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三話 『Huge』

 多くのアームズ乗りは“渡り鳥”と呼ばれる。
 その理由はアームズ乗りのほとんどが特定の企業に肩入れをしないためある時はAという企業に味方し、またある時はBに味方してAを攻撃する、という事態が普通に起こるのだ。
 たとえジャックのようにGUに所属していようがGUに敵対する依頼が舞い込むこともある。
 それはあらゆる傭兵派遣企業を束ねる傭兵企業連盟『バインド』との契約を傭兵を結ぶから、でありGUを含む他の傭兵派遣企業は渡り鳥の支援をする企業という立場になる。
 支援企業は自社製品の優先販売、ドッグを含む各種施設の貸し出し、依頼の優先閲覧などの権利を支援渡り鳥との間に交す。しかしそのぶん依頼の成功報酬の一部を天引きされるわけである。
 とはいえど、支援企業以外から回ってきた依頼――つまりバインドや個人を通じて回ってきた依頼の場合――は成功報酬は天引きされない。

 タダで知り合いのドッグを借りれる、あるいは自分のドッグをもっておりもっと格安で修理が行える、というアームズ乗りは企業に属さずバインドにも制約されない『自由傭兵』という立場になる。
 これもまた渡り鳥の一種だが同時に『イレギュラー』として忌み嫌われる傾向にある。
 アームズ乗りなどという危険な存在に首輪もつけないなどテロリストとなんら変わることの無い脅威であるのは事実ではある。

 が、逆に企業と専属契約を結ぶ専属アームズ乗りも存在する。
 企業にとって平時には何も生み出さない軍隊などごく潰しでしかない、というのは当然の話ではあるが企業とて切り札としての戦力ぐらいは持っておきたいのもまた事実である。
 強いアームズ乗りであればあるほど企業としては首輪をつけて囲っておきたいのは当然。敵に回らない、というだけで安心できるうえ、それらを手駒として操れるのであれば文句などあるはずもない。
 それ故に企業は強いアームズ乗りとは専属契約を結ぼうとコンタクトを図って来る。

 軍隊が演目飛行を行うブルーインパルスやサンダーバードなどのような部隊を擁していたように、企業もまた専属のアームズ乗りを使用し、企業イメージのアップやアームズのポジティブキャンペーンなどを図った。
 その結果として生まれたのがアームズフォーミュラー。
 つまるところはVR訓練を大衆向けに娯楽化したスポーツだ。
 VR訓練と違うところは三次元描画される戦闘モデルが実機サイズにまで拡大され、スタジアムのど真ん中でその三次元映像がリアルタイムに流れる、というのが大きな変更点であり、アームズを細かに観察したいがために見に来るようなミリタリーオタクも足を運ぶ人気スポーツとなっている。
 とはいえど、やはりスポンサーは企業であり、選手は全員企業専属のアームズ乗りである。
 企業にとってアームズフォーミュラーは『わが企業にはランク1の最強がいるぞ』という示威行為でもあり、自社製品の宣伝でもある。
 そう云う意味で言えば企業は専属契約を結んだアームズ乗りを優遇する。
 自社製品の格安提供、ドッグの格安年間契約などだ。
 ただし、専属契約を結んだが最期、バインドからの依頼は受けれなくなり所属企業の依頼しか回ってこなくなる上、依頼を拒否できなくなる。
 しかし年間契約により依頼の達成件数に関らず年奉がもらえる、という堅実さはある。
 まぁ、一年に一度年俸の見直しや専属契約の更新などもあるために専属契約すれば楽か、といえばそうでもない。
 むしろ、所属企業の最重要任務を回されるぶん仕事の数は減っても危険度は段違いである。

 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 国家という枠組みが消滅した現在でもこの旧大英帝国には貴族というものが現存している。
 その大半は所謂『成金』でありただたんに『高所得者』でしかない。
 しかし貴族の上層はいまだ古い貴族が占めており『高貴なものの勤め』を果たすため富を独占せずに福祉に還元したりしている。
 巨大連盟《グレート・ユニオン》の本拠地がこの英国本土にあるのは上流貴族たちの勤めによるところが大きい。
 上流貴族の『高貴なる者の勤め』というのは旧世界における政府の献金に近くそれがより『民主的』であり『公正』な姿に変貌したものといえる。
 事実GUの傘下企業のトップ十のうちの四つは“上流貴族”のなかでも一際大きい『英国四貴族』が軒並み名を連ねているという現状である。
 実質的に貴族とは『金持ち』を指す言葉となっているのが現状ではあるが『ただの金持ち』を指す言葉ではないのもまた現状である。

