 わたくしがこの田舎へ移って来てから数週が過ぎた。この辺りは大分鄙びた町である。
その鄙びた町の、これまた外壁の白漆喰がくたびれたような古旅館に逗留して居る。
もっとも、この町も往時は大分栄えたらしく、旅館の玄関にも名士たちの白黒写真が掲げてあった。
なんでもその昔には皇太子の御幸も賜ったところらしい。
 これと云ってすることもなし、暇には事欠かない。
不思議なもので、忙しくしていた時分にはそれこそ次から次へ、
しなくてはならない荷物の山を背負って心臓破りの坂を登るようであったものが、
いざ時間に余裕ができるとなると、存外に手持ち無沙汰である。
 朝夕毎に行水を遣う。ここらは温泉が出るのだ。山ひとつ越えると硫黄泉があるのだが、
こちらは単純アルカリ泉というらしい。
わたし個人についていえば、ここの湯のぬるぬるとした心持ちの感触がなかなかに気に入って居る。
この間聞いたところによれば、珪酸がぬるぬるの正体であるという。要は石英と云うか、
硝子のまろい微粒子であるのだろう。
まあ、なにかにつけて良いところである 。人々の顔にも、日向の蜜柑かごのような温かみがある。

 暇だと言ってもそうもてあますこともなく、日中は文机に向かい由なき事をつづり、
陽が落ちれば床につく。飽けば短冊を持って辺りを歩く。自分では別段これと言ってすることもないが、
辺りをずっと歩くのは心地よいものではある。海岸に歩を進め、山に登る。こうして詠んだ句が二十あまりになった。
田舎の漁村ではあるが、人の心に訴える何かがあるものらしい。
 来月で二十歳になる。成人というのはどんな感慨を持つのかしらん。
自分は半隠居のような日々を送る十九歳である。この間女将に成人するということを告げたら、面白い事を聞かされた。
「それなら、海志の門をくぐられるといい、昔からの習わしで」
 門のようになっている海蝕洞のことらしい。新成人が海中を歩いてその門を通る習わしなのだという。

 誕生日の前日、夜半過ぎに旅館の勝手を出た。その場所で日の出を見るつもりであった。日の出が美しいと聞いていたのだ。
五時間歩いて、その場所を見下ろす高台に着いた。満天の星空である。宿を出たときには頭上にあった、
細い月が暮れかかるころで、明けの明星がひときわ明るい。細かくちりばめられた星屑がはっきりと見えた。
夜の空はあまりにも近く見えて、星に触れる事さえ出来そうに思えた。天球は銀蒔絵の螺鈿細工と見まごうばかり、正真の「星空」である。
海面に星々が映って、波に揺れる。
このとき、自分のうちに一つの感情が生まれたのだった。すなわち、欲。
それは生きたいというのでもなく、物を得たいというのでもなく、むしろ体験したいというものであった。
心を揺り動かさずにはおかぬこの光景を、あるいは自然界の壮大なる神秘を、あるいは人間の心映えの美しさ、手の技の巧緻を。
魂を震わす感動を得たいと願ったのである。

やがて、漆黒の世界の上半分が切り取られるように薄くなり、突如として水平線に光の直線が現れる。
日の出だ。太陽がちらりと現れ、朝の刃先のような光の中に世界の輪郭がふちどられていく。海中に鋭い影がくっきりと浮かび上がる。
古代ギリシャの海上神殿のごとき、柱状節理の海蝕洞。海が空と交わるところはいよいよそのコントラストを深めてゆき、遠く藍の光と青の輝きが交錯する。
もはや、太陽は完全に姿を現していた。海志の門の日の出である。
海猫が鳴いた。
 いま、その門へと、一歩を、踏み出す――


命の輝き

作:◆FtC/MWKcXA
お題:内容参照

1/3
『あなたにしかできない仕事、あります』
仕事無し、彼女も無し、ついでにしばらくの予定も無い俺にそのハガキが届いたのは大晦日のことだった。
冷蔵庫から取り出した牛乳片手に、派手な色でゴチャゴチャと書かれた文字を目で追う。
どう考えても胡散臭い。
誰がこんなもの送ってくるんだろう、そう思いながらこたつに潜り込もうとした俺は文字通り跳びあがった。

こたつが、掘りごたつになっていた。
しかも足を入れる窪んだ部分に違和感を覚え、布団を捲った俺はそのまま固まった。

──そこには海が広がっていた。


「ええぇぇぇえええ!?」
思わず言葉をもらした俺に、今度はどこかから声がかかる。
「遅れてすみません。あなたをお迎えにあがりました」

たかだか二十数年の短い人生だが、これほど驚く出来事があっただろうか。
俺はその声の主をまじまじと見た。
相手は全く動じない様子で続ける。
「早速仕事の説明をしたいのです。私と一緒に来ていただけますか」
「…………な、なんで」
「あなたが選ばれた人間だからです」

