正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE- ◆F.EmGSxYug
夜、晴れ。
星が瞬き、月が輝く中。
地上でも、新たな星が生み出され、ぶつかり合っていた。
「ハァ!」
ベジータの蹴りが、ブロリーへ叩き込まれる。
しかし無意味。腹部を狙った回し蹴りは、ブロリーの掌によって逸らされる。
そのまま脚を掴もうとする魔手をもう片方の足で弾き飛ばしながらバク転。
距離を開けたベジータに対し、ブロリーは焦ることもなく悠然と歩を進める。
――ブロリーは、なんらラウズカードを使っていない。
ただライダーシステム・ブレイドアーマーを身に纏っているだけ。
身体能力強化と防護以外の機能を真っ当に活用しようとはしない。
そもそも、支給品を有効活用しようという発想がブロリーにはない。
しかし、それでも十分に過ぎた。
意気揚々と突っ込んだベジータであったが、少しずつ来た道を戻りつつある。
位置的にも精神的にも、着実に圧されつつあった。
ベジータとて、本来ならば惑星を砕く程度容易く出来る。
だが、ブロリーはその惑星を従える太陽であろうと容易く吹き飛ばすだろう。
どちらも星だ。
だが所詮、地球など太陽より遥か小さな天体であるように……一対一では、勝てない。
それがブロリーに対する者に課せられる世界の摂理。
「くそったれェェエエ!!!」
かと言って、今更退く事などできはしない。
ヤケ気味に、ベジータは両手からエネルギー弾を連射し始めた――。
■
『ともかく、私をあそこで倒れているあの紅い髪の女性に渡してください』
一方、ベジータについてくる形で到着した美希に対し……
事情を単刀直入単純明快に話した後、マッハキャリバーはそう話を結んだ。
「わかったの。よくわかんないけどわかったの!」
『どっちだ』
美希の言葉にツッコミを入れるディムロス。
ちなみに美希のゆとり日本語をわかりやすく日本語訳すると、
「事情はまだ把握しきってないけどやるべきことは分かった」である。
美希が走り出そうとした矢先、妙な悲鳴が響き渡った。
「ほわぁあ!!!」
「え?……わわ!」
慌てて首をすくめる。
自分の頭の上数mを、見事にベジータが吹っ飛ばされていったのだ。
そして、それを追っていくブロリー。それに焦りを見せたのは、ディムロスだった。
『あの方角は……まずいな』
「どういうことなの?」
『あちらは南、つまり来た方向。サンレッドたちがいる方角だ。
このままでは動けないサンレッドも巻き込まれてしまう』
「ええ!?」
『ともかく今は脚を進めろ。
これを渡してから先回りしてサンレッドたちの所へ戻り、危機を知らせるしかない』
「でも、今のサンレッドさんを戦わせるのは……」
『確かに奴は無理だ。だがいるだろう、まだ戦える「彼女」が。
三対一にしてなんとかサンレッドが休んでいる場所から引き離すしかあるまい』
「あ、そうか、おにぽんがいたの!」
ぽん、と美希は手を叩く。
問題は、いかにブロリーの目を掻い潜ってサンレッドたちがいる場所へ先回りするかだが……
それはこの夜闇とベジータに賭けるしかない。
覚悟を決め、美希は走り出した。
■
無数のエネルギー弾が突き刺さり、ベジータの目前で煙が巻き上がる。
ブロリーの姿がそれに紛れて消える。
しかし、それも一瞬。すぐに鎧を纏った巨体が煙の中から現れ、その豪腕を振るった。
例えガードしていても、その衝撃は抑えきれるものではない。
ベジータが地面に叩きつけられた、その時だった。
星が瞬き、月が輝く中。
地上でも、新たな星が生み出され、ぶつかり合っていた。
「ハァ!」
ベジータの蹴りが、ブロリーへ叩き込まれる。
しかし無意味。腹部を狙った回し蹴りは、ブロリーの掌によって逸らされる。
そのまま脚を掴もうとする魔手をもう片方の足で弾き飛ばしながらバク転。
距離を開けたベジータに対し、ブロリーは焦ることもなく悠然と歩を進める。
――ブロリーは、なんらラウズカードを使っていない。
ただライダーシステム・ブレイドアーマーを身に纏っているだけ。
身体能力強化と防護以外の機能を真っ当に活用しようとはしない。
そもそも、支給品を有効活用しようという発想がブロリーにはない。
しかし、それでも十分に過ぎた。
意気揚々と突っ込んだベジータであったが、少しずつ来た道を戻りつつある。
位置的にも精神的にも、着実に圧されつつあった。
ベジータとて、本来ならば惑星を砕く程度容易く出来る。
だが、ブロリーはその惑星を従える太陽であろうと容易く吹き飛ばすだろう。
どちらも星だ。
だが所詮、地球など太陽より遥か小さな天体であるように……一対一では、勝てない。
それがブロリーに対する者に課せられる世界の摂理。
「くそったれェェエエ!!!」
かと言って、今更退く事などできはしない。
ヤケ気味に、ベジータは両手からエネルギー弾を連射し始めた――。
■
『ともかく、私をあそこで倒れているあの紅い髪の女性に渡してください』
一方、ベジータについてくる形で到着した美希に対し……
事情を単刀直入単純明快に話した後、マッハキャリバーはそう話を結んだ。
「わかったの。よくわかんないけどわかったの!」
『どっちだ』
美希の言葉にツッコミを入れるディムロス。
ちなみに美希のゆとり日本語をわかりやすく日本語訳すると、
「事情はまだ把握しきってないけどやるべきことは分かった」である。
美希が走り出そうとした矢先、妙な悲鳴が響き渡った。
「ほわぁあ!!!」
「え?……わわ!」
慌てて首をすくめる。
自分の頭の上数mを、見事にベジータが吹っ飛ばされていったのだ。
そして、それを追っていくブロリー。それに焦りを見せたのは、ディムロスだった。
『あの方角は……まずいな』
「どういうことなの?」
『あちらは南、つまり来た方向。サンレッドたちがいる方角だ。
このままでは動けないサンレッドも巻き込まれてしまう』
「ええ!?」
『ともかく今は脚を進めろ。
これを渡してから先回りしてサンレッドたちの所へ戻り、危機を知らせるしかない』
「でも、今のサンレッドさんを戦わせるのは……」
『確かに奴は無理だ。だがいるだろう、まだ戦える「彼女」が。
三対一にしてなんとかサンレッドが休んでいる場所から引き離すしかあるまい』
「あ、そうか、おにぽんがいたの!」
ぽん、と美希は手を叩く。
問題は、いかにブロリーの目を掻い潜ってサンレッドたちがいる場所へ先回りするかだが……
それはこの夜闇とベジータに賭けるしかない。
覚悟を決め、美希は走り出した。
■
無数のエネルギー弾が突き刺さり、ベジータの目前で煙が巻き上がる。
ブロリーの姿がそれに紛れて消える。
しかし、それも一瞬。すぐに鎧を纏った巨体が煙の中から現れ、その豪腕を振るった。
例えガードしていても、その衝撃は抑えきれるものではない。
ベジータが地面に叩きつけられた、その時だった。
「決闘準備!」
『Standby, ready. Drive ignition』
『Standby, ready. Drive ignition』
周囲に、はっきりと分かるほど湧き上がる気の流れ。
左之助には魔力やそういったものがなかった。彼はあくまで、ただの喧嘩屋だ。
だから、純粋に身体能力を補助する道具としてのみマッハキャリバーを使えた。
だが、美鈴は違う。
自分や周囲に流れる気を制御し、自分の体に流し或いは打ち出すことなど彼女にとって基本中の基本。
そう――例えば、亀仙流や鶴仙流のように。
「ようやく復帰しやがったか……モタモタしやがって」
「……チッ」
ベジータの表情に希望が戻り、ブロリーが盛大な舌打ちをする。
振り返り、走り始めた美鈴目掛けて気弾を放つブロリー。
だが、美鈴は止まらない。それどころか、自分の足元に呼びかけた。
左之助には魔力やそういったものがなかった。彼はあくまで、ただの喧嘩屋だ。
だから、純粋に身体能力を補助する道具としてのみマッハキャリバーを使えた。
だが、美鈴は違う。
自分や周囲に流れる気を制御し、自分の体に流し或いは打ち出すことなど彼女にとって基本中の基本。
そう――例えば、亀仙流や鶴仙流のように。
「ようやく復帰しやがったか……モタモタしやがって」
「……チッ」
ベジータの表情に希望が戻り、ブロリーが盛大な舌打ちをする。
振り返り、走り始めた美鈴目掛けて気弾を放つブロリー。
だが、美鈴は止まらない。それどころか、自分の足元に呼びかけた。
「加速して!」
『Gear Second』
『Gear Second』
身を屈めながら、紅の影が滑る。気弾はその上を通り抜け、無駄に爆発した。
更に連射力を上げるブロリー。だが連射性に気を割けば当然それだけ威力は弱まる。
それを待っていたといわんばかりに、美鈴は静止して両腕を回した。
更に連射力を上げるブロリー。だが連射性に気を割けば当然それだけ威力は弱まる。
それを待っていたといわんばかりに、美鈴は静止して両腕を回した。
「――水形太極拳」
『Protection and Revolver Shoot』
「何ィ!」
「何ィ!」
それはまるで悠久なる長江の如く。
美鈴が生み出した気にブロリーの弾幕は飲み込まれ、逆に美鈴が打ち出す気弾の糧となる。
咄嗟に回避行動を取ったその巨体に、尚も追尾し食い下がる美鈴の気弾。
それに苛立ったものの、こちらにばかりかまけているわけにはいかない。
なぜなら。
美鈴が生み出した気にブロリーの弾幕は飲み込まれ、逆に美鈴が打ち出す気弾の糧となる。
咄嗟に回避行動を取ったその巨体に、尚も追尾し食い下がる美鈴の気弾。
それに苛立ったものの、こちらにばかりかまけているわけにはいかない。
なぜなら。
「ビックバン・アタッーク!!」
背後で構えている敵が、いるのだから。
水形太極拳を左腕で弾き飛ばすと共に、素早く向き直って右腕をベジータへと向ける。
月光よりも明るく闇を照らす超新星。それが篭手とぶつかり合い、火花を散らす。
水形太極拳を左腕で弾き飛ばすと共に、素早く向き直って右腕をベジータへと向ける。
月光よりも明るく闇を照らす超新星。それが篭手とぶつかり合い、火花を散らす。
「ヌァァァァァアアアアアアアア!!!」
大地を揺るがすような声を響かせて、ブロリーは右腕を振り上げた。
水形太極拳と同様、ビックバンアタックはあらぬ方向へと弾き飛ばされた。
だが無駄ではない。ブレイドアーマーの右腕部分に、はっきりとした亀裂が入っている。
いける、とガッツポーズを美鈴が取った一方で――対照的にベジータの顔は渋かった。
(……このままでは、足りん!)
