文章系@2008.12.24


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無題

作:◆LV2BMtMVK6
お題:内容参照

 鐘の音が十有二、街へ響きいってゆく。応えて遠くで灯台が小さく、明滅したかに見えた。

 はや四十年。光陰は矢の走るごとくにして過ぎ去り、あの日の少年はもはや老いている。彼は鐘守りであった。
この街に育ち、この街に齢を重ねた幾十年は、彼の横顔に小さな皺をたくさん刻んできた。
今夜もまた、夕暮れの街に鐘の音が響く。遠くイタリヤ国の田舎で鋳られた鐘は、
百年間毎日、同じ音で夕暮れを告げるのだった。海の向こうから、大きな木枠に包まれてやってきたあの日から変わらぬ、
やや高いような、共鳴して石畳やレンガに沁み入るような、音。
在りし日、この街は大いに繁栄した貿易の都であった。毎週外国船が波止場へつき、
海岸の通りには異国の品を出した土産物屋や宿が並ぶ。街道が街を東西に横切っていて、
交易商人達が山を越えて往来するのだった。朝には商船の霧笛が、街を目覚めさせた。
街は背後に山を背負っていて、頂には白い小さな建物が――教会があった。
日が暮れるとそこから、あの音が夜の訪れを告げていたものだった。
変わらないものは、鐘の音だけだった。いや、鐘の音色も、石畳の染みも、煉瓦の壁の漆喰も、
変わってきていたのかもしれなかったが。ステンドグラスには今も、ひびが入ったままになっていた。
戦時の爆風で、ガラスのはんだ付けが剥離したのだが、結局修理することもできなかったのだ。
今でも彼はあの時刻に起きる。霧笛が山に木霊していたあの時刻。毎朝、白く塗った木の段を登って、
鐘楼から海を眺めるのだった。彼はカソリックの奥義など何も知らなかったが、自分用の小ぶりな聖書は持っていた。
聖書を日々読むのが彼の常であった。鐘の下の室で小さな机の横に水差しを置き、街並みと海を望んで本を読むのである。
彼はそこで日記もつけていたが、果たしてそれに意味があったのかどうかはわからない。

 今年も、十二月二十四日が訪れる。朝方まだ暗いうちに、彼は街へ行った。
誰に会うこともなく用事を済まし、通い慣れた細い坂を登る。苔が入り角が丸まった石畳に、靴の音が小さく立った。
頂上へ着くと、彼は振り返る。湾から市内に直線状に延びる水路も、煉瓦の町並みや倉庫も、下方、上ってきた路も、
右手に広がる入り組んだ海岸線までが見渡せた。山に囲い込まれた町は、小さな、世界そのものにも見えた。
向きを転じると、くすんだ白塗りの建物がすぐそこに孤独にたたずむ。くたびれた冬の雑草が這い寄り、
壁面にはツタが紅葉した葉――霜が降りていた――をまだわずかに残して広がっていた。
灰色をした冬の雲が空を覆っている。風はひどく冷たい。
いつもと変わらず、彼は二階の室へ上がり、吹き抜けの室であの本を読む。
彼は幼子イエスが生まれた日が聖書中に書かれていないことは知っていたが、気にとめたことはなかった。
時折水を口に運びながら、擦り切れた革装丁の本を読み続ける。頁の箔はとうの昔に剥がれ落ちていた。
午後、日記を書いた彼は目を閉じ、少年の日に思いを返した。橙色の光に包まれた煉瓦の商店街。
背の高いクリスマスツリーのてっぺんには、きらきらと反射するめっきの星が付いていた。行きかう家族連れ。
誰の顔にも笑顔が見える。暖かな街の夜に聞こえる鐘の音、笑いさざめく声。
目を覚ました。そうして初めて彼は自分が寝ていることに気づいたのだった。
雪が降り始めていた。綿雪が舞い込み、机上のインク壺や、双眼鏡の上に落ちた。
もう、日暮れが近い。机の引出しを開け、聖書を丁寧に置くと、彼は階下へ降り、そのまま外へ出た。
観音開きの大きな戸は海に面している。雪が舞う中、外洋に白波が立っているのが見えた。
案内板を中へ取り込む。もっとも、ここを誰かが訪れることはなかったが。
鐘楼へ上がり鐘を突くころには、街に細々と灯がともりはじめる。クリスマスが、始まる。
彼は燭台を点け、日記に何事か書き足した。それが最後のページだった。彼にはまだ最後の勤めがあった。
夜半に鐘を突かなくてはならない。日記帳の裏表紙を閉じ、例の引き出しを開けて聖書の隣に置いた。ますます雪は強くなる。
夜半になった。あの音が世界の隅々へ響き渡っていく。海岸線に、山なみに、街路に、音は沁みこんでいき、深く小さく反響して消える。
聖歌のごとき十二の音色。
小高い山の天辺に小さな灯が見える。もしそこにいたならば、最後の仕事を終えた彼が開かれた戸の前、段の上に腰かけ、うつむいて動かないでいるのが見えただろう。

