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Fake ◆F.EmGSxYug




「しっかし……どうなってんだ、こいつは。もう訳がわからん」

デパートの埃が塗れた床に腰を下ろしながら、絶望を通り越して開き直ったようにタケモトが呟く。
脇にいるのは言葉。そう、言葉「だけ」だ。

数分ほど前。デパートを出るべく歩行中に、突如爆発音と共に天井が崩落してきた。
とっさに回避は出来たものの……通路に落ちた瓦礫で分断されてしまったのだ。
それでよりにもよって言葉と二人きりになるとは、なんとも皮肉だが。

(多分、ときちく達は瓦礫の向こうにいるんだろう。潰されていなければの話だが。
 それは、まぁいい。元々壊れかけていたデパートだし、理由が付かなくもない。
 というか、ついさっき黒魔術師を大暴れさせた奴約一名が俺の隣にいるし。
 だけど……デパートのシャッターが勝手に降りているのはどういうことなんだよ)

瓦礫が崩れる音は消え、視界を塞いでいた埃も晴れたが、依然として状況は変わらない。
通路を完全に塞ぐ瓦礫やなぜか降りているシャッターは消えない。
明らかにおかしい事態への不安が居心地の悪さに勝ったか、言葉がおずおずと口を開いた。

「向こうのみなさんはどうしてるんでしょうか?」
「首輪探知機もコメント一覧もときちくの奴が持ってるし、わかりようがない。
 瓦礫に血が付いてないし潰された奴はいないと信じたいが……ん?」

カラカラカラ、という音に、思わず黙り込むタケモト。
しばらく後にそれがシャッターの上がる音だと気付いた瞬間、
続いて空気をつんざくような音が連続して起こった。

「銃声か!?」
「向こうから……?」

混乱する彼らの前に、今度は足音が聞こえ始めた。ふたり分、タケモト達の居場所へと迫ってくる。
身構える二人。
まず現れたのは、馬岱――明らかに、追跡者から身を隠すような姿勢で。
そして、それを追う形で銃を構えながら現れたのは――



時刻は、数分ほど前に戻る。
突如発生した天井の崩落は、ものの見事に六人を分断した。
出口側にはタケモトと言葉、そして内部側にはスネーク、馬岱、藤崎、ときちく。
誰ひとりとして崩落に巻き込まれなかったのは、両方共同じ。
だが――馬岱達は周辺に舞い上がった煙に苦しむことになった。
それは埃が舞った、程度のものでは断じて無い。
崩落から三十秒経っても視界が聞かず、咳き込むものをただの埃とは言わない。
そう、まるで、舞い上がった埃に紛れ、何か別の煙が追加されたような……

「げほっ、げほげほげほっ!」
「……っ、はぁっ、おか、しぃ、ぞ、これ!」

それからしばらくしてようやく煙は晴れ、視界が確保される。
轟音による耳鳴りに支配されていた聴覚は既に正常に戻っているから、現状把握は用意だ。
少し離れた所にある瓦礫の山、音も録に通りそうにないほど完全封鎖された通路、そして……

「ときちくの奴がおらへん……まさか」
「潰されたなんてことはないだろ。血がない」
「あー、確かにそうやな。視界きかへんせいではぐれただけか。探さへんと」
「…………」

そう言って暢気に周囲を見回る藤崎をよそに馬岱はスネークを床に寝かせて、
傍に落ちていたある物を拾い上げる。
普通の三国武将なら気付かないだろうが、色々とフリーダムな戦場をくぐり抜けた馬岱は知っている。
……それは、発煙筒だった。

同時刻、馬岱と藤崎の居場所から更に離れた空間。
そこに、ときちくはいた。
彼が崩落を逃れたのは、自力で避けたわけでも、道具の力を借りたわけでもない。
煙に紛れて接近した第三者による離脱である。

「ん、ぐ……!?」

一分近く口を押さえられたまま地面を引きずられて運ばれたときちくが、うめき声を上げる。
彼の口元にあるのは、機械の手。左上の、義体。
ようやく事態を理解し始めたときちくが暴れだすのを見て、義体は僅かにカメラ・アイを明滅させる。

『騒ガレテハ困リマス。コレデモ目的ハ会話ナノデスカラ。
 安心シテ下サイ、ココデノ会話ハアリトアラユル支給品、
 及ビ首輪ヲ利用シタ盗聴デハ聞キ取ルコトハデキマセン……
 私ガジャミングシテイマスノデ』

ミク達のような肉感がない、ただ機械的な電子音声を義体は漏らす。
とはいえ、内容を理解するには十分な発音だ。
会話。その言葉に、ときちくの頭脳はおぼろげながら答えを導き出す。

(つまり、あの爆発は瓦礫を落として通路を塞ぐのが目的じゃなく……
 煙を上げて、気を取られた隙に俺を攫うのが目的だったってことか?)

