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毛糸を規則的に縫ってみた


クリスマスが目前に迫ったこの12月。近いように聞こえるが、俺が経験している現実はまだクリスマスまではほど遠い。あと3週間ほどであろうか。まあそんな事はどうでもいいだろう。俺にはイブや聖夜を共に過ごすような甘い関係にある間柄の奴はいない。音咲は誘えば好色を示してくれるだろうが、俺にそういう趣味の類はない。俺はノーマルだ。俺は一生涯をノーマルで過ごす。これは既定事項なのだ。どうせイブはいつものやつらでパーティーでもやるんだろうがな。音咲主催で。まあ俺はそのパーティーが来るまでこの平和的な日々を楽しむとするさ。不思議な力を持っていてそれを使って怪物退治をする連中のどこが平和かは俺も異論が夥しいが、とりあえずその当事者の俺が言ってるんだから間違いではない。これを平穏とは言わないって言うやつは、多分シルバニアの世界を極めてきた奴以外にはいないだろう。が、平穏というものは壊される為にあるようで、俺はそれを骨身に染み込ませているにもかかわらずそれを忘れていた。まったく、平穏ほど恐ろしい麻酔はないだろう。

朝、いつものように6時00分に起きる。理由は簡単、弁当を作るからだ。親からの仕送りがないわけではない。だがな?俺の家は中の中くらいの中流家庭だ。仕送るにも限度ってもんがある。だから毎日弁当を買っているとすぐに経済難となって我が家の大蔵省に借りこむか、バイトへ一直線となるのだ。俺もバイトくらいはしてもいいのだが、無論行けないのだ。働き口で困ってるわけではない。それなら音咲に頼めば一発でOKだ。ちゃんと働きたいといっているわけだから異論はないだろう。それよりも、それよりも大事なのは―
って時間の無駄だな。決して逃げてるわけじゃないからな?ニート予備軍じゃないからな?
不毛極まりないことを考えつつも、俺の手は律儀に動き続けていたようで弁当箱が二つとも盛り付けられていた。うむ、完璧…っておい!盛り付けたらダメだろうが!理由は母親にでも聞いてくれ。
盛り付けた具材をすべて違うよう気に移し変え、ムラを取る。こうしないと…母親に聞いてくれ。
俺が弁当を作ったのにかかった時間はいつもどおりで30分。このまま七恵を寝かしていると遅刻するだろう。現時刻は6時40分だが、登校時間を考えると7時30分には家を出なければいけないだろう。
「おい起きろ七恵。朝だぞ」
ありきたりなセリフを言う俺。これくらいなら変革があってもいいと思うが浮かばないのだからしょうがない。
もちろん七恵は無反応。俺もこれで起きたら毎朝苦労しないだろう。確か七恵は10月頃からこうなったと思う。普通人の見解では…多分寒いだけだろう。
だが俺もアホではない。こんな状態の七恵がどれだけ手強いか知っている。恐らく、音咲ホモ疑惑が確信に変わっても起きないだろう。じゃあどうする?必殺技を使うしかあるまい。楓さん直伝の。
「1月の空―」
がばっ
「…おはよ…う睦…月」
言い切る前に起きやがった。なんであの言葉を耳元で言うだけで起きるかは知らないが、便利なことだ。
俺は思い出したように時計を見る。もう7時か。時間が経つのは早い…のか?
とりあえず俺は七恵を正気に戻し、朝飯の準備に取り掛かる。もちろん、キッチンなるところからは七恵は見えない。というより俺が見えないようにした。そんな俺の配慮をあまり感謝することなく七恵は着替えている…と思う。なにかと理不尽だなこの世界は。
今日の俺が作った朝飯はフレンチトースト。賞味期限がそろそろやばそうな卵をふんだんに使った環境的配慮が著しい一品だ。食べ物を粗末にしちゃいけないぞ?食べ物から物体Xにするのもな?
賞味期限ギリギリといっても、一応は俺が作ってるわけだから食べれるものになっているはずだろう。というより俺はそこらの主婦よりかは料理が上手いつもりだ。自惚れじゃないことは音咲が証明してくれるだろう。
そんな家での事を済ませて学校に向かう。七恵が俺の家に無断で泊まることにはもう慣れた。鍵閉めて寝たにもかかわらずあいつは家の中に入ってきてたりするからな。いや、慣れたんじゃなくて諦めたのか。
不毛な考え事をしているとホームに電車が来る。学校に行くのに電車を使う必要はあまりないが、親からの数少ない支給品の中に定期が入ってるからな。親父のおかげだ。もっと言うと、学校は1駅行ったところにあるため歩いてもいける。自転車通学も許可されている。定期を崩して家系の足しにするのもいいんだが、それだと親父が哀れだ。まあ、楽できるからいいんだがな。
「今日の授業なんだっけ?」
既に電車内に入ったせいだろう。七恵が小声で聞く。
「数学、世界史、現国、古文、選択実習だな」
俺がうろ覚えの時間割を言う。合っているはずだが…如何せん俺は寝ているからな。需要がないのさ。
「数学の宿題…あったよね?」
もちろん。数学の…今は葛西は毎日宿題を出すからな。強面の黒スーツで園崎組幹部…って噂があるが、嘘だろう。
「睦月はやった?」
もちろんだ。見せてはやらんが、教えてやるならいいぞ?
「それでもいいから助けてね」

