「賭け3」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

賭け3」(2007/06/12 (火) 19:01:43) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

タイムリミットまで7日 「なあお前ら。本来の目的がなんなのかわかってるのか?」 俺(未来)が言う。 「目的?あ…」 七恵は忘れていたようだ…。俺もだが。 「そうやって互いの反射神経と動体視力を上げるのは構わないんだがな?いつまでもそんなことされてたら困るんだぜ?」 じゃあ何をするんだ? 「とりあえず、SNN自体を強化する。お前らが実践を離れていても異常なほどモチベーションが保持できるのはわかった。だからそれについていけるようにSNNを底上げするんだ」 …なあ、それって俺達だけがやる意味あるのか? 「あの二人はそれぞれで修行と同義のものを受けてるさ。なんで一緒にやらないかって聞かれると…ごめん。わからん」 そうかい。俺(未来)を心の中で罵倒している俺はなんなんだ…? まあいい。 俺は背中に背負っている軍が使ってそうなリュックを背負いなおす。楓印の軍用リュック。特注品だ。 「お前らはSNNをどんなものだと思ってる?」 唐突な質問に絶句する。七恵もそれは同じようだ。 「簡潔に言おう。そんなものが現実にあるかと聞いているんだ」 あるに決まってんだろ?じゃなけりゃ俺はこんな厄介ごとに巻き込まれてなんかいない。 「SNNを発見した開祖のことを教えてやろう」 俺(未来)は地面に座る。それにあわせて俺と七恵も座る。 「開祖さんは、この世界で初めてモンスターを発見した人でもあるんだ」 ノーベル賞ものな人間だな。 「でもその開祖さんはSNNなんて知らなかった。まだそのときは存在してなかったんだ」 じゃあどうなったんだ?少なくとも俺は怪物による猟奇殺人の記事を見たことはないぞ? 「その開祖さんは考えたんだ『こんな怪物がいるならそれを倒す力はあるはずだ。ないはずはないんだ』と強く考えた。SNNはその結果生まれたんだ」 ……思い込み? 「そうだ。お前らはそれを当たり前のように使っている。その意識を正せば」 その意識を正せば? 「お前らはもっと強くなれる」 強くなる意味は? 「死なないため、か?」 OK。俺は生きる。まだ俺は人生を楽しんでないんだ。死ぬのは人生をタンデムのようにゆっくり過ごした後だ。それにまだソウルブラザーのイリーと萌えを追求しなきゃいけないんだ。 「萌えってなに?」 …妄言だ。忘れてくれ。 「さて、説明が長くなったが、お前らは今SNNと十字架が使えなくなってるはずだ」 …マジだ。マジで使えなくなってる。 「これから俺がお前らを追う。要は鬼ごっこだ」 鬼…ごっこ? 「捕まえたら順次鬼隠しにしてやるから覚悟はしておけよ」 俺はその声が聞こえるよりも早く七恵を連れて森へと入った。 それからしばらく走って森の深くまで入った。 …捕まったら鬼隠しか…悟と同じ目に…死にはしないんだが… 「睦月?これからどうするの?」 七恵の声で現実に引き戻される。 食糧は3日4日分はあるだろう。楓さんのメタルギア症候群には感謝だ。それに寝袋も…一つ? 「おい七恵。寝袋はどうした?お前持ってないのか?」 「睦月が持ってるなら別にいいでしょ?」 どうする? 危険を冒して寝袋を取りに行くか? それとも毎夜毎夜危険を冒すか? 「七恵。寝袋奪取作戦の会議をするぞ」 それから話し合う事数分。作戦が決まった。 俺達は森の更に奥まで突き進む。そうしているうちに洞窟めいたものを見つける。無論、俺達はそこに入る。 作戦? 決まってる。 『命を大事に』だ。 七恵とこの洞窟に入って3時間が経とうとしていた。そのころにはもう周りがオレンジ色に照らされていて、歌舞伎役者ではないが『絶景かな、絶景かな』と言ってしまいそうだった。いや、俺が言うならこうだろうな。『Oh…It`s amazing spectacle…』 …嘘だ。 なぜ洞窟の中でそんなスペクタクルが拝めるのかと言うと、答えは簡単だった。 なぜなら 既に俺達は 鬼に見つかってしまったからだ! そして俺は今! 七恵を連れて洞窟の外を走っている! これが映画とかだったなら俺だって我慢する! だが! なんで鬼ごっこで必死にならなきゃならんのだ! ちくしょう! 鬼隠しなんてなくなればいいんだ! 「前だけしか見てないと捕まるぜ?」 俺(未来)の声が聞こえる。木に反響している為、位置はわからないが前方にいるらしいということはわかった。 俺はすぐに左斜め後ろに進行方向を変える。右でもよかったんだが…勘だ。 皆さんは映画やアニメ、はたまたドラマでよくある光景を知っているだろうか? こんな風に走っていると、突然開けた場所に出て、断崖絶壁と敵の挟み撃ちに遭う場面。 俺はそんな開けた場所に気づかないわけがない。 そんな風に思っていたが現実は甘くない。 出ちゃったよ。 開けた場所に。 「追い詰めたぞ?万策尽きたか?」 うるさい。お前だってこんな状況になっただろ? 