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夕夜の靄(Ⅳ) ◆F.EmGSxYug




【Ⅳ】

「こちらは問題ない。空は晴れている」
「じゃあ馬岱、準備に入ってくれ」
「あぁ」

格納庫へと繋がるエレベーター乗り場、一階前。
一階とは言え、乗り場は外にあるためあるのは床ではなく、土だ。
元々周囲の遮蔽物が少ないために周辺を広く見渡せるが、
逆に言えば遠くから丸見えでもある場所にスネーク達は集まっていた。
昇降路から出てきたメタナイトの言葉を聞いて、スネークは馬岱に呼びかける。
当たり前のことだが、エレベーターの昇降路を自力で降りる、というのは相応の労力が必要だ。

結局、スネーク達は地下ルートを選ぶことに決めた。
戦力で劣るスネーク達がするべきことこそ各個撃破であり、
逆に各個撃破されることを避けなくてはならない。
そして、A-10はどうやっても地下には来れない。
だが、グラハムやチルノと連絡が取れない以上、連携を取ることは困難。
逆に地上で一つに纏まった敵戦力に各個撃破される恐れがある。
ならばいっそ思い切って進軍ルートを分け、
気休め程度でも相手の戦力を分断させる……というのが結論であった。

……もっとも、その考えは前提が大間違いであったのだが。
今の彼らは、それに気づかない。

少し警戒しながらも、馬岱はメタナイトに掴まった。
空は晴れている、というのは地下での待ち伏せはない、という意味である。
気休め程度の暗号だ。
馬岱ならメタナイトなしでも昇降路内の設備を使って移動できるだろうが、
支えがあったほうが早く済むのは確かだろう。
幸い、右腕は単純な時間経過によりある程度回復している。
馬岱を最初に降ろすのは、移動後孤立したところにに襲撃を受けてもある程度戦えるため。
昇降路内へ消えた馬岱達の姿を見送ることもなく、スネークは周囲に気を配る。
その様子に、思わずタケモトは声を漏らした。

「どうした、スネーク?」
「……震えているな、何かが」
「は?」

その言葉は、文字通りの意味ではない。
隠れ、侵入することを行なってきた彼が直感的に感じたものの比喩だ。
……敵がこちらを見ている。caution.
どこからかこちらを見張っている。
見晴らしは元々よいし、死角となる位置にはてつを向かわせている。
昇降路の入口前には持ち運びできるサイズで穴の細かいフェンスを置いてあるが、
そこはスネーク達の安全地帯になりこそすれ視界を遮る障害物とはならない。
元々モールという形態であるためそれぞれの店の入口は外に繋がっているし、
特設されたエレベーターもまた例外ではない。乗り場の一つは屋外にある。
乗り場が外にあるために視界が広く、近くの遮蔽物が他の店の入口以外にない以上、
周囲50mほどの安全は確保されていると言っていいだろう。
少なくともスネークとタケモトが即座に攻撃を受けることはない。
だが、一触即発の状況であることは変わらないのだ。

「準備をしておけ。作戦通りにな」
「……あ、あぁ」

それをようやく理解し、タケモトも息を飲みながらデイパックに手を突っ込む。
スネークはコルトパイソンを構えながら、周囲を見渡した。

1秒。
2秒。
3秒――

「キッ……」
「伏せろ!」
「うぉっ!」

空気が、物理的に震えた。
てつがいた場所から、言葉になりきらなかった電子音声が響く。
てつがどうなったか、相手は誰か、それを確認するより早くスネークは唯一の遮蔽物、
フェンスの影にタケモトを抱えて滑り込んだ。
それでも鈍い音を立てて、避けそこねたメスが脇腹の肉を抉る。

「ぐっ……」

スネークの口から、苦悶の声が漏れる。
状況は明らかだ。
地上にスネークとタケモトしかいない状況で襲撃される。
移動中に襲われるケースとして、最悪なパターンの一つと言っていい。
だが――最悪なパターンだからこそ、予想もしているし、理解もできる。
このパターンは、間違いなく十六夜咲夜によるものだと。