授業過程はこの際だから省略する。もし知りたいんなら、雑談の所にでも希望の意を示してくれ。書くから。

そんな色々な過程を経て今日の放課後の部室。今日は珍しくも5限だった為、既に部室は4人の定員を抱えている。俺はいつものように音咲と将棋。楓さんは…何をやっているのだろうか?七恵は…数学の葛西の宿題を攻略しようと頑張っている。…あ、諦めた。
今日もこんな感じで終わると思っていた俺達に、変革を齎すものがやってきた。
コンコンコン
「は?誰だ?」
俺は部室を見回す。誰も心当たりはないようだ。仕方ないので俺がドアを開けようと近づく。
バンッ ガンッ グシャァアッ


…物凄い音と共に睦月君が倒れました。倒れた頭のところに椅子が直撃してかなり痛そうです。…落ちてますね。私はとりあえずドアを見る。一応血糊はついてないようです。とりあえずは死ぬような事はないでしょう。次に睦月君を落とした張本人を見ます。…濃緑のショートヘアーに黄色味がかかった綺麗な目。他の誰にも真似できないような、それでいて美人な顔。躍動的なそのボディライン。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるモデル体型。外見だけなら誰もが交際を申し込みたいであろう人。
「ようやくこの時が来たわ!」
その人は困惑している私達に目もくれず言い放ちます。
「編み物部部長園絵彩!今このときより部活を始めます!」
○塾塾長みたいな言い方ですね。それはいいでしょう。私も編み物部員なので異論はありません。部活動説明会の時に12月から部活を開始するとは言ってましたし。12月に入っても始まらないようなのでないのかと思っていたのですけど…一応あったみたいです。言っておきますが、七恵も部員ですからね?
「あれ?楓と七恵は二人も捕まえたの?この二人もやってもらおう!うんそれでいこう!」
困惑している秀に目配せをする。
『無駄です。諦めましょう』
『それがよさそうですね』
「いつまで寝てるの?さっさとおきなさい!」
部長が睦月君に喝を入れている。多分起きるだろう…起きた。


…どうやら俺は生死を彷徨っていたようだ。まさかドアを開けようとしただけでそんな事になるとはな。日常には危険がいっぱいのようだ。気をつけよう。音咲から聞いた話だと、ここにいた奴ら全員で何かを作る事になったらしい。先ほど俺を生死の境で彷徨わせた人は…
と色々な説明を音咲から聞き終えた時には外は暗くなっていた。もう本格的に冬だからだろうな。俺は適当に話を切り上げて家路に着いた。二人…いや、三人は既に帰っており、俺と音咲は二人で下校する事になった。因みに、6時40分頃である。ああ、これで雪でも降って楓さんと二人だったら…。
音咲と他愛のない話をして家につく。音咲の家は俺の家の先だからな。
「ではまた明日」
「おう、また明日会えたらいいな」
「敬礼でもしてあげましょうか?」
「いや、明日ちゃんと生きていたいから死亡フラグは上げたくない」
本当に他愛の無い会話を終えて家のドアのノブに手をかける。ほのかに香ばしい香りが漂ってきた…。鍵を渡していないが、多分家の中には七恵がいて夕飯を作っているに違いない。ああ、久しぶりだな。色々と。
俺はノブを引く。案の定ドアは開いた。やはりいるな?
「ただいま」
形式上言わなければいけない言葉を口にする。別に言わなくても誰が怒るというわけでもないんだが、気分だ。
家の中に入ると香ばしい匂いは強まった。ますます楽しみだ。
「七恵?なに作ってるんだ?」
キッチンを覗き込みながら聞く。俺もまだまだ甘かった。
「七恵じゃないけど…、誰?」
…濃緑の髪と黄色味がかった目の結構な美人が俺の家のキッチンで…炒飯を作っている。どういうことだ。いったい誰だ!?
「お前こそ誰だ?ここは俺の家だぞ?」
至極もっともな事を言う。見たところ泥棒ではなさそうだが…なんなんだ?
「ここは七恵の家でしょ?あんたこそ誰?」
それは勘違いだ。ここは紛れもなく俺の家だ。断じて言うが、七恵の家ではない。住所録を見せてやろうか?
今にも争いが始まりそうな雰囲気の中、俺の後ろでドアが開いた。
「あ、お帰り睦月。遅かったね」
…七恵。今すぐこいつの事を説明しろ。そして俺に素直に怒られろ。