訝しげな表情でときちくが抵抗をやめるのを見て、義体は手を離した。
ようやく解放され、地面に手を付きながら立ち上がるときちく。

「……参加者じゃないし、俺達の味方ってわけでもなさそうだな。
 念のために聞くけどさっきの爆発、お前の仕業だろ?」
『ハイ。アラカジメ爆弾ヲ仕掛ケテオキマシタ。
 シャッターノ開閉モ、私ハ遠隔デ可能デス』
「そこまで武装が潤沢ってことは、主催者たちの手先でいいんだな。
 なら盗聴とかの心配はねえよ。首輪探知機とかは今お前が持ってるのに入ってる。
 ……そんな奴がわざわざ俺を誘いだして会話する理由ってなんだ」

身構え、いつでも殴りかかれる体勢にしながら答える。
あいにく、彼のデイパックは既に義体が取り上げていた。
逃げようにも後ろのシャッターが降りている。覚悟を決めて、話を聞くしかない。

『アナタト会話スルコトガ私タチニトッテ最モ無駄ガ無ク有益ダカラ……
 他ニ理由ハアリマセン。知リタカッタノデショウ、真実ヲ』
「取引……ってことか?」

義体の言葉に、何か嫌な予感をしながらもときちくは確認を求める。
……結果的に言えば。
彼はこの時に、どんな手を使ってでも逃げ出そうとするべきだったのだ。
例え、死ぬことになったとしても。

『ソウデス、結論カラ言イマショウ。
 アナタハ数少ナイニセモノ、コピーデス。帰ル場所ナドアリマシナイ、ネ』
「は?」

思わず、ときちくは呆けていた。
予想外の言葉に、彼の覚悟は一瞬にして吹っ飛んだ。
そんな彼を気遣うこと無く、義体は機械的に言葉を続ける。

『アナタハ時折、フタツノ矛盾スル記憶ヲ思イダス事ガアッタハズ。
 理由ハ簡単デス。アナタハアル二人ノ人物ヲ足シテ2デ割ッタヨウナ存在。
 ソノ二人ヲソノママ参加サセテモアマリ効果ガナイト判断サレタガ故ニ、
 コノヨウナ方法ヲ取リマシタ。無論、顔モ体型モ元ト違イマス。声ハ同ジデスガ。
 故ニ、仮ニ私タチヲ滅ボシタトコロデ、アナタニ帰ル所ナド無イ……
 ソモソモソノ前ニ死ニマス』
「なにを……言って」

言葉は耳に入っているが、理性が理解を拒否する。
痴呆患者のように、ときちくはぽかんと口を開けて話を聞くことしかできない。

『コノ殺シ合イニ参加サセルタメダケニ作ッタ存在ニ、
 普通ノ人間ト同ジ寿命ヲ与エルノハ無駄デショウ?
 アナタハ一週間ホドデ機能ヲ停止シマス……
 モットモ。私達ガ再改造スレバ、マットウナ寿命ハ与エラレマスガネ』
「何を……」
『諦メテ殺シ合イヲ再開シロ、ト言ッテイルノデス。私達ノ指示ヲ受ケタ「ジョーカー」トシテネ。
 必要デアルナラバ機関拳銃ヲ補給シテ差シ上ゲマショウ。
 コレデ私ヲ撃ッテモ無駄デス。コノ体ヲ破壊サレル事ハ、何ノ痛手ニモナラナイ』

そう言って義体は腰のアタッチメントを次々に外していくと、
それらをときちくのデイパックと共に投げた。
ステアーTMPと呼ばれる軽機関銃が床に音を立てて落ちる。予備弾倉10個ほどと共に。
一笑に付そうと思った。だが、そうするにはあまりにも今までの経験が不可解すぎた。
突如として浮かぶ記憶。当然のものとして存在するはずなのに、なぜか疑いを覚えたくなる経験。
思い浮かばない本名……囲炉裏という、知っているはずなのに知っていない名。
それらを追い出すようにときちくは首を振って、言葉を搾り出した。

