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誰敢殺我! ◆CqqH18E08c




「”M”なぁ……」
「ゆっくり考えていってね!」

 藤崎は一人考えていた。
 瓦礫から突き出た人間の腕に書かれた文字の意味を。
 書かれていた文字は”M”
 ただそれだけ。
 いや死にゆく者が残すメッセージとしてはこれが限度なのかもしれない。

 今現在少なくとも馬岱と藤崎にこの文字についての心当たりはない。
 だから藤崎はその文字の持つ意味を考え
 殺人者の正体を暴こうとしているのだが……

「行くぞ」
「このメッセージは放置するんか!?」
「俺達にはこの”M”についてなにか心当たりはあるのか?心当たりがないものについて延々と考えていても何の意味もない」
「そ……そやけどそのまま放置しておくのも……」

 そんな藤崎対する馬岱の反応は酷く淡白なもの。
 馬岱からすれば心当たりのない文字について延々と考え続けこんな奇襲されかねない危険区域にいるのは勘弁である。
 藤崎を盾や囮に使うとは言ってもこのような場所では逃げ切れるとは限らない。
 むしろ逃げ切れない可能性や、戦闘の衝撃でホテルが崩壊してしまう可能性の方が高いだろう。

 一方藤崎は奇襲されるなんて言う考えは持っていない一般人である。
 だからその文字の意味が気になって仕方ない。 
 この文字の意味が分かればこの更なるホテル崩壊の犯人、さらには殺人者が誰だかわかる可能性すらもあるのだから。

「この”M”というのが人か物か分からないが警戒すべき対象である。それだけ俺達は分かっていればいい」
「いや。だからって人が死んで――」

 馬岱は別に説得する風ではなくただ事実を述べる。
 警戒すべき対象がいるならそれを警戒しておけばよいという話なのだから。
 当然そんな言葉では納得できない藤崎が馬岱に言い返そうとして――

「誰かいる」
「……なんやて?」
「ゆっくり接触していってね!」

 馬岱は小さな人の話し声のようなものを聞き取りそちらのほうに歩きだした。
 今までの藤崎を盾とする移動とは違う移動。
 馬岱は猛者との闘争を求めている。
 藤崎もまた生存者がいると聞いて文字の意味を考えながら馬岱の後に続く。
 ゆっくりもハネながらその後に続いた。

◆◆◆
「だれかこっちにくるね。僕たちがここにいることに気が付いたみたいだ。」

 ドナルドはそう呟く。
 先ほどホテルに入ってきた存在、それが近づいてきていることを感知した。
 それらは先ほどまでこの崩壊したホテル内を探索していたということはドナルドは知っている。
 しかし突如としてやみくもな移動をやめてこちらのほうに近づいてきていた。
 これがどういう意味を持つのか、それは想像することに難くない。

「え?」
「誰だか分からないけどこっちに来てるんだ、僕たちの話声が聞こえたのかな?」

 間の抜けた顔で聴き返すレンにドナルドはもう一度告げる。
 レンはその言葉でようやく何者かの接近を理解できたのか顔を引き締める。
 体力が回復し食事も取ったレンは万全の状態だ。
 今度こそ殺し合いに乗っている奴が相手であれば排除しようという意気込みが伝わってくる。

「ドナルド、どうするんだ?」
「このままここで待っててもやがて接触することになるし僕らから出向こうか」

 レンの指示を仰ぐ言葉に満足げにドナルドはうなずきながら言葉を返す。
 自分たちから出向こうと。

 体力回復の途中ではあるが戦闘になったとしても多少痛みを我慢すれば問題ない。
 今言葉と感知した存在に接触され自分がビリーの殺害を依頼したということがばれる方が問題と考えたのだ。
 それにまだドナルド達はビリーの死亡を確認していない。
 ドナルドマジックの行使の過程である程度人の動きを把握できるとはいえ
 能力が制限された状態では気絶していたり息をひそめている人の存在を感知できるかどうか分からないのだ。

