大喧嘩編


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[09/01/25書き込み]

なんでもない、漫画でもゲームでもよくある演出だった。
ちょっと臆病な子がいじめられていて、おてんばなヒロインが仲裁に入ると、いじめっこ達がヒロインの悪口を言いながら去る。
ありきたりな展開だ。

幼「こういうのって実際は大体、いじめられる方が悪いよね」
俺「…なんで?」
幼「だって、小学校でも中学校でも高校でもって、ほぼそいつに問題あるからじゃん」

一理あると思った。
俺は、小学校のクラスメイトが誰もいない中学に進学させてもらったが、結局は中学でもいじめられた。
高校だって、少し遠くの私立にしてもらったが最初はいじめられ気味だった。
職場でも、最初の店長には「高校上がりのゴミが舐めてんじゃねえ」と蹴られたりもした。
溶け込めないからどこに行ってもいじめられてしまうという人もたしかに多いだろう。自分はそうだとも思っている。
不愉快で、グズで、気持ち悪くて、何も出来ないやつ…。それは、自分でも直そうと努力しなきゃいけないことなのかもしれない。本当に悲しいことではあるんだけれど。
涙をこらえ、必死であがき、痛みを堪えて頑張れば…幼なじみに救われたみたいに、誰かに救われることもあったのかもしれない。
当時はどうして俺だけがと思ったものだが、今はそう感じる部分もある。

 ◇

他にもいじめられている奴はいて、その中に同情出来ない奴もいた。
俺の極楽鳥二枚を盗んだ奴が不登校になった時は、ざまあみろとさえ思ったものだった。
しかし、よく考えてみれば俺だってざまあみろと思われていたのかもしれない。自分からやれることがあったかもしれない。
仕事をやってからそう思うようになった。
お客さん達は、俺が本当にたどたどしく対応していた頃から「もうレジ慣れた?」だの「ちゃんとメモれた?もう一回言おうか?」だの「毎日お疲れさん」だの、やたらかわいがってくれた。
かわいい女の子の店員だっているのに、それ以上に優しくしてもらった。
学生の頃だって、一生懸命やれば誰かが認めてくれたかもしれない。
そこは、少し反省しなきゃいけないなと思った。

 ◇

でも、たとえば顔がきれいだから妬まれているだけで性格は悪くない人とかもいるだろう。
逆恨みが原因で、しかも進学先でも粘着されて…みたいな、本人には非のない人もいるはずだ。
…話がまたそれるが、初恋の思い出話をさせてもらいたい。
俺の初恋の人は、俺をかばったせいでいじめられそうになったのだ。
ある日たまたまその人のクラスに引きずりこまれた時に「カズッチをいじめないで!」と他の男子と倒れてる俺の間になってかばってくれた。パンツは白だった。
友達も多く誰とでも話し、成績も上位、スポーツでも何度も表彰され、卒業式は卒業生代表だった。欠点がまるでない、マンガのキャラのような人だった。
ある日、その人のファンクラブの人達に呼び出された。俺がその人を好きなんじゃないかと噂になって、手紙で呼び出してみろだのなんだの言われているという。
それは違うと伝えた。それからは彼女に火の粉がふりかかることはなくなったので良かった。
もうその時は振られていたし、自分の気持ちに嘘をつくのは別にどうってことなかった。それよりも迷惑をかけたくなかった。

 ◇

それから、卒業式までろくに話すことはなかった。
しかし、卒業式にたまたま教室に二人きりになってしまった。
そしてアルバムを渡され、何か書いてと頼まれた。
驚いた。嬉しかった。
おそらく彼女もなんとなく今までの状況を理解していて、「もう卒業式だから仲良くしても良いよね」という気持ちで渡してくれたのだろう。
何も言えなかったし何も書くことが見つからなかったが、「あなたに会えて本当に良かったです」と書いたと思う。
ペンを渡すと、何か書いても良いかと聞かれ、頷くと俺のアルバムにも書いてくれた。
彼女は俺と友達でいてくれるんだ。それだけで最高の気分だった。

