熟議とは?


今、東京では“熟議”という取り組みが広がりつつあります。
その“熟議”とは、一体どんなものでしょうか?

熟議は、簡単に言えばワークショップの1つで、より多くの当事者の方を、巻き込んで「熟慮」と「討議」を重ねながら、現代社会の問題に対する解決策を見出していくものです。もう少し具体的にお話をするならば、
1. 多くの当事者(保護者、教員、地域住民等)が集まって
2. 課題について学習・熟慮し、討議をすることにより
3. 互いの立場や果たすべき役割への理解を深めることで
4. 解決策が洗練され
5. 個々人が納得して自分の役割を果たすようになる
ことを目指すプロセスです。

そんな“熟議”を、広島でも開催しようと私たちは企んでいます。

“熟議”を開くことの意義は何でしょうか?


今、どうして社会全体で問題が山積しているかと言えば、 対話によって意思決定が成されるという社会構築システムが維持されていないことが、原因の1つではないでしょうか?これは誰かの責任ではなく、私も含めて多くの人が見て見ぬ振りをしてきたことの積み重ねと、個々の責任を感じさせないシステムを、作り上げてしまったからです。つまり、対話手段が極限まで減ってしまったことで、当事者であるはずの全ての人が、あたかも第三者であるかのように感じてしまっているのではないかと思うのです。そこで“熟議”は、より多くの問題を解決するために、様々なバックグラウンドを持つ“当事者”の方が集まって、お互いに“率直に思っていること”を語り合い共有し、問題の本質に気づくための1つのツールとして機能します。

普段から問題を感じていて、問題を解決したいと思っていても、そもそも何が問題なのかが分からずに、ただただ解決したいと思うことってありませんか?そんな時、自分1人だけで考えるのでなく、他の当事者の方と語り合うことで、
問題を感じた”きっかけ”を引っぱりだすことに繋がるかも知れません。あるいは、その人が持つ“問題意識”の本質が見えてくることだってあるかも知れません。つまり、頭の中にある「色んな思いや考え」を共有し、繫げることが出来れば、問題の本質を突いた解決策を見出すことが出来るのではないでしょうか?

“熟議”は、これまでのワークショップとは何が違うのでしょうか?


これまでの“人と人をつなげる”セミナーやワークショップは、その言葉の通り「個人と個人」をつなぎ合わせてくれました。つまり、参加者自身のコミュニティを広げる機会であった訳です。“熟議”は、「個人と個人」をつなぎ合わせることはもちろんですが、最終目的は『本音で語り合う』ことであり、裏を返せば『本音で語り合える仲間づくり』の機会ですので、参加者自身のコミュニティを維持させつつ、複数のコミュニティが“接点”を持つことができる機会になりえます。様々なバックグラウンドを持ったコミュニティが“接点”を持つことで、協働して解決に向けて行動を起こす“きっかけ”になればと思います。

また、色んなバックグラウンドを持った方が1つの輪になって語り合うということも、中々ない機会だと思います。国際協力について考えている人、教育問題について考えている人、経済問題について考えている人。それぞれの人が、それぞれのコミュニティで語り合う事はもちろん大事です。でもそれぞれがお互いに無関心であっては、解決できない問題ばかりではないですか?それは、お互いのことをよく知らないために、自分自身が解決できる“役割”を理解できていないからだと感じています。ですから“熟議”は、それぞれの立場をつなげることと、参加者自身が「自分自身」を見つめる“フィードバック”の機会になることを期待しています。あくまでも私が感じていることですが、大事なことは、全てが今、語り合いを通して共鳴し合うことだと思っています。

具体的に“熟議”は、何をするのでしょうか?