「禁則事項だ」 俺は七恵を後ろに庇いながら距離をとる。 なぜそうするかって? 七恵が俺の背中を掴んで離さないからだ。 時々抓ってくる。痛い。 「俺はSNN使うからな?落ちないように気をつけろよ?」 そういうと俺(未来)は俺に手を翳す。恐らく、織口ビームだろう。 食らったら…死ぬよな。 「おい七恵!とりあえず離れろ!じゃなきゃお前も俺も助からん!」 そういうと七恵はすぐに離れる。そしてビームの矛先から俺と七恵は逃れる。 …こうなったら俺(未来)自身を行動不能にするしかないよな…。 俺は七恵にアイコンタクトをする。 七恵はすぐに頷いて了解の意を示してくれた。…わかったのか? 俺は俺(未来)に近づく。手の中には土を持っている。これで目晦ましにでもなればいいが…。 俺は射程範囲だと思った瞬間、手の土を俺(未来)に本気で投げる。 その土はちょうどいい軌跡を描いて俺(未来)の顔に向かう。なぜ見えるかって? 俺は今までレナパンの攻略をしてたんだぜ?これが見えないようならサンドバック決定だ。心配なら俺が保証書を書いてやる。 俺は完全に忘れていた。 俺が投げた相手もレナパンを攻略した経験があることを。 「止まって見えるぜ?」 そう言って俺の喉に十字架をつきたてる。俺をもうちょっといたわってくれてもいいんじゃないか? 「チェックメイトだぜ?」 俺の喉に十字架をつきたてたまま得意げに笑う。アホか。 「じゃあ次は七恵とい―ぐほっ!」 七恵渾身のレナフラッシュインパクト。それは見事に俺(未来)の右側頭部にヒットする。 …七恵は俺を殺す気か? 「早く逃げよっ!」 七恵は俺の手を取って走り出そうとする。俺はそれに合わせて立とうとする。 ぐらっ 俺がよろめく。それだけならよかったんだが…七恵同伴でよろめく。 このままだと後ろに倒れるので、俺は後ろに手を― 手を―? つけない―? Q先ほど俺達がいた場所はどこだ? A断崖絶壁のある開けた土地だ Qそんな場所で暴れたりしたらどうなる? A場合によっては落ちるかもしれない Q今の状況は最悪か? A最悪ならマシだ 「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」 「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」 断崖絶壁を越えた俺達は地球の重力法則に乗っ取って下へ下へと落ちていく。 夢…じゃないな…。 このまま落ちたら… 下を見てみる。その底は計り知れない。 仮に俺が七恵を庇って下敷きになっても助からないだろう。 …SNN使えねえかな…守る為の力なんだろう…? 今使えなくていつ使うんだよ…… 使えなくても使えばいいのか… 俺は羽をイメージする。冷たく、堅牢で、雄大な羽を。そして俺は羽ばたく。この絶壁の上に。 俺の意識はそこでブラックアウトした。 冷たい水が顔にかかる感触で俺は起きた。 「起きた?」 「寝覚めは最悪だがな」 「こんな美少女に起こしてもらっても?」 「その美少女は冷水をかけて人を起こすのか?」 「ここにいるよ?」 俺は不毛な会話を切り上げて辺りを見回す。七恵以外は誰もいない。どういうことだ? 俺は気絶する前の記憶を思い出そうとする。 …確か俺と七恵は崖から落ちたはずだ。 それで……氷の羽作って…崖の上まで行ったっけな…。 その後どうしたんだ?俺は地面に到着した覚えは無いぞ? …七恵か? 「あの時大変だったんだよ?睦月が急に気絶しちゃって。それで私がSNN使って森まで行ったんだよ?」 お前…使えたのか? 「崖から落ちた時だけどね」 わるかった、謝るからそんな風に見ないでくれ。 「ホントにそう思ってる?私、死にかけたんだよ?」 思ってる。マジで悪かった。 「態度で示してもらいたいから…」 変な方向に行くなよ? 「命令を一個聞いてもらいます!」 ああ…寿命が早まったか…。 「いつにするかは私が決めるからね?」 もうどうにでもしてくれ…。 その後、俺(未来)がボロボロになって俺たちのところにきた。俺(未来)曰く『崖から落ちた』とのことだ。俺(未来)は不死身か? 「お前ら…限度ってもんを知れ」 俺(未来)の修行期間中の最後の言葉だった。 それもそのはずあんな断崖絶壁から落ちて無事な奴はいないだろう。それに俺は元々がそこまで頑丈な体ではないはずだ。ソウルブラザーモードでもない人間が生き残れただけ奇跡だろう。因みに言おう。俺の知り合いの中に不死身人間は4人いる。その中でソウルブラザーであるやつは3人だ。萌えがどうとか言っていたが、その生命力だけは賞賛に値したので知り合いとなった。 補足が多いが、俺(未来)は最後の言葉を言った後、多分未来に帰った。生きてるかな? …将来的には俺もああなるのか? 蛇足だが、タイムリミットまでは6日だ。 あと5日 音咲による俺達のための音咲家の車が俺たちを迎えにきた。黒タクシーみたいな感じで、何故か防弾ガラスが素でついていた。用途不明の車だが、とりあえずは人間を運ぶ為にも作られているはずだ。 そのときの運転手はなぜだかしらないがメイドの服を着ていた。 