真・女神転生 夕闇の少女 アフター
PC
NPC
目次
今日もまた、校舎には静寂が戻ってきた。
外はまだ明るいが、校舎の中はもう薄暗くなっている。
一時は休止されていたクラブ活動も再開された。
あの日以来事件は起こっていない。
壱河橋学園校舎の3階にオカルト研究部の部室はある。
あの日からしばらくは、なにかを畏れたのか、喪に服したのか。
それは自分達でもわからないが、誰も入ることの無かったこの部屋にも人が集まるようになっていた。
人は集まるようになったが、皆一様に口は重いままだった。
事件が収束した真相を知っているのは自分達だけ。
しかし、なぜ、どうして?
あれがなんだったのか?
露木 麗子の激情・小田崎の死・大沢 まさえ、乾 綾、樹 梨衣奈はなぜ死ななくてはならなかったのか?
それは、彼・彼女らの理解を超えていた。
静かにしていると、それまでは気にならなかった、蛍光灯の微妙な明滅が気に障った。
・・・廊下を人が歩いてくる音がする。
唯香はそれに気づいて身を固くした。
がらり
扉が開くと、そこには土師先生が立っていた。
彼は努めて冷静という風に「トモカさん、すまないが少し手伝ってくれないか?私だけでは、処理しづらい事があってね・・・。」
それから15分後、土師と唯香は女子更衣室に居た。
土師の「お願い」は露木 麗子のロッカーの処分に立ち会って欲しいというものであった。
彼女には家族は居ない。
親しい友人も居なかったのではないだろうか?
どちらにしろ、土師からすれば自分ひとりで「処理」するか・・・それは教師の職務には忠実だと思われたが、そうは出来なかった。
事件の時と同じように夕日の赤が窓を染めている。
目の前のロッカーの名札入れには、小さな紙片に綺麗な文字で『露木』と書いてある。
ガシャ
小さな南京錠を「金属ゴミ入れ」に投げ込んだら思いのほか大きな音が鳴った。
ため息をつきながらその手元を見る。 ロッカーの中からは小さなカバンが一つと、何冊かの教科書、そして日記らしいノートが見つかった。
見るべきではない・・・しかし・・・この中には、起こった事件の真相が・・・なにが露木をああさせたのか、なにがあの事件をおこさせたのか?
『・・・なぜ彼女らは死ななくてはならなかったのか?』
それが書かれているかもしれなかった。
土師はそれらの処理を託して、職員室へと戻っていった。 「焼却炉には火が入っている、燃やしてしまえば良い。」
教科書は燃やした。 カバンは、しばらくはとっておくことにした。
そして、ノートを手にして立ちすくんでいた。
そこに・・・ 「それは、捨てたらダメだ。」
と、やや無機質な声色で、無遠慮な声がかけられた。
「誰かに読んで欲しかったんだ、だから置きっぱなしにしてあった・・・。」
そうだろう?小さな微笑みはそう言っていた、野沢先生だった。
とにかく、部室へ帰ってきた。
ノートは・・・カバンに戻したが、とりあえずまだ開く気にはなれなかった。
野沢先生もそれ以上は何も言わず、職員室に戻っていった。
もう、日は落ち、体育会系のクラブが倉庫を閉めようとしているのが見えた。
唯香を一人待っていたナオは顔を見るなり「さぁ、帰りましょう!」と部屋を出て行ってしまっていた。
唯香も部室のロッカーにカバンを押し込んで、ナオを追いかけた。
3日後異変は起こった。
「あれ?これ?」 ナオはオカルト研究会の部室ロッカー(歴代の先輩方の遺産が蓄積されている倉庫でもある)の扉の前に小さな金属片が落ちているのに気がついた。
メタルマッチ・・・マグネシウムの金属片で、他の金属と打ち合わせるとかなりの悪条件でも着火が可能な優れものなのではあるが・・・。
これはたしか、ロッカーの中、しかもかなり奥に入っていたはずだった。
ふと、ロッカーを開けると、雑然としたしかし何か違和感があるロッカーの内部が見えた。
次に、ロッカーの棚板が目についた、赤黒い塊が板の横を伝っていた。
『・・・血だ』
加害者は奥に隠してあったサバイバルナイフだろう。
被害者は・・・おそらくこの中に不用意に手を突っ込む人間はオカルト研究会には居ないはずだ。
なんの目的で?
それはわからないが、何者かがオカルト研究部の部室に入り込み、このロッカーの中をかき回したのだ。
「とにかく、犯人を見つけましょう。」
オカルト研究会の部室は、また熱を帯びていた。
何が目的であるのか? 何者なのか?
