文章系その2@2008.11


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文章

M/Other

作:◆16Rf2BBdUE

日焼けした畳の上で、朱美は目を覚ました。
日はすでに沈み、冷えきったガラス戸を吐息が曇らせている。
11月の寒さは、弱った体に堪えた。全身にまとわりつくけだるさを引きずりながら、朱美はのろのろと身を起こす。
下腹の奥が、鈍く、重く、痛んだ。
「……ああ」
呻く。べったりと汚れた畳の上にうずくまる小さな肉の塊に、目が止まる。
肉の塊と自分の股。繋がっていた。赤黒い肉の紐に、意外なほどしっかりと、繋ぎ止められていた。
「痛そう……」
顔を歪めて泣き言を漏らしながら、テーブルの上に投げ出していた果物ナイフを手にとる。
一刻も早く、切り離さなければならなかった。
なぜなら自分と――桜井朱美とこの赤子は、何も関係がないのだから。
――そうでなければ、ならないのだから。

*****

「ぶみゃあ」
醜い声で、野良猫が鳴いた。
食堂の裏口に面している、汚い裏路地だ。大きなポリバケツが三つほど並んで、腐りかけの臭気を放っていた。
「ぶにゃあ」
太った野良猫が、また嫌な声で鳴く。
汚らしい猫だった。灰色の毛並みはさんざんにもつれ、固まり、あちこちがはげていた。腹はゆるみ放題にゆるみ、ときたま地面を擦るかと思えた。右前足は足首から先がなく、名残のような肉の筋が二本垂らされ、ひきずられている。
野良猫は塀から降り、右端のゴミバケツの蓋にどすんと着地した。
残った前脚で器用に中央のゴミバケツの蓋をめくり、はねのける。
「ぶみゃあああ」
威嚇するように、野良猫は吠えた。
成猫一匹ぶんほどの肉の塊が、その中には置かれていた。
肉の塊は小さな手足を緩慢振り回しながら、だらりとそこに横たわっている。

それは人間だったが、猫が知っている人間とは違った。何もかもが、違った。
人間はこんなに小さくない。
人間はこんなに赤くない。
人間は――
人間は、ゴミバケツの中に捨てられたりしない。
野良猫は戸惑った。
戸惑い、鳴き、毛を逆立て、威嚇し、また戸惑った。
何も反応せずただ手足を動かし続ける、人間のような生きもの。
鼻を近付ける。臭いを嗅ぐ。脇腹を舐める。
生きものは、かすかに身をよじった。
猫は口を開けた。尖った牙とざらつく舌が、赤い口腔の中でぬらぬらとひしめいている。
汚らしく黄ばんだ牙が、赤子の赤い肌に触れた。

*****

結婚式は来月に迫っていた。
何の不満も、不安も、障害もなく、桜井朱美は河原崎朱美になる。
「冷えるね」
肩を並べて歩きながら、朱美の婚約者――河原崎慶一が、優しいテノールで囁く。
「もう11月だもの。早いわね……」
しみじみと言って、微笑する。慶一は笑みを返し、朱美の細い肩を抱き寄せた。
「本当に、早いね。夢みたいだ」
「覚えてる? 二年前、初めて会ったときのこと――」
むつごとを囁きながら、二人は歩く。
11月の寒い夜。大通りの人気はまばらだ。風もなく冴えた夜気に、街灯の冷たい光がにじんでいる。
風が吹いた。髪がなびいた。つややかな栗色のロングヘア。手入れを欠かしたことはない。
何もかもが満ち足りていた。若く美しい自分。優しく将来性にあふれた婚約者。寒い夜を暖める語らい。二人の部屋まで、もうそんなに距離はない――
朱美が浮かべた笑みは、満月に張り合うように輝いていた。
「ふにゃあ」
その笑みが、固まった。
「にゃあ。うにゃああ」
足が止まる。血の気が引く。静かな夜に、冷えきった夜に、不吉な鳴き声が響き続ける。
心臓が跳ねた。あるいは止まった。進むことも戻ることもできず、震える自分の肩を抱く。
「……朱美?」
立ち止まった慶一が、気遣うように呼び掛けた。
「猫が、怖いんだね?」
「え、ええ。また……」
こんなことは、初めてではなかった。
だから、平気で嘘が言えた。
ほんとうは、猫が怖いのではない。
人の産声にあまりにも似た、猫の鳴き声が怖いのだ。
(いない)
ふらふらと歩きだしながら、自分に言い聞かせる。
(わたしには、いない。子供なんて、いない)
そう決めた。だから、そうならなければならない。
猫にも劣るような嬰児に、やっと掴んだ自分の――一人前の人間である桜井朱美の幸せを邪魔する権利など、あっていいはずがないのだ。
決然と胸のうちのもやを振り払い、朱美は婚約者にすりよった。
「慶一さん、もっと近くに……怖いわ」
「大丈夫だよ、僕がついているから」
生真面目な口調で応えて、慶一はまた朱美の肩を抱き寄せた。

