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バレンタインデーに幸福を


1年の終わりに近づくこの季節、謎を残したまま終わった剣道大会や学年末テストを終えた男子生徒達に、
機会だけは平等に与えられた日がもうすぐやってくる。
今日はその、14日なわけだが。残念なことに雨が降っている。
律儀にもやってきたシベリア寒気団に罵詈雑言を心の中で呟きながら登校している最中、俺に悪夢がやってくる。いや、夢じゃないな。現実だな。
「今日は音咲くんの家でピアノパーティーやるよー!」
このクソ寒い中、無駄に元気なこの女はこの登校中に大声で叫びやがった。ああうるさい。もっと静かにしてくれ。
「嬉しくないの?」
そのどこに嬉しがる要素があるんだ?確かにみんなで集まるのは楽しくなりそうだがな。楽しいと嬉しいは違うぞ。
「そうなの?それくらい別にいいでしょ?」
まあ、無視できる範囲だな。で、なんで今日なんだ?
「今日が何の日か知ってる?」
そのためか。わかったよ。いくから。
「よろしい。じゃあ放課後に部室に来てね。」
言われなくてもみんな集まるだろう。と、いいかけた時には七恵は俺の遥か前を行っていた。
まったく、その元気を分けて欲しいものだ。
俺が朝っぱらからどんよりした気分になっていると後ろから
「よう睦月。今日が何の日か知ってるか?」
知ってるさ。そしてお前の今日の戦果もな。
「失礼な。今日の俺は一味違うぜ?」
アホめ。今日変わったってチョコがもらえるわけなかろう。
「あ!そうだった!もうちょっと前に言ってくれよ!」
言ってやろうか?昨日あたりに。
「なに馬鹿なこといってんだよ。タイムトラベルなんてできるわけねえだろ。」
それがな、俺にはできるのだよ。某シリーズではTPDD(タイム プレーン デストロイド デヴァイス)と呼ばれている。
(時間平面破壊装置と言う意味)
俺的にはTPMAのほうがいいと思うが(タイム プレーン ムーヴメント アビリティ)または
(タイム プレーン ムーヴメント デヴァイス)時間平面移動装置(能力)だ。
だから俺としては…あれ?池谷のやつどっかいきやがった。周りも…ってことは遅刻だ!
思えば、朝から憂鬱な一日だった。

その日は授業はなかった。この学校は勉強を進める速度が早い。なのに、わかりやすい。
おかげで復習の時間もなく、1月の学年末には1年の範囲は終わっている始末だ。そして今日は出席日数のために来ているといっても過言ではない。
朝のHRの後は昼まで自由時間。これは偶然そうなったものだが、今日という日としては好都合なのかもしれない。
そして俺は部室で暇をつぶそうと、部室に向かっている。七恵も一緒だ。同じクラスだもんな。

