「夕夜の靄(Ⅰ)」(2011/05/19 (木) 19:52:48) の最新版変更点
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*夕夜の靄(Ⅰ) ◆F.EmGSxYug
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【Ⅰ】
後始末と、改造したプレミアム首輪を遺体から奪いとることは終わった。
その上で、私は最初にされた軽い説明……
並行世界を利用した上での願いの叶え方について、改めて問いかける。
「……本当に、あるんですか?
私が――桂言葉が、誠くんと無事に仲良くしている、世界なんて」
太陽が沈んでいく。
薄暗くなる空気の中で、私はじっと相手を見つめた。
「どんな可能性だってあり得る、それが並行世界の概念と言うものさ……
私、異世界に渡るくらいの方法は知ってるし」
キョン子さんは、そう言う。
ここやデパートにある遺体の前で何か変なことをし終えた後、
彼女は私の願いをどうやって叶えられるか、説明し始めた。
その願いの叶え方は、単純だった。
『伊藤誠と桂言葉が無事に結ばれた世界を探し出して、
その世界の桂言葉と成り代わる』。
そうすれば無事に二人で暮らせる、
生き返らせるのには変わりない――と言う。
正直、いきなりこんなことを言われても実感は沸かない。
自分を殺して入れ替わる……というのはあまりに引っかからなかった。
なによりも、そんな世界があるのかどうか気になったから。
「あるだろ?
もしこうだったら、ああだったらって思うことは、さ。
それとも君の愛はどうやってもありえないような、そんな相手なのかい?
痛みや苦しみを、ただ見ているだけで感じさせられるような?」
「そんなことは……ないです」
思わず漏らした声が、薄闇の中に消えていく。
本当は、何度も結ばれる機会はあった。
最後には、ちゃんと結ばれていた。
ただ――何度も、何度も、手に入れたと思ったら手から零れ落ちていっただけで。
「じゃあ、考えてみなよ。
そういう可能性を」
返って来る台詞。
想像、してみる。
私と誠くんが平穏無事に付き合えている可能性。
それこそ、考えるだけで最良の選択肢に導かれ続けた私。
そこにいる桂言葉は生きている誠くんと楽しく暮らしているんだろう。
もしかしたら、一度誠くんを奪われるようなことすら無かったのかもしれない。
私のように犯されることもなく、清らかなまま誠くんと付き合っているのかもしれない。
いじめられても最初から誠くんが守ってくれているのかもしれない。
私は辛い思いをしてやっと誠くんのそばに行くたびに引き離されたのに。
そこに辿りつくまでに何度も穢されたのに。
挙句の果てに最後にはこうしてこんな場所にまで呼び出されたのに。
何の苦しみもなく無事に誠くんとの暮らしを得たんだろう。
卑怯だ。
私は辛い思いをしたのに。
私と同じ桂言葉なのに私のような目に合わず、私が持っていないものを持っている。
不公平だ。
西園寺さんと同じだ。
私にだってそういう立場になってもいいはずなのに。
少し違うだけで私も誠くんと幸せになれたんだ。
他の桂言葉がそういう幸せを得られるのなら、私だってそうなっていいはずだ。
入れ替わってもいいはずだ。
私が幸せを勝ちとって、代わりにその桂言葉に私が味わった苦しみを味わわせてやりたい。
裏切られて苛められて穢されて引き離されるということがどんなことなのか教えてやりたい。
何か奇跡が起きない限り、私はこのまま引き離されて終わってしまう。
その間も誠くんを手に入れた桂言葉はやっぱり誠くんと一緒にいるんだろう。
もし清らかなまま誠くんと付き合えたんだったら、私より綺麗なのかもしれない。
そのまま誠くんの子供を生むのかもしれない。
心にも祝福されるのかもしれない。
お互いの家族全員が平和に仲良くしているのかもしれない。
私はそんなことができないまま、脇から見ているだけ。
だから奇跡が必要だ。
例えばベジータさんが言ってたドラゴンボールだとか、入れ替わりだとか。
そうして今まで苦しんできた分私が誠くんと付き合って、守られて、家族で話しあえばいい。
普通に頑張ってきたのに散々ひどい目に会わされたけど、
西園寺さんを殺す、だなんて普通じゃない手段を取れば誠くんと一緒になれた。
それと同じだ。それくらいしても許される権利が私にはあるはずだ。
私が幸せを勝ちとった桂言葉になる。
そこにいた桂言葉は、私が味わった苦しみでも体験していればいい。
何もしてないのに幸せになるだなんて、許せない。
――キョン子さんは、それができるって言う。
「フフフフ……やる気十分って顔だね……」
私が顔を上げるより早く、キョン子さんはそう言った。
目の前にあるのは、爛々と光っているように見える橙色の瞳。
……実際、この人を信用する気にはならない。
けれど、何か……なぜか、私と似たようなものを持っていて、
それに惹かれる――ような気がする。
「……なんで、私の願いを叶えようとするんですか?」
「私はただ、君の中にある心の闇……
愛する者を手に入れるためならどんな痛み、苦しみも厭わないその感情……
それが発露すればどうなるか、ワクワクしただけさ」
「でも、私と組んでも……」
「そうかな……さあ、私の手を取って」
「手…………?」
