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それでも僕は死にたくないⅢ ◆jVERyrq1dU





クラッシャーはふらつきながらも、必死になって立ち上がる。

「待ってろ……邪魔者の剣埼は絶対に殺してやるぜ……あの銀髪女もマッチョ野郎もみんなみんなぶっ殺してやる。
 みんなぶっ殺して優勝に一歩前進だぜ。リンを利用し尽くしてやる……!こんなところであの女を殺されてたまるか……!」

だが、クラッシャーの体は思うように動かない。二三歩歩いた後、べしゃりと倒れてしまった。

────こうなったら……『アレ』を使うしかない。『アレ』を使わない限りは、この苦境を挽回する術はない。

クラッシャーは精神を集中させる。彼は全世界で有名なキーボードクラッシャー。
それ故に、あらゆるところへと一方的に名が知られている。だからこそ、だからこそ身につけた必殺の技術があった。


────ある日、クラッシャーの家へ届いた謎のビデオテープ。
ドイツ国家に伝わる最強の武術が記録されたそのビデオテープを、クラッシャーは取りつかれたかのように何度も見て、研鑽を積んだ。
彼の得意技『イスラエルにトルネードスピン』も、そのビデオによって独学で会得した技だ。

そのビデオには、禁忌の技も記録されていた。無暗に使うと命を落としかねない諸刃の技。
大量の体力を消費してしまう恐ろしく危険な技だ。だがそれ故に、返って来るメリットもまた恐ろしく大きい。
この技を使えば、クラッシャーの身体能力は何倍にも跳ね上がる。剣埼やアレックスとも互角以上に渡り合う事が出来るだろう。

クラッシャーは呼吸を整え、『アレ』の発動にかかる。
彼が危険を省みず、リンと自分を救うために使うその技とは────


「運動会☆プロテインパワー……発動!!!」


▼ ▼ ▼

「リンちゃん。あの、お姉さんいつも弱音吐いてるけど……だからって心配しないで。
 見捨てたりしないからね。今回は絶対に私が守ってあげるからね」
強くリンの手を握り、駅の構内を必死に走るハク。ハクに手を取られたリンは酷く不快そうにハクの背中を睨んでいた。

よくもまあ、ここまでのぼせ上れるものだ。私は一言も助けてくれなどと言っていない。
私とカイト様の再会を邪魔してくれたこの女にますます腹が立つ。
この女はカイト様を困らせて困らせて、挙句の果てに勝手に泣いてカイト様の気を引こうとするクズだ。
絶対に許さない。カイト様の代わりに、私が殺す。

────カイト様のする事はすべて正しい。それに逆らうこいつは家畜以下。クラッシャー以下の存在よ。


「あ……あそこ!」
ハクは駅のトイレを見つける。リンの手を引っ張り、少し迷ってから男子トイレに駆け込んだ。
男子トイレを選んだのは女子トイレに隠れるよりは男子トイレに隠れた方が見つかり難いのではないか、ただそう直感しただけだ。
女性のハクとリンが駆け込むとしたら女子トイレ、追って来る男がそう思いこんでくれれば幸いだが、期待は出来ないだろう。
特に深い考えがあって男子トイレを選んだわけではない。

男子トイレの個室にリンと2人で隠れる。あえて扉は閉めなかった。
扉が閉まっているのを見られたら、誰かがそこに潜んでいる事は一目瞭然だからだ。
個室の壁に潜んでいた方がまだ見つかり難いのに違いない。

ハクは息を吐く。まだ心臓がドキドキしている。怖い。恐怖が頭の中を渦巻いている。
殺意丸出しで追いかけてくる二人の男の顔を思い出すだけで、ハクの全身はガタガタと震えた。
死にたくない。こんなところで私は死にたくない。こんな唐突に、理不尽に、訳の分からない場所で死にたくなんかない。

「リンちゃん……大丈夫。大丈夫だからね」

ハクは自分に言い聞かせるようにして、リンを抱きしめた。リンの温かい体温が、とても心強く感じる。
こんなに小さいのに、こんなに無力な少女なのに、一緒に居てくれるだけで、ただただ安心させてくれる。
リンを守ってあげる自分が、リンの存在に安堵してどうするんだろうか。情けない自分に、ハクは心の中で苦笑した。

「────あ……」

何かが、ハクの腹に突き刺さった。固い何か、銀色の刃が、ハクの腹から生えている。
何が起こったのか理解出来ない。誰が誰に何をどうしてこんな事になった?自問自答するが答えは全く出てこない。
痛い。血が溢れてくる。それと並行して、ハクの意識が薄らいでいく。

どうして私のお腹に刃物が生えているんデスカ……?