「…………」

言葉もなく、冷静に咲夜は二人が隠れたフェンスへと走りよる。
運営から他の参加者の位置情報が与えられていた以上、
咲夜がこのタイミングで攻撃を仕掛けたのはむしろ当然の結果と言っていい。
チルノやときちくが地理的に孤立していることは知った。モールから離れていったことも。
相手を各個撃破するべきなのは、咲夜も同じ。
彼女がモールに残ったスネーク達の監視に移るのは当然の結果であり……
そして、咲夜が見ていても分かるくらい、メタナイト達の行動ははっきりしている。つまり仲間と合流することよりも基地への侵入を優先した、ということだ。

ならば、咲夜の採る戦略はただ一つ。
合流前で移動中の無防備な横腹を突くことこそ咲夜にとっての最善であり、
スネーク達の最悪である。
幸い、ここは塚モール。
武器として使えそうなものを隠れて調達してくることも、容易かった。

それでも、スネークは臆さずに銃を構えた。
どんな傷を負おうとも、生きているならば回復手段がある。
大切な事は、持ちこたえること。
馬岱を地上に戻すことは難しいが、メタナイトは恐らくすぐに戻ってくる。
なにより、疾風のゲイルの特殊効果は未だ継続している。
投げられたメスがフェンスを貫けなかったのがその証拠である。

「来たぞ、メタナイト!
 タケモト、あのカードを……」
「わ、わかってる!」

まだ昇降路内にいるであろう仲間にスネークは叫びながら、
素早く銃を連射しつつ自分も新たな道具を二枚持ち出す。
聞こえてはいるだろう。十秒もあれば到着するだろう。
だが、咲夜は時間を操る。
咲夜にとっての十秒は、実質的にその倍以上はあると言っていい。
スネーク達と咲夜との距離は50mを割ったところ、
スネーク一人ならともかく、タケモトとスネーク自身の命を両方守るのは不可能に近い。
不可能を可能にするのは、何らかの外的要因だ。
タケモトがカード名を宣言した瞬間――
新たなメスが空中から突進した。
メスが突如現れたのは、25mにも満たない地点。
咲夜はそこから少し離れた地点にいる。
素早くスネークは頭を下げて、フェンスから出ていた体の一部分を隠した。
その影で僅かに響くスネークの舌打ち。
……順調に距離を詰められている。
回避できるのは恐らくこの距離が限界。
次に顔を出していれば、反応する間もなくメスが直撃するだろう。
フェンスもいったいいつまでもつか。

(どんな目が出るか……まったく、心臓に悪いぞ!)

心中で愚痴りながらも、スネークはあるものを手にしたまま腕を振った。
連続して時を止められないだろう、とは既に推測が付いている。
やる夫の首輪とあらかじめ馬岱から預かっていた上海人形と火薬玉。
それを投げて、素早く火薬玉とコルトパイソンで撃ちぬいた。
火薬玉は爆発し、上海人形とやる夫の首輪に衝撃を与え――
それは更に、大きな爆発として引火する。

「うぉっ!」
「ぐっ……」

タケモトは愚か、投げた当人であるスネークすら思わず顔を庇っていた。
二人がフェンスに隠れていても伝わるほどの衝撃。
サイコロの目がなんだったかを確認する余裕はない。
薄れてくる煙の中、通路に乾いた足音が響いてくる。
メスを投げる余裕はなかったらしいが、距離は僅かに詰められていた。
その体に、外傷はない。
咲夜は煙の中で足を踏み出した。ほぼチェックメイトに近い距離。
あとは時を止めるだけで、一気に相手へと殴りかかれる。
視界が塞がれているのも、むしろ咲夜にとって好都合と言っていい。
そんな思考と共に通路に靴音が響いた瞬間……咲夜は、気づいた。
体が重い。
明らかに移動速度が鈍っている。

「くっ……」

舌打ちをしながらも、飛来した銃弾をなんとか叩き落す。
手品の種は三国志大戦カード、王允。
それを爆発に紛れて使用したのだ。
彼は持つ計略は言うまでもなく「連環の小計」。
相手の速度を大幅に減衰させるというもの。
時間稼ぎには最適の効果、と言っていい。
足音が露骨に変わったことに僅かに安堵した様子を見せるタケモトをよそに、
スネークはコルトパイソンに弾を装填する。フェンスから乗り出していた体を隠して。
煙の中ではっきり位置が見えない咲夜へ向けて撃つよりは、
身を隠すことを優先したほうがいい。
この煙の中からメスが飛んでくれば、反応は難しい距離なのだから。

