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スネークの提案に対し、まずメタナイトは、

「今すぐ向かうのには賛成だ。だが、正面から行くのは承服できない」

やはりとでも言うか、それに乗った。
時間がないことを考えればここでこれ以上モタモタしているのは愚策以上の何物でもない。
結果的に採るべき選択肢は限られていくのだ。

「だろうな。やはりリスクが大きすぎる」

しかしそこからもかなり行動の自由が狭められる。
例えば、正面からの突破を行うとする。その場合、どうやって辿り着けるのだろうか?
たしかに本拠地の目前では生い茂る木々が隠れ蓑となるだろう。
しかしその先はどうなっているか分かったものではない。
おおよそ上ることも出来ない大きな壁が聳え立っているかもしれない。
そんな壁がなかったとしても、入り口があるのならばそこを護るために何らかの措置が為されていると
考えるのは至って自然だ。むしろ無いと考えるのは楽天的過ぎる。

「しかし地下も道が通っているとは限らないぞ……。もし閉まっていたら後戻りする時間はあるのか?」

「単純に辿り着くだけではダメだからな。どんなに短くてもおそらく2時間がタイムリミットだ」

「希望的観測だろ?でもまあ、地下から行くほうがまだ比較的危険は少ないけどさ」

「じゃあ早いほうがいい。もう一度格納庫に行こう」

「ああ……」

タケモトはあまり乗り気ではなかった。
どのみち自分に出来る事は何もない。ここまで事態が大事になっているのに、運営側が策を講じていない筈がないからだ。
密かに行けばまだ隙を突けたかもしれないのに、巣を叩いてからではそれも不可能になる。
一度は持ちかけた希望も、彼は少しづつ捨てかけていた。だが、捨てたからといって彼にはどうすることも出来ない。
運命に抗うための条件が、全く揃っていない今では。

今しがた行われた予想は全て予想でしかない。
何の保証もない希望的観測。しかしそうだと分かっていても、そんなものにすがらなければならない現状が彼らを苛んでいた。
どの道何もしなくても8時間後には死んでしまう。だからヤケクソになっているのかもしれない。
そんな事は自覚済みだ。だから誰も口に出さない。
実は諦めていたとしても、それでも、生きたいと想っていることに間違いはないのだから。

その時、西のほうから機械音混じりの大きな足音が響いてきた。
可能性はあるが、チルノではないと4人は即座に理解する。
向かってきたのはデパートに置いてあった魔導アーマー。それに乗っているのは、

「キョン子と、言葉だけ……?」

数が合わない、と言うより人が合わない。
デパートから来たのだろうが、彼女らだけとはおかしい。

「どうなっているんだ?」

「ともかく待とう」

間も無く、彼女達を乗せた機体は到着した。
言葉はゆっくりと魔導アーマーから降りてくる。


「何があった?」

スネークの問いかけに、言葉は目を逸らした。
その行動には疑問を呈したが、理由と思われるものはすぐに出てきた。
キョン子が、座席から何かを持ち上げていた。彼女一人の力では苦労する、大きな荷物。
それを見たとき、タケモトは絶句した。

「冗談だろ……」

グラハムの、死体だった。
頸部を鋭利な刃物で切られたようで、血が拭われているために中の筋繊維や骨がよく見える。
顔面はまさに蒼白。生気は全く感じられない。
一目見て死体だと理解できるほどに、生きているとはとても言えなかった。

おおよそ想像する中で最悪の部類に入る結果を見て、タケモトの脳内では高速で思考が張り巡らされた。
この状況で実行に移れるか?それを考えるまでもなく、感情のほうは結論を出しそうだったが。
俯いて固まったままのタケモトを庇うようにスネークは一歩前に進み、言葉を見つめる。

「もう一度訊く。何があった」

「私が……説明する」

答えたのは言葉ではなく、キョン子だった。
昏い、沈鬱な表情は何があったかを想像させるには簡単だった。
そして事の次第を説明された。誰が死んだか以外は、全くの絵空事を。

