「夕夜の靄(Ⅴ)」(2011/05/27 (金) 04:32:01) の最新版変更点
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*夕夜の靄(Ⅳ) ◆F.EmGSxYug
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【Ⅴ】
チルノが咲夜にやられるとスネークが覚悟した瞬間だった。
目の前で、予想とは全く違う光景が繰り広げられたのは。
「なに!?」
眼前で広がった光景に、思わず目を見張る。
なぜか、いきなり咲夜が吹き飛んで倒れている。
一方、チルノは地面に膝をついて俯いている。致命傷の類はないようだ。動く様子もないが……
呆然とするスネークの足元に、DISCが落ちてきた。
……スネークは知らないがこれはスタープラチナのDISCであり、
スタンドDISCはそれが自分本来のスタンドでない場合、
頭部に強い衝撃を受けた時に外れることがある。
逆に言えば咲夜はなぜか、いつの間にか、そのレベルのダメージを受けたということだ。
いつの間にか、に関しては、咲夜の能力で理由が付くかもしれない。
だが、肝心のダメージを与えたものが、スネークにはわからない。
「ぅ、くっ……どういう、こと……!?」
フラつきながら立ち上がる咲夜を見て、スネークは我に帰った。
コルトパイソンなどを拾い上げ、即座に発砲する。
一発目は普通に避けられた……ものの、完全に反応しきれなかったか咲夜の肩を抉る。
二発目を放った瞬間、スネークの視点で咲夜は転移した、つまり時を止めたが、
今までの回避と比べ移動した距離が小さい。
スネークにも、ありありと分かった。
今まで見せてきたスネークにとっての咲夜が持つ背後霊のようなもの――
いわゆるスタンドが出ていないことと、明らかに時間停止中に動ける距離が減っていることが。
(足を痛めたか、或いは止められる時間が減ったか――
ならば、勝ち目はある!)
今も出血する肩に、力が入る。
少しばかり立ち位置を変え、コルトパイソンのグリップを両手で掴み、
エレベーターの出入口の脇にあるパネルに背を密着させる。
メスもかなり数を消費しているはず。もしかすると全て使い切っているかもしれない。
問題は、コルトパイソンに装填されている弾の数が四発であること。
恐らく、再装填するような隙はまだないだろう。
つまり残り四発で、最低でも隙を作らなくてはならない。
(奴の優位に変わりはない……
恐らく奴は接近を狙ってくる。
この銃の装弾数が何発か、今までの戦闘でバレているだろう。
あの様子だとチルノは気絶しているのか?
警戒しているのか、咲夜が追撃する様子はないな……
いったい何が起きたのかは知らないが、頼りにはできん。
決着は、奴が仕掛けてきてから俺との距離を詰める間に決まる)
スネークの額から、汗が落ちる。
吹き飛んだおかげで彼我の距離は数十メートルほど離れたが拭う余裕はない。
恐らく二度の時間停止でほぼ距離は詰まり、三度目があれば即死だろう。
一度構えを解くだけで、大きな隙になる。
――アオオオオオオオン
突如スネークが背後に背負っているエレベーターの昇降路から響く、犬の鳴き声。
言うまでもなく、地下に放たれたクリーチャーのものだ。
スネークは事情を知らないもののその荒々しい吠え声に、
地下にいる仲間の安全を思い浮かべ、気を逸らさずにはいられず……
その瞬間に咲夜は時を止め、地を蹴った。
接近してきたのに気付いたスネークは即座に発砲する。1発、2発。
連射ではなく、1発目を誘いにして2発目を当てるような撃ち方。
一発目の回避のため、咲夜の速度は緩まった。
だが2発目が届こうかという瞬間に、またしても時間は止まる。
スネークが動き出したときには、大幅に詰まっている距離。
即座に連射されたコルトパイソンの銃弾は……
しかし、咲夜の肩と脇腹を抉るに留まり。
咲夜は小さく呻きながらも、無理矢理に足を踏み出した。
「私の――勝ちよ!」
同時に時を止め、咲夜は一気に距離を詰める。
再度時が動き出した時には、もはや咲夜とスネークの距離は5mも開いていない。
弾は撃ち切り、距離はない。
――しかし。
(そうだ――接近する! お前は俺の動きにのみ注視している。
銃を撃ちきった以上、リロード前にケリを付けようとするはずだ。
迅速かつ確実に……お前のような、冷静な殺人者ならば!)