すっ、とキョン子さんは手を出してきた。
少し躊躇いながらも、左腕でその手を取った、瞬間。
「きゃっ!?」
変な感じがしたかと思うと、光が差し出した私の腕を包んでいく。
悲鳴を上げたと同時に光は消えていって……代わりに、
鱗のようなものが私の左腕を包んでいた。
「これで――私と君は友達だ」
「こ、これ……」
「なぁに、私の力を少し貸してあげるだけだよ……」
その言葉と共に、私の左腕は解放される。
まるで爬虫類のように水分のない、黒い肌。
それがしっかり、私の腕として動くのが不安を煽る。
「こんな腕じゃ、ちゃんと入れ替われないんじゃ……」
「大丈夫さ、目的を達成した後はちゃんと取ってあげるよ……フフフフ」
依然として、相手は笑う。
一瞬、これは悪魔と契約したようなものなんじゃないか、と思って……首を振って。
――たとえ、悪魔と契約してでも、私は。
■
「左上、地下にアレは放ち終わったか?」
「ええ、終わりました。地下にいた生き残りの退避も完了しております」
一方、その頃。
運営基地の一室で、運営長は左上からの報告を聞いていた。
運営長の表情は多少歪んでいるが、今のところ落ち着いていると言っていいレベルで留まっている。
当然だ。
一応彼自身の命を賭けるかもしれない事態にはなっているが、
まだ「かも」のレベルでしかない。今だに絶対的優位は保たれている。
そもそも、表情が歪んでいるのは別の問題、放ったモノにある。
「何かご不安でも?」
「当然だ。アレはそもそも控えの戦力で、オートマトンほどの数はない……
そして何よりも、アレはこちらで統率することができんし、気色悪い」
「気色悪い……細菌感染などの恐れがある、ということでしょうか?」
「それもあるが……まぁ、お前にはわからんだろうな。
右上はどうしている? しっかりと重要機材などの退避を進めているか?」
「はい。予定の120%の速度でクリアしています」
「よし……地下は怪物どもに任せろ。
他の人員は退避の準備と位置情報の監視に注力させるのだ。
地上基地外部への攻撃は自動警備システムで十分時間が稼げる。
人員を本格的に迎撃へ向かわせるのは、
地上にせよ地下にせよ奴らの接近を感知してからでよい」
「ハッ」
はっきりとした返事と共に退出していく左上を見送ると、
ため息を吐きながら運営長は手元の資料に目をやった。
そこには、彼らが地下に放ったクリーチャーの姿がある。
虫のような触手を体から蠢かせる、異形の生命の姿が。
「全く……こういった化物に怯える者を見るのは面白いが、
化物を見る事自体はとても気持ちの良いものとは言えんな」
■
|sm251:[[Q&A]]|[[時系列順>第七回放送までの本編SS]]|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|[[投下順>251~300]]|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm248:[[さらば誇り高き戦士]]|チルノ|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm249:[[Liar Game]]|桂言葉|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm249:[[Liar Game]]|キョン子|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm250:[[運命の輪(逆位置)]]|タケモト|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm250:[[運命の輪(逆位置)]]|馬岱|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm250:[[運命の輪(逆位置)]]|ソリッド・スネーク|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm250:[[運命の輪(逆位置)]]|メタナイト|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|ときちく|sm251:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|十六夜咲夜|sm251:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|運営長|sm251:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|左上|sm251:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
*夕夜の靄(Ⅰ) ◆F.EmGSxYug
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【Ⅰ】
後始末と、改造したプレミアム首輪を遺体から奪いとることは終わった。
その上で、私は最初にされた軽い説明……
並行世界を利用した上での願いの叶え方について、改めて問いかける。
「……本当に、あるんですか?
