日常編61

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幼「ごめん、寝坊しちゃった!」 みおが慌てながら俺を起こす。 予備にセットしてある俺のアラームが鳴っている。 俺「俺からすりゃちょっと遅いだけじゃん」 前に、俺が起きないのは話したと思う。電話やインターホンにも気付かず寝ている。つまり、基本的に時計のアラームでもみおだけが起きることになるわけだ。 なのでアラームも『みおの起きる時間』に設定してある。俺は大体みおに起こしてもらっているわけだ。 普段みおは朝起きてもすぐには動かないことが多い。毎日が睡眠不足だからうとうとしているわけじゃなく、低血圧の人の朝みたいな感じなのだ。 ようするに、休みの日に睡眠十分の状態で自然に起きてもダメな時はすぐに起きれない。長いと30分くらい横になっているし機嫌も悪く、みおの数少ない弱点の一つだ。遠目に見て観察していると、ときおり小さなうなりごえが聞こえる。なかなかかわいい。 休みの日に俺の方が早く起きてしまってお腹が空いている時は、みおが動いてご飯を作ってくれるのをまだかまだかと眺めている。 逆に俺は睡眠不足じゃなければ起きて30秒でゲームを始めてもへっちゃらで、眠くもないのに何故に起きるのがしんどいのかよく分からない。起きたらすぐに支度出来る。 なので、予備のアラームのタイミングでも俺は余裕で間に合う時間だったりする。むしろ普段は家を出るのが早過ぎて立ち読みが出来るくらいだ。 俺「なんかご飯作ろうか?」 幼「大丈夫」 俺「キューちゃん食べる?」 キューちゃんってのはきゅうりの漬物のやつだ。みおはこれが好きだ。 箸でみおの口に持っていくと、髪をとかしながら食い付く。 もう一つ口の中に放り込む。 幼「大丈夫だから和くんも支度しな」 俺「じゃあこれでラスト。はい」 幼「モグモグ……」 なんだか、子供のおもちゃの魚釣りゲームみたいだ。 本当はもっとエサがあげて遊びたいが、早く支度をしないと怒られそうなので止める。  ◇ 俺「ネクタイ分からんかった」 みおが忙しいので自分でネクタイを締めてみようかと思ったが、締め方がやはり分からない。 みおは、自分が休みの日でも俺が仕事ならいっしょに起きて朝ご飯を作ってネクタイを締めてくれる。もちろん俺だけが休みの日は俺は寝ている。 幼「……よしっ」 ネクタイを締めて手を離す。 俺「行ってくる」 幼「ご飯は?」 俺「チョココロネでも買うわ」 幼「ごめんね、いってらっしゃい」 俺「あ、そうだそうだ。お前一応チョコ持ってけよ!」 チョココロネでチョコを思い出して、冷蔵庫のチョコをみおに渡す。 みおは慌てていると意外と忘れ物とかするし、あまり気も回らない。 何も言わないでいるとチョコすら持たずに飛び出しそうだ。 俺「じゃあね」 幼「はい、いってらっしゃい」 俺「携帯忘れるなよ」 幼「うん、大丈夫」  ◇ その日の帰り、駅前を歩いているとみおとばったり会った。 幼「おい!」 俺「うわっ」 幼「さっきから呼んでるのに」 携帯をいじっていて気付かなかった。 幼「今お前1メートルぐらい飛んでたぞ」 俺「1メートルってのび太かよ」  ◇ 幼「スーパー行くからついてきなさい!」 俺「えー、携帯の電池がないんだけど」 幼「いーから来い」 元気そうなんで少し安心する俺。 俺「遅刻しなかった?」 幼「ギリギリ間に合った」 どうせ駅まで走ったりしたのだろう。 幼「和くん大丈夫だった?」 俺「俺は余裕だろ。立ち食いうどん食べれたわ」 幼「良かった」 俺「みお何か食べられたの?」 幼「余裕なかったからチョコ食べた」 俺「チョコだけじゃ腹減ったろ?」 幼「でも全然違ったよ。助かった」 俺「そうか?   まあきゅーちゃんも少し食べたもんな」 幼「うん」 俺「晩ご飯、何にするの?」 幼「和くんにはうなぎ買おうかなって思ってたんだけど」 俺「うなぎ?」 幼「うん。食べたくない?」 俺「食べたいけど」 幼「じゃあ私のお金で」 ここらでお金に関して詳しく説明しよう。 