「言葉はどうするの?」
「中庭の近くなら言葉を監視しながら接触できる。そこに向かおうか」

 こちらはさきにレンが歩き出しそれにドナルドが続いた。
 殺し合いに乗っているならばレンに始末をさせ
 最悪の場合はレンを盾とし、囮として利用するために。

◆◆◆

「どうしましょうか……」

 先ほど聞こえた声の主がこちらに接近してくる。
 それは言葉も理解している。
 今出ればその声の主に接触することも可能だ。
 ドナルドにビリーの殺しを依頼されたことなどを嘘を交えて説明してこの場から逃げる。
 それで当面の危機は凌ぐことができる。
 でも嘘がばれた場合は――

 そんな風に言葉が迷っている間にも状況は動き続ける。
 次に言葉の耳に届くのは聞き覚えのある声。

「ドナルド達もくる……」

 ドナルドとレンの声もこちらへ近づいてきているのだ。
 いま出ると間違いなく声の主と接触するのとほぼ同時にドナルド達とも接触することになる。
 そうなれば嘘をついて逃げるという選択肢もなくなるし
 この扉の前あたりで接触することになるだろうから接触中に虚をついて逃げ出すということも不可能。

 ならば今からすぐに出て一か八かのギャンブルに出るべきなのか
 声の主に接触し、助けを求め助けて貰うのが早いか
 それともドナルドに殺されるのが早いか――

 そこまで考えて言葉が結局選んだのは保留。
 二組の接触の結果を待ち、その上で行動方針を決めようというのだ。
 この場では一番妥当な選択だが――
 それは消極的に場の状況に流されているにしか過ぎない。

 言葉は周りの状況を正確に確認するためにも再び壁に耳を押し付け一言一句聞き漏らさぬように準備をした――

◆◆◆

「藤崎、君がなんでここにいるんだい?」
「誰かに襲われたんや」

 最初に交わしたのはこんな会話。
 ドナルドは獏良に処理を任せたはずの藤崎がここにいることを疑問に思い
 藤崎はドナルドがなにか突き放すような言動なのでそれに応対する形で淡白に。
 さらには言葉、ビリー、チルノとドナルドチームの面々がその場にいないことも藤崎を警戒させた。

 両者は邂逅は険悪というわけではないが良好な関係とも言えるわけではなかった。
 もともとドナルド&レンと藤崎がいた時間はごく僅かである。
 良好な関係を持てという方が酷である。

 だがそのまま何もせずに分かれるというわけにもいかない。
 両者は双方を警戒しながら情報交換を始める。

「ゆっくり情報交換していってね!」

 ドナルドからは言葉の裏切りによりビリーが消息不明になったこと、チルノと大河は図書館へと向かったことなどが語られ
 藤崎からは瓦礫に埋もれていた遺体のこと、藤崎を襲った存在などが語られる。
 レンからは自身の方針と兄妹のことなどについて。
 この情報交換で瓦礫に埋もれていた遺体がビリーであるということが双方には理解でき、言葉が危険人物であると認識する。

 藤崎はそれに悲しみを深め、腕に残されていた文字のことを話そうとするが――

「そろそろ俺もしゃべっていいかな?お前たちから情報を貰ってばかりでは不公平だろう?」

 そこで馬岱がその言葉を制し、自身のことについて語りだす。
 自分のスタンス。つまりここで腕試しをしたいということ。藤崎とは大した縁ではなく一緒に行動しているだけで守る気はないということ
 そしてここで出会った呂布や奇襲をかけてきた存在について。

 勿論これはただの自己紹介ではない。
 ドナルドの言葉を信用せず、重要な情報であるダイイングメッセージをドナルドに教えないための行動。
 馬岱と藤崎には”M”についての心当たりがなかったとしてもドナルドとレンには心当たりがあるかもしれない。
 そんな状況で軽々しく情報を与える気になることは馬岱には到底できなかった。

(獏良はしくじったみたいだね……まぁ僕も僕で色々しくじってるから人のことは言えないけれど……)

