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「正義の味方Ⅲ -Ultimate Truth-」(2010/04/24 (土) 17:52:27) の最新版変更点
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*正義の味方Ⅲ -Ultimate Truth- ◆F.EmGSxYug
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#aa(){まだ日こそ昇っていないものの、オフィスビルの内部は暗くはない。
用意されている電灯と、ランサーアサルトのマズルフラッシュによって。
「ひゃーはーっ☆」
「うおおおおおおおおおおおおっ!?」
障害物の合間を縫って走りながら、ドナルドがフルオートで放つ銃弾から逃げる。
奇声を上げながら銃弾を乱射するその姿は、常人なら見るだけで金縛りに遭うこと請け合いだろう。
幸いなのは、ドナルドは片腕を骨折していること。
片腕で放たれるフルオート射撃は狙いが甘く、大味である。
銃弾の嵐の中をときちくは一気に足を踏み込み、デスクの裏に滑り込んだ。
(ったく、冗談じゃないぞ……
いくら弾入ってるんだ、あれ? 弾無限のコスモガンってわけじゃないよな……)
遮蔽物にときちくが隠れたことで、通常の手段で気配を読めなくなったか銃撃は止んだ。
既に、ドナルドとときちくの戦いによってオフィルビル一階は凄まじい有様だ。
もっとも、ほとんど――いや、全てドナルドによる破壊だが。
何秒保たれるか分からない平穏の中、ときちくはデイパックへ手を突っ込む。
剣だけではどうやってもランサーアサルトを打倒しえない。
それゆえに遠距離戦を補う道具が必要だ。しかし……
(くそ、これじゃない、これでも……)
2秒経っても、ときちくは目的物を引っ張り出せなかった。
支給品がありすぎることの弊害である。
デイパックに物を詰め込みすぎて、目当ての道具がなかなか出てこない。
たかが2秒、しかしドナルドにとっては十分すぎる2秒。
ときちくの耳に何かが滑ってくる音が響いた。銃声ではない。
とっさに頭から飛び、その場から離れる。同時に粉砕されるデスク。
――その何かの名前は亀の甲羅。リンの最後の支給品。
「蹴飛ばすと急加速して敵を倒す」という説明書きがされていたが、
そんな内容はリンにとって理解不能だったため死蔵されていたものである。
休憩中になされたドナルドの検分により、ここで日の目を見た。
(意図的に障害物を徹底的に排除しようとしてるのか?
まぁ、俺の能力に気付いてるみたいだし、それなら当然のことだけどな!)
デスクの破片を意に介すことなく、ときちくは腕を振った。
そう、破片による負傷など気遣っている暇はないのだ。
道化師が笑みを浮かばせながら、こちらに銃口を向けているのだから。
■
空気が重い。
目の前にいる文の視線が、何よりも重い。
自分はそもそも文に勝てるのか。そんなことすら思わせるくらいに。
「…………っ」
まだ戦ってないのに、何を考えてるんだろう、あたいは。
首を振りながら、バスタードチルノソードを一旦腰に掛けなおす。
バスタードチルノソードを使って戦えば、フラン戦の焼き直しになるかもしれない。
文相手に短期決戦で勝てる自信は無い。これを持って戦うのは危険だと思う。
「フリーズアウト――アイシクルソード」
氷の剣を二つを編み上げる。
今のあたいなら、今までとは比較にならないくらいの技術で使いこなせるはず。
不敵な笑みを浮かべた文に、氷の剣を構えて突っ込む。
数歩の間合いをあたいの最速で詰め。踏み込んだ、その瞬間――首輪へ、閃光が。
「な」
前へ駆け抜けようとした足を、後ろへ避けようと跳ばせた。
けど避けた瞬間に切り返しが来る。とっさに左手の氷の剣を重ねて逸らす。
いや、逸らしきれなかった。左肩を、緋想の剣がかすめていく。
血が迸る。
痛みに耐えながら、右の剣で胸を狙った一撃を防ぐ。
息つく暇も無く次撃、眉間。反撃なんて思う余裕すらない。
それを防いだ瞬間、合わせた左剣は砕け散った。
「アイシクルソード……!」
後退しながら必死に氷の剣を作り上げる。そこへ最短距離で接近してくる文。
今度は右剣が砕かれる。相手の姿に戦慄する。
単純な剣技なら、今のあたいの方が上だ。けれど、速さが違いすぎる。
そして文の力と緋想の剣の切れ味は、僅か数合で氷の剣を斬り砕くレベルだった。
即座に氷剣を作成する。けど、作るために掛けた時間が減れば減るほど精度は落ちる。
そして、戦いが進むごとに氷の剣を作っている余裕は無くなる。
「……ふん」
「あ……こ、この!」
閃光が走る。それに左腕を合わせると同時に、氷が割れる音を聞く。
――左剣はさっき以上の早さで粉砕された。
「――力を温存しようとするのは無駄です。
ここで本気を出さないのなら、あなたに後は無い」
「え? ……っ!?」
気がつけば飛んでいた。
見れば、文の足があたいを蹴り飛ばした形で静止している。
胸を肋骨ごと貫こうとするその一撃を、双剣で受けた瞬間……
双剣は破壊され、衝撃はそのままあたいを吹き飛ばしたらしい。
浮かんだまま咳き込み――隙をなくすために無理やり足を地面に叩きつけ着地した。
けれど、絶好の好機だったのに文は追撃してこない。足を止めたままだ。
「全力で来なさい。
あなたが思っている以上に、私とあなたの間には高い山がある。
スペルカードルールじゃなく――本気の決闘で私に勝ちたいと思うなら、全力よ」
「…………!
――分かった」
もう、悩んでる暇なんて、なかった。
バスタードチルノソードを両手で構えなおして、氷の一部分を解く。
そしてフランとの戦いでやったように、指を柄に触れさせた。
瞬間、意識が――唇を血が出るくらい噛んで――を無理や――戻す!
