第五回放送 ◆F.EmGSxYug
デパートに残していた部下数名と共に出立した右上は、
一部の部下を先遣隊として向かわせ調査させていた映画館へ到着した。
先に到着した部下が探索をある程度行っていたため、
映画館の探索は合流後、迅速に終了。最終報告を部下に行わせる。
「で、お前らが発見したものは?」
「いえ、特には」
「同じく」
「……俺が見たところも特にはないし、映画館クリア、だな」
小さく息を吐きながら、最後の確認とばかりに周りを見渡す右上。
今も爆破の痕が残る映画館。誰もいないが、そこいらのお化け屋敷よりはよほど怖がらせられるだろう。
もっとも、右上はこの程度で怖がるような肝の持ち主ではない。
時刻は放送まであと十数分と言ったところ。洞窟を見るくらいの時間はあるはずだ……
『聞こえていますか、右上。要件が出来ました、戻ってきて下さい』
左上からの連絡が入ってきたのは、右上がそう見立てた瞬間だった。
本来より早い帰還要請に首を捻ったが、一応戻らないわけにはいかない。
そして右上が戻る以上は部下も戻ることとなる。なぜなら今回の探索において、
運営本部と会場の間における部隊の移動は右上の能力を使用したからだ。
部下に運営本部への帰還方法を持たせなかった以上、右上だけ帰るというのは部下をここに残すことを意味する。
そして部下を監視として会場に残すというのはまだリスクと成果が釣り合わない、
という事は左上と右上の共通認識である。
かくして部隊を引き連れて本部へ戻った右上であったが、
帰還早々放たれた言葉に右上は更に首を傾げることになった。
「ここに干渉を試みているような形跡を発見したって外から連絡が入った?」
「はい、我々のスポンサーの一人であるとともに、
『プレミアム会員』として登録されている所から」
そいつは今までと違う意味で面倒だ、と呟いて椅子に座る右上。
――主に運営と称される組織「ドワンゴ」は無償の団体でもなければ、
数多の並行世界を完全に支配し好き勝手できるような組織でもない。
だが、運営には純粋な戦闘力ではない強みがある――政治力。
下請けを使用して準備を隠蔽してきたことに代表されるように、
各世界の組織の一部との繋がりを運営は持っている。
パラガスのリミッターを応用したサイヤ人への制限などはそうやって得たものだ。
もちろん、そういった組織がこのような事業に対し無意味に協力するはずがない。
必要とされるのはギブ・アンド・テイクである。
それを満たすため、「ドワンゴ」の在り方はいわゆる企業のそれに近い。
今回の殺し合いにおいても黒字化を目指すという名目で、
協力者や好事家の富豪に映像を配信する手筈になっていた。
流石にこれほど大規模な行動では、収入のあても考えておかねば成立しない……
そして、こういったことを好む外道は数多の世界にいるものである。
無論ニコニコ生放送でやるのは不可能なので、後々編集したものを流す予定だが。
こういった手法そのものは、前例のないことではない。
右上の知る限りでは他にもこういった殺し合いを行わせそれを記録、販売した例はあるらしい。
もっとも彼もそれに関しての知識は又聞きのそのまた又聞きといった程度で、
その映像そのものを見たことはない、という伝聞レベルに過ぎないが……
それはともかく、左上からの報告に右上は興味深そうな顔をした。
部下はメンテナンスや監視交代の準備をしているので、ここにいるのは左上と右上だけだ。
なので思う存分ダレることができる。
「ふーん……で、そのスポンサー兼プレミアム会員様はどんなことを?」
「自分の縄張りで不自然な形跡を発見したとのこと。
相応の見返りがあれば協力もやぶさかでない、と申し出ています」
「見返りつってもなぁ……」
「あなたがこっそり横領していた殺し合いの映像でも先払いで渡せばいいでしょう。
いい感じで編集されてるでしょうし、先方も気に入ると思いますが?」
何気ない調子で放たれた言葉だったが、その効果は右上を椅子からずり落ちさせるほどに覿面だった。
「……知ってたのかよ」
「えぇ、知ってましたとも。
今、職権乱用を弾劾することはそれこそ『無駄』なので放置してましたが。
私が探索を中止させてまでわざわざ呼び戻したということは、つまり」