どういうことだろう。部室の方からピアノの音色が聞こえる。が、なんの曲かは雨のせいでわからない。
「この曲、なんだかわかる?」
「いいや。雨が降ってなきゃな。」
「SNN使えばいいんじゃないの?」
「いや、自然はできる限り変えちゃいけないんだ。」
この言葉、俺がいなかったら絶対言わなかっただろう。俺って言うのはこれを教えてくれた俺だ。
部室のドアを開くと、中には黒光りする巨大なものが置いてあった。それはユニークな曲線を描いている。
「おい、音咲。このピアノはどっから持ってきたんだ?この部室には邪魔だと思うが。」
「今日のパーティーの為の練習ですよ。明日には撤去しておきますから。」
「音咲くん。一曲弾いてみて?」
音咲は少し考えた後、二返事で了承した。俺も興味があるからな。別に反対はしない。
「これを耳につけてくれませんか?」
音咲はヘッドフォンを渡してきた。こうでもしないと音が漏れるそうだ。さっきは漏れてたけどな。
俺達が装着し終えると、音咲は椅子に座り、
「ベートーベン、ピアノソナタ、熱情、第2楽章。始めます。」
低い音から始まる旋律。低い音から連続した音色が続き、落ち着いてもやりきれなさを感じさせる音色は続く。
しばらくそれが続いた後、だんだんテンポが速くなってきた。もうすぐ終わりか。
音咲は見事な指の動きで最後を弾き終えると、
「どうでしたか?」
と、聞いてきた。俺は素直に、
「すごいな。お前の英才教育ってのはなんでもありか?」
と、褒めてやった。七恵のほうも同じらしい。
「なあ、俺も弾いてみていいか?」
俺がそういうと音咲は『正気ですか?』という意味の視線を向けてきた。七恵は好奇心に満ちた視線だ。
「俺だってピアノは弾けるさ。小さい頃に習わされたからな。」
音咲はようやく『納得』の意味の視線を送ってきた。失礼なやつだ。
「何を弾くんですか?」
そうだな。3大ソナタならなんでもいいぞ。
「ねえ、バイオハザードで出てきた…え~と…なんだっけ?」
それか。わかった。それを弾いてやる。
俺は静かに椅子に座る。そして自分の指を確かめるように動かす。うむ、大丈夫そうだ。
悲壮感溢れる旋律から始まるこの曲。この曲でも難しい部分だ。そして曲は始まる。
苦悩、葛藤、苦しみ、やるせなさを滲み出すような旋律。かのベートーベンは実際の体験があってこそこの曲を創ったんだ。だからこそ世に出るような曲になったのだろう。その思いには俺も共感が持てる。俺も似たようなことがあったからな。
俺が演奏を終えると音咲が
「いつまでピアノをやっていたんですか?」
「中2までだ。」
「どうしてやめてしまったんですか?」
「それは…また今度だ。」
音咲は追及してこなかった。俺が嫌がってるのがわかったのだろう。
「ねえ、睦月。今のなんて曲だっけ?」
「月光だ。バイオ1に出てきたんだ。お前、バイオやってるのか?」
「あれって憂さ晴らしになるじゃん?」
…俺もバイオ買っておこうかな。そしたらチョークもしてこないだろうか。
「もう皆さん集まってましたか?皆さん早いですね。」
あれ?楓さん?またキャラ変えましたか?
「あ、気づいてくれました?」
今の楓さんは前の清楚な楓さんと剣道大会のときのちょっとやんちゃな楓さんの合成体みたいな感じだ。
「今言うのもなんだけど、私ホントはどんな性格なのかわかんなくなっちゃって、それで今みたいになったんです。」
性格が変わっても楓さんは楓さんですよ。と、言おうとしたが、やめた。クサイからな。
「では、もう行きましょうか。」
どこにだ?まだ放課後じゃないぞ?
「いえ、楓さんと僕だけです。お二人はここで待っていてください。」
いったい何があるんだ?ああ、楓さん。気をつけてください。そいつは変な趣味の野郎ですからね~。
楓さんは俺に微笑みかけた後、手を振りながら部室を後にした。部室には俺と七恵だけだ。
しばらく沈黙した後、
「オセロでもやらないか?」
「え?うん、わかった。」
七恵の反応がいつもと違うのが気がかりだが、別に大丈夫だろう。
俺は黒、七恵は白で始めたゲームは終了まじかには白一色と化していた。
「…マジか。」
「やった!私の勝ち~!」
…珍しいこともあるもんだ。いつもは結果が正反対なんだがな。
「何かご所望はありませんか?お嬢様?」
いつかのホストのまねをする。あれ、けっこう気に入ってたんだよな。またやってみるか。
「う~んとね~。じゃあ、これもらって?」
そう言って七恵が出したのはティッシュ箱の半分くらいの大きさの、きれいにデコレーションされた箱だった。
当然、今日に関するものが入っているだろう。
「それくらい、命令されなくてももらってやるよ。」
「そう?じゃ、さっきのなし。それ、家に帰るまで開けちゃダメ!」
…結構気になってたんだがな。まあ、いいだろう。それくらい俺だって我慢できる。
それから3分後きっちりに二人は帰ってきた。俺は悟った。こいつら、このために出て行きやがった。
部室に入るや否や俺は音咲に廊下に連れ出された。
「どうでしたか?」
なにがだ。顔が近い、息を掛けるな、気色悪い。俺には野郎の趣味はないんだ。
「…マッガーレ…。」
「なにか言ったか?」
「いえ、なにも。」
部室に入ると七恵が困惑したような表情を浮かべていた。恐らく、俺と同じことを聞かれたのだろう。
それからの俺達は雑談に興じたり、ボードゲームに興じたりなど、まことに平和な時間を過ごしていた。
ちょうど、昼飯(弁当は俺と七恵{俺のお手製}購買は楓さんと音咲)を食べ終わった時
『ただいまより、放課後とします。』
アナウンスが流れた。今日俺達は何のために来たのだろうか…。
「それでは行きますか。先に裏門に行っててくれませんか?そこに車が来るので。」
俺達は音咲を残して裏門に向かった。
途中、楓さんが
「ちょっと忘れ物をしてしまったので後で行きます。」
その後七恵が、
「あ、今日日直だった!」
と言って俺一人になってしまった。いったいなんだろうねこれは。
裏門でしばらく待っていると黒塗りのタクシーがやってきて、
「堀崎さん。お久しぶりです。さ、乗ってください。」
俺は麻灘さんに言われるがままに車に乗り、目的地に向かった。あれ?ずいぶん速度が遅いような…。
そんなことを考えていると
「飛ばします。」
その瞬間、有人宇宙飛行を目的とする鉄の塊の内部と同じくらいのGが俺に掛かる。
「大丈夫ですか?」
あなたこそなんで平然としてるんですか?俺なんて…う…産まれる!
俺がしばらくさっきの弁当の中身と戦っていると目的地に着いたようで、急ブレーキが掛かった。
「うぐぅぅっ!」
情けない声を不本意ながらも上げながら、俺は麻灘さん案内のもと、どっかのホール?に入った。
「他の3人はどうするんですか?」
俺が聞く。
「しりません。私は裏門にいる人を連れて来いと命令されただけです。」
…ま、いっか。そのうちくるだろ。
俺はピアノのある部屋に案内された。あれ?ここ…どこかで。
「どうかしましたか?」
「いえ、なにも。」
俺がピアノの椅子に座るとドアが閉まる。麻灘さんは既にいなくなっていた。
「え?麻灘さん?なんでドアが勝手に閉まんの!?」
不意に、頭上から何かが落ちてきた。
「いたっ。」
俺はそれを拾う。見たところ何かの端末のようだ。

