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「All Fiction」(2010/12/26 (日) 15:45:58) の最新版変更点
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*All Fiction ◆WWhm8QVzK6
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#aa(){「ともかく、今は逃げたほうがいい!」
「ああ、俺達の武装じゃ万全に対処出来そうにないからな」
「でも、何処に逃げれば…!」
悲痛そうな言葉の声を銃声が掻き消す。
少なくとも、このまま何もしなければ距離を詰められて終わりなのは確かだ。
しかし、対処できる方法はあるのか。
再び銃声が止む。
弾倉を装填する音と足音が同時に響く。
もう躊躇っている暇は無い。
(一か八か…ッ!!)
意を決して、タケモトはデイパックに入っていた『あるもの』を投げた。
それは銃声が再開するのと殆んど同じ時だった。
そして刹那。
バァン!!! という爆音が周囲に鳴り響いた。
銃声よりもさらに大きな音に言葉は思わず耳を塞ぐ。
だが、その手はタケモトによって無理やり掴まれた。
「逃げるぞ!馬鹿!」
銃声は止んでいた。
しかし油断は出来ないため無理に攻めることはせず、脇目もふらずにタケモトは言葉を連れて逃げ出した。
馬岱もそれに続く。彼は一瞬振り返ると、ときちくが顔を抑えているのが見えた。
そして抑えた手の隙間から覗く眼球は、明らかに狂気に彩られている風に思える。。
口元は歪み、まるで嗤いを浮かべているようだった。
もう明らかに正常ではない。
そう思い馬岱は逃げ出し、ドアを潜り抜けたギリギリのところで再び銃声が始まった。
階段を半ば駆け抜けるように下り、前方のタケモトと言葉に追いつく。
「何を投げたんだ!?」
「首輪だよ首輪!上手くいけば爆発すると思ってな!」
タケモトはヤケクソ気味に馬岱の質問に答えた。
そう。タケモトが首輪を集める中で、一番最初に取得した首輪。
それはカミーユから斬り取ったもので、一部が破損していた。
つまりその破損部分に銃弾が当たれば爆発を狙えるのでは、と言う意図から彼は首輪を投げたのだ。
殺傷力は主催の折り紙つきで、お手ごろな爆弾である。数は限られているが。
「一発で決められれば良かったんだが……クソ、流石に同じ手は通じないだろうな」
倒せなかったのは聴覚で確認できている。
物陰に隠れていて狙いをつけられなかったので、首輪を大雑把に投げるしかできなかったのだ。
棚が倒されて物が散乱した食品売り場を走り抜ける。
そうして、エントランスに着いた。
「追って来てるか?」
「いや、全然……」
耳を澄ますまでも無く銃声は響いていない。
ガラスが割れる音が聞こえるが、それだけだ。
ときちくはよほどの錯乱状態にあるらしい、とタケモトは判断した。
「……どうします?」
「殺す。と言いたいところだが……」
「ああ、どう考えても不自然だ」
息を整えながらタケモトは馬岱に続ける。
「突然の崩落、ときちくの乱心、そして持っていない筈の銃。単にあいつの頭が狂ったってだけじゃ説明がつかない」
「妙な煙もあったぞ。多分あれは発煙筒のだと思う」
「マジでか?ならなおさらだな」
「誰かが何かをしたってことですか」
「そういうことだな。まともに考えるなら他の参加者…例えばドナルドとかがそうしたのかもしれない。
探知機での確認頻度は30分に1回だったし、もしかしたらそれまでに辿り着けない距離じゃなかったのかもな。
だがそれだと色々疑問が発生するが……例えばまだ俺達が襲われていないとか」
ドナルドの名前が出た時言葉は一瞬身体を震わせたが、それでもまだ先を訊くだけの余裕はあった。
「まともに考えなければ…?」
「…そうだな」
タケモトは一旦切り、そしてこう言った。
「そもそも参加者じゃない……運営の手先とか」
◆◆◆
「はッ…………はは」
哂う。哂う。
ただ、哂うしかない。
突きつけられた現実は容赦なくジブンの心を蝕んでいく。
酸に溶ける金属のように。泡沫のようにだんだんと精神が瓦解していく。
耐えられない。このアンリアルな現実に耐えられない。
だから、俺は。
「く―――あ、はははははははははははは!!!!!!!!!」
哂うしか、なかった。
銃を乱射させている手の挙動など崩壊の副産物でしかない。
ナニカを殺すという明確な意志はない。
当初、目に付く『幸せ者』を殺してやるという思考は、今はとっくに吹き飛んでいる。
哂いながら、歩く。哂いながら、引き金を引く。
どう転んでも救われない。出来の悪い悲劇の役者。
知らない間にタケモトと馬岱はいなくなっていた。
どこに逃げたのか。そんなことはもう、自分にとってみればどうでもよかった。
狂ったように哂いながら、目に付くものに銃を向ける。
しかし、それ以上の破壊は生まれなかった。
「はははははは!!!!!は、ひゃ、ははっ!!はは――――」
能無しのように弾倉が空になった銃のトリガーを引き続ける。
カチン、カチンと音がするだけだ。
わかっていた。本当は左上に言われるまでも無く気づいていた。
囲炉裏さんの死体を見た時から。彼の死体が彼ではないと気づいた時から。
気づかなかったわけが無い。気づいていないフリをしていただけだ。
考えないように、何も考えないように。それ以上の考えは破滅を生むと感じたから。