*****

満月の夜に、猫は鳴く。
歌うようにでもなく、吠えるようにでもなく、ただ、鳴く。
打ち棄てられた廃屋に、十数匹の猫たちが群れている。
あるものは屋根の上に。
あるものは縁側に。
あるものは塀に。
傷みきった板間の上、月明かりと柱の影の境目に、一人の子供が座っている。
汚い子供だった。灰色の髪は伸び放題に伸び、もつれ、汚れていた。痩せこけた裸体のそこここには、化膿した生傷が痛々しく刻み込まれている。右目は抉れたようになくなっており、左手の小指と薬指と中指は第一関節から先がなかった。
残った左目で、子供は膝の上へ視線を落とす。
子供の膝の上には、灰色の塊が乗っていた。
これも、汚い野良猫だった。右前足のない、異様に太った雄猫だ。傲岸そうな面構えだが、すでにその体はぴくりとも動かない。
死んだ猫の毛を、子供はぺろりと舐めた。
そして月を仰ぎ、また鳴いた。
長く、甲高く、哀しい声で、まぎれもない猫の声で、鳴いた。

*****

次の年の6月を待って、桜井朱美は、河原崎朱美になった。
なめらかに始まった平穏な結婚生活が、忌まわしい記憶の底から這い寄ってくる、とるに足りない不安を癒してくれた。
もうすぐ、子供も生まれるだろう。11月に入っていよいよ、朱美のお腹ははっきりと目立ってきていた。
「赤ちゃんは、元気かい?」
風呂上がりの慶一に尋ねられ、朱美は編み物をする手を休めて膨らんだ腹をさする。
「元気よ。だってこんなに幸せだもの」
「どんな子に育つかな」
パジャマに着替えた慶一が、洗濯機のスイッチを入れながら言った。
「あなたに似て、頭のいい子よ」
「君に似て、優しくて可愛い子だよ」
ぬるま湯のような心地よい会話をかわしながら、朱美は編み物を再開する。
猫の声が、聞こえた。
とても近くから、聞こえた。
朱美は手を止めない。笑みも消さない。穏やかな笑みのまま、生まれてくる我が子への贈り物を作り続ける。
「猫だね」
「猫だわ」
「怖くないのかい」
朱美はやわらかい仕草で、かぶりを振った。
「あなたがいるから、怖くなんてないわ」
――自分の子供は、一人だけだ。
それで、十分なのだ。

*****

子供は塀を見上げていた。
白い塀。小さな家。暖かい光が、窓から漏れている。
猫も犬も飼っていない。餌を出しているところも見たことがない。生ごみの処理も完璧だし、池に鯉や金魚がいるわけでもない。
そんな、何のうまみもない、ただの人間の住みかだ。
「ふぎーいっ」
黄色い歯を剥き出して吠え、子供は跳んだ。

*****

どん!
庭のほうから、音がした。
「何だろう?」
夫婦の軽い口付けから唇を離し、慶一は首を傾げた。
「庭かしら? 何かが落ちたんじゃない?」
「見てくるよ」
懐中電灯を手に庭へ向かう慶一を見送って、朱美はまた手元へ視線を落とした。

*****

子供は舌なめずりをして、赤く汚れた牙を掃除した。
喉ぶえを食い破られた人間の雄の、灰色に変色した顔に、冴え冴えとした満月の光が降り注いでいる。
子供はうつろな左目に男の顔を映し、首をかしげる。
これではない。この人間ではない。

*****

11時を回った。慶一はまだ帰ってこない。
時計の針の音ばかりが大きく響く応接間に、不意に耳をつんざくような猫の鳴き声が響いた。

にいぃぃぃぃ
にゃああぁぁ

手が止まる。にじんだ冷や汗が、プラスチックの編み棒を湿らせる。
呼吸が早まる。息苦しいほどの圧迫が、喉をぐりぐりと押してくる。
体が震える。歯の根がすでに合っていなかった。
(なにを……そんなに、怯えなきゃならないの?)
唾を飲み下し、自問する。
「怖くないわ。わたし、お母さんになるんだもの」
乾いた喉からしゃがれた声をしぼりだして、自答する。

