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それでも僕は死にたくないⅠ ◆jVERyrq1dU





「死にたくねえ!」

悪魔のような少女を目にし、恐怖に取りつかれ全力疾走し、そして胸を衝いて出た言葉がこれである。
こんな土壇場になってまたもこの台詞が出てきたのだから笑える。もはや俺にとってこの台詞は口癖のようなものだ。
代名詞といってもいいかもしれない。無論、カッコ悪いこと極まりない代名詞だけれど……
だが死を恐怖する事の何が悪いんだろうか。死とはつまり、終わりだ。俺が俺でなくなるという事だ。
俺が俺の存在を守る事に執着する事の何が間違っている?自分の命は他人の命よりも優先されるべきだろ?
だから正当防衛っていう言葉があるんだ。どれだけカッコ悪く見えようとも、情けなく見えようとも、俺の行動は全て”正当”な”防衛”だ。

妙に冷静な脳内に反して、彼の表情はいつものように恐怖に染まっている。
恐怖に目を滲ませ、無我夢中で駆ける事数分。漸く気持ちが落ち着き始める。

相変わらずデパートにいるであろう少女の存在が恐ろしいが、走り続けてさすがに息が切れてきた。
俺は一度後ろを見渡し、誰もいない事を確認すると、大きく息を吐いて走りから歩きに切り替える。

「怖かった……」

俺は一人ぽつりと呟いた。まるでこの世の害悪全てを具現化したかのような禍々しい女。
あんな女や、かつて出会った恐ろしい外国人の少年が跋扈するこの殺し合いを、俺が勝ちぬく事ははたして可能だろうか。
俺は自問自答したが相変わらず答えは出ない。常識的に考えて俺が生き残る確率は万に一つもなさそうだが……それは認めたくない。
死にたくない。俺はこれからもずっと生き残れる。根拠なんてないが、ただそう信じていたい。

ふと気付くと、前の方に二人の男女の背中が見えた。自分と同じ方向に歩いている。
またも危険人物か、と一瞬身構えたがすぐに気付いた。あれはハクとアレクだ。
ほっと安堵し、二人に向けて駆けだそうとしたその時だ。俺は何か恥ずかしいものを感じ、足を止めた。

俺ではなくミク、リン、レンを守ってくれ、そのために別行動をしよう、と大見栄切って言ったのは誰であったか。
この殺し合いで初めて発揮する事が出来た勇気。俺はなけなしの勇気を振り絞ってアレク達に、自分ではなくミク達を助けてやってくれ、と頼んだのだ。
そう言ったすぐ後に涙目でアレク達を追いかける事になるなんて……
このままアレク達に情けなく助けを求めてしまえば折角俺が振り絞った勇気が無駄になってしまう。
それどころか、かなり情けない。厚顔無恥とはこの事ではないか?

「カッコ悪いにも……程があるぞ」

俺はぽつりと呟き、歩くスピードを落とす。アレク達に助けを求めるのはカッコ悪い……
だけど怖いから、死にたくないからやっぱりアレク達と共に行動したい。
矛盾した気持ちが俺の心を錯綜し、そして俺が選んだ最良の行動とは……このまま何もしない事だった。


それから数分後、何かの気配を感じて後ろを振り向いたアレクに俺は発見される。
努力して演技した甲斐あって、俺はアレクに怯えている事を悟られなかった。
涙を拭い、平静を装い、何でもない様子で俺は二人を追いかけ、そこを二人に見つけて貰った。

俺が来てくれた事を二人は素直に喜んでくれた。俺は平静を装う事を忘れず、
なるべく淡々とした口調で二人が去った後デパートで起きた事を話した。
恐ろしい女がやって来て、逃げるしかなかったという事を、脚色を交えて話す。

「それは仕方ないな」
「ああ……ついさっき別々に行動しようと言ったのにな……」
俺はなるべく悲しそうに話した。こんな風な態度で、こんな台詞を吐けば、きっと二人は俺を見損なう事はない。
俺は二人に助けを求めるために、”守って貰うために”来たのではない。恐ろしい危険人物の襲撃を受け、仕方がないから駅の方へ来たのだ。
同じようなものだろ、と思うかもしれないがそれは違う。断じて違う。