私が――桂言葉が、誠くんと無事に仲良くしている、世界なんて」
太陽が沈んでいく。
薄暗くなる空気の中で、私はじっと相手を見つめた。
「どんな可能性だってあり得る、それが並行世界の概念と言うものさ……
私、異世界に渡るくらいの方法は知ってるし」
キョン子さんは、そう言う。
ここやデパートにある遺体の前で何か変なことをし終えた後、
彼女は私の願いをどうやって叶えられるか、説明し始めた。
その願いの叶え方は、単純だった。
『伊藤誠と桂言葉が無事に結ばれた世界を探し出して、
その世界の桂言葉と成り代わる』。
そうすれば無事に二人で暮らせる、
生き返らせるのには変わりない――と言う。
正直、いきなりこんなことを言われても実感は沸かない。
自分を殺して入れ替わる……というのはあまりに引っかからなかった。
なによりも、そんな世界があるのかどうか気になったから。
「あるだろ?
もしこうだったら、ああだったらって思うことは、さ。
それとも君の愛はどうやってもありえないような、そんな相手なのかい?
痛みや苦しみを、ただ見ているだけで感じさせられるような?」
「そんなことは……ないです」
思わず漏らした声が、薄闇の中に消えていく。
本当は、何度も結ばれる機会はあった。
最後には、ちゃんと結ばれていた。
ただ――何度も、何度も、手に入れたと思ったら手から零れ落ちていっただけで。
「じゃあ、考えてみなよ。
そういう可能性を」
返って来る台詞。
想像、してみる。
私と誠くんが平穏無事に付き合えている可能性。
それこそ、考えるだけで最良の選択肢に導かれ続けた私。
そこにいる桂言葉は生きている誠くんと楽しく暮らしているんだろう。
もしかしたら、一度誠くんを奪われるようなことすら無かったのかもしれない。
私のように犯されることもなく、清らかなまま誠くんと付き合っているのかもしれない。
いじめられても最初から誠くんが守ってくれているのかもしれない。
私は辛い思いをしてやっと誠くんのそばに行くたびに引き離されたのに。
そこに辿りつくまでに何度も穢されたのに。
挙句の果てに最後にはこうしてこんな場所にまで呼び出されたのに。
何の苦しみもなく無事に誠くんとの暮らしを得たんだろう。
卑怯だ。
私は辛い思いをしたのに。
私と同じ桂言葉なのに私のような目に合わず、私が持っていないものを持っている。
不公平だ。
西園寺さんと同じだ。
私にだってそういう立場になってもいいはずなのに。
少し違うだけで私も誠くんと幸せになれたんだ。
他の桂言葉がそういう幸せを得られるのなら、私だってそうなっていいはずだ。
入れ替わってもいいはずだ。
私が幸せを勝ちとって、代わりにその桂言葉に私が味わった苦しみを味わわせてやりたい。
裏切られて苛められて穢されて引き離されるということがどんなことなのか教えてやりたい。
何か奇跡が起きない限り、私はこのまま引き離されて終わってしまう。
その間も誠くんを手に入れた桂言葉はやっぱり誠くんと一緒にいるんだろう。
もし清らかなまま誠くんと付き合えたんだったら、私より綺麗なのかもしれない。
そのまま誠くんの子供を生むのかもしれない。
心にも祝福されるのかもしれない。
お互いの家族全員が平和に仲良くしているのかもしれない。
私はそんなことができないまま、脇から見ているだけ。
だから奇跡が必要だ。
例えばベジータさんが言ってたドラゴンボールだとか、入れ替わりだとか。
そうして今まで苦しんできた分私が誠くんと付き合って、守られて、家族で話しあえばいい。
普通に頑張ってきたのに散々ひどい目に会わされたけど、
西園寺さんを殺す、だなんて普通じゃない手段を取れば誠くんと一緒になれた。
それと同じだ。それくらいしても許される権利が私にはあるはずだ。
私が幸せを勝ちとった桂言葉になる。
そこにいた桂言葉は、私が味わった苦しみでも体験していればいい。
何もしてないのに幸せになるだなんて、許せない。
――キョン子さんは、それができるって言う。
「フフフフ……やる気十分って顔だね……」