「…で、この人は俺達の高校の先輩で編み物部部長なんだな?」
「そうだよ?」
「で、その編み物部部長がなんで俺の家で料理をしてるんだ?」
「彩ちゃん今日は親がいないから可哀相だから泊めてあげよ?」
…よし。お前の頭には重度の障害が認められた。今から病院に連れて行く。これは要望じゃない。命令だ。絶対だ。
「なんでダメなの?睦月がなんかするわけじゃないでしょ?」
確かに俺には甲斐性がないけどな!普通に考えてみろ!どこに寝るつもりだ!
「普通にベッドでだよ?二人くらいなら入れるよ?」
ふざけるな。そんなことしたらどっちかが絶対に風邪引くに決まってんだろ。
「じゃあ睦月の布団を借りていい?」
お前は俺を殺す気か?このクソ寒いのに布団無しで寝ろと?そろそろ怒るぜ?
「じゃあ三人で寝る?」
マジで怒るぞ?
「嫌なの?」
「全然嫌じゃない!むしろ夢のようだ!だがな、お前には『彩ちゃんの家で二人でいる』って選択肢はないのかよ!?」
本当にもっともな事を言う。一応公的には二人は美少女の部類に区別されるだろう。もちろんそう感じるのは俺も同じだ。その二人と一緒に寝る事が嫌か?全然OKさ。だがな?どう考えてもそれは俺の中の理性がダメだって言うに決まってる!
「あ、そうだね。じゃあ行ってくるね」
そう言って七恵は編み物部部長を連れて外に出る。一応8時なので俺もついて行く。SNNが使える俺達にもしもは有り得ないが、もしもというのは可能性論だ。俺も可能性つぶしには付き合ってやるさ。
そう言ってついていくこと2分。園絵さん宅に到着。アレ?近すぎないか?
因みに、園絵さんが連れて行ったんだ。七恵とは初対面とあまり変わらないそうだ。
園絵さん宅は、どこからどう見ても普通の一軒家。変な属性とかそういう類のものは何も感じられない。
が、なんだろう。違和感を感じた。普通の家にはなきゃいけないもの…それが欠けているような感じだ。
結局違和感の正体が不明のまま、二人を無事に送った俺は家に帰る。
ドアノブに手をかけたときに、香ばしすぎる匂いが鼻につく。…焦げ臭い。
俺は中に入ってキッチンを見る。ああ、やっぱりか。
園絵さんは炒飯を作る途中のままここを離れたのか。物凄く弱火だったから俺が送るまでは気づかなかったんだな…。脳内園絵さん評価を改正。『傍迷惑な部長』…はあ……。

「で、俺と音咲にも編み物をしろと?」
昨日という日が過ぎ去った今日の放課後の部室。それまでにも色々あったが全て省略する。
「そうよ!あんた達二人はうちんとこのヒモでしょ?」
ヒモって…。わからないやつはわからないままがいい。それだけはいえる。
「ヒモですか。一応否定しておきますが…無駄ですね?」
諦めモードの音咲。昨日という経験が役に立ったのだろう。俺にもその経験を分けてもらいたいものだ。レベルアップできるかもしれないしな。
「ヒモじゃなくてもやってもらうよ?今回編んでもらうのはマフラー!文句とか異議は作り終わった後気が向いたら聞いてあげる!」
…こうして俺達はマフラーを作る事になった。どうせ暇だから別によかったんだが…ああ、敗北感。
色はくじ引きで決める事になり、俺は黄色を引いた。七恵は濃い青、楓さんは紺、音咲は赤、園絵さんは白だった。
早速マフラーを編もう…なんてことは俺と音咲には不可能だ。俺に料理が出来るという意外な特技があり、音咲に無限の後付設定ができるとしてもそれは無理だ。少年『K』は言った。『マフラーなどの編み物はクリスマスの日に顔を赤らめながら渡されるのが最高に萌えるんだ』とな。野郎が顔を赤らめながらマフラーを渡すシーンを見て誰が萌える?断じて正常な男は萌えないだろう。
そういう理由で俺達にはマフラーを編む練習すらできないのさ。
「じゃあ教えてあげよっか?」
…七恵?俺が教えて欲しいのは毛玉の作り方じゃないぞ?
「私だって裁縫とか編み物くらいできるんだよ?今言った事ってすごく失礼だね?」
あー…すまん。悪かった。教えてください七恵様。
「七恵姫じゃないの?」
こいつは自分のことを姫なんていって恥ずかしくないのか?男が王子様とか言ってるのと変わらないぞ?
「教えてください七恵姫」
まあ、素直な俺は言ってしまうんだ。ああ、素直なやつは損をするんだな。
「おっけぇ!手取り足…足はいいや、教えてあげるねっ!」
なるべく怪我のない指導にしてくれよ?教育と偽ってのチョークはごめんだからな?
「じゃあ私怨としてのチョークにするねっ!」
…言い過ぎた。もうダメかもな…。
「まるで鴛鴦みたいですね」
楓さんの微笑んでる顔が霞んで見える。…トミー?そこにいるのはトミーかい?首は大丈夫か?
とりあえず、そんな事があって俺は今人生初の編み物をしている。処女だな。…が、俺の処女は恐ろしく普通じゃないと思う。
どこの世界で美少女二人に囲まれて編み物をする奴がいる?どこの世界でこんな事になる奴がいる?
俺だけだろう。平行世界やループ論、世界に関する論は四十万だが、恐らくどの世界でもこんな経験をしているのは今この世界の俺だけだろう。ああ、幸せだ。などといえるのかは各自で考えて欲しい。先ほどの論を覆すようで悪いが、俺は幸福さと…言い表せない不幸さを感じている。因みに言うと、俺の指導には七恵と園絵さん。音咲には楓さんがいつの間にか指導者となっていた。できれば俺にしてほしかったんだが…ああ、不条理なり。
まあ充分過ぎるほどいい身分だと思うけどな。いや、そう思わないとやってられない。そうだ。俺は幸福なんだ。美少女二人に編み物の指導をされていて時々チョークとかヘッドロックとかかけられるけど幸せなんだ………!
そんな茶番を少しだけ書いてみる。