「……お前の言葉が真実だって保証がどこにある」
『保証デスカ……?
 無駄ナ質問デスネ。アナタ自身、ワカッテイルノデショウ?
 アナタ自身ノ記憶カラ……ネ。
 人格ヲ形成スルニアタリ、記憶モ不完全ニ複製サレテシマウノデス』
「ふざけんなよ。これくらいで……!」
『無駄ナ解答ヲシテオク必要ガアルヨウデスネ』

そう言うと義体は不意をついてときちくの懐に潜り込み、右腕で掴んだ。
俗に言うアイアンクロー。但しその腕は本当に金属製。
最初は「その圧力に」苦しんでいたときちくだったが、
途中から違う感覚が脳内に溢れ出した。
例えるなら、ダムの決壊。
今まで塞き止められていた水のように、情報が脳内に溢れ出す――

「あ、あぐ、あああああああああっ!」
『アナタノ記憶ノ制限ヲ解除シマシタ……
 「ホンモノ」デアレバ、恐ラク偽リノ感情ナドガ廃サレ本来ノ形ニ戻ルデショウ。
 デスガ、複数ノ存在ヲ重ネテ作ル「ニセモノ」ハ……』
 
悲鳴をあげようとした口は、義体の左腕によって塞がれた。
気づけば、アイアンクローは既にされていない。それでも、悲鳴は止められない。
自分が掻き乱される感覚によって、義体越しにくぐもった息を漏らし続けること数秒。
悲鳴を止め、我に返ると共に、ときちくは足腰が砕け、座り込んだ。

「なん……だよ、これ」

頭の中に、今まで思い浮かぶことの無かった記憶が浮かぶ。
もちろん、それは相反する二組の記憶が一緒に溢れてくる、という面もある。
確かにそれらは、一つの存在を混乱させて余り有るものだ……
だが、そんなものよりも、なによりもときちくをかき乱す記憶がある。
その二組のどちらに該当しない、どちらでもありえないはずの、記憶。

――伸びるコード。それが、接続されているカプセル。
――浮かび上がる泡、そしてその中に浮かぶ何か。
――それは、自分にとって本当の元いた世界。

ときちくは首を振る。現実から逃げるように。その先を考えてはならないと。

『マダ手間ヲ取ラセマスカ』

それを、義体は抵抗だと受け取った。
ときちくの口を再び左腕で塞ぐと……
突如右手を変形させて、その左耳を切り取った。
いや、そんな言葉は生温い。
中耳まで届かない程度に、耳を外耳道まで「抉り取った」。

「~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
『鼓膜ハ破レテイマセン。落ツ着イタラドウデスカ』

反射的に暴れようとするときちくの動きは、義体にのしかかられて邪魔された。
義体はもがき続けるときちくに構うことなく切り取った左耳を摘み、解体していく。
十秒後には、ときちくのすぐ隣に彼の耳だったものがバラバラになって赤い液体を滴らせていた。

そこには、血もある。皮もある。肉もある。9割がたはそうだ。
……だが。目を凝らすと分かる程度には、別のものが混じっていた。
赤く染まっている、何かに繋がっていたかのようなワイヤーが。
明らかに、人間ではない証。どちらの記憶でも体の中に存在していないはずのもの。
ときちくが硬直する。痛みによる絶叫を忘れるほどに。

『本来ナラ、生体部品ダケデナントカシタカッタノデスガ……
 アナタニ能力ヲ付与スル上デ、必要トナリマシタ。
 モットモ硬度ハ普通ノ人間ト同程度、装甲ニハナリマセンヨ』

突き放される。受身を取ることもできず、ときちくは尻餅を付いた。
ゲンジツ
元・左耳を一瞬だけ見なおした後、彼はもう一度口を開く。
切れ切れになった息で、喘ぐように。

