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色鮮やかに虹色な従者(前編) ◆0RbUzIT0To




朝日差し込む平原の中。
一組の男(?)女が互いのデイパックから地図と名簿を取り出し、それを見て苦々しげな顔を浮かべている。
男(?)の名前はメタナイト、女の名前は紅美鈴。
この殺し合いの舞台に連れてこられて最初に出会い行動を共にしていた二人は、
映画館の屋上から見えた南の人影を追う途中早朝の放送を聞いて今後の方針を決めようとしていた。
放送で聞かされた死亡者情報の中に、自分達の知り合いはいなかったし。
禁止エリアも今自分達がいるエリアとは離れた場所を指定されていたのだが……。

「あぁぁぁ、どうしよう」

頭を抱えながら名簿を見つめ、嘆く美鈴。
先ほどの放送が流れた時よりこの殺し合いに参加している参加者の名が浮かんだそれには、
自身の想像通り、自身の知り合いの名が記されている。
ある程度は予想のしていた事である為、知り合いがいる事に関しては美鈴もそれほど驚いてはいない。
ならば何故嘆いているのかというと、この参加者を見てより一層自身がどう行動をすべきかわからなくなったからである。
名簿に記されている知り合いは五人、その中で美鈴がよく知っている人物は三人いる。

一人目はチルノ……紅魔館の近くにある湖に生息する氷の妖精である。
紅魔館の外で門番をしている美鈴は、チルノが友人達と遊んでいる光景を目にする機会が多い。
何回か話をした事もあるし、仕事の合間に少しだけ遊んであげた事もある為、友人と言っていいのかもしれない。

二人目は十六夜咲夜……美鈴と同じく紅魔館で働くメイド長である。
門番とメイドという役職の違う二人ではあるが、それでも関わりあう機会は多い。
当然話だって何度もした事があり、彼女の人となりはレミリア程ではないかもしれないが美鈴もよく知っていた。

三人目はフランドール・スカーレット……美鈴が仕えるレミリア・スカーレットの実妹である。
少々気が触れている彼女はいつもは紅魔館の地下室に閉じ込められており、顔を合わせる事は少ない。
しかし、時折地下室を抜け出し紅魔館を飛び出そうとする時はレミリアや咲夜と混じって美鈴もフランドールを止めようとする為。
彼女の危険性や不気味さを美鈴はよく知っていた。

自分がよく知る人物はこの三人……この三人だからこそ、美鈴は悩んでいる。
仮にこの場にレミリアがいたとするならば、美鈴は真っ先に彼女の指示を仰いでいただろう。
そして、彼女の身を守る為に他の参加者を殺害し――レミリアを優勝させようと動いていたに違いない。
レミリアは美鈴の主人なのだから、彼女の為に動こうとするのは当然である。
だが、ここにはその主人がいない――ここにいるのは、主人の片腕と主人の妹の二人だ。

十六夜咲夜は人間でありながらもレミリアの従者として紅魔館を切り盛りし、妖精メイド達を纏めている。
当然ながら紅魔館内での権限も相応にあるのだが……かといって、美鈴が彼女より立場が下なのかと言えばそれは違う。
美鈴は門番であり、咲夜はメイド長――役職がまるで違うのだ。
咲夜が指揮を執るのはあくまで妖精メイド達であり、美鈴はその中に入ってはいない。
レミリアからの命令を咲夜から伝えられたならばそれも聞くが、咲夜自身の命令を聞く道理は無いのだ。

では、当主レミリアの実妹であるフランドールはどうだろうか。
当主の身内である彼女の命令ならば、ただの門番である美鈴は立場的に無碍には出来ない。
しかし、だからといってフランドールの命令を馬鹿正直に聞くという事も、美鈴には出来ないのだ。
紅魔館にいた時も、フランドールの我侭などは大抵レミリアに伺いを立ててから叶えるという形式を取っていた。
気が触れている少女の頼みなど、そうホイホイ聞いていいはずがないのだから当然といえば当然。
故に、この場においてもフランドールの命令を素直に聞くという選択肢は美鈴の中には無かった。