 そんな情報交換と自己紹介を聞きながらドナルドは自分の失態を思い出す。
 ビリーは聴く限り始末には成功したらしい、だが言葉が生きている現状ではそれはとてもではないが喜べない。
 言葉の処分をしてからこそ初めてビリーの始末を喜べるのだ。
 さらには藤崎の生存、これまた自身の予定の範囲外。一種のカリスマ性をもつ藤崎は自身の邪魔にしかならない。

(もう獏良達は映画館に向かってる頃だし、しかたないから理由つけてここで”処分”するかな
 こっちの武将も別に藤崎君を守るって気持ちはないみたいだし)

 時はすでに夕刻。
 図書館にいたタケモト一行は予定通りならば既に映画館へと向けて出発しているだろう。
 そうなると獏良達に藤崎の排除を頼むことは無理である。
 この場でレンに排除を頼むという手もあるがいまの状況ではそれもあまりやりたくない。
 レンはあくまで普通の子供レベルの身体能力なのだ。
 藤崎に逆に組み伏せられる可能性も十分にある。
 つまり結局は自分で手を汚さなければならないのだ。
 ドナルドは”理想”と”現実”はわきまえている。
 自分の手を汚したくないという理想と
 自分の手を汚さなければならないという現実である。

 だからドナルドはその現実を受け入れた。
 支配者でも理想にだけ拘り続けることはできない
 多少軽率でもこんな状況になってしまってはさっさと行動に移すべきだろうという判断。

「藤崎君、ちょっと2人だけで話たいことがあるからこっちに来てもらえないかな?」
「なんでわざわざ2人にならないかんとや?別に他の2人がおってもいいやろ?」
「藤崎君に特別に話したいってことが――」
「だからここで話せばいいことやろ?」

 だが、藤崎はその悪魔の魔手をかいくぐる。
 もともと親交があったわけでもなければ中が良いわけでもない。
 さらに藤崎もまたビリーが言葉の裏切りだけで死んだとは考えていないのだ。
 大人であるビリーと普通の女に見える言葉。
 この2人が戦ったとして武器差があったとしてもビリーがそう簡単に負けるとは思えない。
 それにビリーを殺すほどの実力が言葉にあるならば中庭にとどまり続ける必要はない。
 ドナルドを殺してさっさと脱出すればいいのだ。

 勿論これだけで藤崎がドナルドの魔手をかいくぐれたわけではない。
 もう一押しがあった。
 それは馬岱のスキル、教唆である。
 現在藤崎と一種のチームを組んでいる馬岱のスキルが無効化したのだ。

 別に馬岱が意図的に藤崎を守ったわけではないが現在形式上同じチームにいる藤崎にもその教唆の効果が及んだのだ。 

「ところで、そこ道化師」
「なんだい?」
「ちょっと一回外に来てもらおうか、お前と2人きりで話したいことがある」
「なんでだい?別に他の2人がいても――」

 馬岱は先ほどのドナルドと同じようにドナルドを呼び出そうとする。
 それをドナルドは当然だが受けようとはせず藤崎とまったく同じ理由をつけて断ろうとする。
 今この場で言葉の監視を中断するというのは勘弁したいところであるし。
 藤崎やレンからも目を離したくないからだ。

「この2人がいると困るからな、この2人に血なまぐさい話を聞かせるのは憚られる」
「そういうことなら仕方ないな」

 だが馬岱はそれらしことを言ってドナルドと二人きりになろうとする。
 こう言われるとドナルドも返すことができない。
 自称三国時代の武将が言う血なまぐさい話
 これをレンや藤崎のような少年に聞かせたくないというのはもっともでほかに断る理由がないドナルドはそれを仕方なしに受ける。

「そこの扉、なかから言葉が出てこないように見張っておいて貰えるかな?」

 レンと藤崎にそう言っておくのだった。
 武気がないとはいえレンと藤崎に言葉を処分――最悪でも足止めはできるだろうか?
 という不安を胸に残しながら。
「さて、ドナルド。話って言うのはな……」
「なんだい?」

 そうして一度ホテルの外に出る馬岱とドナルド。
 馬岱はドナルドとの間合いを十分に測りながらそう呟く。
 その様子を異常に思ったドナルドもまた戦闘態勢に移行する。
 そしてドナルドが戦闘態勢に移行したところを確認して馬岱が鍬を振り上げ飛びかかる。

