文章系その4@2008.12


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その4



図書館ラビリンス

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」「12」

1/2
 ウチの学校の図書室はかなりの広さで、蔵書もかなり沢山ある。
 そのわりには利用する生徒が少なく、図書委員である僕の仕事は楽な物だ。
 ありがたや、活字離れ。
 司書の先生は嘆いているけど、仕事が楽なのは僕にとって嬉しい事だ。

 今日もいつものように、適当に面白そうな本を引っ張り出してカウンターに座る。
 ただいま午後四時過ぎ。校庭から離れた此処は静かで思う存分読書に集中できる。
 ある意味、僕の城みたいなものだ。
 没頭すると、時計の音も気にならなくなり、時間が進む事を忘れる。
 読むスピードがそんなに速くない僕はじっくりと読むタイプだ。一字一句逃さぬように、字を追っていく。
 どうしようもない程の活字中毒者だ。

 ドアが開く音に、ページをめくる手を止める。利用者――つまり、お客さんだ。
 足音を立てないように歩いてくるのは、数少ない常連さんで見知った顔。一年生の女子だ。
「すみません、返却したいんですけど」
 透き通ったソプラノが小さい声ながらも図書室に響く。鞄から出した本は全部で十二冊。
 本来なら六冊までの貸出しだけど、常連さんには多少の融通を効かせる。僕の図書カードを使って上げたのだ。
 先週末に貸し出したばかりだから、彼女はかなりの速読派だ。
 事務的に返却処理をして本棚に戻そうとするけど、彼女はカウンターの前に居座ったままだ。
「あれ? どうかした?」
「ちょっと……探したい本があるんですけど……」
 地味な外見に似合った、遠慮がちな物言いが僕の図書委員としての使命感に、火に油を注いだ。
「OK、任してよ。何て本?」
 彼女が告げたのは、料理関係、特にお菓子の作り方の本だ。
「えーとそれ系は……」
 ぶらぶらと本棚の前ををうろちょろする。彼女は僕の後ろをついてくる。
「こまったさんは……駄目だね」
 児童図書シリーズの名前をあげると、彼女はクスクスと笑った。
「良く知ってますね、こまったさん。マイナーだと思ってました」

2/2
「まーね。図書委員としてはそれぐらい知っておかないとね。マイナーだけど有名な方だしさ」
「そうなんですか?」
 口元に手を当てて笑う彼女は、良く見ると結構可愛くてドキドキする。
 何故か緊張してしまって、ギクシャクとした動きで探すけど、クリスマス前だからなのか、めぼしい物はみんな貸出し中だった。
「ゴメン、みんな出払ってるね。どうする? 返却されたら予約って事で取っておこうか?」
「いいえ、探してくれただけで充分です。こまったさんを知ってる人がいて、ちょっと嬉しかったですし」
 身振り手振りでとんでもない、と言う彼女に、悪戯心を起こしたので思っていた事を聞いてみた。
「お菓子の本って、誰かにクリスマスケーキでも作るの?」
 彼女は急にモジモジして、おそるおそるといった感じで、徐に口を開いた。
「はい、彼に作ってあげようかなって……」
「あ、そう。――彼氏に、ね。頑張って、応援してるよ」
 結局彼女は一冊も借りずに帰った。
 俺はカウンターに戻って、読書に戻る。
 なんだか非常に疲れた。
 シャバが冬なら心までひんやりと寒くなる。ストーブ焚いてるけど何故か冬の寒さが目にしみる。

 ちくしょう、悔しくなんかねーよ。


 了。


冬が好き

作:◆KLShlXYtLo
お題:「冬」

……あいつは、冬が好きだ。

「どうしてか、って……」理由を聞けば、あいつはちょっと首をかしげて言うのだ、「んー
と、それは……」

 ……それは、たぶんね、たとえば……
 たとえば、雪。朝起きて、庭一面に降り積もってる雪。
 たとえば、空気。陽が昇る前の、頬を焼くような、けれど透明な空気。
 たとえば、太陽。昼間でも眠そうに、低く昇って、まどろむような陽気を降らせる太陽。
 たとえば、月。冷たい大気の向こうで、いつもよりも冷え冷えと輝いている月。
 たとえば、こたつ。外で冷え切った足を突っ込んで、気持ちよさにうっとりするこたつ。
 たとえば、食べ物。おでん、肉まん、おもち、その他もろもろ、あったかい食べ物。
 たとえば、――

