文章系その2@2008.10


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文章

鰹の三行半

作:◆Hu/4oo80cg

「おう、辰吉! 俺だ、権造だ! へぇるぞ!」
小せぇ長屋の、障子に穴の開いた戸に手をかけながら怒鳴り声を上げたが、中からは何も声がしなかった。
「せっかくの日本橋の建築仕事をさぼりやがって! いくら新婚でも勝手は許さねぇぞ! 辰吉!」
不機嫌に中に入ると、辰吉の奴は、布団にくるまってわんわん泣いているところだった。
「何かあったのけ? ・・・嫁はどうしたんだ?」
見回すと、新婚したはずなのに、嫁の姿が見えなかったので聞いたが、それがいけなかったらしい。
余計派手に泣き出してしまった。
「子供じゃあるまいし、泣いてるだけじゃわけがわからん。事情を話してみな。」
布団を引っぺがして、辰吉の奴を起こしにかかる。

「・・・へい、親方。現場をさぼっちまってスイヤセンでした。」
「まあ、それはいい。それより、何で泣いてたんだ?」
「実は、嫁が出ていっちまいやして。」
「なんだって!? おめぇ、結婚してまだ二日じゃぁねぇけ!」
「へい、そうなんです。あれだけ親方や皆に祝福して頂いたのに、二日でまた一人身に戻っちまいやした。」
「あれだけ気のいい女はそうはいねぇのに、いったい何があったんだ?」
「・・・実は、鰹が悪いんです。」

「結婚祝いに、皆から頂いた鰹ですが、こいつを食べようとして思い出したんです。こいつは今年初めて食う鰹だって。」
「ほう。」
「それでですよ、親方。『初物は嫁に食わすな』って言うじゃぁありませんか。『そいつはいけねぇな』ってんで、嫁が気づかないうちに、鰹を自分一人で食っちまったんですよ。」
「あんな大きな鰹を一人でか。」
「へぇ。そしたら、『こんな立派な鰹を一人で食っちまうなんて、そんな身勝手な人とは一緒に居れない』って怒って出ていっちまったんです。」
「確かに、初物は嫁に食わすなって言うが・・・辰吉、今は何月だい?」
「なんですか、親方。突然、時蕎麦みたいな。」
「いいから、今は何月だい?」
「神無月ですよ、親方。本当に神も仏も無いくらい、こっちはまいっちまいやしたよ。」
「いいや、仏はいるさ。もうすぐ嫁は帰ってくるから心配しなさんな。」
「また親方、適当なことを・・・」
そのときだ。戸が派手にダンと開いて、嫁が旅装束のまま駆け込んできた。
「ごめんよ、あんた。鰹ぐらいで実家に帰るだなんて滑稽だって、途中で気づいて帰ってきたんだ。」
「そうかい! すまねぇなぁ。俺の身勝手なせいで怒らせちまって。」
互いに誤り抱き合って泣きだす二人。
どうやら元の鞘に納まったようだ。俺もほっと息を吐いた。

「・・・でも親方。何で嫁が帰ってくるって分かったんですかい?」
しばらくして、辰吉が不思議そうに聞いてきた。
「それはな、お前が鰹を勘違いしたせいだ。」
「勘違いって、俺が何を勘違いしたっていうんですかい?」
「今年初めて食うからって、あれを『初鰹』って呼んじゃいけねぇよ。今の鰹は『戻り鰹』だ。だから、嫁だって戻ってくるって思ったのさ。」
「そんな理由で!?」
辰吉は飽きれたようだが、いいじゃぁねぇか。戻ってきたんだから。

(了)

初めてのおさんぽ。おしまいのおさんぽ。(勝手)

作:ID:K4EMgaCz

ある日私は詠子と散歩に出かけた
私はこの世界に疲れを感じていた
先のことを考えれば考えるほど私は疲れていた
「さあ、詠子。どこへ行こうか?」
何を思うでもなく自然に発せられた言葉
詠子は私の言葉には答えずただただ前を歩いている

思えば私はこの子とこうして話すのは初めてではないだろうか

いつもいつも仕事に行き人付き合いで行きたくもない飲屋などにもいった

帰るのが遅くなり子供や妻と話す時間を取らなかった

いや無理にでも取ろうとしなかった自分が悪いのだ

誰だって仕事に行けば疲れ人間に出会えば楽しくもあり腹立たしくなることだってあるんだ

当たり前のことから逃げた私は自分勝手に疲れを感じ周りに当たり散らして勝手に壊れた
今も独りでただ前を歩きどんどん追いつけなくなってしまっている詠子の背中

いつだって後悔する
うまくない
でもそこから逃げていてはいけなかったんだな

もう今は詠子の顔すら思い出せない

そう、私の最期の散歩は終わったのだ

イチョウの木の下で

作:◆7103430906

 イチョウの葉がひらひらと落ちてくる。
 何枚も、何枚も。
 時折私の頭に載り、髪の上を滑り落ちる。

 くる、こない、くる、こない、くる……
 コスモスの花で占いをしたって、花びらの数は把握しているのだから、
答えは見えている。
 でも、そうでもしていないと心が不安に押し潰されてしまいそうで……。
 イチョウの木の下で、私は待っているのだ。あの人を。

