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すすまない!ドリラー ◆0RbUzIT0To





 辺りを夕闇が包み込んでいる無音の世界。
 風も無く、人影も無く、光も無いその世界で、一人の少女は全身を震わせ身を潜めていた。
 とはいえ、少女がいる場所は何の障害物も無い平原。
 身を潜めるといっても、精々身体を屈ませる事くらいしか出来ない。
 ならば何故少女はこの場を移動してもっと潜みやすい場所へ行かないのかと言うと……。
 答えは至極単純で、彼女は今、恐怖心に駆られ一歩も動けず、動こうと思っても動けない状態だったからだ。

「うぅぅ……」

 ぶるぶるぶる、と震えながら呻き声を上げる少女。
 一人でいるとどんどん込み上げてくる恐怖心。
 幾らこの状況をただの夢だと思い込もうとしても、首に付けられた冷たい金属の感触が、
 先ほどの出来事が逃れようのない現実であったと告げている。
 どうしよう、怖い、殺される、死んでしまう、嫌だ……ネガティブな言葉が脳の中を飛び交う。

 少女の中ではこの場にいる全員を殺して最後の一人になり、優勝をして生き延びるという選択肢は無意識の内に消えていた。
 臆病で引っ込み思案な少女は見知らぬ誰かと自分が争いあうなどという事を考えない。
 ましてや殺し合いをするなど、考えうるはずがなかった。
 故に、少女の中で己がこの場で誰かに殺されてしまう事は確定してしまっている。
 それが十分後なのか一時間後なのか、はたまた明日なのかがわからないというだけだ。

「ぅっく……ぅっ……」

 余りの恐怖心に、少女はとうとう堪えきれず泣き出してしまった。
 何故こんな事になってしまったのだろう?
 昨日は来週に控えたオーディションに向け、いつも通りにレッスンをして、
 いつも通りに帰宅し、いつも通りに床に入り眠ったはずだ。
 それなのに、気付いたらこんな場所に連れてこられ、殺し合いを命じられた。

 ……何故自分がこんな目に? と少女は思う。

 やはり自分が駄目駄目な人間だからだろうか?
 同じ事務所にいる他のアイドルとは比べるにも値しないくらい、貧相で貧乳でちんちくりんだからだろうか?

「ぅっ……そうだよね、春香ちゃんや真ちゃん達に比べれば、私が死んだ方がマシだもんね……」

 卑屈な言葉を呟く少女。
 もしもその言葉を、同じ事務所の仲間達がいれば全員が否定し、そしてその言葉を呟いた少女を叱ったに違いない。
 そんな事を言うんじゃない、他のアイドルに比べて自分が死んだ方がマシだなんてそんな事は無い――と。
 その光景があまりにも簡単に想像が出来て――少女は、更に声を上げて泣き出した。
 事務所の仲間達の姿を想像すると一層涙が込み上げてくる。
 自分はここで死んでもう二度と彼女達とは会えない、こんな自分と仲良くしてくれた仲間達と会えないのだ。

「うぅっ……嫌だ、嫌だよぉ……」

 死にたくない。
 生きて帰って、家族に、友達に、皆に会いたい。
 しかし――それは敵わぬ夢、何故なら自分に人殺しは出来ない。
 この先自分を待ち受ける運命は、死のみなのだ。


 それからどれだけの時間泣いていただろう。
 涙は枯れる事なく少女の瞳から溢れては頬を伝い、零れ落ちてゆく。
 もう自分が何をしていいのかわからない。
 泣き続けて目は充血し、声はカラカラに乾いている。
 しかし本能というべきか、こんな状況でも少女は自身の乾いた喉に気付き咄嗟にデイパックを開けて水を取り出し一口含んだ。
 喉を嗄らすのは歌を歌う者としてとしてやってはいけない事の一つ。
 ゆっくりと少しずつ水を飲んでいき……気付いた。

 何をやっているのだろう……今更、喉を大事にしても仕方の無い事なのに。
 自分は、これから死ぬのだというのに。
 どれだけ喉を大事にしても、もう歌う事など出来ないのに。

 水を飲むのを止め、少女は小さく俯いた。
 歌いたい、またステージに立ちたい、スポットライトを浴びて、観客と一緒になって……。
 あの最高に輝いていた舞台に、もう一度戻りたい。
 しかしそれは……と、またもネガティブな思考に陥りかけた時。
 水を取り出す為に開けたデイパックの中に見えた一つの物が、少女の目を引き付けた。
 反射的に少女はそれを素早く取り出し、目の前に翳してみる。

「これは……」

 少女は小声で呟き、その物体を穴が開くほど見つめる。
 ――少女が見つけたもの、それは、小さな小さなドリルだった。

 大きさは少女の親指程度といったところか。
 ドリルの両脇に紐が括り付けられており、まるでペンダントのように首にかけられるようになっている。
 よくよく見てみると、他に支給品と思しき物は入っておらずこれだけが少女に支給されたたった一つのアイテムらしい。
 あまりにも小さなそのドリルは、到底武器にはなりそうにない。
 しかし……と、少女はそのドリルを強く握り締め、下を向いた。

 まだ涙は流れていた、嗚咽も混じっていた。
 哀しみも絶望も、少女の心の中から全く無くなってはいない。
 それでも――いや、だからこそ少女はドリルを持ち、そしてそのドリルで地面を掘った。

「こんな駄目駄目な私は……穴を掘って、埋まってますぅ……」

 それはネガティブな思考に陥った時、落ち込んだ時、いつも口にしていた言葉だった。
 少女がそう言うと、周りのものは必死になって少女を慰めフォローをし、穴を掘ろうとする少女を止めに入ったものだ。
 だが、この場には、少女のその行動を止める者など誰もいない。

「うっ……う……穴を……掘って……」

 さく、さく、と軽快な音を立てて少しずつ削れてゆく地面。
 手を土で汚しながら、少女――萩原雪歩は穴を掘る。
 誰かが、自分の知っている誰かが自分を止めてくれる事を、自分を助けてくれる事を望みながら。

 そうして穴を掘る内、雪歩の持つドリルは本来の輝きを失い――土で汚れていった。


【A-3 平原/一日目・深夜】
【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:精神不安定
[装備]:コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式(水少量消費)
[思考・状況]
1:………。
2:誰も殺したくない、でも死にたくない。



sm11:絶望した!私しか書かれなかった事に絶望した! 時系列順 sm13:我が﨟たし悪ノ華
sm11:絶望した!私しか書かれなかった事に絶望した! 投下順 sm13:我が﨟たし悪ノ華
萩原雪歩 sm60:しねばいいのに






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