「っぐ……いくよ、文!」
頭痛をかみ殺して踏み込む。
文は僅かに息を詰まらせながらあたいの剣を受ける――そう、受けた。
まるで捉えられなかった、さっきまでとは違う。
……そう思った瞬間に、
「違う――そんなので全力だなんて、笑わせる!」
緋想の剣はあたいの剣を受け流し、返ってきた。罵声と共に。
緋想の剣にまともな太刀筋を期待するだけバカだ。
後退する、あの剣は弱点を突くだけで伸びるのは自動じゃない。
普通の時のリーチ自体は短い、射程外に離れれば避けられる。
「なるほど、確かに寸止めする必要がないくらいには強くなってる。
けれどそれが限界なら、あなたは私に勝てない。
元々剣技は範疇外だけど、それをこの剣は補ってくれる。
身体能力を考えれば、あの天人より上手くこの剣を扱えるかな」
文は息を乱さず、汗一つ無い。涼しい顔だ。こっちは痛みで頭が割れそうなのに。
喋っている間に、あたいは跳んだ。自分の剣を片手に持ち替え、構える。
「来なさい、ただのお遊びで私を失望させないように」
暗闇の中、夜の風に響く声。それに対する答えは掌に集めた冷気で。
「霜よ――フロスト、コラムス!」
あたいの言葉と共に、地面全てを覆い尽くす氷の刃。
自然、それは立ちっぱなしの文に対しても襲い掛かって――
同時に、文が舞った。そうとしか表現できなかった。
緋想の剣が光り、回ると共に、文の周囲の霜だけが全て消えた。
風の力さえ呼び起こせなかった冷気は、八つ当たりのように草だけを枯らしていく。
半ば戦慄しながら着地したあたいを待っていたのは、罵倒。
「それで全力ですか? 期待していたのに」
「あんたの力じゃなくて、剣の力でしょ……!」
「それはお互い様でしょう。
チルノさんだって、剣技をその剣から学んでいる。条件は同じです。
なんなら、素手で戦ってみますか?」
文の言葉は、反論しようがなかった。
……確かに、そうだ。
あのときの流れを考えれば、そうなってると考えるのが明確だ。
「反論したいのなら。
変わって手に入れた全てを、私にぶつけてきなさい!」
バスタートチルノソードをばらし、双剣にする。
落ち着け。冷静に、考えろ。
急所へと、刃を引きつけさせるのがあの剣の特性。
逆に考えれば、それほど読みやすい剣筋はないはず!
「……何か考えてるみたいですけど」
文の呟きの言葉に答える余裕も無く、あたいは左剣を振りかざした。
■
ときちくを銃口に捉えたドナルドが、引き金を絞る。
瞬間、ときちくが投げたナイフがドナルドの目前に迫った。
反射的にそれを避けるドナルド。ほんの数瞬ではあるが、時間が稼げた。
その隙を使い、更にときちくはもう一つのものを投げる。レンのデイバッグ。
ナイフと比べて明らかに弾速の遅いそれにドナルドは構わず、引き金を引く。
デイバッグは銃弾によって引き裂かれ、バラバラになり……
その中にあった支給品が爆発するかのごとく溢れ出して、ドナルドの視界を塞いだ。
とっさに自分の顔面を庇うドナルド。僅か数秒、しかし重要な数秒。
視界が戻ると、そこにはときちくの姿は既にない。
舌打ちをしながらドナルドは周囲の魔力を集めつつ、ときちくの位置を探る。
(……魔力についてはさっき派手にドナルド・マァジック☆を使ったばっかりだし、
温存したいねぇ、ランサーアサルトの銃弾もまだまだ200発は軽くあるはず☆)
すぐさまときちくの位置は分かった。柱の影。ドナルドは素早くそちらを向き。
「オヒョー☆」
「チッ!」
奇妙な動きで、ときちくの射線から外れた。
当然、彼が放った銃弾は虚空へと消えていく。
銃声に遅れること2秒、敵が銃を持っている事に気付いたリンは慌てて姿を隠した。
(仕留めそこなったか……勘弁してほしいんだけどな。
こんな拳銃でフルオートのライフルとやり合うとか……)
別にときちくは好戦的なわけではない。むしろ交戦は避けたいタイプだ。
しかし死を座して待つタイプでもない。そして、道具は他にもある。
柱に隠れている時間を使って、ようやくときちくは目的物を引っ張り出せた。
柱の影から更にそれを投げつけようとし……ドナルドの姿がないことに気付いた。
「ドナルドエクササァーイズ☆ 上級編!」
「!?」
横から響く奇妙な声。
回り込んだドナルドに反応する余裕もない。
左肩に銃弾が直撃し、もんどりうって倒れていた。
■
剣が交差する。
互いの得物はそれぞれの刃の色に相手を染め上げようと輝き奔る。
だが、その実力差は歴然だ。
幻想郷最速の剣を、彼女は捌ききれない。
「ぅ……く……!」
チルノの苦悶の声は、もはや何度目かも分からない。
それでも、未だバスタードチルノソードは緋想の剣と火花を散らしていた。
防いでいる。
ただ、反射神経がよいだけでは防げない。
しっかり次手を考えて、チルノは戦っている。
戦闘中の咄嗟の思考。閃きではなく、考えた結果の戦術。
「…………」
真剣な表情で、文はそれを観察する。
妖精ごときが1000年を生きた天狗に敵うわけがない。
それでも、もう保つまいがこうしてチルノと文は互角に戦っている。
再度、火花が散る。
依然剣を動かす腕とは別に、冷静に頭が思考する。
剣を振ることに本気になって、果たして本気になっていると言えるのか。
文の能力は風を操ること。
剣を操ることでは断じてなく、そして今までこの戦闘で文は一回も風の力を使っていない。
(……バカは私か。
チルノさんがなんで変わったのか、何が変わったのか見るために、自分を危機に晒すだなんて)
舌打ちする。
最悪、変化次第では今のチルノが強力な敵となる可能性もあるのに――
いつの間にか、チルノの変化を見極めることに主眼を置いている。
今すべきことは彼女を屈服させ、ドナルドの手元から引き戻すことなのに。
ずいぶんと私も甘いなと心中で吐き捨て、文は緋想の剣を叩きつけた。
■
今まで通り刃が奔る。だが、その剣筋はどこが肩に力が入っている。
(チャンスだ!)