「へーへー、渡しますよ、渡しますともさ」
終わったら弾劾するつもりだったと言わんばかりの左上に肩を竦め、空間に穴を開ける右上。
そのまま記録媒体を取り出してそれを投げると、左上はそれをキャッチし、自分の体に接続して確認した。
しばらく後、その端末は僅かな発光とともに機械の体から外される。
「機密の露呈はなさそうですね。運営長に交渉材料として使うよう連絡します。
この件に関しては、『こういった事態に備え記録しておいた』としておきます」
「くそ、俺のお宝が……なぁ左上、せめてコピー取ってくれよ」
「駄目です。
それよりあなたが担当する放送より十分を切りました、そちらの準備を。
放送後、私はメンテナンスですから、代わりの監視をよろしくお願いします」
「その間にコピーしてくれればいいだろー」
未だに縋ってくる右上に対し、左上は眉をひそめて更に追い打ちをかける。
「駄目なものはだめです。ああ、そうそう、言い忘れてました。
私のメンテナンスが終わって監視役を私に戻し終わったら、
情報を提供してきた組織との交渉役にあなたを遣わせるそうです。
異世界へと渡れるあなたこそがここを離れるのに最適ですからね。
なので、今回の放送までに得た映像を横領する暇はありません。
そして、その後に洞窟の探索を……」
「……お前、わざとうんざりさせるために言ってるだろ?」
「当然でしょう?」
「この狭量ブサイ……イエナンデモアリマセンスイマセンデシタ」
右上の罵倒は、左上が再度チラつかせ始めた記憶媒体によって強制終了させられた。
基本的に自分の楽しみのため動く彼も運営長は敬い恐れているので、職権乱用を報告されるのは困る。
諦めて右上が椅子に座り、会場の様子を共に見たり記録媒体を秘密裏に奪い返そうとして撃たれそうになったりした十分後、
左上はマイクを入れようとした右上に注文を入れた。
「ふと思いつきましたが、天候が曇りになる旨を言っておいて下さい」
「なんでだよ?」
「空間に穴が開いたことで、僅かですが気候変動の様子が見られます。
通常より雲が多くなるかもしれません。
こちらから気候を操ったことにしておいた方がいいでしょう」
「なんだ、そんなことか。んじゃ、マイク入れるぞ」
「どうぞ」
「ではポチっとな……あーあー、テステス。聞こえてるな、オッケー?
二日目まで生き残った参加者諸君、おめでとう。楽しい放送のお時間だ。
運がいいのか力があるのか頭が回るのかは知らんが、なかなかお見事だぜ。
せっかくだから讃美歌でもBGMに流して……あ、なに、無理? そう。
じゃあ、まず一日目を生き残ったのに死んだ不幸な連中の発表から行こうか。
賀斉
DIO
獏良了
萩原雪歩
鏡音レン
射命丸文
の六名、残り人数はなんとたったの15人だ。そして禁止エリアだが、
8時からE-3、10時からF-4だ。ここまで来たんだ、うっかり入って死ぬなよ?
さて、おまけとして天気予報だが……朝から雲行きが悪くなる予定だ。
ところにより槍が降ったり血の雨が降ったりするかもな、降らすのはお前らだが。
頑張って半日後まで生き残れよー、以上!」
最後をすっぱりと言い切った後に、右上はマイクを切った。
その様子を見て、ふむ、と左上が吐息を漏らす。
「あなたにしては短い内容ですね」
「……お前が讃美歌流すなってジェスチャーしてきた上に、
これから仕事山積みだと意識させられたからな」
「自覚しているようで何よりです」
「はーあー……俺、どれくらいで戻ってこれると思うよ」
「遅くとも、次の放送までには戻ってこられると思いますが。私のメンテナンスもありますし。
あちらともしても交渉を長引かせることが殺し合いを破綻させると知ればあっさり折れるでしょう」
「ったく、交渉事は嫌いなんだが……」
「それは何よりですね。
私はメンテナンスと運営長への報告へ行ってきますので」
嫌味を残して席を立つ左上に、右上はぐったりとパネルに寄り掛かるのだった。
大なり小なり、この交渉で運営は十代たちの行動に気付くだろう。
だが果たして、とうとう洞窟を後回しにしてしまったことがどう出るか。
全ては――次の放送前後までに決まる。
一部の部下を先遣隊として向かわせ調査させていた映画館へ到着した。
先に到着した部下が探索をある程度行っていたため、