文部科学省生涯学習政策局長の方とお話したことでもありますが、
主催者が変われば”熟議のやり方”は、まったく異なります。

ここでは私がこれまでに参加した“リアル熟議@慶応義塾大学”“リアル熟議@名古屋”での活動を記しておきます。

“熟議”への参加者の人数は、10数人のこともあれば、100人を超えられることもあります。いうまでもなく、属性は出来る限りバラけることが望ましいようです。あまり人数が多すぎると、一言も発せられない方もいらっしゃるでしょうから、参加者の方から属性を考慮して5〜8人程度のグループをつくります。

模造紙の置かれた机を囲んで、各グループで輪になって座ります。

ここから“熟議”は始まります。

まず東京では・・・
1)グループメンバーがそれぞれ“問題だと感じていること”をPost itに書きます。
2)Post itを模造紙に貼りながら、“問題だと感じていること”を語ります。
3)グループメンバーがそれぞれ自分のバックグラウンドを活かしながら問題解決策を提案し合い、グループ内で共有する。
4)1、2を振り返り、挙げられた問題点から解決策が見出された語り合いのプロセスを、pptを用いて全体に発表し、参加者全員で共有する。

名古屋では・・・
1)グループメンバーがそれぞれ問題に対する“解決策”をPost itに書きます。
2)Post itを模造紙に貼りながら“問題と解決策になりそうなもの”を語ります。
3)それぞれが知っている解決策や、思いついた解決策を活かしながら問題解決策を提案し合い、グループ内で共有する。
4)グループメンバーを1人だけ残して、残りのメンバーは他のグループに移って、そのグループではどのような語り合いが行われたかを、話し合う。
5)他のグループでの語り合いの結果を伝え合い、再度“解決策”について語り合う。
6)全体を振り返り、挙げられた問題点から解決策が見出された語り合いのプロセスを口頭で全体に発表し、参加者全員で共有する。

解決策を見出し、参加者自身が“解決のための行動”を実践するだけでなく、全体で共有する際、その場におられるゲストの方々にも解決策を提案するということも行います。

東京と名古屋での熟議は、進め方が若干異なっています。それぞれを比較して、良いところを厳選して広島での開催に繫げたいと思っています。例えば、問題点と解決策を別のPost itに書いて、順序立てて考えることを促すこと。それから、プレゼンテーションソフトを用いて全体発表を行うことは、東京の熟議を踏襲したいと思います。一方で、途中で他のグループを旅する(ワールド・カフェの形式)という名古屋での方式も、取り入れたいと考えています。

ちなみに、“熟議”には各グループに「ファシリテーター」という立場の人が必要となります。「ファシリテーター」は、司会者ではありません。語り合いを実際に進めていくのは参加者本人の役割で、「ファシリテーター」は語り合いが“あるべき姿”で進んでいるかをマネジメントする立場です。「ファシリテーター」がいるからこそ語り合いをスムーズに進めることができます。なお、東京での熟議では、学生団体STUNITYのメンバーの方々が「ファシリテーター」を務めておられました。名古屋での熟議では、主催団体代表の有志の方々が、サポーターという形で「ファシリテーター」を務めておられました。広島で開催する際も、有志の学生に「ファシリテーター」をお願いすることにしています。学生団体STUNITYのメンバーの方々は特別な訓練を受けておられましたが、私たちには指導していただく方をお呼びすることもできませんし、何よりスタッフが一斉に集まって研修会を開くというような時間もあまりありません。それは、全てのスタッフがお互いに各自のグラウンドにおいて第一線で活動しているからです。ですから、お互いのバックグラウンドを活かしながら、事前に“語り合い”を繰り返すことで、ファシリテーターとして求められる能力を切磋琢磨することを目指します。

さて、広島大学の学生の方はお気づきかも知れませんが、“語り合い”の場面そのものは、Face to Faceプロジェクトやワールド・カフェといったワークショップと全く同じなんですね。もしかすると、学生、地域にお住まいの方、現職の先生方、一般企業の方、保護者の方、地方公共団体関係者の方、様々なバックグラウンドを持っていて、それぞれ見方・考え方が全く異なる方が集まるという点は、これまでに無いことではないかと思います。