「何で私や咲夜さんや妹様がいて、肝心のお嬢様がいないんですかぁ~」

この場に連れて来られている自身の知り合いは全部で五人、その内二人は紅魔館に関係する者。
自身を含めて考えるなら、六人中三人が紅魔館の者なのだ。
ならばレミリアがいてもおかしくないというのに、名簿にはその名は記されていない。
レミリアがいれば、美鈴が取るべき選択も容易に決まったというのに……。

「……主君が連れてこられなかった方がよかったのではないか?
 少なくとも、この場で主君が殺されるという心配の種は取り除けた」
「それはそうですけどね……」

それまで黙っていたメタナイトが口を開くと、美鈴は小さく頷き肯定する。
レミリアの安全を思えば、確かに連れてこられなかった方が遥かにいい。
そして、美鈴が誰かを優勝させる為に他の参加者を排除する――。
つまり、殺し合いに乗るという選択肢もレミリアがこの場にいない事により取り除かれた。

「本来ならばそれは喜ぶべき事のはずだ。
 それとも、お前は主君にこの殺し合いに参加して欲しかったのか?
 主君の為に、他の者達を殺して回りたかったのか?」
「それは無いですけど……」
「ならば何も悩む事は無いはずだ。
 私たちの取る方針も、変わる事は無い」

レミリアがいない為、紅美鈴が方針を変える必要も無い。
誰かの為に参加者を殺して回る必要が無いのだから当然だ。
今後も今まで通り己の身内を襲いそうな、この殺し合いに乗っている危険な人物を倒して回る。
それが現在、彼女に出来る最善の一手だとは思うのだが……。

「……身内自体が、殺し合いに乗ってしまっていそうなんですよね」

メタナイトに聴こえぬ程、小さな声でそう呟く美鈴。

十六夜咲夜は好戦的という訳ではないが、己の障害になりそうな者がいれば排除をするだろう。
レミリアが飲む人間の血を確保する仕事も受け持つ彼女だ、人殺しに抵抗は無い。

チルノは殺し合いをするような性格をしていないが、喧嘩っ早くて好戦的である。
本人にその気はなくとも、実質的に誰かを襲い困らせている可能性は高い。
……というか、彼女はこの状況を正確に認識しているのだろうか?
……殺し合いに乗る乗らないよりもむしろそっちの方が心配だ。

射命丸文と因幡てゐについてはよくわからないが、彼女達についてはあまりいい噂を聞かない。
ある事ない事を書き連ねる幻想郷最速の新聞屋に、三度の飯より嘘が好きという詐欺兎。
殺し合いの舞台に放り込まれた彼女達が、自分と同じように誰か身内の為に戦う姿を美鈴は想像が出来なかった。
それに美鈴の知る限りでは、二人が親しいような人物は連れてこられていない。
仮に二人の性格が噂に聞くほど酷くなかったとしても、彼女達が守るような身内の存在がいないのだ。
十中八九、殺し合いに乗っているだろう――少なくとも、素直に主催者達に喧嘩を売るとは思えない。

そして、何よりフランドールの存在である。
何かを壊す事しか出来ない彼女は、どう考えても殺し合いに乗ってしまっているはずだ。
いや、正確に言えばそれは殺し合いというよりも"壊し合い"なのだろうが……ともかく。
彼女がこんな場所に連れてこられて、じっとしている姿を考えられない。

美鈴にとってこの場における身内とは、十六夜咲夜とフランドール・スカーレットの二人である。
先ほどは彼女達の命令は聞かないと言ったが、それでも彼女達が美鈴にとって大切な存在である事は変わらない。
命令を聞かないというのは、あくまでも彼女達が美鈴の主君ではないという理由から。
レミリアがいない現状、美鈴にとっては咲夜とフランドールがこの場における一番の守るべき存在だ。

だからこそ、美鈴は悩む。
咲夜とフランドールは、両方大切な存在――しかし、この殺し合いで生き残れるのはルール上たった一人だけ。
メタナイトと美鈴はこのルールに反逆する為に同志を集めてはいるが、その目処は全く立っていない。
このまま行けば参加者は減り続け、殺し合いを止めるという事も出来なくなってしまうだろう。
その時、美鈴はどう動けばいいのだろうか。 誰の為に動けばいいのだろうか。

生き残れるのは、たった一人。

咲夜を勝ち残らせるべきなのか――フランドールを勝ち残らせるべきなのか……。
それとも、自分自身が優勝をして紅魔館に戻るべきなのか。
このまま美鈴とメタナイトが殺し合いに乗っている参加者を排除して回った際、必ず相対するであろう咲夜達。
彼女達と出会った時、美鈴は戦うべきなのだろうか。
誰を守る為に?