「もう、いい」わたしはふてくされたような声になってしまったことに気付く。「……十分わ
かったわよ、あんたが冬にゾッコンだってこと、それに最後までマジメにやるってことが
相変わらずできないってこと」
「んー……なんで不機嫌なの?」そしてあいつはにっこり笑って、「あ、もしかして、嫉妬?」
太ももを思いっきりつねられた、空気の読めない男の悲鳴が響く。

……けれどわたしも、冬が好きだ。

 石油ストーブのにおい。朝、冷たい布団から起きて、居間から漏れ香るにおい。
 慌ただしげな、けれど浮き浮きとするような街の流れ。色とりどりのイルミネーション。
 クリスマスを歌う歌。懐かしく心に響くメロディ。
 降りゆく雪、草木を覆う霜、吐息は氷の結晶のように白く染まり……
 白い雪は全てを覆い、やがてその下に芽吹く命をやさしく包む。
 過ごしてきた時が過ぎゆくことへの、寂しさに似たせつなげな気持ち……
 そして眠りに落ちるときに心に抱く、新たな季節への淡い希望――

そっと肩を寄せ、目を閉じる。
「……たとえば」とあいつは言う。「たとえば、こうして……きみと寄り添っていられる、
ただ冬だからっていうだけで……」うつむいた顔は、柄にもなく真剣。
あいつの手が、触れれば溶けて消えてしまうものに触れるような、臆病とさえ言える慎
重さで背中にまわされる。けれどわたしは、その手がわたしを抱きしめるよりも早く、
あいつの胸に飛び込む。
暖かな感触。ばかみたいに早い鼓動。見上げた顔は、みっともないくらい真っ赤。
「まだ足りない」わたしが言うと、あいつはびっくりしたような、困ったような顔でわたしを
見る。「冬が好きな理由と同じだけ、わたしが好きな理由をあげなさいよ。じゃなきゃ……」
ぎゅ、と抱きしめる、その身体を、熱い身体を。「……離したげない」
「……や、やっぱり」あいつはしどろもどろに言う、「嫉妬じゃ……んっ!?」
唇がふれあい、リップクリームの味がひろがる。 

それは冬の味、はじめて口づけしたときの、思い出の味。
それは身を寄せ合ってバスを待っていたとき、なりゆきで重ねた、その湿った唇の味。
それは甘酸っぱくてどこかわざとらしい、忘れられないレモンの味……。

わたしにとって、だから、この冬という季節は特別な季節。

唇が離れ、あいつの瞳がわたしを見つめる。
「……好きだよ」柄にもない優しい、誠実な声で、ただそれだけ、あいつは言う。
出会ったときから少しも変わらない、恥ずかしくなるくらいにいちずで、目を背ける
こともできないくらい、まっすぐな瞳。
そこに映るのは、あいつの大好きな冬の景色、そして……
「わたしも、――

……だからわたしも、冬が好きだ。 
(了)


the body inside

作:◆CkzHE.I5Z.
お題:「鐘」

1/5
 ここ一年近くの間私が追っていた男は、町の小さな寺の物置蔵に仕舞い込まれた釣鐘の中から、変死体で見つかった。
「ええ、そうです。近年は、夜中になると、悪戯する者が、おりますでな、年の瀬まで、蔵に置いとくのが、慣例になっておりますです」
 皺だらけの老住職は、ゆっくりとそう語った。
「ではあの鐘は、一年の殆どを蔵で保管しているわけですね」
「その、通りです」
 まぁ、それもそうだろう。
 寺の鐘が町民の時を刻んでいた古き時代ならいざ知らず。
 現代人にとって、寺の鐘など年に一度――大晦日の除夜の鐘ぐらいにしか必要とされまい。
 私は老住職に訊ねた。
「ところで、釣鐘のような重そうなものを、いつもどうやって吊るしているのですか?」
 なにしろその鐘は銅製で、その重さは百数十kgはあるものと思われた。
「ええ、はい。うちの檀家に、工場を経営しておる方が、おりましてな。
 必要な時期になると、その方に、フォークリフトを、貸して貰って、おりますです」
「なるほど」
 私はさもあろうと頷いた。
 一人前の男が数人がかりでも、持ち運ぶことはおろか、持ち上げることすら難しいだろうからだ。
 むしろフォークリフトで運べる事を、意外に思ったくらいである。
「ふむ。しかし何故」
 私は言葉を濁した。
「まことに。恐ろしい事です」
 住職は、皺だらけの手を合掌して言った。