放課後― 俺はいつものように部室に行く。習性といっても差し支えないレベルになっただろう。…帰巣本能というか、その類のエネルギーが働いているのは確かだ。
俺の脚は自然に動く。これだけなら病院送り確実なのだが、俺の中ではこれが日常これが平穏なのだ。今更治そうとは思わない。だが、少し気味が悪いのは、7月の偽者事件(俺命名)の後からこうなった事だ。こじ付けかもしれないが、注意を払っておいて損は…神経をすり減らす事になるが…楓さんに癒してもらおう。それがいい。それと、偽者事件の後から俺の目が時々赤くなるといわれた。…偽者の野郎は俺に結膜炎の持病を残して逝ったらしい。
ああ、傍迷惑なやつだった。
とかこんなことを時折考えつつも俺は手を休めない。休めないだけで止まっている。まあ、編み物を始めて1日目だ。一度も止まらずに完成を見るなんて夢どころか妄想の世界でしか見れないだろう。そして手の止まった俺にここぞとばかりに詰め寄る七恵…園絵さんまで?傍目から見れば非常に羨ましいであろうこの状態。後ろから七恵が俺の手首を血を止めんとばかりに握っており、園絵さんは俺の手を前から掴んで動かそうとしている。えー…っと、七恵。もう手の感覚がないんだが。園絵さん?そのままだと指折れますよね?
「うぎゃああぁあぁあああぁ!!!!!」
情けない悲鳴が部室に響く。
指が折れたとかそういうものではない。俺は二人に先ほどの事をパイプ椅子の上でやられていたのだ。もちろん座っていたが、それでも不安定すぎたのだろう。見事にぶっ倒れた。前か後ろか?残念横だ。悲鳴の意味?俺が倒れる時に嫌なものが見えたからな。恐らく頭に直撃するだろう。
なにかって?それを言うには勇気がいるぜ?
―スーパー分厚いハードカバーの本Ver.長門は戦艦でも強かった版―
なあ、なんでこんな本が部室にあるんだ―?
言い切る前に直撃したわけだ。残念ながら二人は上手く体制を保って俺だけ地面と抱擁中だ。ああ、不条理なり。
「大丈夫?思いっきり頭に直撃してたけど」
これが大丈夫そうに見えるならお前の目はバルスにでもやられているだろう。
「大丈夫でしょ!男なんだからさっさと立ち上がる!」
男だからという理由にはなりえないと思いますよ?
「あっ。また敬語使ってる!私と話すときは敬語はやめなさいッ!!」
使いたくて使ってたわけじゃないし敬語でもなく丁寧語がいいとこだ。
「いいからさっさとやるッ!!」
…まったく。いつまでも俺が素直に言う事を聞くと思ってたら大間違いだという事を思い知らせてやるか。
「園絵部長。俺と勝負しませんか?」
我ながら唐突だと思う。だが園絵さんなら引っかかってくれるだろう。
「なんで私が勝負なんかしなきゃいけないのよ!!?」
もっともな事だ。だが、我に秘策あり!
「負けるのが怖いんですか?確かに敗者には×ゲームをさせるつもりでしたがね」
園絵さんの負けず嫌いに油を注ぐ。負けず嫌いかは確信はないが、外見的にはそう見えるだろう。
「クッ…種目は何!?」
種目なんて決まってるだろう。
「園絵部長。昨日炒飯作ってましたよね?それで思いついたんですが、料理対決をしませんか?」
俺が昨日の焦げ炒飯を処理する時に判明したのだが、園絵さんは炒飯を作るのが非常に上手い。恐らく他の料理も同じくらいのレベルだろう。人は自分に自信のあることを断る事は少ないからな。
「料理対決ね!?ふっふ~ん。これは私の勝ちになるみたいね!」
ほら。引っかかった。
「では今週の土曜日。音咲の家でいいな?」
音咲は軽く微笑む。頼むから頷くで勘弁してくれ。そんな毎回毎回微笑まれたら俺の背筋は氷河期を迎えてしまう。
「園絵さんは…七恵か楓さんに案内してもらってください。お題は何がいいですか?」
俺ならどんな料理でもできる。いや、できなくとも3日でマスターしてやる!
「あの、時期が時期なので、シチューなどはどうでしょうか?」
楓さんが言う。この瞬間園絵さんは勝ち誇ったような笑みになった。後で吠え面をかく姿を想像すると…ダメだ!笑っちゃダメだ!
「それで決まりね!」
これで俺への待遇も改善されるかな。
「でもマフラーはちゃんと編んでもらうからね?」
きちんと覚えてたよこの部長は。流石は部長なのか?
…今の今まで気づかなかったが、メイド服を着た…誰だ?
俺が不審に思っていると音咲がそれを察したようで、俺に顔を近づけて、
「僕の家のメイドさんです。名前は麻灘さんという人で、優しい人ですよ」
……戦闘歴は?
「…年齢-7でしょうか」
メイドだって?
「冥奴ですよ」