「に、にせもの、は……」
『?』
「偽物とやらは、何人、いるんだよ……数少ないって、何人だ……?」

耳からの痛みに息を切らせながら、弱々しくときちくは問いかける。
残酷な現実へ、接近する。

『ニセモノハ片手ノ指デ数エラレル程度ノ数シカイマセン。
 私達トイエド短期間ニ何十人モコノ様ナ物ヲ作ル事ハ不可能。
 モットモ右上はニセモノガ多イトツマラナイナドト言ッテイマシタガ……
 ソレハトモカク、元ノ人物ヲソノママ参加サセルト余リニモ無力デ特色ガ無ク、
 マタ元ノ人物ガ特定ノ一部ノミ有名デアル場合ニ限リ作成シテイマス。
 モットモ、一部ハ能力ニ気付カヌママ死ヌトイウ有様デシタガネ。
 私タチニ忠実ニ従ウプログラムモ仕込ミタカッタノデスガ、
 ソレダト動キニ特色ガナクナルトイウト言ワレ却下シマシタ。
 ナノニ右上ハコノ技術ヲ流用シ、許可ナク一部ノ本物ノ参加者マデ記憶……
 トモカク、ホトンドハ本物。アナタトハ違ッテネ。
 事実、今生キ残ッテイル参加者デ、ニセモノハアナタダケデスヨ』

左上は、何一つ嘘を言っていない。その必要がなく、嘘は無駄なことだからだ。
そこにときちくを痛めつけて楽しもうという嗜虐心はない。
機械的に、現実を突きつける……けれど、それは何よりときちくを傷めつける。
だから、体と心の痛みに耐えながら、ほんの僅かな希望に彼は縋った。

「俺に……はぁっ、ぐっ。言うことを聞かせたいなら、教えろ……!
 囲炉裏さんは……本物か……?」
『囲炉裏……アァ、彼モニセモノデシタネ』

本物の囲炉裏は、生きている。
そう思い、安心しかけたときちくは、

『本物ノ「囲炉裏」「ときちく」ナドハ、アナタタチヲ作ル時ニ殺シマシタ。
 アナタタチヲ作ルニアタリ、本物ヲ拉致スル必要ガアッタノデスヨ。
 本物ノ参加者ヲ拉致スル際ハ、誰ヒトリトシテ殺シテハイマセンガ……
 一度実際ニ拉致シタモノヲ大人シク帰スワケニモイキマセン。
 逆ニ言エバ、アナタガ優勝スレバ本物ニ成リ代ワレルノデスヨ?』

一瞬にして、奈落の底に落とされた。

「は、はは」

乾いた笑いが、箱のような空間に充満する。
それは、壊れた人形のような笑いだ。
けれど、そういう笑いが漏れるのも当然だろう。彼は、認めたのだから。
そう。自分は本物たちが命懸けで殺し合う中、賑やかしとして追加された人形だと。

――ときちくという名前しか思い出せなくて当然だ。
――なぜなら、本名だと思っていたものは別人の本名で、そいつはもういなくて。
――『この俺』にとっては『ときちく』が本名、そう名付けられていた。

項垂れた様子から、傍目にもわかる。受け入れてしまったのだ、と。
もっとも……未だTMPを拾い上げないときちくに、左上はイライラし始めていたらしい。

『運営長ノタメニ作ラレタ存在デアリナガラ、ドウシテソノタメニ動コウトシナイノカ。
 既ニ言ッタハズ、アナタ自身ワカッテイルノデショウ、ト。
 分カリキッタ無駄ナコトヲ説明サセナイデイタダキタイ。
 自分ガニセモノダト否定シナクナッタアナタハ、私ニ従ウシカナイ。
 アナタガ私達ト戦ウニハ、コノヨウナ理由ガ必要デアルト想定サレマス――
 壱、「自分の身を犠牲にしても仲間のために戦う」。
 弐、「こんな非道を行う連中を許しては置けないから戦う」。
 参、「優勝しても約束を叶える保証がないから戦う」。
 肆、「一部だけ本当のことを言って後は嘘を言っているだろうから戦う」。
 マズ、壱ト弐ハ論外。
 アナタハ自分ノ身ヲ犠牲ニシテマデ他人ノタメニ戦エル性格デハナイ。
 ソシテ、次ハ参デスガ……保証ガナクトモソレニ縋ルシカナイ身デアル事ヲ、
 モウトックニ理解シタノデショウ。
 最後ニ肆デスガ――コレモマタ、モットモ重要ナコトヲ否定デキナイデショウ?
 私達ガアナタヲ作ッタ、トイウコトヲ』