首輪のことでうっかり口を滑らせたグラハムのせいでリンと一悶着になり、グラハムが謝ったことで
その場は治められたと誰もが思った。しかしリンは全く納得していなかったようで、グラハムが
魔導アーマーに乗り込もうと後ろを向いた瞬間に、言葉が床に置いていた鉈を奪い取って彼を斬りつけた。
さらにすぐに側にいたキョン子をも襲おうとしたが、キョン子は手に持っていた銃で思わず撃ってしまい、
リンは死んでしまった。

と、彼女は語った。
搾り出すように、言葉を詰まらせながらの独白はおおよそ白々しさとは無縁のものだ。
キョン子は嘘をつけるような人間ではないとこの場の誰もが思っていたし、それに
疑いを抱いて事実を確かめようにも、もはやデパートまで戻っている時間は無い。
殆どの疑念を持たずに、4人はそれを信じてしまった。

重苦しい雰囲気の中、スネークは口を開いた。

「…戦闘機は俺が動かそう。マニュアルは一通り頭に入れてある」

「そうするしかないようだな。戦闘機を何処に置いたか聞いてるか?」

「えっと……B-3って聞いてたけど」

「なら、もう行くしかない。タケモト達はすぐに下に降りてくれ。お前達も、あの動画を観たなら知っているだろう」

もう迷っている余地はない。
そう決断したら、スネークの動きは素早かった。
それを止める理由はタケモトには無い。しかし、言いようの無い不安が彼を襲っていた。
話を急ぎすぎる。地下に潜ったとしてもまともに戦力になるのは馬岱とメタナイトのみ。こんなもので突破できるわけが無い。
もちろん、いくら戦力があったと仮定しようが、その不安を消す事は出来ないのだが。

「魔導アーマーを借りていくぞ」

「待て待て、そんな戦力になる武装をみすみす放置するわけにはいかんだろ。俺も乗るよ」

時間短縮のためにスネークは戦闘機のある場所まで乗っていこうとしたのだが、それでは勿体無い。
だから馬岱が持ち帰るために名乗りを上げたのだが、タケモトに制された。

「それなら俺が乗るほうがいい。一番安全だからな」

「安全も何も誰が乗るかなんて関係ないだろ」

「バカか、咲夜がいるのを忘れるな」

「ああ……」

馬岱がスネークと行ってしまうと戦力はメタナイトしか残らない。
その場合に咲夜に対抗できるかと言えば、ほぼNOだ。
今こうして集まっているからこそ咲夜も手を出しかねているのかもしれない。
だが彼らが抜けてしまうと彼女にとっての難易度は大幅に下がる。
故に最低限、馬岱とメタナイトを残さなければならないのだ。
よってスネークと一緒に乗るのは、

「俺しかいないだろ」

「乗りたかったのなら初めから素直にそう言えよ…」

タケモトになった。
まあ妥当と言えば妥当か。
表面的に見ればキョン子でも言葉でも構わない気がするのだが。

スネークから荷物の大部分を馬岱は預り、スネークは魔導アーマーを起動させた。
タケモトは直前に馬岱に耳打ちをしてから乗り込み、ようやく出発した。
見晴らしのいい平原。あっちを咲夜が襲う事はまず無いだろうから、やはり襲われるのはモールの4人か。
100mくらい離れたところで見送りを止め、全員がモールの中に入った。勿論、周りを警戒しながら。

奈落のように伽藍としたエレベーターの空洞。
メタナイトはまず、先陣を切って飛び込んだ。
内部に危険が無いかどうか確かめるためだ。べジータのあの破壊の後とは言え、何か残っている危険がある。
すぐ戻ってくるとは言ったが、おそらく数分はかかるだろう。それほどにあの格納庫は広い。
その間も馬岱は気を緩めてはいなかった。未だに危険は残っているのだから。

「あの…すいません」

「ん、何だ?」

「……ちょっと行っていいですか」

「何処に…って、ああ。御不浄か……」

トイレである。
言い出したのはキョン子だった。

「どうすんだ?俺が付いて行ったほうが……いや、言葉。お前も来い」

どちらかと言えば全体行動が望ましい。
幸いトイレの入り口からエレベーターは見えるので、一応監視は継続できた。

(咲夜がどこに潜んでいるか分からんからな……まさか女子トイレに…?いやいや、それはまずくないか?
 つーかこの場合だと俺が確認しないといけないんじゃないだろうな……)