「俺の腕試しにつきあってほしいってことだよ!」
「アラーッ」

 馬岱の鍬がドナルドへと振るわれ埃を巻き上げながら大地に突き刺さる。
 ドナルドはそれを交わし後ろへと下がる
 その顔は怒りに燃え最初レンとであった時の優しい顔はそこにはない。
 憤怒に支配される悪魔がそこにはいた。

「これはどういうことかな?」

 馬岱の一撃はドナルドを殺すために放たれたものではない。
 ドナルドを試すための一撃。
 だがそれでも十分人を殺すだけの威力はある。

 そんなものがドナルドは自分に向けて振るわれたという事実を再確認しつつ馬岱へ質問をする。
 ドナルドからすればこれは初めてとも言える体験。
 最初にレンを助けた時は双方実力を隠した状態での戦いではなかった。

 だが今回は違う。
 馬岱は腕試しとして実力を隠すことなく全力でドナルドを殺すために刃を振るったのだ。
 支配する存在――ドナルドから奴隷にも等しい馬岱、支配される側の存在から
 それは本当にドナルドにとって初めての経験で初めての屈辱、怒りを与えていた。

「お前は実力者だろ?身のこなしでわかる。だから俺の”腕試し”につき合ってくれ」
「殺し合いに君は乗っていないんじゃないのかい?君は確かにさっき腕試しをしたいとは言ってたけどね
 それに君がそんな態度ばっかりとってるとドナルドはついやっちゃうよ?」

 馬岱とドナルドは間合いを測り合う。
 馬岱は腕試しのために、ドナルドは自分の怒りを晴らすために必殺の距離を探す。
 2人がそれぞれ自分の距離に入ろうとし
 相手の距離に飛びこまないように牽制し合う。
 必殺の距離を探し合う僅かな硬直
 だがその牽制も一時的なもの――

「腕試しのために殺し合いをしてください。そしてはいそうですかと乗ってくれる奴がいるのか?だから実力行使でいかないとな」
「きにいらないなぁ、なんでみんなドナルドの思うように動いてもらえないのかな?」

 馬岱がドナルドへ突っ込み
 ドナルドもまた馬岱へとつっこんだ。


◆◆◆
――つき……って……だよ!!
――アラーッ!!

 中庭に届くドナルドと馬岱の声。
 それからしばらくして響く棒と棒がぶつかり合うような音が小さくではあるが響く。
 その音にただ武器を構え中庭を見張っていた藤崎とレンがハッと反応し顔を身合わせる。
 外に出て話をしている間に2人になにかあったのではないかと。

「ドナルドの声だ!」
「なんかあったんやろか!?」

 ドナルドと馬岱の声でとっさにかけ出そうとするが
 2人はここを見張らなければならないということを思い出しその場に踏みとどまる
 馬岱もドナルドもかなりの実力を持っていることは双方知っている。
 その2人ならば猛者と出会ったとしても2対1という有利な状況で戦えるだろうと――

 ――が、そこで藤崎が思い出す。

「しまっ……あいつ喧嘩売りおったな!!」
「喧嘩!?」
「あいつは腕試しが目的って言うとったがそのためには殺し合いにも乗るって奴なんや!」
「なんでそんな危ない奴連れてきてるんだよ!!」

 藤崎は馬岱の目的をすっかり忘れていた――いや、馬岱が本気で腕試しで殺し合いに乗るとは思っていなかった。
 馬岱と藤崎は数時間という短い間ではあるが一緒にいた。
 その間馬岱は藤崎に一度も手を出していない。
 そのせいで藤崎は馬岱に対する警戒が緩んでいたのだ。

「俺が見てるうちは殺しは乗らせないつもりやったんや!!」
「馬鹿!!」

 レンの叫びはもっともである。
 そう言って馬岱を止めるべく駆け出しドナルドの元へ向かおうとする二人の後ろから爆音が。
 2人は爆音に驚き中庭の方を向く。
 その中庭の方は煙が立ち込めていて何も見えない。