ブロリーの実力を誰よりもわかっている彼だからこそ、わかる。
このままでは、あの鎧を破壊しきる前にこちらの気が尽きる。
ベジータに作戦はある。これが決まればブロリーであろうと確実に倒せるという手が。
しかしそれは最低限、美鈴と会話しなければできない。
そして、そんな隙などブロリーが与えはしない。
(ならばどうにかしてブロリーの奴をぶっ飛ばし、隙を作る!)
そう覚悟してベジータは突進した。美鈴も同じタイミングで突っ込んでいく。
速度上先に到達したベジータが右正拳を叩き込むが、それは剛腕一本で容易く止められる。
ごく僅かにブロリーは踏ん張った、それだけ。びくともしない。だが、構わない。
遅れて接近した美鈴にもう片方の腕をブロリーが向ける、その前に彼女は一手を打つ。
「黄震脚!」
「ヌッ!?」
強靭な踏み込みに、地面が割れる。
逆転の発想だ。
ブロリーが崩れないなら、地面を崩してバランスを崩させる――!
予想外の事態にブロリーは姿勢を戻そうとする。それはほんのコンマ数秒。
一方で美鈴は崩れない。否、震脚による踏み込みこそが次の一撃へと繋がる。
咄嗟に手を出したブロリーの懐へ潜り込み、低い姿勢から繰り出すは裡門頂肘。
しかし……腹部を狙った一撃は、ブロリーが素早く出した蹴りに止められた。
それどころか、その凶脚は肘を弾き飛ばして彼女の顔面目掛けて奔っている。
「この、足癖の悪い――!」
倒れこむような形で、美鈴はそれを避けた。いや、倒れてはいない。
左腕を地面に突いて体を浮かせ、そのまま腕一本で体を支えつつ右足を振る。
斧刃脚。
敵の左脛に吸い込まれるように命中したそれは、ブロリーのバランスを更に崩した。
そこで顔目掛けて動くベジータの左腕。響く渡る、仮面が軋む鈍い音。
だが、30mは吹き飛ばすつもりで打った一撃は僅かに6mほど後退させるに留まった。
この程度の距離では、作戦会議したところで丸聞こえだ。
(く、全力で叩いてコレか……
やはり計算は当たっている……どうやっても、俺達の体力が足りん!)
荒い息を吐きながら、ベジータはそう結論せざるを得なかった。
脇では美鈴が口から血を流している。言うまでもない、ベジータが来る前の戦闘によるダメージだ。
それに対し、仮面でブロリーの呼吸ははっきりとは聞こえないが……それでも、荒くはない。
「クク、どうした? 追撃してこないのか……?」
(クソッタレが! わかっていて挑発してやがる!)
ブロリーの言葉に、ベジータが歯噛みした瞬間。
突如、ブロリーの上半身が大きく仰け反った。
ベジータが振り返ると、そこにあるのは一人の少女の姿。
「……サイコキネシスでこれとは」
騒ぎに気付いたおにぽんが、慌てて駆けつけてきたのだ。
美希とはちょうど入れ違いの形になったが、それも逆に功を奏した。
美希が呼ぶよりも、かなり早くここに来れたのは間違いない。
ベジータにとっては、千載一遇のチャンスと言っていい。
「女! ここに来い、今すぐにだ」
「女じゃなくておにぽんですが……」
「30秒でいい。時間を稼いでブロリーの注意を引き付けろ」
「難しいのか簡単なのかよく分かりませんね」
やれやれと言った様子で歩きながらも、おにぽんは命令通りブロリーの前に進み出る。
それに対して笑い声を上げたのは、ブロリー本人だった。
水形太極拳と同様、ビックバンアタックはあらぬ方向へと弾き飛ばされた。
だが無駄ではない。ブレイドアーマーの右腕部分に、はっきりとした亀裂が入っている。
いける、とガッツポーズを美鈴が取った一方で――対照的にベジータの顔は渋かった。
(……このままでは、足りん!)
ブロリーの実力を誰よりもわかっている彼だからこそ、わかる。
このままでは、あの鎧を破壊しきる前にこちらの気が尽きる。
ベジータに作戦はある。これが決まればブロリーであろうと確実に倒せるという手が。
しかしそれは最低限、美鈴と会話しなければできない。
そして、そんな隙などブロリーが与えはしない。
(ならばどうにかしてブロリーの奴をぶっ飛ばし、隙を作る!)
そう覚悟してベジータは突進した。美鈴も同じタイミングで突っ込んでいく。
速度上先に到達したベジータが右正拳を叩き込むが、それは剛腕一本で容易く止められる。
ごく僅かにブロリーは踏ん張った、それだけ。びくともしない。だが、構わない。
遅れて接近した美鈴にもう片方の腕をブロリーが向ける、その前に彼女は一手を打つ。
「黄震脚!」
「ヌッ!?」
強靭な踏み込みに、地面が割れる。
逆転の発想だ。
ブロリーが崩れないなら、地面を崩してバランスを崩させる――!
予想外の事態にブロリーは姿勢を戻そうとする。それはほんのコンマ数秒。
一方で美鈴は崩れない。否、震脚による踏み込みこそが次の一撃へと繋がる。
咄嗟に手を出したブロリーの懐へ潜り込み、低い姿勢から繰り出すは裡門頂肘。
しかし……腹部を狙った一撃は、ブロリーが素早く出した蹴りに止められた。
それどころか、その凶脚は肘を弾き飛ばして彼女の顔面目掛けて奔っている。
「この、足癖の悪い――!」
倒れこむような形で、美鈴はそれを避けた。いや、倒れてはいない。
左腕を地面に突いて体を浮かせ、そのまま腕一本で体を支えつつ右足を振る。
斧刃脚。
敵の左脛に吸い込まれるように命中したそれは、ブロリーのバランスを更に崩した。
そこで顔目掛けて動くベジータの左腕。響く渡る、仮面が軋む鈍い音。
だが、30mは吹き飛ばすつもりで打った一撃は僅かに6mほど後退させるに留まった。
この程度の距離では、作戦会議したところで丸聞こえだ。
(く、全力で叩いてコレか……
やはり計算は当たっている……どうやっても、俺達の体力が足りん!)
荒い息を吐きながら、ベジータはそう結論せざるを得なかった。
脇では美鈴が口から血を流している。言うまでもない、ベジータが来る前の戦闘によるダメージだ。
それに対し、仮面でブロリーの呼吸ははっきりとは聞こえないが……それでも、荒くはない。
「クク、どうした? 追撃してこないのか……?」
(クソッタレが! わかっていて挑発してやがる!)
