文章系その3@2008.12


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その3



無題

作:◆o9OK.7WteQ
お題:「12」「鐘」「冬」

 走っているため、朝の冷たい空気が突き刺すように肌に当たってくる。
 防寒具をこれでもかという程着込んでいるとはいえ、露出している顔は寒さを感じていた。 
 少し歩きたくもなるが、目標まであと一歩。
 文字通り足踏みしている暇は無い、という訳だ。
 先週からまともな食事をとっていないためか、まるで自分の体が油の切れたロボットのように感じられる。
 だが、それももうすぐ終わる。

「シッ、シッ!」

 左の拳を放ち、そのまま流れるように右の拳を放った。

 ――ああ、ゴングが鳴るのが待ち遠しいぜ。


おわり


無題2

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

さりながら さるとも言わぬ 山梔子の さりとてならぬ 待つ雪思ふ 

石の上 ふる雪つもる 松が枝の きみ色そめん 我が身山梔子

遠つ人 雁飛ぶ空の 雲ならば 鈍色たりし 君ぞ思わん


ひだまりに雪を思う

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

1/2
 外の風は冷たいけれど、部屋の中は暖かい。
 ストーブは消してしまったけれど、窓から射し込んでくる柔らかな陽射しが、温もりを保ってくれる。
 ひだまりに椅子を運んで腰をかけると、此処が図書室であるにも拘わらず、うつらうつらと瞼が重くなってきた。
「や、久し振り」
 その声で夢見心地から現実へ。いつの間にか、先輩が隣にいた。
 知らぬ間に何処にでもいて、それだけど不思議じゃない先輩は、まるで猫みたいだ。
「ええ、ホントに久し振りですよ。元気でした?」
「全然。受験生は大変だよ、マジで」
 ガタゴトと椅子を引っ張って来て隣に座った先輩は、窓の外の枯れた冬景色に目を細める。
 僕はと言えば、足を組んで乱れたスカート、そこから伸びる柔らかそうな足に目を奪われて鼻の下を伸ばしてしまう。
「僕は時間があるからまだまだ気ままですよ」
「キミらしいね、いかにもさ」
 僕を見ないで呟く視線は窓の外。
 なんだか物憂げな先輩の横顔に見惚れてしまい、心臓の鼓動がバクンと跳ね上がった。
「部活の方はどう?」
「――駄目ですね。なんにも浮かびませんよ。何を書けば良いのかサッパリわからないですよ」
「だらしないなぁ、キミは。張り合いもないよ」
 全く、呆れて嘆息した先輩に頭を小突くかれる。
「先輩から部長を引き継いだのは良いんですけど、文芸って奴は難しいです」
 そう付け足して盛大に溜め息を吐くと、僕に振り向いて、文系のクセに理屈っぽいからね――キミは、と笑いながら瞳を覗き込んで来た。
「なにもなければありのままを書けば良いのよ」
 先輩は視線を僕から窓の向こうに移すと、すうっと息を吸い込んだ。そして、徐に。

 踏みいらば 知らず不知火 白根山 すべはなくとも 心ありけり

 澄んだ、張りのある綺麗な声で、リズミカルに一編の短歌を吟じた。
「ま、こんな感じさ」
 短歌を詠んだ先輩は満足そうだけど、僕は憮然とする。
「で、誰の作った奴です?」
「――私の歌だよ」
 今度は先輩が憮然とする。唇を尖らせて、僕を睨み付けてきた。

2/2
「なんとなく凄いと思うんですけど、意味がわからないんですよ、短歌って奴は」
「だろうね。字面を追っても無駄だし」
 そう前置きして、先輩は目を片目を閉じた。
「文章の書き方がわからないのなら、心に思った事を素直に書け。そんな意味さ」