「こんどはなんなんや!!」
「いいんですか?中庭の中に。誰もいなくなりますよ?」
「言葉!!」

 そして煙と、吹き飛とんだ扉の中の中庭から現れたのは言葉。
 ドナルドさえいなければ1対2でも何とかなるという予想からの行動であった。
 言葉の保留が、言葉脱出の機会を生んだ。

「貴方達が生きていると協力者を募ったりする時に困りますので死んでください」

 言葉は藤崎とレンへと向かって魔力の弾を放つ。
 藤崎とレンはそれを慌てて交わしながら壁の裏に隠れる。

「おい!言葉がでてきたじゃないか!」
「俺のせいやないやろ!」

 2人は責任をなすりつけ合う。
 責任は中庭から目を離した2人に平等にあるのだがそれを認める余裕は二人にはない。
 もっとも見張っていたからといて言葉の脱出を防げたかは疑問だが

 壁に隠れながら言葉の攻撃を耐える時間が始まった。

――ミシッ
◆◆◆
――こんどはなんなんや!!
――言葉!!

 中庭周辺に外の声が届くのならば当然
 中庭周辺の声もホテルの外まで届くわけで
 馬岱とドナルドの元にも声は届いていた。
 もっとも馬岱は最初から藤崎を助ける気はないし
 ドナルドは馬岱に足止めされて言葉の元へ行くことはできない。

「アーロッ!言葉が中庭から抜け出したみたいだね、僕はこんなことしてる暇はなくて言葉を処分しないといけないんだけど」
「俺にはそんなことは関係ないな!!」

 ドナルドは中庭に戻ろうとするが馬岱はそれを許さないのだ。
 現在ドナルドの手には黄色い巨大な棒が握られている。
 先ほどまで持っていなかった武器である。
 しかし、これはドナルドの支給品ではない。

 ドナルドが錬成した武器、ポテトソードである。
 本来は刀クラスの切れ味を誇るのだが制限がかかっているいまではただの硬いポテトにしか過ぎない。
 それでも鍬と打ち合う分には十分なレベルではあるが。

「奮戦!!」

 馬岱のラッシュがドナルドを襲う。
 上、下、右、下、下、上、左
 鍬が不規則な軌道を描く 
 だが初級兵法をドナルドが防げないはずもなくドナルドはそれをあっさりと防ぐ。

「ひゃっはっは、腕試しをしたいと言っていたけどその程度かい?」

 防いだのちにドナルドはバックステップで一気に距離をとりハンバーガーを錬成しそれを馬岱に投げつける。
 馬岱はドナルドから投げられるハンバーガーなんなくはたき落とそうとするが―― 

 ――鍬を握るその手に来るのは予想外の反動。

 ハンバーガーが炸裂したのだ。

「なっ――」

 予想外の反動で馬岱がノーガードの状態になる。
 ドナルドはそのスキを逃すことなくポテトを投げつける。

 ――今馬岱がいるところではなく自身の側面へと。

「うをっ!」

 鍬を大上段に振り上げていた馬岱はその動作を中断し体を強引に捻じり飛んでくるポテトを回避する。
 一部のポテトは完全な回避をすることができず馬岱の衣服を切り裂く。
 馬岱の体は完全に体勢を崩しているがそれをドナルドは余裕の表情で見続ける。

 馬岱とドナルドの知力差は大きい。
 馬岱が幻術をしかけあっさりと看破されたのも当然の話だろう。

「気がつかれていたか」
「お店でやったら喜ばれそうな一芸だね♪」

 馬岱が体制を整えてからようやくドナルドはポテトソードで馬岱に攻撃を仕掛ける。
 鍬でそれに打ちかかりラッシュでドナルドを押す。
 単純な体術ではドナルドマジックを駆使して戦うドナルドよりも企画外の連中と戦い続けてきた馬岱の方が優勢ではあったが
 ドナルドマジックを含めた総合力での勝負となればドナルドのほうが有利なようだった。