…とまあこんな事だったんだ。その後の料理対決はもちろん俺が勝ったし(園絵さんのシチューはビーフシチューで俺はホワイトシチューだったのだが、判定である麻灘さんの「この季節にホワイトシチューがあっているのと、旬の食材が味を活かしたまま料理されている堀崎君の勝です」とのことだ)編み物をしている時の指導の方法も少しやんわりとしたものに昇華した。普通に編み物をする分には構わないんだぜ?それに付きまとう副産物である痛みが嫌いなだけだ。そういえば、負けた時の園絵さんは面白かったな…。いや、これはまた今度だ。これ以上書くと際限がなくなること火の如しだ。

そんな過程があって、クリスマスイブイブイブ。つまり22日だ。
「よしっ。終わり!」
俺の作っていたマフラーがやっと完成を見る。二人の熱心な教師に指導と称する肉体的苦痛を味わったが、その分できはいい。俺としても作るときのモットーは『作るときは時間がかかってもいいものを』だからな。誰かの飯を作るときはあまりこだわらないが、時間や相手が許すときはこだわるからな。まあ、七恵は空腹に耐えられず俺を捕食しようとしてくるからさっさと作るのだが。そのほとんど無意味なモットーのおかげか、一番遅く出来上がった俺のマフラー。だが、そのマフラーは上出来だと思う。
「じゃあ今日の部活は解散!明日は休みだけど、とりあえず朝10時にはここにきてね!」
…そう言って園絵さんは部室を飛び出していった。今は雪が降っていて、走っていてはとても危ないのだが…あの人は大丈夫そうだ。七恵なら%で表すでもなくこけるけどな。
「睦月!?私ドジじゃないよ?」
この前―お前、布団干そうとしたら落ちそうになったよな?それから飯運ぼうとしたらぶち撒けたし。
「もういいって!わかったから!」
難なく七恵の撃退に成功した俺。次なるターゲットは…いいか。
「まるで台風のような人でしたね」
音咲が言う。まったくそのとおりだと思う。いきなり来て部外者である俺と音咲まで巻き込んで編み物をさせるとは。
「いいじゃないですか。こんな事がなければ、お二人とも編み物なんて一生しなかったと思いますよ?」
多分そうだろうな。楓さんと七恵は…七恵は微妙な所だが、この二人なら編み物をしててもおかしくはないな。だが…俺達の方は…ないだろう。ほぼ確実にないだろう。そもそも俺が料理ができる事も珍しい特技であるというのに。この世界がループしているのなら2%以下の可能性だろうな。
「ですが、いい先輩でしょう?あの先輩が来るだけで明るくなるんですからね」
別に今までが暗かったわけじゃない。でも、確実にいえるのは前より上の段階になったという事だ。別に計画とかそういうものはないんだが、そういう表現が一番あっている気がするだけだ。気にしないでくれ。
ふと、園絵さんの家族のことを考えてみる。
……あれ?もしかして園絵さんは両親がいないんじゃないのか?
「あれ?どうしてわかったの?」
やっぱり当たってたか。あの時感じてた違和感はこれだったか。園絵さんの家には、明るさが足りなかったんだな。
「すごいね。そんなすごい観察眼があれば、きっと探偵になれるよ?」
すごくどうでもいいな。名探偵コナソに触発された精神的に可愛い幼子だったら喜ぶのかもしれないが、俺は探偵業には憧れない。理由は簡単。不安定だからな。
「でも、今は彩ちゃんがいないから言うけどね?両親がいなくて本当は寂しいんだよ?」
わかったから。みだりに話すなってことだろ?
「わかったならよし!さ、帰ろ?」
ああ。鍵は俺が持って―いやいやいや!うろたえない!ドイツ軍人はうろたえない!
まあ、その日も七恵は俺の家に泊まったわけだが。
釈然としない気持が心の中で渦を巻いたが無視だ。そんなものにいちいち構ってたら心労で廃人になっちまう。