 難しいですね、と苦笑して窓の外を見る。冬景色はそれなりに綺麗だとは漠然と思うけれど、それが巧く言葉に出来ない。
「感性が鈍いんですかね、僕」
「多分、キミは感性の出し方が分からないだけだよ」
 先輩はカバンの中をガサゴソと漁って一冊の文庫本を取り出して、僕に手渡す。
「なんです、コレ?」
「中也の詩集さ。キミにあげるよ。読めば少しは感性の出し方が判るようになるよ」
「短歌じゃなくて?」
「いきなり短歌じゃ荷が重いでしょ?」
 渡された本をペラペラとめくると、手垢だらけでなんだかボロボロだ。所々に折り目が付いている。
 こんなになるまで読んだ本なのだから、先輩の好きな本なのだろう。
 お古だとしても、お古だからこそ嬉しくなる。
「難しく考えないで、楽しく考えれば、文章なんてちょちょいのちょいで書けるよ」
 キミは拘り過ぎなのさ、そう付け足す先輩の顔がやけに眩しい。
「すみませんね、細かい設定に拘るタチなんですよ」
 僕の減らず口を笑いながら、先輩はじゃぁね、とスカートを翻して去っていった。小さくなっていく足音に耳を傾けながら、表紙をじっと眺める。

 汚れつちまつた悲しみに……

 やっぱり意味がわからないけど、本に染み付いた先輩の残り香が、白い雪を想像させた。
 春になれば先輩とは会えなくなるな、とぼんやり思っていたけれど、実感が湧いてきた。
 窓の外では雪が待っている。僕の胸にも雪が降っている。
 想いを歌にしたためてみよう。どうせ実らないのが初恋だ。当たって砕けよう。

 ――雪がとける前に。

 了。


はじめて

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」「12」

 ポンコツの一歩手前のCDデッキが、軽快と言うには激し過ぎる曲を流している。
 部屋を満たしているのは、私が生まれるずっと前の、それでいて決して古臭くないナンバーだ。
 彼は私の隣でベッドに寄りかかりながら、一言もしゃべらないで、流れる音楽に耳を傾けている。
 幾つかの曲が流れる間、手持ち無沙汰の私は俯いたまま、彼と同じく言葉を発しない。
 お気に入りの12曲目になった時、彼が手を伸ばしてきた。
 私を見つめるた瞳にぼーっとしていて意思がなく、目に付いたものに何気なく手を伸ばした、そんな感じだ。
 彼の頭は私の肩よりちょっと高い位置にある。水平よりも上に向かって伸びてくる手は、明らかに私の胸ほどの高さになっている。
「触りたいの?」
「え、いや、そ、そうじゃっ」
 恥ずかしさと焦りが入り交じった表情で、彼は縮こまった。
「違うの?」
 一気に我に返った彼が後ずさると、置いてあった雑誌に手を滑らせて仰向けに倒れた。
「え、いや、なんとなくっ」
 慌てふためく彼の姿が面白くて、不意に笑みを溢してしまう。
 伸びをして、そのままベッドに上半身をドサリとベッドに横たえる。
 突然な私の行動に、起き上がった彼氏は目を白黒とさせていた。
「そうはうまくいかないよ?」
「……ごめんな」
 自嘲気味に俯く彼は、ポリポリと頭をかく。その仕草に耐えきれなくなって、私はそのままベッドに乗り上がって笑い転げた。
 つられたのか、彼も笑みを浮かべる。
「来なよ」
「え……良いのか?」
 素早い反応で立ち上がろうとしたけれど、今度はさっきの雑誌に足を取られてずっこけた。
「何度もお約束をされたら萎えるね、気持ち」
 上体を起こして、間抜けな格好で転がっている彼に手を伸ばす。
 よいしょ、と引き上げると、緊張していたのか彼の手がやけに冷たい。
「……悪いな、始めてなんだよ」
「私も始めてだけど?」
 ムムム、と口をへの字に曲げて唸る彼が何だか可愛くて、肩を引き寄せてそっと唇を重ねた。
「続きは今度、ね」
 唇をはなして、名残惜しそうな彼の頬ををツンとつつく。
 ふと気付いた。いつの間にやらCDは一番最初の曲にリピートしている。

 ――今度12曲目を聞く時は、私も彼も大人になった後だろう。

 了。


久方の

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

 久し振りの青空を見上げると、高く、高くなる程にその青さを増している。
 依る辺ない青さと太陽の陽射しが目に染みて、堪えきれずに手を翳すと、空の色と眩しさがやんわりと和らいだ。
 寒冷地ゆえに山には針葉樹が多い。
 だからなのか、12月の半ばを過ぎても緑が色濃くて、青と緑のコントラストが澄んだ冷たい冬の空気に映える。
 目を凝らせば、うっすらと雪化粧を始めた山も見える。