そんな現実は、あってほしくないと願ったから。けど、それは簡単に否定された。
ジブンが本当に、ほんとうに、作り物でしかなかったなんて――。
「――――ぁ」
声を途切らせる。
顔は絶望に染まり、歯を噛みしめすぎて歯茎から血が流れていた。
「なんで」
壁伝いに歩く。
足が震えて上手く歩けない。
「なんで、なんで、なんで」
もうアタマの中は真っ白だ。
まともな思考すら起こっていない。
でも、さらなる事実に気づいてしまった。
「なんで、狂ってくれないんだよ…………!!!!!!」
狂えない。狂ってくれない。
あれだけの真実を突きつけられて置きながら。
放っておいても一週間で死ぬと言われておきながら。
とっくに、セカイには絶望しかないと理解していながら。
狂ってしまえない。狂って、現実から目を背けることを許してくれない。
窓ガラスに、半分血塗れになったジブンの顔が写る。
俺のものですらない、偽者のジブンのものでもない、借り物の顔。
何処からどう見ても日本人には見えない。
さぞかし周りには奇妙に思われたことだろう。
もう、それも関係ないが。
「あ、あああ」
偽者だからヤツは俺を選んだのか。
道が残されていないから使い勝手のいい駒として引き抜いたのか。
「あああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」
ガラスを叩き割った。
何枚も。何枚も。何枚も。何枚も。何枚も。
ジブンの姿を写す、俺じゃない姿を写す鏡を。
「ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!―――ッゴホッ……ガハッッ…………」
十枚以上割って、拳から赤いものが滲んでる気がして、そこでようやくジブンの腕は止まった。
吐き気がする。
こんなにまでなっているのに生きていられるジブンに吐き気がする。
吐いた唾には血が混じっていた。叫びすぎて喉でも切れたのだろう。
口に出すのも馬鹿らしい事実。
こんな下らない。こんなものが俺の終わりなのか。
幸せな現実が残っているあいつらが羨ましい。本当に妬ましい。
希望など無い。あったのなら、こんな暴挙には出なかっただろう。
それを自覚している辺り、幾分か理性は取り戻せたか。
あの爆発はいい意味でも悪い意味でも気付けになった。
が、ジブンに現実を自覚させるには充分だった。
「どうすんだよこれ……、死ぬしかないだろ」
あいつらを殺したところでこの感情は消えてくれない。
なら、偽者が出来る事など精々限られている。
ふらふらと、ジブンは、階段を上っていた。
◆◆◆
「もう一度言う。質問に、答えろ」
スネークは、得体の知れないモノと対峙していた。
一方の義体は、やはり何も応えない。
今、『彼女』の最優先事項は現状の打破。
それにスネークに対する応答は当然の如く含まれていない。
一方的に喋るという選択肢はあるにはあるが……。
《ここは素直に退くべきでしょうね》
ときちくと相対した時には、ジャミングを行い、運営も含めたあらゆる感知を遮断した。
しかし今は違う。ものの見事にスネークと対峙する場面を捉えられてしまっている。
ゆっくりを潰した事に関してはまだ許容される範囲だろうがこれは流石に拙い。
どんなにグレーな状況を作っても構わない。クロと断定されなければ。
現状は、それに当て嵌まらないのは明白だった。
左上はそう判断し、義体を離脱に向けて動かしたその瞬間。
ガキィン、という音と同時に義体の制御が一時的に乱れた。
いや、その乱れはさらに続く。左上は、操作しながら左足の駆動が思うようにならないのを感じた。
スネークが銃弾を放ったのは明らかだ。
義体の装甲はそれなりだ。多少の事では壊れない材質になっている。
しかし、駆動部である関節を狙われれば話は別だ。
関節を保護するプレートの僅かな隙間。そこを正確に射撃されたのだ。
まだ動けない事は無い。以前のような機動力は失われたが。
だが、離脱にはもっと工程が必要だと左上は判断した。
生憎自爆装置は搭載されていない。そもそも自爆を意図して作られてはいないのだ。
義体の使用目的は職員が活動できないような場所での作業、さらに監視を目的としている。
すなわち最初から参加者と対峙するようなマニュアルは存在しない。
それを左上は、念のために(と言えば聞こえはいいが)両腕を改造して武器を装備したのだ。
動きを止めた義体を見たスネークは、それ以上の攻撃を行わない。
「ドナルドか咲夜の手先か?」
現実的に考えるならその判断は普通だ。
まさか運営が今更干渉してくるとは誰も思うまい。
『ダトスレバ、ドウシマスカ?』
左上は、それに乗っかることにした。
「……」
スネークの表情は変わらない。
義体の返答は状況的にYESと取れるものではある。
左上にとって口先で状況を乗り切るのは慣れない行為だったが、今のところそれ以外に迅速に
目的を遂行する方法はなかった。スネークからこれ以上傷を負わずに逃亡するには。
「それならば、貴様を止めるまでだ」
『ソウデスカ…。シカシソレデイイノデスカ?貴方ニハ仲間ガイルノデショウ?』
「何が言いたい?」
『先程ノ銃声……、果タシテアレハ誰ガ放ッタト思イマスカ?』
「………貴様!!」
『私ニ気ヲ向ケテイル余裕ハアリマセンヨ』
スネークは、迷った。
確かに銃声は聞こえた。明らかに自分たちが所持していないモノの、だ。
ドナルドか咲夜が襲ってきたのならば向かわねばタケモト達の命が危ない。
しかし、目の前のアンノウンを放って置けるほど短慮でいられる筈も無い。