うにいぃぃぃ

朱美のつぶやきに覆い被せるように、赤子のような鳴き声が響く。
朱美は立ち上がった。編み物を椅子に置いて、勝手口の方向へそろそろと向かう。
応接間の扉を開ける。廊下には誰もいない。
廊下を進む。勝手口は開け放たれている。
庭から吹き込む夜気に少し震えながら、朱美はスリッパをはいた。
裏庭を見回して、足元に落ちていた懐中電灯に気付く。
「……?」
拾い上げる。
電源は入っていない。なぜ、こんなところに放り出していったのだろう?
朱美は、スイッチを入れた。
カチリ、と乾いた音が響いて、勝手口脇のゴミ箱に光が当たる――
朱美は声にならないうめき声を上げて、懐中電灯を取り落とした。
ごん、と音を立てて、明かりが消える。
勝手口脇に置かれた留め具つきのゴミ箱が、開け放たれていた。その周囲には黒い水溜まりがひろがり、静かな夜風にさざなみをつくっている。
濡れたゴミ箱には、慶一が放り込まれていた。
赤子のようにだらりと手足を投げ出し、灰色の顔をして、喉から冗談じみた量の血をあふれさせた慶一が、月明かりに照らされていた。

*****

にゃあ
にゃう
にゃう

くぐもった声で、子供は鳴いた。
残された匂いが濃い。多分、ここで間違いないはずだ。

*****

勝手口を締めて、掛け金を下ろす。
激しい動悸を訴える胸を押さえて、朱美は息を整えた。
「警察……警察、呼ばなきゃ」
繰り返し呟きながら、よろよろと廊下を引き返す。電話は応接間だ。震える膝を無理矢理進めて、ドアを開ける。
後ろ手にドアを閉め、ふらつきながら電話をとる。
「110番」
指が震えて力が入らない。受話器を取り落としかけながら、耳元へ持っていく。
「110番……」
ぞっとするような静寂が、朱美の耳を襲った。
「…え? え?」
電話線が切れていることには、もう少し落ち着いていれば気付けたかもしれない。混乱しながら、とりあえず朱美の指はダイヤルを押してしまう。

1。
何も聞こえない。

1。
静寂はつづく。

0。

にゃあああああん

響いた。
長く長く、響いた。
とても近くから、響いた。
朱美は振り向く。振り向いてしまう。
そこには子供がいた。
裸の子供。
四つんばいの子供。
汚い子供。
顎から胸にかけてを真っ赤に濡らした子供。
朱美が編んだマフラーを、我が子のためのマフラーを、首輪のように巻いた子供。

にゃん

短く、鋭く、子供は鳴いた。
まるっきり、猫の声だった。
「あ……」
立ち尽くす。
動けない。
子供はゆっくりと近づいてくる。猫そのものの動きで、猫そのものの眼差しで。
目が、合った。
見て、しまった。
自分とまったく同じ形の鼻――
あの男によく似た唇――

にゃああん

子供が、朱美にとびかかった。
子供の顔に我を忘れていた朱美は、それから逃れる間もなかった。もつれるように倒れこんだ衝撃が、腰を突く。
血に濡れた子供の胸が、目の前にあった。
次いで、顔。
しまいには、それも見えなくなる――
「……な、なに?」
胸元に異物が押しつけられた。しばらくしてからようやく、それが子供の頭であることに気付く。
子供は、朱美の胸元に額を押しつけていた。母猫に甘える子猫のように、飼い主にじゃれつく飼い猫のように、すりよってきていた。
「……そう、か」
小さく、朱美はつぶやいた。
「そうか……そうよね」
笑みさえ、浮かべたかもしれない。
そしてその笑みは、極上の母の笑みだったろう。
朱美は子供をかき抱いた。痩せた肩をさぐり、髪をかきわけ、うなじをたぐった。
ごろごろと喉を鳴らす子供を、あやすように撫でて――
子供の首を、掴んだ。
ゆっくり力を込めていく。もがく子供を乱暴にくみ敷いて、目を閉じて、ひたすらゆっくり、じっくりと。
「わたしはおまえの母親じゃない!」
朱美は、叫んだ。
「わたしの子供はこの子だけ! 慶一さんとの子供だけ!」
子供が白目を剥く。じたばたともがく。泡を吹く。
「おまえは猫だ! 猫らしく死ね! 惨めに死ね!」

ぐるるるるう

おぞましいうなり声が土気色の唇から漏れだしたのを最後に、子供の手足はぐにゃりと横たわった。
荒い息をつきながら、朱美は身を起こす。全身を濡らす冷や汗の冷たさを意識しながら、子供を見下ろす。
この子供の死体だけは、どうにかしなければならないだろう――警察を呼ぶとすれば、なおさらだ。
朱美は額を拭いながら、呟いた。
「エドガー・アラン・ポー……やれるかしら?」
そしてそのまま、どたりとへたり込んだ。