電源が勝手に入る。そこで表示された画面はバイオハザード1のエリアだった。
「…ここはバイオのピアノ部屋を模して作られたのか…。」
この中の主人公(なぜか俺と同じ格好)は俺と同じ動きをするようだ。
確か、ここでは楽譜を見つけてそれを弾くと隠し部屋にいけるはずだ。とりあえず、楽譜だ。
月光の楽譜は既存の場所にあった。だが、ここで腑に落ちないことがある。
なんだって俺にこんなことをさせるんだろうか。意味がわからん。
とりあえず、月光を弾く。われながらいい出来だったと思う。
「…………何も起きない?」
原作では、上手い演奏だと隠し部屋が出現する。と、いうことは?
「今のが下手だったのか?ありえん。」
が、もう一度弾く。
再び静寂が支配する。
「マジか。これじゃ解決の糸口がつかめん。」
俺はしばらく考え込んだ。
ドアを開けようとする。開かない。
部屋を捜索する。特筆すべきものはない。
隠し部屋のある場所に行く。…忍者屋敷の扉だったようだ。
俺…演奏する意味なかったのかよ…。
隠し部屋に全身が入ると入口が閉じた。
「は!?マジか!?」
いやマジだ。と自問自答しながら状況確認。
原作のオブジェはないようだ。そして入口もない。どこにも手がかりはないようだ。
考えること30分。この狭いスペースではそろそろ酸欠になるはずだが…。いっこうにそんな感覚はない。
どうやら、どこかに隙間があるようだ。
俺は部屋を水で満たす。さっき入口があったほうからは水が漏れていかない。
どうやら、俺の考えはあっているようだ。俺は隙間を探す。
見つけた。
その隙間は天井部分。つまり死角にあった。どうりで気づかないわけだ。
が、その隙間は俺が通れるかどうかも微妙なほどの大きさだった。正直、入りたくない。
俺は少し迷ったがその隙間に入った。
中は暗く、じめじめしている。(俺のせいだが。)そして唯一の救いは穴が真直ぐにできていることだ。
俺がしばらく進むと光が見えた。外だろうか。飛び出ると、
「うわっ!」
「ええぇぇぇ!?」
俺は音咲の上に落ちた。俺が困惑しているとネタ晴らしが始まった。

「説明します。先ほどの場所はあなたの想像通りです。仕掛けもそうだったんですよ?あなたが演奏を終えた時、
非常に小さな音ですがカチッって音がしたはずです。演奏は一回目でクリアー。ですがあなたは入口が開かないのでもう一度やった。ということです。そして隠し部屋、あそこは本当に密閉されていたんです。それこそ、僕の力を使わなければあなたは死んでいました。ですが僕の力を使うことを前提としていましたのでご安心を。」
音咲は誇らしげに説明した。俺は幾つか聞きたいことがあったが、
「なあ、何のためにこの企画をしたんだ?まさかバイオの主人公の名前と関連してるからじゃないだろうな?」
音咲は『絶句』という表現がぴったりな顔をしている。図星だったようだ。
「ところで、パーティーってのはあるのか?」
「は、はい。ですがピアノは関連していませんけどね。」
そうかい。じゃあそのパーティーだけでも楽しませてもらうよ。
俺は音咲案内のもと大ホールへと向かう。そこで俺は全てを悟った。
ホールには綺麗にドレスアップした七恵と楓さんがいた。多分、さっきの茶番は時間稼ぎだろう。
「どう?綺麗でしょ?」
七恵は俺に聞いてくる。…綺麗って言うより可愛いの方があってるような気がするが―
「二人とも綺麗だな。」
と、言っておく。楓さんは綺麗の方が合うと思うぞ?
「いやはや、あなたも上手くなりましたね。」
なにがだ。
「女性の気持ちを察することが、ですかね。」
勝手に言ってろ。俺は知らん。
そして、各自チョコを配った後、俺達はパーティーを心行くまで楽しんだ。
途中、七恵と楓さんの食いっぷりを見て音咲が青ざめていたが。

七恵にもらったチョコ?ああ、ちゃんとその日に開けたぜ?そしたらどんなだったと思う?
チョコに4つの文字が書かれてたんだ。
チョコの表には『義理』裏には『本命』。どっちなんだろうね。これも悪戯じゃないのかと疑うね。
でも、本命の字を見たときに、少しばかり、嬉しかった自分がいたのは秘密だ。