翌日
「睦月!?早く行こう!!?」
「わかったから!手を引っ張るな手を!まだ靴が―!」
あー…話せば長く…ならないな。かなり短い。漢字二字で表せる。
『寝坊』
だ。どうだ?完璧だろ?
「睦月も走ってよ!」
ああ…俺、厄年なのかな。高校生の三年間。ああ、まだ未来なのにその先もこんな日常が続いてる気がしてならない…。ああ、杞憂であれ…。
言われるがままに俺も走り出す。
…全力疾走を続けること2分。そりゃもう国営の展示場に飾れそうなほど見事に俺はへたばっていた。いや、誰だって全力疾走なんか2分も続けたら一歩も歩けなくなるだろ?いや、2分続けられただけすごいと思う。七恵の本気は俺の最速を軽く越えてたからな。それに合わせることを全力疾走って言ったんだ。ああ、俺すごい。
「頼む。休ませろ。死ねる」
現残存体力を生かさず殺さずの勢いで振り絞って出した声。受理されなかったら俺は七恵をどうにかしてしまうかもしれない。例えば―…ごめん。無理。返り討ちに遭う。
「もう…5分だけだからね?」
それで頬を膨らませていってくれたらかなり萌…ゲフンゲフン!いや、なんでもない!
俺は考える事をやめ、自身を休める事にした。
「とってね~!」
七恵の声がする。言葉どおりなら、俺に何かが飛んでくる事だろう。だが、今のところ視界にはなんの異物もない。じゃあ俺の死角から飛んでくるのだろう。さあ、どうする?どうやって避ける?
そうだ!伏せよ―
グシャッ
あ…俺…死ねる。今多分死ねる…。
「だから取ってっていったのに~」
ほう。投げて2秒も経たないうちに直撃する速度で物を投げて取れなかったほうが悪いと?
俺は七恵のいるであろう方角を見る。そこには100mほど離れた自動販売機の前にいる七恵がいた。よし、
秒速は…100mでいいか。
100二乗×…いや、不毛だ。
それにしても…なんでホットの炭酸飲料があるのかな?絶対不味いよな?しかも投げたから振ったと同じじゃねえか。ああ、飲む気失せた。
「あれ?飲まないの?『泡泡珈琲エスプレッソスペシャル』。これおいしいかもよ?」
おい。疑問系なのはなぜだ?飲んだことないな?俺を玩具にしたいんだな?
「絶対飲まない。いや、絶対あけない」
俺がそういうと七恵はそれを取って、
「じゃあ私が開けたら飲む?」
いや、それでも飲まない。絶対不味いだろ。
「じゃあ…私も飲むから睦月も飲んで!」
そこまでそんなものを飲ませたいか?いいだろう。乗ってやる。お前の飲んだときの勇姿は携帯フォルダにしまってやる。
「じゃ、開けるね?」
七恵がそれを開ける。…幸いにもそれは暴発する事はなく、無事に七恵の口へと運ばれた。
七恵がそれを幾らか飲んだ後すぐに、
「睦月。これ逝けるよ」
…いけるんだな?
「すごく逝けるよ?」
OK。飲んでやろうじゃないか。
俺はそれを七恵から受け取り、口に運ぶ。珈琲の匂いと炭酸の風味が合わさって、…なんともいえない気持ち悪さとなっている。やっぱ飲むのやめるか?いや、それはできないようだ。七恵が俺を輝かんばかりの目で見てきてる。ここで飲まなきゃ後々色々されるだろう。
覚悟を少しして一気にそれを口に含む。
ぬぐぅっ!!!!?
なんだこの最悪なコラボネーションは!!!!!? ヤバイ! これで人を殺せる! 珈琲以外にも何か入ってやがる!
俺は口に含んだそれを飲み込んでから製品表示を見る。
…コーラに麦茶か。まさか珈琲以外のものが入っていようとは。…なんで七恵は平気なんだ?
「これ、わかる?」
わかるわけがない。確かにコーラっぽい色ではあるが、コーラは固形物じゃない。
「さっきそこで、『夏季限定コーラグミビッグ版』っていうのが売ってたから買ってきたの」
…今冬だぞ?
「おいしいよ?」
そうかい。
「安かったんだよ?」
そうかい。
「あっちで売ってるよ?」
そうかい。
「間接キッスだよ?」
そうか…い?
「私が飲んだ後に睦月が飲んだでしょ?睦月、別に何も意識しないで飲んでたよね?」
……OK。どこか高いところはないか?どっかのビルの屋上、アパートの屋上でもいいから案内してくれ。
「とりあえず、行かないと怒られちゃうよ?」
俺はなされるがままにしか行動できなくなっていた。なぜかって?味覚と心のショックで脳が少しスリープを要しているからさ。ああ、情けない…のか?
七恵に効果音がついてもよさそうなほど気持ちよく引きずられながら学校に向かう俺達に電話がかかる。もちろん携帯で、音咲から俺へとだ。
「どうした音咲?」
「…それはこちらのセリフですよ?」
「それは失敬。で、なんだ?」
「約束時間の事を忘れていますか?」
いや、予想できてた内容だが、やっぱりこれを言われると反論できないな。
「いや、覚えてはいたんだがな?体がそれを忘れてて、二人揃って寝坊したわけだ」
携帯越しにため息が聞こえてきそうな間を挟んで音咲が、
「『あと5分以内に来なきゃ死刑だからね!』と園絵さんが言っていますので、頑張って下さい」
音咲。伝言を伝える時は普通に伝えろ。園絵さんの声色を真似るな気色悪い。
…切れてるし。
「誰だったの?」
言わずもがないつものやつらだ。
「急いだ方がいいの?」
時計を見ろ。ほら、公園の時計は長い針が真下を指しているぞ?
「歯食いしばってね!」
不吉な事を言うn―
考える暇もなく俺は陸上ジェットスキーを味わう事になった。死ねる。これ死ねる。

俺が死ぬような思いをしたおかげか、はたまた人が死ぬほどの強さで俺を学校まで引っ張った七恵のおかげか俺達は門限である5分以内に部室に入る事に成功した。ミッションコンプリート。報酬はない。