*****

白い部屋で、朱美は目覚めた。
いつか感じたあのけだるさが、全身をべっとりと包んでいる。
かたわらに立つ看護婦が、輝くような笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます!」
出産は成功したようだ。亡き夫の笑顔を思い浮べて、思わず涙を滲ませる。
「とっても元気な……」
産着に包まれたそれが、差し出された。
「女の子ですよ!」

にゃあああああああ

世界が固まる。すべてが固まる。
産着に包まれた赤裸の猫が、長い鳴き声を響かせる。
朱美は差し出しかけた手をひっこめて、こぶしを握り締め――
決して自分のものではありえないその子供を、何か他の物体を――




三日月峠に眠る猫

作:◆NkmBTQn/5U

1

 三日月峠には一匹の猫が住んでいた。
その猫は、朝になると峠をくだり、
ふもとの小さな村へ行き、村人たちから食べ物をもらっていた。
そして、日が沈むと峠に戻り、決まったねぐらで朝まで寝て過ごすのだった。
村人の中には、その猫を厄介者扱いする者もあれば、大事にかわいがる者もあった。

 ある日、三日月峠の猫を退治しようという話が持ち上がった。
提案したのは村の有力者だった。
彼は村にやってきては食べ物をねだるその猫を腹の底から嫌っていた。
また、それを無闇にかわいがる連中のいることが彼の怒りに拍車をかけていた。
納屋にしまってある弓矢で射殺してしまおう。
そんな有力者の意見に対して猛烈に反対する者たちがいた。
村八分になることも恐れずに強く抗議する者たちがいた。
そうした状況に村の長は困り果てた。
彼はその猫のことが大好きでよくかわいがっていたのだった。

2

 ある朝、村の有力者はこっそりと三日月峠に行った。
彼は猟銃を携えて猫をしとめてやろうと息を荒くしていた。
しばらく歩くと猫が出てきた。すぐさま有力者は銃を構えた。
猫は素早く反応して逃げた。有力者は一発二発と撃ち込んだ。大きな銃声が響く。
しかし弾は当たらない。猫の逃げ足はとても速くなかなか狙いが定まらない。
有力者は走って追いかけた。足の速さには自信があった。
猫は林の中へ入っていく。奥へ奥へと駆けていった。
有力者も負けじと駆けた。そのとき後ろから怒号が聞こえた。

3

「何してるんだ!」
有力者が振り返るとそこには三人の村人がいた。男が二人に女が一人。
有力者は三人のことをよく知っていた。彼の猫退治に猛抗議していた者たちだったからだ。
「こんな朝早くにどこに行くかとあとを付けてみれば、こんなことだったのか!」
三人のうち無精ひげの男が言った。
「姑息にもほどがあるぞ!」
もう片方の男が言った。
「やかましいわ、貴様ら村の貴重な食料をなんだと思ってる!
少しでも蓄えなきゃならんのだ!あんな畜生に食わせるぶんなどないのだ!」
有力者がそのように反論すると二人の男は彼に飛びかかった。
「ふざけんな!!」
一方、女は別の角度から回り込み、鈴の音を鳴らしながら猫に近付いた。
猫は鈴の音に惹かれ女の方に寄ってきた。女は抱き寄せて言った。
「怖かったでしょう。もう大丈夫だからね…」

4

 三日月峠に何度か銃声が轟いた。飛びかかった二人の男は有力者によって撃ち倒された。
一人は頭部に銃弾が命中し即死だった。肩で息をしながら有力者は女に近付いた。
「あなたは…最低の人間よ!」
涙ながらに女は言った。猫を強く強く抱きしめていた。
猫のことを、身を持って銃弾から守ろうという強い意志が有力者にも感じられた。
だが彼は容赦しなかった。何発もの銃弾を撃ち込み女も猫も死なせた。
一仕事終えたとため息をついたとき彼は突然後ろから首を絞められた。
無精髭の男だった。死力を振り絞り有力者の首を絞めていった。
有力者が息絶えると、無精髭の男も倒れ込み、腹にできた銃創から
どくどくと血を流し死んでいった。

5

 彼らの屍を拾う者はなかった。彼らが死んだのはとても深い林の中で、
並の捜索では見つけられなかったためだ。
また、三日月峠の付近一帯は方位磁石が利かない不思議な場所であり、
生半可な気持ちで深みに入ると致命的な遭難をするおそれが十二分にあった。

 当然のごとく、村に三日月峠の猫がやってくることはなくなった。
かわいがっていた村人たちは一様に残念がった。
村の長はペットショップでシャム猫を購入しかわいがることにした。