 久方の 空に思わば 色に出よ 継ぎ語らへば 葵になりけり

 一首詠んでみたけどしっくりとしない。主題ががぼやけて、ちょっとピントがずれている。
「おーい、そんなトコでボンクラして、なにしてるん?」
 振り向くと、友達が自転車を止めて手を振っている。
「べーつに。大した事してないよ」
 膝下まで伸びてる枯れ草をガッサガッサとかき分けてそちらに向かうと、爆笑された。
「あんなぁ、そないなお土産いらへんで?」
 お土産という言葉の意味が分からずに、手持ちぶさたで所在なくしていると、彼女は私の足下、靴下を指差してケタケタ笑った。
「ひっつき虫さんついとるわ」
「へ? むしぃっ!?」
 一般的な女の子の例にも依らず、私は虫が大嫌い。慌てて跳び跳ねて振り落とそうとする。
「虫やない、ひっつき虫さんや」
 ポコンと頭を叩かれて、私はジタバタするのを止める。
 落ち着いて良く見てみると、靴下に小さな訳の分からない変な種みたいなのが沢山付いていた。
「――虫じゃないじゃん、これ」
「ウチんとぅはなぁ、これをひっつき虫さん言うんよ」
 彼女は鼻がかった声で懐かしいわぁ、と呟いて、彼女は私にくっついたひっつき虫さんとやらをプチプチ取り始めた。
「あ、ありがと」
「お礼なんていらんわ。アンタ笑えたし、ええもん見せてもろたし」
 懐かしいのか、嬉しいのか、それとも両方なのか、彼女の横顔は心が何処かに消えていた。
「田舎もええもんやね」
「そうなのかもね。たまには、だけどさ」「不粋やなぁ。だからアンタの絵ぇはつまらないんや」
「あんたのシュールレアリズムに比べればマシだよ」
 下らない話をしているうちに日が陰って、本格的に風が冷たくなってきた。

 帰り道 並びて歩む 輩の 手袋越しに 指を絡めん 

 ――今度は巧く詠めた。持つべきものは、やっぱり友達だ。

 了。


午後12時、電波にのせて

作:◆NN1orQGDus
お題:「12」

 午前12時を過ぎて明日が今日になる頃、ラジオのチューニングを合わせる。
 受験勉強のささやかな息抜き、ラジオの時間だ。
 バリトンで元気の良い男性DJと女性アシスタントの軽妙なやり取りに耳を傾けつつ、漢詩の白文をノートに書き取る。
 机の上には、教科書と辞書、ノートに筆記用具。覚めかけた泥水みないなコーヒーと、携帯。
 オープニングナンバーは流行りの女性テクノ。メリハリの聞いた高音が、疲れた頭に心地良い。
 雄壮に歌われる詩に想いを馳せつつ、書き下すと、アシスタントの鼻がかった声に、ついつい力が入り鉛筆の芯がポキンと折れた。
 次のリクエストは、私のだ。
 同じ大学を目指すあの人に向けた密かなメッセージを電波に流されて赤面してしまう。
 でも、誰も気づかないだろう。一応ラジオネームだし、こんな思いの女の子は沢山いる筈だ。
 リクエストナンバーはあの人の好きな曲。
 私が生まれるよりもずっと前の、クラシカルでスタンダードなロックナンバー。
 勧められて私も好きになった、有名バンドの定番の曲だ。
 パンチの聞いたベースラインが、空き始めたお腹に響く。空腹を誤魔化す為にコーヒーを一口飲む。
 冷たい苦い味が、舌を、喉を、頭にパンチのようにクリーンヒットした。
 流れるメロディに合わせてハミングすると、苦さがほんのり甘くなる。
 カチコチと時計の針が時間を刻んでいく。放送時間が残り半分を過ぎると、コーヒーも無くなって瞼が重たくなってきた。

 ――次のリクエストは――

 私の好きな、クラシック。フィギュアスケートで良く使われる名曲だ。メッセージは、私に答える物だ。
 間違いない。私のラジオネームに向けたメッセージの主は彼の名前だ。
 睡魔も何処かに消えて、数学の公式が頭からポロポロ消えていくけど、ラジオにかじりつく。
 ラジオの向こうのあの人に、電波に乗せたメッセージが届いた。
 真夜中にも拘わらず、私は嬉しい悲鳴を上げる。明日、ゆっくりと彼と話が出来る――二人きりで。