切っ先は真っ直ぐに私の首へと迫り来るはず。迎え撃つように双剣の片割れを。
そして、読み通りに奔る文の剣。弾けると確信した。そうすれば後は簡単だ。
距離を一歩で踏み越え、もう片方を文へと振りぬく。
夜の闇に透き通る剣閃。緋想の剣がアタイの剣とかち合う。手応えあり。
そのまま踏み込んで、会心の一撃を放とうとした瞬間、悪寒が走った。
文の剣は止まっている。それなのに空気が断たれる音が聞こえる。
「あ、く……!」
後先に考えずに地面を蹴った。受身なんて取れずに転がった。
同時に、剣を振った勢いのまま繰り出した蹴りが風のように――いや、風を纏って繰り出されていたのが見えた。
「……あやふやね」
あたいとは正反対に、文が悠然と歩いてくる。
傷一つなく、姿勢が崩れることもなく、息が乱れることもなく。
「バカみたいな反応の速さと剣術。
その割に、ちっとも氷は使わない。あなたは本当にチルノさんですか?」
「何を言って……」
「そうかな。
じゃあ聞きますけど、自分が前のままの自分であるという確信がありますか?
自分の思考が、ちゃんと自分で考えたものかどうかは?」
「…………そんなの」
決まってる、とはとても断言できない。
ずっと悩んでばかりのあたいは――自分さえあやふやで。
喉の空気が留まったのを読み取ったように、あたいの答えを待たず文は続ける。
「確かにあなたは強くなった。その剣技ならば、白狼天狗とも渡り合えるでしょう。
けど、それは決してあなたのものではない。
あなたの剣は、どこか知らない誰かの剣を、
どういうわけかほぼ完璧に模倣しているに過ぎない。
私の推測に過ぎませんが……たぶん当たっているでしょうね」
そうして、文は左手を掲げた。
途端、空気が抜けていく。まるでここが真空になったかのように錯覚させる、威圧感。
あたいにも分かるくらいの……異常な風の流れ。
「そもそも私たちは剣を競うものではない。
――得意分野で、ケリを付けましょうか」
指を鳴らすスナップ。脳裏を走る恐慌の隙間風。
その号令の元真っ向から次々に走り出す風の刃を、
それぞれの速度と軌道を読んで、最初に来た弾を前傾姿勢で潜り抜けながら前進、
その姿勢でも当たる刃へ双剣を振り下ろし斬り払い、
再び一本に組み立て上げると共に地面に突き立て棒高跳びの要領で跳ぶ!
前宙返りしながら着地しつつ反撃の氷弾を撃つため掌に霊力を……いや、
反撃の余裕なんてない。着地の隙を縫うように迫る低速の追撃弾を氷の壁で防ぐ。
それでもなんとか距離を詰めようとして――氷の壁が割れた瞬間、絶句した。
防戦一方の相手にチェックメイトを掛ける様に、
文は緋想の剣から竜巻を起こしている――!
(フランにやった、アレだ!!!)
鴉は死を告げる、というどこかの言い伝えを思い出した。
緋想の剣は死者を啄ばむ嘴のごとく逆巻く。とっさにあたいも掌に霊力を集中した。
間違いなく、文の次の一撃は生半可なものじゃない――!
■
「ガッ…………!!」
苦悶の声を上げながら、銃弾を受けたときちくは倒れこみ、床を滑る。
その衝撃で、銃は手から零れ落ちている。
絶好のチャンス。捕らえるにせよ、殺すにせよ。
……しかし、ドナルドはそれを出来ない理由があった。
『トゥートゥー』
「……なにかなぁ、これは?」
ときちくが投げようとしたもの、それはモンスターボールだった。
倒れた際に手から毀れはしたが、それでもしっかりネイティオは出てきたようだ。
未知の生命体相手に、一瞬ドナルドも反応を悩んだ。
それが、ときちくにとっての逆転の隙となる。
「くっ……」
「おおっと☆」
倒れながらもときちくが放ったナイフに、ドナルドは再度跳ぶ。
もっとも倒れながら姿勢を正すこともなく片手で投げたナイフだ、
ドナルドが跳ばなくても致命傷にはならなかっただろう。
ときちくもそんなことは分かっている。牽制の意味合いが強い。
その隙に、ネイティオはマスターをカバーすべくときちくの元へ滑空する。
すぐさま、命令を出した。
■
文字通り、風が変わる。
緋想の剣で気質を変えていきがら、文は嘯きはじめた。
「吸血鬼に放った時のアレね……
緋想の剣でも風は起こせますけど、やっぱり葉団扇とは微妙に違うんですよね、風が。
端から見ていると同じかもしれないんですが、やってみると微妙に質が違います」
風の中に声が響く。ぎしりと空間が軋む。
振りかぶった腕には、気質を司る剣。
「避けるなんて無理なことは考えないように。
私に勝ちたいって言うなら、受け止めてみなさい。
風よ、捲れ――」
月夜に紡がれる声に緋想の剣が応える。
風の天狗は振りかぶった腕を振り下ろし、
出された怒号は、全てをなぎ払う魔風と化す――!