 エドワード・ウルフは成り上がりの一代目貴族である。
 とはいえ、成金特有の刺々しさもなく、歴代貴族の家系の如く洗礼されているが。
「アリサ、これは……アメリカン・ブレックファーストかい?」
 ティーカップから立ち上る湯気を顎にあてながらエドワードは部屋の隅に立ち尽くすメイドの少女に声をかける。
「すいません主さま、ダージリンは切らしておりました。私の不手際です」
 漆黒のショートカットが重力に惹かれるように垂れ下がり、少女の表情を覆い隠す。
「気にすることはない。顔をあげなさいアリサ。もとよりアメリカン・ブレックファーストはこういった事態のためのものだ。英国貴族が米国の名を冠したものを愛飲する、というわけにも行かないだろう? だから普段はダージリンを飲むだけだよ。私にはダージリンもアメリカン・ブレックファーストも変わらないさ。どちらも紅茶だよ」
 一口で茶葉の違いに気付きながらも『どちらも変わらない』と微笑むエドにメイドは再び頭をさげる。
 しかし、それは先ほどとは違い、感謝の意をこめて――。
「おや、仕事が入ったらしい」
 パタリ、と紙媒体の書籍を閉じ、端末に目を向けるエド。
 総てが電子化された現代においてエドは紙媒体に印刷された旧時代の『本』を愛読している。
 事実現在こうしてエドが腰掛けている部屋も書斎と呼ばれる旧時代のオフィス兼読書室そのものである。
「……GUも敵が多いな」
 ユニオンである限り連盟内の多様性からくる敵の多さや内部対立などの問題は避けられない。
 それはGUですら例外ではない。否、むしろGUほどの巨人だからこそそれは避けられない問題である。
「しかし……所属不明ア
ームズか、きな臭い」
 スッとエドの目が細くなる。
 “やぶ睨み”や“細目のエド”とエドが称される由縁であり、その鋭い目つきはまさに狼《ウルフ》のようである。
「GUへの直接攻撃ですか?」
「いや、流石にそこまで度胸はないらしいよ」
 端末にはGU傘下の一企業、ラクス製薬が襲撃をうけると表示されている。
「しかしラクス製薬を襲撃ね……何が目的なんだろう」
 そんなことはどうでもいいか、と呟きながらエドは席を立ち、外出用のコートを手にして歩き出す。
「アリサ、行くぞ――」
 それは狩人《ウルフ》が牙を剥いた合図。
 エドは冷徹で忠実な狩猟犬であり己はアームズという手足をもってして主の要望に応えるのみ、と意識を切り替える。
 別人格ではなく、別性格への切り替え。それがエドがアームズに乗る上での意識改革の儀式。