これでどう思う? 肝心な所が抜けてるだろ? そいつの性別はなんだ? 漢だった。 メイド服の隙間隙間からぴちぴちと筋肉がはみ出ている。程よく小麦色に焼けた肌はそのままボディビル大会にでも出れそうなハリと艶をしていた。 いや、本音を言おう。 マジで背筋がぞっとした。 メイド服はやめて欲しかった。せめてビキニなら我慢できるから。いや、運転手辞めろ。 七恵の反応が気になって七恵を見る。 「どうしたの?なんか変なものでもあるの?」 流石七恵。目の前の惨劇を感知しないとは。雛見沢にでも行って梨花ちゃまでも助けてきたらどうだ?ループを超えられるんじゃないのか? 俺は筋肉メイドを極力視界に入れないように努力しながら、七恵はぼんやりと努力をしている俺を不思議そうに眺めながらどことも知れない場所に向かった。行き先を知らない理由?筋肉メイドに話しかけろと? 3時間ほどたっただろうか。最初に山を下り始めた頃は制限速度をすれすれで守って運転されていた車が、普通の一般道に出た瞬間TAXIさながらのスタントでデッドオアアライブな形容しがたい走行になっている。無論先ほどから警官車両のサイレンがやたらと聞こえるのは気のせいではないだろう。…あまり考えたくないが、もしこの車が警官に捕まったりしたら俺と七恵は前科持ちか?筋肉メイドに全責任を押し付けるか? 「とばすぴょん☆」 ……七恵だよな? 俺が一縷の希望を望んで七恵の顔を見る。いつもの顔。…心なしか赤いような気もするがそれでもいつもの顔だろう。 OK。七恵、その能力を今すぐ俺によこせ。そして俺の苦痛を少しは味わってみろ。 「前の座席に掴まってぴょん☆」 野太い声が響く。それを七恵は音声と感知していないのかどうかは知らないが、平然と座席に掴まっている。 もちろん俺はその声に戦々恐々してびくびくしながら掴まっている。音咲。今度最高レートの麻雀でカモってやる! …はい。音咲マンションに着きました。あの後、俺が座席に掴まりながら窓を見たら、『横浜』とか見えて、このままでは目的地にすらつけないと直感した俺は音咲に電話をした。結果、上のようになっているわけだ。 「修行はどうでしたか?」 内容知ってるだろ? 「知らないから聞いているのですよ。それとも、プライバシーの侵害となってもよいのなら―」 「わかった。言うから止めてくれ」 音咲の口の火を鎮火する。表現的には爆発も有り得そうだが、今のところ爆発したことはない。 「修行って言っても…なんかこう、『新しい力を手に入れた』とか『睦月はレベルアップした!』とか出ないから自覚できないんだよな」 俺が言い終えると音咲はまるで用意してあったかのように、 「あなたは、なぜ生きようとするのですか?今この世界は色々な問題に囲まれて四面楚歌です。常識的に見れば、いつ誰が自殺してもおかしくはないのです。さて、なぜ生きようとするのですか?」 これまた俺は、用意もしてないのに用意をしておいたかのように言う。 「そんな腐りかけな世界の中のこの環境が一番気に入ってるからだ。確かに、全体的に見れば腐ってるような世界だ。でもその世界のこの環境の中に居たいから生きようとするんだ。それにだ。この環境を維持するには誰一人欠けちゃいけないんだ。それが俺自身でも、いや、俺自身だからこそ生きたいんだ」 途中から意を成さないような事になったが、気持ちは伝わったはずだ。そうでなきゃ困る。もう一度こんな小恥ずかしいクサイセリフをいうのかと思うと…顔からプロミネンスが出そうだ。 因みに、ここにいるのは俺と七恵と音咲と楓さんの4人だ。今ここにいるメンバーは増えこそすれ減りはしないはずだ。もし人為的な力でこの現状を悪化させようという不届き千万なやつらがいたなら俺はもちろん再起不能にするだろうな。例えて言うなら…合衆国を相手にしてもだな。 「合格。でいいですね?」 楓さんが音咲に聞く。なんだ?試験官と受験生か? 「もちろん合格ですね。この年で明確に生きようとする意志があるのは稀ですから」 音咲?なぜに評論家みたいな口ぶりになってるんだ?無駄に似合うから止めてくれ。 「で、胡散臭い試験みたいなのは何の意味があるんだ?」 これで無意味だと言ったら最高レートにさらに上乗せで闇超レートに変えてやる。(一敗ごとに万単位で動く) 「自称『未来の堀崎睦月』から預かった伝言では、『自分を確立する事で自分を高める事ができるのだ』と言ってました。あなたではない事は明白ですが、信じてもよさそうですよ?」 …俺は聖闘士じゃないからコスモを高める事はできないぞ? 「…僕達と戦ってみますか?多分それでわかると思いますが」 僕達?三対一か?それは無理だと思うぞ? 「二対一ですよ。僕と楓さんを同時に相手してもらいます。原案は自称『未来の堀崎睦月』さんですけどね」 …どこでだ。もう夜も深いしこんな時間にドンパチやるのは気が引けるぞ? 「僕の能力。なんでしたか?」 あ、その手があったか。