「さーって! どこかの誰かさんが遅れたから遅れちゃったけど」
園絵さんは俺を見ながら言う。俺だけなのか?そして同じ言葉を二回使うとアホっぽいと思われますよ?
「アホって言うな!このアホ!」
「グヒュウッ!」
鳩尾が…!
園絵さんは俺の鳩尾をありえないほど正確に蹴ってきた。しかもありえないというのは、その爪先が筋肉のないところにクリーンヒット。文字通り会心の一撃だったわけだ。
…今気づいたが、麻灘さんもいるようだ。
「あ♪ いいこと思いついた♪」
絶対確実に2那由多%いい事じゃない。断言してやる。
「私に対して睦月はタメ口で話す事!」
「「「「…………」」」」
静まり返った。園絵さんがこの一言を言う前には俺と園絵さん以外でなにかをやっていたようだったんだが、それが中断された。心なしか、音咲と楓さんの視線が俺に『いい反応をしてくださいね?』と語りかけてきているような感じさえする。いい反応ってどんな反応だよ!? 俺は吉本の人間じゃない。じゃあなんだ?
「それでいいのか園絵?」
タメで言う。違和感甚だしいが、そう言わなきゃまた鳩尾に蹴りが来るかもしれないからな。
「彩って読んでね?」
音咲!?楓さん!?なにその『ああ、フラグ立てちゃいましたね』みたいな視線は!?死亡フラグなのか!?
「彩さn…彩。今日はいったい何のために集まったんだ?」
途中で言い直したのは彩の足が動きかけたからだ。ああ、トラウマになるかもしれん。
…ところで、なんで七恵はそっぽ向いていじけてるんだ?
「今日集まってもらったのはね、籤を引いてもらうためなの!」
…正月まだ先だったぞ?曜日感覚でもおかしくなったか彩?
「みんなマフラー作ったでしょ?で、それを籤でみんなに分けようってことなの」
…要はプレゼント交換ってことだな?
「そうよ!さ、籤は作ってあるから引いてね!」
…いや、待て。考えろ俺!KOOLになるんだ堀崎睦月!ここで彩が交換だけで終わらせると思うか?いいや終わらないな。じゃあ他に何がある?
…なにもないだろ。
「俺からでいいか?」
俺が引こうと手を前に出す。先陣を切れば、跡に感じる感動が幾らか和らぐだろう。
俺は『くじBOKS SUPER』と書かれた箱に手を入れる。スペルが違う事は指摘しない。鳩尾が疼く。
…俺が引いた籤は………楔文字?
楔文字っぽいそれは、日本語に直そうと努力すると2に見えてきた。2…でいいのか?
俺に続いて全員が『くじBOKS SUPER』に手を入れる。もちろん指摘はしない。俺の二の舞がいやなんだろう。
「みんな引き終わったみたいだから、説明するわ!」
…麻灘さんが籤を引いたことには驚いた。てっきり傍観しているだけかと思ったんだが…。
「今引いた籤に番号が書いてあったでしょ?その番号と同じ人と一緒に24、25日を過ごすの!」
……俺に野郎と一緒に聖夜を過ごせと?
「まだ決まってないでしょ?もしかしたら私とかもよ?」
…そんな事勘弁してくれ。まあ、この人数でハズレを引くほうが…40%の確立で当たるな。もちろん楓さんと麻灘さんだ。残った七恵と音咲、彩は…来ない事を祈ろう。特に音咲。これだけの美女…がいるのにお前と聖夜を過ごすなんて『ビッグバンが再度起こってそれを撮影しようとしたんだけどシャッター押し忘れて失敗した』とかなるぐらいに惜しい。
「2番引いた人って誰?」
…楓さん?七恵の声色をまねしなくてもいいですよ?あ!麻灘さんですか?
「僕は3番ですね」
「私もですよ」
おい七恵。わざわざ楓さんの真似しなくてもいいだろ?
「私は1番ね!」
「不束ながら、よろしくお願いします」
…疑う余地もないだろう。
「ってことは睦月?紙見せてよ」
俺は無言で紙を出す。
「やっぱ同じだね。じゃあ二日間よろしくねっ」
二日だけなら大歓迎なんだがな。いや、普通の対応でもいいか。
「言い忘れてたけど、何をするかは各自の自由だからね!」
…彩は麻灘さんとだよな?二人がしゃべってる様子が想像できないのは俺だけか?
「心配無用ですよ。麻灘さんは僕もいい人だと思ってますので」
それでも会話が弾むとはとても思えないぞ?
「それは言ってはいけません。これ以上言うと聞こえてしまいますよ?」
俺は音咲の言うとおりに会話を切り上げて抗議に移る。決して組み合わせが悪かったわけじゃ…ないかもな。
「みんなで過ごすって選択肢はないのか?」
一番ベターな案を出す。あ、一番ってベストじゃん。
「それじゃ面白味に欠けるから今みたいにしたの!」
少し怒った様な声で彩が言う。何を怒るんだ?そんなに俺と一緒に居たかったか?
「え!?…あ、え、そんなわけないでしょ!」
なんだ違うのか……って気づかないわけがないだろ!いくら俺が普段『これで気づかないならあなたの五感は機能してないと思いますよ?』といわれるほどに鈍感だとしてもだ!まあ、今の彩の言い方は演技だろうな。リアルワールドにツンデレなんていないはずだ。
「じゃあ音咲か?」
俺じゃなかったら音咲だろう。