映画館の探索は合流後、迅速に終了。最終報告を部下に行わせる。
「で、お前らが発見したものは?」
「いえ、特には」
「同じく」
「……俺が見たところも特にはないし、映画館クリア、だな」
小さく息を吐きながら、最後の確認とばかりに周りを見渡す右上。
今も爆破の痕が残る映画館。誰もいないが、そこいらのお化け屋敷よりはよほど怖がらせられるだろう。
もっとも、右上はこの程度で怖がるような肝の持ち主ではない。
時刻は放送まであと十数分と言ったところ。洞窟を見るくらいの時間はあるはずだ……
『聞こえていますか、右上。要件が出来ました、戻ってきて下さい』
左上からの連絡が入ってきたのは、右上がそう見立てた瞬間だった。
本来より早い帰還要請に首を捻ったが、一応戻らないわけにはいかない。
そして右上が戻る以上は部下も戻ることとなる。なぜなら今回の探索において、
運営本部と会場の間における部隊の移動は右上の能力を使用したからだ。
部下に運営本部への帰還方法を持たせなかった以上、右上だけ帰るというのは部下をここに残すことを意味する。
そして部下を監視として会場に残すというのはまだリスクと成果が釣り合わない、
という事は左上と右上の共通認識である。
かくして部隊を引き連れて本部へ戻った右上であったが、
帰還早々放たれた言葉に右上は更に首を傾げることになった。
「ここに干渉を試みているような形跡を発見したって外から連絡が入った?」
「はい、我々のスポンサーの一人であるとともに、
『プレミアム会員』として登録されている所から」
そいつは今までと違う意味で面倒だ、と呟いて椅子に座る右上。
――主に運営と称される組織「ドワンゴ」は無償の団体でもなければ、
数多の並行世界を完全に支配し好き勝手できるような組織でもない。
だが、運営には純粋な戦闘力ではない強みがある――政治力。
下請けを使用して準備を隠蔽してきたことに代表されるように、
各世界の組織の一部との繋がりを運営は持っている。
パラガスのリミッターを応用したサイヤ人への制限などはそうやって得たものだ。
もちろん、そういった組織がこのような事業に対し無意味に協力するはずがない。
必要とされるのはギブ・アンド・テイクである。
それを満たすため、「ドワンゴ」の在り方はいわゆる企業のそれに近い。
今回の殺し合いにおいても黒字化を目指すという名目で、
協力者や好事家の富豪に映像を配信する手筈になっていた。
流石にこれほど大規模な行動では、収入のあても考えておかねば成立しない……
そして、こういったことを好む外道は数多の世界にいるものである。
無論ニコニコ生放送でやるのは不可能なので、後々編集したものを流す予定だが。
こういった手法そのものは、前例のないことではない。
右上の知る限りでは他にもこういった殺し合いを行わせそれを記録、販売した例はあるらしい。
もっとも彼もそれに関しての知識は又聞きのそのまた又聞きといった程度で、
その映像そのものを見たことはない、という伝聞レベルに過ぎないが……
それはともかく、左上からの報告に右上は興味深そうな顔をした。
部下はメンテナンスや監視交代の準備をしているので、ここにいるのは左上と右上だけだ。
なので思う存分ダレることができる。
「ふーん……で、そのスポンサー兼プレミアム会員様はどんなことを?」
「自分の縄張りで不自然な形跡を発見したとのこと。
相応の見返りがあれば協力もやぶさかでない、と申し出ています」
「見返りつってもなぁ……」
「あなたがこっそり横領していた殺し合いの映像でも先払いで渡せばいいでしょう。
いい感じで編集されてるでしょうし、先方も気に入ると思いますが?」
何気ない調子で放たれた言葉だったが、その効果は右上を椅子からずり落ちさせるほどに覿面だった。
「……知ってたのかよ」
「えぇ、知ってましたとも。
今、職権乱用を弾劾することはそれこそ『無駄』なので放置してましたが。
私が探索を中止させてまでわざわざ呼び戻したということは、つまり」
「へーへー、渡しますよ、渡しますともさ」
終わったら弾劾するつもりだったと言わんばかりの左上に肩を竦め、空間に穴を開ける右上。
そのまま記録媒体を取り出してそれを投げると、左上はそれをキャッチし、自分の体に接続して確認した。