    依頼者は、とある大企業の重役だった。
   「……では、息子さんが行方不明になったと?」
   「そのとおりだ」
   「無礼を承知で言わせて貰いますが。年頃の男性が両親の前から姿を消すというのは……」
   「ああ、おそらく自分の意思でいなくなったのだと思うが」
   「では……それを承知で、という事で良いのですね?」
   「ああ、宜しく頼む」
    救いがたい親もいたものである。
    しかしながら。それに伴って支払われた前金と、必要経費の上限額は魅力的なものだった。
    私は依頼を受ける事にした。

2/5
 見つかった死体は、布団等に使う圧縮用の袋に入れられ、更にブルーシートで覆われていた。
 それは異臭漏れによる発覚を防ぐ為だったろうか。
「まぁ、元々、殆ど人も寄り付かぬ、蔵ですがな」
「……失礼ですが、寺にはご住職お一人で?」 
「そうです。わしの他には、坊主も、跡継ぎもおりません」
「ですが、夏などには」
 私はまた、言葉を濁した。夏の放置死体などは、想像するのも嫌な話題である。
「その頃、わしは、腎臓の手術を、しておりましてな」
 そして、寺には誰もいない。
「なるほど」
 発覚が遅れた訳だ。
 ――実際の所。
 死体の隠蔽処理は厳重ではあったが、完璧ではなかった。
 死体とそれを覆った袋などには、各所に少なからず損壊が認められていた――噛み砕いて言えば、獣虫に荒らされていたのだ。
 ……真夏期に発見されなかった事は、或いは幸運だったかもしれない。


    私はまず、重役の息子氏のライフラインを洗う事にした。
    人ひとりが生きるという事は、様々な痕跡を残すものだ。それは生活の癖ともいえるだろう。
    例えていうなら、捜し人がスパゲティが好きなら、イタリアンレストランに張っていれば良いのである。
    特徴があればそれは何でも良い。
    息子氏の場合は、その財源に特徴があった。
    彼は一般的なフリーターであったらしいのだが、その待遇に比して、出て行く金の量が明らかに多かったのだ。
    その出所は不鮮明。
    失踪に先立って、家の金が持ち出された形跡もなかったようだ。
    どうやら息子氏は、人に言えない影の仕事をしていたらしかった。
    私は彼の仕事を追う事にした。

3/5
「……私の調べによると、生前の彼は骨董の盗品売買に手を染めていたようです。
 彼自身も実際に盗みに這入る事もよくあったようですね。
 住職の寺も、その被害に遭われていたようですが」
「うすうす、気付いておりました。寺の、由来の古い物が、いくつも失せて、おりましたでな」
「いつも蔵に錠前などは?」
「掛けては、おりません。一度も。歴史だけはある、古臭い寺の、伝統でしてな」
「そうでしたか」
 蔵の様子を思い出す。
 所々、不自然に埃の積もっていない箇所が目立っていた。
 そこにあったのは――この老住職と寺が守ってきた、歴史そのものだった筈だ。
「取り戻そうと、考えていらっしゃいますか?」
 愚問だった。
「どうせ、わしの代で、終わる寺ですからな。未練はありませんです」
「……そうですか」
 私は静かに頭を振った。
 白く清潔なベッドに仰臥する老人を見下ろして、私は深く溜息をつく。
 この老住職が――息子氏を殺した事に、確信が持てたからだ。



    盗品売買のルートを逆に辿った私は、ほどなくして小さな寺に行き着いた。
    人の住んでいた気配はあったが、所々に草は生えて荒れ放題である。
    事情は知らないが、主がいなくなって数ヶ月は経っていると見受けられた。
    注意して境内を散策していると、片隅に立つ建物に違和感を覚え、目を留めた。
    暫くして気付く。カサリカサリと小さく音がした。違和感の正体はこれだろう。
    歴史を感じさせる、古い蔵。しかし錠前は無い。
    躊躇いつつも、その蔵の扉を開けた私は、すぐに異臭とその元に気付き、てこを使って釣鐘を持ち上げた。
    同時にザワワッと小さな黒い影が……という事は、勿論ない。事前に鐘を何度も叩いて、追い出していたのだ。
    中にあったのは、虫食いだらけの汚い袋。
    経験上、中身の見当はついている。
    手袋は蔵に入る前から嵌めているので、私は躊躇なくそれを開け、その身元が予想の通りであると確認したのだ。