ややあって、小さな灯は消えて見えなくなった。         【完】


二人の距離

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

1/2
 青空は目に痛いほど晴れてるのに、風は冬のわりには暖かいのに、私の心は憂鬱だ。
 あの頃――子供の時より手足が長くなったのに、身体もそれなりに成長したのに、私とアイツの間にある壁を越えることが出来ない。
 幼なじみという腐れ縁は鉄壁の壁となって、かの万里の長城よりも、ジェリコの壁よりも高く長くそびえていて、私よりもずっと大きな背中になったアイツの背中に近づけない。
 蜃気楼みたいに逃げるんだったら追いかければ良いだけなんだけど、難攻不落の城は容易く私を突破させてくれない。

 どんなに頑張っても付かれ離れずの距離を保ったまま。
 本当は手を触れたくても躊躇ってしまうのは、壁と言うよりも、幼なじみという関係を崩したくない私の気持ちが臆病なせいなのかも知れない。
 手を伸ばせばそこにいる、吐息さえ感じる距離なのに、あと残り10センチが近づけない。

 クリスマスが近付くと、先週あった期末試験の結果をすっかりと置き去りにして、なんだかクラス中が浮かれているみたいだ。
 私も例外じゃなくて、クリスマスの予定をどうにかして埋めようとしてるけど、なかなか上手く出来ない。
 たった一言、「クリスマスは空いてる?」とかなんとか言えれば済む話なんだけど、タイミングが上手く掴めない。
 察しの良い友達が気を回してセッティングをしてくれるんだけど、気恥ずかしさばかりが先に行ってしまって、言葉が出なくなってしまう。
 なんでこんなに不器用なんだろう、と自分で自分が嫌になってしまう。
 ホントに自分が大嫌いになる。

 はぁ、今日も駄目だったか、後二日しかないのに、と溜め息を吐く。
 一人残った放課後、窓際立った私の影が、掃除当番が適当に並べた机の間を縫って、傷だらけの床の上に伸びる。
 明るい西日がオレンジ色に染めた教室を横断する影の向こうに――いた。アイツが。
「まだ帰らないのか?」
 子供の時からの早口な口調はそのままだけど、声のトーンがちょっと固くて、 丁度顔が影になっているせいなのか、表情が分かりにくい。
「まあね。アンタはまだ帰らないの?」
「まあな。忘れ物だよ」
「アンタがそそっかしいのは昔のままね」 ついつい叩いてしまった憎まれ口に気分を悪くしたのか、鼻を鳴らす音が聞こえた。
 一歩一歩近付いてくるアイツの顔を真っ直ぐ見れなくて、私は横を向いて視線を反らす。