守って貰うために二人を追いかけたのなら、俺がデパートで二人に見せた勇気(俺ではなくミク達を守ってやってくれ)は嘘になってしまう。
ちょっと危険に陥って、ミク達を守るはずのアレクに助けを求めるなんて、カッコ悪過ぎるだろう?きっと二人に呆れられてしまうだろう。
だが、助けを求めてきたのではなく、仕方がないからという事にすれば、きっと二人に呆れられる事はないだろう。
俺の見せた勇気は確かなものであったと判断され、俺は嘘つきではなくなる。

自分の命よりも弟や妹達の命を優先するカッコイイ兄貴。
俺の演技と台詞によって、アレクとハクはもしかしたら──本当に万が一の話だ──俺の事をそう思ってくれるかもしれない。


「仕方ないですよ。私だってそんな場面になれば逃げます……」
お前の場合は確かにそうだろう。今は気丈に振る舞えているハクだって、土壇場になればきっといつもの気性が出るに違いない。
「だが、俺はまたアレクの厄介者になってしまう。ミク達を守って欲しいのに……俺なんか助ける価値ねえのに」
「カイトさん……そんな事ありませんよ……」
ハクは微笑みながら俺の肩をぽんぽんと叩いた。

「……お前に、自分の命よりも大切なものがあるとはな」
アレクもまた笑みを浮かべて、俺に言った。少しだけ俺を見直してくれたようだ。
「それは……当たり前だろ。醜態をさらしてまで自分の命に縋るなんて……俺だってそんなの嫌だよ」


それからしばらくの間、三人で談笑しながら歩いた。演技と、言葉を選んだ甲斐あって、なんとか俺のプライドは保たれた。
それどころか、アレクとハクは俺の事を見直している節さえある。俺だってやれば出来るもんだ。
……本当はただの臆病者のヘタレ。ここまでやってきた理由もただ助けを求めて無我夢中で追いかけてきただけ。

アレクとハクは俺の事を見直している。だけど、もし俺の心情を完璧に理解している奴がいるなら、
きっとそいつは俺の事を今まで以上に情けない奴だ、と思うんだろうな。俺のやってる事は全て保身のため。
演技したのも全て自分のプライドを保つため。アレクとハクにこれ以上情けない奴だと思われたくなかったからだ。


『俺の事はいい。ミク、リン、レンを守ってやってくれ』
俺がこんなカッコイイ台詞を本心から言えると思うかい?
日常なら、ゲームならともかく……こんな本物の殺し合いの中で……。
ただの保身と怯え、それとプライドを保つために吐いた言葉だ。精神的な意味で、俺はこれ以上惨めになりたくない。


「カイトさん、怖いですけど……自分を信じて頑張っていきましょう。
 探していればきっといつかミク達にも会えるはずですよ」
ハクが決意に満ちた目を向け、俺に言った。さっきから嫌にハクが俺に絡んでくる。
多分、俺がやって来てくれた事を喜んでいるのだろう。だからこれだけ俺に話しかけてくる。

「ハク、なんか変わったよな……」
「そうですかね……?まあ、私が変わったのだとしたら、それは全てアレクさんのおかげだと思います」
ハクはにっこりとアレクに微笑みかける。アレクは照れくさそうにしている。
そんな二人を、俺は恨めしそうに見た。


そして、ハクが俺に妙に絡んでくる理由で、考えられるのがもう一つ。
ヘタレなハクは俺に仲間意識を感じているのだろう。ヘタレなカイトもきっと頑張れば私のように立派になれるはずだ。
立派になった私がカイトを成長させてあげなければ……! とかなんとか思っているのだろう。
こいつはきっと自分の成長を俺に自慢したいのに違いない。俺がヘタレている横で立派な事をしてアレクに褒められて、
俺を見下し優越感に浸っているのだ。

俺は正直ハクに嫉妬していた。俺と同じく臆病者な癖に、いつの間にやら俺の知らない所で立派になりやがったこいつがむかつく。
年下の癖に俺の事を心配し、気を使ってくるこいつの余裕ある態度に腹が立つ。
ヘタレな俺と立派になった自分とを比べて、優越感に浸るハクがウザくて仕方がない。

「カイトさんが来てくれて嬉しいです」
ハクは笑顔でそう言った。俺は適当に相槌を返す。


うぜえ。お前の本心はこうだろう。
『自分よりもみっともないカイトさんが来てくれて、優越感に浸る事が出来て嬉しいです』


まあ、いずれ化けの皮がはがれるだろう。人間はそう簡単に変われるものじゃない。
アレクのような奴は少数しかいないからこそ、凄いのだ。人間はそう簡単に立派になれない。
俺やお前がアレクのようなヒーローになんてなれるわけがないだろう?