ブロリーの言葉に、ベジータが歯噛みした瞬間。
突如、ブロリーの上半身が大きく仰け反った。
ベジータが振り返ると、そこにあるのは一人の少女の姿。
「……サイコキネシスでこれとは」
騒ぎに気付いたおにぽんが、慌てて駆けつけてきたのだ。
美希とはちょうど入れ違いの形になったが、それも逆に功を奏した。
美希が呼ぶよりも、かなり早くここに来れたのは間違いない。
ベジータにとっては、千載一遇のチャンスと言っていい。
「女! ここに来い、今すぐにだ」
「女じゃなくておにぽんですが……」
「30秒でいい。時間を稼いでブロリーの注意を引き付けろ」
「難しいのか簡単なのかよく分かりませんね」
やれやれと言った様子で歩きながらも、おにぽんは命令通りブロリーの前に進み出る。
それに対して笑い声を上げたのは、ブロリー本人だった。
「ククク、そうかァ。ならば貴様は15秒で殺してやろう」
「……難しいみたいですね」
おにぽんがさいみんじゅつを放ったのと、ブロリーがそれを無視して突っ込んだのは同時だった。
ナッパですら餃子の超能力を容易く無効化するのだ。ブロリーに催眠術程度が通じるはずもない。
とっさに回避行動を取ったおにぽんだが、間に合わず腕を派手に殴り飛ばされる。
それを見ているベジータは支援に入ることもせず、すぐに美鈴に駆け寄った。
「そっちの女。話がある」
「女じゃなくて紅美鈴で……」
「そんなものはどうでもいい、時間がないんだ!」
美鈴はむっとしたが、ベジータは完全に無視して話を進める。
彼の言葉に対し、美鈴が質問する時間などなかった。
おにぽんがさいみんじゅつを放ったのと、ブロリーがそれを無視して突っ込んだのは同時だった。
ナッパですら餃子の超能力を容易く無効化するのだ。ブロリーに催眠術程度が通じるはずもない。
とっさに回避行動を取ったおにぽんだが、間に合わず腕を派手に殴り飛ばされる。
それを見ているベジータは支援に入ることもせず、すぐに美鈴に駆け寄った。
「そっちの女。話がある」
「女じゃなくて紅美鈴で……」
「そんなものはどうでもいい、時間がないんだ!」
美鈴はむっとしたが、ベジータは完全に無視して話を進める。
彼の言葉に対し、美鈴が質問する時間などなかった。
10秒フラットで吹き飛ばされたおにぽんが、脇に叩きつけられたのだから。
「く、ここまでとは……聞いたな! あとは俺の話したとおりにやれ!」
「ああもう、本当に頼み方が下手よね……やれっていうなら、やるけど!」
「ああもう、本当に頼み方が下手よね……やれっていうなら、やるけど!」
『Ignition.
A.C.S. Standby』
A.C.S. Standby』
響くリロード音。重傷に鞭打って、美鈴は走り出す。
バリアジャケットなど展開しない。している時間も余力も知識もない。
細かい制御はデバイスに任せて、美鈴は最大速度でブロリーへと突っ込んでいく。
それを撃ち落とそうと放たれるブロリーの弾幕。
その隙間を潜り抜け、蛇行しながら美鈴はマッハキャリバーと共に走る。
「背水の陣だッ!!!」
「蝿の真似の間違いだろう……すぐに叩き落としてやる」
更にブロリーが弾を追加しようとした瞬間、美鈴の脇を閃光が走りぬけた。
ベジータが両手に気を集中し、ギャリック砲を放ったのだ。
ふん、とだけ息を吐いてブロリーはそれを払いのけた。
その隙にマッハキャリバーは最大加速し、再度敵の懐へと潜り込む!
「――紅砲」
バリアジャケットなど展開しない。している時間も余力も知識もない。
細かい制御はデバイスに任せて、美鈴は最大速度でブロリーへと突っ込んでいく。
それを撃ち落とそうと放たれるブロリーの弾幕。
その隙間を潜り抜け、蛇行しながら美鈴はマッハキャリバーと共に走る。
「背水の陣だッ!!!」
「蝿の真似の間違いだろう……すぐに叩き落としてやる」
更にブロリーが弾を追加しようとした瞬間、美鈴の脇を閃光が走りぬけた。
ベジータが両手に気を集中し、ギャリック砲を放ったのだ。
ふん、とだけ息を吐いてブロリーはそれを払いのけた。
その隙にマッハキャリバーは最大加速し、再度敵の懐へと潜り込む!
「――紅砲」
『Knuckle Duster』
奔る気。そこにマッハキャリバーによって上乗せされる魔力。
近代ベルカ式と気の混合は、こと身体能力強化においては普段以上の力を発揮する――!
とっさにブロリーが展開したバリアと、リボルバーナックルは激しく衝突した。
だがブロリーは強い。ナックルが弾かれる。止めない。弾かれた勢いのまま半回転。
美鈴は体勢を戻し、マッハキャリバーは先ほどぶつかり合ったバリアの波長を計算する。
そのまま低い姿勢から蹴り上げられる鋼鉄の蹄!
近代ベルカ式と気の混合は、こと身体能力強化においては普段以上の力を発揮する――!
とっさにブロリーが展開したバリアと、リボルバーナックルは激しく衝突した。
だがブロリーは強い。ナックルが弾かれる。止めない。弾かれた勢いのまま半回転。
美鈴は体勢を戻し、マッハキャリバーは先ほどぶつかり合ったバリアの波長を計算する。
そのまま低い姿勢から蹴り上げられる鋼鉄の蹄!
「天龍脚ッ!」
『Barrier Break』
「ヌゥ!?」
『Barrier Break』
「ヌゥ!?」
音もなく砕け散るバリアに、ブロリーが息を呑む。
障壁を突き破ったマッハキャリバーは、そのままブロリーの左足とぶつかり合った。
バリアが持たないと直感的に知って、とっさにブロリーも反撃に出たのだ。
交差する飛び蹴り。鏡合わせにブロリーの左脚と、美鈴の右脚がぶつかり合う。
あまりにも強烈な衝撃に、逆に美鈴の肋骨が軋む。
美鈴の表情が歪んだ、その瞬間。
障壁を突き破ったマッハキャリバーは、そのままブロリーの左足とぶつかり合った。
バリアが持たないと直感的に知って、とっさにブロリーも反撃に出たのだ。
交差する飛び蹴り。鏡合わせにブロリーの左脚と、美鈴の右脚がぶつかり合う。
あまりにも強烈な衝撃に、逆に美鈴の肋骨が軋む。
美鈴の表情が歪んだ、その瞬間。
「ッ!!!」
『protection』
『protection』
勝ち誇った笑みを崩さぬまま、ブロリーは同時に左腕でエネルギー弾を三発放っていた。
マッハキャリバーが展開していたバリアごと、突撃してきた方向へ美鈴は蹴り戻される。
土煙が巻き上がり視界が遮られる。それを意に介さず、再び土煙から現れるあざやかな紅。
ブロリーがそちらへ掌を向ける、そこで突然マッハキャリバーは急ブレーキを掛けた。
「くく……いまさら怯えでも……?」
ブロリーの言葉は、美鈴が跳躍した瞬間に途切れる。
彼には土煙と美鈴の鮮やかな髪に隠れていたベジータの姿など、見えてはいなかった。
ましてやベジータが右手から投げつけた、気円斬など。
――現在のブロリーに掛かっている制限は三重だ。
そして気円斬は戦闘力一万程度のクリリンでさえ、
戦闘力百万以上の第二形態フリーザに傷を負わせられるほどの技。
制限によって戦闘力差が大幅に縮まっている今ならば、気円斬は確実に通じる!
目くらましは成功した。完璧なタイミングで飛行する気円斬。ブロリーの脚は止まっている。
勝った、とベジータが思考した瞬間、悪寒が走った。
気円斬の制御を放棄してベジータは飛ぶ。
蹴りと共に放った気弾のうち、美鈴を吹き飛ばしたのは一つだけ。
残り二つは土煙の中へ潜んだ後に時間差で動き出し、
先ほどまで美鈴とベジータがいた場所をそれぞれ粉砕していた。
その衝撃で気円斬の軌道はズレ、ブロリーの右太股を掠めて虚空へと消えていく。
「そんな……」
「女、避けろ!」
「っ!?」
ベジータの声に、美鈴は着地と同時に地を蹴った。ベジータと反対側へ。
更に追ってきたエネルギー弾が美鈴の左太股を掠める。
痛みに美鈴は声を漏らしかけたものの、ブロリーが更に追加した気弾を視界の隅で捉え、
そんな暇など無いと気付かされた。マッハキャリバーに魔力を流して、走り続ける。
回避のための回避。攻撃に再び移る隙など皆無。
向こうでは回避に成功したベジータが、次の回避に移っていた。
一度放った以上、同じ技を使えばブロリーは警戒するだろう。
あの場で仕留められなかったのなら、このままでは勝機は無い。
先ほどのような奇襲はもう通じない。だけど、それでも――。
「おにぽん、フレイム」
声が響いた。そうこの場には、もう一人いた。
倒れていたおにぽんが放ったかえんほうしゃが、ブレイドアーマーを包み込む。だが。
「大人しくしていれば苦しまずに済んだものを……!」
ブロリーはおにぽんの攻撃に何ら苦痛を見せず、ただ冷酷に気弾を撃ち返した。
かえんほうしゃは容易く押し返され、五秒を待たずに消えた。そして、気弾は消えない。
受ければ彼女は死ぬ。代償は、ほんの一瞬の静寂。気弾の雨が止む台風の目。
おにぽんの姿が見えたのは美鈴だけ。だからそれを見逃さなかった美鈴が掛けた。
轟く轟音。砕け散るおにぽん。それさえも加速するための材料にする。
未だ余裕を崩さない男の懐に潜り込んで狙い打つはただ一点、ブロリーの腹部。
作戦会議のときに聞いた、アーマー越しでも容易く致命傷になるであろう場所。
加速したまま、拳を全力で振り上げる。
マッハキャリバーが展開していたバリアごと、突撃してきた方向へ美鈴は蹴り戻される。
土煙が巻き上がり視界が遮られる。それを意に介さず、再び土煙から現れるあざやかな紅。
ブロリーがそちらへ掌を向ける、そこで突然マッハキャリバーは急ブレーキを掛けた。
「くく……いまさら怯えでも……?」
ブロリーの言葉は、美鈴が跳躍した瞬間に途切れる。
彼には土煙と美鈴の鮮やかな髪に隠れていたベジータの姿など、見えてはいなかった。
ましてやベジータが右手から投げつけた、気円斬など。
――現在のブロリーに掛かっている制限は三重だ。
そして気円斬は戦闘力一万程度のクリリンでさえ、
戦闘力百万以上の第二形態フリーザに傷を負わせられるほどの技。
制限によって戦闘力差が大幅に縮まっている今ならば、気円斬は確実に通じる!