  ◇◇◇

「アームズ起動、情報統合制御体との接続《Link》完了《Set》――」
 それは呪文《スペル》――自己を機械だと認識するための自己暗示。
 エドワードではなくウルフが狩りを行う前に行う縁担ぎ。
 バッターがバットを構える時と同じ。
 成功した過去を蓄積し成功する未来を導き出す自己暗示。
「アリストクラティック・プライド《Aristocrat Pride》――出る」
 貴族の誇り。
 ただの成り上がりではないという意思表示。
 プライドを持つ本物の貴族であるという自負。
 GUという主のために尽くすと誓った証明。
 翼を折られ地を這うとしても、狩人であり続け、主の敵を狩り続けるという忠犬。
『神よ、我が主に加護を――』
「神よ、我が主に勝利を――」
 勝利を誓う女王のいない企業国家時代。
 だが、女王とは神の寵愛をうけた存在であり、女王への忠誠とは神への信仰。
 ただそれが、直接的に繋がったと言うだけの話。
『ラクス製薬第七工場壊滅……不明アームズ、逃げる気配ありません』
「罠か。宣戦布告をギリギリになって流すあたり、ただの襲撃犯ではないらしい」
『奇襲が成立しなくなるギリギリのラインでの宣戦布告。GUの介入が目的ではあるものの工場の襲撃も成功させる必要があった……?』
「だとすれば……工場の襲撃の成功というアドバンテージが必要か、あるいはGUを怒らせるのが目的か」
『考えすぎではありませんか? ただのイレギュラー、ということもあります』
「……そうだな。ただのイレギュラーか」
 不明アームズである以上、それは自由傭兵か、あるいはバインドの管理下におかれていない謎の企業専属渡り鳥か。
 企業専属のアームズ乗りはバインドからの依頼を受けない、無論、所属企業がバインドからの依頼を専属アームズ乗りに回すこともある。
 しかしそうでない場合、企業が秘密裏に契約を結んだ専属アームズ乗りが露見することは少ない。
 故に、イレギュラーほど恐ろしい存在はない。
 とある兵装の実験、表立って行えない秘密工作、単純な略奪、足枷となるバインドの監視というものから逃れたアームズはもはや制御不能な暴力でしかない。
 それは自然災害と同じ……否、意思をもち人間のいる場所でのみ猛威を奮うのであれば、それは自然災害すらも凌駕した厄災。
「接敵六十秒前……なんだと……?」
 レーダーに映る赤い点、それは通常のアームズの数倍はあった。
「アリサ、敵アームズ熱源反応巨大。通常の五倍はある」
『――データ確認。本部からのデータではこのような事実は認められません。作戦放棄を提案します。至急折り返してください。本部への問い合わせが最優先です』
「そうはいかない、このイレギュラーを放置するのはマズい! 本部への問い合わせは君がしてくれ、アリサ!」
『……了解しました。神のご加護を――』
 プツリ、と通信画面が消える。
「……敵巨大アームズ、目視確認。……対アームズ戦のデータ収集とGUへの牽制攻撃ということか」
 アームズ越しにエドの網膜に移される映像は全長五十メートルはあろうかという鋼鉄の巨人。
 こんなものが量産されるとなれば、それは十分以上の脅威だ。
 都市部へ迫られれば都市は一つあっけなく陥落し、財閥本社への攻撃となれば財閥が崩壊するという事態とて起きる。
 それは時代の激動であり、混迷であり、安定を望む人々にとっては恐怖以外のなにものでも無い。
 特に大きな改革を必要とするわけでもなく、表面上の平和を保っている世界に乱を起こすような行為が必要だというのだろうか。
「貴族の誇りとは民を守るが故――
 なれば反動家どもは我が刃が噛み裂くのみ!」
 アリストクラティック・プライドは空を駆ける一条の矢。
 レーザーランスを右手に持ち突撃する様は中世の騎士そのもの。
 巨大アームズに立ち向かう姿はまさにドラゴンに立ち向かう英雄のソレである。
「くっ、流石に気付くか……」
 巨大アームズはエドに気がついたようでゆっくりと、緩慢に腕を動かす。
 しかし、それは巨大が故の緩慢。速度は遅かろうとその図体の大きさの前には速さなど無意味に等しい。
 アリの全力前進など赤子のハイハイなどとは比にならない。
 これはそういう類の問題だ。
「流石に……苦しいな」
 大きすぎる砲門。たとえ緩慢であろうとそれは確実にエドの機体を中央に捕らえようとしている。
 中央に捉えられてしまえばあとは引きがねを引かれるだけ。
 そうなればもはやアームズとほぼ同様、あるいはそれ以上の質量をもった砲弾がアリストクラティック・プライドを蹂躙するのみ。
 それはもはや道端のアリを踏み潰すのと変わらない。上手く逃げ延びるほか生き延びる術はない。
 耐えるなどという次元の話ではなく、もはや避ける他の選択肢は存在しない。