風が、オフィルビルを揺らす。地震のごとく、余波だけで建築物を歪ませる。
だが、チルノは死を受け入れるように目蓋を閉じていた。
――剣を強く握り締めて。
文が訝しみかけた刹那、チルノは目を開け。
「グレイシャ――ウォール!」
見せたことのない氷河を、顕現させた。
■
「吸血鬼に放った時のアレね……
緋想の剣でも風は起こせますけど、やっぱり葉団扇とは微妙に違うんですよね、風が。
端から見ていると同じかもしれないんですが、やってみると微妙に質が違います」
文の動き、そして明らかに異質なものになっていく空気に慄然とする。
強く握り締めすぎたのか、右手から痛みが走る。
思わずそこを見た。……そこにあるのは、剣。唯一の打開策が、ある。
……わかってる。
『今の』あたいじゃ勝てない。
これを振って挑みかかれば勝てるというなら、とっくにそうしてる。
多分文がこれからすることは、剣技でどうにかなることじゃない。
「……ッ」
情けない。分かってるんだ、本当は。
この剣を持ってすべきことは、そんなことじゃない。
今のあたいのすべきことは、柄を覆った氷を解かして、そして……。
でも指だけで握ってるだけでも辛いのに、これを直に握り続けて戦える保証は無い。
流れてくる何かに頼るのは、人間が凍った海に自分から飛び込むのと同じ。
呼吸はできず、動こうとしても寒さで身体は動かなくなって――そのまま溺れ死ぬ。
そんな無謀なことは……
――力を温存しようとするのは無駄です。
ここで本気を出さないのなら、あなたに後は無い。
脳裏に、文が言った言葉が思い浮かんだ。
恐怖を振り払うように息を吐く。それでも怖い。だから柄を凍らせた。
これを握ってたら、ほぼ確実にあたいは死ぬから。
でも、このままでも死ぬ。絶対に死ぬのと、ほぼ確実に死ぬ。その二択。なら。
剣を握っている人差し指を上げる。
その指を氷に下ろして、とんと叩けば柄を包んでいる物が消える。
剣からあたいを守っていたものがなくなる。
あの痛みに耐えられる保障なんて無かった。
けれど、あたいは迂遠な方法でこの剣を持ち続けた。
理由は単純。この剣のおかげで強くなってるって、自覚してたから。
――そう。
結局この剣をどう使うかなんて、最初から決まってた。
「避けるなんて無理なことは考えないように。
私に勝ちたいって言うなら、受け止めてみなさい。
風よ、捲れ――」
もう数秒も待たずに来る。迷ってる暇なんて無い。
深呼吸を一つ。指を下ろす。
そしてあたいは、一気に掌を握り締めて――
意識と言う名の氷が、ぱりんと割れた。
聴こえない。聴こえすぎて、逆に聴こえない。
何も見えない。見えすぎて、何も見えない。
たくさんの音が響いていて、吹雪いている音のようにしか聞こえない。
たくそんの映像が交じり合っていて、真っ白になっているようにしか見えない。
自分が気絶しているのか、していないのかさえあやふや。
声さえ出せない。息すら吐けない。
諦めない。体が動かないなら、せめて目の前に映るものを確認しようとした。
ばかみたいにたくさん現れては消えていく何かを。今状況がどうなっているのかを。
わからない。
吹雪は考えようとするあたまさえ蝕んでいく。
からだもこころも、雪の中にうもれていく。
風は錘のように身体を拘束して、雪は氷のように精神を縫いとめる。
動こうとしても爪の先さえ動かず、見ようとしても心が潰れそうになる。
なにもかも、まっしろになっていく。
それでも、無理やり目を凝らすと。
それを待っていたように、ひとつの光景が止まった。
『ここの池は静かだし、蓮の花が何だかこの世の物じゃない雰囲気を見せるのよ』
……覚えている。
いつも以上に、妖精のみんなが騒がしかった時。
文と出会って、閻魔のやつによくわかんないこと言われて。
その時のあたいは。死ぬっていうことが何なのか、考えていた。
『感傷的になるにはまだまだ早いわ。
だって、花はまだまだ咲き続いています。
今からそんなに感傷的だと、散るときは大変ですよ?』
紛れも無く、文に聞いたこの言葉はあたい自身のものだと胸を張って言える。
もう、あたいはどこまでが本当の自分で、どこからが違う自分のものなのかあやふやだけど、これは。
今だって、死ぬことが何かは、よく分からない。
けれど、分かったことは、ある。
謝らないといけない。
フランを傷つけてしまったことを。
傷つかせたくない。
きっとあたいの帰りを待ってる、大ちゃんを。
失いたくない。
みんなの、あの笑顔を――文の、あの言葉を。
花が散ると、わけもなく気が重くなる。
文にだって、待ってる相手がいる。だからたぶん、失うのは辛い。
誰にだって、待ってる人がいる。だからきっと、失うのは悲しい。
そうだ、だから、迷ってる暇なんてない。迷ってるなんてそれこそバカらしい。
――だから!
「失って――たまるもんかぁ!!!」
今までに無いほどに強く。
アタイ愛用の剣を、握り締めた。
視界が戻る。経過した時間は、実際は1秒もなかった。
自分の力は全て理解した。今の自分の必要なものも。
剣から流れ込んでくる何かを読み取り、並行世界から能力と知識を汲み取る。
そして、コピーできるのは剣技に限った話じゃない。
他の能力を他の世界にいるあたいに合わせて、汲み取ることも可能。
文の声が響く。時間は無い。
目を閉じて、今の自分に必要な能力をコピーする。
必要なのは、霊力。風を押し返すくらい、強い氷。
――弾幕の風。
能力が大きく向上した世界の、凍らせる能力を大幅に引き上げた「私」が見える!
「グレイシャ――ウォール!」
目を開いて、意識をこの世界に戻し。
あたいが見せたことのない私の氷河を、顕現させた。
「なっ――!」
文の声も、魔風と氷河が激突する音に飲まれていく。
世禁忌の枝の名を冠した炎さえなぎ払った風を、容易く受け止める遠大な氷の海。
だがそれも当然。風ごときが南極の氷を崩すことは無いように、
この守りを魔風が突破できるはずは無い。少なくともあたいはそう思って使ったのだから。
まるで金属音をこすり合わせたような異様な音が響く。
けど、まだ、魔風は決して勢いを緩めない。
同時に、剣から引き出した違う「私」の霊力と知識は、あたいの意識を削っていく。
「く――ああああああああ…………!!!!」
迫る氷河と魔風。
それを直前にして、あたいは吼えながら剣から吸い上げた全霊力を掌に注ぎ込む!
