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(車のエンジン音、砂利が車体にぶつかる音。)

色々なものが壊れていくのを見てきた。
例えばキモチ。キモチが壊れる瞬間、空気の色が確かに変わる。
そしてそれはもう、二度と戻らない。

(車の社内、ワイパーの音、ウインカーの音)

空港へ向かう車内、私達は無言だった。
時折聞こえるお互いの、呼吸の音。
無音の雪の中で響いているみたい、といえば雪の降る場所に住んでいる君には分かってもらえるかもしれない、などと、まだ形式上恋人同士である彼の助手席で 私は比較的のんびりとした気持ちで窓の外を見て居た。

カウントダウン。この言葉がこんなにぴったりくることがある瞬間が、彼との間にだけは訪れないと思っていた。

(再びウインカーの音)

ウインカーを出して角を曲がる時にのみ 彼の瞳の端に私が映るのを感じた。
ただ其処にはもうすでに、熱は失われている。

彼は。
彼は今この瞬間わたしみたいにのんびりとした気持ちをしているのだろうか。
それとも、これからくる独りの時間を今か今かと焦っているのだろうか。

絞られるブレーキ。丁寧なギアチェンジ。そんなところが 好きだった。
決して、彼は 空気を荒げたりしないひとだ。
どんなに激しい喧嘩をした夜も、彼は丁寧にハンドルを操った。
助手席で前を見たままの私。それでもそのハンドル捌きのおかげで家の前に付くころには私は自然と安堵感に満ちたりた気持ちになっていた。

3年半。短いと言えば嘘になる時間の重さを背中に感じつつ かといって本当は終わりがくるとは思っても見なかった突然の空気の変わり目に、私は一瞬自分の気持ちを疑った。
それは昨日の夜。いつものように遅い夜食を二人でとっていたときのこと。

ボーンチャイナの二人分の食器を片付けていた私は、洗剤の泡で手を滑らせてサラダボールを一つ割ってしまった。

簡単に言えばそれだけのこと。

分かっているのは 其の瞬間、私は君のことを考えて居たという事実。
そして彼は我に戻ってかけらを集める視点の定まらない私の目線を必死で捕らえようとしていたという事実。

でも私は頑なに彼の視線を拒んだ。見たくなかった。終わってしまう。
直感でしかない、でも受け入れるしかない事実を、、、。

私「、、、、、痛、、、っ。」
気付くと私は割れた皿の欠片で指を少し切っていた。
血は、案外多く流れ出ていて、幾つかの欠片を赤く染めていた。
それに気付いた彼はなにげなく私の手をとり絆創膏代わりに口に含もうとした。

私「嫌」

ちいさく呟いたはずの私の声は案外大きく聞こえた
油断した私は彼の瞳を捕らえていた。
彼は心なく笑っていた。いつもの、笑顔だ。
只、私の中で何かの壊れる音がした。

キキーーーーーーッ(車のブレーキ音)

彼「あーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」(なげすてるように)

私「キャッ、、、、、、ッッッ!」

我に戻ったのは車のブレーキ音。シートベルトで身体はしっかり押さえられていたので前に放り投げられたのは反動のついた私の髪だけですんだ。
彼は、と運転席を見た瞬間私は目を疑った。
彼は泣いていたのだ。私に気付かれないように声を立てずに泣いていたのだ。

優しい彼が私を苦しめるためにやった、最初で最後の反抗だった。
私はあまりにも今まで彼を苦しめていた。余りにも無頓着で余りにも考え無しで。
只、泣いている彼を見つけた私の目にはもう、愛は残っていなかった。

2005/11/21 radio drama novel+voice act=Ree.