「アリス、応えてくれるな?」
 エドは愛機にそう問いかけ前進に回していたエネルギーをサイドブースターに分配する。
 一端前進をとめ、完全な横移動に移行した。
「アリスはただの猪ではないよ……」
 その言葉に偽りはなく、アリスは先ほどまでの前進と同様、あるいはそれ以上の速度で横方向への移動をしている。
 アームズの挙動のなかで一番難しいのはブーストターン、なればこそ左右への撹乱は有効的な戦法。
 白兵戦ではなく中、近距離での射撃戦に持ち込むのであればサイドブースターの強化は当然のこと。
 メインブースターを妥協してでも良いサイドブースターを積む場合すらある。
「コレだけデカければ……意味もあるまい」
 そう言ってエドは左手のマシンガンと右背のミサイルをパージする。
 軽量化されたアリスは機動力を増し、再び前進に推力を裂きながら横移動を続ける。
 グルグルと巨大アームズはアリスを捕らえようと旋回するがやがて旋回を諦める。
「それほど巨大であればクイックブーストなど使えまい。アームズの最大の武器は機動性だというのに……無意味だ」
 一歩足を踏み出す、ただそれだけの挙動でコンクリートの地面は砕け散り、地盤が露出する。
 そのような巨大アームズがどのようにしてここまでたどり着いたのか。
 幸いにもこの工場は海に面していた。浮力を上手く利用すれば運搬も不可能ではあるまい。
 しかし、そうだとしても、黒幕の正体や真相は見えてこない。
 たとえ浮力を利用したとしても、それを牽引する艦隊が必要であり、なによりもこれほどの大型アームズ、告知されるまで見つからないことなどありはするまい。
『主さま、確認がとれました。どうもその巨大アームズはステルス機能を有しているらしくGU本部のレーダーでは通常アームズとしてしか認識できなかった、とのことです』
 それならば告知まで気付けなかったのもいたしかたあるまい。
 だがしかし、これほどのサイズを隠しおおせるステルス機能……尋常ではない。
「イレギュラーが多すぎる……」
 そう呟きながらもエドの駆るアリスは徐々に巨大アームズに迫りつつあった。
『巨大アームズより高エネルギー反応……』
「何をするつもりだ……っ!」
 グラリ、と視界が歪み、虹色がかる。
 まるでシャボン玉のなかに閉じ込められたかのような感覚。
 外側にいるのに内側にいるという錯覚。
 しかしそれはコンマ数秒後に自分を取り巻く光景となる。
 シャボン玉の膜ではなく、シャオボン玉の空間。
 境界線《ライン》ではなく領域《ゾーン》。
「グ、アァ……っ!」
 コクピットまで伝播する衝撃。
 対ショックゲルですら防ぎきれない激震。
 激痛に歯を食いしばりエドは耐えること数秒。
 コクピットには数時間の拷問を受けたかのように顔色の悪いエドがうな垂れている。
「侮ったのは……私か……。すまない皆、盾は敗れ去った……」
『諦めるのはまだ早いぜ? それとも“孤高の狼”ってのは自己犠牲に自己陶酔する役立たずの名前なのか?』
「貴様は……何者だ……」
 息も絶え絶えで視力もまともには機能していない状態、それでもエドの目には鋭い光が灯され、通信画面に映る相手を睨みつける。
『まぁなんだ、GUがアンタのメイドちゃんから情報を受け取るや否や救援要請をうけた渡り鳥さ。ふん、しかしイラプション・アーマーがこいつにも利用されてるのか……』
「イラプション《爆発》・アーマー《装甲》……だと?」
 聞きなれないが妙にしっくりと来る言葉、それはまさにエドがいまダメージをうけた謎のエネルギー爆発ではないだろうか。
「貴様、何者だ……」
 さきほどとは違い明確な敵意と警戒心をもってエドは聞き返す。
『グローバル・ユニオン。ベディヴィエール……ジャックだ』
「ベディ、ヴィエール……」
 それは先日動画共有サイトで話題になっていたアームズ乗りのアームズの名前ではなかっただろうか。
 惹かれるものがあったから調べた覚えがある。
『で、どうする? 無理だっていうのなら戦わないでいい。だけど俺なんぞに任せられないっていうんなら戦うしかないぜ? ほら、貴族なんだろ? “高貴なるものの務め”はどうするんだ? 貴族として殉教も辞さないのか人間らしく尻尾を巻いて逃げるのか。どっちでも俺は構わんぜ。どっちを選ぼうがアンタを責めはしないさ』
「貴様なぞに、任せられるか……苗字も持たぬものが務めを果たすのなら、然り、貴族はそれよりも大きな務めを果たさねば成るまい」
 悪態をつきながら己を叱責するエドの顔には笑みが浮かんでいる。
「へぇ、優男だと思ったんだが……根性はあるらしい。じゃ、そーゆーことで、あと一分でそっちへ着く」
 ジャックはニヤリ、と笑みを浮かべて無線を切断する。

