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東東姉弟



「入ってきてください」
唐突に始まる事は別に気にしないでくれ。プロローグを作るほどの話じゃないんだよ。
「「はい」」
今は3月某日の朝HR。転入生の紹介だそうだが…いったいなんだ?なんでこんな時期に?
教室の前のドアから転入生が入ってくる。始めは女子がざわつき、後に男子が叫んだ。
「今日からこのクラスに入ってきた東東姉弟だ。同じクラスの理由は弟がシスコン…もとい姉思いだからだ」
なにか変なことが聞こえたが気にしないで置こう。
「東東京一です。シスコンとか言われましたが事実無根です。信じないで下さい」
きっちりとした言い方。音咲とは違った…いや、音咲が異常だな。
「東東瑠巫女です。弟が無駄に構ってきますが、無視してやってくださいね」
これまたきっちりとした意思表明。弟の方は顔が引きつってるぞ?
「ではお二人とも…あのアホそうなやつの横と後ろに座ってください」
二人は迷うことなく池谷の周りの空席に座る。池谷が東東さんを目を輝かせてみていたが、それは弟の視線により一蹴された。

そんな少し面白そうなやつが来た日。俺はやはりいつもの生活を崩すことなく至極いつもどおりに過ごして放課後。
あの二人は別に俺とも関わらないだろうな…とか考えていると、
コンコンコン
…誰だ?
俺は返事をするでもなくドアを開ける。そこにはお約束。転入生がいた。
…なぜここに?
「…迷いましたのね」
マジか?
「…はいなのね」
因みに二人ではない。姉の方だ。弟の方は…迷いそうなやつじゃないな。外見的だが。
「あの、しばらく中にいていいのね?」