これこそが、スネークの狙いだった。
咲夜が新たに時を止めたことに気付いた瞬間、スネークは即座に叫んでいた。
「切り札」を動かす、逆転の一声を。
「今だ、攻撃しろ!」
「!?」
いきなりの台詞に咲夜が怯んだ瞬間、昇降路から一つの影が飛び出した。
咲夜が時を止めるより早く鉤爪で殴りかかる灰色の影。
薄暗い闇の中に、凶悪な鉤爪を光らせる。
そのモンスターの名を、ガーゴイル・パワードという。
タケモトは降りる際に昇降路内にこのモンスターを召喚し、潜ませていた。
カード自身は昇降路の入り口に残して、だ。
そしてスネークがコルトパイソンを拾った際、同時にこのカードも回収。
コントロールを受け取り、いつでも攻撃を出せるようにしたのだ。
移動中、最悪の状況に備えてあらかじめ考えておいた策のうちの、最後。
(ここだ! ここで勝てなければ――終わる!)
咲夜の右半身から赤色が迸る。
突如襲いかかったガーゴイル・パワードの鉤爪を受け止めきれず、
右目及び右肘から先が血飛沫と共に飛んだ。
しかし、それでも咲夜は倒れなかった。
コルトパイソンの弾を再装填する余裕はない。時を止める前に勝つしかないのだ。
スネークは咲夜自身がかつて持っていたナイフを取り出し、斬りかかる。
避けるのは不可能。防ぐための盾もない。時間はまだ止められない。
だが、咲夜は動いた。
顔を自分の血で濡らして、それでも。
「まだ、よっ!」
ナイフを、肘から先が無くなっていた自分の右腕で受け止めていた。
「なにっ!?」
驚愕したスネークの顔に迫り来る左腕。
予想外の行動にスネークは防御できずに殴り飛ばされ、
入れ替わるようにガーゴイル・パワードが踊りかかる。
咲夜の胸に突き刺さる鉤爪。
だが一瞬の後には、ガーゴイル・パワードが両断されていた。
消えていく、鉤爪の悪魔。
「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
スネークの目前では、ライトセイバーを手に持っている咲夜が荒い息を吐いている。
胸を貫かれながらも時を止め、近くに落ちていたライトセイバーを拾い上げてガーゴイル・パワードを両断したのだ。
元々ライトセイバーはスネークがいた場所に向けて投げられたのだから、
近くに落ちていることは偶然でも不運でもない、必然に過ぎない。
むしろ幸運なのは、今だ立ち続けられる根性か。
スネークは起き上がろうとするものの、
どう考えても咲夜がライトセイバーを振り下ろすほうが早い――
その状況に敗北を認めざるをえないスネークの体が強張ると共に。
赤い血が、勢いよく吹き上がった。
「ぁ……」
咲夜の血が、彼女の背中から。
遅れて口から零れ落ちた赤い鮮血が、地面を濡らす。
スネークが顔を向き直せば……
少し離れたところでメタナイトとチルノが、体を伏せたまま咲夜へ向けて剣を向けていた。
二人とも、生きている。
ふらふらと、咲夜は数歩つんのめって……それでも、倒れない。
壁に背を預けて、ライトセイバーを構える。寄りかかった箇所はあっと言う間に赤色だ。
今までのような冷たさも威圧感も、もはやない。
明らかに、体はほぼ死んでいる。だが、目だけは、死んでいない。
思わず、スネークは問いかけていた。
「……まだ、やるのか?」
「言ったはず、よ?
私は私の、生きて帰りたい理由が……ある」
「…………」
スネークは起き上がらないまま、無言でコルトパイソンの弾を込めた。
もはや時を止める力もないのか、咲夜は血を吐きながらスネークに走りよってライトセイバーを振り上げる。
その速度は、普通の人間が歩くよりも遅く……頭に狙いを付けるのは、容易だった。
銃声。
いつの間にか月光に変わっていた明かりに風の傷と氷の傷を照らされながら、
咲夜は地面にゆっくりと倒れ込んでいく。
地面とぶつかって、小さく間抜けな音を立てる、咲夜の体。
それを見ても……スネークはまだ、硬くなった体をリラックスする気には、なれなかった。
「……仇は、討ったか」
小さく、呟く。
少し離れたところで、メタナイトが心のなかのモヤを吐き出すように深い息を漏らす。
少なくとも自分のモヤはそれだけでは吐き出せそうにないと、スネークは思った。
(タバコが、吸いたくなったな……ライターを探すか)
そんなことを、ふとスネークは思った。
■
その後、メタナイトとスネークは至高のコッペパンを食べて回復した。
……もう、あと一個で全てこれを使いきってしまうことになる。
幸いなのは、なぜかチルノの体があまり負傷していないことだ。
この局面で回復せずに済んだ、というのは大きい。
しかし、あの現場を見たスネークには奇妙にしか映らない。
「……あの時、咲夜に何かしたのか?」