こんな存在がここにいるという事は、何らかの命令を負っているに違いないのだ。
そしてそれはスネークの足止めではない。むしろ仲間の救助に向かうよう促している。
だが、けれど、それでも。
その迷いが。
「!!」
気づいた時にはもう遅かった。
発射音と同時に爆発。スネークの視界が瞬きの時間も経ずに爆風で占められる。
心に生じた僅かな躊躇いが、それを許してしまった。
舞った煙が晴れるのにそう時間は掛からなかったが、既に機械はいなくなっていた。
(…何処に行った?)
耳を済ませても何の音も聞こえない。
静寂しか、その場を支配していなかった。
(待て、何の音も聞こえないだと?)
遠くであった銃声すら止んでいる。
それが意味するところは。
(追うか)
機械の逃走経路はおおよそ予想がつく。
タケモト達の方は今は大丈夫だろう。完全な根拠は無いが、どちらにせよ探しても仕方がない。
それより今は機械を追跡しなければとスネークは考えた。
アレを逃すと、もはや取り返しがつかなくなる、と。
そうして、スネークは通路の右にある階段を下っていった。
◆◆◆
義体…もとい左上は階段を下り、エントランスから正面玄関に出て、外に飛び出た。
裏口にはタケモトらが陣取っている。
《スネークはこちらを追うことにしたようですね。ならそれはそれで好都合です》
しばらくはデパートの中を探し続けるだろう。
迅速に行動すれば充分に猶予がある。
なにより、首輪によって位置情報は掴めているのでこれ以上の接近は無いと左上は判断した。
義体は若干スピードを落として走りながら、ときちくの動向に気づいた。
ときちくは何故か、屋上にいるようだ。理由はわからない。
《何をしているのですか…?貴方は自分の役割を理解したはず。だからこそ銃を取ったのでしょう》
そうして藤崎を殺した。
それはもはや拭い去れない事実だ。
《まあ、構いません。どの道これでマーダーを増やすことには成功しましたから》
後はモールから格納庫に戻るだけだ。
ループした『向こう側』は多少小競り合いがあるようだが、上手く避けていけば出遭うことなく辿り着けるだろう。
そして義体はデパートの裏側に回りこみ、山の斜面を登ろうとした時。
後方で、ドサリと何かが地面に落ちる音が聞こえた。
振り向くまでも無い。首輪の探知でその存在は知れている。
しかし質問せざるを得なかった。
『マダ、何カ用ガアルノデスカ?』
ときちくが、顔面の半分を血塗れにして、そこに立っていた。
ときちくは質問には答えなかった。
表情はフードに隠れていて見えない。
しかし表情など左上にとっては気にもならない。
『ヨク無傷デ下リラレマシタネ』
「俺にアルタイルの力を持たせたのはお前だろうが」
造られる際に、ときちくには能力だけではなく、アルタイルが持っていた戦闘技術もダウンロードされていた。
その技術を以ってすればデパートの窓枠の凹凸を利用して降りることなど造作もないことだ。
ときちくは、銃を義体に向けることなく立っている。互いの距離は10mも無い。
『エエ、確カニソウデス。デスガ、ソレヲ分カッテイルナラ何故ソノ力ヲ残ッタ参加者ニ向ケナイノデスカ?』
理解できない、とでも言わんばかりに。
もとより、人形の言う事など理解するつもりはない、と左上は思考していたが。
「五月蝿いな。そんな事はどうでもいいんだよ」
『?』
ときちくは、突然銃を左上に向けた。
それは左上が与えた銃だ。
「俺はお前が一番憎くて仕方がない。今デパートにいるあいつらよりずっと、な。……こんなクソッタレな現実を
突きつけやがったお前を、俺は殺したくて堪らない」
左上は失笑した。
そして左腕の銃口を向ける。これ以上の反抗は許さないという脅しを込めて。
『理解ニ苦シミマスネ。私殺シタトコロデ何モ変ワラナイトイウノニ』
「ああ、そうだろうな」
そう言って、ときちくは銃を下ろした。
確かにこの義体を破壊したところで左上にさしたる影響が出るわけでもない。
左上が、それを義体越しに視認した途端、
突如として、義体の左腕が斬り落とされた。
左上は驚きながら状況を把握しようとする。
ときちくは全く動いていない。刀剣の類も持っていない。
ならば――
さらに右腕が肩の部分から切断された。
2秒と経たずに義体の攻撃能力は失われた。
そして最後に、
「だけど、第一歩だ」
ときちくがそう言うのが聞こえた時、左上は目の前が真っ暗になった。
ちょうど目の役割を果たしていたカメラが、頭部ごと破壊されたからだ。
さらにその頭部は操作を受け取る場所でもある。
それにより、義体は完全に行動不能となった。
だからここから先は、左上が知らない事だ。
両手と首を?がれた義体は直立したままだ。
そしてその後ろに、同じ機械の存在が現れた。
「どうも」
『なに、構わない』
サイボーグ忍者はステルスを解き、刀を収めた。
屋上で義体の姿を見たときちくは、サイボーグ忍者を召喚しステルスをかけさせ、義体の後ろに待機させた。
そして『ある行動』をときちくがするまで攻撃しないようにしたのだ。
確実に、義体を行動不能にするため。
「さて、それじゃあこいつを運ぶか……」
そうしてときちくが義体を持ち上げようとした時、サイボーグ忍者が再び構えをとった。
ときちくも後ろを振り向く。
そこには、
「お前……」
『久しぶりだな、スネーク』
「…――スネークか」
裏口に、スネークが立っていて、ときちくとサイボーグ忍者を見つめていた。
◆◆◆
それより少し前。
デパートの裏口で身を隠していたタケモトたちは。