(フェンスはまだ持ちそうだな……
 使用する札を追加するには、早い)

そうスネークが思考した瞬間だった。
煙の中から、今までとは違う刃が現出したのは。
光をばら撒きながら現れたそれは、フェンスを容易く両断する。

「いっ!?」
「うぉっ!!」

二者二様の悲鳴を挙げながらも、体を仰け反らせるスネークとタケモト。
投げられた物体、ライトセイバーは出力を低下させながら壁に突き刺さり、
放っていた光が完全に消えたことで、地面に落ちた。
二つに割れたフェンスを、床に倒しながら。

「タケモト、フェンスを持て!」
「も、持てって……」
「盾のようにして持つんだ、早くしろ!」

スネークの声に、慌ててタケモトは割れたフェンスの一方を抱え上げる。
スネーク自身もまた同じ行動を取った。
(まだか、メタナイト……!)

身構えながら正面に視線を向け直そうとした瞬間――
「正面にあった影が消えた」。
反射的に、スネークは横を見た。
タケモトの体が吹き飛んでいる。
彼がいたすぐ側には、既に咲夜がいる。
そして……その咲夜が従える幽波紋は、
明らかにタケモトがいた地点に拳を突き出して、いた。

はっとなったスネークが咲夜に殴りかかったものの、
咲夜は容易くそれを回避し、スネークへとメスを振り上げた……瞬間。

「――退け!」

風が割れる。
昇降路から現れたメタナイトが剣を振り上げるのを視認して、
咲夜は一旦後退した。移動速度が低下した現状、行動は早めに取ったほうがいい。
時を止めるためのインターバルは、まだ完了していないし……
なによりまず一人は始末できたと判断したから。

先ほどしたことは単純で、時を止めてその間に全力疾走し、タケモトを殴っただけ。
距離的と体勢的にギリギリだったためにフェンスを迂回する余裕はなかったが、
フェンスごと殴っても一般人なら撲殺できる程度の攻撃力は未だ有している――
咲夜は自分をそう見立てていた。
メスをスネークとメタナイトへ向けて投げながらも、今度は距離を離す。
まだ薄くではあるが先程の爆発による煙は残っている、退くことは容易だ。
だが、時を止めて退く途中……晴れてきた煙の中で、咲夜は見た。
倒れているタケモトの腕が、自分の体を支えているのを。
そして時が動き出すと共に漏れた声は、紛れもなくタケモトのもの。

「い、いってぇな、クソッ……」
「……何か、仕込んでいるって言うの?」

咲夜はそう吐き捨てたが……少なくとも、自己に関する判断に関しては咲夜は誤っていない。
問題はタケモトが取り出して使った、もう一枚のカード。
天使のサイコロ。対象の攻守を、出た目の数だけ倍加する。
それをタケモトは、自分に使ったのだ。出た目は、4。
攻守など500あるかどうかも怪しいタケモトだが……
天使のサイコロの効果により弱体化した咲夜の攻撃ならば、
フェンスを挟めば耐えられるくらいの硬さは得た。
……それでも、痛いものは痛いが。

スネークに使わなかったのは単純な話……
恐らく咲夜なら、弱い方から狙うだろうというスネーク自身の助言から。
その正否は、結果が示している。
やる夫を殺害された時の経験から来る推測は、的を射ていたのだ。
「逃がさん!」
「……残念」

もっとも、咲夜はそこまでは知らないし、考えるつもりもない。
依然としてコルトパイソンの引き金を引き続けるスネークへと注意を向ける。
少しばかり確かめるように足踏みをした後、時を止めて一気に後ろに跳ぶ。
三国志大戦カードの効果は既に消失済み。移動に難はない。
最初の状態、50mほどのところへと互いの距離は戻った。
互いに、相手を即死させるのは難しいが……
ワンテンポ消費すればすぐさま攻撃に移ることができる距離でもある。
もしメタナイト達が昇降路へ飛び込もうとすれば、
移動力を回復した咲夜は即座に時を止めて迫ってくるだろう。
逆に咲夜が引けば、これ幸いとメタナイト達は逃走できる。
故に、この場にいる誰もが動けない。
互いに構えたまま動けず、相手の出方を探る状態。
しかし、長く続けるわけにはいかない。
互いに時間を掛けたくないのも同じだ。
主催の介入を受けることはメタナイト達にとって忌避すべきことであり、
チルノが来てしまうのは咲夜にとっての最悪。
この危うい均衡がすぐに崩れるのはタケモトですら予想できる。
その状況下で。
メタナイトは、一歩進み出た。