「あの時っていつさ?」
「お前が気絶する前のことだ」
「ああ……あれ。
ユベルってカード、あるよね。その力を使った。
時間を止まっている間でも傷つかず、攻撃を反射できる。
だからこの体に大して傷もなくて、済んだんだ」
「確かそのカードを持っていたのは、キョン子だったはずだが……」
「今から説明するよ。
そろそろ言葉も来るんじゃないかな。だからもう少し待っててくれないかな」
チルノの口はさも当然と言った様子で喋ったが、
メタナイトとスネークは驚かざるを得なかった。
言葉が来る。それはいったい、どういうことなのか。
「何があったんだ?」
「だから、それを説明するんだよ」
「……悪いが、俺は先に行くぞ。タケモト達が危険かもしれない。
言葉に関しての判断はメタナイトに任せる」
「了解した」
メタナイトが頷くのを見ると、スネークは素早く昇降路の仲へと姿を消そうとして……
一言だけ、付け足した。
「もし余裕があったら……咲夜に壊されたてつの奴を埋めておいてくれ。
あいつはただの機械だが、それでも今まで俺の役に立ってくれた」
タバコを咥えたまま、吐き出すようにそう言い残してスネークの姿は消える。
チルノの口は、そのまま話を進めることにしたようだ。
「右上にいきなりワープさせられたのは知ってるはずよね。
だけど右上はこっちとは別のところに行ったらしくて、見当たらなかった。
だからとりあえずみんなの所に戻ったら、襲われてた……右上に。
……グラハムも、リンも、死んだよ。
その時の戦いで、マッハキャリバーも故障しちゃって」
「何だと!?」
「キョン子も怪我をして連れて来れそうにないから、手当をして置いてきたんだよ。
けど、キョン子は言葉と一緒にいたくないって言うし……
どうせ他に行くところもないから、最低限の荷物を残して言葉を連れてきた。
幸い、魔導アーマーっていう機械があったから、それで移動してね。
ここの近くまで来たところで戦いが起こっていることに気づいたから、
あたいが一人で先行したんだ……あ、来たみたいだ」
チルノはそう言うと、響き始めた機械音の方向に振り向いた。
現れたのはやはり魔導アーマー。但し、その右腕は無くなっていたが。
乗っている言葉は手袋らしきものを両手に付けている。
更に首には改造したプレミアム首輪を装着している事に気づき、
僅かにメタナイトは目を細めた。
「あれは、グラハムのものか?」
「そう……あたいが外して、付けさせた」
「あいつは、大丈夫なんだな?」
「大丈夫だとかそういうこと言ってる場合じゃないって思うんだけど。
それに、急ぐんだよね?」
「……そうだな。
地下に降りる前に、少し待ってくれ」
そう言って、咲夜の遺体へと振り向くメタナイト。
そのまま静かに眼を閉じる。三秒ほどそれを維持した後、もう十分だ、と告げた。
チルノの首が、傾げられる。
「……黙祷?」
「彼女のやったことは許されることではないが、
私は美鈴と共にいた。これはそれだけの分だ」
「そう」
「チルノ……私はお前こそ、もっと咲夜を悼むものだと思ったが」
知り合いが死んだのに、チルノはどうも感傷が小さいように見える。
もちろん、前回咲夜と戦った後のように不安定なままでも困るが、
今回は変に安定している。それはそれで、逆に心配を掻き立てる。
「もう、そんなことしてる余裕がある状況じゃないよね」
「……そう、か。
すぐに馬岱達と合流するぞ。言葉が乗っているこの機械はどうする?
このサイズでは恐らく……」
「右腕を切り落とせば通るかもしれないよ」
多少の違和感は覚えたものの、結局メタナイトは流した。
運営と内通している、或いは洗脳されてその言いなりになっていると考えるには明らかに無理がある行動だ。
だから少しばかり変なことを言っても、
それはグラハム達が死んで精神が不安定になっているからだろう、で済ませた。
何か企んでいるにしても、運営と戦っている限りならそれでいい、とも。
おかしなことではない。彼には、思いつくことができないからだ。
まさかユベルが体を乗っ取ることができて。
先程の戦いではわざと気絶したふりをチルノの体にさせた上で、咲夜の隙を突いていて。
運営とは違う方向で絶望を撒き散らそうとしているなどとは、決して。
それを知っている参加者は、まだ言葉だけしかいない。
(……まず、生き残らないと意味がない。
けれど、できるんでしょうか?)
魔導アーマーの右腕が切り落とされるのを発言もせずに見つめながら、
言葉はユベルがチルノを乗っ取ったときのことを、思い返した。
■
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