 あの人は、強くて、かっこよくて、人気者で。
 私なんか近づくことすらできないと思っていた。
 でも、そんな僻みと妬みに満ちたちっぽけな私の心を、
あの人は優しく包んでくれた。
 自分に取り柄がないと思い込んでいた私を、心で抱きしめてくれた。
 ううん。実際に触れたわけじゃない。
 ただ、言葉の上で救ってくれただけ。
 本当にあの人に抱きしめられたら、私はきっと、
幸せのあまり心臓が張り裂けてしまうだろう。

 こない……。
 8枚の花びらしかないのだから、わかっていた。
 わかっていたけれど、切なくなった。
 本当に来てくれないのだろうか。
 約束の時間はとっくに過ぎている。
 否、約束ではない。
 私が一方的に突きつけた指定時刻だ。

「遅くなってごめんね。委員会が長引いちゃって」
 うつむいていた私に声がかかった。
 待ち人来たり。
 委員会か……。仕方がないね。人気者だから。
 私はコスモスの茎を握っていた手を後ろに回した。
 この人からは隠してそっと背中で捨てる。
 恥ずかしいじゃない。花占いなんて乙女チックで。
 確かに私は年齢的にも性別的にも乙女なのだが、認めたくない。
 乙女チックなんて、私には似合わない。

「いえ、私もそれほど待っていたわけではありませんから」
 嘘だ。指定時刻の三十分も前から、私はここにいた。
 足が棒になるほど、疲れていた。
 でも、そんな事情はおくびにも出さない。
「そう? 良かった。で、話って何かな?」
 あんな手紙で呼び出されれば大体の察しはつくだろうに。
 意地悪な人だ。私にどうしても言わせたいの? 

「ええ、口に出すのはちょっと恥ずかしいので……ちょっとかがんで
耳を貸してもらえませんか?」
 胸が高鳴る。私より大分背の高いこの人に仕掛けるつもりの罠は、
私の心の中から飛び出してしまいそうだ。
 思わず口元を押さえるけれど、言葉にはならないようだ。
「了解。これで良いかな?」
 素直に従ってくれるなんて、なんて良い人なのだろう。
 私のなけなしの良心がちくりと痛む。
 そして私は……。

 ちゅっ。
 そんな音が響いたのかどうかはわからない。
 軽く頬に触れただけの唇。なのに熱い。
「何のつもりかな?」
 心なしか怒っている? 声のトーンが少しだけ低い。
 でも、怒っても、相変わらず綺麗な人だ。
 むしろ、怒るなんて感情を見せるこの人がもっと愛しく思える。
「貴方が好きなんです。もう、我慢できないくらい」
 言ってしまった。言ってしまった。
 反応が怖い。聞きたくない。見たくない。
 気がつくと、下を向いて目をつぶっていた。それはもうしっかりと。

「ふむ……なるほどね」
 耳をふさぎたいくらいだ。でも、ちょっぴりの期待がそれをさせない。
 次に繰り出される言葉が何を伝えるのか。
 怖い。心臓の動きが大きく感じる。心が重い。
「そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
 閉じていた目を思わず開いた。
 嬉しい? 本当に? 
「けど、ねぇ……。わかっているんだろ?」
 やはりそうか。『けど』がつく答えなのか。
 私の浮き上がった心は、急に支えを失って、奈落の底に落ちていく。

「わかっています。でも、好きなんです! 貴方しか好きになれない!」
 私は必死に訴える。
 思いのたけの百分の一にも満たないけれど、気持ちをぶつける。
 見上げると、難しそうな顔をして、考えをめぐらせているその人がいた。
 そして……。
「そう。わかった」
 覚悟を決めたといった表情がそこにあった。

 その時、突然の強い風がイチョウの葉を、私のスカートをまき上げた。
「ひゃっ……」
 思わずスカートを押さえる私。
 すると、華奢な指先が私の顔を上に向かせていた。
「んっ……」
 先ほど熱くなった唇に、もっと熱い唇が当てられる。
 私にとっては初めて体験する感触だ。
 まさか……まさか……こんな……!? 