「……音が、しないな」
「こっちから出向いてみるか?」
不注意にもそう言わせてしまうほど、あれからときちくの追撃は無かった。
と言うより気配すら感じられない。それはいつもの事なのだが。
「待ち伏せしてるかもしれませんよ」
「ハッ、そんな冷静な事できる状態には見えなかったけどな」
「じゃあ他に何があるか言ってください」
「……なんかお前態度でかくない?」
「そんなことありません!」
「そうだな。でかいのは胸だったな」
「えっ!?」
「冗談だ。うるさい」
「……」
「タケモト、なんかお前最初の印象と変わってないか?」
「そうか?……まあ、こんな状況じゃ冗談の一つや二つ言わないとやってられないし」
その通りだ。
切羽詰って策すら見えないこの状況。
それにときちくの件でさらに追い打ちをかけている。
「よし、俺が見に行く」
馬岱が階段に足をかけた。
「いや、この際全員で動いたほうがいい。言葉、お前も来るか?自己責任だがな」
言葉は一瞬躊躇い、頷いた。
どのみちここでじっとしていても埒が明かない。
ならば自らで動くしかないのだ。
その時、上の階から爆発音がした。
「!?」
「…どういうことだ?」
「まさか――」
デパート内で生きているのは彼らの知る限り、彼らと、ときちくと、そしてスネークだ。
ときちくとスネークは所在不明。ならば、爆発はこの二人のどちらかが起こしたものと見るのが普通だ。
そして、爆発を起こすような事態と言えば――
急いで階段を駆け上がった。
あれ以上の爆発や銃声は聞こえてこない。
それはつまり、事が決着したと取れる可能性もある。
馬岱は滑り込むように2Fの廊下に辿り着いた。
奥まで見渡せる一直線の。どうやらここは現場ではなかったようだ。
爆発の余韻も、ヒトの気配もない。崩落した現場はこの壁を隔てた場所だ。
藤崎の死体は、おそらくそこに。
「反対側に行ってみるか」
「待ってください!」
「何?」
「これ……」
言葉がそう言って指差したのは、床や壁に点在している血の痕だ。
床には単に零れたような、壁には擦り付けられたような痕だった。
「私が上ってきた時にはこんなのは…」
「そうなのか?……しかもまだ新しい」
可能性としてはときちくかスネークになる。
しかしそう考えると不自然だ。さっきの爆発は誰が誰に対して行ったものなのか分からなくなる。
第三者の存在が濃くなってきた。それが残りの参加者なのか、それとも、なのかは判断できないが。
血痕は、階段の上の方に続いていた。
「面倒だな。叫んで呼べればいいんだが」
「仲間も殺人鬼も皆まとめて大集合だな」
「上に行くぞ。血の落とし主はこっちに行ったのはほぼ間違いない」
「そうなんですか?てっきり私は廊下の方に向かったものかと」
確かに、廊下の向こうにも血痕が見える。
しかし馬岱はそれを否定した。
「この血の擦り方を見ろ。明らかに歩きながら擦ってる。これを見ればどっちに行ったかは一目瞭然だ」
「罠の可能性は?」
「3割」}
|sm246:[[十六夜薔薇]]|[[時系列順>第六回放送までの本編SS]]|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm246:[[十六夜薔薇]]|[[投下順>201~250]]|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|タケモト|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|馬岱|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|ソリッド・スネーク|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|桂言葉|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|ときちく|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm246:[[十六夜薔薇]]|十六夜咲夜|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm242:[[第六回放送]]|右上|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm245:[[Fake]]|左上|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
|sm242:[[第六回放送]]|運営長|sm247:[[All Fiction Ⅱ]]|
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*All Fiction ◆WWhm8QVzK6
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#aa(){「ともかく、今は逃げたほうがいい!」
「ああ、俺達の武装じゃ万全に対処出来そうにないからな」
「でも、何処に逃げれば…!」
悲痛そうな言葉の声を銃声が掻き消す。
少なくとも、このまま何もしなければ距離を詰められて終わりなのは確かだ。
しかし、対処できる方法はあるのか。
再び銃声が止む。
弾倉を装填する音と足音が同時に響く。
もう躊躇っている暇は無い。
(一か八か…ッ!!)