立場上そうせざるを得ないのは明らかだ。
拒否権は無い。

(てか、時間操作系能力者に直接突っ込んでいくのはかなり危険じゃないのか?それを言ったら何処にも行けないんだろうが…
 何かいい方法は―――そうだ)

馬岱はふと思いつき、スネークから預ったデイパックからある支給品を取り出した。
もはや紹介するまでもない愛犬ロボット、『てつ』である。

「おい、ちょっと調べて来い」

『ワカッタ』

支給品に調べに行かせればいいのだ。
しかしDMカードは一度使うと12時間は使えないから割に合わない。
ポケモンは(今この場にはいないが)一度死ぬとそれっきりだ。
てつならば痛手はさほど無いということである。

で、数十秒と掛からずに『異常ナシ』との応えが返ってきた。

個室トイレに篭ったキョン子を待つために、トイレの入り口付近で馬岱は言葉といた。
特に会話も無い状況。ほんの少しの間無言の状態が続く。
が、静寂を破ったのは馬岱が先だった。

「グラハムは何故死んだんだ?」

「……さっき聞いたとおりですよ」

伏目がちに視線を逸らす。
やはり何処か怪しいと、馬岱は感じた。
さっき説明した時も、どうして言葉が応えずにキョン子が答えたのか。
その違和感が消えなかった。それをどうしても解決したい。彼は思った。
故に、

「そうか。じゃあ……グラハムを殺したのはどっちだ?」


言葉は、応えなかった。
代わりに視線がぶつかり合う。火花が散るといったものではなく、どろどろとしたものが混ざり合う感覚。
どちらも動こうとはしない。出方を見る余裕があるのは、馬岱の方だが。
カマをかけた程度で、彼の発言には確固たる確証は存在しない。
だが返答が無い以上はクロだと判断できるのは当然だろう。しかし殺せるまでには至らない。
彼の主観はこの場で殺すべきだと訴えているが、いきなり殺してしまってはそれこそ全体の不和に繋がる。

しかし、こうも思う。
その全体の不和を理由にして今まで何度言葉の事を不問にしてきただろうか?
三度か、いや、それ以上か。少なからず障害の要因となっていた筈だ。
これ以上許していては仏様よりも慈悲深くなってしまう。
このまま捨て置くわけにはいかない。

だが再びになるが、グラハムを殺したという確固たる証明は存在しない。
純粋に考えればキョン子の説明は至極まっとうだ。不意打ち以外でグラハムが死ぬとも思えない。
それにキョン子が嘘をつくとも思えなかった。言葉に脅されて言わされていた可能性もあるが、モールに
着いてからは二人はそれなりに離れており、不正を糾弾する事は充分に出来る。
さらに、言葉に彼女が共謀する理由がない。メリットもない。

一瞬という割にはあまりにも長い時間の中、馬岱は少し自分の行動を後悔しだした。
キョン子が嘘をついている、もしくは言わされている可能性は限りなく低い。
故に言葉がグラハムを殺したというのも命題としては偽となる。
馬岱の問いかけに黙ったのも、『何言ってんだコイツ』みたいな心境の所為かもしれないし、それを理由には出来ない。

しかし不自然さがあったのもまた事実だ。
だからこそ馬岱は切り出す気になったのだが、その根拠も実際は薄弱な物で、今となっては虫の報せ程度でしかなかったと
彼に実感させていた。けれども言い出そうと思わなければ言うこともない。そこに思い至る過程があったからこそ結果が出ているのだ。
それは詰まるところ今までの積み重ねに集約されている。彼女達の煮え切らない態度。言葉の暴走。キョン子に何処か見える不自然さ。
過去の事例の蓄積が馬岱に勇み足をさせるに至ったのだ。

そして、彼の直感は正しい。
言葉はまだ行動にこそ移していないが殺意は持ち続けている。
隙あらばいつでも実行に移せるよう、身構えていたのだが馬岱に先手を打たれることになってしまった。
この膠着状態が続いた場合、言葉が絶望的な立場に追いやられるのは明白だった。
あらゆる面から見て利があるのは馬岱の方。言葉の弁明では状況を覆す事ができない。
やり過ごすならばさっきの質問に即座に回答すべきだったのだが、彼女はそれをしなかった。