俺とみおは結婚しているものの、未だに食費やなんやかやはワリカンになっている。 ワリカンのための共用の財布があり、この財布が残り少なくなったら二人で同じ額を足すようになっている。二万円と二万円で計四万円をプラスといった感じだ。 今回の『私のお金で』とか、他にも『買ってあげる』とか言ってるのは、ワリカンじゃなく私が自分の財布からこれを買いますよってことになる。負担金額が倍なのだ。 俺「じゃあ俺もみおの何か買おうかな」 幼「なんで?   良いよ」 俺「今日は起きてすぐ動いてしんどかったでしょ?   うなぎなら弁当タイプならあんまり手間かからないから、みおのご飯もなにかすぐ出来るのにしちゃえば晩御飯サボれるし」 遅刻しないようにあれこれ急いだんだし、いつもより疲れてるはずなんだ。休ませてあげたい。 何か失敗して疲れてる時に、みおは逆に無理をする。偉いとは思うが心配だ。たまには手抜きしたって良いのだ。 などと書いてみたが、本当はみおが倒れて病院に運ばれたりしたら気が動転するからだ。 桃やタマが立ちくらみしたり倒れたりしてもちょっとは心配になるのだから、倒れたのがみおだったらきっと顔が真っ青になって泣いてしまう。 みおは俺に押し倒される時だけ倒れてれば良いのだ。  ◇ 幼「私は適当に作るから大丈夫だよ?」 俺「でも腹減ったしすぐに食べたいからさ。両方弁当にすればいっしょに食えるじゃん」 幼「良いの?」 俺「食べたいのあればね。なかったら俺が何か作るよ」 正直作るのは面倒なので弁当にしてほしいが、みおは弁当なんか食べたくない気分なのかもしれないからあまり強く言えない。 幼「なかったらいっしょに焼きそば作る」 俺が食べない焼きそばなら野菜入れ放題なのでみお好みの焼きそばになる。だから、みおが一人で食べる時は焼きそばが結構多い。 俺「ウインナーあったっけ?」 幼「私は別に無くても良いけどね」 俺「お前ウインナー要らないの?」 幼「普通はキャベツとお肉ともやしくらいじゃない?」 俺「ウインナーが入ってるとご飯が進むじゃん」 幼「お前はご飯といっしょだもんね」 俺「ペヤングとか中のカヤク入れずに食べると野菜にソースがいかない分だけちょっと辛くなるから、野菜嫌いな奴はカップ焼きそばはご飯と食べるのがデフォになる。   量的にも具がない分をご飯で補えてちょうど良い」 幼「そういう野菜嫌いの工夫みたいの聞く度になるほどって思うんだけど、絶対に役に立たないよね」 俺「極度の野菜嫌いの友達に教えてあげて」 幼「いねーよ!」  ◇ [スーパー] 幼「これにするわ」 安上がりなシャケ弁当だ。 量が少なくて女子中学生の弁当箱くらいしかないし、体に悪そうな真っ赤なウインナーも付いてない。個人的にはあまり美味そうにも見えないが……。 俺「これが食べたいのな?」 幼「うん。シャケ食べたい」 遠慮してるわけじゃなさそうだ。 ……あくまで俺の洞察力なのでイマイチ不安だが、買うことにする。  ◇ 幼「いただきまーす」 俺「モグモグ」 幼「美味しい?」 俺「うん」 幼「ちょっとちょうだい」 そう言い、うなぎを一口食べる。 幼「あ、美味しい」 俺「うなぎって魚なのに魚っぽくないよな。安かったら食べまくって栄養バランス取れるのにな」 幼「あんたはうなぎったって蒲焼きばっかりなんだからダメでしょ。色んな魚で色んな食べ方をしないと」 俺「ああそっか」 幼「つーわけでほら、シャケ少しあげるから食べな」 俺「別にシャケ良いって」 幼「あ、皮全部あげるわ」 俺「要らないだけじゃねーか」 みおは何故か魚の皮があまり要らないらしい。俺としてはあってもなくてもどうでも良いし、皮をイチイチ取るのは面倒なのでくっついたまま食べてしまう。 俺「まったく、モグモグ……」 幼「皮の栄養あげてんじゃんか」 俺「ホントかよ……んぐ、この骨でけえ」 口から骨を出しながら文句を言う。 幼「骨のとこあげたんだよ、優しいでしょ?」 俺「アホか」 お弁当でも、みおと食べると楽しい。

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