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「ホストな気分①」(2007/04/16 (月) 16:57:18) の最新版変更点
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ホストな一日
そろそろ外に出るのには上着が必要かな?と思うような頃、俺と音咲はまたどうでもいいことをしようとしていた。
「準備は、これで全部ですね?」
「ああ、完璧だ。人間には死が来るって予言くらい完璧だ。」
「それはすごいですね。」
「もうそろそろだ。姿勢を正して、顔を笑顔に。」
俺達はドアが開くと同時に
「「いらっしゃいませお嬢様。」」
ホスト喫茶
ことの始まりは一週間前に溯る。
その日、たまたまボードゲームの類を用意してなく、俺と音咲以外は部室に来なかった日、
「暇だな…。」
「…そうですね…。」
「もう帰ってしまおうか…。」
「……名案が浮かびました…。」
「…言ってみろ。」
「僕の家に来てはどうでしょうか?」
「…そうだな。そうするよ…。」
この気の抜けた会話の後、俺達は音咲の家に向かった。マンションではない。音咲グループの家の一つだ。
「着きました。ここでなら暇つぶしくらいにはなるでしょう。」
「そうだな…。あ、音咲。そこの衣服室って所、入っていいか?」
「いいですよ。ですが、なるべく汚さないようにしてください。」
「わかってる。」
俺は衣服室に入る。名前どおり、ざっと1000を越える種類の衣服があった。それもきちんと区分けされていて、
正装、ラフ、喪服、コス…コス!?
俺は知的好奇心の赴くままにコス服のありかへと向かう。
「…………。」
絶句したね。一部のマニアには聖地なんじゃないのか?
俺が呆然とつったっていると
「どうしたんですか?あなたにはそんな趣味がありましたか?」
「…あ、音咲か。お前の家はどんなことやってんだ?コスってなんだ、コスって。」
「さあ…知りませんね。」
俺と音咲はコスのあたりを見て周る。ふと、目にとまるものがあった。
「おい、音咲。これ…着てみていいか?」
俺が指差したのは黒スーツ。
「いいでしょう。僕も少し興味があります。」
音咲が見立ててくれた服を手に、俺は更衣室に入る。さすが音咲。身長を教えたわけでもないのにサイズがぴったりだ。
「それくらい僕の家なら―無理ですね。」
「音咲、後で覚えてろ。」
俺はその衣装を着た後でわかった。これ、ホストだ。その時俺に何かが舞い降りた。後々考えてみると、疫病神のような気がする。
「あ、音咲。いいこと思いついた。」
「…なんでしょう?」
「来週あたり、ホストのかっこうして二人を驚かせて見ないか?」
「それはいい考えですね。来週やるとして、服はここのでいいでしょう。他はどうしますか?」
「菓子類は俺が作ってくる。ジュースとかの類は頼めるか?」
「いいでしょう。日程はどうしますか?」
「来週の木曜日が望ましいな。誘うのは俺がやる。」
…とまあ、こんなことがあったわけだ。
そして当日の早朝、
「いったいどうやって時間を稼ぎましょうか。あの二人ではちょっと難しいですが。」
「こんな時のために手紙があるんだろ?そこに時間指定をした上で待っててもらうんだ。」
「それは、嘘のラブレターじゃなければ無理だと思いますが。」
「…マジ?それでもいい。とりあえずやってみるぞ。」
俺達はセッティングを開始した。俺は下駄箱に手紙を入れる。
ガタッ
…慌てるな。冷静な睦月くんは慌てない!…よし。スネークだ。スネークをイメージしながらだ。
七恵の…成功!次は楓さん…あれ?入ってる?…ごめんな誰かさん。
一仕事終えた俺は部室に向かう。
「ミッション完了だ大佐。」
「よくやったスネーク。飾り付けを手伝ってくれないか?」
「了解だ大佐。あと…いや、なんでもない。」
「どうかしましたか?様子がおかしいですが。」
俺は音咲の質問には答えなかった。
そんなことがあって今、俺はホストをやっている。この二人限定でな。
「な、なにやってるの睦月?」
「え、え~とどうしたんですか?二人とも。」
「いえいえ、別にどうもしてませんよ。さ、こちらに。」
俺は七恵を、音咲は楓さんの手を引いて椅子に座らせる。
「なにかご注文はありませんか?お嬢様。」
流石は音咲。俺が不快に思うだけあってか、めっちゃ爽やかだ。ああ!腹立つ!