4/5
「……どうして、殺したのです?」
 だが、これもまた愚問である。
「さぁ、今となっては、わかりませんな」
 老住職のその溜息は、しかし私のそれより深いものだった。
「何故殺したか、そうですな。
 寺の貴重品を、盗まれた、恨みも、あったかもしれません。
 しかし、殺す必要など、なかったかもしれませんし、彼にしたところで、死ぬ事も、なかったかもしれませんです」
「既に腐敗し荒らされていたとはいえ、死体に目立つ外傷はありませんでした。
 死因は、感電死ですか?」
「そのとおりです」
「蔵に罠を?」
「そのとおりです」
 老人は、ベッドの上で小さく何度も頷いた。
「なるほどね。わかりましたよ、おそらくはほぼ全て」
 息子氏を死に至らしめた罠の、その具体的な方法までは、私も尋ねるつもりはなかった。
 だが想像はつく。
 銅の電気伝導率は高い。
 更に、寺の蔵なら銅製の骨董には事欠かないだろう。
 そんな貴重品のいずれかに電気の配線を繋ぐ。
 たったそれだけの話だ。
「住職……それは、引っかかる方が悪い罠です」
「それは、違いますな。明らかに、仕掛けた方が、悪い」
 私と住職の二人は、暫く笑った。
「どうやって、死体を釣鐘の中へ入れたのですか?」
「それも、わかって、おるのでしょう?」
 愚問だった。
 フォークリフトしかない。
「これは推測ですが。
 ……この袋の中身は貴重な仏像だ、とでも言ったのでしょう?」
「はずれ、ですな。近頃は、物取りが多いと、そう言っただけです」
「なるほど。嘘は言っていませんね」
 ――フォークリフトを任された檀家の何某氏としては、釣鐘で被ってしまう事で、盗人の手から骨董品を守るのだと、内心張

り切っていたかもしれない。
 勿論、フォークリフトだけでは、死体に釣鐘を被せる事は不可能だが、しかし、釣鐘を下ろす際にもそれは同じ筈だ。
 その為に、当日には数人の男手があったと見ていいだろう。
 数人掛りなら釣鐘の片側を持ち上げ、死体に釣鐘を被せる事も出来そうだ。
「そもそもが、一人では不可能なのです。しかしながら、殺した人間が複数いるにしては隠蔽が杜撰だ。
 故に殺しは単独犯、結果的に死体を隠蔽してしまった人間が複数だと考える方が自然でした」
「なるほど、そう、でしたか」
「ですが、上手く隠せたとも思います。入院はいつ頃から?」
「春からです。
 跡継ぎも、おりませんし。もう、今年の、除夜の鐘を聞く事も、ないとも、思いましたから」
 そう言って、住職は笑った。力なく。
 私が発見しなければ、少なくともこの老人が亡くなるまでは発覚する筈もなかった。そういうことだ。
「あとは、そう、カネに入って死ぬなら、本望だろうと、思いましてな」
「ふふははっ、駄洒落ですか、そうかもしれませんね。
 ……さてと、私の用事も終わりました」
「ああ、楽しかったよ」
 私は身を翻して、静かに退室しようとした。病人を長く拘束するつもりは、私にはない。
 しかし、老住職は最後にもう一度力なく笑い、私に訊ねた。
「ところで、あなたさんは、何者ですかね」
「殺し屋です」

5/5
 その年の瀬。
 私は約一年ぶりに、あの依頼者に会っていた。
「どうも。依頼は達成しましたよ」
「あの男は、ちゃんと死んだのか?」
 自分の息子をあの男とは。冷たいものだ。
「ええ、完璧です。盗品売買の関係者も全て始末しましたから。
 あなたの悪評に繋がる人間は、もうこの世にいません。おっと、私を除いてですが」
「……ご苦労だった。噂通り、完璧な仕事だな」
「証拠や死体写真はご覧になりますか?」
「結構だ、始末してくれ」
「わかりました」
「……待て。
 報告書にあった老人はどうなった?」
「ああ……」
 一瞬だけ、私は顔を曇らせた。
「大丈夫です。何も問題はありません」
 だがすぐに表情を変えにやりと笑うと、依頼者は露骨に嫌そうな顔をした。
「そうか」
 依頼者は、後味の悪さを感じつつも、あからさまにホッとしている様子だった。
 やれやれだ。
 ……でもまぁ。
 私も、嘘は言ってないから。

   ―了―




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