「行くぞ、美鈴」

俯き、うんうん唸っていた美鈴にメタナイトはただ一言静かに告げる。
このまま延々と考えに浸らせる訳にはいかない。

「下手な考え休むに似たり。 考えても結論の出ないのなら、一旦中断しろ。
 それよりも先に、私たちにはすべき事があるはずだ」
「……はい」

二人は今、南西に見えた人影に接触する為に移動していた最中だった。
放送が流れた為に一時的にそれを止め、名簿の確認と禁止区域の確認を行ったのだが、
これ以上ここで時間を無駄にしていてはその人影がメタナイト達が接触する前に移動してしまう可能性が高い。

メタナイトの言いたい事がわかったのか、美鈴は渋々といった様子で返事をすると立ち上がり、
メタナイトと共に再び南西へ向けて歩みを進める。
その最中、美鈴は折角だからとメタナイトに自身の知り合いの情報を事細かに説明した。
立ち止まって名簿と睨めっこをしていた時も簡単に説明していたのだが、それはあくまでも簡単にというレベルであって、詳しくは話していない。
情報はあるに越した事は無いし、メタナイトにも知人の事を知っておいて貰えば今後役立つ機会があるかもしれないだろう。

「……なるほど、しかし美鈴。 お前の知人にまともな者はいないのか?」
「……幻想郷では常識に捕らわれてはいけないんですよ、メタさん」

完全で瀟洒なメイド長、頭が少し可哀想な氷精、気が触れてる悪魔の妹、竹林に潜む詐欺兎、ゴシップ好きな烏天狗。
彼女達の事細かな説明を聞きそう発言したメタナイトに対し、美鈴はどこぞのフルーツ(笑)が言ってた言葉で返す。
思えば美鈴の知る限り、幻想郷にいる者の中でまともな人物などそうそういない。
辛うじて思い浮かぶのは人里を守る半人半獣くらいだが、それ以外は全員ネジの一本や二本抜けてそうな者達ばかりだ。

「ともかく、てゐちゃんと文さんには十分注意しておいて下さいね。
 二人とも嘘や騙し討ちは得意なようですから」
「心得た」

一頭身の身体を揺らし、器用に頷くメタナイトを見て微笑む美鈴。
呂布と戦った後、不意に見えた普段は仮面に隠されて見えなくなっている彼の素顔。
それを思い出しながらその仕草を見てみると思わず頬が緩み、抱きしめてしまいたくなる。
もっとも、そんな事をすれば怒ってネギでしこたま叩かれるかもしれないので我慢をしたが……。

「む?」

不意にメタナイトが立ち止まり前方に視線を投げかけた。
慌て、美鈴もそちらへと目を向ける。
一体何事だろうか――緊張した面持ちで美鈴が目を向けた先にあったものは……。

「……何だ、あれは」
「……何でしょうねぇ」

美鈴達の視線の先では、黒い布が歩いていた。
いや、正しくは黒い衣服を着た者が歩いていたというべきなのだろうが……。
ともかく、その姿は色々と突っ込みどころが満載なものである。
太陽が燦々と照りつける中、遮蔽物も何も無い平原でえっちらおっちらと進んでいく黒い布。
余りにも怪しすぎる……美鈴はもとより、メタナイトさえもその光景を見て唖然としていた。

「……どうします、メタさん?」
「どうするも何も、声をかけるより他あるまい」

黒い衣服を着た変質者はまだ美鈴達には気付いていない様子。
このままやり過ごす事も出来そうだが、もしもその変質者が殺し合いに乗っている者だとすれば見過ごす訳にはいかないし。
殺し合いに乗っていなかったとしても、同志として手を組めるかもしれない。
何より、この変質者がメタナイトが見た人影だったかもしれないのだ、接触しない訳にはいかなかった。

そう結論付けると、何故か立ち止まり空を見上げている変質者に美鈴とメタナイトは静かに近づいていく。
近づき注意してよく見ると、その者がえらく小さいという事がわかった。
といっても、メタナイトのようなサッカーボールサイズという程小さい訳ではない。
恐らくは美鈴の腰あたり……丁度、人間の子供程の大きさだ。
だとするとこの黒い布を着ているのも、単に子供が遊び半分な気持ちで着ているだけなのだろうか?