「では、飲み物と食べ物をお願いできますか?あ、あとお話をお願いします。」
流石は楓さんだ。状況把握が早い。俺たちがホストだってこともわかってるようだ。
「え、え~と、じゃあ私も楓と一緒で!」
流石は七恵。状況把握がまったくできてない。俺たちが悪戯でもしているようにしか思ってないだろう。
俺謹製のクッキーやらケーキやらを運ぶ。我ながらいいできだ。そして紅茶も運ぶ。
「どうぞ、お嬢様。」
「はい、ありがとうございます。」
「え、あ、はいありがとう。」
この計画は大成功のようだ。元々、楓さんは驚けばいいほうだと思ってたからな。七恵だけでも成功なのさ。
それからはトークタイム。音咲は楓さんと。必然的に俺は七恵とだ。
「お嬢様のことをお聞かせ願えますか?」
これまでにないほど俺は自分に合わないことを言った。この熱が冷めたらきっと後悔するだろう。
「は、はい。わかりました!」
「いえいえお嬢様。そこまでお熱くなる必要はありませんよ。」
そう言うと七恵は赤面した。普段からこんなだと可愛いのにな。
「そ、それって本当ですか!?」
ぬかったぁぁぁ!!!!!声に出していたかぁぁぁ!!!!!!
おい音咲!その『なかなかやりますね』みたいな視線はやめろ!
「ホストだから言ったんですか?」
おいおい音咲!なんなんだお前は!この期に及んで状況を悪化させるようなこと言いやがって!
「どっちですか?できれば私も言ってもらいたいのですが?」
ちょっまっ楓さんまで!?やべえ、四面楚歌だ。あ、その気持ちよくわかるよ。一生わかりたくなかったが!
そして考えてみよう。ここで俺が『ホストだから』と言うのは簡単だ。が、その場合、普段の俺的には可愛くないといったことになる。これ、修羅場か?死亡フラグか?
「どっちなの?」
「言ってもらえませんか?」
「はっきりさせませんか?」
待て。そう慌てるな。今から言うから。
「ホス「一度死んでみる?」
絶妙なタイミングだ。ちくしょう、俺の人生はここで…終わりたくねえな…。
「いえ、自分の心からそう思ったんですよ。」
言っちまったよ。見えないプライドを捨てても生きたかったんだよ。
おい音咲。その『いやはや、まさか本当にやるとは』みたいな視線を今すぐやめろ。そして後で体育館裏に来い。
「私にも言ってもらえませんか?」
「あなたは可愛いですね。」
「心を込めていってもらえませんか?」
マジ?俺、今の本心なんだけど。
「あ、セリフは『惚れてしまいそうです』でお願いします。」
今、背筋がぞっとする、を体感した。後ろからの七恵の視線が痛い。重い。苦しい。
「……ほ、惚れてしまいそうですよ。」
俺…今日、死んだかも…。父さん母さん、親不孝ですまん。
背後から誰かが近づいてくる気配がする。…あ、首つかまれた…。あ………………。
そうして、一年で一番、生命の危機を感じた放課後は終わった。
ここからは後日談だ。
あの後、気失った俺に3人は三者三様の反応を見せたようで、
七恵は自分のせいなのにめっちゃ慌てていて、
楓さんは放心状態、
音咲は笑顔が引きつっていたらしい。
いったいこの情報はどこから仕入れたかというと、
「私には誰にも気づかれないように段ボールに入っていることができるのですよ。」
と言ってくれた、麻灘さんだ。俺が、
「もしかして、いつも部室の中にいましたか?」
「…禁則事項です♪」
くらっときたね。これからは部室に入ったらまず始めに麻灘さんを探してみるか。
移転しました。