座り込んだまま動こうとしないときちくに、義体はそう告げる。
そして僅かに首にあたる部分を動かし周りを見渡すと、そのまま後ろへ体を向き直した。

『デハ私ハ退キマス。
 ソロソロシャッターハ開キマス……ソノ時マデニ理解シテオクノデスネ。
 自分ノ、役割ヲ』

その言葉通り、シャッターが開き、義体は歩き去っていった。
それでも、ときちくはずっと座り込んだまま、動かなかった。糸の切れた、操り人形のように。
しかし、呆然としている間にも時間は進む。
こちらに向かってくる足音を右耳で聞き取り、慌ててときちくは服にステアーTMPを隠した。
次にペットボトルを取り出すと、分解され床に散らばる血を水で流し、廊下の隅に寄せる。
まるで、隠すかのように――あるいは、無かった事にするかのように。

「お、無事やったか。いったいにどこに……って、その耳、どうしたんや!?」
「……。見えないまま走りまわってたらぶつけちまったんだよ」

現れた藤崎と馬岱に、なんとかときちくはそう言葉を搾り出した。
けれどそれは、彼の心が平静に戻ったことを意味しない。
馬岱の何かを探るような目は、より一層ときちくの心を乱す。

「打撲傷というより、抉られたような傷だな」
「ああ……あれだ。ぶつけた場所が、尖ってたからな。
 そっちこそスネークはどうしたんだ?」
「とりあえずお前を探す際なら身軽な方がよさそうだし、寝かしてきたが……」

ほとんど整合性も考えない、ただ、その場しのぎの言い繕いと、それを誤魔化す話題逸らし。
当然だった。今の状態で思考できる方が、どうかしている。
ときちくは何も考えられず、現状へ場当たり的に対応することしかできない。

(どうしろってんだよ、糞っ!)

実際のところ、ときちくには左上に従う意志などなかった。
自分が義体と同じ存在だとは、依然として認められなかったからだ。
だが一方で、あの会話について例え細部であろうと明かしたくもなかった。
藤崎達は自分の秘密を共有できると思えなかった。既に、自分と彼らは完全に別の存在だと認めてしまったから。
故に、ときちくはあらゆる方針を喪失していた、という表現が的確だ。
このまま行けばときちくは何もすることなく、無気力になりながらも今まで通りに行動しただろう。
……突如現れた、闖入者さえいなければ。

「ゆっ! ゆっ! 大変だよ! ゆっくりしてる場合じゃないよ!」

ウザい声に、視線があらぬ方向へと集まる。
見れば、なんともいえない顔だけの存在が二つほど跳ねてきた。
馬岱達は完全に忘れ去っていたが、ゆっくり二体も崩落を免れていたのだ。
もっとも、彼らがいたのは、馬岱達の側ではなく……

「そいつ、さっきまで変な奴と」
「っ!」

ときちくを見ながら放たれたゆっくり魔理沙の言葉に、思わず彼は銃を抜いていた。
そう……ゆっくりは聞いていたのだ。義体とときちくの会話を。しかも中途半端に。
ゆっくりに視線を向けていたが故に反応が遅れ凍りつく、馬岱達の表情。
それは単なる防衛反応。
自分が真っ当な存在でないという事実に圧迫されていたときちくの心情は、
それが明かされるという事態に直面し、録な考えもないまま引き金を引いた。
あらかじめ込められていた弾を撃ち尽くしやっとときちくは我に帰ったが、既に遅い。
薄暗いデパートに広がる血飛沫は、何よりも彼の行動を明白に突きつけ……
それでも倒れているのが一人だけであることを認識したときちくは、
恐慌状態に陥って与えられた予備弾倉を装填し、再度周囲へ銃弾を乱射した。

「何のつもりだ!? なんで撃った!」

銃声の中、自動販売機に隠れた馬岱の怒声が響く。
疑いの目が向けられるととっさに思い、反射的に始めた行動。
はっきり言えば計画性のない、衝動的な行動だ。
そういった行動の礎となるのは、常に感情である。
憤怒と、悲哀と、嫉妬が混じったような表情を浮かべ、ときちくは銃を乱射し続ける。
ゴミ箱がタップダンスを踊り始め、壁は虫食いとなっていく。
マズルフラッシュにその表情が照らされていたのか、馬岱は小さく呟いた。

「これじゃ、話すだけ無駄だな……!
 あいつは……手遅れか」

その言葉が漏れるのと、あっさりと銃弾の嵐が止んだのはほぼ同時だった。
装弾数三十発の短機関銃をフルオートで撃ち続けたツケ。
その隙に馬岱は柱から飛び出し、その場を離脱する。
慌ててときちくは銃弾を再装填して走りだす……
だが、数秒と待たず、強引に走りを止められた。足首を掴まれて。