仔猫の話

作:◆NN1orQGDus

 私がそれを拾ったのは冷たい光を帯びた下弦の月がぽっかりと浮かぶ、寒い夜だった。
 秋と言うには遅すぎて冬と言うには早すぎる、そんな夜。
 夜風が冷たくて、うなじがきしん、と軋むなか、スポットライトみたいな街灯に照らされてにゃーと鳴いていたそれは、猫だ。
 まだ生まれて間もないのだろうか、満足に目を開けることすら出来ない仔猫。
 カラスみたいに真っ黒な黒猫で、『拾ってください』と書かれた段ボール箱の中に入っていた。
 捨てた人にもそれなりに温かい心があったらしくて、せめて寒くないように、とタオルが敷かれていた。
 大変だね、キミ。そう呟いたら徐に開かれた目と視線が合った。
 目と目が会ってしまったから仕方ない。独り暮らしは寂しいし、ペットを飼ってはいけないと大家に言われた記憶もない。
 即断即決。飼うことに決定だ。
 吐く息は白くて、ポケットから手を出すのが億劫だけど、意を決して段ボール箱を持つ。
 寒風にさらされた手がかじかんでひりひりするけど、この子だって寒かろうよ、と自分に言い聞かせて我慢する。
 さっさと帰ろうと思い足早に家路につくと、女の子の声に止められた。
「あっ……」
 たった一言たけど、あどけない幼い声は私の歩みを止めるのに充分な程の威力(?)を持っていた。
 振り替えると、声に負けないくらい可愛い女の子が私の事を恨めしげに見つめている。
 初見の子に睨まれる覚えはないけど、思いあたるフシならある。
 多分、この仔猫だろう。
 ハア、と溜め息混じりに近付くと、女の子はビクッと後退りをする。
「ねえ、この子大事に出来る?」
 私の言葉を上手く理解できなかったのか、きょとんとした顔で小首を傾げ、私を見つめる。
 その子の目線と同じ高さになるようにしゃがんで、仔猫が見えるように段ボールを地面に降ろすと、女の子はパァッと明るい笑顔になった。
「この子、飼いたいの?」
 今度は理解出来たのか、ブンブンと音がするくらいに頷いた。
「じゃあ、この子の事をお願いして良いかな?」
「うん。ありがとう、おばさん」
「……お姉さん、ね」
 手短に訂正を要求。まだ四捨五入しても二十歳の女心はそれなりに繊細なのだ。
 一期一会、多分二度と会う事はないから、尚更訂正して貰わないと困る。
 兎に角。
 女の子に仔猫を託して一人寂しく帰路につく。
 でも良いや。少しばかり寒くなったけど、心は温かくなったし。

 了。


ネズミ狩り

作:◆phHQ0dmfn2

「嘆かわしい……貴様らには猫としての誇りはないのか!」
 変な客が来た。店中の人間の視線がこちらに集まる。
 元々、ここ秋葉原は変人の万博会場のような場所なのだが、目の前にいる青年もかなり
ヤバイ部類のようだ。
「あはは……ご主人様、今日は随分とご機嫌にゃにゃめですにゃん♪」
 営業スマイルと猫なで声で取り繕ってみる。
「俺は貴様の主人などではないし、猫たるもの、そんな風に易々と他人に媚びなど売るん
じゃない!」
 叱られてしまった。でもこれは店のマニュアル通りの対応なんだから、わたしに言われ
ても困る。
 時給につられ、ここ『猫耳カフェ』でバイトを始めてから三ヶ月。この手の変な客への
応対には慣れたつもりだったが、コイツはまた一段と強烈だ。
「まったく、我々は本来ハンターなのだぞ。その本分を忘れて、ご先祖に申し訳ないとは
思わんのか!」
 察するに、コイツは自分のことを猫だと思いこんでるようだ。演技かとも思ったが、そ
んなそぶりでもない。何だかちょっと面白そうだ、適当に話を合わせてみよう。
「そうにゃんですよね~、でもわたしにはこんな生き方しか出来にゃくて……狩りにゃん
てとても無理。お客さん、すごい男らしいにゃ~」
 『オスらしい』と言った方がよかったかな?
「そ、そうか? そう言われると何だか照れるな……まあ、何だ、さっきは怒鳴ったりし
てすまなかったな」