全く訳がわからなかったが、海にうかんだまま話しかけるそいつの話によると
その仕事は俺にこそふさわしい仕事なのだという。
決断は今日中にしなければいけないとも。

俺がそいつについて行く事にしたのは、単なる気まぐれだったのか、
『俺にしかできない』というのが思いのほか嬉しかったのか。
とにかく、俺はその仕事の説明を受けるべく、どこからどう見ても牛の姿をしたそいつの背に跨った。

2/3
俺を乗せた牛はそのまま沈んでいき、海の中を泳ぎだした。
牛を助けた覚えの無い俺でも、おとぎ話と同じように、水の中でも息はできるようだ。
何も言わない牛に『選ばれた人間』とはどういうことかと問いかけると、条件をクリアしているとの答えが返ってきた。
「条件?」
「ええ。あなたは毎日私からでる白い液体を美味しそうに……」
「はぁ!? ……ああ、牛乳のことか……」
「つまり、その量が見事基準値を越えているのです。私どもの命を大切にしてくださっているのと同じこと」

牛乳を毎日飲んでいることが採用条件なのか?
納得できないまましばらく行くと、やがてやたらと大きくきらびやかな門に辿り着いた。
そこをくぐると、今度は城としか形容できない建物が現れ、俺はそこで下ろされた。

二本足で立つ牛たちに案内され、その城の中へ足を踏み入れると、そこはまるで竜宮城のような世界だった。
豪華な食事、旨い酒、美牛たちの舞い踊り……
当初の目的を忘れてしまいそうなほど、そこは夢のような空間だった。
辺りを見渡すと、俺のような客人がそこここでもてなしを受けている。
誰も彼も、仕事の説明を受けに来たようには見えない。

「なあ、ちょっと」
「はい、なんでしょう」
分厚いステーキを運んできた牛を捕まえて問いかける。
「面接とか説明とか……どうなってるんだ?」
「ご心配には及びません。ここにいらした時点で合格のようなものなのです。間もなく始まる仕事の為にも
皆様には精をつけていただきませんと。さあ、どんどんお召し上がりください」
にっこりと微笑んで立ち去った牛を見送り、そういうことなのかと納得して俺は新たな料理へと手を伸ばした。

やがて俺は満腹感からか、他の人間たちと同じようにいつの間にか眠りに落ちていたのだった。

3/3
「準備が整いました」
「ご苦労だった。人数は集まったか?」
「はい。ここ数年は人材が有り余っています故、頭数を揃えるのは容易いことでございます」

先ほどまで賑わっていた宴の会場は、今はすっかり静まり返っている。
あの後も次々と人間が連れてこられ、その度に料理や酒が運ばれた。
部屋はすでに片付けられ、連れて来られた人間たちが倒れて積み重なっている。

「人数を集めるのに苦労せんと言うのも、悲しいことじゃなあ……」
「仕方のないことです。そういう時代なのです」
部屋の中央に置かれた大きな椅子に腰掛けた老体は、立ち上がってひとつ大きくため息をついた。

「それじゃあ、始めるかの。時間に間に合わせねばな」
そう言うと彼は人間の山に手をかざし、何かを唱え始めた。
周りの牛たちも倣って手をかざす。
やがて、倒れた人間一人一人から白く輝く玉のようなものが浮かび上がり、用意された円形の籠に収められていった。
次々と浮かび上がる玉の数が次第に減っていき、全ての人間から出尽くしたと思われたのを確認した後、老人は牛たちに声をかけた。
「時間になったら打ち上げてくれ。時間を間違えんようにな」
口々に返事をして、牛たちは籠を何処かへ運んでいった。

「……今年もやってしまった」
「仕方ありません。今はこれしか方法が無いのです」
肩を落とす老人に、付き従っていた牛が言う。
「新年に日が昇らなければ、人間たちは希望を失うでしょう。仕事も無く、頼られる相手もいないものの魂を使うしかないのです」
「いくら太陽を再び輝かせるためとはいえ、人の命を使うなどと……わたしは……」
「先代の神が考え出したこの方法しか今は無いのです。来年になれば、寅たちが何か別の方法を思いつくかもしれません」
「…………」
「顔を上げてください、ほら、日の出です。新しい年が始まります」

すっとその場を離れた牛が、窓を開け放った。
言葉無く見つめる上空に、牛たちが命を吹き込んだ今年最初の太陽がゆっくりと昇り始めた。





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