「何をしてるんだい?」

そう、やり過ごすつもりなどない。

「? キョン子……―――!?」

馬岱は後ろからの声に反応しようとし、振り向こうとした。
だがその前に、背後の金属質な触感に違和感を持ち、そしてキョン子の言葉の意味を考え、愕然とした。
もう、間に合わない。

彼の背中に銃口が押し付けられている状況を確認した言葉は、うっすらと嗤った。
その口から洩れたのは、


「まず一人目」


2発の銃声がモール内に響き渡り、その音と同時に馬岱は倒れた。
人を殺すのに弾幕など要らない。たった数発の銃弾。それだけで脆い生き物は死に至る。
どういう攻撃を受け、どんな状況なのか彼はまだ理解に至っていない。
しかし分かっている事があった。


「おま……えら…………ッ!!」


震える手で身体を持ち上げようにも、馬岱はどうしようもなかった。
横腹から堰をきったように血が溢れ出す。


「喉も潰しておいたほうがいいんじゃないですか?」

「いや、その必要はないよ。ごらん」


馬岱の口からも血が吹き出していた。
これではまともに喋ることすらままならない。
それ以前に、命があと1分も持つかどうかの瀬戸際だった。
彼を助ける者は、残念ながらこの場にはいない。

朦朧とし始めた意識の中、馬岱はぼんやりと考えた。


(コッペ…パンは……くそ、バッグを取られ……………)

彼自身が自分を救う方法も奪い取られた。
メタナイトが銃声を聞いている可能性は高い。しかし此処に来るまでどんなに速くとも20秒はかかるだろう。
それだけ時間があればこの二人が平静を装うには充分だ。そして言い訳も簡単に成り立つ。
この場にいない、それらしい人間に罪を擦り付ければいいのだから。


(咲夜か…ときちく………辺りだろうな……、、、ダイイングメッセージ……は、駄目か……)


そんなものを残す挙動をした瞬間に抹消に入られるのは当然だ。
下らない考えを思いついたことで、あまりの馬鹿らしさに馬岱は笑いを堪えられなかった。
その笑いも咳き込む血に遮られ、苦しいのか笑っているのかよく分からない顔になった。

彼の言葉への警戒は万全だった。
充分すぎたと言ってもいい。その間にも咲夜への注意は怠らなかったのだから。
だが、キョン子に対しては殆どノーマークだった。
可能性の一つとしては上げられても、考慮するだけ無駄に等しい。そんな認識だったからだ。
それだけ、彼女を何も出来ない存在と誰もが考えていた。
現実は違っていたのだが。

状況の理解は追いついた。誰にも知ることはできないが、それはグラハムでも辿り着けた事だ。
だが、その前提にある理由が分からない。
キョン子がこのような行動を起こすきっかけが、プロセスが不明瞭すぎた。
今まで見てきた性格とはほぼ真逆の態度。そんなものが唐突に発現するものなのだろうか?

「これで後3人ですよね?」

キョン子はまず馬岱のバッグを漁りながら言葉に受け答えした。

「うん。道中で結構拾ったしね。後は必要最低限で集められる」

(……なに……を……集める……?)

言葉は頭の中に浸透するが、それを考える気力はもう無かった。
自分の終わりが近づいているのがまざまざと感じられたし、これ以上の思考は彼にとって無駄だったからだ。


「後は所在不明の2人のどちらかの仕業ってことにしておけばいいんですよね。…でも十六夜さんだと私達が何もされてないのは
 逆に不自然だからどちらかと言えばときちくさんの方がいいと思いますけど」

「まあそうだね。そろそろメタナイトも来る頃だろうし次の準備に取り掛かろうか」

「そうですね。会話聞かれたら拙いですし」

「ああ、少し黙るのが遅かったな」


突然、男の声が響いた。
知っている声だ。誰かなど、この場にいる者にとっては今更言うまでも無い。
言葉は咄嗟に振り返り、キョン子は声の方向に銃口を向けた。
間違いなく的確な行動だった。少なくとも彼女らの肉体的なスペックを考慮すれば。
だが、奇襲をかけられた者が初撃を防げる道理は無い。