 午前二時過ぎ、ラジオは砂荒し。
 だけど、私は幸せ。

 了。


ためいき

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

 花はおろか葉っぱすらも散ってしまった桜の幹は、ザラザラとゴツゴツしていて、排気ガスのせいなのか黒っぽい。
 季節になれば匂い溢れる程に満開の花が咲くこの桜も、冬の景色の中で枯れた風情を演出している。
 駅前の桜並木とは違って、俗っぽいイルミネーションが施されていない校庭のこの木は私のお気に入りだ。

 雨降りの休み時間、雨が雪に変わらないようにと願いながら窓越しに桜の木を見下ろしていた。
 薄暗い鈍色の曇天模様の空が、私を憂鬱にさせる。

「なあ、英語の宿題みせてくれよ」
 幼馴染みのクラスメートの顔が、ひょっこりと視界に入った。
「嫌よ。自分でやりなさいよ、宿題なんだから」
 気持ちがささくれだっているからなのか、言葉にトゲがでる。
「なんだよ、ケーチ。見せたって減るもんじゃないだろ」
 子供染みた言葉のせいで、ささくれどころか亀裂が入る。
「いーえ、減るわよ。アンタのオツムがね」
「もう頼まねーよ、バカっ!」
「なっ……! バカにバカって言われたくないわよ!」
 こんな言い合いをしたくはないんだけど、売り言葉に買い言葉、火に油を注がれて、タガが外れて抑えが効かなくなる。
 踵を返し、肩をいからせて歩いて離れてく背中に、「待ちなさいよ!」と投げつけるけど、その次の「仕方ないから見せて上げる」という言葉が出せなかった。
 意地っ張りで強情だから、口から出た言葉を訂正出来ない自分が恨めしい。
「お、夫婦喧嘩か?」
 下らない事を囃し立てるクラスの男子はもっと恨めしい。
 言い過ぎてごめんなさい、そう謝れない私が自分ながらに大嫌い。謝ってこれないアイツも嫌い。
 子供の頃からの付き合いだから、お互いに相手を知っているから、余計に意地を張ってしまう。

 窓から見える桜の木は、大きくどっしり構えていた。雨が降ろうと雪が降ろうと、花吹雪を降らせようとも、それは変わらない。
 それがなんだか羨ましくて溜め息を吐いたら、窓ガラスを白く曇らせる。
 掛け間違えたボタンみたいに、間違いを簡単に直せれば良いのに。
 焦ってもどうにもならないのは、自分の事だけに良く判る。時間をかけてクールダウンするしかない。
 だけど、無性に悔しいので曇ったガラス窓にキライバカと書く。

 ――素直な女の子になりたいよ、ホントに。


 了。


星空

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」

1/2
 私の町にはプラネタリウムがある。
 バブル景気の時に建てられた物にしてはシンプルで、品のいい所だ。
 目印は焦げ茶色の丸い屋根。ちょっとした公園が前にあって、ちょっとした散歩道にぴったりだ。
 小さな町だし、町の外れの小高い山の上にあることもあり、利用者が少ないので、静かで落ち着いた名所になっている。
 もっとも、プラネタリウムをデートコースに組み入れる若いカップルは天然記念物並みに希少で、ほとんど私達専用になっている。

 12月に入ったばかり日曜の空は鈍色の曇天模様だ。
 雨が降らない事を祈りながら部活を終えた私は、所々寄り道をしつつ、適当に昼食を済ませてプラネタリウムに向かった。