2/2
「なあ、最近変だったけど……大丈夫か、オマエ」
「へ、変ってねえ! アンタに関係ないでしょ、バカ!」
 駄目だ。どうしても意固地になってしまって素直になれない。
 好きって言葉は喉元で止まってしまうのに、憎まれ口ばかりが口からスラスラでてしまう。
「バカってなあ……こっちはお前の事を心配してんだぞ」
 距離にして1メートル。アイツはそこで止まって腕を組む。でも、私は横目でチラチラ見てるだけ。
「アンタに心配される筋合いなんてないの。さっさと忘れ物持って帰れば?」
「ああ、そうするよ」
 不機嫌そうに呟いて、アイツは自分の机を漁ってなにやらを鞄にしまう。そして、私に大きな背中を向けて、その背中が小さくなっていく。
「ちょっと待って。――ちょっとだけ、話がある」
 背中の小ささに耐えきれなくなって、私は必死の思いで言葉を投げた。
 震えて上ずった声だけど、アイツは動きを止めた。止めてくれた。
「――迷惑かな、私がアンタの事、好きだっだら」
 やっと言葉に出来た思いは、途切れ途切れで掠れていた。それでも、言葉に出来たのが嬉しくて、アイツの姿が滲んで見える。
「泣くなよ。泣かれたって困る」
「あ、うん……ゴメン。私ちょっとおかしいんだ、今」
「見りゃわかる。落ち着くまでここでないてろ」
 頭を引かれて、胸元にどしんと押し付けられた。
 汗ばんだアイツの匂いがして、髪をかきあげられて、目から堰を切ったように涙が溢れてきた。
「泣くだけ泣いたら、俺の返事も聞いてくれよな」
 うん、うんと頷くけれど、タガが外れた感情は止まらずに、学ランにシミを作ってしまうほど泣いた。
 ポンと頭に手を置かれるけど、それが嬉しくて、更に涙の量を増やす。
「クリーニング代が高くつくな」
「……バカ」
 叩かれた憎まれ口に反応してしまい、私は胸から顔を離した。
「迷惑だったらな、ハンカチ変わりにさせねえよ」
 苦い笑いの混じった顔が、西日に照らされて眩しく見える。
「ねぇ、ハッキリ言って。お願いだから」
「そうだな。お前の事好きだよ。真っ赤な目も、涙ぼくろも」
「涙ぼくろは余計だよ」
 お互いに顔を見合わせて笑い、額をくっつけ合う。柔らかな額の感触が気持ち良い。