「ポテトを出したり爆発するパンを投げてきたり、用心して幻術かけたらあっさり看破したり
 お前は他に何を隠している?」
「……どうだろうね♪」

 馬岱の言葉にドナルドは笑いながらそう返すとポテトを自身の前に錬成し、それを投げつける。
 先ほど衣服を切り裂かれたのを確認しているため馬岱はそれに触れることなく回避し、そしてドナルドへ接近する。
 この戦いで初めて生まれた馬岱の勝期。
 ドナルドはまたポテトを自身の前に錬成しはじめているがそれはまだ馬岱へ飛来することなく中に浮遊しているだけの状態。

「貰った!!」

 馬岱はドナルドに迷わず一撃を入れるためにその浮遊するポテトの中につっこむ。

 だが突っ込んだ馬岱の表情は苦痛と驚愕に変わり
 ドナルドの表情は悪魔的な笑みを強くする。

 馬岱の足や腹に突き刺さっているのは先ほどまで浮遊していたポテト。
 勿論ドナルドの前に浮遊していたポテトが全て馬岱に刺さったわけではない。
 ささったのは浮遊していたポテトのほんの一部

 しかしそれでも足や腹にさされば戦闘力を奪うのには十分である。 
 mugenに置いて設置されるのと同様のポテト。
 まだ攻撃準備中だと無警戒につっこめばダメージを受けるドナルドのトラップ。

「I'm loving it !」
「ぐ……ぐぁ……」

 馬岱が僅かに優勢であった体術もこれで逆転する。
 馬岱の不利はますます深まるばかり。

「強そうな奴にあえてすぐ腕試しとか調子に乗ったがもう少し用心するべきだったかね……
 少しぐらい情報を集めてから臨むべきだったか」」

 馬岱は自身の軽率さに毒づいた。

◆◆◆
「どうするんだよ!!」
「俺にどうせーっちゅーねん!!」
「貴方達に生きていられると他に協力者を得られなくなります」

 馬岱とドナルドの元へ向かおうとした2人であったがそれはかなえられずにいた。
 言葉のせいで。

 藤崎とレンは今ホテルの壁を盾として言葉と相対している。
 現在藤崎とレンに遠距離の攻撃を可能とする支給品はない。
 シルバーウルフがあれば牽制程度の攻撃は出来たのかもしれないがシルバーウルフは残念ながらタケモトたちの元にある。
 ないものねだりはできない。
 一人が囮となりもう一人が接近戦をし掛ければまだ勝機はあるのだがこの2人に協力するきはまったくなかった。
 レンも藤崎もお互いのことをほとんど知らないのだから当然である。
 知らない相手に己の命を預けることができる人などは誰もいない。

 そしてまた言葉の手から放たれる気弾がぼろぼろのホテルの壁を穿つ。

――ミシッ

「おい、言葉落ち着け!さっきから変な音がしとるぞ!!」
「私には聞こえません」

 藤崎が叫ぶが言葉はその言葉を無視して打ち続ける。
 きっぱりと断言されると藤崎も打つ手なく壁の裏で言葉の攻撃をしのぐのみ。
 言葉は焦っているようでこのホテル全体から聞こえている異音に気が付いていないようだった。
 藤崎とレンもまた周囲から聞こえる異音と言葉からの攻撃でかなり動揺している。

「お前なんかためになる支給品はもっとらんのか?」
「いま見落としが無いか探してる!!はやくドナルドの所へいかないと!!」  
「ゆーっ!ゆ!!」

 レンは自分のデイパックを必至で漁る。
 見落としがないか、どんな小さな物でもこの状況を打開できるようなアイテムがないか――
 ゆっくり達にも周囲の異音が聞こえているようでゆっくりたちもかなり慌てている。

 サッカーボールでも何でもいい言葉の気を一瞬でも散らせればこの状況を打開できる何かが得られるかもしれないという希望を乗せて。
 だが必至で探すレンのデイパックからは小さな飴玉一つも出てこない。
 ダイヤの結婚指輪のネックレスとスタンドマイクだけ。
 投げれば少しは気をそらすことができるだろうがだからどうしたというレベルである。