「………ッづ……!!」

肉を裂く音が響き、キョン子は呻き声を上げた。
銃を持ったその腕は予め狙われていた通りに銃弾に貫通され、さらに彼女の左足にもう一撃が喰らわされた。
反撃を許さない連続的な攻撃。実際はもっと前にこの近くに潜んでいたのだろうとわかる行動だ。
周りへの注意をキョン子は――ユベルは全く怠っていなかった。
しかしそんなものは、ときちくにしてみれば何の意味も無い。
味方として行動していた者で、彼の特異性を完全に理解していたのは誰一人としていなかった。

彼は目の前の二人の驚愕を無視してさらにステアーでたたみかけを行った。
だがそれは間一髪で逃れられることになる。
キョン子の左足がナイフで貫かれた時に、言葉はすぐさまキョン子の身体をトイレに引きずり込むようにして退避した。
その判断は咄嗟を凌ぐには優秀な判断で、少し長い目で見れば愚かな決断だった。
トイレは袋小路。篭城するには不向きで逃げ場は無い。

ときちくはバッグからコッペパンを取り出し、馬岱の口に突っ込んだ。
「ゲフッ」と少し咽た後、馬岱はゆっくりと立ち上がった。

「グラハムもあんな感じでやられたのかもな」

「そうか」

聞き流したような返事をしながら、ときちくはキョン子が取り落としたバッグを拾う。
そして中身を覗くと、その中からコッペパンを一つ取り出した。

「あ、おい」

「当然の権利だ。それとも俺を殺すか?」

「そこまで対比させるのはどうかと……それよりこれからどうするつもりだ?」

「メタナイトはまだ帰ってこないのか?」

「ああ、随分と遅いが……まさか何かあったんじゃないだろうな」

「いや。それはないだろう」


「なぜそう言いきれる?」

「俺も降りたから」

「なるほどな。それよりあいつらはどうする?」

「貴重なモンスター達を使うのは勿体無いな。だからと言って単身じゃ飛び込めない」

「向こうも武器持ちだからな。飛び込んだ瞬間に死ぬかもな」

「死にたくはないな」

自分の血でべたついた服に嫌気を感じながら、馬岱はときちくを注視した。
会話する限りは以前のように持ち直しているように見える。
しかしおかしな点も見られた。

「今までどこにいたんだ?」

「チルノを探しに図書館まで」

「……チルノは?」

「スネークのところに行かせた。戻って来させるためにな」

「何故だ?」

「……五月蝿いな、一々訊かなきゃ分からないのか?」

「状況把握は重要だろう。何を言ってるんだ?大丈夫か?」

「チッ……」

「聞こえるように舌打ちをするんじゃない」

やはり精神的な不安定さが感じられる。
前はもっと余裕のある態度だったが、今はそうでもないようだ。

「キョン子の方は放って置けば倒れるだろうが……だとしても言葉がいるな」

「時間が惜しい。投擲武器でも使って制圧するか」

そう馬岱が言った瞬間、そのトイレの通路から人影が飛び出してきた。
それに対し、ときちくはすぐさまトリガーを弾いた。

自分に危害を加える存在が隠れていると分かっている場合、かつその存在しかいないと知っている場合。
その敵に対する攻撃の躊躇は限りなく低くなる。そして倫理的な観点を越えてでも自らの身を護るに足る
状況の場合は、確かな意志を併せて行動が実行されることになる。
今のような状況がまさにそうだ。この場合飛び出してくるのはキョン子と言葉以外有り得ない。
ときちくはそのことを前もって探知機の情報で知り得ているし、彼女達に対して一切の油断を持ってはいない。
何もしなければ確実にこちら側がやられてしまう。そんなシビアな状況で自己防衛を行わない方がどうかしている。
だからこの行動はときちくにとってなさねばならない事だったし、当然馬岱もそれを理解していた。


どさり、と出てきた一人が倒れる。
それより僅かに早く、アサルトライフルが銃弾の嵐をときちく達に浴びせかけた。
それを見るまでもなく二人は物陰に隠れてやり過ごす。相手の武装が分かっているため、予め距離を取っていたのだ。