 ――やっと越えれたよ、幼なじみの壁。
 了。


鐘の鳴る丘

作:◆KLShlXYtLo
お題:「鐘」

私は鐘の音を聞く。
かつてこの鐘が、この鐘堂に据えられた時から、私は鐘の音を聞いている。



初めの音は、鐘堂が建てられたことそのものを祝うために鳴らされた。
鐘のための鐘の音。それは高らかに街に響いた。

それから鐘は、街に時を告げるために鳴らされた。朝、昼、そして晩……。
人々は鐘の音で時を知り、この街では鐘が時を刻んでいた。

時としてそれは、恋人たちを祝福するためにも鳴り響いた。
花々が、歓声が飛び交う鐘堂。その下にいる人々はみな幸せに溢れていた。

小高い丘に建てられた鐘堂には人々が集った。春の日、夏の日、秋の日、冬の日さえ。
彼らはここで談笑し、鐘が鳴ると食事に戻るのだった。

鐘は街を見ていた。
そこにある街を、そしてそこに住む人々を……。

やがて鐘は別れの時に鳴ることとなった。
戦いへ赴く人々は、鐘の音に見送られ、遠き異国の地へと旅立っていった。

あるときなどは軍人がやってきて、鐘を取り外そうとした。
街の人々は、総出で金物をかき集め、その代わりとして差し出した。

やがて鐘の音は、はじけるような炎の音にかき消されるようになっていった。
飛び来る鉄の鳥は街を焼き、人々は丘に集い、泣いた。

火が鐘堂を焼いても、鐘は鳴り続けた。
それは崩れゆく街への、死にゆく人々への、弔いのようだった。

いつしか、鐘堂に集う人もいなくなった。
鉄の鳥も、鉄の獣も、誰もいなくなった。街は死んだように静かだった。

それからしばらく、鐘は沈黙した。

あるとき、また、鐘が鳴った。
遠くに見えた光は、やがてその余波をこの地にまで届かせた。鐘は苦しげに鳴った。

それからまた、鐘は沈黙し、また、街も沈黙し続けた。

長い時が過ぎ、私は、人々がまた鐘を打ち鳴らすことは無いのだと悟った。

私は自らの手で鐘を鳴らした。
わずかな力だったが、鐘は鳴った。弱々しい音色ではあったが、それは鳴った……。



そして今日も鐘は鳴る。
鐘は風に吹かれ、風に揺られて鳴る。
かつてそこにあった街を、人々を想うように、寂しげな音色で。
私は鐘の音を聞く。
かつて共にそれを聞いた、よき人々を想いながら。

鐘は今日も静かに鳴るのだろう、誰のためでもなく……ただ、鳴るのだろう。
(了)


丘の上の捕虜

作:◆phHQ0dmfn2
お題:内容参照

1/2
「犯人はこの中にいる」
 私が告げると、一同はざわめいた。
「そんな……何かの間違いでは?」
 一人が反論する。
「いえ、残念ですが、たしかです」
 やるせない気持ちになりながら、私は答えた。
「一体だれが……」
 しばしの間、沈黙がその場を支配する。
 私は静かに目を閉じ、すうっと呼吸をした。悲しい事件だが、真相は明らかにせねばなるまい。
「犯人は……あなただ」
 そう言い放ち指さすと、『彼』の顔は真っ青になった。
「そんな……なぜ私が!」
 狼狽し、必死に取り繕おうとするが、私には全てお見通しだ。
 やがて彼は観念し、その場に崩れ落ちた。
「貴様ぁーっ!」
「なぜ、あんなことをした!」
「金目当てでやったのか!」
 激昂した周囲の者たちが、彼に殴りかかろうとする。私はそれを制止した。
「お待ちなさい、彼を責めてはなりません」
 私は知っている、彼の苦悩と葛藤を。そして、これから先も罪の重さに苛まれ、地獄の
苦しみを味わうことになるだろう。たしかに、彼の犯した罪は重い。それでも私は願う、
彼の心が救われることを。

2/2
 しばらくすると、屈強な男たちがやってきた。
「コイツを捕らえ、牢にぶち込め!」
 そう叫び、罪人の連行にかかる。私にできることはもはやない。残念だが、後のことは
国家権力に委ねるしかあるまい。


 そして、刑が下される日がやってきた。
 見守る観衆の中には、母親の姿もある。気丈に振る舞ってはいるが、目には涙を浮かべ
ている。当然のことだ、自分より先に息子に先立たれる……それ以上の不幸があるだろうか。哀しみは計り知れ
ない。
 私の胸が痛んだ、私の選択は間違っていたのだろうか? だが、それでも私は信じたい、自分が為したことの
意味を。後の世の人々は、私の行為を理解してくれるだろうか。
 そして、いよいよ刑が執行される瞬間が来た。私は静かに目を閉じ、神に祈る。迷いはない。
「この者は妄言を広め、世を惑わせた大罪人である! よって、これより磔刑に処す!」
 ローマ総督ピラトの声が、乾いた風と共にゴルゴダの丘に響きわたった。