「あの~……」

驚かせないよう、小さな声でなるべく腰を低くしてその小さな変質者に声をかける。
すると、その小さな変質者は慌てるでもなく、どこか気だるげに美鈴達の方へと顔を向けた。

……否、正確に言うならば向けたのは顔ではなく、仮面。
その変質者は、何故か今メタナイトが被っているものと全く同じ仮面をつけていた。
衣装と相まってその姿からは小さいながらもどこか不気味な印象を受けるものの、一度声をかけた以上後には引けない。

「あ、えーっと、安心して下さい。 別に怪しいものじゃありません。
 通りすがりのただの木っ端妖怪と、ただのメタさんです。
 この殺し合いにも乗ってはいません、ですからどうか落ち着いて……」
「美鈴じゃない。 どうしてこんな所にいるの?」
「は?」

極力相手を刺激しないようにと低姿勢で話していた最中、突然自分の名前を言われた美鈴は思わず素っ頓狂な声を上げ目を丸くする。
当然だろう、まだ名乗ってもいないというのにこんな変質者から名前を呼ばれては誰でも驚く。
―― 一体どうして自分の名前を知っているのだろうか?
少なくとも、美鈴にはこんな変質者のような知り合いはいない。
これだけインパクトのある風貌をしている者に会った事があるなら、まず間違いなく覚えているはずだ。

「あ、あの……どうして私の名前を……」
「あれ? もしかしてわからないの? 酷いなぁ、美鈴。 幾らこんな格好してるからって、声を聞けばわからない?」
「え、えーっと……」

腕を組み、挑発的な言い方で美鈴を詰る変質者。
一方の美鈴は冷や汗を掻きながら、必死にこの者が誰だったか思い出そうと頭を捻る。
確かに言われてみればその声色は聞き覚えのあるもの。
この口調、この背丈にも覚えはある――だが、一体誰だったかまでは思い出せない。
……そういえば、この変質者は一体どうしてこんな衣服を纏っているのだろうか?
こんなぶかぶかの衣服など、どう考えてもこの場では不利にしかならない。
姿を隠せるという利点はあるかもしれないが、それより何より動きにくくて仕方が無いだろう。
殺し合いという舞台において、動きが制限されるのは大きな痛手だ……なら、態々こんな衣服を着ているという事は何らかの理由があるのだろう……。

と、そこまで美鈴は考え――ようやく気付いた。

「……もしかして、フランドール様……ですか?」

青くなりながらそう問いかける美鈴にその変質者――否、黒い衣服を纏ったフランドール・スカーレットは頷く。
それを見て美鈴は更に青褪めながら、この世の終わりとでもいうような絶望した表情で弁明を始める。

「あ、ああああああああああ! もももも、申し訳ありませんフランドール様!!
 今のはちょっとその、アレがソレのナニでして、フランドール様のお声を忘れていたという訳では……」

幾ら仮面をつけて変な衣服を着けているからといはいえ、当主の妹の声を忘れるとは一体何事だろう。
しかも心の中では変質者扱いまでしていたし、こんな事到底許されるようなものではない。
涙目になりながら何度も頭を下げて謝罪を繰り返す美鈴。
このままではスターボウブレイクやらを食らってピチュらされてしまうかもしれないのだからとにかく必死である。
だが、フランドールはそんな美鈴にはまるで興味が無いのか、美鈴の背後にちょこんと立っていたメタナイトを見つめている。

「ねぇ美鈴」
「へひゃっ!? ははは、はい、何でしょうかフランドール様!」
「そこの丸っこいのは何? 玩具?」
「丸ッ……!?」

フランドールの言い方に、メタナイトは少しばかりカチンときたらしくその身を震わせていた。
その光景を見て美鈴は更に慌てふためきながら、二人の間に割って入りこの場をどうにか穏便に流そうと言葉を取り繕う。
メタナイトの怒りをなんとか収め、フランドールにメタナイトの事を簡単に説明する。
気を使う程度の能力を持つ紅美鈴は、二人の間を取り持つ為に愛想笑いを振りまきながら気を使った。