しばらく後、その端末は僅かな発光とともに機械の体から外される。
「機密の露呈はなさそうですね。運営長に交渉材料として使うよう連絡します。
この件に関しては、『こういった事態に備え記録しておいた』としておきます」
「くそ、俺のお宝が……なぁ左上、せめてコピー取ってくれよ」
「駄目です。
それよりあなたが担当する放送より十分を切りました、そちらの準備を。
放送後、私はメンテナンスですから、代わりの監視をよろしくお願いします」
「その間にコピーしてくれればいいだろー」
未だに縋ってくる右上に対し、左上は眉をひそめて更に追い打ちをかける。
「駄目なものはだめです。ああ、そうそう、言い忘れてました。
私のメンテナンスが終わって監視役を私に戻し終わったら、
情報を提供してきた組織との交渉役にあなたを遣わせるそうです。
異世界へと渡れるあなたこそがここを離れるのに最適ですからね。
なので、今回の放送までに得た映像を横領する暇はありません。
そして、その後に洞窟の探索を……」
「……お前、わざとうんざりさせるために言ってるだろ?」
「当然でしょう?」
「この狭量ブサイ……イエナンデモアリマセンスイマセンデシタ」
右上の罵倒は、左上が再度チラつかせ始めた記憶媒体によって強制終了させられた。
基本的に自分の楽しみのため動く彼も運営長は敬い恐れているので、職権乱用を報告されるのは困る。
諦めて右上が椅子に座り、会場の様子を共に見たり記録媒体を秘密裏に奪い返そうとして撃たれそうになったりした十分後、
左上はマイクを入れようとした右上に注文を入れた。
「ふと思いつきましたが、天候が曇りになる旨を言っておいて下さい」
「なんでだよ?」
「空間に穴が開いたことで、僅かですが気候変動の様子が見られます。
通常より雲が多くなるかもしれません。
こちらから気候を操ったことにしておいた方がいいでしょう」
「なんだ、そんなことか。んじゃ、マイク入れるぞ」
「どうぞ」
「ではポチっとな……あーあー、テステス。聞こえてるな、オッケー?
二日目まで生き残った参加者諸君、おめでとう。楽しい放送のお時間だ。
運がいいのか力があるのか頭が回るのかは知らんが、なかなかお見事だぜ。
せっかくだから讃美歌でもBGMに流して……あ、なに、無理? そう。
じゃあ、まず一日目を生き残ったのに死んだ不幸な連中の発表から行こうか。
賀斉
DIO
獏良了
萩原雪歩
鏡音レン
射命丸文
の六名、残り人数はなんとたったの15人だ。そして禁止エリアだが、
8時からE-3、10時からF-4だ。ここまで来たんだ、うっかり入って死ぬなよ?
さて、おまけとして天気予報だが……朝から雲行きが悪くなる予定だ。
ところにより槍が降ったり血の雨が降ったりするかもな、降らすのはお前らだが。
頑張って半日後まで生き残れよー、以上!」
最後をすっぱりと言い切った後に、右上はマイクを切った。
その様子を見て、ふむ、と左上が吐息を漏らす。
「あなたにしては短い内容ですね」
「……お前が讃美歌流すなってジェスチャーしてきた上に、
これから仕事山積みだと意識させられたからな」
「自覚しているようで何よりです」
「はーあー……俺、どれくらいで戻ってこれると思うよ」
「遅くとも、次の放送までには戻ってこられると思いますが。私のメンテナンスもありますし。
あちらともしても交渉を長引かせることが殺し合いを破綻させると知ればあっさり折れるでしょう」
「ったく、交渉事は嫌いなんだが……」
「それは何よりですね。
私はメンテナンスと運営長への報告へ行ってきますので」
嫌味を残して席を立つ左上に、右上はぐったりとパネルに寄り掛かるのだった。
大なり小なり、この交渉で運営は十代たちの行動に気付くだろう。
だが果たして、とうとう洞窟を後回しにしてしまったことがどう出るか。
全ては――次の放送前後までに決まる。
sm231:Interlude Ⅰ | 時系列順 | sm233:生存代償 -No Future- |
sm231:Interlude Ⅰ | 投下順 | sm233:生存代償 -No Future- |
sm230:リミット | 右上 | sm239:no return point |
sm230:リミット | 左上 | sm242:第六回放送 |