────ハク、お前はこちら側の人間だよな?アレクとは違う、俺と同じタイプの人間だよな?


「そろそろ駅だな。急ごう。電車に遅れたら大変だ」
アレクが急かす。
「ミク達……生きているといいですね」

うるせえ馬鹿。そんな殊勝な事なんて言わなくていい。自分の命だけ心配してろ。
お前だけそんなに立派になったら、ますます俺がみじめじゃないか。

▼ ▼ ▼

「チョチョチョットハウャァスギジャニイディスクァ?」
「いいえ。早すぎる事なんてないわ。あのバカにも運動させてあげないと」
剣埼は疾走するロードローラーの助手席から身を乗り出し、後方へ視線を向ける。


「ちょ!!!ちょ!!!リィィィィィン!!!
 はええんだよこのバカ!!!!アホか!!!!ぶっ殺すぞゴルァアアアアアアアアアアアア!!!!!」

軽快に走るロードローラーの後ろを全力疾走で追いかけてくるキーボードクラッシャー。
駄目だ。あいつは可愛いけど性格最悪だ畜生!!心中でリンを罵るが決して口には出さない。
時折、ロードローラーの助手席に乗った剣埼が振り向き、クラッシャーの事を心配そうに見てくる。
そしてリンに何事かを言うが、剣埼に何かを言われてリンが後ろを振り向いた事は一度もない。


いい加減にイライラしてきた。なんで俺があいつにこうもこき使われて、あいつにあそこまで偉そうにされなければならないのだろうか。
ちょっと可愛いからって調子に乗りすぎだ。外見に騙されて今までなんだかんだで従順に従って来てやったのはどう考えても間違いだ。
そもそもあれくらいの可愛さがなんだ。俺は世界のキーボードクラッシャー様だぞ!?
あんな小娘一人に飼いならせるほど俺は甘くねぇ!!絶対にいつか復讐して(ry

「タピオカッッッッッッ!!!!!!」

突然ロードローラーが急停車し、クラッシャーは全力で衝突する。
鼻血を流して少しの間ふらふらとした挙句、べしゃりと地面に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫ディスカ!クラッシャー君」
すぐに剣埼がロードローラーから降りてクラッシャーを案じる。
警戒しているとはいえ、ここまで疲弊した少年を放置しておけるほど剣埼は非常になれなかった。
だがクラッシャーは鼻血を流しながらであるがすぐに立ち上がり、リンに向かって吠える。

「てめえいい加減にしろゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
 死ぬかと思ったわバァアアアアアアアアアロォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「…………」
リンは何も言わず、クラッシャーに視線すら向けず、ゆっくりとロードローラーから降りている。
「お前可愛いからって調子に乗るんじゃねえぞこの鬼畜があッッ!!!」
「…………」
「お前……!!!お前なあッッ!!許さんぞお前なあッッッ!!!」
「…………」
「あの………その……お前いい加減にしろ!!!!!!」

「剣埼、駅の様子を見てきなさい」
「あ……うん。いいけどクラッシャー君はどうする気ディスか?」
「クラッシャー? どうもしないわ」
すました顔でリンはそう言った。

駅の様子を見る事は安全確認のため必須なので、剣埼は釈然としないまま駅の入口へと向かう。
クラッシャーは地面に膝と両手をつけ、orzのポーズをとり落胆していた。
さすがにクラッシャーが可哀想だ。つい先ほどクラッシャーに襲われた剣埼さえそう思うほど、今のクラッシャーは見ていて痛々しい。

「てめえ……さすがの俺でも怒りが三倍アイスクリームだぜ」
剣埼が駅の様子を見に行った後、クラッシャーはリンを睨んで言った。
「貴方は私の奴隷なの。協力さえすれば互いの態度なんてどうでもいいはずでしょ?
 私を利用して生き残りたいなら我慢しなさい」
「なんて高慢な女だ。さすがの俺もストレスで寿命がソーセージだけ……」
クラッシャーの言葉を聞いて呆れたように溜息をつくリン。

「貴方、いちいち妙な言葉使いをするけど、それって全然面白くないわ」
「…………なんだと!?」
さすがに今の台詞には本気でカチンとくる。クラッシャーの台詞は日本で大人気なのに。
「もっと紳士的で……上品な言葉使い……あの人のような。貴方には一生かかっても無理だから諦めなさい」
「ああん!?」