 ◇

高校になってから、英検を受けに行った時に降りた駅で彼女を見たことがある。
多くの人の中、その人だけ浮かび上がって見えた。
部活だろうか、駅前の広場のような場所でジョギングしていた。相変わらずスポーツも頑張っているんだなと、またも感動した。
よく考えれば走って追いかけて声をかけることも出来たのだが、俺はぼけっと見ているだけだった。
一目見ただけなのに胸が熱くなり、運命だろうかなどとバカみたいに一人盛り上がって、ついでに英検は落ちた。

 ◇

ようやく話が戻せる。
まあそんなこんなで、いじめられるのを助けてくれた初恋の彼女の良い思い出もあり、いじめられる方が悪いというのは言ってほしくない言葉だった。
でもまあ、俺がどう考えているかなんてどうでも良いことだ。幼なじみだって深く考えて言ったわけじゃないだろう。ましてや俺を傷つけようだなんて、思ってもいない。
そうだねと言って、納得したふりをすれば良いことだったのだ。

俺「でもさ、嫌いだからっていじめることないじゃん。かわいそうだろ。うざいなら無視すれば良いのに」

だけど、大好きな人の言葉だからこそ、聞き流せなかった。
分かってほしかった。

幼「そうだけどさ」
俺「そうだけど?」

もう止まらなかった。

 ◇

幼「ごめんね」
俺「謝ってほしいわけじゃないよ」
幼「じゃあ仲直りのゲームしよ、何でも良いよ?」
俺「ゲームする気分じゃない」
幼「怒ってる?」
俺「別に…」
幼「そっか…」
俺「…」
幼「え、えっちなこと、もしまたしたかったら、良いよ?
  そうだ、制服もあるよ?」
俺「ヘラヘラしてんじゃねーよ」
幼「そんな、そんな言い方しなくたって…良いでしょ…」
俺「…」
幼「…ひっく…」
俺「ごめ」
幼「もう…ってよ…帰ってよ…」
俺「…」

ガチャ…バタン。
俺は、バカだ。

 ◇

泣かせてしまった。
幼なじみは今までどんなことも我慢してくれたのに、たった一つ気にくわないことがあったからってあんな…あんなひどいことを言ってしまった。
嫌われてしまったんだ。今までの全てを、台無しにしてしまった。
もう笑ってくれない。支えてくれない。またひとりぼっちになったんだ。
ずっと続くと思っていたのに、なんてあっけないんだ。
同棲だの、泣かせないだの、思い上がりもいいとこだった。

 ◇

駅前のベンチに座ってうなだれていると、声をかけられた。

警官A「君、具合でも悪いの?」
俺「あ、いや…別に…」
警官A「本当に大丈夫か?」
警官B「苦しそうな人がいると市民から通報があってね」
俺「はあ…」

通報か…。中学の時にも同じことがあった。苦しそうだからなんて、どうせ嘘だ。
怪しい奴が思い詰めた顔をしてて何をしでかすか分からないから様子見しろってとこだろ。

俺「だから何でもないですよ」
警官A「何でもないって顔じゃないぞ?」
警官B「平気なら立ちなさい、みんなが心配するから」
俺「分かりましたよ…」

しぶしぶ立ち上がって、野次馬がたくさんいる駅側に行くのもなんだかバツが悪く、あてもなく歩いた。

 ◇

そろそろ良いだろうと、駅に戻った。
しかし、俺はただ座ってるだけで気味悪がられるのか。
…そうだったな。本来そういう人間だった。
ちょっと働いて、物珍しさでちやほやされて、幼なじみも優しくて、そのまま付き合ってくれて、それで勘違いして有頂天になってたけど…。
でも、俺は俺だった。ちょっと夢を見てただけだ。帰ろう。俺の居場所は、自分ちだけだ。
なんだか疲れた。早く寝よう。
帰って…眠って…何もかも…全て…忘れてしまおう。