意を決して、タケモトはデイパックに入っていた『あるもの』を投げた。
それは銃声が再開するのと殆んど同じ時だった。
そして刹那。
バァン!!! という爆音が周囲に鳴り響いた。
銃声よりもさらに大きな音に言葉は思わず耳を塞ぐ。
だが、その手はタケモトによって無理やり掴まれた。
「逃げるぞ!馬鹿!」
銃声は止んでいた。
しかし油断は出来ないため無理に攻めることはせず、脇目もふらずにタケモトは言葉を連れて逃げ出した。
馬岱もそれに続く。彼は一瞬振り返ると、ときちくが顔を抑えているのが見えた。
そして抑えた手の隙間から覗く眼球は、明らかに狂気に彩られている風に思える。。
口元は歪み、まるで嗤いを浮かべているようだった。
もう明らかに正常ではない。
そう思い馬岱は逃げ出し、ドアを潜り抜けたギリギリのところで再び銃声が始まった。
階段を半ば駆け抜けるように下り、前方のタケモトと言葉に追いつく。
「何を投げたんだ!?」
「首輪だよ首輪!上手くいけば爆発すると思ってな!」
タケモトはヤケクソ気味に馬岱の質問に答えた。
そう。タケモトが首輪を集める中で、一番最初に取得した首輪。
それはカミーユから斬り取ったもので、一部が破損していた。
つまりその破損部分に銃弾が当たれば爆発を狙えるのでは、と言う意図から彼は首輪を投げたのだ。
殺傷力は主催の折り紙つきで、お手ごろな爆弾である。数は限られているが。
「一発で決められれば良かったんだが……クソ、流石に同じ手は通じないだろうな」
倒せなかったのは聴覚で確認できている。
物陰に隠れていて狙いをつけられなかったので、首輪を大雑把に投げるしかできなかったのだ。
棚が倒されて物が散乱した食品売り場を走り抜ける。
そうして、エントランスに着いた。
「追って来てるか?」
「いや、全然……」
耳を澄ますまでも無く銃声は響いていない。
ガラスが割れる音が聞こえるが、それだけだ。
ときちくはよほどの錯乱状態にあるらしい、とタケモトは判断した。
「……どうします?」
「殺す。と言いたいところだが……」
「ああ、どう考えても不自然だ」
息を整えながらタケモトは馬岱に続ける。
「突然の崩落、ときちくの乱心、そして持っていない筈の銃。単にあいつの頭が狂ったってだけじゃ説明がつかない」
「妙な煙もあったぞ。多分あれは発煙筒のだと思う」
「マジでか?ならなおさらだな」
「誰かが何かをしたってことですか」
「そういうことだな。まともに考えるなら他の参加者…例えばドナルドとかがそうしたのかもしれない。
探知機での確認頻度は30分に1回だったし、もしかしたらそれまでに辿り着けない距離じゃなかったのかもな。
だがそれだと色々疑問が発生するが……例えばまだ俺達が襲われていないとか」
ドナルドの名前が出た時言葉は一瞬身体を震わせたが、それでもまだ先を訊くだけの余裕はあった。
「まともに考えなければ…?」
「…そうだな」
タケモトは一旦切り、そしてこう言った。
「そもそも参加者じゃない……運営の手先とか」
◆◆◆
「はッ…………はは」
哂う。哂う。
ただ、哂うしかない。
突きつけられた現実は容赦なくジブンの心を蝕んでいく。
酸に溶ける金属のように。泡沫のようにだんだんと精神が瓦解していく。
耐えられない。このアンリアルな現実に耐えられない。
だから、俺は。
「く―――あ、はははははははははははは!!!!!!!!!」
哂うしか、なかった。
銃を乱射させている手の挙動など崩壊の副産物でしかない。
ナニカを殺すという明確な意志はない。
当初、目に付く『幸せ者』を殺してやるという思考は、今はとっくに吹き飛んでいる。
哂いながら、歩く。哂いながら、引き金を引く。
どう転んでも救われない。出来の悪い悲劇の役者。
知らない間にタケモトと馬岱はいなくなっていた。
どこに逃げたのか。そんなことはもう、自分にとってみればどうでもよかった。
狂ったように哂いながら、目に付くものに銃を向ける。
しかし、それ以上の破壊は生まれなかった。
「はははははは!!!!!は、ひゃ、ははっ!!はは――――」
能無しのように弾倉が空になった銃のトリガーを引き続ける。
カチン、カチンと音がするだけだ。
わかっていた。本当は左上に言われるまでも無く気づいていた。
囲炉裏さんの死体を見た時から。彼の死体が彼ではないと気づいた時から。
気づかなかったわけが無い。気づいていないフリをしていただけだ。
考えないように、何も考えないように。それ以上の考えは破滅を生むと感じたから。
そんな現実は、あってほしくないと願ったから。けど、それは簡単に否定された。
ジブンが本当に、ほんとうに、作り物でしかなかったなんて――。