タイムリミットまで7日 「なあお前ら。本来の目的がなんなのかわかってるのか?」 俺(未来)が言う。 「目的?あ…」 七恵は忘れていたようだ…。俺もだが。 「そうやって互いの反射神経と動体視力を上げるのは構わないんだがな?いつまでもそんなことされてたら困るんだぜ?」 じゃあ何をするんだ? 「とりあえず、SNN自体を強化する。お前らが実践を離れていても異常なほどモチベーションが保持できるのはわかった。だからそれについていけるようにSNNを底上げするんだ」 …なあ、それって俺達だけがやる意味あるのか? 「あの二人はそれぞれで修行と同義のものを受けてるさ。なんで一緒にやらないかって聞かれると…ごめん。わからん」 そうかい。俺(未来)を心の中で罵倒している俺はなんなんだ…? まあいい。 俺は背中に背負っている軍が使ってそうなリュックを背負いなおす。楓印の軍用リュック。特注品だ。 「お前らはSNNをどんなものだと思ってる?」 唐突な質問に絶句する。七恵もそれは同じようだ。 「簡潔に言おう。そんなものが現実にあるかと聞いているんだ」 あるに決まってんだろ?じゃなけりゃ俺はこんな厄介ごとに巻き込まれてなんかいない。 「SNNを発見した開祖のことを教えてやろう」 俺(未来)は地面に座る。それにあわせて俺と七恵も座る。 「開祖さんは、この世界で初めてモンスターを発見した人でもあるんだ」 ノーベル賞ものな人間だな。 「でもその開祖さんはSNNなんて知らなかった。まだそのときは存在してなかったんだ」 じゃあどうなったんだ?少なくとも俺は怪物による猟奇殺人の記事を見たことはないぞ? 「その開祖さんは考えたんだ『こんな怪物がいるならそれを倒す力はあるはずだ。ないはずはないんだ』と強く考えた。SNNはその結果生まれたんだ」 ……思い込み? 「そうだ。お前らはそれを当たり前のように使っている。その意識を正せば」 その意識を正せば? 「お前らはもっと強くなれる」 強くなる意味は? 「死なないため、か?」 OK。俺は生きる。まだ俺は人生を楽しんでないんだ。死ぬのは人生をタンデムのようにゆっくり過ごした後だ。それにまだソウルブラザーのイリーと萌えを追求しなきゃいけないんだ。 「萌えってなに?」 …妄言だ。忘れてくれ。 「さて、説明が長くなったが、お前らは今SNNと十字架が使えなくなってるはずだ」 …マジだ。マジで使えなくなってる。 「これから俺がお前らを追う。要は鬼ごっこだ」 鬼…ごっこ? 「捕まえたら順次鬼隠しにしてやるから覚悟はしておけよ」 俺はその声が聞こえるよりも早く七恵を連れて森へと入った。 それからしばらく走って森の深くまで入った。 …捕まったら鬼隠しか…悟と同じ目に…死にはしないんだが… 「睦月?これからどうするの?」 七恵の声で現実に引き戻される。 食糧は3日4日分はあるだろう。楓さんのメタルギア症候群には感謝だ。それに寝袋も…一つ? 「おい七恵。寝袋はどうした?お前持ってないのか?」 「睦月が持ってるなら別にいいでしょ?」 どうする? 危険を冒して寝袋を取りに行くか? それとも毎夜毎夜危険を冒すか? 「七恵。寝袋奪取作戦の会議をするぞ」 それから話し合う事数分。作戦が決まった。 俺達は森の更に奥まで突き進む。そうしているうちに洞窟めいたものを見つける。無論、俺達はそこに入る。 作戦? 決まってる。 『命を大事に』だ。 七恵とこの洞窟に入って3時間が経とうとしていた。そのころにはもう周りがオレンジ色に照らされていて、歌舞伎役者ではないが『絶景かな、絶景かな』と言ってしまいそうだった。いや、俺が言うならこうだろうな。『Oh…It`s amazing spectacle…』 …嘘だ。 なぜ洞窟の中でそんなスペクタクルが拝めるのかと言うと、答えは簡単だった。 なぜなら 既に俺達は 鬼に見つかってしまったからだ! そして俺は今! 七恵を連れて洞窟の外を走っている! これが映画とかだったなら俺だって我慢する! だが! なんで鬼ごっこで必死にならなきゃならんのだ! ちくしょう! 鬼隠しなんてなくなればいいんだ! 「前だけしか見てないと捕まるぜ?」 俺(未来)の声が聞こえる。木に反響している為、位置はわからないが前方にいるらしいということはわかった。 俺はすぐに左斜め後ろに進行方向を変える。右でもよかったんだが…勘だ。 皆さんは映画やアニメ、はたまたドラマでよくある光景を知っているだろうか? こんな風に走っていると、突然開けた場所に出て、断崖絶壁と敵の挟み撃ちに遭う場面。 俺はそんな開けた場所に気づかないわけがない。 そんな風に思っていたが現実は甘くない。 出ちゃったよ。 開けた場所に。 「追い詰めたぞ?万策尽きたか?」 うるさい。お前だってこんな状況になっただろ? 「禁則事項だ」 俺は七恵を後ろに庇いながら距離をとる。 なぜそうするかって? 七恵が俺の背中を掴んで離さないからだ。 時々抓ってくる。痛い。 「俺はSNN使うからな?落ちないように気をつけろよ?」 そういうと俺(未来)は俺に手を翳す。恐らく、織口ビームだろう。 食らったら…死ぬよな。 「おい七恵!とりあえず離れろ!じゃなきゃお前も俺も助からん!」 そういうと七恵はすぐに離れる。そしてビームの矛先から俺と七恵は逃れる。 …こうなったら俺(未来)自身を行動不能にするしかないよな…。 