 ◇

電車に乗ろうとしたが財布がない。というか上着を忘れた。
それに気付いてしまったらこんなに寒いのに、気付かないでいたとは。こんなんじゃ通報されても仕方ないかもしれない。
ポケットを探ると合鍵が出てきた。鍵はしてきたみたいだ。
上着から鍵だけ出して持ってきたらしい。不思議なもんだ、自分ちの鍵は持ってきてないのに。これじゃ、戻る口実ほしさにわざと置いてきたみたいだ。
もし無意識の内に帰れるように置いてきたんだとしたら俺はなんて女々しいんだろうか。
なんと言って弁解しようかあれこれ考えてる間にメールが来てしまった。

 ◇

幼【今どこにいるの?】
俺【ごめん、上着置いてきた。取りに戻る】
幼【わかった】

 ◇

戻ってドアを開けると、幼なじみが背中を向けて座っていた。なんだかとても小さく見えて、抱きしめたかった。
でも、俺はもう彼女を抱きしめちゃいけないんだと思った。
俺の上着を抱き抱えるように持っている、AIBOの前の幼なじみに声をかけた。

俺「ごめん、わざとじゃないんだけど…」
幼「ねえ、これって名前付けられるんだよね」
俺「うん」
幼「どうやるの?」
俺「あ、まだダメなんだ。一段階成長しないと」
幼「そっか」
俺「…」
幼「名前、考えたのに」
俺「なんて名前?」
幼「『和くん』」
俺「…」
幼「和くん、ごめんね」

AIBOをなでながら、震えた声で幼なじみがそう呟いた。

 ◇

やっぱり、抱きしめてしまった。
俺「みお…」
幼「…」
俺「友達でも良いから…ずっと…いっしょにいてほしい…」
幼「…ずっといっしょじゃない」
俺「これからも…ずっと…?」
幼「これからだっていっしょ!」
俺「ありがとう…」
幼「別に、お礼を言われるような事じゃないでしょ。
  好きでいっしょにいるだけなんだから」
俺「それでも…ありがとう…俺なんかと…」
幼「あんただからいっしょにいるのよ、バカ」
俺「お前がいなかったら俺…きっと今も何もしてなかったよ…お前とのことはすごく価値のある経験になったと思う。
  だから感謝してる…振られたからって恨んだりしないから…ありがとう…」
幼「振ってなんか、ぐす…ないってばぁ…」
俺「だって、出ていけって…言ったじゃん…」
幼「出ていくと…思わないもん…いつもみたいに…だっこ…してくれるって…思…ぐす…」
俺「なんだよそれ…だったら…ひっく、追いかけて来いよ…すぐメールしろよ…」
幼「こわくて無理だよ…なんでメールして…くれなかったの…?」
俺「メール来ないから…まだ怒ってると…振られたと思ったし…送ったら迷惑かと…」
幼「迷惑なわけ…ないでしょ…バカ…」
俺「そっか…」
幼「許して…くれるの?」
俺「俺ごぞごめん…」
幼「ううん…」
俺「好きだよ…」
幼「私も好き…大好き!」

 ◇

俺「もう死んでも良いや」
幼「勝手に死んだら許さないからね」
俺「じゃあ生きる」
幼「あと、私が満足するまでは絶対に振ってなんかやらないからね」
俺「頑張る」
幼「うん、そうして」
俺「あ…愛してる…よ?」
幼「バカ…」
俺「ところでさ」
幼「うん」
俺「来月からいっしょに暮らしたいんだけど」
幼「うん」
俺「良い?」
幼「良いよ」

『さあ、いこう
 世界は美しく
 そして
 人生はかくも素晴らしい
 It's a Wonderful Life!』
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