「夕夜の靄(Ⅲ)」(2011/05/27 (金) 04:47:12) の最新版変更点
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*夕夜の靄(Ⅲ) ◆F.EmGSxYug
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【Ⅲ】
魔導アーマーが東端から西端へと転移を終えた頃の桂言葉は、極めて挙動不審だった。
理由は言うまでもなく、チルノの姿だ。正確には、その中にいるモノ。
「もしかして、自分も体を乗っ取られるとでも思ってるのかい?
フフフ……安心していいよ。
せっかくこの体を乗っ取ったっていうのに、君の方に移って何になる?」
そう言うチルノの表情は、チルノであってチルノでなかった。
ユベル。
悪魔は、現在、チルノの中にいる。
戦闘力のある体を得られた以上、ユベルは極めて安全だ。
直接攻撃に対しては、時を止められようとも跳ね返せる。
攻撃してこなければ、こちらが攻めればいい。
……もちろん、直接攻撃でなければ例外はある。
例えば束縛して水の底に沈められるだとか、首輪が爆発するだとか。
もっとも、言葉はそんなことは知らない。
挙動不審さを誤魔化すように、ただ話題を逸らすだけだ。
「あの人……殺さなくていいんですか?」
「ああ、キョン子のことかい?」
ユベルが抜けて元に戻ったキョン子。
彼女の体はもはや用済みだが、殺さずデパートの側に放置している。
ユベルが乗っ取ったチルノに対する抵抗を続けるマッハキャリバー共々、だ。
それは殺しておくべきだった、と言葉は当然のように言った。
少なくともその点において、スイッチの入った彼女の精神はとっくに倫理を投げ捨てている。
もっとも、ユベルは意に介した様子はない。
それどころか、それを認めた上で解説する。そう言うのももっともだ、という表情で。
「彼女はいざという時のための保存食なんだよ。
自分の体が何をしてきたか、どんなことをしてきたか。
しっかりと、一緒に置いてきたあの靴から解説させる。
だけど、自分にできることは何一つない。
そういう状況で放置されていれば自然と心の闇は増すというものさ。
それに、彼女を見殺しにすることができないあの靴は、
余計なことができない……」
そこまで言った瞬間、突如魔導アーマーががくんとつんのめった。
「故障でしょうか」
「……いや。操縦を失敗しただけだ。
どうも、しっくり行かない部分があってね。
記憶の一部が読み取れないし、体の反応も鈍い」
フン、とユベルはチルノの顔にしかめっ面を作らせた。
グラハム達の心の闇を回収したことは、
超融合の錬成だけでなくユベル自身の能力の回復にも繋がっている。
もっとも……だからと言ってそれは、
キョン子以外の相手にも即乗り移れることを意味しない。
依然として、ユベルは完全に回復したわけではない。だいたい八割ほどだ。
キョン子同様に、弱った相手の精神から心の闇を肥大化させ、利用する必要がある。
ユベルはチルノの精神が弱っているのをその第三の瞳で感じとり、
これを好機として更に追い込み、自分の手駒とすることを試みた。
しかし、心の闇で染め上げきることができず、またユベルも完全でない結果……
体の主導権は奪えたものの、完全に乗っ取るにはいかなかったようだ。
少なくとも、チルノの力を十割使うことはできない。
チルノの戦闘力を最大限に使えない代わりに、
ユベルの反射能力が追加されているのだから十分に強力だと言えるが。
「なぁに、問題はないさ、ふふ……
とりあえずドナルド達が死んでいる場所へ向かおう。
あいつからも心の闇を集めておかないとね。
そのあとはとりあえずモールに行って、大人しく合流しよう」
「合流……するんですか?」
「ああ。
僕達の目的を達成するためには、、超融合を完成させるだけじゃなく……
右上だとか言う連中もある程度弱体化させておくのがより確実なのさ」
そうほくそ笑んでいるユベルは現状に満足してはいない。
超融合を完成させ十二次元宇宙を融合させるために、
集められるものは集めておく腹である。
(そう……保存食なのさ、君はね。
超融合の効果を確実に達成するために、
この空間を覆う様々な防護を弱めておきたい。
そのためには、色々と無茶をすることになるだろうからね……)
■
デパートの側で放置されたキョン子は、まだ目を覚まさない。
彼女に干渉しようとする存在もいない。
ただ、待機モードである青いクリスタルに戻されたマッハキャリバーが僅かに光るだけ。
但しそれは機能を停止させられたからではなく、出来る限り魔力を節約するためだ。
『…………』
チルノはユベルに体を乗っ取られる寸前、
貯蔵できるありったけの魔力をマッハキャリバーに残していた。
それとカートリッジを利用すれば、
純一般人である彼女にも、一度だけ力を行使することは可能かもしれない。
故に、マッハキャリバーは黙して待つ。
チルノが残した希望を行使する軌跡の始まりを。
「……おいおい、どういうことだよ、これ」
気配もなく現れる人影。
その軌跡を整備する、シャベルが地面に当たった。
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