テーマも、何かしっかりとした1つのテーマに絞る必要はなく、その地域のバックグラウンドに配慮して自由に決めることができます。

広島大学において開催する「熟議」について、第1回開催は2月26日を予定しています。テーマは「小学校から大学までの“平和教育のありかた”について考える」。これは、今年度が広島市の被爆65年目であり、8月の平和祈年式典に国連事務総長、アメリカの駐日大使が参列されたという節目の年であったからです。もっと言えば、広島大学にとっても、新入生に対する「平和に関する施設の見学必修化」が来年度で4年目を迎え、「平和に関する必修科目開講から3年目」という節目を迎えることを意識したためです。

テーマは開催時期と、地域性を考慮して設定することになっていますので、小学校・中学校の新学習指導要領が先行実施されることに因み、来年度春には「学校教育と地域の関わり」と題して2回目を。大学総合博物館の企画展が恐らく開催される来年度夏には「大学と自然環境の関わり」と題して3回目を。来年度秋には、再来年度の地域連携推進事業の募集が始まるので、「地域と大学生の協同活動」と題して4回目を構想しています。

テーマをぐるぐる変えて、意味があるのか・・・という問いがあるでしょう。私たちは、平和研究会や教育研究会を開催する訳ではないのです、あらゆる問題に対して、熟議という手法を取り入れて解決策を考えてゆくというプロセスを普及したいのです。でももちろん、第1回目は国際紛争に興味のある方、貧困問題に興味のある方がお集りになられるのだろうなぁ・・・とは思っています。大事なのは、そうではない方に同席していただいて、一緒に考えてゆくということです。なにしろ答えなんてないのですし、賛成・反対のように意見が違う人が語り合うことが大事なのです。

ここで、リアル熟議に関するウェブサイトを幾つかお知らせしておきます。

リアル熟議の紹介(文部科学省)

熟議カケアイのページ(文部科学省)

※熟議カケアイは、簡単に言えばネット上で行われている熟議です。

これまでに行われたリアル熟議のページ(文部科学省)

学生団体STUNITY(リアル熟議@慶応義塾の主催団体です)

NPO法人誰でもヒーロー(リアル熟議@名古屋の主催団体です)


最後に、私からのメッセージですが・・・

「本当に変わらなければならないと思うなら、まずは自分が変わるべき。」というのは、確かにそうだと思います。でも私はそれ以上に、「自己犠牲を伴う解決策だけは、絶対にすべきでない。」と言っておきます。なぜなら、自己犠牲を伴う解決策は、結果として持続可能な解決策ではないからです。まず、自分自身が解決のための行動を持続できないでしょう。それに解決のためには、解決策を色んな人に協力してもらわなければなりません。あなたが解決のために苦しんでいる状態で「解決のために、同じように行動して」と、他の誰かに協力として自己犠牲を求めたら・・・拒否されて当然でしょう?ですから、自己犠牲を伴う解決策は持続可能ではありません。このことは、色んな場で“伝える”ことを繰り返してきた私から、皆様へのメッセージです。

最後まで読んで頂いた方へ

最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。
私は現在、東京(’10.10.31)と名古屋(’10.11.03)で参加した“リアル熟議”を広島でも開催することを目指し、広島大学を中心として活動しています。私たちは、遅くても来年夏までに(早ければ今年度中に)第1回目を開催することを目標としています。しかし、私が“リアル熟議”を知ったこと自体が2010.09.26でして、まだまだこれから動きはじめたばかりという段階ですので、一緒にリアル熟議の開催に向けて活動してくれる学生を募集しています。当面の間、学生団体は設立せず、メーリングリストや大学内の施設を利用することで、“リアル熟議”の開催に向けて活動してゆくことにしています。

熟議に興味を持っていただき、熟議開催に向けてご協力いただける方は、下記連絡先までご一報下さい。もちろん、忙しくて開催に向けた話し合いには参加できないけれど、リアル熟議には参加したいという方、熟議について質問がある方も、
jyukugi_hu@yahoo.co.jp(管理者;河合豊明)までご連絡ください。

なお、熟議開催に向けてご協力いただける方には、メーリングリストへの登録も併せてお願いいたします。メーリングリストへの登録にご協力頂ける方は、登録方法をご説明いたしますので、上記アドレスまでご一報ください。よろしくお願いいたします。

2010.11.10(河合豊明)

最終更新:2010年12月19日 23:07