意識が削られるのは問題ない。必要なのは、何よりも強く自分を保つこと。
なら、最強のあたいにそれができないはずがない。
あたいが最強であるのなら、なおさら自分に負けるはずなんてない――!
「ぶっ……とべぇえええええええっ!!!」
風が飲み込まれる。そのまま氷河も共に消える。
残っていたのは、風と氷に飲み込まれて消えた、オフィルビルのすぐそばの家。
……そして例え自分を保っていても、剣を直に握った代償の頭痛。
だから。
「――これくらいで油断する。
バカは死ななきゃ治らない!」
「なっ!?」
気がついた時にはもう、文が目の前にいた。
剣技をダウンロードしなおす暇もなく、無我夢中で技術もないまま剣を翳す。
かろうじて緋想の剣を受け止める。受け止めた、だけだ。
鍔迫り合った剣が押し返される。明らかに体勢が悪い。「私」には筋力も無い。
このまま押し相撲すれば、こっちが負ける。
「……どう見ても剣技が劣化してる。莫大な霊力を得た代償かしら」
冷静な言葉が頭に響く。
こっちは必死に頭痛に耐えているっていうのに、文は疲労さえ見せていない。
なんとか再び剣技をダウンロードしなおそうとして。
「――ところで、聞きますけどチルノさん。
あなたが本当に、最強だと思う定義は何ですか?」
文の刺すような言葉に、あたいの動きは止められた。
「そんなの……誰よりも強いってことに決まってる……!」
「成程。
では、私に苦戦している時点であなたは最強ではありませんね。
無傷で私をあしらえるような実力の持ち主が、ここにはいたんですから」
「な……」
嘘だ。嘘に決まってる。
こうして戦ってみて分かる。文は強い。
そんな文を無傷であしらえるような奴がいるだなんて、とても信じられない。
絶句しているあたいをみて、ふん、と文は息を吐いた。
「……やはり、以前とは違うみたいですね。
「なに、を……!」
「私の知ってるあなたなら、こう言われても子供みたいに暴れるだけでしょう。
あなたが真面目に悩んだりなんてしたのは、私は一回しか知らない。
その際も結局、あなたはよく分からないままで終わっている。
けど今のあなたは違う。それにあなたの元々の在り方が追いついていない。
バカだったから、負けてもけなされても学習しないで最強だと言い張れた。
けれど、今のあなたはそんな愚かさを失ってきている――不運にも。
だから、自分の幼稚な信念を突っ込まれると、こうして律儀に迷う。
だって、信念の程度と今のあなたの頭の程度が釣り合っていないんだから」
今まで見たことが無いくらい、冷たい瞳で文は言う。
反論できない。違う。違う、定義。
とっさに頭が探る。剣から違う世界の知識が漏れる。
あたいが知らなくても、違う世界のアタイがそれを識っていた。
そうだ、強いってだけじゃただのアビリティだって、レティが……
「ち、がう……」
「?」
「弱きを助け、強きをくじく……
最強の矛を殴り飛ばす、最強の盾、正義の……」
「今の貴女ならもう分かっているでしょう。
あなたが今言っている理想はただの借り物。
その剣の影響で知ったモノ、他人が正しいと信じたモノを真似しただけ」
けれど、それをそのまま言うと、ふん、と文は見下した。
「ち、違うッ!」
「だから借り物だと言ったんです。今のあなたは感傷的以前の問題。
今のあなたの思想は、決して『チルノ』のそれではないのだから!」
まるで心を読んだかのような正確な言葉を伴って奔る緋想の剣。
それで、持っている剣ごと体が10メートルは弾き飛ばされ、地面に転がった。
盛大な土煙を上げながら、地面の砂に削られる。
「――――げ、ほ」
咳き込みながら、それでも倒れることだけは嫌だった。
なんとか膝を起こし、剣を地面に突き刺して持ちこたえる。
歪んだ視界の中で……咳き込んだ時に口から血を吐いていたことに気づいた。
「期待しているとは言いましたし、あなたを題材にしたいとも言いました。
ですがそれはあくまでチルノさんという存在で――
チルノさんの皮を被った誰かではない。今のあなたは成長したわけじゃない。
ただ余所から持ってきたものを継ぎ接ぎしただけなんだから。
あなたは私を止めると言いましたね。あんたの行動は間違ってると。
目を覚ましたらどうですか――大切なものを見失ってるのはどちらでしょうか?」
決してその信念は、あたい自身のものではない。
そう、文は言い切った。
確かに言う、通りだった。
『アタイ』は決して『あたい』ではなく、決して同じ存在であるわけじゃない。
『アタイ』は決して、文の知るチルノじゃない、だから、文は怒って当然だと思う。
それでも。あいつだって、『あたい』と同じ、心を持ってる。
震える体に、力を込める。
さっきまでのあたいなら、この言葉で揺らいでいたかもしれない。
けど、もう決めたんだ。迷わないって。
その信念が自分のものでなかったとしても。
『アタイ』のものをそのまま上書きされただけだとしても。
アイツが『正義の味方』って言葉に憧れたように――
あたい自身もそれをかっこいいと思ったことは、胸を張って言える。
文は言った。それは決してあたいのものじゃないって。そうかもしれない。
それでもこの感情だけは、決して最初から変わってない。
最初、誰も殺さずみんな部下にすると誓った。
それが子供染みた馬鹿な思考から来たものだとしても、それはきっと自分のもの。
――だから、もう迷わない。憧れたとおりに……正義の味方を、貫き通す!
顔を上げる。
自分の力には限界がある。それでも、あいつはそれを突きつけられても戦った。
それなら、同じ「チルノ」という存在なら、あたいにできないはずがない!