リンが度々口にする”あの人”。クラッシャーから逃げたあの青マフラーの男だ。
リンはあの男の事をどうにも心酔しているようだが、どこか違和感を感じる。
高貴で美しい、まさにお姫様のようなリンが何故、情けないという言葉を具現化したかのようなあの男にここまで入れ込むのだろうか。
クラッシャーには全く理解出来ない。……もしかして青マフラーの男の良さを理解出来るような素養を持っていないから、
クラッシャーはここまで嫌われているのだろうか。

いや、それは関係ないか?ただ単に俺があまりにもそこらへんにいる庶民だから嫌われているんだろうな。
クラッシャーは考える。リンみたいな高貴なお姫様に釣り合うのは高貴な王子様だけだ。

「偉そうにしやがって畜生!お前と協力するメリットがなくなったら速攻でトルネードスピンするからな」
リンは何も言葉を返さなかった。何か話題を探そうと、クラッシャーがしどろもどろしていると、剣埼がやってきた。
相変わらず嫌な奴だ、クラッシャーは剣埼を睨む。


「リンシャン、クラッシャー君。駅には誰もいませんよ」

意気揚揚と探索から帰ってきた剣埼が言う。クラッシャーは明らかに剣埼に聞こえるであろう音量で、舌打ちした。
タイミングが悪い。この鬱陶しい奴め。剣埼は何が何だか分からないようで、混乱している。

「ただ、もうすぐスィタラ、ディンシャがやってくるようなんディス。もしかしたらそこに誰か知り合いが乗っているかもしれません」
「なら、とりあえず駅のホームでその電車を待とうかしら」
「そうディスね。そうしましょう」



「電車が来るまであと何分かしら……」
「あと10分くらいディスね」
電車に危険人物が乗っているかもしれないという事を考慮し、適当な所に隠れ、電車を待つ。
ここに隠れていれば、電車に乗っている人物を先に確認できるだろう。
知り合いなら接触を図り、明らかに危険人物である場合は剣埼に戦って貰えばいい。

駅の前に止めてあるロードローラーがどうしても目立っている。
電車に乗っている何者かはあのロードローラーを見て何かしらの警戒をするかもしれない。
もし危険人物である場合、警戒状態に入られるのは苦しいものがあるが、
ロードローラーを隠せる場所など特にないので仕方がないと言えば仕方がないだろう。

リンはロードローラーから奴隷二人へと視点を移す。

それに、例え戦闘になったとしても、剣埼とクラッシャーがいる。
いざとなれば奴隷二人に戦わせておいて、自分はとんずらすればいい。クラッシャーと剣埼はそれなりに戦える。
相手がだれであろうと時間稼ぎくらいは出来るだろう。姫である自分が逃亡するのは癪なので、あくまで最終手段。最後の保険だ。

いや、クラッシャーとは早く別れられるなら、逃亡の恥も我慢できるかもしれない。
クラッシャーよりも剣埼の方が強いのは先ほどの戦いで証明された。自分に必要なのは強い奴隷。
クラッシャーのような軟弱で、五月蠅くて、下品な従者など必要ない。
ずっとずっと別れたいと思って来た。もし電車に危険人物が乗っていて、戦闘になるのならば、丁度いい機会だ。


クラッシャーに時間稼ぎを命じて、剣埼と二人で逃げてしまおう。いい加減クラッシャーの喚きに耐えるのも限界だ。
おまけになんだか知らないがクラッシャーの視線が少しずつ気持ち悪く感じてきた。
最初に会った頃もたいがいではあったが、クラッシャーの視線から感じられる一種の気持ち悪さのようなものが、
少しずつ増幅されているような……そんな気がする。

「リンの知り合いはカイトって奴だけなのか?」

クラッシャーが沈黙を切り開き、私に質問して来た。知りあいはあの人だけではない。
他にも何人かいる。だがクラッシャーにそれを教える義理などどこにもない。
私はいつものように言葉を返さなかった。私が無視したのを見て、クラッシャーはいつものように少し悲しげな表情をした。

そうやって悲しそうにしていればいつか話しかけてくれると思っているのかしら。
だとしたらそれは大きな間違い。私は粗暴な貴方が大嫌いだし、そもそも身分が違い過ぎる。
どうして貴方の機嫌を直すために、私があれこれしないといけないのかしら?
クラッシャーには身分の差を弁えてほしい。必要な事を伝える以外、私に話しかけないで欲しい。切に願う。