イヴと乙女と真冬のストレス

作:◆CkzHE.I5Z.
お題:内容参照

 同級生の男の子を好きになるだなんて、あたしもつまらない女になったもんだと思う。
「あぁ~、なんか腹立つ!!」
 とか吐き捨てながら、通学路のブロック塀を蹴り上げてみたりして。うん足が痛い。おまけに心が寒い。
 あぁそこそこ気にいってる革靴に疵が。
 からっ風に煽られて髪もちょっと口に入っちゃったし。
 これってどうなのよ?
「これってどうなのよ!」
 声に出すとなんと空々しいことか。
 昔のあたしは、こうではなかった気がする。
 なんていうかね、もっと夢があったんじゃないかな? お姫様とか憧れてたし。
 足が棒みたいに細くてさ。ちっちゃい靴履いてるわけよ。たまにウインクなんかしてたりして。おめめのキラキラを誰よりも細かく書き込める自信もあったし。
 あとはそう、もっと鋭さだってあった。
 たったいまブロック蹴飛ばした直後のあたしが言うのもなんだけど、攻撃的で論理的で、ああなんでこいつらバカばっかりなんだろうって、いつもそう思ってたのに。
 それがどうか?
 あの強さの源であった爪と牙は失われ、人生に迷いもすれば恋もする。そんな体たらく。
 認めよう。
 なんたる弱さか。
「…………!!」
 口の隙間から白い息が漏れるだけで、もはや声にもならない。
 あたしが女だからなのか?
 男の子を好きになっちゃったからなのか?
 ああ! もうわけわかんない!
 そもそもあたしは何で苛々してるのか?
 それは決まってる。
 いまは冬休み。
 部活でもなきゃ、あたしも学校になんて用はない。
 でも? なのに?
 いつものバス停近くの駐輪場に、あの自転車が停めてあったんだから。
 いつもの癖で、つい見つけちゃったんだから。
 仕方が無いじゃないか。
「ん? よお、お前も部活か?」
「う、うん」
「ははぁ、休みでも顔出さなきゃいけないのが運動部の辛い所だよな」
「うん」
 あぁもう。
 あいつだけ、いつもの通りなのがムカつく。
 ……あ、靴の疵隠さなきゃ。
「でもまぁ、さすがに冬休み中はバスが空いてるのは救いだよな」
「うん」
 なんだよあたし。
 こんなエンカウント、何度も予習してたはずじゃん!
「しかし寒いよな」
「う、うん」
 よみがえれ! 爪! 牙!
 あとついでにお姫様!!
「あ、あのね?」
「ん?」
 心の中で何度も復唱。
 とりあえず今日のあたしは、これだけ言えれば上出来だ。
 大丈夫、きっと大丈夫。
「どうかした?
「うん、あのね?」

「……メリー、クリスマス!」

   ―了―


コンペイトウの憂鬱

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

1/2
「なにこれ? コンペイトウ?」
 クリスマス・イブに彼が持ってきたのは瓶入りのコンペイトウだ。
 赤、青、黄色に緑と珍しい黒。彩りのコンペイトウが、ポケットに入るくらいに小さい瓶の中でキラキラ光っている。
「失礼な事を言うな。それは――ソロモンだ」
 手にしようとした私の頭をパコンと叩いた彼の口調は不機嫌そうだ。
「ソロモンてナニさ。 コンペイトウっしょ、それ」
 口を尖らせて反論するけど、彼にじいっと睨まれてしまう。
「オマエさぁ、今日が何の日だかわかってるのか?」
「何の日って……イブでしょ」
 私の答えが気に入らないのか、彼は目をクワっと見開く。まるで、鬼みたいな表情だ。
「イブ? まさかクリスマス・イブか? 馬鹿を言え」
「じゃあ、何の日だって言うのさ」
 彼は、不満顔な私を見ると肩を竦めて盛大に溜め息を吐いた。
「今日は、12月24日は……」
 何故か感極まって涙ぐんだ彼は、むせび泣きながら座り込んでドンドンと床を殴りつける。
「――宇宙要塞ソロモン陥落の日、ドズル・ザビ閣下の命日だろうがぁ……」
 なにがなんだか分からない私は、オイオイとすすり泣く彼に何一つ声を掛ける事が出来ず、背中を擦った。
「戦争は数なんですよ、ギレン総帥ーっ!」
 悲痛な叫びに私も思わずホロリともらい泣きしてしまう。
「良い機体だけど、ビグ・ザムじゃいかんのですよ。ドムが12機もあれば……勝てたんですよ、ジオンは! 公国は!」
 ――ガツン。
 だんだんと理解する事が出来た私は、叫ぶ彼の頭を思いっきり殴った。グーで。
「アンタ、私よりもアニメの方が大事なんかいっ!」
「アニメ言うな! ガンダムは名作だぞ? バーニィだって死んだんだぞ? 嘘だと言ってよ、バーニィィィィィッ!」
 真っ赤に泣き腫らした目で見つめられると、この人は本当にガンダムが好きなんだぁと半分呆れ、半分感心してしまう。
 純真なのか馬鹿なのか。
 たとえ馬鹿だとしても、それを極めていると、ある意味凄いと思ってしまうから不思議だ。
「分かったから少しは落ち着きなよ」
 私はなけなしの知識を総動員して、彼に話を合わそうと試みる。
 踊るアホウに見るあほう、同じアホなら踊らにゃ損損、だ。