「――これだけ言っても」
立ち上がる。文の言葉を、飲み込んで、押し殺す。
そうだ。あたいが最強を目指すなら。強くありたいのなら。
「文、あんたは強いよ、ほんと。それは認める。
けどね――あたいは、負けてなんかいられない!
あんたが言った理屈、全部あたいの力で吹っ飛ばして――
この気持ちが間違いじゃないって、証明する!」
自分に勝つことなんて、最低限の条件に違いない――!
■
立ち上がるチルノに、文はむしろ驚愕を覚えていた。
理想の脆さを突きつけられた。走ってきた理由の矛盾を知った。
今までのチルノなら、泣きじゃくって暴れるだけだろう。
さっきまでのチルノなら、呆然として地に手を着くだけだろう。
それなのに文をまっすぐ見る、強い瞳。
その瞳にあるのは幼稚な反骨心ではなく、自分の中で理を見出した光。
不安定だったはずの道が、自ら編み上げた意志で安定していく。
文にとっては不利益なはずだ。
こうなった以上、チルノがおとなしく文の言うことを聞くことはなく。
今のチルノは、文と言えど楽に勝てる相手ではない。
けれどなにか――彼女の胸中に走るものがある。
「く――なら。
私に言うことを聞かせたいのなら、勝ってみせるくらいは当然の理ですよね!」
それを否定するように、強い言葉を放つ。
言い負かせる相手ではない。暢気に観察できる相手ではない。
ただ待っていれば彼女の剣に、覇気に、意志に押し負ける。
だから、様子見ではなく全力を出す。
ついに文は、チルノが対等の相手であると認めた。
緋想の剣を振りぬく。文の身体能力に、気質と風を重ね合わせて加速した。
今までにないほどの剣速で迫る最速の剣撃――!
「――え?」
ギン、と音がした。弾かれる音が。
これより遅い剣さえ防げなかった筈の相手は、一撃を当然のように弾き返した。
それどころか、文の手元を狙って斬り返される敵の剣。慌てて風を放って流す。
そのまま斬りあうこと十数度。
足へ、首へ、胸へ、腕へ、頭へ奔る緋想の剣。
その悉くを、チルノは弾き返した。
「……これ、が」
だから、文が息を呑むのも当然だ。
チルノは自分の道を、凄まじい速度で踏破していく。
けれど、陥穽はある。
たとえ今は互角であろうと、負担が違う。
精神が定まろうとも、体は、能力は、いまだ不安定。
ここを凌いでも、いつか限界は来るだろう。
なのにいつのまにか――それがどこまで続くのか、見届けたいと思っていて。
「待って……それ以上は、あなたの体が」
思わず、静止する言葉を漏らしてしまう。チルノを、ではない。
いつの間にかチルノを認め始めている、自分を静止しようとする言葉。
自分さえ生き残ればいいという彼女にとって当然なはずの主張が、
幼く、無謀だったはずの意志の前に屈しかけていることから目を背ける言葉。
とっさに放った、文にしては弱い言葉。
「バカは、死ななきゃ治らないって……言ったのは、あんたでしょ!
悪いけど――」
だから、あっさりチルノに、反論される。
■
「待って……それ以上は、あなたの体が」
「バカは、死ななきゃ治らないって……言ったのは、あんたでしょ!
悪いけど――」
力が欲しいわけじゃない。
欲しいのは、みんなが笑ってすごせるっていうこと。
知り合ってる相手にすらそれを貫けないやつが、ずっとそれを貫けるわけがない。
だから、やることはひとつだけ。他には、もう、何もいらない――いるもんか!
「あたいは治す気なんて、毛頭ないッ!!!」
再度、体を起こす。左腕の中で、電流が走る。
――ただの模倣じゃ、どうやったって文には勝てない。
どんな技術をコピーしたって、それは所詮真似だ、あたいの能力じゃない。
だから、あたいの能力は自分で作る。
複数の世界の能力を同時にコピーして、それを元に新たな戦術を編み上げる!
両手での一刀。
そのまま、「私」の莫大な霊力で編み上げた大剣を、「アタイ」の技術で叩きつけた。
■
声は高らかに。
決して解けぬ、絶氷の意志を謳う。
「あたいは治す気なんて、毛頭ないッ!!!」
不吉な音が響く。
とっさに動かした風の剣が、容易くチルノの氷剣に圧倒される。
「なっ――」
まるで鬼のような一刀に放心し、文は我に帰った。
まともに受ける余裕は無い。一閃が、ありえないほど重い。
なんとか受け流して後退する。だが、あれとまともに打ち合うことなど無理だ。
いや、恐らく天狗の中で真っ向から打ち合える存在は天魔のみ。
あれをまともに振らせないよう、こちらから攻めるしか手立ては無い。
「いいでしょう――なら!!!」
文が緋想の剣を振り上げる。
霊力をつぎ込まれたそれは、2m近くまで巨大化した風の剣と化す。
夜闇の中を緋想の剣は夜明けのように照らし、同じ大きさの氷の剣はそれを鏡のように照り返す。
それを見ても、チルノは止まらない……あるいは、止まる余裕が無いのか。
シンメトリーのように、それらは鏡合わせに動き出し。
「たぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」
「――ハッ!!!」
裂帛の気合と共に、爆風を巻き起こして衝突した。
その力に耐え切れず最初に崩壊したのは、二人の足元の地面。
周辺の地面が風と氷の余波に耐え切れず、ひび割れて爆発し、隆起する。
そのまま緋想の剣が弾き飛ばされる。巨大化した氷の剣も、また。
剣と霊力は互角、だが――
「っぐ……!!」
体術なら、まだ文に分がある。
すばやく叩き込まれた追撃の蹴りが、チルノの腹部にめり込んでいた。
その体が宙に浮く。口から血の塊が吐き出される。
「まだ、だぁっ!!!」
「っ!?」
それでも、チルノは止まらない。死ぬまで、死んでも止まらない。
吹き飛びかけた足を無理やり地面ごと凍らせて縫いとめ、腕を振り上げる。
とっさに巻き起こる竜巻。それは風の壁としてチルノを阻む。
けれど、チルノは怯まない。
――この願いが、空の星を掴むように無茶なことでも、諦めない。
「グレー、ト……」
チルノの手が光る。その手には既にバスタードチルノソードは一本も無い。
だがそれでも、先ほどの氷の剣に勝るとも劣らぬ巨大な槌が編み上げられる。
――ましてや、今なら、きっと!
「クラッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
絶叫。
紛れも無い彼女自身が生み出した巨大な氷槌と、文の壁が激突する。
チルノを拒むような風の壁が、グレートクラッシャーと火花を散らす。
金属が擦れるような音を上げながら、氷槌は削れていく。
その中で、彼女は叫んだ。
「文――あたいはあんたに勝つ!
勝って、あんたも、みんなも、助けてみせる!」
そうして、文はそれと向き合った。
叫びながら、まっすぐに向けられるその視線。
愚直でバカで――けれどそれ以上に純粋で。
ただ自分に出来ることを突き詰めて、自分の限界を知っても、
いつかそれを超えてみようとする――その、強さ。
天狗をも圧倒するほどの強さを持った、妖精。
それはかつて、彼女自身が期待していると言った――
グレートクラッシャーは半分近くを削り取られながら――今までと違う音を出した。
音は空気を伝わるもの。それが変わったということは、空気が変わったということ。
「……ぁ」
文が声を漏らした時には戦いは、終わっていた。
風の壁を突き破り、文に迫った巨大な氷槌。
それは文に届く寸前で、止められていた。
――疑うまでも無く。チルノの自身の、手によって。
それが意味することに、文が疑問を差し挟む余地は無かった。
息を荒げ血を吐きながら、それでも強く突き刺さるチルノの視線に、
傷ひとつない文はゆっくりと、目を閉じて。
「……私の、負けね」
愛しむように、呟いた。
■}
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*正義の味方Ⅲ -Ultimate Truth- ◆F.EmGSxYug
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#aa(){まだ日こそ昇っていないものの、オフィスビルの内部は暗くはない。
用意されている電灯と、ランサーアサルトのマズルフラッシュによって。
「ひゃーはーっ☆」
「うおおおおおおおおおおおおっ!?」
障害物の合間を縫って走りながら、ドナルドがフルオートで放つ銃弾から逃げる。
奇声を上げながら銃弾を乱射するその姿は、常人なら見るだけで金縛りに遭うこと請け合いだろう。
幸いなのは、ドナルドは片腕を骨折していること。
片腕で放たれるフルオート射撃は狙いが甘く、大味である。
銃弾の嵐の中をときちくは一気に足を踏み込み、デスクの裏に滑り込んだ。
(ったく、冗談じゃないぞ……
いくら弾入ってるんだ、あれ? 弾無限のコスモガンってわけじゃないよな……)
遮蔽物にときちくが隠れたことで、通常の手段で気配を読めなくなったか銃撃は止んだ。
既に、ドナルドとときちくの戦いによってオフィルビル一階は凄まじい有様だ。
もっとも、ほとんど――いや、全てドナルドによる破壊だが。
何秒保たれるか分からない平穏の中、ときちくはデイパックへ手を突っ込む。
剣だけではどうやってもランサーアサルトを打倒しえない。
それゆえに遠距離戦を補う道具が必要だ。しかし……
(くそ、これじゃない、これでも……)
2秒経っても、ときちくは目的物を引っ張り出せなかった。
支給品がありすぎることの弊害である。
デイパックに物を詰め込みすぎて、目当ての道具がなかなか出てこない。
たかが2秒、しかしドナルドにとっては十分すぎる2秒。
ときちくの耳に何かが滑ってくる音が響いた。銃声ではない。
とっさに頭から飛び、その場から離れる。同時に粉砕されるデスク。
――その何かの名前は亀の甲羅。リンの最後の支給品。
「蹴飛ばすと急加速して敵を倒す」という説明書きがされていたが、
そんな内容はリンにとって理解不能だったため死蔵されていたものである。
休憩中になされたドナルドの検分により、ここで日の目を見た。
(意図的に障害物を徹底的に排除しようとしてるのか?
まぁ、俺の能力に気付いてるみたいだし、それなら当然のことだけどな!)
デスクの破片を意に介すことなく、ときちくは腕を振った。
そう、破片による負傷など気遣っている暇はないのだ。
道化師が笑みを浮かばせながら、こちらに銃口を向けているのだから。
■
空気が重い。
目の前にいる文の視線が、何よりも重い。
自分はそもそも文に勝てるのか。そんなことすら思わせるくらいに。
「…………っ」
まだ戦ってないのに、何を考えてるんだろう、あたいは。
首を振りながら、バスタードチルノソードを一旦腰に掛けなおす。
バスタードチルノソードを使って戦えば、フラン戦の焼き直しになるかもしれない。
文相手に短期決戦で勝てる自信は無い。これを持って戦うのは危険だと思う。
「フリーズアウト――アイシクルソード」
氷の剣を二つを編み上げる。
今のあたいなら、今までとは比較にならないくらいの技術で使いこなせるはず。
不敵な笑みを浮かべた文に、氷の剣を構えて突っ込む。
数歩の間合いをあたいの最速で詰め。踏み込んだ、その瞬間――首輪へ、閃光が。
「な」
前へ駆け抜けようとした足を、後ろへ避けようと跳ばせた。
けど避けた瞬間に切り返しが来る。とっさに左手の氷の剣を重ねて逸らす。
いや、逸らしきれなかった。左肩を、緋想の剣がかすめていく。
血が迸る。
痛みに耐えながら、右の剣で胸を狙った一撃を防ぐ。
息つく暇も無く次撃、眉間。反撃なんて思う余裕すらない。
それを防いだ瞬間、合わせた左剣は砕け散った。
「アイシクルソード……!」
後退しながら必死に氷の剣を作り上げる。そこへ最短距離で接近してくる文。
今度は右剣が砕かれる。相手の姿に戦慄する。
単純な剣技なら、今のあたいの方が上だ。けれど、速さが違いすぎる。
そして文の力と緋想の剣の切れ味は、僅か数合で氷の剣を斬り砕くレベルだった。
即座に氷剣を作成する。けど、作るために掛けた時間が減れば減るほど精度は落ちる。
そして、戦いが進むごとに氷の剣を作っている余裕は無くなる。
「……ふん」
「あ……こ、この!」
閃光が走る。それに左腕を合わせると同時に、氷が割れる音を聞く。
――左剣はさっき以上の早さで粉砕された。
「――力を温存しようとするのは無駄です。
ここで本気を出さないのなら、あなたに後は無い」
「え? ……っ!?」
気がつけば飛んでいた。
見れば、文の足があたいを蹴り飛ばした形で静止している。
胸を肋骨ごと貫こうとするその一撃を、双剣で受けた瞬間……
双剣は破壊され、衝撃はそのままあたいを吹き飛ばしたらしい。
浮かんだまま咳き込み――隙をなくすために無理やり足を地面に叩きつけ着地した。
けれど、絶好の好機だったのに文は追撃してこない。足を止めたままだ。
「全力で来なさい。
あなたが思っている以上に、私とあなたの間には高い山がある。
スペルカードルールじゃなく――本気の決闘で私に勝ちたいと思うなら、全力よ」
「…………!