私はすぐ傍にいる二人の奴隷の顔をちらりと見た。本当に下品な人たち。いや、こいつらは人ですらない。
二人の全身から滲み出る醜さと卑しさは家畜にも劣る。本当にどうしようもなく低俗で哀れな存在。
そんな存在と行動を共にしているのだから、泣けてくる。

こう言う事を考えるといつもあの人の顔が頭に浮かぶ。青いマフラーを纏った、素敵な素敵な王子様。
品があって優しくて、紳士的で勇気があって……私の大切な大切な人。あの人と結ばれるなら何を犠牲にしてもいいくらいに……私はあの人が好きだ。
早くあの人に会いたい。電車に乗ってやってくるのがあの人ならばどれだけいいだろう。どれだけ幸せだろう。
もしあの人に今すぐ会えたなら、今までクラッシャーや剣埼から与えられたストレスも全て吹き飛ぶ。

ああ────早く会いたい。KAITO様……


「────来たぜ」
クラッシャーの押し殺した声が聞こえ、私は頭を切り替える。電車がやってきた。
駅に電車の到着を告げるアナウンスが流れる。私達は壁に隠れ、電車の様子を慎重に覗き見る。
私のいる位置からはよく見えない。

「クラッシャー、剣埼。誰か見える?」
忌々しいが、奴隷二人に声をかける。
「マッチョな奴が一人見えた」
「銀髪ポニーテールの女の子……あと、青いマフラーの男が」
「なんですって!!」
剣埼が言い終わる前に、私は身を見開き、半ば叫ぶように言った。
体を動かし、剣埼の体を押しのけ、壁の影から慎重に顔を出して電車の様子を覗いた。

────いた。確かにいた。

「あいつ……まだ生きてたのか。良かったじゃんリン」
クラッシャーもまた私のすぐ横から電車を覗き言った。

愛しい私の王子様は、筋肉質の男と銀髪の女の後ろに隠れ、慎重に電車を降りてきた。
あの人の顔を見た途端、私の胸は一気に弾んだ。心臓の鼓動がどんどん加速しているのが分かる。
すぐ目の前にあの人がいる。カイト様がいる。殺し合いのにいきなり強制参加させられて、ずっとずっと不安だった。
死んでしまわないかどうか……もう一生会えないんじゃないかと……怖くて怖くて仕方がなかった。

「良かった……本当に良かった……」

安心したせいか、足に力が入らなくなり、私はぺたりとその場に座り込む。
クラッシャーが「ちょwwwww見つかるwwwww」とか言って慌てているがそんな事どうでもいい。
今はただあの人に会えた事が、心の底から嬉しいと思う。



「そんな事……考えていません!!」



その時、銀髪の女の叫び声が駅に響いた。カイト様が叫び怒り狂う女に対して何事かを冷静に言った。
近くに居る筋肉質の男が話に割り込もうとするのを、カイト様が止める。
カイト様は女に向かって話し続ける。怒っているように見える。女に対して酷く怒っている。

女が涙ながらにカイト様に何事かを訴える。冷静なカイト様は、鬱陶しい女の言葉にもなんら怯みもせず、淡々と話している。


あの女はいったい……カイト様とはどういう関係なの……?


▼ ▼ ▼



「そんな事……考えていません!!」



「嘘つけよ。お前がそんなにはしゃいでいるのは、俺の事を自分よりもヘタレだと、蔑んでいるからだ。
 気持ちは分かるぜ?アレクはこれ以上なく立派な人間だ。殺し合いにも動じない勇気の持ち主だし、何より強い。
 そんな完璧超人と二人で居ると、劣等感で辛くて辛くて仕方がないもんな。分かるよ。
 だからお前は自分よりも下等な俺がのこのこと着いて来てくれて嬉しいんだ。だからさっきからテンションが高いし、俺によく絡んでくる。
 アレクよりも自分よりも情けない奴の存在を何度も何度も確認して、それで心の中で優越感に浸っているんだろうが」
俺は一息に言った。ハクと俺の口論は、電車から降りようとした時の、俺の一言から始まった。

電車から一番に降りるアレク、そしてこの俺を守るようにして2番目に電車を降りたハク。
俺はそんなハクが無性にイラつき、言った。『調子に乗るな』……と。
ハクは意味が分からないようにきょとんとし、『どういう意味ですか?』と俺に質問して来た。
そこで俺は、ハクに対して俺が抱えている不満をぶちまけてやった。
『俺を見下して優越感に浸るんじゃねぇ。お前は立派になったんじゃなく、アレクの威を借りているだけだ。
 虎の威を借る狐なんだよお前は。そんなお前が、俺よりも上の人間だなんて勘違いしやがって……調子に乗るな』