 ちょっとおだててみたら、途端に顔がほころんだ。何だ、単純な奴じゃないか。
「俺の家系は代々ハンターなんだ。祖父も父も、その生涯で一万匹を超えるネズミを始末
している。俺も、その名に恥じぬオスにならねばな」
「すごいにゃ~。で、お客さんは何匹くらいやっつけたんにゃ?」
「…………」
 そう聞くと、うつむいて押し黙ってしまった。
「……匹」
「え? 聞こえないにゃ」
「まだ、ゼロ匹だ……悪かったな……」
 空気が凍り付く。やばい、地雷を踏んでしまったようだ。慌ててフォローに入る。
「そ、そんなこと気にしちゃいけないにゃ。まだまだこれからですにゃ」
 男に笑顔が戻る。なんて単純な性格なんだ、簡単に乗せられてしまうらしい。
「しかし、どうにも上手くいかなくてな。父上のように多くの獲物をしとめられるように
なるのは、一体いつになるやら……」
 また落ち込む。めんどくさい男だ。
「大事なのは、数より質ですにゃ。一度にたくさんの獲物を狙うより、まずは一匹に狙い
をしぼってみてはいかがかにゃ?」
 何となくアドバイスしたのだが、男はこの考えが気に入ったようだ。拳を握り、目を輝
かせる。

「なるほど……数でかなわないなら、獲物のランクで勝負するということか」
 突然、男は立ち上がった。
「ありがとう、君のおかげでやるべきことが見つかった」
「何ですにゃん?」
「ちょうど我が家の近所には、大物のネズミがいやがるんだ。そいつを血祭りにあげると
するよ。さて、善は急げだ、今からさっそく準備にかかるとしよう」
 そう言うと、男は会計を済ませ意気揚々と帰り支度を始める。変わった客だったが、喜
んでくれたようで何よりだ。
「狩り、頑張って下さい。上手くいくといいですね」
「ああ、絶対にアイツを狩ってやるさ」
「秋葉原にはよく来るんですにゃ? また遊びに来てほしいにゃ」
 ほんとは来なくてもいいんだけど。
「ああ、また寄らせてもらうよ。家はここからそんなに遠くないしね」
 男は不気味な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「浦安だよ、千葉県のね……」


センチメンタリズムを感じる猫

作:◆R4Zu1i5jcs

 ――見つけた。奴はまだ私が寝こけていると高を括っているだろう。
 奴にはご主人の付けた罠など意味を成さない。むしろ巧妙に餌だけ持って行くだろう。
 干支の順番決めで敗北して以来、私たちは奴等を負い続けて来た。先祖の間抜けは否めないが、その憤怒は身体を巡る血に溶け込んでいる。
 愚かな。台所に行こうというのか――奴との距離が近くなって来た。射程圏内に入った瞬間に奴の身体に牙を突き立ててやろう。内心、舌なめずりをする。
 あと五歩。五、四、三、二一……今だ。半目を見開き、奴を視界の真ん中に入れて、脚の筋肉を躍動させる。跳躍は美しい弧を描き、奴に向かって行く。
 が、地面に前足を叩き付けるもまるで手応えがない。それもそのはず。奴はほんの少しだけ横にずれて難を逃れていた。
 馬鹿な。突然、飛び掛かる私に眉一つ動かさず冷静に回避。自分の何倍もの質量の相手に対して何の恐怖もないというのか!?
 奴は依然として台所に向かう。何と何という貪欲でしたたかな精神よ。その前身に対して勇敢ささえ覚えよう。
 奴のジグザグでこまやかな走行は確かに捕らえにくい。台所に侵入されたらかなり困難になろう。故にここが天王山!!
 速さは流石にコチラのがある。さぁ、どうする? お前のジグザグ走行もだんだんと掴めて来た。緩みを見せれば我が爪の餌食となろう。
 ――次の瞬間、奴は急ブレーキをかけ、Uターン。何だと、死ぬ気か? 格好のチャンスにも関わらず手が出ない。どうした!? 窮鼠を恐れているのか。
 一瞬、判断が遅れて奴は大胆にも股の下をくぐってそのまま巣まで全速力で疾走して行く。体勢的にもはや追いつくことは出来ないだろう。
「やられたな。完全に手玉に取られた。慢心があったのは私の方だったという訳だな」
 ぎりっと悔しさから柱を爪で引っ掻く。ご主人に叱られたのは言うまでもあるまい。



満月山の化け猫

作:◆NkmBTQn/5U


 小さな木造屋敷の一室に男たちが集っていた。
部屋の中央には石油ストーブがあった。男たちは
それを囲み、暖をとっていた。男たちはみな狩人だった。
街中から集められた選りすぐりの狩人たちだった。
そんな彼らの目的は満月山に出るという化け猫の退治だった。
満月山というのは、街から北の方に3キロほど外れた
ところにある、標高200メートルほどの小ぶりな山である。
かつて街の者たちのあいだで、その山の頂上で満月を仰ぐ
風習があった。そこから見える満月は格別綺麗だったという。
そうした経緯があり、その山は満月山と呼ばれるようになった。