目くらましは成功した。完璧なタイミングで飛行する気円斬。ブロリーの脚は止まっている。
勝った、とベジータが思考した瞬間、悪寒が走った。
気円斬の制御を放棄してベジータは飛ぶ。
蹴りと共に放った気弾のうち、美鈴を吹き飛ばしたのは一つだけ。
残り二つは土煙の中へ潜んだ後に時間差で動き出し、
先ほどまで美鈴とベジータがいた場所をそれぞれ粉砕していた。
その衝撃で気円斬の軌道はズレ、ブロリーの右太股を掠めて虚空へと消えていく。
「そんな……」
「女、避けろ!」
「っ!?」
ベジータの声に、美鈴は着地と同時に地を蹴った。ベジータと反対側へ。
更に追ってきたエネルギー弾が美鈴の左太股を掠める。
痛みに美鈴は声を漏らしかけたものの、ブロリーが更に追加した気弾を視界の隅で捉え、
そんな暇など無いと気付かされた。マッハキャリバーに魔力を流して、走り続ける。
回避のための回避。攻撃に再び移る隙など皆無。
向こうでは回避に成功したベジータが、次の回避に移っていた。
一度放った以上、同じ技を使えばブロリーは警戒するだろう。
あの場で仕留められなかったのなら、このままでは勝機は無い。
先ほどのような奇襲はもう通じない。だけど、それでも――。
「おにぽん、フレイム」
声が響いた。そうこの場には、もう一人いた。
倒れていたおにぽんが放ったかえんほうしゃが、ブレイドアーマーを包み込む。だが。
「大人しくしていれば苦しまずに済んだものを……!」
ブロリーはおにぽんの攻撃に何ら苦痛を見せず、ただ冷酷に気弾を撃ち返した。
かえんほうしゃは容易く押し返され、五秒を待たずに消えた。そして、気弾は消えない。
受ければ彼女は死ぬ。代償は、ほんの一瞬の静寂。気弾の雨が止む台風の目。
おにぽんの姿が見えたのは美鈴だけ。だからそれを見逃さなかった美鈴が掛けた。
轟く轟音。砕け散るおにぽん。それさえも加速するための材料にする。
未だ余裕を崩さない男の懐に潜り込んで狙い打つはただ一点、ブロリーの腹部。
作戦会議のときに聞いた、アーマー越しでも容易く致命傷になるであろう場所。
加速したまま、拳を全力で振り上げる。
そこで美鈴は気付いた。敗因は気弾が掠めた左太股だと。
真正面、至近距離、攻撃態勢に入った瞬間に、ブロリーは美鈴に視線を戻した。戻してしまった。
距離にして30cm、時間にして一秒もない、傷による遅れ。それが明暗を分けていた。
とっさにマッハキャリバーがカートリッジをロードする。だが無意味。
腹部を狙ったはずの一撃は、素早くブロリーが回避行動に移ったことで右太股へと突き刺さる。
そこは、先ほど気円斬が掠めていった箇所。アーマーが切り裂かれた場所に、美鈴の拳は直撃した。
距離にして30cm、時間にして一秒もない、傷による遅れ。それが明暗を分けていた。
とっさにマッハキャリバーがカートリッジをロードする。だが無意味。
腹部を狙ったはずの一撃は、素早くブロリーが回避行動に移ったことで右太股へと突き刺さる。
そこは、先ほど気円斬が掠めていった箇所。アーマーが切り裂かれた場所に、美鈴の拳は直撃した。
確かに大きな打撃だった。確かに鈍い、骨が折れる音がした。
――けれど、それは決して、致命傷などではなく。
続いてカウンターの形で放たれたエネルギー弾。
それが、美鈴を吹き飛ばしていった。
「貴様ァ!!!」
べジータが絶叫する。
仲間意識があるわけではない。所詮、ほんの少し前に会ったばかりの仲だ。
しかし、自覚する間もなくベジータは叫び、掌に気を集めていた。
その髪はいつも以上に逆立ち、金色に染まっている。
「ザコどもが、やってくれたな……加減もなく、消し飛ばしてくれる!」
「手加減できるならしてみろ。その瞬間貴様を宇宙のチリにしてやる」
同時に、ブロリーの気もまた膨れ上がる。
足首だけでなく太股まで完全に折られてしまった右足は、紛れもなく大きな損失だ。
もはや完全に使いようにならない。彼が苛立つのも当然と言える。逆ギレに近いが。
ブロリーが片腕を向けるのを確認しながら、ベジータは思考する。
勝算があるとすれば、美鈴が与えたダメージ、そして疲労の二つ。
あれだけ気弾を連発してきたブロリーが、
スーパーベジータの全力を込めた攻撃を押し止められるのか。
それが勝算。
「ファイナル──」
「……フン」
「──フラァァァァシュ!!!」
怒号にも似た叫びと共に、ベジータが合わせた掌から光が放たれる。
同時にブロリーも掌から小さな気弾を放ち……それは、ファイナルフラッシュに激突した瞬間巨大化した。
この会場において最強である二人の力が激突し、地面が割れる。
舞い上がった岩は容易く蒸発し、周囲はまるで真昼のような照明に包まれていく。
目が眩むほどの閃光の中で、ベジータはファイナルフラッシュが圧され始めたのを見た。
この状態にしてこれほどまでの気を保てるならば、勝算などない。
ブロリーに、衰えなどありはしなかった。
ファイナルフラッシュを飲み込みながら、緑色の流星がベジータへと迫る。
金色になっていた髪が黒に戻ったベジータを、流星は飲み込んでいく。
――横から圧倒的な熱量が突撃してきたのは、その時だった。
ベジータの視界の端に、突如太陽が割り込んだ。
それは心強い見た目の通りに、ファイナルフラッシュで威力の鈍ったギガンティック・ミーティアを押し止めた。
「――次から次へと、小ざかしい蝿どもが!」
大技の打ち合いに、ようやく息を荒げ始めたブロリーが顔を歪ませる。
地面に倒れこみながら振り返ったベジータの先。正義の味方が、そこにいた。
「サンレッドさん、戦っちゃ駄目って……!」
「んなことはどうでもいいんだよ!
それより、ベジータの奴を頼む」
「え……で、でも」
「返事!」
「は、はいなの」
襤褸切れのようになったスーツ。元から赤い外套は、己の血が更に紅に染めている。
明らかに傷が癒えていない。明らかに回復していない。それでも歩いていく。
フン、とブロリーはそれをあざ笑った。
「脚一本奪った程度で、この俺を倒せるとでも思って」
「何言ってやがる。思ってるに決まってんだろ」
「いるのか何ィ!?」
「ベジータ達は命がけでそこまで戦果を挙げた。なら、俺はそれに応えないわけにはいかねぇ。
俺はサンレッド――ヒーローだからな!」
「クズ共が、次々へと……
貴様らが何度来ようと俺が負けることはないと言うことを教えてやる……!」
「教えるのは俺のほうだ。しっかりとお前に叩き込んでやる。
――怪人は最後に必ずヒーローに倒されるってお約束をよ!」
■
「まいったわね、全く……」
月下、寒村に一人残された咲夜は一人でため息を吐いた。
休んでから一時間。それであっさり静寂は破られた。
ここに響いてくるくらい派手な戦闘音に、サンレッドはすぐに反応した。
それより無理やり押し止めて、おにぽんを行かせるということで納得させたのが三十分前。
そして入れ違いで入ってきた美希が戻っていた際、咲夜が目を放した隙にサンレッドが抜け出したのは二十分前になる。
「……もう少し、私が強いってことを言っておけば無茶はしなかったかしらね?」
失策にため息を吐く。
サンレッドたちに自分のことは「投げナイフが得意なメイド」程度のことしか言っていない。
時間を操ることや「傍に立つもの」についてはノータッチだ。
だから、サンレッドが咲夜の戦闘力を低く見積もっているが故に無茶な行動に出た可能性は十二分にある。
「さて、どうするべきか」
最早疑うまでもない。今戦っている相手はブロリーだ。
咲夜としては、言うまでもなくあんな化け物と戦うのは金輪際御免だ。
しかし、聞く限りでは結構な数の参加者がブロリーと戦っているらしい。
もしかすると、これがブロリーを倒せる最後のチャンスということもありうる。
(その場合、私も戦闘参加するしかないのだけど……さて。
行くとしたらせめてフジキをある程度回収してから行きたいところね)
考え込む咲夜は知らない。
彼女にとって真の失策は、誰が戦っているのか美希に聞かなかったことだという事実に。
■
ブロリーの弾幕を避けながら、サンレッドは疾走する。
光景だけみれば何かのヒーローショーのようだし、ある意味その一種ではある。
違うのは、悪役が本当に宇宙を破壊しかねない存在であるということだが。
(ち、なんとか近づかねえといけねぇけどよ……!)