 ロビーは暖房が効いていて、外との温度差のせいなのか、眼鏡が曇った。
 ポーチからハンカチを取り出してレンズを拭いて、掛け直す。
 来る途中に、印象的な青い表紙に思わず衝動買いしてしまった文庫本をペラペラとめくりながら、制服のブレザーにシワがつかないように気をつけて、ソファーに深く腰を下ろした。
 カチコチとゆっくり時を刻む腕時計を確認すると、三時を少し過ぎた頃。待ち合わせにはまだ一時間ほど余裕がある。
 活字を追う事に没頭。彼が来る前に読みきれるかどうか、時間との勝負。
 半分ぐらい読み進めた時、自動ドアが開いた。栞がないので仕方なく、開いてあったページの下の方を折り込んで本を閉じた。
「よ、待たせた?」
 近付いて来る学ランにジャンパーを着こんだ彼氏が、腕捲りをしながら歩いてくる。
「ううん。本を読んでたから平気よ」
「全くさぁ、試合前だから練習が長引いて困るよ」
「やっぱりね。ちょっと汗くさいよ」
 げ、マジ? と学ランの袖を鼻に当てて匂いを嗅ぐ彼の仕草は、なんだか面白い。
「そう言えばさ、学ランなんだよね」
「まあな。似合うか?」
「ごめん、似合いすぎててブレザー着てる姿が想像出来ないよ」
「ふーん、そんなもんか」
 なんだか釈然としない彼氏の手を引こうとすると、逆に手を引かれた。
「なに?」
「今日は止めとかないか?」
「別にいいけど。どうするの?」
「ちょっと歩こうぜ」
 何度も見たプラネタリウムに未練がある訳でもなく、私は彼氏の後ろについていく。
 外は少々寒いけど、それなりに着込んでいる私はさほど寒くない。だけど、彼は腕捲りをしたままだ。
「寒くない?」
「うんにゃ。暑がりだからな、俺」

2/2

 そんなものなのかな、とぼんやりと考えつつ、私は彼の指にそっと指を絡ませた。
 彼の指は確かに温かくて、ポカポカしている。その温かさが気持ち良くて、私は顔を綻ばせた。
 彼の横顔を見上げると、至って普通でちょっとがっかりした。少しは反応があっても良いのに、と思う。
「ひゃっこくて気持ちいいな、おまえの手」
 少し訛ってる言葉にプッと吹き出すと、彼は僅かに憮然とした表情になる。暗いから良くわからないけど、赤くなってる気がした。
 歩き続けて街灯が疎らになって真っ暗になった所で、彼は足を止めた。
「上、見てみ」
 空を見ると、いつの間にやら雲が消え失せて満天の星空が広がっている。
「――うわぁ、綺麗――」
 瞬く星々に目を奪われ、圧倒された私は、星の海を泳いでいる錯覚に囚われる。
「――冬の星座は――」
 彼はプラネタリウムの受け売りの説明を始める。所々つっかえたり、間違いながらの説明だけど、それでもとても嬉しくなる。
「たまには良いだろ、こういうの」
「うん、ありがとう」
 プラネタリウムも綺麗だけど、本物の星空は宝石みたいに綺麗で、思わず絡めていた指を強く握りしめてしまう。
 彼の見ると、彼もこちらを見て、ギュッと握り返してくる。
「ねえ、あれって流れ星?」
 夜空を横断する光を見つけて指差すと、彼はうーんと唸って、夜空に目を凝らした。
「いや、あれは星じゃなくて飛行機じゃねえかな」
 うん、それは言われなくてもわかってる。わかってて言ったんだから。
 無防備な横顔に、ちょっと背伸びをしてキスをした。
 一瞬びっくりしてだじろいだ彼は、何をされたのか気付くと顔を耳まで真っ赤にしている。
 頬を押さえて、固まってしまった彼が可笑しくて、べぇっと舌を出した。