「最後に聞いておくが十六夜咲夜……
 投降する気はないのか」

予想外の言葉に、味方であるスネークやタケモトですら息を呑む。
咲夜も理解出来ないとばかりに、唇を歪ませていた。
僅かな間隙を置いて、明瞭に返って来る拒絶の声。

「投降? 私に言うべきセリフとは思えないわね。
 貴方達こそ、無謀な戦いを挑むつもりのようだけれど」
「奴らが大人しく願いを叶えるとでも思っているのか?」
「少なくとも気づかないうちにこれだけの多種多様な人妖を拉致する相手に挑んで、
 それを倒した上で更に元の住処に帰れる可能性よりは高そうね」 
「だが、奴らを放っておけば更に犠牲が出る」
「私にとっての判断基準は、知った仲の相手をどうするかとか、
 どうなるかとか、そういうことよ。
 私は私の務めを果たすために帰らないといけない。
 見知らぬ他人の命まで背負いきる、聖者になった覚えはないわ」
「美鈴は、そうは思っていなかったようだが」

メタナイトの言葉に、僅かに――ほんの僅かに、咲夜は目を細めた。
それ以外の感情は、完全に表情に出さないまま押し殺して。
何か言葉を返そうと、その口が動きかけた瞬間。
時が止まる。咲夜の姿が消える。
代わりに彼女がいた地点には、氷の矢が突き刺さっていた。
それにまず反応して顔を空に向けたのは、メタナイトだ。
「チルノか!?」

そのセリフにつられるように、残りの二人も空を見る。
そこにいるのは宙へ飛び上がっている咲夜と、剣を構えているチルノの姿。
この情勢の変化を、スネークが見逃すはずもなかった。

「好機だ、仕掛けるぞ! メタナイト、悪いが……」
「分かっている!
 タケモト、お前は効果が切れる前に馬岱のところに行け。
 状況を説明して、どちらにも進めるように備えておけ。
 今の状態なら、それくらいは自力でできるだろう。
 ……例の操作を、忘れるなよ」
「お、おう……」

その言葉におっかなびっくりといった様子ながらも、タケモトの姿は昇降路へと消える。
残った二人は、その様子を見送ろうとしない。
空を舞う幻想の住人の姿に合わせ、それぞれの戦闘態勢の構えを見せる。
心境に、違いを見せながら。

(チルノでさえ迷わず咲夜を討つというのに迷う……
 無駄な気遣いをした私は間抜けか?)

仮面の裏でそう吐き捨てながら、飛び上がるメタナイト。
上空ではチルノがボロボロの服を風に靡かせながら、咲夜へ向けて弾幕を放っている。
咲夜の時間停止に備えてか、チルノが舞う軌道は付かず離れずを保つ曲線的なものだ。
接近された状態で時を止められれば確実に即死させられるのだから、
別にその行動は不思議ではない。
メタナイト自身も、剣から起こる風の刃を放ちながら飛び回り、
近づかずに咲夜に隙が出来るのを待つという作戦のつもりだ。
だが……感じる。その表情に何か、違和感を。

(それとも、チルノに何か……
 いや、今は考えるべきではない!)