狙うは接近戦。右足の機能停止。ブロリーの機動力低下は見るまでもなく明らかだ。
片足の喪失を最大限にサンレッドが活かせるのは、ブロリー相手の場合接近戦だ。
ブロリー相手に離れているなら、例え後ろにいたところで気弾が襲ってくるだろう。
故に、それを撃たせる暇もなく攻撃できる位置が望ましい。
だがブロリーも本能的にそれを避けようと、小さな気弾を連射する。
呼吸が荒くなってきているとは思えない量に、サンレッドは辟易しながら毒づいた。
(まだ、やっと疲れが見えてきたって段階なのかよ。奴のスタミナは底なしか!?)
持久戦になれば先に体力がなくなるのはサンレッドだ。
一時間休んで回復したのは、僅か三分程度戦えるだけの体力。
なんとしてもそれまでに、ブロリーに一撃を加えなくてはならない。
いっそ特攻でもするか……そう思い始めたサンレッドの目の前で、突如ブロリーの右足に爆発が起こった。
「く、死にぞこないが……!」
「……へっ」
痛みで転倒しかけながら顔を歪ませ、横を向くブロリー。
そこでは、精根尽き果てた様子で倒れこむベジータと、慌ててそれを支える美希がいた。
「……あの野郎……まともに動くことさえ出来ないだろうに、無茶しやがって……」
嬉しそうにぼやきながら、サンレッドは走る。
最後の気力を振り絞って、ベジータが気功波を放ったのだ。
当然、それを見逃すサンレッドではない。ブロリーの弱点、右側から一気に詰め寄る。
最早なんども行われた接近。しかし、今までのそれとは大きな違いがある行為。
「ち、貴様らごときがこのカワイイ!ベルトとこの俺を破壊することなど!」
「ふざけんな。俺にはわかる。
そのアーマーは、そこに居る人を守りたいという思い……
人を愛するということを知っているヒーローが使ってきたものだ」
構える。
今までブロリーが接近戦に勝利できたのは、脚が動いていたから。
ブロリーの強みは耐久力だけではなく速度。
類稀なる反射神経とその移動速度が、美鈴とベジータの攻撃を潰してきた。
しかし、右足が潰され、更に僅かだが疲労が噴出した今、それは大幅に減衰している。
故に、防御は間に合わない。
「お前に、そのスーツを着る資格なんざねえッ!!!」
単純極まりない正拳突き。
前の戦いで、ブロリーには二つの大きな傷があることをサンレッドは見ている。
一つは腹。一つは首。ブロリーがどちらを防御しようとするか。
サンレッドにとってそれは賭けだった。彼はブロリーが腹を防御することに賭け、首を目標とした。
賭け金は、ここにある全ての命。
その、
結果は――
「オラァ!」
「グ……ハァ!」
首元のブレイドアーマーを粉砕しながら、サンレッドの拳がブロリーの首に叩き込まれた。
吹き飛ぶブロリー。だが……
これは決して、ヒーローの勝ちを、意味しない。
(……笑っていやがる、だと!?)
サンレッドは見た。ブロリーの表情が、勝ち誇った笑みに染まっている。
理由は単純だ。彼にとって、これは想定の範囲。勝利への道筋。
ブロリーはまだ首に攻撃されても持ちこたえられると判断したからこそ、腹を防御した。
そのまま宙へと浮かぶ。左手に緑色の光を集めながら、ブロリーは空へ上っていく。
飛び道具を撃つつもりか。そうサンレッドは予測し、腰に力を入れた。
この程度の高度ならば、ジャンプして飛び掛れば簡単に引き摺り下ろせる。
しかし、それを見越したようにブロリーは嘯いた。
「接近していいのか?」
「……? 何言ってやがる?」
「お前は無事だが、後ろの二人は粉々だぞ? ククク……」
「!! テメェェェェエエエ!!!」
ブロリーの言葉に、サンレッドは歯軋りした。禍々しい剛腕は、既に美希達の方へ向いている。
美希はただ体が伸びるだけ。世界チャンピオンのような力は持っていない。
気絶しているベジータを運んで走るような体力など、持ち合わせてはいない。
彼女がブロリーの攻撃を避けることなど、どうやっても無理だ。
「そこでじっくり、俺がパワーを溜めるのを見ているんだな……
お前達はとっておきで葬り去ってやる……フハ、フハハハハハハハハ!!!」
ブロリーらしい単純かつお粗末だが、同時に凶悪な作戦。
舌打ちしながら、サンレッドは美希達のところへ駆け寄った。
敵が撃ち出すのは、今まで連射してきたような低威力のものではない。
おそらく連射力や消耗を度外視し、パワーだけを重視したもの……
ベジータのファイナルフラッシュを容易く打ち消した、ギガンティック・ミーティア。
サンレッドの思考がめまぐるしく回転する。体力も限界近い。
今……自分に出来ること。それを、走る数秒で考え。
たった一つ思いついたことに苦笑しながら、サンレッドはブロリーを見上げた。
「やっぱ、みんなを助ける手段はこれしか思いつかなかった……」
「え?」
「美希……だったっけ?
ベジータをしっかり掴んでくれ、離すなよ。
お前の体ならちょうどいい感じのクッションになるだろうからよ」
「???」
顔を動かさないまま、美希の傍らで足を止め。彼女の方を見ずにサンレッドは話す。
その様子から、彼の考えに気付いたのはディムロスだった。
『……我を使え、サンレッド。
あれだけ多数の者が命を賭けて我だけが命を賭けないなどという道理はない』
「そうか。付き合わせて、悪ィ」
「わ、ちょっと!?」
そう呟くと同時に、サンレッドは右腕でディムロスを受け取って。
同時に、左腕でベジータごと美希を抱きしめた。
「終わりだ、チリ一つ残さず消し飛ばしてやる!」
「もし内田かよ子って女に会ったら、すまねぇっていっといてくれ」
ブロリーが気弾を放つのに合わせて、そう呟くと共に。
サンレッドはベジータ諸共、全力で美希をブン投げていた。
「え、え……!?」
美希が混乱する中、ブロリーの気弾がサンレッドと衝突した。
死ぬ。修造の言葉さえ忘れて、美希の頭の中が埋め尽くされる。
希望も熱血も何もかもなくして、迫る緑光を目の当たりにする。
だというのに。
その破壊から離れていく美希でさえ絶望するというのに。
サンレッドは怯まず、その破壊に対して剣を叩きつけていたのだ。
投げられた勢いのまま宙に浮きながら、美希はその姿を見た。
光で僅かにしか物体を視認できないこの場で、全ての視線を縫いとめるという矛盾。
星を砕く暴力をその身一つで受け止める、あってはいけない奇跡。
だが、それを起こす存在が、正義の味方が、そこにいる。
ブロリーの放った気弾。それを、サンレッドは自分の体とディムロスで受け止めていた。
その光景を目に焼き付けながら、気弾が引き起こした暴風と共に美希はその場から離れていった。
■
サンレッドが美希とベジータを強引な手段で逃がしたのは、ブロリーも確認している。
だが追えない。追うはずもない。目の前で起きている、事態ゆえに。
「……な、なんて奴だ!?」
その光景に、ブロリーすら畏怖すら覚えざるを得ない。
同然だ。銀河をも吹き飛ばすかの一撃を、身一つで受け止めるなど誰が信じられよう?
「チィ!」
余裕は消える。
掌に全てを注ぎ込む顔は、今まで決して見せなかったものだ。
今の自分にある全てをかけなければ、この敵を倒すことはできないと。
ブロリーですらそう思わざるを得ないほどの奇跡が、目の前にある。
だからこそ、注意は完全にサンレッドだけに向き……
ブロリーは右腕目掛けて飛んできたそれに、反応できなかった。
スパリと響く、軽い音と――同時に、ブロリーの右腕が、落ちた。
「な、なにぃ……!?」
振り返るブロリー。そこには、左腕と左脇腹を失いながらも、
かろうじて生き残っていた美鈴が横たわっていた。ブロリーへ、右腕を向けて。
――気円斬。
先ほどの一戦でベジータの使っていたそれを見た美鈴は、
それを自分なりの形で模倣し、気をまとめ、放ったのだ。
不可能なことではない。
難しいことでもない。
彼女の扱う能力は気。修行さえ積めば、かめはめ波だって撃ってみせる――!
「貴様ァ!」
その気性故に、ブロリーはとっさに残った腕で美鈴へ向けて気弾を放つ。
炸裂する新たな気弾。だが、その間にサンレッドへ放たれた気弾の圧力は消えていき。
素早くサンレッドへ向き直った瞬間、首に何か熱いものを彼は感じた。
「……ァ?」
ブロリーが声を上げようとしても、できない。それどころか、呼吸すら。
混乱したまま、ブロリーは地面に叩きつけられる。見下ろす自らの首に、折れた剣が突き刺さっていた。
ブロリーの攻撃に耐え切れず折れたディムロス。それを、よそ見した隙にサンレッドが投げたのだ。
ルガールが与えたその傷にディムロスだったものは深々と刺さり、致命傷を与えた。
(――ふざけるな! たかが首を貫かれた程度で、この俺が死ぬものか!)