「なんで男限定なの!?」
あ、そっか。別に同姓と過ごしても問題はないんだったな。異性の方が問題ありか。
「とりあえずそれは別にいいでしょ!?」
彩が必死になにかを否定する。誰も何を否定しているかわからないために、その姿は酷く滑稽である。まるでピエロだ。解雇が決定されて必死に頑張ってるピエロだ。
「さ、マフラーの交換式を始めるわよ!」
…相手は?
「籤のペアに決まってるでしょ!もうちょっと頭使いなさいこのサナダムシ!」
酷い言われようだな。寄生虫レベルかよ。
しかもそのスペクタクルを音咲、楓さんたちは微笑みながら見ている。ああ、音咲よ。羨ましいぞ。いろんな意味で。
「言い忘れたけど、マフラーは相手の首にちゃんとかけてあげるのよ!?」
それを言った後、音咲は楓さんに何らかの情報伝達を行い、すぐにマフラーを交換し始めた。一瞬、音咲が楓さんの指輪を左薬指につけるビジョンが見えたがそれは俺の妄想だろう。いや、妄想であってくれ。
と俺が見とれている間に俺と七恵以外はすぐに終わってしまったようで、4人が俺をじっと見てくる。
このまま視線を合わせていても不毛なので俺が切り出す。
「七恵、かけるぞ?」
親しき中にも礼儀あり。俺はそれに乗っ取ってマフラーをかけ始める。
…マフラーを一つかけるのがここまで羞恥を孕むものだとは朝露ほども思っていなかった。マフラーをかけるとき、どうしても首の後ろに手を回さなきゃいけないので手を回す。そうするとどうなる?もちろんここにいる奴らは正しく状況を認識できる。だがな。傍目から見ると俺が抱き着いてるようにしか見えない。ああ、羞恥でどうにかなりそうだ。
俺が七恵にマフラーをかけると、音咲、楓さんは二人で並んで俺を温かい目で見てくるし。麻灘さんは『あの人は私を覚えているでしょうか…』みたいなことを考えてるし。彩はジト目で俺を見てくるし。七恵にいたっては全身茹蛸状態だ。その気持ちは俺もわかるが、そんな気持ちだからこそ早く俺にマフラーをかけて終わらせてくれ。
「七恵?」
七恵は我に帰る。今までどこに行ってたかは…決してわからなくていいだろう。
「じ、じじゃあかけるね?」
若干しどろもどろになりながらアポを取る七恵。いつもこんな感じだったら大抵の男なる生物は落とせるであろう。そんな恥ずかしい事をいとも簡単にモノローグに出現させるほどにまあ、その、なんだ。可愛いんだ。
「これで…いいかな?」
不安そうな上目遣いで俺を見上げる七恵。この攻撃の威力は体感しなくてもわかるだろう。いったいどこの誰が不安そうに上目遣いをしてくるやつにダメだしをする?上目遣いのレベル向上ならわからないでもないが、それは『K』に任せておこう。
「大丈夫だ。かけてくれてありがとな」
自分では至極自然に振舞って言ったつもりなんだが…なんだ?なぜみんなの視線がいろんなベクトルで強まる?
「では、僕から皆さんにクリスマスプレゼントを差し上げたいと思います」
音咲がどこかのテレビの司会アナウンサーのように言う。いや、お前は何をやっても似合いやがるな。
「前と同じで籤を引いてください」
俺は言われたとおりに籤を引こうとする。それを止めるように
「もちろんペアで一つずつですよ?」
聞こえた時にはもう遅く、既に七恵は籤を引いてはしゃいでいる。流石は光の能力者。使いどころが三角ねじに+ドライバーで挑むほどずれているが早いな。
はしゃいでいる七恵の隙を見て内容を見る。
……『USJ』
「音咲。これはどこだ?」
「ユニバーサルスタジオジャパン、関西ですよ」
ほう。で、お前はチケットだけ渡してどうしろと?俺の懐事情を知らないとは言わせないぞ?
「おかしいですね。あなたは一人暮らしで無駄遣いをしないと思っていたのですが」
それに追い討ちをかけるように
「もしかして、誰かと同棲してますか?」
………一回死ぬか?別に旅行費を出せといってるわけじゃない。とりあえずその態度を改めようか?その白々しい態度だ。さ、矯正しようか?
「遠慮しておきますよ」
俺はSNNで音咲を凍らせる。とりあえず少し頭を冷やせ。20分くらいで溶けるだろ。
「久しぶりに睦月のSNN見たね。そういえば…指令全然来なくなったね」
指令が来ない?おいおい何言ってるんだ。絶賛命令中だぜ?一ヶ月に4回は来てるな。

20分後、解凍された音咲から旅費を恵んでもらった俺と七恵は家に帰って早速旅行の準備をする事になった。なぜ拒否しなかったかって?It`s so easy. 音咲が俺の実家に電話であることないことを告げたためだ。お袋は『お土産はちゃんとお願いね! あと、年頃の女の子と一緒の部屋に寝るんだから気をつけなさいよ?』とか言われた。音咲が何を吹き込んだかは見当もつかないが、とりあえず言えるのは、『あの時凍らせた上で2、3回ぶん殴ってればよかった』本気で思ったね。


………今気づいたけど、毛糸って縫うじゃなくて編むだったな。

タイトル変更
『毛糸を規則的に編んでみた』