「えぇい、ドナルド、ドナルドいわんで俺にかせや!ドナルドに頼らんとお前はなにもできんのか!!」
「あっ」

 藤崎がレンのデイパックをひっくり返し支給品を漁る。
 基本支給品のほかには確かにめぼしいものはない
 意味の分からん指輪のネックレスとマイク、こんなものがあってもどうしようもない。
 藤崎の持つショートカッターの刃が1枚でも残っていればこの状況から脱出できるのだが図書館から逃げだした際にそれも使い切ってしまっている。

――それでも何かあるやろ……なにか……

 しかし現実は無情。
 レンのデイパックには新たな支給品は『無い』
 自身のデイパックももう一度漁ってみるが出てくるものは今までに確認したものだけ。
 使い切ったショートカッターも望みをかけて使うが使い切ったショートカッターにはなんの力もない。

――ミシッミシッ

 言葉の放つ弾によりさらに音が大きくなる。
 壁もそろそろ限界に達しようとしている。
 この壁が崩れれば連鎖的にホテル全体が崩壊してしまうだろう。
 だがこの状況で――藤崎は思い出す――
 万策尽き、ホテルの崩壊もはやまったこの状況で、
 ”ヒト”という生き物の生存本能なのか制限されている知識の一部を――

(そうや……言葉……桂言葉……そうや……初対面でも何でもない。俺は知っとる
 言葉だけやない……レンもドナルドも、タケモトも、獏良も
 なんで知っ取るのか分からんだが俺は間違いなく知っとる)

「藤崎!どうするんだよ!周りも崩れそうだしドナルドのところへ行く前に俺達が――」

(そうや……M……ドナルドや……マクドナルド――ハンバーガーショップ――
 マクドナルドの頭文字はM。弾幕――そうや、ドナルドといったらMや) 

 藤崎は完全ではないが思い出す。
 自分以外のことを、ホテルが崩れる直前という土壇場で――

 完全にではないが制限された知識の一部を思い出す。

 『ドナルド・マクドナルド。教祖様』
 『レン。ロードローラー』
 『桂言葉。お腹の中にだれもいませんよ?』

 一度思い出せばそれは湯水の如くあふれ出る。
 湧水のように――

 だが周囲から聞こえる異音がさらに大きくなる。
 ここまでくると言葉も気が付いたのか周囲の様子を探っている。
 しかし弾を打つことを止めない

 いや、いまさら弾を打つことを止めてもホテルの崩壊は止まらないだろう。
 もう既に2度崩壊しているホテルには3度目を耐えるほどの耐久力は残されていない。

――ミシッミシッミシッ


「あいつを殺したのはドナルドなんや……」

 藤崎はいまどうしたらいいのか分からない。
 だから叫んだ。
 腕試しをすると言っていただけだが、僅かな時間ではあるが藤崎と一緒にいた人物へ
 もうこのホテルの崩壊から逃れることは不可能だろう。
 だから今ここで唯一生きのびる可能性が高い人物へ
 ドナルドと今腕試しをしているあろう人物へ

「馬岱!!ドナルドがいっとたことは嘘や!あいつを殺したのドナルドや!!」
「なにを――ドナルドはそんなことっ――」

 隣のレンが驚きに目を見開き言葉のことも忘れ藤崎の襟をつかむ。
 そして同時に着弾した弾により壁が限界を迎え

 その壁が限界を迎えたことにより――ホテルが崩壊する

『ゆーーーーーーっ!!』

 ゆっくりの悲鳴が木霊した。


sm182:悪ノ娘 時系列順 sm183:吾敢殺汝!
sm182:悪ノ娘 投下順 sm183:吾敢殺汝!
sm172:マジックvs魔法 -I'm loving it !- 藤崎瑞希 sm183:吾敢殺汝!
sm172:マジックvs魔法 -I'm loving it !- 馬岱 sm183:吾敢殺汝!
sm172:マジックvs魔法 -I'm loving it !- 鏡音レン sm183:吾敢殺汝!
sm172:マジックvs魔法 -I'm loving it !- ドナルド・マクドナルド sm183:吾敢殺汝!
sm172:マジックvs魔法 -I'm loving it !- 桂言葉 sm183:吾敢殺汝!





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