「女の子とキスするなんて初めてだよ」
 唇を離すと、その人は言った。
 女の子と? ということは男の子とならあるんだろうか。
 なんとも言えない気持ちが、心の底でくすぶっているのを感じる。
「私は……キス自体が初めてです」
 きっと私はリンゴのように赤くなっているのだろう。
 頬が、顔全体が熱くてたまらない。
 勿論、唇もだ。
「そう……。ファーストキスがこんな相手でがっかりかな?」
「いえ! いいえ! そんなことありません」
 私は全力で否定する。がっかりなんてするわけがない。
「嬉しいです……とても」

「参ったな……本当に私のことが好きなんだね」
 長い髪をかきあげながら、その人は言った。
 まだ風は弱くなったがふいている。
 その人のスカートもめくり上げられない程度に揺れている。
「好きです。女じゃダメですか?」
 涙が出そうだ。
 拒否されることにじゃない。受け入れられることが怖いのだ。少しだけ。

「普通ならダメだけど、キミは……私も好きだ」
 信じられない言葉。え……私のことが……好き? 
「先輩……!」
 思わず抱きついていた。
 身長は高いけれど、柔らかいその身体に。
 女の象徴を十分に示しているその身体に。
「ふふ……甘えんぼだね、キミは」
 拒んだりなんてされなかった。むしろ、強く抱きしめられていた。
 嬉しい。凄く嬉しい。
「はい……ごめんなさい」
 抱きしめられたけど、心臓が張り裂けることはなかった。
 柔らかくて温かな気持ちがこの胸を包んでいる。これが本当の幸せなのだろうか。
「良いよ。謝らなくて。甘えられて私も嬉しいから」
 この人の笑顔は本当に心を温めてくれる。
 幸せがいっぱいだ。こんなに幸せで良いんだろうか。
「さあ、もう遅いし、帰ろうか。この続きは、また明日から」
「はい!」
 続きってどういうことになるんだろう。
 少々疑問がわいたけれど、すぐに打ち消した。
 明日からが楽しみだ。
                                               ー了ー

惜秋

作:◆LV2BMtMVK6

 彼女と出会ったのは秋の初めのことだった。この町に来てすぐのことで、私は新居の近くの川沿いを歩いていた。
海に面した都市から内陸の高原の町への移動は私をもの寂しい気持ちにさせたが、朝に歩く習慣ばかりは変わらず、
処々に歩を散じていたのだった。
 小さな橋を過ぎ、河原へ下る草生の道へ踏み入れたとき、私はその背中に気付いた。彼女も散歩をしていたのだった。

 次に私たちが会ったのは、月の満ちた夜の事だった。

 月影や さやかに揺れぬ笹垣に 白玉置きにし 秋桜ひとつ

 私たちは時折逢うようになった。だが、この関係が長く続くことはなかった。彼女が結婚していると知るに及び、
私は慎重になり、彼女はそんな私を責めた。彼女と最後に会ったのは、風が高原に冬を呼ぶ朝、澄んだ高い空の下のことだった。

 君が背を 払いて過ぎし 天つ風 野辺の芒に 霜降る朝(あした)

 はや年も暮れる。願わくは来年が彼女にとって良い年にならんことを。

人の道の 別るるものと 言いながら 斯くも短し 今年(こぞ)の十字路

                                (了)

魔術師は雨の中産声を上げる

作:◆CkzHE.I5Z.

魔術師だった亡き祖父から工房を受け継いだ。使い魔の更新が私の最初の仕事になるだろう。
魔法陣に血液を注ぎ呪を紡ぐ。やがて現れた悪魔の仏頂面は、少し祖父に似ている気がした。
「して、先ず何を命じる……いと幼き我が主殿?」「おじいちゃんをおはかにいれてあげるの!」
  ―三行創作スレ>>313より―

 初めて魔術を教わった時の事を、私はよく覚えている。
 祖父はいつもの仏頂面。
「……左手を出しなさい」
 言って彼が私の手に結んだのは、魔術の初歩である一つの呪だ。
「これは【撥水】の魔術だ」
「これでどうなるの、おじいちゃん?」
「水を弾く」
 祖父の説明はいつも簡潔で、そのままだった。
「試すに如くはない」
 と彼は小さく呟き、机の銅水差しを取り出して私の掌の上で傾けた。
「わぁ……なんか、ふしぎ」
 確かに左の掌が、まるで蓮の葉のように水を弾いた。
 祖父は眉を少し動かして微笑む。
「直に不思議でも何でもなくなる。
 何故なら、これが魔術師の日常であり、魂に刻み込まれた性だからだ」