「リン……ちゃん……どうして」

目の前の光景が理解出来なかった。まだまだ幼さが残っているリンが、私の腹に刀を突き刺している。
どうしてリンがこんな事をするの?どうして……どうして? 意味が分からない────これはきっと夢なんだ。


「リン!ハクゥ!!」


腹からの出血と共に、私の命が少しずつ失われていく。そんな中、私は男子トイレに飛び込んできたカイトの声を聞いた。
おそらく追いかけて来てくれたのだろう。あの恐ろしい二人の男達よりも早くに。
良かった。心からそう思う。カイトさんがきっとなんとかしてくれる。ヘタレで、すぐ弱音を吐く私なんかじゃあリンちゃんを守る事は出来ない。
いつも引っ張りだこで、売れっ子なカイトさんならきっとなんとかしてくれる。私の負傷も治してくれる。

────死に……たくない…………

▼ ▼ ▼

「は……ハク……?」

ハクとリンが逃げ込んだ男子トイレに駆け込み、個室を覗きこんだ俺は目を疑った。
ハクが血を流して倒れている。眼は虚ろで、俺は医学なんて全く知らないけど、ハクはひどく大変そうな状態に見えた。
いったい誰がこんな事をしたんだ。ここにはリンしかいない。いったい誰が、誰がこんな事をするんだよ────

「は……ハク……おいハク!」

近くにぼうっと突っ立っていたリンを押しのけ、俺はしゃがみ込んで、苦しそうなハクの体を揺さぶった。
ハクは何事か呟いているが、小さすぎて聞き取る事が出来ない。意味が分からない。本当に意味が分からない。
さっきまであれだけ元気だったのに。いったいどうしてこんな事に?

俺はハクから手を離す。何気なく自分の手を見た。俺の両手はハクの血で真っ赤に濡れていた。

「な……なんだよこれ……なんなんだよ……いったい、いったいどうしてこんな事になるんだ……
 あ、ああああああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

頭を抱え込み、ハクの目の前で蹲る。こんな事になるならアレクと一緒にいれば良かった。
一人で先走ってリンとハクを追いかけたりなんかせずに、闘っているアレクを応援していれば良かった。
俺なんかが誰かを助けられるわけないのに!誰かの迷惑になるだけなのに!

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

発狂したように叫ぶ俺の体に誰かが手を回して抱きしめた。リンだった。
ハクの血を浴びて、リンの体は真っ赤に染まっている。

「落ち着いて下さいまし、カイト様」
「あ、ああああ……リン……リンン」
リンの温もりに、俺は少しだけ安心した。涙を流しながら血塗れのリンを必死に抱きしめる。
訳が分からない。ハクが刺されて、死にそうになって……。それでも、リンの存在は俺をこれ以上なく安心させてくれた。

「ううう……ごめんなぁ兄ちゃん何も出来なくて……ハク姉ちゃんがこんなになっちまってなあ……」
ぼろぼろと涙を流し、鼻からは醜く鼻水を流しながら、俺はリンの頭を血塗れの手で力いっぱい撫でてやった。
愚かな俺を、ヒーローには決してなれない俺を許して欲しかった。みすみすハクを死なせてしまった自分が情けなくて仕方なかった。

「気にしないで、カイト様。私は貴方の望むままに行動しますから。この女だって、私が殺してみせたのよ?
 カイト様、貴方のためを思って……貴方に尽くせるなら、私……」


このおんなだってわたしがころしてみせたのよ……このおんなだってわたしがころしてみせたのよ?

────私が殺してみせたのよ? 殺してみせたのよ!?


「い、今なんて……?」
「何度でも言いますわ。私は貴方に尽くしたいの。ずっとずっと永遠に……」
リンが俺の胸に顔を埋める。
「貴方のためになるなら……私、家畜の血を浴びる事だって耐えられる……」

嘘だろ? おい……。そんな馬鹿げた事起こってたまるか……
リンが……俺の大切な妹のリンが……ハクを殺っちまっただと?

「リ……ン…………どうして」

俺はリンを凝視した。彼女も顔をあげて、俺の目をじっと見ている。まだ幼さの残った顔だ。
普段はレンとタッグを組んで俺やミクに悪戯ばかりしてくる鬱陶しい奴だが、俺は何を血迷ったか、リンの事を可愛いと思ってしまった。
こんな可愛い奴が、俺とメイコとミクとレンとずっとずっと一緒に暮らしてきた家族のこいつが……ハクを殺したなんて、
そんなの────そんなの嘘だ。認めろっていうのか、妹が俺の友人のハクを殺した事を。

俺はリンをますます強く抱きしめた。リンもそれに応えて俺に身を任せる。

────聞かなかった事にしよう!リンは誰も殺していない!

「ああ……!カイト様!」

だけど、だけどハクはどうなる?リンに刺されて死にかけているハクは……?
それもなかった事に出来るのか?日陰者の癖に俺と妙に気があった友人のハクを、俺はなかった事に出来るのか?

全部忘れて有耶無耶にしていいのか?俺はまた逃避するのか?つらい現実からまた逃げていいのか俺は!?