それから数分後、美鈴達は近くにあった木陰へと場所を移していた。
メタナイトとフランドールの関係も、それなりには修復出来たようで気を使った美鈴も一安心である。
木陰に場所を移した三人は、ひとまず情報交換をする事にした。
まずは美鈴達が今までやってきた事を説明し、出会った人物についても説明する。
その説明の中で喋る剣――ディムロスが出てきた事にメタナイトと美鈴は驚き説明を求め。
また、フランドールが放送をちゃんと聞いていなかったという事実が発覚した為、慌てて美鈴が放送内容を伝えたのだが……。

「ふーん……それじゃあ、美鈴の他に咲夜もいるんだ?」
「は、はい、そのようです」
「それにしても、他の奴らは会った事も無いような奴ばっかりね。
 どうせならお姉さまやパチュリーや魔理沙や霊夢もいればよかったのに」
「……それにしてもフランドール様、今度からはあの放送をちゃんと聞いた方がいいですよ?
 禁止エリアや死亡者の名前など、色々と重要な情報はあれでしか手に入りませんし……」
『その通りだぞ、フラン。 だからあれほど我も早く名簿を見てみろと……』
「うるさいなぁ、二人とも。 こうしてわかったんだから結果オーライでしょ」
「……そういう問題でもないと思うが」

周りにいる三人に一斉に突っ込まれ、
フランドールはその顔――日が当たらない場所に移動した為、仮面は取り外した――に不満の色を浮かべた。
それに気付いた美鈴が、これまた気を使ってすぐさま話題の転換を行おうとする。

「ま、まぁとにかく、私とメタさんはここに連れてこられてからこれまでそうしていた訳で……。
 そ、そういえばフランドール様は心当たりありませんか? メタさんが見た人影について」
「んー、メタナイトがその人影を見たのは美鈴達がいた場所から見てホテルより手前の場所なんでしょ?
 その時間私はホテルの奥側にいたから、わかんないな」
「そそそ、そうですか……」

情報交換をしている最中もフランドールの一語一句が気になる美鈴。
それも当然といえば当然、何せ相手はあの悪魔の妹様なのだ。
先ほどから美鈴の説明を聞きつつ、要所要所で自身にも起こった事を話すフランドール。
誰それに会ったとか、戦ったとか、そういう話を聞くたびに美鈴の胃はきりきりと痛む。
まさかもう既に人間を殺して――いや、壊してしまったのではないだろうか?
ホテルにいたとも言っている辺り、あのホテルを倒壊させたのもフランドールなのかもしれない。
誰かを壊す拍子にホテルを倒壊させてしまうなど、フランドールにとっては朝飯前だろう。

「……? どうしたの、美鈴」
「いいいいいいえいえいえいえ、なななな何でもないですよ」

殺し合いに乗っている者は殺す――それが美鈴とメタナイトの行動方針である。
もしもフランドールが既に誰かを殺していたりすれば、美鈴はフランドールと戦わなければならない。
だが、美鈴はそれを望んではいない。
フランドールは美鈴にとって大切な者である、守りたいと思っている。
しかし、それはレミリア・スカーレットに対する忠誠心に比べれば格段に下のものであった。
何にも変えて守り抜きたいと思える程の忠誠を、美鈴はフランドールに対して持ってはいない。
だからこそ、美鈴はこうして一人焦っている。
思わずこのままフランドールから逃げ出してしまいたくなるような感情を抱いてしまうが……。

「ところで、フランドール様は一体どうされていたのでしょうか? 差し支えなければお聞かせ下さい」
「ん? えーっとねぇ」

そういう訳にもいかない……微妙に生真面目な紅魔の門番は、自身の思いとは裏腹にフランドールに対して問いかける。
心の中でどうか誰も殺していませんように、と祈りながら美鈴はフランドールの言葉を固唾を飲んで聞く。

「まずはね、テトと赤さん――ラガナーに会ったの。
 えーっと、地図でいうと大体この辺だったかなぁ」

フランドールは開いていた地図のD-4エリアを指差しながら、そう説明する。
それを聞きながら美鈴は内心、初っ端からとんでもない情報が来てしまったと嘆く。
先ほどの放送により赤さんという人物が死んでいるという事はわかっている。
その人物と出会ったという事は……否が応にも、思考はそちらの方へと傾いていく。