ブロリーが吼える。いや、吼えようとする。だが出来ない。
傷は気管を両断して塞いでいる。いかにサイヤ人と言えども、呼吸できなくては生存できない。
彼が力を込めていたはずだった気弾は、サンレッドとディムロスによって虚空へと消えていた。
やがてブロリー自身も膝を付く。それでも、顔を上げた。
サンレッドが仁王立ちしたまま、彼の無様を見下ろしている。
(まだだ……俺が死ぬはずなど……な……い……)
それでも消えゆく意識の中、立ち上がろうともがく。
最後まで自分の死を受け入れられないまま、ブロリーの意識は潰えた。
■
「ベジータさん、しばらくここで隠れてるの!」
駅の一室にベジータを隠して、美希は再び走り出す。
彼女の疲労も、かなり大きなものになっていた。大人一人を抱えて走ったのだから当然だ。
ほとんど引きずるような形になったとは言え、完走しきっただけ彼女は褒められていい。
それでも彼女は休むことなく、サンレッドたちが戦っている場所へ向けて再び走る。
だが、駅から出た後目的地にたどり着く前に。
「ちょっと待って。戦いならもう終わってるわよ」
通りがかったメイドに、話しかけられた。
「あれ、えーと……」
「咲夜よ。十六夜咲夜」
「美希は美希なの。終わったって、どういう……」
「死んだみたいね、ブロリーは。遠目で確認しただけだから、まだなんとも言えないんだけど」
「本当なの!?」
「だから、遠目で確認しただけよ。近づきたくないわ。
もし生きてたりしたら怖すぎるもの」
渋々、と言った様子で美希は頷いた。確かにその気持ちは美希にも理解できる。
死んだと思ったブロリーが動き出す様子は、美希も簡単に想像できた、というかしてしまった。
お化け屋敷が幼稚園児の遊び場に見えるような体験が出来るに違いない。
「そっちの質問は終わったようだし、こっちから質問していいかしら。
……この帽子の持ち主。まさか、ブロリーと戦っていたの?」
そう言って、咲夜は拾ったらしい一つの帽子を取り出した。飾りとして星のあるソレを。
それは美希にも見覚えがある。自分がものを渡した相手なんだから当然だ。
……そして、美希は、彼女がブロリーを殴った後吹き飛ばされるのを見ていた。
だから、それで彼女は死んでしまったと思っていた。結論は間違っていない。
過程は誤認しているが。
「どうなったの?」
「……それは、その」
「……そう。死んだのね」
それだけ言って、咲夜は俯いて押し黙った。
月下に、重苦しい沈黙が数秒続いた後、それに耐え切れずに美希は口を開く。
「知り合いなの?」
「一応、ね。
……ほんと馬鹿。私達が誰のために命を掛けるべきかさえ、忘れるんだから」
目を閉じて、呟く咲夜。月が僅かにその影を照らす。
一瞬その言葉に美希は首を傾げたが、疲労と焦りからすぐに考えるのをやめた。
やめて、しまった。
「咲夜さんは、しばらくそこにいていいの。後で一緒にお墓作るの。
じゃ、私はまずサンレッドさんが無事か確かめに……」
「いいえ、確かめる必要はないわ。
だって貴女は、死ぬんだもの」
え、と美希が声を上げる暇もない。
咲夜の背後に雄雄しいヴィジョンが現れ、そして。
時は、止まった。
……
…………
………………
「――そして時は動き出す」
気が付けば、美希は喉に大穴を開けてその場に倒れこんでいた。
(……なんで?)
かろうじて残った意志で視線を動かすと、咲夜がナイフの血を拭き取りながら、
美希のデイパックから食料を回収していくのが見えた。
(……なんで、なの?)
何一つ確認できないまま、美希の視界は永遠に閉ざされ。
咲夜はそれを意に介することなく、その場を歩き去っていった。
絶対に、振り返らないと心に決めて。
一緒に戦いの場に戻ってから美希を殺せば、より多くの道具が手に入っただろう。
たくさん出た死者から、道具を奪えただろう。
けれど、咲夜はそれをしなかった。理由は簡単だ。
――美鈴の遺体を見たくないからだと、咲夜自身がよく分かっていた。
■
「うっわー」
遅れること数十分。
ブロリーたちが殺しあった場所に、ひょっこり姿を現す姿が一人。
アカギに散々玩具にされまくったフランドール・スカーレットである。
アポロの血を吸ったことである程度傷は治ったとはいえ、
依然として精神的にはかなり不安定だったのだが……
かなりイライラしていた彼女の頭を冷やすものがそこにはあった。
言うまでもなく、ブロリーの遺体だ。彼女はそろそろと、様子を窺うように歩み寄っていく。
「死んでる……んだよね。やったのは……」
ぽんぽんと死体の頭を叩いた後、次にフランが向き直ったのは、立ちっ放しのサンレッドだった。
「ねー。あなたがやったのー? ねー、聞いてるー!?
……なんか様子がおかしいなぁ」
いくら叫んでも反応を見せないサンレッドに、首を傾げながら近づいていく。
そのままつつくと、サンレッドだったものはあっけなく倒れていった。
――そう。彼は既に、死んでいた。
それでも立ち続けているのは、類稀なる強靭な彼の遺志か、あるいは奇跡か。
ヒーローはようやく戦いの終わりを知ったかのように、月に照らされながら地に落ちた。
「……ブロリーと相打ちになったのかなぁ。凄いや。
あ、そういえば持ってる道具でなんか撃てば凄くなるのが……」
彼女の言葉は途切れる。暗闇に飲み込まれるように消えていく。だってそれは当然だ。
呟いているうちに、見慣れたものを見つけたのだから。
「……うそ」
声にも、歩調にも、先ほどまでのような暢気な様子はない。
ただ、愕然としながら、足を進めていく。
「うそ、だよね」
足が止まる。フランに付いて来た影も同時に止まる。星の光も、雲の流れさえも。
星が照らし出されていた川の前に、それはあった。
紛れもない――紅美鈴の、遺体が。
戦いが、終わっても。
殺し合いはまだ、終わらない。
――けれど、それは決して、致命傷などではなく。
続いてカウンターの形で放たれたエネルギー弾。
それが、美鈴を吹き飛ばしていった。
「貴様ァ!!!」
べジータが絶叫する。
仲間意識があるわけではない。所詮、ほんの少し前に会ったばかりの仲だ。
しかし、自覚する間もなくベジータは叫び、掌に気を集めていた。
その髪はいつも以上に逆立ち、金色に染まっている。
「ザコどもが、やってくれたな……加減もなく、消し飛ばしてくれる!」
「手加減できるならしてみろ。その瞬間貴様を宇宙のチリにしてやる」
同時に、ブロリーの気もまた膨れ上がる。
足首だけでなく太股まで完全に折られてしまった右足は、紛れもなく大きな損失だ。
もはや完全に使いようにならない。彼が苛立つのも当然と言える。逆ギレに近いが。
ブロリーが片腕を向けるのを確認しながら、ベジータは思考する。
勝算があるとすれば、美鈴が与えたダメージ、そして疲労の二つ。
あれだけ気弾を連発してきたブロリーが、
スーパーベジータの全力を込めた攻撃を押し止められるのか。
それが勝算。
「ファイナル──」
「……フン」
「──フラァァァァシュ!!!」
怒号にも似た叫びと共に、ベジータが合わせた掌から光が放たれる。
同時にブロリーも掌から小さな気弾を放ち……それは、ファイナルフラッシュに激突した瞬間巨大化した。
この会場において最強である二人の力が激突し、地面が割れる。
舞い上がった岩は容易く蒸発し、周囲はまるで真昼のような照明に包まれていく。
目が眩むほどの閃光の中で、ベジータはファイナルフラッシュが圧され始めたのを見た。
この状態にしてこれほどまでの気を保てるならば、勝算などない。
ブロリーに、衰えなどありはしなかった。
ファイナルフラッシュを飲み込みながら、緑色の流星がベジータへと迫る。
金色になっていた髪が黒に戻ったベジータを、流星は飲み込んでいく。
――横から圧倒的な熱量が突撃してきたのは、その時だった。
ベジータの視界の端に、突如太陽が割り込んだ。
それは心強い見た目の通りに、ファイナルフラッシュで威力の鈍ったギガンティック・ミーティアを押し止めた。
「――次から次へと、小ざかしい蝿どもが!」
大技の打ち合いに、ようやく息を荒げ始めたブロリーが顔を歪ませる。
地面に倒れこみながら振り返ったベジータの先。正義の味方が、そこにいた。
「サンレッドさん、戦っちゃ駄目って……!」
「んなことはどうでもいいんだよ!