タタタ……と速いスピードで駆けていく足音が建物の入り口に近づく。
ときちくはそれを見るや、すかさず包丁を2本同時に投げつけた。
至近距離ならいざ知らず、彼の射撃の腕は一般人とあまり変わらない。
十字軍時代の暗殺術には銃器の扱い方など存在しないからだ。
故に刃物の投擲の方が彼にとっては有効性が高い。
が、しかし標的はくるりとこちら側に身体をむけるとライフルで包丁を薙ぎ払った。
無駄のない鮮やかな動作だった。とても常人とは思えないほどの。
包丁を弾くと同時にさらにライフルでの攻撃が来たためにときちくは、さらに遅まきながら加勢に入った馬岱は
またしても隠れるしかなかった。顔を覗かせてみると、もう姿は見えなくなっていた。

「……しまったな」

そういえば言葉は居合いが出来たんだっけと、ときちくは今更ながらに実感した。

 ◇

さて、残りの一人といえば、ときちくに撃たれて床に横たわっていた。
腹部と脚を主にやられていて意識はない。放置すれば確実に出血多量で死に至るレベルだ。

「言葉を追うか?」

「今外に出るのはあまり賢明とは言えないな」

それより、と言いかけて馬岱はハッと視線を別の方向に向けた。
キョン子の意識が戻っている。

ビクッと身体を震わせたかと思うと、彼女はゆっくりと目を開けていた。
状況を把握できていないようだ。しかしすぐに自身の異状に気づいたようで、

「……ぁ、ああ……ああああああああああっっ!!」

苦痛に声を張り上げた。
当然の反応と言える。体中の銃創から血が流れ出し、呼吸をするたびに生命力が失われている。
致死に至らずに意識を取り戻したため、その痛みは計り知れないものだ。

「い、痛い……よ…………なん…で……………っ」

白くなっていく手を震わせながら、ときちくと馬岱に対して助けを求めるかのような動作を取る。
それに対して馬岱は、侮蔑の視線を向けた。自分を殺そうとした者に同情をかける余地などないからだ。

「自分から仕掛けておきながらよくもまあ言えたもんだな」

「アレが……ある…でしょ……はやく出し…て……」

「お前にやるコッペパンはない」

一つ馬岱が食べてしまったし、その見返りに半ば強引にときちくが一つ取ってしまった。
フリーなコッペパンは2つだけ。これ以上使用したらタケモト辺りが激怒するかもしれない。
それ以前に、床に這いつくばっている殺人者にくれてやる気などさらさらないのだが。

それでも、キョン子はまだ言い続けた。

「何………言ってるの…?はやく……助けてよ……助けてよぉ!!」


彼女は文字通り死力を振り絞って叫んだ。
自分は何も悪くないという風に。自分は何もやっていないという風に。
だが、それが彼らに聞き入れられる筈がない。
さっき起こったことに、言い逃れなど出来る筈がない。

「…………わけ…わかんないよ……」


たとえ彼女が、何もしていなかったとしても。

それから10秒もたたずに、キョン子は死んだ。
自分の身体を血の海に沈めて。誰にも理解されないまま。
キョン子が死んだのを馬岱が確認した頃、ようやくメタナイトが地上に戻ってきた。
事態を初めて見た時彼はかなり驚いたが、事の成り行きを馬岱が説明すると悔しそうな雰囲気を出しながらも
神妙に頷いた。仕方ないと思ったのだろう。
何故遅かったのか、銃声は聞こえなかったのか、と訊いたところ、開いていた穴をかなり念入りに調べていたらしい。
水音も重なれば確かに聞こえにくくはなるだろう。

「それより、大丈夫なのか?お前」

馬岱は気になっていた事をときちくに訊いた。

「は?」

「いや、いいんだ…」

訊いたとしても期待通りの応えはないと分かっていたが、どうしても訊かずにはいられなかった。
あんな現実を見せ付けられて平然としていられる筈がない。そう思ったからだ。
馬岱が考え込んでいる間、ときちくは探知機を取り出していた。
あと使えるのは数回程度の、貴重な支給品。
それを少しの間見つめて彼は電源を切り、小さく溜息をついた。

「どうした?」

「スネーク達が戻ってくる。ついでにチルノも一緒にな。まだ時間は掛かるだろうが、外で待っておいたほうが良さそうだ」

探知機の画面に映っていた点は、7つだけだった。




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