「……【撥水】、か?」
 悪魔は無感情な声で言った。
 私にその顔を見てとれる余裕はないのだが、恐らく表情を変えてなどいないだろう。
「そうだよ」
 雨音のせいか、聴こえる自分の声にノイズが混じる。
 集中が途切れないよう、じっとりと滲む額の汗を手の甲で拭い、服の裾に擦り付けながら答える。
 ――祖父に何度も叱られて、それでも直らなかった私の癖だ。
「失礼だが、そんなものに意味があるとは思えないのだが。我が主殿?」
 それくらいわかってる。
 私の拙い魔術と弱々しい魔力とでは、半時も持たずに呪は解けてしまうのだろう。
 でも、今この瞬間だけでも私は、祖父の棺をこの冷たい雨に濡らしたくないのだ。
「非合理だ。主殿」
「うるさい! いいからおじいちゃんをはこびなさい!」
「……初歩とはいえ、稚拙な魔術であるな」
 悪魔の溜息とともに生じたのは、この世のものとも思えぬ異音。
 それは、揺らぎ、跳ね、羽ばたき、軋むような唸り声。
「……始めから、私にそう頼めばよかったのだ。私の魔力による手柄は、私を召喚した貴女の手柄になるのだから。
 一体、何を遠慮する必要があるのだ?」
 それはいじけて祖父を困らせた時の、私の口調に似ている様にも思えた。
 祖父の棺を淡く包む魔力が、私にも感じ取れる。
 私は魔力の集中を解いて、小さく俯いた。
「……ありがとう、あくまさん」
「いいや? どうって事はないが?
 それにしても、主殿の如き未熟な魔術師が私を呼び出し使役しているというのは、全く不思議でならないな」
 悪魔は早口で並べ立てる。
 何となく、彼が仏頂面以外の顔をしている気がした。
 でも彼の顔は見れない。私の顔は伏せたまま。
 幼くて未熟な私にも、魔術師としてのプライドはあるのだ。
「ありがとう、あくまさん」
 もう一度、感謝する。
「……いいや、主殿」

 灰色の空はまた一段と雨足を強めてきた。
 惜しくも私のプライドから零れ落ちた涙の一粒は、祖父の棺にぶつかり弾けて消えた。

   ―了―

(↑の補完)
 祖父の使い魔を初めて見たのは、あれはいつ頃だったか。

「はじめましてお嬢様? ごきげんうるるるるわしゅう?」
 言って、掌ほどの大きさの悪魔はケタケタケタと早口に笑った。
 私はといえば、あっけに取られて声も出せずに呆然とするのみだ。
「…………」
「おや? 寡黙なお嬢様ですね? 我があるるるるじ様と話す時の元気はどうされたのです?」
「……あの、ちょっとびっくり……りりりしちゃって」
 心を落ち着かせて、何とかそれだけを返す。
「慌ててどもるるるる所も、とってもキュートですよ?」
「はぁ……ありがとうございます」
「お嬢様のお名前は?」
「…………」
 悪魔を相手に、迂闊に名を明かしてはいけない。
 それは、祖父にきつく教えられていた事だ。
「流石? 我があるるるるじ様のお孫様ですね?
 そう? 沈黙こそが正答です?」
「あなたは、おじいちゃんのつかいまさんなの?」
 訊くと小さな悪魔は自慢げに頷いた。
「その通り? 我こそが老ラルルルルフ師の十指の六本目であるるるるのです?」
 祖父が十の使い魔と契約しているのは、確かに聞いたことがある。
「でも……おじいちゃんのなまえは、そんなに”る”がおおくないよ」


 記憶しているのは、そこまで。
 あの無口で仏頂面の祖父が、こんな……陽気で調子の良い悪魔を使役している事を、暫くして意外に思った。
雨はますます激しく冷たさを増しているように思えた。
 私は祖父を運びながらもどうしてか悪魔の顔から目を離せなかった。
「休憩が欲しいのかね? それとも悪魔が珍しいのかな、主殿?」
「……ちがうよ」
 感情の篭もらない声を聞いて、ふと不思議な事に気づく。
「あくまさんのかお……」
 初めて見た時は、祖父にそっくりだと思ったのに。
 今こうして見ると、全然違う。否、むしろ……。
「あくまさん、かおがかわった?」
「ふむ? その様な事はないが」
「…………」
 私は彼を呼び出した時の印象を話した。
 すると、悪魔は憮然としながらにやりと笑う。それは複雑で不思議な表情だった。