それより、ベジータの奴を頼む」
「え……で、でも」
「返事!」
「は、はいなの」
襤褸切れのようになったスーツ。元から赤い外套は、己の血が更に紅に染めている。
明らかに傷が癒えていない。明らかに回復していない。それでも歩いていく。
フン、とブロリーはそれをあざ笑った。
「脚一本奪った程度で、この俺を倒せるとでも思って」
「何言ってやがる。思ってるに決まってんだろ」
「いるのか何ィ!?」
「ベジータ達は命がけでそこまで戦果を挙げた。なら、俺はそれに応えないわけにはいかねぇ。
俺はサンレッド――ヒーローだからな!」
「クズ共が、次々へと……
貴様らが何度来ようと俺が負けることはないと言うことを教えてやる……!」
「教えるのは俺のほうだ。しっかりとお前に叩き込んでやる。
――怪人は最後に必ずヒーローに倒されるってお約束をよ!」
■
「まいったわね、全く……」
月下、寒村に一人残された咲夜は一人でため息を吐いた。
休んでから一時間。それであっさり静寂は破られた。
ここに響いてくるくらい派手な戦闘音に、サンレッドはすぐに反応した。
それより無理やり押し止めて、おにぽんを行かせるということで納得させたのが三十分前。
そして入れ違いで入ってきた美希が戻っていた際、咲夜が目を放した隙にサンレッドが抜け出したのは二十分前になる。
「……もう少し、私が強いってことを言っておけば無茶はしなかったかしらね?」
失策にため息を吐く。
サンレッドたちに自分のことは「投げナイフが得意なメイド」程度のことしか言っていない。
時間を操ることや「傍に立つもの」についてはノータッチだ。
だから、サンレッドが咲夜の戦闘力を低く見積もっているが故に無茶な行動に出た可能性は十二分にある。
「さて、どうするべきか」
最早疑うまでもない。今戦っている相手はブロリーだ。
咲夜としては、言うまでもなくあんな化け物と戦うのは金輪際御免だ。
しかし、聞く限りでは結構な数の参加者がブロリーと戦っているらしい。
もしかすると、これがブロリーを倒せる最後のチャンスということもありうる。
(その場合、私も戦闘参加するしかないのだけど……さて。
行くとしたらせめてフジキをある程度回収してから行きたいところね)
考え込む咲夜は知らない。
彼女にとって真の失策は、誰が戦っているのか美希に聞かなかったことだという事実に。
■
ブロリーの弾幕を避けながら、サンレッドは疾走する。
光景だけみれば何かのヒーローショーのようだし、ある意味その一種ではある。
違うのは、悪役が本当に宇宙を破壊しかねない存在であるということだが。
(ち、なんとか近づかねえといけねぇけどよ……!)
狙うは接近戦。右足の機能停止。ブロリーの機動力低下は見るまでもなく明らかだ。
片足の喪失を最大限にサンレッドが活かせるのは、ブロリー相手の場合接近戦だ。
ブロリー相手に離れているなら、例え後ろにいたところで気弾が襲ってくるだろう。
故に、それを撃たせる暇もなく攻撃できる位置が望ましい。
だがブロリーも本能的にそれを避けようと、小さな気弾を連射する。
呼吸が荒くなってきているとは思えない量に、サンレッドは辟易しながら毒づいた。
(まだ、やっと疲れが見えてきたって段階なのかよ。奴のスタミナは底なしか!?)
持久戦になれば先に体力がなくなるのはサンレッドだ。
一時間休んで回復したのは、僅か三分程度戦えるだけの体力。
なんとしてもそれまでに、ブロリーに一撃を加えなくてはならない。
いっそ特攻でもするか……そう思い始めたサンレッドの目の前で、突如ブロリーの右足に爆発が起こった。
「く、死にぞこないが……!」
「……へっ」
痛みで転倒しかけながら顔を歪ませ、横を向くブロリー。
そこでは、精根尽き果てた様子で倒れこむベジータと、慌ててそれを支える美希がいた。
「……あの野郎……まともに動くことさえ出来ないだろうに、無茶しやがって……」
嬉しそうにぼやきながら、サンレッドは走る。
最後の気力を振り絞って、ベジータが気功波を放ったのだ。
当然、それを見逃すサンレッドではない。ブロリーの弱点、右側から一気に詰め寄る。
最早なんども行われた接近。しかし、今までのそれとは大きな違いがある行為。
「ち、貴様らごときがこのカワイイ!ベルトとこの俺を破壊することなど!」
「ふざけんな。俺にはわかる。
そのアーマーは、そこに居る人を守りたいという思い……
人を愛するということを知っているヒーローが使ってきたものだ」
構える。
今までブロリーが接近戦に勝利できたのは、脚が動いていたから。
ブロリーの強みは耐久力だけではなく速度。
類稀なる反射神経とその移動速度が、美鈴とベジータの攻撃を潰してきた。
しかし、右足が潰され、更に僅かだが疲労が噴出した今、それは大幅に減衰している。
故に、防御は間に合わない。
「お前に、そのスーツを着る資格なんざねえッ!!!」
単純極まりない正拳突き。
前の戦いで、ブロリーには二つの大きな傷があることをサンレッドは見ている。
一つは腹。一つは首。ブロリーがどちらを防御しようとするか。
サンレッドにとってそれは賭けだった。彼はブロリーが腹を防御することに賭け、首を目標とした。
賭け金は、ここにある全ての命。
その、
結果は――
「オラァ!」
「グ……ハァ!」
首元のブレイドアーマーを粉砕しながら、サンレッドの拳がブロリーの首に叩き込まれた。
吹き飛ぶブロリー。だが……
これは決して、ヒーローの勝ちを、意味しない。
(……笑っていやがる、だと!?)
サンレッドは見た。ブロリーの表情が、勝ち誇った笑みに染まっている。
理由は単純だ。彼にとって、これは想定の範囲。勝利への道筋。
ブロリーはまだ首に攻撃されても持ちこたえられると判断したからこそ、腹を防御した。
そのまま宙へと浮かぶ。左手に緑色の光を集めながら、ブロリーは空へ上っていく。
飛び道具を撃つつもりか。そうサンレッドは予測し、腰に力を入れた。
この程度の高度ならば、ジャンプして飛び掛れば簡単に引き摺り下ろせる。
しかし、それを見越したようにブロリーは嘯いた。
「接近していいのか?」
「……? 何言ってやがる?」
「お前は無事だが、後ろの二人は粉々だぞ? ククク……」
「!! テメェェェェエエエ!!!」
ブロリーの言葉に、サンレッドは歯軋りした。禍々しい剛腕は、既に美希達の方へ向いている。
美希はただ体が伸びるだけ。世界チャンピオンのような力は持っていない。
気絶しているベジータを運んで走るような体力など、持ち合わせてはいない。
彼女がブロリーの攻撃を避けることなど、どうやっても無理だ。
「そこでじっくり、俺がパワーを溜めるのを見ているんだな……
お前達はとっておきで葬り去ってやる……フハ、フハハハハハハハハ!!!」
ブロリーらしい単純かつお粗末だが、同時に凶悪な作戦。
舌打ちしながら、サンレッドは美希達のところへ駆け寄った。
敵が撃ち出すのは、今まで連射してきたような低威力のものではない。
おそらく連射力や消耗を度外視し、パワーだけを重視したもの……
ベジータのファイナルフラッシュを容易く打ち消した、ギガンティック・ミーティア。
サンレッドの思考がめまぐるしく回転する。体力も限界近い。
今……自分に出来ること。それを、走る数秒で考え。
たった一つ思いついたことに苦笑しながら、サンレッドはブロリーを見上げた。
「やっぱ、みんなを助ける手段はこれしか思いつかなかった……」
「え?」
「美希……だったっけ?
ベジータをしっかり掴んでくれ、離すなよ。
お前の体ならちょうどいい感じのクッションになるだろうからよ」
「???」
顔を動かさないまま、美希の傍らで足を止め。彼女の方を見ずにサンレッドは話す。
その様子から、彼の考えに気付いたのはディムロスだった。
『……我を使え、サンレッド。
あれだけ多数の者が命を賭けて我だけが命を賭けないなどという道理はない』
「そうか。付き合わせて、悪ィ」
「わ、ちょっと!?」
そう呟くと同時に、サンレッドは右腕でディムロスを受け取って。
同時に、左腕でベジータごと美希を抱きしめた。
「終わりだ、チリ一つ残さず消し飛ばしてやる!」
「もし内田かよ子って女に会ったら、すまねぇっていっといてくれ」
ブロリーが気弾を放つのに合わせて、そう呟くと共に。
サンレッドはベジータ諸共、全力で美希をブン投げていた。
「え、え……!?」
美希が混乱する中、ブロリーの気弾がサンレッドと衝突した。
死ぬ。修造の言葉さえ忘れて、美希の頭の中が埋め尽くされる。
希望も熱血も何もかもなくして、迫る緑光を目の当たりにする。
だというのに。
その破壊から離れていく美希でさえ絶望するというのに。
サンレッドは怯まず、その破壊に対して剣を叩きつけていたのだ。
投げられた勢いのまま宙に浮きながら、美希はその姿を見た。
光で僅かにしか物体を視認できないこの場で、全ての視線を縫いとめるという矛盾。
星を砕く暴力をその身一つで受け止める、あってはいけない奇跡。
だが、それを起こす存在が、正義の味方が、そこにいる。
ブロリーの放った気弾。それを、サンレッドは自分の体とディムロスで受け止めていた。
その光景を目に焼き付けながら、気弾が引き起こした暴風と共に美希はその場から離れていった。
■
サンレッドが美希とベジータを強引な手段で逃がしたのは、ブロリーも確認している。
だが追えない。追うはずもない。目の前で起きている、事態ゆえに。
「……な、なんて奴だ!?」
その光景に、ブロリーすら畏怖すら覚えざるを得ない。
同然だ。銀河をも吹き飛ばすかの一撃を、身一つで受け止めるなど誰が信じられよう?