「――――ぁ」
声を途切らせる。
顔は絶望に染まり、歯を噛みしめすぎて歯茎から血が流れていた。
「なんで」
壁伝いに歩く。
足が震えて上手く歩けない。
「なんで、なんで、なんで」
もうアタマの中は真っ白だ。
まともな思考すら起こっていない。
でも、さらなる事実に気づいてしまった。
「なんで、狂ってくれないんだよ…………!!!!!!」
狂えない。狂ってくれない。
あれだけの真実を突きつけられて置きながら。
放っておいても一週間で死ぬと言われておきながら。
とっくに、セカイには絶望しかないと理解していながら。
狂ってしまえない。狂って、現実から目を背けることを許してくれない。
窓ガラスに、半分血塗れになったジブンの顔が写る。
俺のものですらない、偽者のジブンのものでもない、借り物の顔。
何処からどう見ても日本人には見えない。
さぞかし周りには奇妙に思われたことだろう。
もう、それも関係ないが。
「あ、あああ」
偽者だからヤツは俺を選んだのか。
道が残されていないから使い勝手のいい駒として引き抜いたのか。
「あああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」
ガラスを叩き割った。
何枚も。何枚も。何枚も。何枚も。何枚も。
ジブンの姿を写す、俺じゃない姿を写す鏡を。
「ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!―――ッゴホッ……ガハッッ…………」
十枚以上割って、拳から赤いものが滲んでる気がして、そこでようやくジブンの腕は止まった。
吐き気がする。
こんなにまでなっているのに生きていられるジブンに吐き気がする。
吐いた唾には血が混じっていた。叫びすぎて喉でも切れたのだろう。
口に出すのも馬鹿らしい事実。
こんな下らない。こんなものが俺の終わりなのか。
幸せな現実が残っているあいつらが羨ましい。本当に妬ましい。
希望など無い。あったのなら、こんな暴挙には出なかっただろう。
それを自覚している辺り、幾分か理性は取り戻せたか。
あの爆発はいい意味でも悪い意味でも気付けになった。
が、ジブンに現実を自覚させるには充分だった。
「どうすんだよこれ……、死ぬしかないだろ」
あいつらを殺したところでこの感情は消えてくれない。
なら、偽者が出来る事など精々限られている。
ふらふらと、ジブンは、階段を上っていた。
◆◆◆
「もう一度言う。質問に、答えろ」
スネークは、得体の知れないモノと対峙していた。
一方の義体は、やはり何も応えない。
今、『彼女』の最優先事項は現状の打破。
それにスネークに対する応答は当然の如く含まれていない。
一方的に喋るという選択肢はあるにはあるが……。
《ここは素直に退くべきでしょうね》
ときちくと相対した時には、ジャミングを行い、運営も含めたあらゆる感知を遮断した。
しかし今は違う。ものの見事にスネークと対峙する場面を捉えられてしまっている。
ゆっくりを潰した事に関してはまだ許容される範囲だろうがこれは流石に拙い。
どんなにグレーな状況を作っても構わない。クロと断定されなければ。
現状は、それに当て嵌まらないのは明白だった。
左上はそう判断し、義体を離脱に向けて動かしたその瞬間。
ガキィン、という音と同時に義体の制御が一時的に乱れた。
いや、その乱れはさらに続く。左上は、操作しながら左足の駆動が思うようにならないのを感じた。
スネークが銃弾を放ったのは明らかだ。
義体の装甲はそれなりだ。多少の事では壊れない材質になっている。
しかし、駆動部である関節を狙われれば話は別だ。
関節を保護するプレートの僅かな隙間。そこを正確に射撃されたのだ。
まだ動けない事は無い。以前のような機動力は失われたが。
だが、離脱にはもっと工程が必要だと左上は判断した。
生憎自爆装置は搭載されていない。そもそも自爆を意図して作られてはいないのだ。
義体の使用目的は職員が活動できないような場所での作業、さらに監視を目的としている。
すなわち最初から参加者と対峙するようなマニュアルは存在しない。
それを左上は、念のために(と言えば聞こえはいいが)両腕を改造して武器を装備したのだ。
動きを止めた義体を見たスネークは、それ以上の攻撃を行わない。
「ドナルドか咲夜の手先か?」
現実的に考えるならその判断は普通だ。
まさか運営が今更干渉してくるとは誰も思うまい。
『ダトスレバ、ドウシマスカ?』
左上は、それに乗っかることにした。
「……」
スネークの表情は変わらない。
義体の返答は状況的にYESと取れるものではある。
左上にとって口先で状況を乗り切るのは慣れない行為だったが、今のところそれ以外に迅速に