「それはだな、主殿。
 私が契約の代償として、主殿の持つ祖父との記憶を”喰った”からだ」

「…………それって、どういうこと?」
「一般的には、契約者の感情を代償にする事が多いようだ。そうして魔術師は無駄な感情を切り捨てる。
 どうだ? 魔術師の先達である主殿の祖父は、欠落している感情がなかったか?」
 彼の言っている事が、理解できなかった。
 しかし言われてみると確かに、祖父は殆ど感情を動かす人ではなかった。
 それに何故だか、必死に思い出そうとしても、大好きな祖父の顔が……!
「……っっ! おじいちゃん!」
 棺の蓋に指を掛ける。
「棺を開けるのはやめた方が良いと思うが、主殿?」
「どうしてっ!」
「それを開けて、中に全く会った事もない他人が入っていたら。
 ……主殿は困るであろう?」
 私は……何も言い返せなかった。
 これ以上重ねて祖父を失うのは、きっと耐えられない。
 それに、彼の言葉には納得出来る部分もある。
 魔術師とは。
 悪魔との契約とは。
 本来、そういうものだからだ。
「主殿の秘めたる才能もあろうが、それだけでは私の如き高位の悪魔は使役出来なかったであろうな。
 ……実に、良質な糧であったぞ?」
「……っ!!」
「さぁ、急ごうではないか。時間は有限だ……幼き身にこの雨は長くは耐えられまい」
 悪魔は私に背を向けて、再び歩き出す。彼の言う事は、確かにもっともなのだ。
 雨と疲労と絶望で重くなった体を無理矢理に鼓舞して、私はその背中に声を掛ける。
「……わかった、いこう」
「その意気だ、主殿」
 振り向かずに、悪魔が答えた。


 過ぎ去りし美しい日々と交換したのは、魔術師としての人生の始りだった。
 多くのものを失った気がする。だというのに、この小さな体は何も持たないままだ。
 しかし胸中に不安はなかった。
 祖父に似ていたはずのその顔を、その後黙り込んでしまった彼の背中が、ずっと隠してくれていたお蔭かもしれない。

  ―了―


季節の変わりめにはご用心

作:◆R4Zu1i5jcs

 ――秋。それは冷涼な澄んだ空気の中、穀物や果実が実る豊穣の季節――。

 うだるような暑さ。もうそろそろ秋だというのに残暑はまだまだ残っている。全く、暑さには少し自重して欲しいものだ。
 そんな愚痴を心の中で垂れ流す今日この頃、私は遠い自宅へと下校真っ最中。が、それももう終い。この階段を上りきればそこにはマイホームが。
「ん?」
 そこにはそわそわとしている挙動不審な少女。あ、目が合った。
「貴方、この町の巫女様ですね! 頼みたいことがあるんですが……」
 ……そう。私はリアルで巫女なのだ。今までもしばしば八百万的なトラブルを解決してきた。あ、ちなみに実家は神社で階段が半端ない。マンションとかだったら可愛げがあるってものだ。
「で、何? 明日小テストあるんだけど」
「しょうてすと……? まぁ、それは置いておいて! 一大事なんです」
「えー……」
 なんでも夏の神様がもうすぐ秋にも関わらずこの町に居座っているらしい。夏が長いのはここ数年ずっとなのだが、今年は秋の神様が風邪を引いて夏の神様に全く敵わないらしい。
「地球温暖化ね。電気は大切に。じゃっ」
 戸に手をかけると、少女は必死にそれを止めて来る。あっ、耳出てる。化け狐かな?
「いやいや待ってください。何でこの町? とか疑問あるでしょ! それに緊急事態ですよ!?」
 霊風というのがこの町から吹いていて、四季の神様の力を日本全国に効率よく伝えられるのだ。この土地を管理する家んちでは常識だ。
「いやー、使い魔君さ。風邪は不摂生の賜物よ? 秋の神様も悪いとこがあるんじゃないかな。駅前に薬局あるから、さ」
「諭すように言われてもっ! このままじゃ秋が来ませんよ」
 あきがこない【aki ga konai】。スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋。色々あるけどやっぱり深夜アニメの改編期。しかも今期は私の好きな魔法少女アニメが……。
 ちなみに巫女は駄目だ。現実に妹がいると妹キャラに欲情出来ないのと似た感覚だろう。
「で、どうすればいいの?」
 それにこの暑さも馬鹿に出来ない。
「えーと、夏の神様を倒して下さい」
「いやいや無理でしょ!」

 仮にも相手は神様。しかもこの土地を借りているとはいえ日本全国に干渉出来るレベルの。
「では、手っ取り早く秋の神様に憑く病を追い出し、一時的に巫女様に憑依させるのはいかがでしょう」
「とどのつまり風邪うつすってことでしょ?」
 難しそうに言っても騙されないぞ。
「はい。しかし馬鹿は風邪を引かないという格言も……」
「あんただんだんなめてきてるだろ」
 とりあえず神社の中で降霊することにした。
「神様って降ろせんのかな?」
「いや……でも実体ありますよ?」
 つまり私の体に降ろすのは無理。なのかな。
「あー、もうめんどくさいから呼んじゃお。来ーい」
 有り難いらしい御札に清めのビールをぶっかける。我ながら酷い儀式だ。
 ぽんっと煙が立ち、中から金髪の女性が現れる。なかなかナイスバディだ。
「う~、酷い呼び出し方。さ、寒気がする」
「あっ、貴方は!」