 ――不意打ち、ごめんね。

 了。


止まり木

作:◆NN1orQGDus
お題:「冬」「12」

1/4
 鈍くぼやけたオレンジ色の灯りの下、シーツの乱れたベッドの上で、私は彼の手が伸びてくるのを待っていた。
 始めはくるぶし。ぎこちない指が上に上がってきて、膝小僧まで来た辺りで堪えきれずに限界を超えた。
「アッハハッ! 止め止めっ! くすぐったくて駄目だわ」
 彼はちぇっと舌打ちし、じいっと自分の手を見つめた。
「気持ち良いじゃなくてくすぐったい?」
「なんて言うのかな、前に比べて下手になった感じ」
「下手ってねえ……。お前、簡単に俺のプライドをへし折ってくれるなよ」
 お互いに気分が削がれ、私は蛍光灯の紐を引っ張って明るくする。
「良く見えないんだったら、眼鏡掛けた方が良いんじゃない?」
 私の言葉がカンに触ったのか、彼はムッとした表情になる。
「俺はね……こういう時は、生のお前を見たいんだよ」
「眼鏡掛けてたって同じじゃない?」
「だーめ。気分が違うよ、気分が」
 拗ねてしまった彼の機嫌を直すために、唇を重ねた。
「ん……、キスは上手いままだね」
「そりゃどうも」
 服を着てテレビをつけると、年末恒例の面白くもない特番がやっていた。
 暫くそれを見ながら、そのくだらなさを笑っていると、彼は眼鏡を外してコメカミの辺りをグリグリと押し始めた。
「どうしたの?」
「んー、最近何だか目がショボショボすんだよ」
 パチパチと瞬きをして、私は顔をじいっと覗き込まれた。
「大丈夫?」
「平気さ。お前の可愛い顔が良く見える」「セクシーじゃなくて?」
 しなを作ってみせると、彼は勝手に言ってろ、と笑い飛ばした。
「気になるんなら病院行ったら?」
「そのうちな」
 なんだかんだで、その日はそのまま彼の家を退散した。

 新年の足音が近付き始めた頃、クリスマスをすっぽかした彼に、急に呼び出された。
 病院に来いというのだ。
 急な話に驚いた私はいつもなら入念にする化粧を適当にして、急いでタクシーを呼んで病院に向かった。
 道すがらお土産を持ってない事に気付いたけれども、財布の中身と相談した結果、一番乗りお土産は私の顔を見せる事だと結論付けた。
 渋滞とは言えないけれど、空いているとは言えない車の流れにやきもきする。

2/4
 何があったのか、なんで入院したのか一切告げてはくれなかった彼に、心の中で毒吐きながら、前を睨む。
 運転手さんがギョッとしていたから、よっぽど酷い顔をしていたのかも知れない。
 病院に着くと、一万円を渡してお釣りはいらないよ、と吐き捨てて入院病棟に向かう。
 ナースステーションで、彼の名前を告げて部屋が何処にあるのか尋ねると、告げてもない私の名前で呼ばれてビックリした。
 心なしか、看護師さんの顔がにやけている。
 ちくしょー、あんにゃろめ、なにか変な噂でも流したのか、と呟いたら、呟きじゃなくてデカイ声になってたらしく、病院では静かにね、と笑われた。

 カツカツと五月蝿いくらいに足音を立てて、彼の部屋の前に立つ。見た感じ、どうやら個室らしい。

 ポーチからコンタクトを取りだして、顔をチェックする。うん、変な顔じゃない。
 コンコン、軽くノックして扉を開けると、名前を呼ばれた。

「お、良くわかったじゃん。やっぱり彼女ならわかる?」
「まーな、がさつな彼女で良かったよ。音だけでわかる」
 ベッドの上の彼の姿にちょっとひいた。
 いつもみたいににやけているけど、目に包帯が巻かれていたのだ。
「ん、びびったか?」
 とぼけた声に、ベッドへと引き寄せられる。
「ねぇ、どうしたの?」
「良く知らない。なんだかわからないけど失明するかも知れないんだとさ」
 危機感が欠落している彼の声に、不安なのか心配なのか良くわからない微妙な気持ちになる。
「全くさぁ、もっと早く教えてくれたって良いんじゃない?」
「バーカ。言いづらかったんだよ」
「私ら遠慮するような仲だっけ?」
「そう言えばそうだったな」
 いつも通りのやり取りに、不安よりも安心が打ち勝つ。
 調子が出てきた所で、安っぽい椅子に腰を掛ける。
「お前、なんか土産持ってきた?」
「ないね。私が来ただけで充分っしょ」
「そりゃそうだ。お前にフルーツの盛り合わせを持って来られても困る」
「ん、なんで?」
「だってお前、ミカンとバナナ以外に皮が剥けるヤツある?」
「……ないね」
 お互いに上戸のツボにハマって、笑う。ひとしきり笑った後、彼が神妙な顔になった。
「あのさ、頼みがあるんだけどいいか?」
「変なプレイじゃなければね」