目的を遂行する方法はなかった。スネークからこれ以上傷を負わずに逃亡するには。
「それならば、貴様を止めるまでだ」
『ソウデスカ…。シカシソレデイイノデスカ?貴方ニハ仲間ガイルノデショウ?』
「何が言いたい?」
『先程ノ銃声……、果タシテアレハ誰ガ放ッタト思イマスカ?』
「………貴様!!」
『私ニ気ヲ向ケテイル余裕ハアリマセンヨ』
スネークは、迷った。
確かに銃声は聞こえた。明らかに自分たちが所持していないモノの、だ。
ドナルドか咲夜が襲ってきたのならば向かわねばタケモト達の命が危ない。
しかし、目の前のアンノウンを放って置けるほど短慮でいられる筈も無い。
こんな存在がここにいるという事は、何らかの命令を負っているに違いないのだ。
そしてそれはスネークの足止めではない。むしろ仲間の救助に向かうよう促している。
だが、けれど、それでも。
その迷いが。
「!!」
気づいた時にはもう遅かった。
発射音と同時に爆発。スネークの視界が瞬きの時間も経ずに爆風で占められる。
心に生じた僅かな躊躇いが、それを許してしまった。
舞った煙が晴れるのにそう時間は掛からなかったが、既に機械はいなくなっていた。
(…何処に行った?)
耳を済ませても何の音も聞こえない。
静寂しか、その場を支配していなかった。
(待て、何の音も聞こえないだと?)
遠くであった銃声すら止んでいる。
それが意味するところは。
(追うか)
機械の逃走経路はおおよそ予想がつく。
タケモト達の方は今は大丈夫だろう。完全な根拠は無いが、どちらにせよ探しても仕方がない。
それより今は機械を追跡しなければとスネークは考えた。
アレを逃すと、もはや取り返しがつかなくなる、と。
そうして、スネークは通路の右にある階段を下っていった。
◆◆◆
義体…もとい左上は階段を下り、エントランスから正面玄関に出て、外に飛び出た。
裏口にはタケモトらが陣取っている。
《スネークはこちらを追うことにしたようですね。ならそれはそれで好都合です》
しばらくはデパートの中を探し続けるだろう。
迅速に行動すれば充分に猶予がある。
なにより、首輪によって位置情報は掴めているのでこれ以上の接近は無いと左上は判断した。
義体は若干スピードを落として走りながら、ときちくの動向に気づいた。
ときちくは何故か、屋上にいるようだ。理由はわからない。
《何をしているのですか…?貴方は自分の役割を理解したはず。だからこそ銃を取ったのでしょう》
そうして藤崎を殺した。
それはもはや拭い去れない事実だ。
《まあ、構いません。どの道これでマーダーを増やすことには成功しましたから》
後はモールから格納庫に戻るだけだ。
ループした『向こう側』は多少小競り合いがあるようだが、上手く避けていけば出遭うことなく辿り着けるだろう。
そして義体はデパートの裏側に回りこみ、山の斜面を登ろうとした時。
後方で、ドサリと何かが地面に落ちる音が聞こえた。
振り向くまでも無い。首輪の探知でその存在は知れている。
しかし質問せざるを得なかった。
『マダ、何カ用ガアルノデスカ?』
ときちくが、顔面の半分を血塗れにして、そこに立っていた。
ときちくは質問には答えなかった。
表情はフードに隠れていて見えない。
しかし表情など左上にとっては気にもならない。
『ヨク無傷デ下リラレマシタネ』
「俺にアルタイルの力を持たせたのはお前だろうが」
造られる際に、ときちくには能力だけではなく、アルタイルが持っていた戦闘技術もダウンロードされていた。
その技術を以ってすればデパートの窓枠の凹凸を利用して降りることなど造作もないことだ。
ときちくは、銃を義体に向けることなく立っている。互いの距離は10mも無い。
『エエ、確カニソウデス。デスガ、ソレヲ分カッテイルナラ何故ソノ力ヲ残ッタ参加者ニ向ケナイノデスカ?』
理解できない、とでも言わんばかりに。
もとより、人形の言う事など理解するつもりはない、と左上は思考していたが。
「五月蝿いな。そんな事はどうでもいいんだよ」
『?』
ときちくは、突然銃を左上に向けた。
それは左上が与えた銃だ。
「俺はお前が一番憎くて仕方がない。今デパートにいるあいつらよりずっと、な。……こんなクソッタレな現実を
突きつけやがったお前を、俺は殺したくて堪らない」
左上は失笑した。
そして左腕の銃口を向ける。これ以上の反抗は許さないという脅しを込めて。
『理解ニ苦シミマスネ。私殺シタトコロデ何モ変ワラナイトイウノニ』
「ああ、そうだろうな」
そう言って、ときちくは銃を下ろした。
確かにこの義体を破壊したところで左上にさしたる影響が出るわけでもない。