 そう、私がまだ小学生だった時の話だ。私たちは赤や黄に染まった裏山で隠れんぼをしていた。
 私は少し張り切りすぎていたんだと思う。誰にも見つけられないような場所を探して隠れた時には疲れて寝てしまった。
 そして目が覚めた時には辺りは暗かった。一緒に遊んでた友達も私が先に帰ったと勘違いして帰ってしまったようだった。
 暗くて不安で……独りぼっちが怖くて私はその場を動けずすすり泣いていたっけ。しばらくそうしてると、がさがさと落ち葉が軋む。私は恐怖で震えあがったが、そこから人が現れたのだ。
 黄葉みたいな金髪で綺麗な人だった。その人は優しく手を差し延べて私を助けてくれた……。私を見つけてくれたのだ。

「あの時の!!」
「い、いやそんな美しいエピソード知らないし。何で呼び出したのよ」
「あっ! 実はですね」
 ごにょごにょと耳打ちする化け狐。
「あーら、貴方が」
 ゆらりと立ち上がる秋の神様。風邪で顔が赤くてどこか妖艶だ。
「じゃあいただきます」
 ぺこりと頭を下げる秋の神様。ん、何を頂くのだろうか。んん?

 顎に彼女の指が伸び、ぐいと引き寄せられる。秋の神様のとろーんとした目がとても色っぽい。こっちまで変になりそうだ。
 そのまま唇同士の距離が縮まっていき、やがて重なり合ってしまう。
「ん、ふぅ」
「んんっ。ん~」
 思わず突き放す。正気に戻れ私。こんなの冗談じゃないわ! でも……
「そんなんじゃうつらないわ。抵抗しちゃ駄目よ。巫女さん」
「そ、そんな、私たち女同士じゃない……」
 またしても空ろな瞳が近付いて来る。あぁ、覚悟を決めよう。目も閉じよう。そして「ふふ……あなたの胸も豊穣にしてあげるわ」とか言われるんだ。
 待ち構えているとくしょんくしょんくしょんと三連発。心なしか顔には何か冷たいものが。
「接吻してくしゃみ三回。これが相手に風邪をうつすおまじないなの」
 確かに秋の神様はケロッとしている。まじで治ったみたいだ。そしてこちとらなんかぞくぞくする。まじでうつったみたいだ。
「じゃあね~。これで夏の神様に勝てるわ」
「……お大事に」
 秋の神様は大手を振って、化け狐は申し訳なさそうに我が家を後にした。くしゅん。秋なんて大嫌いだ。くしゅん。つーか巫女関係ねぇ。くしゅん



「そんな弥生ちゃん駄目だよ……。女の子同士でその……」
 キスしただけでこの動揺。ふふ、可愛いものだ。
「ほら、目を閉じて。もっとすごいことしてあげるからさ」
 ごめん、知子ちゃん。わざわざお見舞いに来てくれたのに、ごめん。私は万全の体調で深夜を迎えたいんだ。


紅葉

作:◆KazZxBP5Rc

風が、一段と強い風が、私の前を通り過ぎていった。
その匂いに、またあの季節が訪れたことを改めて実感する。
真っ赤に染まった葉がひらひらと舞い降りてきた。
ひとつ掴み取って眺めてみる。
夏には緑だった葉も、すっかり色を変えてしまった。
目をつぶると、あの頃の思い出がまだ鮮明に蘇ってくる。

十年前のこと。
「せい……り?」
医者の言葉に戸惑う私がいた。
自分の体調不良の原因がそんなところに行き着くなど夢にも思わなかった。
なにせ当時の私は男だったのである。
いや、男だと思っていた。私も周りも。
でも本当は違った。
『仮性半陰陽』――聞いたこともなかったけど、私はそういう体質だった。

それから私は真新しいセーラー服に身を包み登校することになる。
さすがに高校生にもなるとあまり深く詮索してくる人はいなかった。
ただ、逆に遠慮がちになりすぎてあまり話しかけられなくはなった。
とは言ってもそれまでも積極的に人と話す性格ではなかったので特に苦痛ではなかったのだが。
とにかく私は、クラスから孤立していった。

「寒いかな」と昼間でも思いはじめるようになった頃、突然クラスメイトの一人が話しかけてきた。
あの時のことは一生忘れないだろう。
「大丈夫?」
「え……?」
「寂しそうな顔、してたから。」
彼は気づいていたんだ。
本当は不安でしょうがなかった。
思春期に「あなたは実は女でした」なんて言われて大丈夫なわけがない。
そんな時に同じ年齢にある同級生の誰にも相談できないで、ひとりで抱え込んでいた。
私は泣いた。その場に泣き崩れてしまった。