俺は七恵にアイコンタクトをする。 七恵はすぐに頷いて了解の意を示してくれた。…わかったのか? 俺は俺(未来)に近づく。手の中には土を持っている。これで目晦ましにでもなればいいが…。 俺は射程範囲だと思った瞬間、手の土を俺(未来)に本気で投げる。 その土はちょうどいい軌跡を描いて俺(未来)の顔に向かう。なぜ見えるかって? 俺は今までレナパンの攻略をしてたんだぜ?これが見えないようならサンドバック決定だ。心配なら俺が保証書を書いてやる。 俺は完全に忘れていた。 俺が投げた相手もレナパンを攻略した経験があることを。 「止まって見えるぜ?」 そう言って俺の喉に十字架をつきたてる。俺をもうちょっといたわってくれてもいいんじゃないか? 「チェックメイトだぜ?」 俺の喉に十字架をつきたてたまま得意げに笑う。アホか。 「じゃあ次は七恵とい―ぐほっ!」 七恵渾身のレナフラッシュインパクト。それは見事に俺(未来)の右側頭部にヒットする。 …七恵は俺を殺す気か? 「早く逃げよっ!」 七恵は俺の手を取って走り出そうとする。俺はそれに合わせて立とうとする。 ぐらっ 俺がよろめく。それだけならよかったんだが…七恵同伴でよろめく。 このままだと後ろに倒れるので、俺は後ろに手を― 手を―? つけない―? Q先ほど俺達がいた場所はどこだ? A断崖絶壁のある開けた土地だ Qそんな場所で暴れたりしたらどうなる? A場合によっては落ちるかもしれない Q今の状況は最悪か? A最悪ならマシだ 「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」 「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」 断崖絶壁を越えた俺達は地球の重力法則に乗っ取って下へ下へと落ちていく。 夢…じゃないな…。 このまま落ちたら… 下を見てみる。その底は計り知れない。 仮に俺が七恵を庇って下敷きになっても助からないだろう。 …SNN使えねえかな…守る為の力なんだろう…? 今使えなくていつ使うんだよ…… 使えなくても使えばいいのか… 俺は羽をイメージする。冷たく、堅牢で、雄大な羽を。そして俺は羽ばたく。この絶壁の上に。 俺の意識はそこでブラックアウトした。 冷たい水が顔にかかる感触で俺は起きた。 「起きた?」 「寝覚めは最悪だがな」 「こんな美少女に起こしてもらっても?」 「その美少女は冷水をかけて人を起こすのか?」 「ここにいるよ?」 俺は不毛な会話を切り上げて辺りを見回す。七恵以外は誰もいない。どういうことだ? 俺は気絶する前の記憶を思い出そうとする。 …確か俺と七恵は崖から落ちたはずだ。 それで……氷の羽作って…崖の上まで行ったっけな…。 その後どうしたんだ?俺は地面に到着した覚えは無いぞ? …七恵か? 「あの時大変だったんだよ?睦月が急に気絶しちゃって。それで私がSNN使って森まで行ったんだよ?」 お前…使えたのか? 「崖から落ちた時だけどね」 わるかった、謝るからそんな風に見ないでくれ。 「ホントにそう思ってる?私、死にかけたんだよ?」 思ってる。マジで悪かった。 「態度で示してもらいたいから…」 変な方向に行くなよ? 「命令を一個聞いてもらいます!」 ああ…寿命が早まったか…。 「いつにするかは私が決めるからね?」 もうどうにでもしてくれ…。 その後、俺(未来)がボロボロになって俺たちのところにきた。俺(未来)曰く『崖から落ちた』とのことだ。俺(未来)は不死身か? 「お前ら…限度ってもんを知れ」 俺(未来)の修行期間中の最後の言葉だった。 それもそのはずあんな断崖絶壁から落ちて無事な奴はいないだろう。それに俺は元々がそこまで頑丈な体ではないはずだ。ソウルブラザーモードでもない人間が生き残れただけ奇跡だろう。因みに言おう。俺の知り合いの中に不死身人間は4人いる。その中でソウルブラザーであるやつは3人だ。萌えがどうとか言っていたが、その生命力だけは賞賛に値したので知り合いとなった。 補足が多いが、俺(未来)は最後の言葉を言った後、多分未来に帰った。生きてるかな? …将来的には俺もああなるのか? 蛇足だが、タイムリミットまでは6日だ。 あと5日 音咲による俺達のための音咲家の車が俺たちを迎えにきた。黒タクシーみたいな感じで、何故か防弾ガラスが素でついていた。用途不明の車だが、とりあえずは人間を運ぶ為にも作られているはずだ。 そのときの運転手はなぜだかしらないがメイドの服を着ていた。 これでどう思う? 肝心な所が抜けてるだろ? そいつの性別はなんだ? 漢だった。 メイド服の隙間隙間からぴちぴちと筋肉がはみ出ている。程よく小麦色に焼けた肌はそのままボディビル大会にでも出れそうなハリと艶をしていた。 いや、本音を言おう。 マジで背筋がぞっとした。 メイド服はやめて欲しかった。せめてビキニなら我慢できるから。いや、運転手辞めろ。 七恵の反応が気になって七恵を見る。 「どうしたの?なんか変なものでもあるの?」 流石七恵。目の前の惨劇を感知しないとは。