脳裏に走った考えを、強引に拭う。
根底では仲間に対する情を拭い切れないとは言え、
十分冷静な性格だと言えるのがメタナイトだ。
対立した相手に対する過度な情をかける男ではない。剣を振る。
切り裂かれた風が刃となって咲夜に迫るのに合わせ、
スネークもまた昇降路の入口の前に立ったままコルトパイソンを乱射。
だが、二連射までしたところで咲夜の姿が消える。
三人が目標を見付け出すのにコンマ数秒。
真っ先に動き出したのはチルノだ。
動きを直線的なそれに変えて突進し、斬りかかっていた。
時を止めるインターバルがまだ終っていないのか、
舌打ちをして咲夜は剣をスタンドで受け止める。
交差する、二人の視線。

「待て、チルノ! 接近するな!」

ほんの僅かな交錯は、メタナイトが突撃してくるのを見た咲夜が自分から弾き飛ばされることで終わった。
だが、それでも咲夜の姿勢は勢いで僅かに泳ぐ。
見逃さずスネークが狙い撃った瞬間――時は止まった。
彼が気付いたときはまたしても咲夜は消え、
結果としては何の収穫もなく首を振って次の位置を探すハメになっただけ。
スネークも、思わず舌打ちを響かせざるを得ない。
(3人掛かりだというのにこちらの攻撃は全く当たらないとはな……!
 相手の動きを止めない限り、勝ち目はない……手はないのか。
 最低限、俺の弾丸が尽きる前に相手の飛び道具を使い切らせる程度は必要だ)

以前の戦いで咲夜を圧倒できたのは遠距離からの攻撃に徹したことと、
ベジータの存在があったことが大きい。
かつての勝利は、この戦況を判断する何の理由にもなりはしない。
確かに、咲夜は消耗しているのかもしれない。
事実、時を止めている間は回避に専念し、メスを投げてこない。
時が動いている間も、三人がかりの遠距離攻撃の前に近づいてこれない。
しかしそれはこちらが合流したことで速攻を諦め、
武器を温存し持久戦に持ちこもうとしているのではないかとスネークは危惧しているのだ。
だが、攻撃を当てられる方策が、全く思い浮かばなかった。

「……どうしたのかしら?
 私には、かすりもしていないけれど」

挑発的な言葉と共に、冷たい表情で咲夜は空から見下ろしてくる。
分かりやすい挑発だが、効果的だ。
今のところ相手にこれと言ったダメージを与えていないのは咲夜も同じだが、
手を出さなくなったからダメージを与えていない咲夜と、
手を出し続けているのにダメージを与えられない三人では事情が異なる。
唇を噛みながらもスネークがコルトパイソンの弾を再装填した瞬間、
攻撃を待つことなく時を止めてきた咲夜が位置を大きく変えた。
エレベーター乗り場のほぼ真上――それは、スネークのいる位置の真上でもある。

「リロードの隙を狙うつもりならば!」

羽ばたく翼。
即座に反応したのは敵位置を素早く察知したメタナイトだ。
出せる限りの全速力で、スネークと咲夜の中間にあたる空間へと飛行、
剣を振り上げ、竜巻を起こさんと腕を振る。
元々、純粋な速度ではメタナイトの方が勝っている。
ある程度の距離があれば時を止められるか否かという差を緩和できるくらいの実力はあるのだ。

だが。
それが、命取りとなる。

「えっ?」
「メタナイト!?」

チルノの口から呆けたような、そしてスネークが半ば悲鳴のような声を漏らした。
突如メタナイトの体から、噴水のように吹き出す血。
ナイフもメスも、何も刺さっていないのに、だ。
吹き上がる血と正反対の道筋を辿るがごとく地面へ落ちていく、メタナイトの体。
そして空中に撒き散らされて落ちるだけのはずの血は――
何かに染み込んだように、空中で赤い線を作る。
それを視認したスネークは、はっとなって言葉を漏らした。

「ワイヤートラップか……!」

言ってしまえば事は単純。
エレベーター乗り場の両隣にある小さな店二つ。
時間停止をして回避行動を取りながら、咲夜はそこの屋根に塚モールで調達してきたピアノ線の両端を結んでいたのだ。
薄暗いこの曇天の夕闇では、このピアノ線を視認することは極めて困難。
今まで攻撃しなかったのは片腕でこの罠を設置していたからであり、
流れ弾で黙阿弥とならないよう位置取りに気をつけていたからこそ。
メタナイトは高速で動くがゆえに、この罠のダメージも凄まじいものとなる。
体を両断されなかっただけむしろ僥倖とすら言えたが、
その幸運を喜ぶ余裕はスネーク達には、ない。
スネークとチルノが固まっていた間に、咲夜は時を止めていた。
同時に、今まで温存してきたメスを時の止まった世界で一気に投擲して。
その数、軽く十以上。