「決行はいよいよ明日だ」
 狩人Aが切り出した。部屋中に緊張感が走る。
「わかってる」
 その緊張感を飲み込むようにして小さく頷く狩人B。
「命を失う危険もある」
 冷静な視線で皆を見渡し狩人Cが言う。
「そんなことはわかっている。何たってもう10人以上はやつに食われてるんだ」
 そう言って、感情を押さえ切れないとばかりに猟銃の手入れをする狩人D
「まぁ落ち着け。今は冷静に作戦を練るんだ」
 狩人Dの肩をぽんぽんと叩き、狩人Aは言った。
「俺達がこうして集まったからには、必ずここでしとめなきゃならん。
もう一人たりとも犠牲者を出しちゃならないんだ。わかるな。
まぁ化け猫のほうもいきなり退治されるんだから気の毒だ。
だが、どっかで踏ん切りつけなきゃならないときがある。
野生動物と平和に共存なんて土台無理な話なのさ。
平和なんてきれいな言葉使うのは人間だけさ。
アフリカの動物達を見てみろよ。あいつら毎日殺しあってるぜ。
自然界の中で自分らを成り立たせるにはどっかで踏ん切りをつけるしかないのさ」
「アフリカの動物って…おまえ、アフリカ行ったことあるのかよ」
 狩人Bがおどけた調子で聞いた。
「動物奇想天外でそういうのを見たんだ」
「テレビかよ」
 しばし部屋の中に笑いが起こった。それは悲劇の前の団欒であった。
どこまでも深くて暗い洞窟の前にかざされた1本のろうそくの火のように
ささやかで儚いひと時であった。


 翌朝早くに、狩人たちは小屋を発った。
まだ日も出ていない薄暗いうちに、彼らは満月山の登山道を歩き出した。
必ずやってくる、今日こそ倒す――狩人たちの結束は最高潮だった。
満月山を登り始めて約1時間、ちょうど足腰に疲れが出始めた頃だった。
「出たぞ!」
 目の前に化け猫が現れた。その図体は馬鹿でかく、
一瞬にして狩人たちを萎縮させた。化け猫は大きな爪をむき出しにし
狩人たちの方向に素早く振り回した。狩人Dは首を引っ掻かれ絶命した。
狩人Bが銃を乱射する。銃弾が化け猫の大腿部をえぐる。
怒った化け猫は全速力で狩人Bに飛びかかり頭から胸まで一かじりした。
当然のごとく、狩人Bは即死した。残りは狩人AとCだけになった。
狩人Bの放った銃弾は思いのほか深くまで到達したらしく
化け猫の動きは次第に鈍くなった。AとCは十分な距離を置き
ありったけの弾を撃ち込んだ。化け猫は倒れ、口から血を吐き息絶えた。


 にゃーにゃー…
小さくかわいらしい鳴き声が聞こえた。
狩人AとCは思わず顔を見合わせた。
大木の陰から、一匹の子猫が現れた。
にゃーにゃーと鳴き、化け猫の亡骸に擦り寄っていった。
「もしかして…こいつの子どもか?」
狩人Aはその子猫をつまみ上げた。
化け猫の子どもとは思えぬほど小さくかわいらしい子猫だった。
小さな鼻や口がたまらなく愛らしい。
「どうする?」
「やつのこどもだぞ。将来何をしでかすかわからん」
「そんなこというな。きちんとしつけをすれば大人しく育ってくれるかもしれないぞ」
彼らは対立した。つかまえた子猫をどうするのか。
話をまとめるため、彼らはまず場所を変えることにした。
満月山を下りようとしたそのときだった。
「イテッ」
子猫をつかんでいた狩人Aは手の甲を思い切り引っかかれた。
血がだらだらと流れ、傷の深さを物語った。
「ほらみろ、やっぱり化け猫の子どもさ。油断してると殺されるぞ」
「そうだな…この袋に入れよう」
硬い皮の袋に子猫を入れ、彼らは下山した。
最初の三十分ほど、化け猫の子は働き蜂のように袋の中で暴れていたが
次第に大人しくなった。