「で、その二人と弾幕ごっこをして遊ぼうと思ったんだけど……」
「おおおおお、思ったけど……? どどどどどうしたんですか、フランドール様」
「うん、だけどラガナーが弾幕ごっこよりも面白い遊びを教えてくれるって言ってね。
 だから一旦弾幕ごっこは止めて、ラガナー達と一緒に右上と左上って奴を倒そうって事になったの。
 ラガナーが言うには、その遊びって右上と左上を壊さないと教えられない事になってたんだって」
「な、なるほど……」

どうやらその赤さんがフランドールに殺されたという事ではないらしい。
面白い遊びを教えてくれると言ってフランドールの遊びから逃れた赤さんに、
心の中で賞賛を送りながら美鈴は更に先を話すよう促す。

「それで、その後私たちはホテルに行ったの。 日の出の時間になりそうで、危なかったからね。
 そしたらそこで金髪で上半身裸なムキムキの男……えっと、ブロリーって名前だったかな? そいつに弾幕ごっこ仕掛けられて……」
「だ、弾幕ごっこですか!?」
「うん、そう。 それで頭きちゃったから、壊してあげようと思ったんだけど……。
 そいつ、結構強くってね。 なんか上手く目も見つけられないし、壊せなかったんだよねぇ」
「フ、フランドール様が……ですか?」

幾ら制限を受けているとはいえ、フランドールの力は強大なものだ。
あらゆる物を壊す程度の能力が使えなかったとしても、単なる腕力などは常人の比ではない。
何せ妖怪としてそれなりの実力を持つ美鈴さえ軽くねじ伏せる事の出来る力を持っているのだから、単純な力ならば幻想郷でも指折りのものである。
そんなフランドールの実力を持ってして壊せなかった男とは、一体どのような者なのだろう。

「それで……それで、フランドール様はどうされたのです?」
「ん、まあ、ちょっと危なかったんだけど、テトがこの首輪を爆発させる偽の装置を持ってたから、その場は助かったの」
「偽の?」
「うん、スイッチ押すとこの首輪が鳴って爆発までのカウントダウンをするの。
 本物じゃなくて偽だから、カウントするだけで本当に爆発はしないんだけどね。
 まあそれで、その男が逃げたって訳」
「な、なるほど……それでフランドール様、その男に襲われてお怪我などは無いのですか?」
「ん? もう殆ど治っちゃってるし大丈夫よ」

治っている……という事は、怪我をしたという事だ。
悪魔の妹に傷をつけたという男・ブロリー ――間違いなく、強敵である。

「で、その戦いでラガナーは死んじゃって、テトも恩人に会いに行くんだ~ってどっか行っちゃったのよね。
 だから私はこうやって一人と一振りだけでこれを着ながら歩いてたって訳」
「なるほど……よくわかりました」

話を聞く限り、赤さんとやらを殺したのはフランドールでは無いようだ。
その事実に美鈴は安堵し、大きな溜息を吐く。
よかった……フランドールと戦う事にならなくて済んだ。
心の底からそう思いつつ……しかし、美鈴は気付いてしまう。

フランドールが赤さん達を壊さなかったのは、赤さんが弾幕ごっこよりも面白い遊びを教えると言っていたからだ。
その言葉の真偽はともかく、赤さんとやらは死んでしまった。
ならば、フランドールがその赤さんに遊びを教えて貰う事は無くなってしまい……。
必然的に、フランドールが誰も壊さないという保障もまた無くなってしまう。

「……ところでフランドール様」
「ん、何? もう知ってる事は全部話したんだけど?」
「いえ、その事に関してはわかったんですが……そのですね。
 ……フランドール様はこれから一体、どのように行動されるおつもりなのかな、と思いまして」
「これから? テトを探すつもりだよ、だからそのテトがいそうな酒場に向かってたの」
「探し出して……どうされるおつもりで?」