3/4
 お前な、と上半身を起こすと、彼は手探りで枕を見つけてどかした。
「なあ、膝枕してくれないか?」
「なんで膝枕?」
「お前の足が好きだから」
「こーの、足フェチめ」
 個室だし誰にも遠慮する事もないので、私はベッドに乗って正座する。
 ゆっくりと降りてくる頭を誘導して、ちょこんと足の上に乗せた。
「どう、これでいい?」
「違うな、横じゃなくて縦になってくれ。足の間に頭がしっかり収まるようにさ」
「贅沢な男だなぁ」
 全く、と呟いて、リクエスト通りに座り、足の間に頭を置いた。
「今度は?」
「ん、気持ち良いな」
 彼はそう言うと、静かに押し黙る。私の足の感触を楽しんでいるのか、口元が弛んでいる。
「なあ、俺の事足手まといだと思ったら見捨ててくれていいからな」
「何を今更。そんなのだったらとっくの昔の見捨ててるよ」
 ――沈黙。膝枕のせいなのか、言葉が続かない。それでも、うんうん唸って話題を探す。
「ねえ、今は見えてるの?」
「全然。なんも見えない」
「それじゃあさぁ、真っ暗?」

 ちょっとした沈黙。地雷を踏んだのかな、と不安になると、彼の口が動いた。
「真っ暗なんだけどな、時々青空になるんだよ。そんで、お前の顔が向こうに見えるんだ」
 私はへぇ、と頷くだけ。彼の言葉は止まらない。
「まあ、なんだ。目は見えないけど、夢は見るんだ。小鳥になって、青空を越えて真っ直ぐにお前の肩に止まるんだよ、俺」
 柔らかく彼が笑う。その笑い方は今まで見た事のない笑い方だ。
「お前の足も好きだけどさ、ホントはお前の横顔が好きなんだよな、俺」
 無言のまま聞いている私は、彼をあやすように撫でる。
「なんてな……」
「――少女趣味だね」
「誰かさんが勧めてくるマンガの影響だな」
 ポタリ、ポタリ、と彼の目に巻かれている包帯に、雫が落ちる。知らぬ間に、私は泣いていた。
「そろそろ面会時間も終わりだろ」
 彼の言葉で膝枕は終了。私は帰る事に相なった。
 帰り際、私はナースステーションでの事を思い出した。
「アンタさあ、看護師さんに変な事を言わなかった?」

4/4
「言ってないな。ただ、電話してからお前が来るまで、誰かが入ってくる度にお前の名前を呼んだだけだ」
「成る程。覚えられる訳だ」
 じゃあね、なにか会ったら連絡してね、と言い残して病室を後にする。
 名残惜しいのでドアを閉める前に一度だけ振り向くと、あさっての方に手を降っている彼の姿が、なんだか霞んで見えた。
「……泣くなよ。俺はお前の笑顔が好きなんだからさ」
 小さな掠れた声に、チクリと胸が痛んだ。だから私は精一杯強がって笑う。
「だーれがアンタの為に泣きますかっ。勿体なさ過ぎだよ」
 ドアが乾いた音を立てて閉った。

 ええ、誰が泣くもんですか。アンタの為なんかに。

 その日からカレンダーに印を始めて、年を跨いだ12日目。
 中途半端な正月気分が抜けきらない私の元に、電話が来た。
 彼の母親からで、彼の訃報だった。
 死因は自殺。手術が失敗した次の日だったらしい。葬式も、内々だけで済ませたそうだ。

 子供の頃からの腐れ縁もこれでおしまい。あっけなさ過ぎる結末で、彼は行ってしまった。
 別に悲しくはない。彼は私に会いに来たくて飛ぼうとして、落ちちゃったんだろう。
 抜けてる所が、いかにも彼らしい終わり方だ。

 大丈夫、私は悲しくない。いつかアイツは鳥になって私の肩にとまりにくる。
 私の横顔を見る為に、きっと。

 了。


無題3

作:◆LV2BMtMVK6
お題:内容参照

丘望聖夜街

光溢煉瓦通

銀輝煌々彩

鐘楼独耐欲


今冬東方赴

帆路延々足

最涯至港埠

波止橙淡燭



異国十二月

人々面喜色

灯背坂歩且

凍気身沁鋪


十有二段登

眼下遥夜景

頂十字白楼

下界響音霊


十二音闇開

十二音光差

十二音触告

聖夜半鐘音






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