「逃げん、なや……」

地面に倒れていた藤崎だった。
銃弾を撃ちこまれ、血を吐き出しながら、それでも言葉を紡ぎ出す。
反応できなかった結果、1秒あたり15発のペースで放たれた銃弾の雨に晒され、
それでも尚ここまで体力があるのは、荷物にあった防弾チョッキのお陰だった……
着てはいなかったが、それでも盾の役割を果たしたのだ。防げたのは一部分だけ、だが。

「そんな、目して……なにから、逃げてんのや……」

藤崎がどんなつもりでその言葉を言ったのか、ときちくには分からない。
ただ、その顔を見て、ひとつの言葉がフラッシュバックする。

――事実、今生キ残ッテイル参加者デ、ニセモノハアナタダケデスヨ

撃ちこまれる銃弾。それで、藤崎の人生は終わった。
自分とは違う「本物」を一顧だにせず、ときちくは馬岱を追おうと走りだす。
なぜこんなことになったのか、彼自身にも整理がつかないまま、足を動かす。
ただ――何か、胸にしこりは残ったことだけは、分かった。



「ゆっ、ゆっ! ごらんの有様だよ!」

馬岱が駆けていったのは別方向で跳ねる、まんじゅう二つ。
こっそり逃げ出していたゆっくり達だ。
結果的に、ときちくが暴走した原因は3割くらい彼女(?)達にあるのだが、
それを知ることもなくぽんぽん跳ね回ってい「た」。
……そう、過去形だ。なぜなら、突如ゆっくり魔理沙に何かが突き刺さり、爆発したから。

「ゆーっ!?」
『迂闊デシタネ。首輪ヲ付ケテイナイ、参加者デナイ者ノ存在』

驚愕するゆっくり霊夢の前に、左手を外した義体がカツカツと歩み寄る。
外した手があった場所には、代わりに砲弾を撃つための銃身があった。
着弾後その場に張り付き、遠隔で爆破できる特殊なセンサー付きの弾。
それが義体に装備されている火器であり、天井を崩落させたものの正体だった……
無論、天井を破壊する際に使った量とゆっくり魔理沙を殺害した際に使った量は段違いであるが。
ジャミングは既に解いているが、この発言がコメント一覧に映ることはない。
なぜなら、この義体は参加者ではないから。
当然、ゆっくりコンビの発言もまたコメント一覧には映っていない。

「ゆ、ゆっ!」
『ダガ逆ニ言エバ、コレヲ私ガ処分シテモ命令違反トハナラナイ』

そう言うと義体は右手を変形させ、容赦なくゆっくり霊夢を切り裂いた。
それだけ。何の無駄のない行動で、ゆっくりはどちらも動かなくなった。
以前のような復活はあり得ない。短時間の間に両方を殺害することで復活を阻止できると、左上は知っている。
何の感慨も見せることもなく、爆発に気付かれる前に義体は再度歩き出そうとし……
受信した情報に、僅かに硬直する。

『首輪ノ接近……? バカナ、コノ位置ハアリ得ナイ!』
「動くな!」

声が響くやいなや、エアダクトのルーバーが音を立てて落ちる。
そこに誰がいるか、義体は――左上は、知っている。
気絶から覚めたソリッド・スネーク。首輪がそう識別している。
だからこそあり得ない。左上のメモリには建築時からデパートの設計を記録されている。
首輪の移動から推測される経路が、存在していないのだ。

『アナタハコノ場所ノ真横、壁ノ向コウニイタハズ。
 エアダクトニ潜リ込モウニモ、ココニ繋ガッテナド……』
「悪いが、忍び込む通路を見つけ出すのが仕事なんでな。
 ヒビが入っていた壁から、潜り込ませてもらった」

そう返して、スネークはエアダクトから飛び降りる。
左上が持っているのは、「傷ひとつない万全な状態の」デパートである。
今の壊れたデパートは、完全には把握していない。

「貴様は何者だ」
『答エル理由ハアリマセン』

コルトパイソンを突きつけられても、義体は平然とそう返す。
別に、いざスネークと戦闘を開始した場合でも、戦うことに関して不安があるわけではない。
勝ち目があるとかないとかそういう以前に、義体は所詮義体。
痛め付けられようと破壊されようと、左上に損害はないからだ。
問題は、それ以前の事象に存在する。どうするべきか、逡巡する左上の回路。
参加者の直接的殺害は、明らかに任務の範囲外だ。
大人しく逃走すべきか。自己防衛を盾に殺害すべきか。
或いは――



「なんであいつが裏切ってるんだよ!」
「知るか!」

銃声がフルオートで響き続ける中、ヤケ気味に怒鳴り合うタケモトと馬岱。
棚の後ろへ飛び込んだ馬岱の警告で咄嗟に柱の影に隠れたタケモトだったが、
タケモト達以上にヤケになっているときちくは構わずTMPを乱射した。
少しでも顔を出そうものなら、その瞬間顔が蜂の巣になるだろう。
せめてもの救いは、ときちくがネイティオやフィギュアを使う様子がないこと。
それは何か考えがあるのではなく、ただそこまで考えが及んでいないだけだ。
故に、馬岱達には付け入る隙があるのだが……
最悪なことに、三人とも碌な飛び道具を持っていない。

銃声が止む。
飛び出そうと様子を伺う馬岱だったが、ときちくが新たに予備弾倉を装填するのを見て慌てて顔を引っ込めた。
銃弾主催による火花と金属音の競演がすぐさま再開される。

「だいたいあんな銃どこから持ってきたんだ!」
「知るかって!」

またもヤケ気味に怒鳴り合うタケモトと馬岱と、銃弾を乱射し続けるときちく。
情勢は依然として、混迷の一途を辿っていた。

【F-3 デパート/2日目・日中】
【タケモト@自作の改造マリオを友人にプレイさせるシリーズ】
[状態]:精神疲労(中)、混乱
[装備]:アイスソード@ちっこい咲夜さん
[道具]:[タケモトのデイバッグ]
支給品一式(水一食消費)、精密ドライバー@現実、野菜ジュース@ぽっぴっぽー、カミーユの首輪(一部破損) 
ドアラの首輪、シルバーウルフ(12/12)、(予備弾188本)@フルメタル輪ゴム鉄砲、万葉丸(11/30)@零シリーズ 
強姦パウダー@ニコニコRPG(4/9)、ブロントさんの首輪(真っ二つ)、
プレミアム首輪×2、プレミアム首輪改×2、小型位置音声偽装装置(現在オフ)、隠し部屋に関する説明
プレミアム首輪の設計図、工具、隠し部屋のカギ、三国志大戦カード(不明)@三国志大戦
モンスターボール(空)@いかなるバグにも動じずポケモン赤を実況、キモイルカのメモ
DMカードセット(天使のサイコロ、スタープラスター)@遊戯王シリーズ、ブレード@サイべリア
[思考・状況]
1:どうなってるんだ畜生!
2:生き残る方法は……。
3:大連合は組まない、最低限の人数で行動
4:規格外の者に対抗出来るように、ある程度の戦力が欲しい
※射命丸から首輪に関しての情報を得ました。
※会場のループを知りました。
※殺し合いの目的をショーだと推測しました。
※積極的な脱出は不可能と考えました。

【馬岱@呂布の復讐】
[状態]:精神疲労(大)、混乱、疲労(小)
[装備]:鍬@吉幾三、三国志大戦カード(群雄SR馬超)@三国志大戦
 包丁(刃がボロボロ)@現実
[道具]:基本支給品(水、食料一食消費)、ヒテンミツルギ極意書@ニコニコRPG
[思考・状況]
1:だから俺が聞きたいんだよ!
2:これからは生きるために戦う。
3:もっと武器が欲しい。
※参加者の多くの名前を見た覚えがあることに気が付きました。ニコ動関連の知識の制限は実況者達等に比べて緩いようです。
※徐々に記憶制限が解けてきた様です

【ときちく@時々鬼畜なゲームプレイシリーズ】
[状態]:左肩下に刺し傷(応急処置済み)、左肩に銃痕(応急処置済)
 全身にダメージ(小)、思考の混乱(記憶は正常)、疲労(中)、精神疲労(中)
[装備]: ナイフ×2、包丁×3、フライパン、ステアーTMP(15/30、予備弾倉残り6)@現実
[道具]:[ときちくのデイバッグ]
支給品一式×7(食料・水三食分消費)フォーク、張遼の書@ニコニコ歴史戦略ゲー 、
無限刃@るろうに剣心、レナの鉈@ひぐらしのなく頃に、KAITOのマフラー@VOCALOID、
 亀の甲羅×2@マリオシリーズ、銃(10/15)@現実DMカード(ブラックマジシャン(12時間使用不可能))@遊戯王
アシストフィギュア(サイボーグ忍者)@大乱闘スマッシュブラザーズX(使用可能) 、プレミアム首輪改
タバコ一箱@メタルギアシリーズ、タミフル@現実、北条鉄平の首輪、モンスターボール(空)
 首輪探知機(残り6分) 、モンスターボール(ネイティオ)@ポケットモンスター
[バクラのデイバッグ]
毒蛾のナイフ@ドラゴンクエスト、
DMカードセット(翻弄するエルフの剣士(4時間使用不可)、鉄の騎士ギア・フリード(12時間使用不能)、)@遊☆戯☆王
 普通のDMカード@現実 共通支給品、コメント一覧@ニコニコ動画、予備弾丸セット@オリジナル
【思考・状況】 基本思考:???
1:(自暴自棄)
【備考】
※自分の元世界がどんな場所か、自分がどんな存在が理解しました。
※元々の能力などのせいで他の参加者に比べ疲労が激しいようです。
※オフィスビルのネットは主催者と繋がっていると推測しました(真偽は不明)
※映画館での出来事を知りました。
※会場のループを知りました。
※殺し合いの目的をショーだと推測していますが、漠然と不安も抱いています。
※予備弾丸セットの中身のうちコルトパイソンの弾丸はスネークに、
近代ベルカ式カートリッジはチルノに渡してあります。

【桂言葉@SchoolDays】
[状態]:肩に刺し傷、疲労(中)、全身に痛み、空腹 全身に暴行の痕、ドナルドへの恐怖感、混乱
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]基本思考:誠君を生き返らせるために生き残る
1:もう私には…
※アニメ最終話後からの参戦です。
※第四回定時放送を聞き逃しました。

【ソリッド・スネーク@メタルギアソリッド】
【状態】肉体疲労(中)、全身に擦り傷、切り傷
【装備】コルトパイソン(6/6、予備弾45)@現実、TDNスーツ@ガチムチパンツレスリング、越前の軍服
 愛犬ロボット「てつ」@日本郵販テレホンショッピング
【持物】支給品一式(水、食料一食消費)
 やる夫の首輪、ハイポーション@ハイポーション作ってみた、馬鹿の世界地図@バカ日本地図、全世界のバカが考えた脳内ワールドマップ
 咲夜のナイフ@東方project、さのすけ@さよなら絶望先生、基本医療品、至高のコッペパン×4@ニコニコRPG
【思考・行動】
基本思考:情報を集める。
1:アンノウン(左上の義体)への対応
2:自分から攻撃はしない。見つかった場合も出来れば攻撃したくない。
3:十六夜咲夜のような奴が居れば、仲間に誘った後、情報を聞き出した後倒す。
4:てつを使用し、偵察、囮に使う。
5:十六夜咲夜、ドナルドを警戒
6:これ以上仲間を死なせない
[備考]
※馬鹿の日本地図の裏に何か書いてあります。


【藤崎瑞希@現実 死亡】
藤崎の遺体の側に藤崎の荷物が転がっていますが、
一部は銃弾で損傷しています。


【ステアーTMP@現実】
警察・特殊部隊向け小型短機関銃。機関拳銃に分類されることもある。
極めて軽量、かつ小型で反動が小さく、射撃精度が高いのが特徴。
装弾数は30、連射は900発/分。なのでフルオートでぶっ放し続けると即弾切れ。
もっとも左上は予備マガジンを10個渡すという大盤振る舞いをしているが。
実際に観たい、という人はバイオハザード4のプレイ動画を見ると良い。
「マシンピストル」という名前で登場している。



sm244:COUNT DOWN(下) 時系列順 sm246:十六夜薔薇
sm244:COUNT DOWN(下) 投下順 sm246:十六夜薔薇
sm244:COUNT DOWN(下) タケモト sm247:All Fiction
sm244:COUNT DOWN(下) 馬岱 sm247:All Fiction
sm244:COUNT DOWN(下) ときちく sm247:All Fiction
sm244:COUNT DOWN(下) 桂言葉 sm247:All Fiction
sm244:COUNT DOWN(下) ソリッド・スネーク sm247:All Fiction
sm244:COUNT DOWN(下) 藤崎瑞希 死亡
sm242:第六回放送 左上 sm247:All Fiction






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