男子トイレの床に何者かの足音が響く。俺ははっとして、リンから体を離した。
追いかけてきたカブトムシ風の男が、俺とリン、そして瀕死のハクに強烈な視線を注いでいる。

「そんな……間に合わなかった、のか……」

落ち込んだ声とは裏腹に、男は怒りに満ちた恐ろしい表情でリンを睨んでいた。
俺は何か恐ろしい予感がして、ごくりと唾を飲み込んだ。殺される。俺もリンもハクも全員、この男に殺される!

「何か用かしら?全くもって無粋な下僕だわね、剣埼」
驚いた事に、リンは俺とは違い、剣埼という男に対して全く怯えを見せず、堂々とした態度で言った。
「許さない……よくも、よくも……!」

「あ……あああ」
男が一歩こちらに歩み寄る。怖い怖い怖い怖い怖い……!
アレクはどうしたんだ!?あいつはヒーローじゃないのか!?何やってんだよ!勘弁してくれよ、もう。
怖くて怖くて仕方がなかったが、リンは違う。まだまだ余裕の表情を浮かべている。


「誰に対してそんな無礼な態度をとっているのかしら?私は姫よ?
 何よ、クズ一匹掃除したくらいで、どうして貴方がそれだけ怒るの?怒る権利が貴方にあると思っているの?」
挑発するリン。やめろ……それ以上挑発するな……殺される、みんなみんな殺されてしまう!

このままではリンが殺されてしまう。大切なリンが、家族のリンが……
頑張れよカイト、ヒーローなら、アレクならここで命を張って頑張るはずだぞ!?このままでは俺の目の前でリンが殺されてしまう。
きっときっと後悔する。守れよ!リンを守れよカイト!お前は兄貴だろうが!!

相変わらず全身の震えが止まらない。怖くて怖くて、逃げ出したくて仕方がない。
だけど逃げたらリンがなすすべなく死んでしまう。だけど、だけど怖いんだよ畜生!!
俺に、俺にアレクのような力があったら……俺がヘタレじゃなくヒーローだったなら……!!


俺の体に何かが触れる。驚いた事にそれはハクの手だった。必死に俺に手を伸ばし、一瞬だけ触れて、そしてまた倒れた。
俺の目をじっと見ていた。ハクが俺に伝えたい事、何故かハクの一連の動作だけで俺に伝わった。
奇跡か?偶然か? 違う。ハクの執念だ。執念が俺にメッセージを伝えてきた。

『リンを守れ』と────

「リ、リン、やめろ……やめてくれ」
俺はガタガタ震えながら剣埼の前に立ちふさがるリンを引きよせる。相変わらず怖くて怖くて仕方がない。
だけど死にかけているハクにあんな事言われたらやるしかねえだろうが……!

「そんな……まさか、貴方も悪人なんですか?」
剣埼が驚いた眼で俺を見てくる。違う!何を勘違いしてやがる……
俺は悪党じゃねえ! リンは……リンは悪党……違う!!
「ど、どの口がそうほざくんだ? 悪党はお前だろうが」
「ち、違う!みんな誤解しているだけだ!」

「黙れぇ……!」
全身が恐怖で凍りつきそうだ。今にも足が萎えてその場に座り込んでしまいそうだ。
くそう……帰りたい……!畜生!俺の人生どこから狂ってこうなったんだ……!畜生、家に帰りてえよこのクソ野郎が!!
ああ畜生!!またファンの前で歌を歌いたいんだよコラ!!

「ハァ……!ハァ……!!俺は最強だ……!お前なんかよりずっと強い……!お前なんか殺すのに一分もかからねえぞ!
 さっさと逃げろ!!見逃してやるからさっさと逃げやがれこの雑魚野郎が!!」
弱い犬はよく吠えるとは真実であったらしい。俺の恐怖が極限まで達した時、剣埼に対してとれた攻撃は、ただ吠える事のみだった。

「俺はこの世で一番強い男だ!!」
リンの前で涙を流しながら、鼻水を垂らしながら、汗を滝のように流しながら、ひどい顔で吠える。
「アレクよりもお前よりもずっとずっと強いんだぞ!?」
リンが怪訝そうな顔で俺を見ているのが目にとまった。そうだよな、失望するよなこんな俺。
「笑いながら人だって殺せるんだ!お前は世界一危険な男を前にしているんだぞ!」
恐怖による震えで立っているのが辛い。早く逃げたい……!

「見逃してやるからさっさと逃げろやコラ!!!」

俺が言い終わった刹那、剣埼の体が超高速で運動する。拳が、俺とリンに向かって疾走してくる。
嫌だ死ぬ────間違いなく死ぬ!!!!!!死んだら終わりだ!!!終わっちまう!!!


────し、ししししししし死にたくねえぇぇーーーーーーーーーーッッ!!!


▼ ▼ ▼



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sm135:それでも僕は死にたくないⅡ 剣崎一真 sm135:それでも僕は死にたくないⅣ
sm135:それでも僕は死にたくないⅡ 弱音ハク sm135:それでも僕は死にたくないⅣ
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sm135:それでも僕は死にたくないⅡ アレックス sm135:それでも僕は死にたくないⅣ






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