もしも弾幕ごっこをする、壊して遊ぶ――などと言われれば、一巻の終わり。
美鈴の横で静かにフランドールの言葉を聞いているメタナイトも黙ってはいないだろう。
そうなってしまえば、流石の美鈴も再び二人の仲を取り持つ事は出来ない。
どうか普通に遊ぶだとかそういった類のほのぼのとした行動方針であって下さい……と祈りつつ。
美鈴は静かにフランドールへと目を向け――驚いた。

表情はいつもと変わりない、非常に愛くるしいいつものフランドールの顔がそこにはあった。
だが、何かが違う。

紅美鈴の能力は、気を使う程度の能力。
気とは気功――その人物の精神の具現である。
人の波長を操る新参ホイホイや空気の読めるナイトフィーバーな竜宮の使いのそれとは若干異なるものの。
美鈴には人の気を感覚的に把握が出来る。

今、美鈴がフランドールから感じている気はいつものフランドールのそれとは似て非なる物。
人間ならば見ただけで失禁してしまうかのような狂気の中に、今のフランドールにはそれとは違う別のものが隠されていた。
無論、それは本当に些細なものであり――美鈴がそれに気付けたのは気を使う能力を持っていたからこそ。
外見を見ただけならば、恐らくはレミリアでさえその違いに気付かないだろう。

「あの……フランドール様?」
「ねぇ美鈴」

思わず出た言葉を遮り、フランドールは美鈴に目を向ける。
いつもとは違うフランドールの姿に、何故か怖気ながらも美鈴は彼女の言葉を待った。
……否、怖気ながら、というのは正しくないかもしれない。
美鈴は恐れているのではない。 怖い訳ではない。
怖いというのなら普段のフランドールの方が、何倍も恐ろしい。
――畏敬、言葉で表すのならば美鈴の心中に渦巻く感情はそう表現した方がいいだろう。
そんな心中を知ってか知らずか、フランドールは美鈴に問いかける。

「美鈴は、"歪みねぇ"って、どういう事だかわかる?」
「……歪みねぇ、ですか?」
「そう。 ラガナーがね、死ぬ前に言ってたの。 "歪みある生き方"と"歪みねぇ生き方"。
 どっちが楽しいか、よ~く考えてみな、ってね」
「……その赤さんという方が、ですか」
「うん。 でも、私には"歪みねぇ"っていう事がわからないからさ。
 それを知ってる人に教えてもらおうと思って、それでとりあえずテトを探そうとしてたって訳」

虚空を見つめながら、晴れ晴れとした表情でそう言い切るフランドール。
その顔を、美鈴は信じられない物を見るような表情で見つめる。

紅魔館に仕えて長くなるが、フランドールのこのような表情を美鈴は今の今まで見たことが無い。
フランドールの今の表情は、例えるならばスポーツで試合に勝利した時のような爽快な笑顔。
人間を壊し、玩具を壊し、その感触に悦び見せる笑顔とは根本からして違う。
恐らくは"歪みねぇ生き方"が本当に面白いのかどうなのか、期待をしているからこそ見せている笑顔なのだろう。
"歪みねぇ生き方"とやらが、もしもフランドールにとって楽しくないものであればこの笑顔もまた狂気に満ちたものへと豹変する。
だが、例えそうだとしても、今この場にいるフランドールの笑顔がかつてのものと微細ながらも違う事は事実である。

先ほど感じた、フランドールから発せられる気がいつもと微妙に違うというのもこれが原因なのだろう。
赤さんという人物はたった数時間程の付き合いの中で、
何百年と不変を続けたフランドールの精神さえも僅かとはいえ変えてしまったのだ。
無論、今少しでもその"歪みねぇ生き方"というものよりも楽しそうなものが見つかればフランドールはそちらを優先するだろう。
しかし、それでもフランドールは紅魔館に居た時と比べて変わっている――否、変わり続けている。



sm97:H.M.は本当にゴムゆとりなのか?最終鬼畜アイドル星井・M 時系列順 sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)
sm97:H.M.は本当にゴムゆとりなのか?最終鬼畜アイドル星井・M 投下順 sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)
sm87:歪みねぇ世界 フランドール・スカーレット sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)
sm72:デス様の殺人クラブ 新堂誠 sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)
sm67:静観飛行 メタッ☆ メタナイト sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)
sm67:静観飛行 メタッ☆ 紅美鈴 sm98:色鮮やかに虹色な従者(後編)






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