「だいたいお前はいつも情けない奴だった。音痴で、すぐ落ち込んで酒を浴びるように飲んでは現実逃避する毎日。
 たまに貰える仕事も、いつもステージの上で慌てて何も出来ずに終わり、台無しにしてしまう。客からはツマンネと罵倒され続け……
 誰よりも情けない歌手だったお前が……調子に乗ってんじゃねえ……! 確かに俺は普通の人間よりも臆病者だよ。
 だがな。お前よりも『下』になったつもりは一切ねえ……!!俺を嘗めるなよ……!」
「カイト……お前どういうつもりだ?」
アレクが俺とハクの間に割って入る。

「アレクは引っ込んでろよ。これは俺とハク、臆病者通しの話だ。お前には百年経っても理解出来っこない。
 お前のような強い奴と一緒に行動していて、自分まで立派になったと勘違いしているハクに気付かせてやるんだ。
 ハクは俺よりもずっとずっと情けないヘタレだって事を思い出させてやる。ヘタレの癖に俺の事を馬鹿にしやがって……!」

なんだか俺も泣きそうだ。俺の言葉によってハクの目は滲んできている。
ハクは確かにむかつくが、別に心底憎んでいるわけではない。むしろ好きだ。
気の合ういい友人だった。だけど、そんな友人にこんな言葉を浴びせるしか、俺の自尊心を保つ術はない。
俺の心に残った最後の自尊心は、ハクを貶める事によって保たれる。ハクをヒーローから俺のような雑魚へと貶める事によって、俺は救われる。

だから────だからごめんよハク……許してくれ。


「私……嘗めてなんかいません……蔑んでなんかいません!」
「嘘つけよ。お前だけは俺と同類だろ?アレクと一緒にいて成長した気になっているだけだ」
「違います。私は友達のカイトさんと一緒に行動が出来て、素直に嬉しいだけで……」
とうとうハクの目から大粒の涙があふれ出す。


「『友達と一緒に行動出来てただ純粋に嬉しい』……か。立派なもんだ。こんな時でもアレクへのアピールを忘れないんだな。
 私はカイトよりも立派な人間です。だから私を見捨てないでください、ってか?」


突然、俺の頬に強烈な痛みが走った。あまりの痛みに俺は両足に力が入らなくなり、ぺたりと倒れ込んだ。
揺れる視界の中、俺は憤怒の表情のアレクを見た。どうやらアレクに頬を平手打ちされたらしい。
死ぬほど痛い。痛くて痛くて涙まで出てきた。

「アレクの前で話したのは……間違いだったかな……いてえ……」
「それ以上口を開くな!」
アレクは泣いて蹲っているハクの元に駆け寄り、抱き締めた。
ハクはアレクに、マスターに抱えられた安心感からか、今まで以上に激しく泣き始めた。

「カイト、どういうつもりだ」
アレクはハクを慰めながら、俺にもう一度問うてきた。
「どういうつもりかは、さっき言っただろ?」
「ただの嫉妬でハクを泣かせたのか!」

違う。それは違う。ただの嫉妬なんかじゃ断じてあり得ない。やはりアレクのようなヒーローには俺の気持ちなんて理解出来ない。
俺は自分の存在を保つためにハクに色々と言ったのだ。何にも出来ない、臆病者でヘタレで卑怯な俺がこの世に存在するためには、
自分以下、もしくは自分と同じレベルの存在が必要なんだ。集団行動をして初めて分かった。
このままでは、精神的な意味でも俺は死んでしまう。情けないハクに調子に乗られたままでは……

「ただの嫉妬なんかじゃないんだアレク……」

自分よりも下の人間がいなければ安心すら出来ない愚かで情けない自分。友達のハクにあそこまで辛辣な言葉を浴びせざるを得なかった自分の弱さ。
普段ならトラブルにもならず、流せるような事でも、この殺し合いにおいては違う。
少しでも安心したいから、俺はハクに言ってしまった。

自分の弱さが身にしみて、情けなくて情けなくて、俺はハクと同じように泣いた。

「ヒーローには分からねえよ……この気持ち……」

▼ ▼ ▼



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sm112:onemorechance 剣崎一真 sm135:それでも僕は死にたくないⅡ
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