雛見沢にでも行って梨花ちゃまでも助けてきたらどうだ?ループを超えられるんじゃないのか? 俺は筋肉メイドを極力視界に入れないように努力しながら、七恵はぼんやりと努力をしている俺を不思議そうに眺めながらどことも知れない場所に向かった。行き先を知らない理由?筋肉メイドに話しかけろと? 3時間ほどたっただろうか。最初に山を下り始めた頃は制限速度をすれすれで守って運転されていた車が、普通の一般道に出た瞬間TAXIさながらのスタントでデッドオアアライブな形容しがたい走行になっている。無論先ほどから警官車両のサイレンがやたらと聞こえるのは気のせいではないだろう。…あまり考えたくないが、もしこの車が警官に捕まったりしたら俺と七恵は前科持ちか?筋肉メイドに全責任を押し付けるか? 「とばすぴょん☆」 ……七恵だよな? 俺が一縷の希望を望んで七恵の顔を見る。いつもの顔。…心なしか赤いような気もするがそれでもいつもの顔だろう。 OK。七恵、その能力を今すぐ俺によこせ。そして俺の苦痛を少しは味わってみろ。 「前の座席に掴まってぴょん☆」 野太い声が響く。それを七恵は音声と感知していないのかどうかは知らないが、平然と座席に掴まっている。 もちろん俺はその声に戦々恐々してびくびくしながら掴まっている。音咲。今度最高レートの麻雀でカモってやる! …はい。音咲マンションに着きました。あの後、俺が座席に掴まりながら窓を見たら、『横浜』とか見えて、このままでは目的地にすらつけないと直感した俺は音咲に電話をした。結果、上のようになっているわけだ。 「修行はどうでしたか?」 内容知ってるだろ? 「知らないから聞いているのですよ。それとも、プライバシーの侵害となってもよいのなら―」 「わかった。言うから止めてくれ」 音咲の口の火を鎮火する。表現的には爆発も有り得そうだが、今のところ爆発したことはない。 「修行って言っても…なんかこう、『新しい力を手に入れた』とか『睦月はレベルアップした!』とか出ないから自覚できないんだよな」 俺が言い終えると音咲はまるで用意してあったかのように、 「あなたは、なぜ生きようとするのですか?今この世界は色々な問題に囲まれて四面楚歌です。常識的に見れば、いつ誰が自殺してもおかしくはないのです。さて、なぜ生きようとするのですか?」 これまた俺は、用意もしてないのに用意をしておいたかのように言う。 「そんな腐りかけな世界の中のこの環境が一番気に入ってるからだ。確かに、全体的に見れば腐ってるような世界だ。でもその世界のこの環境の中に居たいから生きようとするんだ。それにだ。この環境を維持するには誰一人欠けちゃいけないんだ。それが俺自身でも、いや、俺自身だからこそ生きたいんだ」 途中から意を成さないような事になったが、気持ちは伝わったはずだ。そうでなきゃ困る。もう一度こんな小恥ずかしいクサイセリフをいうのかと思うと…顔からプロミネンスが出そうだ。 因みに、ここにいるのは俺と七恵と音咲と楓さんの4人だ。今ここにいるメンバーは増えこそすれ減りはしないはずだ。もし人為的な力でこの現状を悪化させようという不届き千万なやつらがいたなら俺はもちろん再起不能にするだろうな。例えて言うなら…合衆国を相手にしてもだな。 「合格。でいいですね?」 楓さんが音咲に聞く。なんだ?試験官と受験生か? 「もちろん合格ですね。この年で明確に生きようとする意志があるのは稀ですから」 音咲?なぜに評論家みたいな口ぶりになってるんだ?無駄に似合うから止めてくれ。 「で、胡散臭い試験みたいなのは何の意味があるんだ?」 これで無意味だと言ったら最高レートにさらに上乗せで闇超レートに変えてやる。(一敗ごとに万単位で動く) 「自称『未来の堀崎睦月』から預かった伝言では、『自分を確立する事で自分を高める事ができるのだ』と言ってました。あなたではない事は明白ですが、信じてもよさそうですよ?」 …俺は聖闘士じゃないからコスモを高める事はできないぞ? 「…僕達と戦ってみますか?多分それでわかると思いますが」 僕達?三対一か?それは無理だと思うぞ? 「二対一ですよ。僕と楓さんを同時に相手してもらいます。原案は自称『未来の堀崎睦月』さんですけどね」 …どこでだ。もう夜も深いしこんな時間にドンパチやるのは気が引けるぞ? 「僕の能力。なんでしたか?」 あ、その手があったか。 ~あらすじ~ 山での修行かどうかもあまりよくわからないものを実感のないまま終えた睦月と七恵。その二人は音咲家のよこしたタクシーに乗る。運転手は筋肉メイドでやたらと飛ばし、果てはパトカー十数台とカーチェイスを繰り広げることとなった。危機察知能力がはたらいた睦月は音咲に電話をし、能力で音咲の家に空間移動。音咲はそこで睦月に試合を申し出る。 うむ。もう二度とあらすじなんて書かねえ(笑) 下手なあらすじはさておき、俺は音咲謹製の音咲フィールドにいる。目的は下手なあらすじで述べたとおりだ。 「勝利条件はなんだ?」 最終確認をする。ここまで来て負けなんてしてたらたまったものではない。 「勝利条件ですか?それ以前にあなたは勘違いをしています」 珍しく音咲がきつめの口調で言う。