私が顔を上げるより早く、キョン子さんはそう言った。
目の前にあるのは、爛々と光っているように見える橙色の瞳。
……実際、この人を信用する気にはならない。
けれど、何か……なぜか、私と似たようなものを持っていて、
それに惹かれる――ような気がする。
「……なんで、私の願いを叶えようとするんですか?」
「私はただ、君の中にある心の闇……
愛する者を手に入れるためならどんな痛み、苦しみも厭わないその感情……
それが発露すればどうなるか、ワクワクしただけさ」
「でも、私と組んでも……」
「そうかな……さあ、私の手を取って」
「手…………?」
すっ、とキョン子さんは手を出してきた。
少し躊躇いながらも、左腕でその手を取った、瞬間。
「きゃっ!?」
変な感じがしたかと思うと、光が差し出した私の腕を包んでいく。
悲鳴を上げたと同時に光は消えていって……代わりに、
鱗のようなものが私の左腕を包んでいた。
「これで――私と君は友達だ」
「こ、これ……」
「なぁに、私の力を少し貸してあげるだけだよ……」
その言葉と共に、私の左腕は解放される。
まるで爬虫類のように水分のない、黒い肌。
それがしっかり、私の腕として動くのが不安を煽る。
「こんな腕じゃ、ちゃんと入れ替われないんじゃ……」
「大丈夫さ、目的を達成した後はちゃんと取ってあげるよ……フフフフ」
依然として、相手は笑う。
一瞬、これは悪魔と契約したようなものなんじゃないか、と思って……首を振って。
――たとえ、悪魔と契約してでも、私は。
■
「左上、地下にアレは放ち終わったか?」
「ええ、終わりました。地下にいた生き残りの退避も完了しております」
一方、その頃。
運営基地の一室で、運営長は左上からの報告を聞いていた。
運営長の表情は多少歪んでいるが、今のところ落ち着いていると言っていいレベルで留まっている。
当然だ。
一応彼自身の命を賭けるかもしれない事態にはなっているが、
まだ「かも」のレベルでしかない。今だに絶対的優位は保たれている。
そもそも、表情が歪んでいるのは別の問題、放ったモノにある。
「何かご不安でも?」
「当然だ。アレはそもそも控えの戦力で、オートマトンほどの数はない……
そして何よりも、アレはこちらで統率することができんし、気色悪い」
「気色悪い……細菌感染などの恐れがある、ということでしょうか?」
「それもあるが……まぁ、お前にはわからんだろうな。
右上はどうしている? しっかりと重要機材などの退避を進めているか?」
「はい。予定の120%の速度でクリアしています」
「よし……地下は怪物どもに任せろ。
他の人員は退避の準備と位置情報の監視に注力させるのだ。
地上基地外部への攻撃は自動警備システムで十分時間が稼げる。
人員を本格的に迎撃へ向かわせるのは、
地上にせよ地下にせよ奴らの接近を感知してからでよい」
「ハッ」
はっきりとした返事と共に退出していく左上を見送ると、
ため息を吐きながら運営長は手元の資料に目をやった。
そこには、彼らが地下に放ったクリーチャーの姿がある。
虫のような触手を体から蠢かせる、異形の生命の姿が。
「全く……こういった化物に怯える者を見るのは面白いが、
化物を見る事自体はとても気持ちの良いものとは言えんな」
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|sm251:[[Q&A]]|ときちく|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
|sm251:[[Q&A]]|十六夜咲夜|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
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|sm251:[[Q&A]]|左上|sm252A:[[夕夜の靄(Ⅳ)]]|
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