これらについて議論が重ねられたが、一つ目についてはまったくわからなかった、残念ながらロッカーの中身についてのリストは存在しなかったので、何かなくなったものがあったとしても細かなものは全くわからなかった。
二つ目の疑問には不吉な予感はあるが、しかしよく考えてみれば、ロッカーの中を手でかき回して、ケガをして帰っていった事を考えればそれは・・・おそらく人間だろうと思われた。
「本人に聞くのが一番早いでしょう、ここにあるものは大したものではないですけど・・・でも、放っておく事はできない。」
そう、放っておいても構わない・・・と言い切るにはこの二週間の体験は奇妙すぎるものだった。
とにかく・・・全員頷いた・・・犯人を見つけるべきだ。
調査が始まった。
調査の結果は思いのほか簡単に出た。
土師先生が今朝の登校時の立ち番をしているときに見かけていたのだ。
三崎 明はひょろりとした、やや薄暗い印象の男で、コンピューター部に属しているらしい。
一河橋学園は体育会系のクラブが有力なため、文科系のクラブは全般的に人が少ない、三崎も実際的には一人だけのコンピューター部員であるという。
「こんな人も居たんですね~。」
ナオも驚きは変わらない、大小のプログラミングコンテストの入賞・優勝の数々、それだけでなく2年前にプログラムコンテストIPA未踏ユースに選ばれている。
「200万円って・・・、なんに使ったんでしょうね?」
それへの感想も同じ。
「まったく、想像もつかない・・・。」
どちらにせよ、彼の容疑は限りなく黒に近い。
彼は部活動で、常に遅くまで、サーバールーム(コンピューター室の準備室のようなエリアだ)に居るらしい。
昨日も、18:00の見回りの時間でも、まだサーバールームに居た事は土師先生自身が見ている。
しかし・・・
「いやー、でもこういうとき、なんて言うべきなんでしょうね~、『タイホする!』って言っても、警察じゃないしな~。」唯香が能天気に代弁したように、非常に切り出しにくい。
まぁ、そもそも部室のロッカーにサバイバルナイフを入れてるという負い目もある・・・。
「あーぁ、こういうときに協力してくれないんだもんなー。」
例によって稗田と野沢は「あとは、任せるよ」と、部屋を出て行ってしまっていた。
「しかしまぁ、こうしていても仕方ありませんし・・・」そういって、黒井ミサ子が立ち上がると、反射的にナオも立ち上がった。
「仕方ないって・・・、どうする気ですか?」とややとがめるような言葉が口から出る。
黒井はやや俯くと、ニヤリと口元を歪めて「大丈夫ですよ。知っていることを話してもらうだけですから。」と答えた。
「やややゃゃゃ!や!・・・だめですよ!分かりました僕が行きます!」黒い不安がナオの背中を押していた。
・・・・・・・・・とりあえず!僕が行かなくちゃダメなんだ!
もう、冬も近いというのにこの部屋は空調がされているらしく、無機質な空気を感じた。
なんとなくぎこちない動きで扉を開き、靴を脱ぐ。
『靴を脱いでから扉を開ければ良かった』そんなつまらない事を思いつく。
扉を空けた先の部屋は思いのほか狭い。
もう、夕暮れ時ではあるのだが、真っ黒なカーテンが引かれたその部屋は蛍光灯の光で青白く明るかった。
少年、三崎はコンピューターディスプレイを背にして、ナオのほうへ向いていた。
「なにか、用でも?」冷たさと硬さを感じさせる声。
「その、右手の事を・・・つまり、なぜ、うちの部室へ入ったかって事を聞きたい。」ナオは相手の声に、自分と同じくらいの緊張を感じていた。
三崎は困ったように首をかしげた。
「ああ、なるほど」
無内容な応答だと感じた。
「つまり、認めるんだな?」
「いや、それはまだ早い。しかし、否定しても仕方ない。確信が無ければわざわざ合いに来ないだろう?」
意味がわからなかった、それが顔に出ていたのだろう「つまりだ、君は確信がある、但し僕はそれを認めない。」
何か言おうとしたが、それが言葉にならないうちに三崎はさらに言葉を続けた「だたし、動機はある、露木さんのノート。あれは僕が譲り受けるはずだったものだ返してもらいたい。」
昨日そのあと意味のあることを話せなかったと思う。
部屋を出た瞬間手が震えていた事は覚えている。
Go to The Sinario>>