左上が、それを義体越しに視認した途端、
突如として、義体の左腕が斬り落とされた。
左上は驚きながら状況を把握しようとする。
ときちくは全く動いていない。刀剣の類も持っていない。
ならば――
さらに右腕が肩の部分から切断された。
2秒と経たずに義体の攻撃能力は失われた。
そして最後に、
「だけど、第一歩だ」
ときちくがそう言うのが聞こえた時、左上は目の前が真っ暗になった。
ちょうど目の役割を果たしていたカメラが、頭部ごと破壊されたからだ。
さらにその頭部は操作を受け取る場所でもある。
それにより、義体は完全に行動不能となった。
だからここから先は、左上が知らない事だ。
両手と首を?がれた義体は直立したままだ。
そしてその後ろに、同じ機械の存在が現れた。
「どうも」
『なに、構わない』
サイボーグ忍者はステルスを解き、刀を収めた。
屋上で義体の姿を見たときちくは、サイボーグ忍者を召喚しステルスをかけさせ、義体の後ろに待機させた。
そして『ある行動』をときちくがするまで攻撃しないようにしたのだ。
確実に、義体を行動不能にするため。
「さて、それじゃあこいつを運ぶか……」
そうしてときちくが義体を持ち上げようとした時、サイボーグ忍者が再び構えをとった。
ときちくも後ろを振り向く。
そこには、
「お前……」
『久しぶりだな、スネーク』
「…――スネークか」
裏口に、スネークが立っていて、ときちくとサイボーグ忍者を見つめていた。
◆◆◆
それより少し前。
デパートの裏口で身を隠していたタケモトたちは。
「……音が、しないな」
「こっちから出向いてみるか?」
不注意にもそう言わせてしまうほど、あれからときちくの追撃は無かった。
と言うより気配すら感じられない。それはいつもの事なのだが。
「待ち伏せしてるかもしれませんよ」
「ハッ、そんな冷静な事できる状態には見えなかったけどな」
「じゃあ他に何があるか言ってください」
「……なんかお前態度でかくない?」
「そんなことありません!」
「そうだな。でかいのは胸だったな」
「えっ!?」
「冗談だ。うるさい」
「……」
「タケモト、なんかお前最初の印象と変わってないか?」
「そうか?……まあ、こんな状況じゃ冗談の一つや二つ言わないとやってられないし」
その通りだ。
切羽詰って策すら見えないこの状況。
それにときちくの件でさらに追い打ちをかけている。
「よし、俺が見に行く」
馬岱が階段に足をかけた。
「いや、この際全員で動いたほうがいい。言葉、お前も来るか?自己責任だがな」
言葉は一瞬躊躇い、頷いた。
どのみちここでじっとしていても埒が明かない。
ならば自らで動くしかないのだ。
その時、上の階から爆発音がした。
「!?」
「…どういうことだ?」
「まさか――」
デパート内で生きているのは彼らの知る限り、彼らと、ときちくと、そしてスネークだ。
ときちくとスネークは所在不明。ならば、爆発はこの二人のどちらかが起こしたものと見るのが普通だ。
そして、爆発を起こすような事態と言えば――
急いで階段を駆け上がった。
あれ以上の爆発や銃声は聞こえてこない。
それはつまり、事が決着したと取れる可能性もある。
馬岱は滑り込むように2Fの廊下に辿り着いた。
奥まで見渡せる一直線の。どうやらここは現場ではなかったようだ。
爆発の余韻も、ヒトの気配もない。崩落した現場はこの壁を隔てた場所だ。
藤崎の死体は、おそらくそこに。
「反対側に行ってみるか」
「待ってください!」
「何?」
「これ……」
言葉がそう言って指差したのは、床や壁に点在している血の痕だ。
床には単に零れたような、壁には擦り付けられたような痕だった。
「私が上ってきた時にはこんなのは…」
「そうなのか?……しかもまだ新しい」
可能性としてはときちくかスネークになる。
しかしそう考えると不自然だ。さっきの爆発は誰が誰に対して行ったものなのか分からなくなる。
第三者の存在が濃くなってきた。それが残りの参加者なのか、それとも、なのかは判断できないが。
血痕は、階段の上の方に続いていた。
「面倒だな。叫んで呼べればいいんだが」
「仲間も殺人鬼も皆まとめて大集合だな」
「上に行くぞ。血の落とし主はこっちに行ったのはほぼ間違いない」
「そうなんですか?てっきり私は廊下の方に向かったものかと」
確かに、廊下の向こうにも血痕が見える。
しかし馬岱はそれを否定した。
「この血の擦り方を見ろ。明らかに歩きながら擦ってる。これを見ればどっちに行ったかは一目瞭然だ」
「罠の可能性は?」
「3割」}
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