あの後、刹那の間もあけずに俺はOKを出した。我ながら早かったと思う。
「弟さんを探さなくていいんですか?」
至極ありきたりな事を言う俺。普通なら探しに行くだろう。
「私が行くと…今度は学校外で迷いそうで…怖いのね…」
ここでしばらく間が空くので瑠巫女さんの外見チェックに移ろう。
髪は明るい茶色。アニメでよくいそうな色だ。それでいてショートヘアーで、その少し幼い感じの顔にはぴったり合っていると言えるだろう。でている所は出ている体つきをしており、前の学校でも非常にモテたに違いない。その度に弟が東奔西走している姿が目に浮かぶ。アレ?あったことないのに同情できるぞ?
「あの…」
どうしたんだ?
「私を呼ぶ時は…ルミと呼んでくださいなのね」
わかったよ。ルミだな?
「はいなのね。あと…あまりじろじろ見ないのね」
…これは物語を進めるのに当たっての重要な考察であって
「嘘なのね。顔がなんかエロいこと考えてますって悟ってるのね」
エロいこと…エロいことなのか!?
「そうなのね」
バンッ
今年中ずっと外れるんじゃないかと思われていつつ、まだまだ生涯現役じゃよといっている老人のような蝶番にもうちょっといたわりを見せてやってもいいんじゃないのかと自然に思わせるような音と共にドアが開く。もちろん七恵が開けたのさ。
「睦月!?その娘誰!?もしかして無理やり連れ込んで…」
「俺がそういうやつだったらとっくに前科があるだろうよ。それにそう思ってるなら俺の家に来るな」
俺が言い終えた直後、轟音が聞こえ出した。
簡潔に言うと…アニメの『ドドドドドドドドド』みたいな音だ。俺の耳はついにどうかしたのか?このごろは七恵に絡まれてアニメなんて全然見ちゃいないんだが…。
「ねえさーーーーーん!!!!!!!」
ドアの蝶番を吹き飛ばし、ドアを廊下にばら撒いたそいつは転入生の…京一だっけ?
まあ、シスコンであることに変わりはないな。
京一は俺の目の前までやってくるとそのまま俺の胸倉を掴んで
「テメエ姉さんに何しようとしたああぁぁぁぁあぁ!!!!?」
おい…ちょ…喋れねえ…。死ねる…死ねるって!
俺の顔が青ざめていったのを流石にまずいと感じたのか、ようやく七恵が俺の無実を証明してくれた。それまでは俺を見て笑ってたがな。機会があれば復讐してやる。
「さっきはごめんね。頭に血が上ってたみたいだよ」
…先ほどの形相からは想像できないほどの柔和な笑み。見るものの心を鎮めるような…癒されるレベルじゃないけどな。楓さん以下だ。
「さ、姉さん帰ろう?もう不審者も出歩いてるかもしれないし」
おい東東弟。出歩いてるならもう遅くないか?
「おっと…そうだね。じゃあ姉さん。今日は宿直室を使わせてもらおう?」
今日の宿直は入江だぜ?メイド服姿…是非拝見してみたいな。
「くっ…!かくなる上は……野宿!?」
あー…とりあえず音咲出て来い。そして東東弟を病院送りにしてやってくれ。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃもふぅッ!!!!?」
奇声を発しながら現れた音咲はパイプ椅子に衝突してぶっ倒れる。倒れ際に音咲の目が光ったような気がした。その時の音咲の視線の先には、翻った楓さんのスカートがあった。
…音咲は死んでしまった…。合掌…。
「秀?大丈夫ですか?」
楓さんがどこからか取り出した日本刀を首筋に当てながら音咲に尋ねる。いや、気絶してるでしょう?
「ケテルネツァーク。ハイドゥリッヒエレィフィオロージョス!」
……楓さん?何語ですか?
「ヘリグォドッホソクァンジェストロック。彼の者音咲秀を生き返らせたまえっ」
死んでないし最後なんか力抜けてませんか?
「おはようございます。今何時でしょうか?」
音咲。もう一度寝て来い。
「楓さんッ!!!?なんで僕を―」
楓さんの峰打ちが音咲の後頭部45度に見事に命中。音咲はマジでぶっ倒れた。理由は簡単だ。多分…見たんだろうな。
それは後で教えてもらうとして、
「…あの、楓さん?俺は見てませんからね?ホントですよ?」
断じて本当だ。見ていない。奇しくもあの楽園を目にしたのは音咲だけだ。何を賭けてもいい。
「それはわかります。ですが、後で秀に聞こうとしてますね?」
………。
俺の額を脂汗が伝い落ちる。今までに俺はここまで強い殺気を感じたか?
いいや、ないな。
楓さんの殺気は7月のときよりも、5倍くらいはあがってる。7月の5倍を7月分に足すんだぞ?
「とりあえず…お二人が怯えてるので今日はやめますが、次はありませんからね?」
…二人がいたからこうなったわけであって、二人がいなかったらこうならなかった事を考えると…素直に感謝できないな。
…あ、麻灘さん。こんにちは。
「こんにちは。これを片付けたらまたここにきますので」
そう言って麻灘さんは俺に微笑んで…『これ』!?次期主人を『これ』扱い!?
…まあ、音咲だし…いっか。
「ルミちゃん。オセロやらない?」
七恵。もうちょっと高校生らしく誘ったらどうだ?小学生みたいに聞こえるぞ?
「煩いロリコン」
…七恵?
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「いや、大丈夫だ。幻聴が聞こえただけだ」
…おかしい。俺にはそんな性癖はないし…それに俗物は七恵が泊まり始めた頃に捨てたはずだ…。それよりもだ。七恵はこんなに黒かったか?
(クスクスクス…腹話術には気づいてないのねクスクスクスなのね)
「私が白でいい?」
「いいなのね。先手は白からなのね」
二人のオセロが始まる。それを心配そうに見ている東東弟。スカウターでシスコンを計ったら壊れるだろうな。
「東東…とりあえず京一でいいか?」
「うん。僕もそっちの方が好きだからね」
「じゃあ京一。楓さんと軍人将棋してみないか?」
「勝手に人を引き合いに出すのはおかしいと思いますよ?」
といいつつも楓さんは軍人将棋を取り出して用意し始める。
「えっと…名前を教えてくれないかな?」
「堀崎睦月だ。1月の旧称が名前だ」
「じゃあ…睦月でいいかな?睦月はやらないの?」
俺がやったら一人余るだろ?それにお前を入れるわけにもいかないし、楓さんを余らせるなんて冒涜はできっこないからな。
「それじゃ暇にならない?」
残念ながら全然。完璧に負けオセロの七恵の表情を見てれば面白くなるさ。それに麻灘さんがもうすぐ来るだろうからな。
「ありがとう。睦月は優しいね」
素直にそんな事言えるお前が優しいと思うぞ?
「そうかもね」
「詰みです」
……京一?
「あれ?あ…うん。負けてるね。ありがとうございました」
…始めてから3分経ってないぞ?
「京一さんでは話になりません。睦月君。やりませんか?」


その後読者の誰もが予想したであろう声を上げて俺は軍人将棋に挑み、官軍となって帰ってきた!
今京一はメイド服だ。
楓さんは巫女姿。
七恵は…………ダボダボのワイシャツに超緩々のズボン。めちゃくちゃ歩きにくそうだ。
「う~。睦月~おんぶして~」
負けたお前が悪い。俺は官軍なんだよ。
もちろん楓さんの巫女姿は写真に撮ったし、七恵も写真に撮った。官軍様様だな。
「うぅ…睦月たちはいつもこここんな事をしてるのかい?」
声が裏返りながら物凄く恥ずかしそうに言う京一。その気持ちを忘れちゃいけない。その気持ちがあるのが常人なんだ。
「いえ、睦月君はやってませんよ?見た目からは想像できないくらい頭の回転が早いんですよ」
今にもお持ち帰りしたくなるような楓さんへの衝動を必死に抑えながら皮肉にも耐える。
「全然負けないってこと?」
楓さんが頷く。俺も過去を振り返ってみるが…今年は6回くらいかな。6回とも酷い罰ゲームだったが。
「…大変なんだね」
俺の気持ちがわかるやつが増えるとはな。嬉しい限りだ。
「明日からも来ていい?今日はすごく楽しかったのね」
先ほどから七恵と話していたルミがこちらに来て俺に言う。なんで俺?
「こちらからも歓迎するぞ。もちろん、姉弟だからな?」
歓迎するぞ、と言ったときに背後からバットで殴られるイメージが浮かんだが、気にしちゃいけない。