 ◇◇◇

「ソフト・システム・アーマー《Soft System Armor》――展開」
 ジャックは通信を着ると同時に情報統合制御体に指令を飛ばす。
 それとほぼ同時にユラリ、とベディヴィエールを薄く虹色を帯びた膜が覆う。
 イラプション・アーマーとはSSAのエネルギー供給を一時的に高めてSSMを相手に叩き付ける攻勢防御の一つであり、いわば“爆弾の爆発で盾が飛んできた”という現象そのものである。
 ……説明をしてみると案外バカバカしくて困る。
「しっかし……デカけりゃいいってもんじゃねぇだろ」
『……とはいえ、事実として厄介なことは否定できません』
「いくら情報統合制御体でも、あそこまでデカイものを動かせるのか?」
『おおよそ不可能と推測します』
「じゃぁ、どうなってるんだ?」
『圧倒的多数の凡人によるソフトウェアに頼らない最強のハードウェア』
「つまり、人的欠損を簡単に埋めることのできる――いわゆる先天的才能に頼らないアームズか」
『是。天才を要求する通常のアームズとは違い情報統合制御体との連結を不要とし、その分複雑化するアームズの挙動を大多数の凡人により補う……つまり――』
「モブキャラが一杯犠牲になるデカいだけの移動要塞」
『……人命を軽く扱いすぎではないでしょうか、ジャック』
「あのな、俺だってアレを倒せば数十じゃ足りない命を奪うなんて本気で考えて戦えるかよ」
『私はアナタを赦《はな》しません。贖罪として生き残ってもらいます』
「あぁ、良いとも。俺は堕天使だ、空を飛べるのなら贖罪だって耐えるさ」
 アメのためにならムチも受け入れる、人生には苦楽が付きまとうものだ、と受け入れている男のセリフだった。
「ふーん、死んだ振りしてりゃ良かったのに。ガンバルね、アンタも」
『ふざけるな。トドメを刺そうと近づかれてボヤボヤしていられるものか!』
「あ、なる。じゃ、いっちょミッション開始だ。所詮人殺しだ、気楽に行こうぜ」
『貴様、悪魔か……』
「いや、堕天使《サタン》さ。悪魔は人間が好きなんだよ。優しすぎて堕落させちまうだけだ」
『なるほど、全肯定は確かにロクなことにならんな』
 二人は話しながらも巨大アームズを翻弄するように動き回る。
 互いに決定打は無く、攻撃をしてもSSAに防がれるのみ。
 しかし、巨大アームズは明らかにジャックを危険視していた。
「そんなあからさまな態度をとられたら、分かってしまうじゃないか」
 ジャックは失望の表情を浮かべようとする。が、笑みが漏れ出すのを止めることは出来なかった。

 敵の警戒しているのはジャックのSSA。
 ならばSSAはSSAに干渉できると見て間違いはあるまい。
「じゃ、いっちょ中和してみますか」
 そう云うとジャックは巨大アームズに接近する。
 ベディヴィエールを包む膜と巨大アームズを取り巻く膜が干渉しあい、そこだけが激しい虹色を発する。
「SSA展開形態変更――」
 ジャックを覆っていた虹色の幕はいまやほとんどが消滅し、その代わりとして干渉している場所が先よりいっそうに激しく虹色に輝いている。
「ふん、どうする?」
 このまま押し問答をしてもジャックが打ち克つ、かといってジャックのようにSSAの局部展開をすればエドのアリスがSSAという盾の無くなった巨大アームズに牙を突き立てるだけである。

『大規模エネルギー反応。イラプションアーマー《IA》です。離れて――!』

『――先ほどと同様のエネルギー反応を確認。爆発します、離れてください』

「了解。IA発動、IAを打ち消す――」

「――ありがとう。離脱を試みる」

 そして――ニ度目の爆発。

 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 衝撃がコクピットを襲う。
 あまりの衝撃に肺の中の空気が空になる。
 視界が夥しい光量に侵される。
 あまりのフラッシュに瞬間的にブライトネス値が下げられるがそんなものは役に立たない。
 瞬間的に飛び込んできた過剰ともいえる強烈な白と虹色の情報量を脳は捌ききれず数瞬の間、視界は白濁したままだろう。
 骨は――何本か折れたかもしれない。
 心臓がドクンドクンと動くたびに体中がギシギシと痛む。
 死んでいない証が生きている証だ。
 狂うほどに苦しいからこそ死んではいない。
 あぁ、畜生――