人の輪というのは広がるもので、彼と話し始めるようになって、私には友達が増えていった。
男だった頃はあまり喋ったことのない女子とも仲良くなった。
そして彼とは親友と呼べるような間柄になった。
いつも私を助けてくれた彼。
彼に、友情とは違う別の感情を抱き始めたのは、それぞれの道を歩み始めた三年後のことだった。

不意に、私の肩をがっしりとした手が優しく抱え込んだ。
「また昔のこと考えてたんだ。」
「うん……。」
会話はそれだけで途切れた。

今から二年前。私はとある会社に就職した。そのときにはもう私は『普通の女』だった。
ある日、休憩時間にフロントの自動販売機でカフェオレを買った時のこと。
缶を手に、顔を上げた瞬間。
「あ……。」
彼がいた。うん、間違いなく彼だ。男の人って成長するとこんな風になるんだ。
お互い立ち尽くしたままだった。
受付の人の気まずそうな視線を横目に感じる。
「元気だった?」
何か言わなければと、間抜けな挨拶が口をついて出た。

彼は営業で偶然うちの会社に来ていたらしい。
その後のことは一瞬だったような気がする。
告白、数十回重ねたデート、プロポーズ、そして……。

「なんか不思議な感じ。」
ふと思ったことを口にした。
「私の中に、別のいのちがあるなんて。」
彼は黙ったまま聞いている。
「男の時の私が聞いたらどう思うのかな。」
またひとつ強い風が吹いた。
それを見送って彼は口を開いた。
「男も女も関係ないよ、きっと。素敵なことだと思う。」
「そっか、そうかもね。」
私たちは身を寄せ合って公園の木々を眺めていた。

【おしまい】

二人の十一歳

作:◆D3eT0HoDzA

 由香はかわいそうな少女だった。七歳の誕生日に彼女は突然倒れ、病院に運ばれた。そのときは一命を取り
とめたものの、医師は彼女が十歳までしか生きられないだろうと告げたのだ。それは体内の器官の一部の成長
が止まってしまう病気であり、現代医学では解明されていないものであった。
 その後の由香の人生が酷いものであったかというと、決してそうではなかった。両親は不治の病に冒された娘
をこれでもかと言うほど甘やかしたし、よく由香と喧嘩していた双子の弟である健太も彼女が病気を盾にして罵
ると何も言い返せなくなってしまった。
 由香は自分が十歳で死ぬという事実に早い段階で適応した。死んでしまうのは悲しいけれど、学校へ行かなく
ても両親は怒らないし、食べたいお菓子や欲しいおもちゃは好きなだけ買ってもらえる。宿題に追われる心配は
ないし、ムカつく弟も一発で黙らせることができる。
 十二の季節が流れ、彼女は十歳になった。由香はまだ生きていた。
 十六の季節が流れ、彼女は十一歳になった。由香はまだ生きていた。
 由香の家族は十一歳の誕生日に、彼女を病院へ連れて行った。病院で精密な検査を受けた結果、成長が止
まっていた器官が成長を再開しており、原因は不明であるが病気は治っていると診断された。
 涙を流して喜んでいる両親と、ホッとした顔をしている弟を余所に、由香はそっと病院を抜け出した。
 由香は困惑していた。彼女だって死ぬのは怖かった。しかし、これからのことを考えるのはもっと怖かった。両
親は今までみたいに彼女を甘やかしてはくれないだろうし、学校へも行かなくてはならない。そして何より弟が怖
かった。両親が由香に付きっきりだった四年間、健太は両親からほとんど放置されてきた。そして彼女自身は健
太をパシリのように扱ってきた。勉強も運動も彼女よりずっとできるようになった弟が、これから由香に対してど
う接してくるか想像すると、由香は震えが止まらなくなった。
 気づくと、由香は一つの川の前に立っていた。紅葉の葉で彩られた流れはとても綺麗で、吸い込まれそうにな
る魅力を覚えた。
 由香は川を見つめ続けるうちに思ってしまった。『いっそこの川に飛び込めば楽になれるかな……。この高さ
なら無傷では済まないだろう。大怪我すれば父さんと母さんだってまた……。でも、死んじゃうかも。でもでも、死
んでしまうならそれはそれで―――』
 強い風が吹いた。それが由香の意志であったかどうかは分からない、しかし彼女は川に落ち、意識を失った。