 その日の夜、猛烈な議論が繰り広げられた。
子猫を殺すべきか育てるべきか――
意地とプライド、そして信念がぶつかり合う議論だった。
深夜12時を過ぎてからは狩人たちの雇い主も交えて議論は一層激しさを増した。
雇い主とは、街の有力者である。住人の激しい要望に応え
化け猫退治を企画した張本人である。3人の話し合いは彼の家で繰り広げられていた。
初めは、袋に入った猫をかわいそうなので部屋に入れていたが
夜になってまた袋の中で騒ぎ出した。とてもうるさく
話し合いの邪魔だったので庭に出した。
上品な和室で、その子猫の生き死にを決する激論が今まさに行なわれていた。
3時、4時と時間が経てど決着がつかない。
とうとう2人の狩人と雇い主は話し疲れ、眠り込んでしまった。
 朝の6時になった。女中が庭で掃除をしていると
とても汚い一つの袋を見つけた。その中では、夜通し暴れ続けた子猫が眠り込んでいた。
「あらやだ、きたない袋。だんな様ったらだらしないんだから…」
 女中は汚物を指先でつまみあげるかのように
その袋を持ち上げ、燃え盛る焼却炉のなかに放り投げた。
「ニャーニャーニャニャーニャーニャニャー!!!!!!!!!!」
 子猫は白目をひん剥いて死んでいた。
こうして満月山の化け猫は完全に駆除されたのだった。

了。


俺が猫であいつが俺で

作:◆KazZxBP5Rc

吾輩は猫である……今のところ。

話は数週間前にさかのぼる。
その朝、いつものようにけたたましい目覚まし時計の音で目が覚めた。
そしていつものように目覚ましを止めようと手を伸ばした。
が、手は空を切るばかり。夜中に寝ぼけて落としたのだろうか。
しかたがないので立ち上がろうとしたのだが、うまくバランスが取れない。
別に酔っているわけではない。でもなにやら違和感を覚える。
何気なく目をこする。そういえば手、こんなにふさふさしてたっけ……。
俺は手を見つめたまま凍りついた。猫?
混乱している間に、もぞもぞと動く音がして目覚ましが止んだ。
見上げると俺がいた。
俺は俺と同じように不思議そうに手を眺めていたが、やがて洗面台のほうへ歩いていった。そういえばあっちには鏡があったな。
俺はすぐに戻ってきた。手にはキャットフードを持って。
「食べる? これおいしいよ。『この』口には合わなかったみたいだけど。」
俺? 俺に話しかけてるの? どうみてもそのようだ。
ということはやっぱり俺は猫に……。
「ケンちゃんでしょ? 体、入れ替わっちゃったみたい。」
俺には飼い猫がいる。タマ、二歳メス。
つまり俺は今タマになってるってことなの? いろいろ聞きたいことがある。だが、どんなに声を出せども……。
「にゃあ!」
「……やっぱり言葉は通じないか。」

そして今に至る。いや、本当はいろいろあったんだが思い出したくもない。
近所のオスどもに追いかけられて即引きこもりになった。こいつそんなに可愛かったのだろうか。猫の基準はよく分からない。
猫の基準といえば、キャットフードはなかなか美味かった。開発者の人間はよくこんなに猫の舌にあったものを作れたな。
そしてタマの方はというと、俺とは対照的にうまく仕事をやっていってるらしい。
その上最近は俺が長い間できないでいた女まで連れ込んできやがった。お前本当にメス猫か?
「タマにもカッコイイ彼氏見つけてあげるからね」なんてことまで言いやがる。
できてたまるかっ! と思いつつちょっと期待している自分が怖ろしい。
早く元に戻らないとこのまま適応してしまいかねない。でもいろいろ調べようにも外は怖い。

まあ……そんな感じで、猫をかぶる日々はしばらく続きそうです。

料理

猫のエサ

作:◆kAto/QP606
鶏モモ肉1枚を一度水洗いし、表面の水分をペーパーで取り、
塩コショウを満遍なくもみこむ。
今回はバジルも加えました。
もみこんだら30分ほど放置します。
up1077.jpg

鍋で湯を沸騰させ、塩を多めに投入する。
放置した鶏モモ肉を炊飯器にいれ、そのお湯をひたひたまで入れる。
今回は風味付けで赤唐辛子をちぎりました
up1078.jpg
蓋をして保温スイッチを入れます。このまま1時間です。
up1079.jpg

一時間経ったら肉を取り出します。皿に香味野菜(今日はルッコラ)を
敷き詰め、そこに切り分けた肉を並べ、上から少し、茹で汁をかけて出来上がり。
up1080.jpg

     (~)
 ..γ ´⌒`ヽ
 {ii:i:i:i::i::i::i::i:i:iii}
..{iii:i:i:i:i::i::i::i::i:i:i:ii}∩
 |:::: ●) ●)|,ノ   今月のお題『猫』のエサの完成だよう
 ヽ:::::::.....∀...ノ
 ⊂     ノ
   (つ ,,ノ
    (ノ
  //  キュムッ!
━━
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