「くっ!」
「…………」

チルノは無言で急旋回して回避したものの、スネークはそうはいかない。
フェンスで覆いきれなかった肩口にナイフが突き刺さり、鈍い音と共にもんどり打つ。
コルトパイソンが取り落とされるのを見て、咲夜はそのまま急降下し……
割って入ったチルノの剣と、スタンドの拳を再度ぶつけ合う。
氷のような表情で見つめてくるチルノに、人形のような表情を咲夜は返した。

「何か言いたいことでもあるのかしら?
 生きてる間に、生きてる者のすることがある。
 帰ってこない者に出来る手向けって、それくらいでしょう?」
「そうだね……否定はしないよ」
「…………?」

思わず、咲夜は眉を顰めた。
チルノの唇が僅かに歪んだような、気がする。
だが、その変化は悲しみでも苦しみでも怒りでもなく、まるで――

「チルノ!」

それでも、スネークが叫ぶのを聞きながら、時を止めた。
微かな違和感を覚えたが、どちらにせよやることは変わらない。
あとは、無防備なチルノを殺すだけでいい。
弱体化した今の状態でも、これだけ接近していればそれを成す事は容易い。

容易い、はずだった。


「……っでぇ!」

エレベーターの昇降路を降り終わったタケモトは、
同時に悲鳴を挙げるはめになった。
……もっとも、正確には途中でうっかり手を離して落ちたのだが。
普通だったら骨折もしかねない落下距離だったが、
幸い天使のサイコロのおかげで軽い打撲で済んだ。
腕をさすりながら中に入ると、馬岱が奥を見つめつつ身構えている。

「いたた……こっちはなんともないみたいだな。おい馬岱、上で……」
「しっ、静かに!」

とりあえず咲夜に襲撃されたことを伝えようとした瞬間、
いきなりセリフの先を塞がれた。
振り向いてタケモトを見つめる馬岱の表情は、真剣だ。
ひとまず小声で問いかける。

「……何があった?」
「まだ、ない。だが、耳を済ませてくれ。何か聞こえないか?」

その言語に黙りこむ。
……確かに足音のようなものと、何かの吐息が聞こえる。
少しずつこちらに届く音量を大きくしながら。
人のものではない。これは間違いなく獣のそれだ。
タケモトが唾を飲んで身構えてから、十数秒後。
珍妙な鳴き声と共に、醜悪な怪物が姿を現した。

「わんわんお!」
「わんわんお!」
「ガルルルルル……」
「わんわんお!」
「……なんだよこりゃ!?」
「まさしく生物災害って感じだな……
 これならもう少し手札を残してればよかった」

思わず声を漏らす二人。タケモトは悲鳴、馬岱は苦い声だったが。
タケモトの視界に入ったのは一言で表現すると、触手が背中から生えた大型犬。
それがあの潰れ饅頭を想起させる声で吠えながら迫ってきている。普通の狂犬らしい唸り声を挙げている個体もいるが。
その数は、少なくとも片手の指で数えられる数ではない。
タケモトも馬岱も、生理的な嫌悪と軽い混乱が綯い交ぜになった表情だ。
まともに犬らしく唸る個体も混じっているのが、尚更混乱を煽る。

――とある生物が犬に寄生した結果生まれたクリーチャー、コルミロス。
侵入者への対策として、運営はそれを地下に放っていた。
これらの生物兵器は運営側にもあまり統率が取れず、
自分たちにも害が及びかねないことから厳重に封印されていたが……
オートマンが全滅した今、代用の戦力として運営が派遣したのだ。
代わりに、基地の地下部分は完全に放棄することになったが、
どのみちほとんど機能を失っているのだからあまりダメージはない、
というのが運営長の判断である。
調達してきた世界が世界故に鳴き声がアレだが……その凶暴性は変わらない。

「ともかく来るぞ、構えろ!」
「マジかよ……」


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sm252A:夕夜の靄(Ⅰ) 馬岱 sm252A:夕夜の靄(Ⅴ)
sm252A:夕夜の靄(Ⅰ) ソリッド・スネーク sm252A:夕夜の靄(Ⅴ)
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