一番最近は…『睦月、今度ここ行かない?』『わかった。みんなで行こうか』見たいな会話の後怒られたね。楓さんと音咲に。何が悪かったかは俺にもわからない。 「あなたは数日後には殺し合いをするのですよ?殺し合いの勝利条件なんてありましたか?」 ……相手を殺す事か? 「ご名答。そして今は殺し合いをするわけではありませんが、それだけの気構えがないとあなたは僕たちには絶対に勝てませんよ」 そんな馬鹿なことがあるわけないだろ。徒競走のタイムが気構えで変わるか? 「やってみますか?」 俺が『わかった』と言った瞬間、俺は血に伏していた。 「どうです?わかりましたか?」 音咲が俺の上で幾分か優しく言ってくる。が、俺の体に乗っている為優しさが微塵も感じられない。優しくいってきたと感じられたのは奇跡だろう。 「不意打ちは卑怯だろ」 俺がそれを行った途端、音咲は俺の体を降りて言う。 「じゃあ正々堂々とかかってあげましょう。それで文句はないですね?」 俺は構えを取ってから頷く。別に構える必要はないのだが、なんとなくやってしまう。 そして傷が治ってることに気づく。恐らく七恵だろう。 開始と同時に背後からナイフが飛んでくる。もちろん音咲の能力だ。当たったら致命傷になりかねないところばかり飛んでくる。マジで死ぬぞ? 俺は音咲めがけて突進する。もちろん十字架を剣のような形に変えてだ。実世界の物体が触れたら粉砕するほど冷たい剣だ。まず間違いなく俺が勝つだろう。 俺は音咲に剣を振り下ろす。このまま行けば音咲は能力で移動するだろう。 …しない? おい…待てよ…! 避けろよ! なんで避けないんだよ!? 俺は振り下ろすのを躊躇い、振りのスピードが少し遅くなった。 グシャ 嫌な音が自分から聞こえる。同時に激痛が走る。 俺は衝撃の方向を向く。 そこには日本刀を構えた楓さんがいた。いつか教えてもらったオーラというものが、楓さんのものは今とても鋭く見えた。俺はようやく理解した。 ―――殺気だ――― 二人に有って俺に無いもの。それは間違いなく殺気だ。俺も幾つか死線を乗り越えてきたが、そのときは運がよかったのだろう。今まで俺は、モンスターを『退治』すると考えていた。ちゃんと考えればわかることだ。こっちに来たモンスターを無傷で帰す?無理に決まってる。大体こっちから向こうに行く事ができないのにどうやって送り返すんだ。相手から帰ってくれるならありがたいが、それをしない場合。やっぱり俺はモンスターを殺してたんだ。俺はどこと無くそれを『ヒーロー』のようなものだと思ってた。実際は勘違いも甚だしかった。二人に有って俺に無いもの。それは死への責任感だろう。『俺がお前を殺したから俺も殺されて当然だろう』これは詭弁だ。なにかを殺した奴は、殺した奴の分も生きなきゃいけないんだ。そして生きるために殺す。そいつの為に生きる。繰り返しだ。 多分二人はそれを理解しているのだろう。それを俺にわからせるためにこんな事をしているのだろう。 「すまん。音咲、楓さん」 まず謝る。理解させる為とはいえ悪いことをした。色々終わったら楓さん9割。音咲1割で奉仕してやろう。 「やっとわかってくれましたね。もしあのままだったら刃で切ってましたよ」 ………真剣? 「名前は無いんですけど、かなりの名刀だといわれました」 名前が無いのに名刀? 「自作の剣ですよ」 …マジか音咲。 「大マジです。この前楓さんが麻灘さんに弟子入りしましてね。それからはもう、僕以上に強いと思いますよ」 それは無いだろ。お前だってちゃんとした訓練を受けてきたんだろ? 「ゲリラに一人で立ち向かえるくらいには強いつもりですが、麻灘さんは強いじゃなくて…なんといいましょうか」 桁が違う事はわかった。だが楓さんは常人だろう? 「いえ、才能というかなんというか。麻灘さん曰く、『楓は筋細胞、骨格、センスのどの点においても優秀』だそうです。あまり詳しく説明できなくてすいません」 音咲が申し訳なさそうに言う。今日は厄日だ。変態筋肉メイドと同じ車に乗って社会生命の危機に陥ったり殺されかけたり音咲の百面相を見てしまったり、近々死ぬんじゃないのか? 「本気で凹みますよ?」 凹んでろ。 音咲を軽くへこませた後、各自自由時間となった。時刻は既に明日となっており、この時点で明日俺は殺し合いをする事になる。なんだか複雑な気分だ。 気づいたら屋上にいた。なんてことは物語の主人公には決定事項のようなものであるのだが、作者は相当ひねているために気づいたら屋上付近の階段にいた。 「不安ですか?」 気づかないうちに楓さんが隣に座っていた。 「なんだか、明日殺し合いをするって実感が湧かなくって」 紛れもない本音を言う。そういえば、楓さんとこうして二人っきりで話すのは初めてかもしれない。 「はい。仲間としてあなたとこうして話すのは初めてですね」 いつものように心を読まれる。今の状況は俺が望んできた状況なのだが…テンションがあがらない。ああ、偽者よ。こんな時にでてこなくてもいいだろうに。お前のせいだ。 「あなたが死んでしまったら、七恵が悲しみますよ?」 ……明るい話題にしません? 