 ――まだ俺は戦える。

 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 IAによるIAの中和。
 単純な質量の差による圧壊《あっかい》。
 ピストルでカノンに対抗するようなもの。
 だがしかし、いかに無駄な抵抗であれ、無抵抗とは違う。
 紙一重、首の皮一枚であれ生存は生存、人間の命は一か零。小数点以下など存在はしない。
『ジャック! 無事ですか! 応答してください!』
「…………――――畜生《Fuck》、最悪だぜ」
 ベディヴィエールはIAと着陸の衝撃で半壊。下半身はもはや稼動せず上半身のみ。
 背中に背負ったミサイルはIAの衝撃で吹き飛び、右手のレーザーソードもIAによりジェネレーターからのEN供給が致命的なまでに足りていない現状では使用不可能。
 左手のハイレーザーライフルと右背のスナイパーキャノンのみが稼動可能な武装。
 しかしそれも下半身が稼動しない現状では固定砲台。
 破壊力こそはあれどアームズとしての優位性は失われたといって良い。

『エドワード様。ご無事ですか……』
「無事……とは言いがたい、な」
 アリストクラティック・プライドもまた、右肩を失い左足はショート、ジェネレーターのEN供給によりかろうじて動けるものの武装はレーザーランスのみ。
 IAによりSSAを失ったとはいえど巨大アームズはその大きさ故の装甲の厚さもまた、並大抵ではない。
 アームズの武装は対アームズまでしか想定はされていない。
 あれほどの巨大兵器を打ち倒すには圧倒的に火力が足りていない。

『『撤退を提案します』』
 異口同音。
 二人のオペレーターは一つの結論に達する。
 現状を解析してもそれ以外の答えに辿り付くはずもない。
 無謀なのだ。圧倒的なまでに。
 だが、それでも――

「「否、今こそ好期」」

 ――彼らはそれを否定する。

 危機《ピンチ》こそ好期《チャンス》であると。
「現状敵はSSAを張れない、あれほどの巨体であればSSAを再度展開するには俺のアームズよりも時間がかかる。そうはいっても十分が限度だろう」
 それは最大限甘く見積もっての話。“もしも”や“あるいは”を積み重ねて最大限有利に事態を仮定したうえでの数字。
 最悪の場合、五分が限度だろう。
「敵は巨大だ。バリアがないというのならもはや的だよ」
 的ではあろう。しかし、当たっても有効打になりうるはずもない。
「普通なら、な。人間に弱点があるようにアームズにも弱点はある。あそこまでデカいと弱点の狙撃も楽勝だ」
 そうは言うが、ジャックのベディヴィエールは下半身の稼動は不可能。
 ブーストでの飛行は愚か通常ブーストでの移動すら出来ないまでにEN供給がIAの影響で追いつかない現状なのだ。
「火線には私がおびき出す。どこを狙撃するつもりだ?」
「決まってる。アームズだって頭が潰されれば致命的だ。各種センサーが詰まっているはずだしな」
 それに、あの巨大アームズが事実として多人数の凡人による制御を受けているのであればおおよそ指揮官が乗っているのは頭部。
 そうではないとしてもある程度の人的被害は与えられる。
 所詮は人殺しだが、戦場とはそういうものだ。
「了解した。頭部の狙撃は正面からか? 側面を突くか?」
「決まっている、側面だ。あの横長のカメラアイをぶち抜いてやる」
 コアは一部への被弾が全体へ影響を及ぼす危険性がある以上、頭部という『狙わないと被弾しにくい』部位を司令部にするのは十分に考えられる。
 司令部かカメラアイ、どちらにせよ潰しておくに越したことは無い。
 狙撃のチャンスは一度。
 二人の連携作戦が通用するのはジャックのベディヴィエールが抗戦能力を失っていると誤魔化すことの出来ている今だけ。
 一度の狙撃が僅かなイニシアチブと引き換えに勝敗を決する。
 ならばどう転ぼうが状況を好転させうる頭部への狙撃は至極当然な結果だ。
「じゃ、ヨロシク頼む」
「頼んだぞ、悪魔」
 そう云うと二人はどちらからともなく通信を切断する。

 ◇◇◇

 鉄火を持ち戦場に立つもの心せよ。
 汝の鉄火は契約の印、汝の戦意は契約の承諾。
 殺すものとは殺されるもの。即ち闘争の本質である。

 ◇◇◇

 アリスはガタガタのフレームに鞭打ちながら赤く輝くランスを構える。
 その姿は国のために最期の瞬間まで戦う騎士のように美しく輝いている。

「貴族の務めとは国家体制が失われようと古来より変わらぬ。
 国土の上に住む民草を守る。ただそれのみ。

 されば、貴族の誇りもまた古来より変わらぬ。
 国土を背負い民草を背負い、毅然と前を向き諦めぬこと――!」

 アリストクラティック・プライド、まさにその名の通り貴族の誇りを胸にエドはアリスを駆り、空を舞う。
 かろうじて距離を離しIAの余波程度でアリスは済んだ。
 ソレに対しベディヴィエールは引かずにIAでの中和を試みた。
 それはジェネレーターの出力をIAのほうに回し離脱のエネルギーをカットした結果。
 しかし、巨大アームズが大きすぎた。
 それ故にIAでのIAの中和に失敗し結果として二度目のIAを喰らったアリスは稼動し、ベディヴィエールは稼動不能。
 そう判断したのか巨大アームズは全神経をアリスに向けてきた。
 これっぽっちの注意もベディヴィエールには向けず、アリスの動きを追いかけることに集中していた。
 アリスとて無傷ではない、ギリギリ巨大アームズが追いつける程度まで機動力を低下させていた。
 それは巨大アームズの気をひきつけるための演技のはずだったが、機動戦は搭乗者に多大な負荷をかける。
 耐Gジェルがあるとはいえど、瞬間噴射《クイックブースト》による急激な加速度とそれによる衝撃はゼロではない。
 ましてIAにより体中がボロボロな現在、アリスが動いているのはひとえにエドの精神力の賜物だ。
 普通ならアームズの指一本動かせないほどの大怪我、即入院、即手術が必要となるほどの状態だ。
 生死の境目を彷徨うほどの大怪我でもなお戦っているのは意地でしかない。
 それはジャックもまた、同様である。
 お互いに背負っているもの、戦う理由は違えど二人には共通した意識がある――

 ――巨大アームズを放ってはおけない。

 守りたいものがあるから。
 失いたくないものがあるから。

 戦う理由がある限り、死んでも死に切れない。
 それは、唯一にして絶対の戦意。

「ジャック、打てぇぇぇぇ――!」
 通信を介さない叫び。
 しかしそれは肩を並べて戦う戦士の間にはしっかりと聞こえる叫び。
「ターゲット手動ロック、百倍率で確認。発射《ファイア》ァ――!!」
 砲身から弾丸が射出される。
 弾丸は一秒ほどで巨大アームズの頭部を貫く。
 いくら巨大とはいえど頭部カメラなど所詮は強化ガラス。
 もっとも脆い、といって差し支えのない箇所。
 巨大化したからといって単純に装甲も強化されるワケではない。
 着弾と同時に砕け、飛び散るガラス片。
 レンズは粉々になりカメラ機能は停止。
 着弾の衝撃で司令部は半壊。
 弾丸の余熱でコンピュータはショート。
「第五ブロック崩壊、第四ブロックもダメです」
「第三ブロック、衝撃により二名負傷、四名が重体。運営不可能!」
「第二ブロック、損害軽微。通常運営可能です!」
「第一ブロック、司令官負傷。救護班急げ! 全エネルギーをSSAに回せ!」
 五つに区分けされていた司令部は半壊とはいえど、もっとも重要な半分が失われた状態であり、なにより頭部はカメラをメインとし各種センサーなど戦う上で必要なあらゆる触覚を司る『感覚器官の集合体』であった。
 人間で言えば視覚、聴覚、嗅覚、味覚、痛覚などが一斉に失われるのと同様。
 気配を感じ取るのは僅かな音と体温――つまり聴覚と痛覚。
 もはや赤外線センサー《痛覚》すら失った巨大アームズにはありとあらゆる外界の情報を得る手段が失われたといって良い。

「恨むなら自分の人生を恨め――」

 そう呟いてエドはレーザーランスを構え、半壊の頭部に突撃する。
 断末魔をあげる暇もなく、何が起こったかも理解できぬまま、司令部は完全に崩壊した。
 肉片の一片も残さぬ容赦のない熱量。
 あらゆるものを灰に帰す地獄の炎。
 司令部の崩壊により巨大アームズは各種動作を停止した。
 たとえ、他の部位が生きていようと各種兵装や四肢を制御していたのは司令部であったのだから当然の結果である。


 かくして巨大アームズ騒動は終焉を迎えた。
 ミッションの終了とともにエドとジャックは気を失いそのまま入院、両者とも全治一ヶ月の大怪我となった。
 二人のそばには常に二人の少女の姿があるため、不自由はしていないはずだが。







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