「チィ!」
余裕は消える。
掌に全てを注ぎ込む顔は、今まで決して見せなかったものだ。
今の自分にある全てをかけなければ、この敵を倒すことはできないと。
ブロリーですらそう思わざるを得ないほどの奇跡が、目の前にある。
だからこそ、注意は完全にサンレッドだけに向き……
ブロリーは右腕目掛けて飛んできたそれに、反応できなかった。
スパリと響く、軽い音と――同時に、ブロリーの右腕が、落ちた。
「な、なにぃ……!?」
振り返るブロリー。そこには、左腕と左脇腹を失いながらも、
かろうじて生き残っていた美鈴が横たわっていた。ブロリーへ、右腕を向けて。
――気円斬。
先ほどの一戦でベジータの使っていたそれを見た美鈴は、
それを自分なりの形で模倣し、気をまとめ、放ったのだ。
不可能なことではない。
難しいことでもない。
彼女の扱う能力は気。修行さえ積めば、かめはめ波だって撃ってみせる――!
「貴様ァ!」
その気性故に、ブロリーはとっさに残った腕で美鈴へ向けて気弾を放つ。
炸裂する新たな気弾。だが、その間にサンレッドへ放たれた気弾の圧力は消えていき。
素早くサンレッドへ向き直った瞬間、首に何か熱いものを彼は感じた。
「……ァ?」
ブロリーが声を上げようとしても、できない。それどころか、呼吸すら。
混乱したまま、ブロリーは地面に叩きつけられる。見下ろす自らの首に、折れた剣が突き刺さっていた。
ブロリーの攻撃に耐え切れず折れたディムロス。それを、よそ見した隙にサンレッドが投げたのだ。
ルガールが与えたその傷にディムロスだったものは深々と刺さり、致命傷を与えた。
(――ふざけるな! たかが首を貫かれた程度で、この俺が死ぬものか!)
ブロリーが吼える。いや、吼えようとする。だが出来ない。
傷は気管を両断して塞いでいる。いかにサイヤ人と言えども、呼吸できなくては生存できない。
彼が力を込めていたはずだった気弾は、サンレッドとディムロスによって虚空へと消えていた。
やがてブロリー自身も膝を付く。それでも、顔を上げた。
サンレッドが仁王立ちしたまま、彼の無様を見下ろしている。
(まだだ……俺が死ぬはずなど……な……い……)
それでも消えゆく意識の中、立ち上がろうともがく。
最後まで自分の死を受け入れられないまま、ブロリーの意識は潰えた。
■
「ベジータさん、しばらくここで隠れてるの!」
駅の一室にベジータを隠して、美希は再び走り出す。
彼女の疲労も、かなり大きなものになっていた。大人一人を抱えて走ったのだから当然だ。
ほとんど引きずるような形になったとは言え、完走しきっただけ彼女は褒められていい。
それでも彼女は休むことなく、サンレッドたちが戦っている場所へ向けて再び走る。
だが、駅から出た後目的地にたどり着く前に。
「ちょっと待って。戦いならもう終わってるわよ」
通りがかったメイドに、話しかけられた。
「あれ、えーと……」
「咲夜よ。十六夜咲夜」
「美希は美希なの。終わったって、どういう……」
「死んだみたいね、ブロリーは。遠目で確認しただけだから、まだなんとも言えないんだけど」
「本当なの!?」
「だから、遠目で確認しただけよ。近づきたくないわ。
もし生きてたりしたら怖すぎるもの」
渋々、と言った様子で美希は頷いた。確かにその気持ちは美希にも理解できる。
死んだと思ったブロリーが動き出す様子は、美希も簡単に想像できた、というかしてしまった。
お化け屋敷が幼稚園児の遊び場に見えるような体験が出来るに違いない。
「そっちの質問は終わったようだし、こっちから質問していいかしら。
……この帽子の持ち主。まさか、ブロリーと戦っていたの?」
そう言って、咲夜は拾ったらしい一つの帽子を取り出した。飾りとして星のあるソレを。
それは美希にも見覚えがある。自分がものを渡した相手なんだから当然だ。
……そして、美希は、彼女がブロリーを殴った後吹き飛ばされるのを見ていた。
だから、それで彼女は死んでしまったと思っていた。結論は間違っていない。
過程は誤認しているが。
「どうなったの?」
「……それは、その」
「……そう。死んだのね」
それだけ言って、咲夜は俯いて押し黙った。
月下に、重苦しい沈黙が数秒続いた後、それに耐え切れずに美希は口を開く。
「知り合いなの?」
「一応、ね。
……ほんと馬鹿。私達が誰のために命を掛けるべきかさえ、忘れるんだから」
目を閉じて、呟く咲夜。月が僅かにその影を照らす。
一瞬その言葉に美希は首を傾げたが、疲労と焦りからすぐに考えるのをやめた。
やめて、しまった。
「咲夜さんは、しばらくそこにいていいの。後で一緒にお墓作るの。
じゃ、私はまずサンレッドさんが無事か確かめに……」
「いいえ、確かめる必要はないわ。
だって貴女は、死ぬんだもの」
え、と美希が声を上げる暇もない。
咲夜の背後に雄雄しいヴィジョンが現れ、そして。
時は、止まった。
……
…………
………………
「――そして時は動き出す」
気が付けば、美希は喉に大穴を開けてその場に倒れこんでいた。
(……なんで?)
かろうじて残った意志で視線を動かすと、咲夜がナイフの血を拭き取りながら、
美希のデイパックから食料を回収していくのが見えた。
(……なんで、なの?)
何一つ確認できないまま、美希の視界は永遠に閉ざされ。
咲夜はそれを意に介することなく、その場を歩き去っていった。
絶対に、振り返らないと心に決めて。
一緒に戦いの場に戻ってから美希を殺せば、より多くの道具が手に入っただろう。
たくさん出た死者から、道具を奪えただろう。
けれど、咲夜はそれをしなかった。理由は簡単だ。
――美鈴の遺体を見たくないからだと、咲夜自身がよく分かっていた。
■
「うっわー」
遅れること数十分。
ブロリーたちが殺しあった場所に、ひょっこり姿を現す姿が一人。
アカギに散々玩具にされまくったフランドール・スカーレットである。
アポロの血を吸ったことである程度傷は治ったとはいえ、
依然として精神的にはかなり不安定だったのだが……
かなりイライラしていた彼女の頭を冷やすものがそこにはあった。
言うまでもなく、ブロリーの遺体だ。彼女はそろそろと、様子を窺うように歩み寄っていく。
「死んでる……んだよね。やったのは……」
ぽんぽんと死体の頭を叩いた後、次にフランが向き直ったのは、立ちっ放しのサンレッドだった。
「ねー。あなたがやったのー? ねー、聞いてるー!?
……なんか様子がおかしいなぁ」
いくら叫んでも反応を見せないサンレッドに、首を傾げながら近づいていく。
そのままつつくと、サンレッドだったものはあっけなく倒れていった。
――そう。彼は既に、死んでいた。
それでも立ち続けているのは、類稀なる強靭な彼の遺志か、あるいは奇跡か。
ヒーローはようやく戦いの終わりを知ったかのように、月に照らされながら地に落ちた。
「……ブロリーと相打ちになったのかなぁ。凄いや。
あ、そういえば持ってる道具でなんか撃てば凄くなるのが……」
彼女の言葉は途切れる。暗闇に飲み込まれるように消えていく。だってそれは当然だ。
呟いているうちに、見慣れたものを見つけたのだから。
「……うそ」
声にも、歩調にも、先ほどまでのような暢気な様子はない。
ただ、愕然としながら、足を進めていく。
「うそ、だよね」
足が止まる。フランに付いて来た影も同時に止まる。星の光も、雲の流れさえも。
星が照らし出されていた川の前に、それはあった。
紛れもない――紅美鈴の、遺体が。
戦いが、終わっても。
殺し合いはまだ、終わらない。
【サンレッド@天体戦士サンレッド 死亡】
【紅 美鈴@東方project 死亡】
【ブロリー@ドラゴンボールZ 死亡】
【星井美希@THE IDOLM@STER 死亡】
【紅 美鈴@東方project 死亡】
【ブロリー@ドラゴンボールZ 死亡】
【星井美希@THE IDOLM@STER 死亡】
※それぞれ死亡者が持っていたものはそれぞれの遺体の側にあります。
但し美希のデイパックからは食料が抜き取られています。
またおにぽんとディムロスは破壊されました。
但し美希のデイパックからは食料が抜き取られています。
またおにぽんとディムロスは破壊されました。
sm202:Inanimate Dream | 時系列順 | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm202:Inanimate Dream | 投下順 | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm193:熱血と冷静の間 | サンレッド | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm201:LIMIT BREAK | 紅美鈴 | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm201:LIMIT BREAK | ブロリー | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm201:LIMIT BREAK | 星井美希 | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm193:熱血と冷静の間 | 十六夜咲夜 | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm201:LIMIT BREAK | ベジータ | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |
sm194:アポロ13 -そして誰もいなくなるか? | フランドール・スカーレット | sm203:正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) |