「明るい話題はまた今度。あなたが生きて帰ってきたらにしましょう?」 …死亡フラグですよ? 「フラグごときなんですか。フラグは予兆でしかありません。そんなフラグ、叩き折ってしまえばいいんです」 その後に小さく、『あなたはいつもフラグを折っているというのに…』と聞こえたのは空耳だろう。 戻り際に、 「またこうして話しましょう。今度は明るい話題をね」 そう言った楓さんの顔は、見たことも無いヴィーナスを髣髴とさせるような至高の、最高の、美と優しさを極めた。そんな微笑だった。 「何ボーっとしてるの睦月?」 七恵が後ろから俺の肩を叩く。一瞬誰かと思ったが、こんな事をするのはこいつだけだと確信した。 「日本経済の低迷と外国株価の上昇について考えていた所だ」 無論本当のことは言えない。楓さんのあのヴィーナススマイルを見て呆けていたなんて七恵には言えない。 「嘘だね。鼻の下伸びてたもん」 ……言わないぞ? 「別にいいよ?拷問するだけだから」 といって後ろにいた七恵は俺に抱きついてくる。いや、抱きついてきたわけじゃない。ウエストロックだ。正直痛いが、いつもほどではない。恐らく傍目から見ればホントに抱きついているようにしか見えないだろう。 「これが拷問か?」 「そうだよ。立派な拷問。睦月に対してじゃないよ?私に対してだよ?」 は?拷問ってのは知りたい情報があるから痛めつけるんだろ?お前に関してそこまで知りたいことは無いぞ? 「別に睦月が拷問をしてるわけじゃないの。でも、なんで私達なのかな…って。そう思うの」 さて、どう答える?七恵は真剣だし、真剣に答えを返すべきか?そうだろうな。 「俺達でよかったんじゃないか?」 俺の言葉に七恵が俺の背中に埋めていた顔を上げる。 「なんで?睦月はこんな事嫌じゃないの?」 少し泣き声になりかけている。こんな七恵は初めて見る。いや、見てないが。それでも初めてだ。 「確かに嫌だぜ?でもな、俺達以外のやつがこんな事になったらどうする?」 意図の不鮮明な質問をする。俺にはわかるが、聞かれてるほうはわからないだろう。 「えっとね…。気づいたら助けてあげるかな?」 もちろんそう答えることは予想していた。 「じゃあ気づかなかったらどうする?そいつは死ぬしかないんだぜ?」 多分そうだろう。俺には時間遡航やSNNができるが、仮にこの事件に巻き込まれるやつが能力者でも恐らく死ぬだろう。そんな反則級の能力を使える俺ですらわからないんだ。 「確かに睦月でよかったかもしれないけど! でも……こんな事起きないほうが良いに決まってるよ!!!」 七恵の声はもう、泣いていた。 七恵のウエストロックなんかとっくに解除され、俺の背中には冷たい滴を感じる。今すぐ振り返って慰めてやりたい衝動に駆られるが、理性がそれを拒否する。 今このときほど理性が邪魔だと思った事はなかった。 「どうしたら…こんな疫病神な俺を許してくれる?」 七恵は少し間を開けて、 「来週全日程で私に奉仕しなさい!それで許してあげる!」 泣きながら、いつもの口調で言う七恵。 …なぜだろう? …なんで俺は 七恵にキスなんかしてしまったんだろう? …七恵は呆然としている。そりゃ確かに突然だった。俺自身動機は不明だ。今だって、少し後悔している。なにを後悔しているのかはやはり不鮮明だ。 とりあえず、このままじゃ非常に気まずいので俺が話を切り出す。 「えーと…なんだ。とりあえず、ごめんな」 なんで謝ったか知らない。そうしなければいけなかったような気がしたんだ。 ……無反応? …気絶してやがる。 こんな夏場でもとりあえず夜は寒いので、俺は七恵を抱えて音咲の部屋に向かった。途中で音咲に遭ったが、口を開く前に凍らせた。音咲は問答無用で有罪だろう。絶対あいつ見てた。絶対だ。 一人部屋なのに4組ある布団の謎は魔人探偵にでも任せるとして、俺は七恵を寝かせる。 一仕事終えた俺はどこで寝ようかと考える。いくらこの年で体力があるといってもこんなハードな一日を過ごして無事な奴はいないだろう。俺もその例に含まれており、かなり眠い。 …自分の家に帰ろうかと思うんだが…面倒だ。 仕方ないので音咲を解凍して泊まる事を伝える。布団は足りるだろう。 上のプロセスを完全にすっとばして俺は居間に布団をひく。寝室であろう部屋には七恵が寝ているからな。いつもは同じ部屋で寝ているが、それは部屋が一つだからだ。ここみたいに部屋が多ければ分かれて寝るさ。 なかなか寝付けず10分後 「ここで寝るんですか?」 その声に俺は飛び起きる。眠たいが、楓さんが喋りかけてくるんだ。無視はしちゃだめだ。 「そうですよ?まさか寝室で寝ろってことは言いませんよね?」 楓さんはにんまり笑って、 「そのまさかですよ」 俺はすぐに布団にもぐりこもうとする。が、楓さんに引っ張り出され、あえなく捕獲される。 「さ、籤を引いてください」 俺は仕方なく籤を引く。 …―A― 「私はDでしたよ?あと秀はCでした。わかりましたね?」 ホントに疲れる一日だった。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: