no return point ◆WWhm8QVzK6
(いやぁ…ここまでくると呆れるというか何と言うか…)
少々呆然としつつ右上は現状を確認していた。
指定された場所に飛べば、カジュアルな服装に身を包んだ少女にとあるビルの一室まで
案内されて(異世界であることは間違いない)、やってきてみれば面会相手はおろか何も無い
真っ白な部屋に案内された。なんにもない。なんにも。
(何だよここ…精神と時の部屋かよ!)
心の中で思わず叫んでしまった。
電灯も窓も無いのになぜ明かりがあるのがさっぱり不明だが、そこにまで突っ込む気合は無い。
とりあえずその点の思考は放棄して時を待つことにする。
右上の後ろにいた少女はそれを無視してドアの傍にあるスイッチを押した、途端。
床からテーブルが、ソファが。壁からテレビが、食器棚が。その他様々な調度品が至る所から現れる。
それを無理矢理ほほえましい表情で見届けると右上は少女に促されるままにソファに近づいた。
同時に、テレビの電源が入る。
『まあ座ってくれよ。そちらも忙しそうだし手早く済ませよう』
「……」
右上は若干閉口しながらも、おとなしく二つ返事で傍にあったソファに座った。
別に反抗的になる意味も無い。画面の中の男が言うとおり、右上は忙しいのだ。
男はどこぞの漫画にあったような仮面を被っており、その顔作りは分からない。
右上は言おうかどうか迷ったがここで言わないと変な蟠りが残るので言うことにした。
左上なら華麗にスルーするのだろうが。
「…あのですね。こっちもプライバシーの保障はしてるわけですからそこまで過敏にならなくとも」
『そうかい?でもまあ外すのも面倒だからこのままでもいいだろう』
どれだけ面倒なんだよ、と思ったが声には出さない。
個人の問題だし一々口に出すことではないからだ。面倒なのはこちら側も同じ、と。
『そちらに内容は行き届いているね?』
「ええ。何者かがこちらに干渉しようとした形跡を見つけた、ということですか」
こういう情報はありがたい。
中には知っていてもその情報を出さない者もいるからだ。
『それだよ、それ。実はね…形跡だけじゃなくて犯人も知っているんだよ』
「 は? 」
一瞬の無言。
そして、成程という右上の嘆息が洩れた。
おそらくその情報は本物だ。だが、見返りを必ず求めてくるだろう。
左上の見立ては正しかったらしい。
(あーあー、この動画ともおさらばですか。希少価値高いのになぁ)
『ん?いや、【それ】は後でいい。今から話す情報だけでは釣り合わないだろう。その前に…』
「?」
男の妙な言葉も気になったが、それすらも後回しにする事とは何なのか。
行動わりと読まれてるなと思いながらも右上は一先ずほっとして相手の話を待った。
『現時点で、残り何人だい?』
詰まるところは些細な趣味。
しかし、進行度を聞くことは彼らのようなスポンサーにとっては重要な意味を持つ。
「内容に関しての情報は…いや、いいか。賭けもとっくに締め切ってるし。……まあ大体4分の1ってところですよ」
ゲーム開催前に、実は結果を予想する賭博が行われていた。
それぞれの放送ごとに残り何人生き残っているか。また、最後に生き残るのはどのキャラか、など。
賭け金に上限はあるものの、そこに不満を出す者はいない。この賭博に参加する者は大方金など湯水のように
扱えるうえ、興味は内容にある。賭けはそのスパイスに過ぎないのだ。
『…早いね。まだ始まってから一日程度しか経っていないというのに。まあどういう状況で開始したかは知る術もないのだが』
彼らがゲームに関して知らされているのは精々参加者と会場の広さのみ。何処で行われているかといった事は全く公表されていない。
『となると…計画の大方は進行しているということでいいのかな?』
「はい、一応本来の目的はそれですからね」
『君達がやるのは正式とは言ってもその目的に関して言うのならばまだテストの状態だ。効果が実証され次第定期的に行うのだろう?』
「…まあそう考えていただいて構わないです」
彼らが開いたバトルロワイアル――つまり殺し合いゲームのことだが――の手の目的は、ニコニコ動画における権利侵害、工作への対策だ。
右上と男の会話からでは、殺し合いを行うことが何故それらの対策に繋がるのかは理解できない。
それに彼らもその点に関しては割りとどうでもいい様だった。
『じゃあ、本題に移ろうか。君達の陣地に干渉をしようとしたその存在は――ー』
・・・・・・
遊城十代。
早くもバトルロワイアルの計画の一端を嗅ぎ付け、阻止に回ろうとした男。
そして、今現在運営にとって最も危険な存在。
「……」
その名を聞いたとき、右上にとってそれは想定外で、思い返してみれば可能性としては当然だった。
支給品にはユベルがいる。さらに「あの十代」であるならば、それを取り返そうと動くのは必至。
表情には出さないが右上は心の中で歯噛みした。
(クソ……だとしたらかなり厄介だ。ドナルドの異能の所為で防御システムに『孔』が出る今は一番危険な状態じゃないか。
まあ現時点で『孔』は無いが今後の展開を考慮してドナルドが能力を使用することは確実。10秒……でも開けば危険だ。
座標を決められて侵入される可能性は充分あるな……。いや、あの時のエネルギー放出がそれだとしたらおそらく…)
『思考に耽るのは話の続きを聞いてからの方がいいと思うのだが』
「……何ですか?」
『彼……遊城十代はMUGEN界に入りそこの住人とコンタクトをとった。干渉はその時に行われたらしい。
らしいというのはまあ部下からの報告だからだが…あそこの世界は一部が私の管轄内でね。君達が幾らか住人を失敬した
後に状況を観察させていたんだよ。まあ発見できたのは偶然と言うわけだ。残念だが遊城と彼らの会話までは収集出来なかった。
下手に気づかれても拙いんでね。今はかなりの数の手練が集まってきているんだが……もしかして連中、君のとこの防御システム
無理矢理こじ開けようとしてるんじゃないか?』
さて、運営の防衛システムを純粋に威力だけで突破するならば核兵器の直撃でも足りない。
しかしあの世界には核兵器どころか銀河系を消滅させるほどの者が存在する。
「まさか…狂キャラとか神キャラとかいます?」
その発言に対し、男は画面の向こうで呆れたように見えた。
『……どうも大抵の者はあの世界に対する認識が薄いようだな。まあ私も在任して初めて理解できたが。
彼らを異常たらしめているのはあの世界そのものだ。他世界からコピーされた彼らはさらなる想念の幻想と
混ざり合ったカオスの存在となる。だから彼らはどこまでも強くなれるし何度でも死んで生き返ることが出来る。
しかし一度世界から出てしまえばその異常はリセットされ、もとの存在に成り下がる。世界を滅ぼすほどの
攻撃も使えないし一度死ねば二度と生き返らない。まあ、あの世界に生きて戻れたなら異常はまた復活するがね』
つまるところ、例えば神キャラとしてもネタキャラとしてもそこそこ定着している神七夜というキャラクターは
MUGEN界から出た途端にその幻想を維持できずに元の七夜志貴に戻ってしまう(記憶は維持されるが)。
なので強い者が外に出て役に立つかと言えば必ずしもそうではないのだ。
『それに狂キャラ以上はまともな意思疎通が出来ない上に普通の住人とも違う次元に住んでいる。
二重の意味で彼らは出てこないよ。それでも心配になるような状況があるのかい?』
「いえ、対策は立てられますが見落としがないかと考えていまして」
それは言葉の上だけだ。
ドナルドが生きている以上防御システムに不安がある今、これはかなり危険だ。
知っていてどうにかなるものではない。『孔』が一定時間以上開いたが最後、容易に中に侵入されてしまうだろう。
そして中にいる参加者を全員救出、あっという間におさらばだ。
後に残るのは死体しかない会場だけ。それだけはなんとしてでも避けなければならない。
『彼らに動きがあれば報告しよう。妨害は殆どできそうにないがそれくらいは出来るよ』
「助かります。相手が分かっていれば何とかなるでしょう」
(まあ、あるにはある……だけどアレはタイミングを見極めないと逆に破滅になるし…仕方ない)
自分ひとりでは決められない。
とりあえずこのことを報告して対策を確立させねば。
そう考え、彼は席を立とうとした。
「と、お礼と言ってはなんですが、これを」
右上は空間を広げ中から惜しそうに記録媒体を取り出す。
『中味は?』
「殺し合いの映像の一部です。自分のお気に入りベスト4ってとこですかね。無修正ですよ」
ブロリーvsサンレッド+ベジータの他にも右上は幾つか映像を録画していた。
よもやそれをじっくり堪能することもなく手放すことになるとは少し前まで彼は思いもしなかったのだが。
『ほぉ、では彼女に渡してくれ』
言い終わらない内に記憶媒体は後ろの少女に手渡された。と言うより、取り上げられた。
そして少女は左袖を捲り上げると自分の体にそれを接続した。
「えっ」
「コピー完了しました。どうぞ」
僅かに機械質の声。
唖然と納得しながら右上は受け取り、テレビ画面を振り返った。
『情報は形が無いから実に扱いやすい。そう思わないか?』
「ごもっともで」
テレビの電源は切られた。
あとに残るのは少女と右上だけだ。
「……あんた、ロボットだよな」
「はい。正確にはガイノイドですが。それが何か?」
つまり完全な機械。人間の組織が残るサイボーグとは違う。
今回のゲームにも初音ミクがそれとして参加していたが、結果はご存知の通り。
しかし人造人間はその種別ごとに性能が違うので一概に弱いとは言えないのだ。
「いや、ちょっとした興味だよ」
「そうですか。それでは気をつけてお帰り下さい」
そう言うと少女はその場から消滅した。
空間転移機能も備わっているらしい。つくづくハイスペックだ。
さて、これでこの場に残っているのは右上だけとなった。
懸念材料――もとい仕事が一気に増大。ストレスで禿げやしないだろうかと右上は心配になったが、すぐさま対応策を
頭の中で構築する。切り替えなければ状況に置いていかれるだけだからだ。
(接触したってんならすぐにでも介入が始まる筈だ。それでも来ないってことは一応防衛システムは有効なのは間違いない。
だがそれもドナルドの所為でおしゃかになるからそこを突かれないわけがない。さぁて、どうするかな)
対応策はいくらでも考えられる。
だが左上や運営長が首を縦に振るようなのを立案しろと言うなら話は別だ。
それに出来れば右上としてもゲームが破綻するのは避けたかった。しかし避けられないというのならばそこまで
融通が利かないわけでもない。参加者との対決はある意味彼が望んでいたものでもあったのだから。
「座標特定、と。まあ急がなきゃな」
長居は無用。
じきに起こるとされるドナルドと脱出連合の戦闘を見計らって侵入が行われるのは明らかだ。
それまでに対応策を確定せねば文字通り、詰む。
(しかし……左上ってどこら辺に人間の部分が残ってるんだ?)
最後にどうでもいい疑問を頭に残しつつ、彼はその場から飛んだ。
※右上は介入者が遊城十代であることを知りました。
運営は外部の侵入に対してさらなる対抗措置を取る可能性があります。
遊城十代が参加者と間接的にコンタクトを取ったことについてはまだ気づいていません。
少々呆然としつつ右上は現状を確認していた。
指定された場所に飛べば、カジュアルな服装に身を包んだ少女にとあるビルの一室まで
案内されて(異世界であることは間違いない)、やってきてみれば面会相手はおろか何も無い
真っ白な部屋に案内された。なんにもない。なんにも。
(何だよここ…精神と時の部屋かよ!)
心の中で思わず叫んでしまった。
電灯も窓も無いのになぜ明かりがあるのがさっぱり不明だが、そこにまで突っ込む気合は無い。
とりあえずその点の思考は放棄して時を待つことにする。
右上の後ろにいた少女はそれを無視してドアの傍にあるスイッチを押した、途端。
床からテーブルが、ソファが。壁からテレビが、食器棚が。その他様々な調度品が至る所から現れる。
それを無理矢理ほほえましい表情で見届けると右上は少女に促されるままにソファに近づいた。
同時に、テレビの電源が入る。
『まあ座ってくれよ。そちらも忙しそうだし手早く済ませよう』
「……」
右上は若干閉口しながらも、おとなしく二つ返事で傍にあったソファに座った。
別に反抗的になる意味も無い。画面の中の男が言うとおり、右上は忙しいのだ。
男はどこぞの漫画にあったような仮面を被っており、その顔作りは分からない。
右上は言おうかどうか迷ったがここで言わないと変な蟠りが残るので言うことにした。
左上なら華麗にスルーするのだろうが。
「…あのですね。こっちもプライバシーの保障はしてるわけですからそこまで過敏にならなくとも」
『そうかい?でもまあ外すのも面倒だからこのままでもいいだろう』
どれだけ面倒なんだよ、と思ったが声には出さない。
個人の問題だし一々口に出すことではないからだ。面倒なのはこちら側も同じ、と。
『そちらに内容は行き届いているね?』
「ええ。何者かがこちらに干渉しようとした形跡を見つけた、ということですか」
こういう情報はありがたい。
中には知っていてもその情報を出さない者もいるからだ。
『それだよ、それ。実はね…形跡だけじゃなくて犯人も知っているんだよ』
「 は? 」
一瞬の無言。
そして、成程という右上の嘆息が洩れた。
おそらくその情報は本物だ。だが、見返りを必ず求めてくるだろう。
左上の見立ては正しかったらしい。
(あーあー、この動画ともおさらばですか。希少価値高いのになぁ)
『ん?いや、【それ】は後でいい。今から話す情報だけでは釣り合わないだろう。その前に…』
「?」
男の妙な言葉も気になったが、それすらも後回しにする事とは何なのか。
行動わりと読まれてるなと思いながらも右上は一先ずほっとして相手の話を待った。
『現時点で、残り何人だい?』
詰まるところは些細な趣味。
しかし、進行度を聞くことは彼らのようなスポンサーにとっては重要な意味を持つ。
「内容に関しての情報は…いや、いいか。賭けもとっくに締め切ってるし。……まあ大体4分の1ってところですよ」
ゲーム開催前に、実は結果を予想する賭博が行われていた。
それぞれの放送ごとに残り何人生き残っているか。また、最後に生き残るのはどのキャラか、など。
賭け金に上限はあるものの、そこに不満を出す者はいない。この賭博に参加する者は大方金など湯水のように
扱えるうえ、興味は内容にある。賭けはそのスパイスに過ぎないのだ。
『…早いね。まだ始まってから一日程度しか経っていないというのに。まあどういう状況で開始したかは知る術もないのだが』
彼らがゲームに関して知らされているのは精々参加者と会場の広さのみ。何処で行われているかといった事は全く公表されていない。
『となると…計画の大方は進行しているということでいいのかな?』
「はい、一応本来の目的はそれですからね」
『君達がやるのは正式とは言ってもその目的に関して言うのならばまだテストの状態だ。効果が実証され次第定期的に行うのだろう?』
「…まあそう考えていただいて構わないです」
彼らが開いたバトルロワイアル――つまり殺し合いゲームのことだが――の手の目的は、ニコニコ動画における権利侵害、工作への対策だ。
右上と男の会話からでは、殺し合いを行うことが何故それらの対策に繋がるのかは理解できない。
それに彼らもその点に関しては割りとどうでもいい様だった。
『じゃあ、本題に移ろうか。君達の陣地に干渉をしようとしたその存在は――ー』
・・・・・・
遊城十代。
早くもバトルロワイアルの計画の一端を嗅ぎ付け、阻止に回ろうとした男。
そして、今現在運営にとって最も危険な存在。
「……」
その名を聞いたとき、右上にとってそれは想定外で、思い返してみれば可能性としては当然だった。
支給品にはユベルがいる。さらに「あの十代」であるならば、それを取り返そうと動くのは必至。
表情には出さないが右上は心の中で歯噛みした。
(クソ……だとしたらかなり厄介だ。ドナルドの異能の所為で防御システムに『孔』が出る今は一番危険な状態じゃないか。
まあ現時点で『孔』は無いが今後の展開を考慮してドナルドが能力を使用することは確実。10秒……でも開けば危険だ。
座標を決められて侵入される可能性は充分あるな……。いや、あの時のエネルギー放出がそれだとしたらおそらく…)
『思考に耽るのは話の続きを聞いてからの方がいいと思うのだが』
「……何ですか?」
『彼……遊城十代はMUGEN界に入りそこの住人とコンタクトをとった。干渉はその時に行われたらしい。
らしいというのはまあ部下からの報告だからだが…あそこの世界は一部が私の管轄内でね。君達が幾らか住人を失敬した
後に状況を観察させていたんだよ。まあ発見できたのは偶然と言うわけだ。残念だが遊城と彼らの会話までは収集出来なかった。
下手に気づかれても拙いんでね。今はかなりの数の手練が集まってきているんだが……もしかして連中、君のとこの防御システム
無理矢理こじ開けようとしてるんじゃないか?』
さて、運営の防衛システムを純粋に威力だけで突破するならば核兵器の直撃でも足りない。
しかしあの世界には核兵器どころか銀河系を消滅させるほどの者が存在する。
「まさか…狂キャラとか神キャラとかいます?」
その発言に対し、男は画面の向こうで呆れたように見えた。
『……どうも大抵の者はあの世界に対する認識が薄いようだな。まあ私も在任して初めて理解できたが。
彼らを異常たらしめているのはあの世界そのものだ。他世界からコピーされた彼らはさらなる想念の幻想と
混ざり合ったカオスの存在となる。だから彼らはどこまでも強くなれるし何度でも死んで生き返ることが出来る。
しかし一度世界から出てしまえばその異常はリセットされ、もとの存在に成り下がる。世界を滅ぼすほどの
攻撃も使えないし一度死ねば二度と生き返らない。まあ、あの世界に生きて戻れたなら異常はまた復活するがね』
つまるところ、例えば神キャラとしてもネタキャラとしてもそこそこ定着している神七夜というキャラクターは
MUGEN界から出た途端にその幻想を維持できずに元の七夜志貴に戻ってしまう(記憶は維持されるが)。
なので強い者が外に出て役に立つかと言えば必ずしもそうではないのだ。
『それに狂キャラ以上はまともな意思疎通が出来ない上に普通の住人とも違う次元に住んでいる。
二重の意味で彼らは出てこないよ。それでも心配になるような状況があるのかい?』
「いえ、対策は立てられますが見落としがないかと考えていまして」
それは言葉の上だけだ。
ドナルドが生きている以上防御システムに不安がある今、これはかなり危険だ。
知っていてどうにかなるものではない。『孔』が一定時間以上開いたが最後、容易に中に侵入されてしまうだろう。
そして中にいる参加者を全員救出、あっという間におさらばだ。
後に残るのは死体しかない会場だけ。それだけはなんとしてでも避けなければならない。
『彼らに動きがあれば報告しよう。妨害は殆どできそうにないがそれくらいは出来るよ』
「助かります。相手が分かっていれば何とかなるでしょう」
(まあ、あるにはある……だけどアレはタイミングを見極めないと逆に破滅になるし…仕方ない)
自分ひとりでは決められない。
とりあえずこのことを報告して対策を確立させねば。
そう考え、彼は席を立とうとした。
「と、お礼と言ってはなんですが、これを」
右上は空間を広げ中から惜しそうに記録媒体を取り出す。
『中味は?』
「殺し合いの映像の一部です。自分のお気に入りベスト4ってとこですかね。無修正ですよ」
ブロリーvsサンレッド+ベジータの他にも右上は幾つか映像を録画していた。
よもやそれをじっくり堪能することもなく手放すことになるとは少し前まで彼は思いもしなかったのだが。
『ほぉ、では彼女に渡してくれ』
言い終わらない内に記憶媒体は後ろの少女に手渡された。と言うより、取り上げられた。
そして少女は左袖を捲り上げると自分の体にそれを接続した。
「えっ」
「コピー完了しました。どうぞ」
僅かに機械質の声。
唖然と納得しながら右上は受け取り、テレビ画面を振り返った。
『情報は形が無いから実に扱いやすい。そう思わないか?』
「ごもっともで」
テレビの電源は切られた。
あとに残るのは少女と右上だけだ。
「……あんた、ロボットだよな」
「はい。正確にはガイノイドですが。それが何か?」
つまり完全な機械。人間の組織が残るサイボーグとは違う。
今回のゲームにも初音ミクがそれとして参加していたが、結果はご存知の通り。
しかし人造人間はその種別ごとに性能が違うので一概に弱いとは言えないのだ。
「いや、ちょっとした興味だよ」
「そうですか。それでは気をつけてお帰り下さい」
そう言うと少女はその場から消滅した。
空間転移機能も備わっているらしい。つくづくハイスペックだ。
さて、これでこの場に残っているのは右上だけとなった。
懸念材料――もとい仕事が一気に増大。ストレスで禿げやしないだろうかと右上は心配になったが、すぐさま対応策を
頭の中で構築する。切り替えなければ状況に置いていかれるだけだからだ。
(接触したってんならすぐにでも介入が始まる筈だ。それでも来ないってことは一応防衛システムは有効なのは間違いない。
だがそれもドナルドの所為でおしゃかになるからそこを突かれないわけがない。さぁて、どうするかな)
対応策はいくらでも考えられる。
だが左上や運営長が首を縦に振るようなのを立案しろと言うなら話は別だ。
それに出来れば右上としてもゲームが破綻するのは避けたかった。しかし避けられないというのならばそこまで
融通が利かないわけでもない。参加者との対決はある意味彼が望んでいたものでもあったのだから。
「座標特定、と。まあ急がなきゃな」
長居は無用。
じきに起こるとされるドナルドと脱出連合の戦闘を見計らって侵入が行われるのは明らかだ。
それまでに対応策を確定せねば文字通り、詰む。
(しかし……左上ってどこら辺に人間の部分が残ってるんだ?)
最後にどうでもいい疑問を頭に残しつつ、彼はその場から飛んだ。
※右上は介入者が遊城十代であることを知りました。
運営は外部の侵入に対してさらなる対抗措置を取る可能性があります。
遊城十代が参加者と間接的にコンタクトを取ったことについてはまだ気づいていません。
sm238:目覚める本能 | 時系列順 | sm240:終わりの始まり |
sm238:目覚める本能 | 投下順 | sm240:終わりの始まり |
sm232:第五回放送 | 右上 | sm242:第六回放送 |