「姉ちゃん!! 目をさましてよ、姉ちゃん!!」
 その聞きなれた声で彼女は覚醒した。
「健太? どうしてここに?」
「姉ちゃんが突然いなくなったから僕が探しに来たんだよ。父さんと母さんが心配してたんだよ。姉ちゃんこそな
んで溺れてるんだよ」
 由香は健太が自分を助けたことを意外だと思うと同時に、自分がまだ五体満足であると知り、軽く絶望した。
「……ねぇ、健太」
「ん?」
「健太はお姉ちゃんのこと嫌いよね?」
「え?」
「嫌いに決まってるわよね。わがままばかり言って父さん母さんを独占してきたお姉ちゃんのことなんて」
「……」
「お姉ちゃんね、飛び降りたの。でも死ねなかったの」
「……」
「だからもう一回……」
 二人の間を沈黙が支配した。それを打ち破ったのは健太だった。
「ねぇ、姉さん」
「ん?」
「今日が何の日だか知ってる?」
「えっと……お姉ちゃんの誕生日?」
「うん。そして僕の誕生日だ。だからさ、縁起の悪いことはしてほしくないんだ。」
 由香はその言葉に何も返せない。
「小さいほうは大きいほうの言うことを何でも聞くこと!!」
 健太は叫んだ。
「え?」
「姉ちゃんの口癖だよ。最近の姉ちゃんは僕をこき使うためにこの言葉を使ってるよね。でも、僕は覚えてるよ。
昔の姉ちゃんはこの言葉を使って僕を守ってくれたことを」
「……」
「姉ちゃん。姉ちゃんが病気の間に僕の方がずっと大きくなったんだ。姉ちゃんの背は僕の肩までしかないんだ
から。だから、ね。僕に甘えていいんだよ」
「でも」
「でももだっても無いんだよ。『小さいほうは大きいほうの言うことを何でも聞くこと!!』」
 由香はなんだか悲しくなって、嬉しくなって、四年ぶりに泣いてしまうのだった。

葬送

作:1 ◆LV2BMtMVK6
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短歌

ハッピーバースデイ!

作:◆zW6i1XZ9tY

生まれてと誰が頼んだわけじゃない
だけど生まれてくれてありがと

NN1もしくはQGDusの短歌集

作:◆NN1orQGDus

たらちねの 母の子守りの歌を聞き 我も我が子に 歌い聞かせて

あしびきの 山並み燃える 紅葉の 話せんかな 高見の杜に

ぬばたまの 闇夜に浮かびし 望月の 欠け行く姿に 綴る文かな

限りなく 吹けば花びら 散るものと 心短き 青き秋桜

心をば 思いも寄らぬ 秋風の 情けも依らぬ 夜の静けさ

舞落ちる 葉の色 茜になりにけり

ありていの 姿をみれば 姿見の 盃の酒 映る月かな

瀬を早み おつる飛沫に とぶ飛沫 虹がかかりし 渋き柿の木

夕暮れの 釣瓶落としに 誰もなく 彼も無くして 黄昏の風

狂い咲く 桜垂れて 散り行かば いとう心に 杯を重ねん

漢文

帰秋

作:◆LV2BMtMVK6

 秋霖凍街路

 雨及長斯如

 竟見月山蘆

 君忘勿拙居

(書き下ろし文)
 秋霖街路を凍らす

 雨の長きに及ぶこと斯くの如し

 竟に山蘆に月見ゆ

 君よ拙居を忘れる勿れ

料理

薩摩芋とレアチーズのミルフィーユ

作:◆CkzHE.I5Z.

『薩摩芋とレアチーズのミルフィーユ~秋のS-1すぺしゃる~』

☆材料
サツマイモ クリームチーズ 生クリーム 蜂蜜 グラニュー糖 塩 市販のバニラアイス

♪レシピ

蒸かしたサツマイモをマッシュします。
芋はそのままでも甘くて美味しいのですが、今回はデザートなので蜂蜜を少し。
そして塩を少々。芋の甘さが引き立ちます。

クリームチーズをホイップした生クリームでのばします。クリームチーズって、そのままだと固い上に味がないのです。
チーズ4:生クリーム2:グラニュー糖1 くらいの分量で良いでしょう。
生クリームの泡が壊れて柔らかくなりすぎたら、レモン汁を少々加えると固さが出ます。でも入れすぎには注意!
お好みでリキュールやブランデーを少し入れても良いですね。

サツマイモを細く切り、低温の油で揚げます。
写真の芋は一ミリほどの薄さに切って、格子状に並べてから揚げてますが……まぁそこまでする事もないでしょうwチップス状で十分です。

上記が全て出来上がったら盛り付けです。
重ねます。ぐらぐらするけど、重ねます。層を作るように、重ねますです。

とどめ…じゃなかった、仕上げにバニラアイスを乗せて粉糖をふりかけて完成!
フォークでぱりぱり崩しながら召し上がれ。

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