2/2
「えーとね、えーとね……確か……『いくら吹き飛ばされても……僕らはまた、花を植えるよ……きっと』だったっけ?」
 思い出した名台詞(?)をしどろもどろに言うと、泣いていた彼が泣きやんだ。
 良かった、良かったとあまり出っぱっていない胸を撫で下ろしたら、今度はうがーっと吠え始めた。
「種! よりによって種死すぺエディでしかもキラ! 謝れっ! アカハナにつ! 御大に謝れっ!」
 火がついたように暴れ始めた彼は、訳のわからないことを怒鳴りつつ、頭から湯気を出しそうな勢いだ。
「え、ちょ、なんなの?」
「まだ言うかっ! 戦争はファッションじゃないんだっ! 星の屑で俺はお前と添い遂げるんだーっ!」
 彼は抱きついてきて、私のミニマムな胸の谷間に涙と鼻水でべとべとの顔を埋めてワンワンと泣き始める。
「やめてよ! 汚れちゃうでしょぉ、服が!」

 世間様はクリスマス・イブ。
 街は世間の逆風に逆らってクリスマス一色。
 普通のカップルはラブラブイチャイチャしてるのに、私は何をしているんだろう。
 ダメダメな彼はダメダメ過ぎてほっとけないし、愛想は尽きずにドンドン湧いてくる。
「アニメじゃない、アニメじゃない、本当の事さ……」
 泣きじゃくる彼の目は子供みたいで可愛いけれど。だけど、でも。

 ――私に一体どうしろと?

 了。


それはとても普通なお話

作:◆7FtGTaokck
お題:内容参照

「そういえばよー、今日って何の日か知ってるかー?」
「えっ? えっ? なに!? そんな余裕ないんだけど!」
「世間じゃクリスマスイブらしいぜ?」
「えっ? あ? そうだね! そうだからもうやめてぇ!」
「イブだっていうのに俺たちは何をやってるんだか……」
「ちょ、この」
「ケーキの一つでも買ってくるべきだったかね……」
「いや! やめて!」
「しかしクリスマス便乗値上げだろうしなぁ」
「この! いい加減にしんさい!」
「よっと……。なんかこれじゃあいつもどおりだなぁ」
「この! そこ!」
「何も変わらないことはいいことなのかね」
「よしきた! 私の勝ちだぁ!」
「平穏平和に今年もこの日を迎えたことを喜ぶべきだな」
「あ、やめて、それは、だめえええ!!」
WIN の文字が輝く携帯機の画面から目を離し、隣の彼女を見る。
「ということで勝負がついたな」
彼女は鎧姿の男が映る携帯機をふとんに投げて、自身の身体を彼に投げる。
「また負けた! また負けたよ!」
悔しいのか彼の頭を殴る。彼は笑いながら携帯機をふとんに置くと、放ってあったコートを手に取る。
彼女はそれに倣い、自分のコートを引っつかむ。
「で、どこいくの?」
「コンビニ行くぞ」
もうすぐ夜中だけあって外は一段と冷えている。思わずポケットに手を突っ込む。
空には雲もなく、ホワイトクリスマスになることはなさそうだ。
「寒いねぇ」
「寒いのぉ」
そんなどうでもいいことを喋りながら冬の夜空の下、人気のない道を歩く。
どこかの家からは楽しそうな声が聞こえる。夜通しで騒ぐのだろうか。
「んっ」
彼女がポケットから手を出し、彼に差し出す。彼は何も言わず、それを握る。
今日はコンビニまで遠回りで行こう。彼はそんなことをふと思った。





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