――分かった」
もう、悩んでる暇なんて、なかった。
バスタードチルノソードを両手で構えなおして、氷の一部分を解く。
そしてフランとの戦いでやったように、指を柄に触れさせた。
瞬間、意識が――唇を血が出るくらい噛んで――を無理や――戻す!
「っぐ……いくよ、文!」
頭痛をかみ殺して踏み込む。
文は僅かに息を詰まらせながらあたいの剣を受ける――そう、受けた。
まるで捉えられなかった、さっきまでとは違う。
……そう思った瞬間に、
「違う――そんなので全力だなんて、笑わせる!」
緋想の剣はあたいの剣を受け流し、返ってきた。罵声と共に。
緋想の剣にまともな太刀筋を期待するだけバカだ。
後退する、あの剣は弱点を突くだけで伸びるのは自動じゃない。
普通の時のリーチ自体は短い、射程外に離れれば避けられる。
「なるほど、確かに寸止めする必要がないくらいには強くなってる。
けれどそれが限界なら、あなたは私に勝てない。
元々剣技は範疇外だけど、それをこの剣は補ってくれる。
身体能力を考えれば、あの天人より上手くこの剣を扱えるかな」
文は息を乱さず、汗一つ無い。涼しい顔だ。こっちは痛みで頭が割れそうなのに。
喋っている間に、あたいは跳んだ。自分の剣を片手に持ち替え、構える。
「来なさい、ただのお遊びで私を失望させないように」
暗闇の中、夜の風に響く声。それに対する答えは掌に集めた冷気で。
「霜よ――フロスト、コラムス!」
あたいの言葉と共に、地面全てを覆い尽くす氷の刃。
自然、それは立ちっぱなしの文に対しても襲い掛かって――
同時に、文が舞った。そうとしか表現できなかった。
緋想の剣が光り、回ると共に、文の周囲の霜だけが全て消えた。
風の力さえ呼び起こせなかった冷気は、八つ当たりのように草だけを枯らしていく。
半ば戦慄しながら着地したあたいを待っていたのは、罵倒。
「それで全力ですか? 期待していたのに」
「あんたの力じゃなくて、剣の力でしょ……!」
「それはお互い様でしょう。
チルノさんだって、剣技をその剣から学んでいる。条件は同じです。
なんなら、素手で戦ってみますか?」
文の言葉は、反論しようがなかった。
……確かに、そうだ。
あのときの流れを考えれば、そうなってると考えるのが明確だ。
「反論したいのなら。
変わって手に入れた全てを、私にぶつけてきなさい!」
バスタートチルノソードをばらし、双剣にする。
落ち着け。冷静に、考えろ。
急所へと、刃を引きつけさせるのがあの剣の特性。
逆に考えれば、それほど読みやすい剣筋はないはず!
「……何か考えてるみたいですけど」
文の呟きの言葉に答える余裕も無く、あたいは左剣を振りかざした。
■
ときちくを銃口に捉えたドナルドが、引き金を絞る。
瞬間、ときちくが投げたナイフがドナルドの目前に迫った。
反射的にそれを避けるドナルド。ほんの数瞬ではあるが、時間が稼げた。
その隙を使い、更にときちくはもう一つのものを投げる。レンのデイバッグ。
ナイフと比べて明らかに弾速の遅いそれにドナルドは構わず、引き金を引く。
デイバッグは銃弾によって引き裂かれ、バラバラになり……
その中にあった支給品が爆発するかのごとく溢れ出して、ドナルドの視界を塞いだ。
とっさに自分の顔面を庇うドナルド。僅か数秒、しかし重要な数秒。
視界が戻ると、そこにはときちくの姿は既にない。
舌打ちをしながらドナルドは周囲の魔力を集めつつ、ときちくの位置を探る。
(……魔力についてはさっき派手にドナルド・マァジック☆を使ったばっかりだし、
温存したいねぇ、ランサーアサルトの銃弾もまだまだ200発は軽くあるはず☆)
すぐさまときちくの位置は分かった。柱の影。ドナルドは素早くそちらを向き。
「オヒョー☆」
「チッ!」
奇妙な動きで、ときちくの射線から外れた。
当然、彼が放った銃弾は虚空へと消えていく。
銃声に遅れること2秒、敵が銃を持っている事に気付いたリンは慌てて姿を隠した。
(仕留めそこなったか……勘弁してほしいんだけどな。
こんな拳銃でフルオートのライフルとやり合うとか……)
別にときちくは好戦的なわけではない。むしろ交戦は避けたいタイプだ。
しかし死を座して待つタイプでもない。そして、道具は他にもある。
柱に隠れている時間を使って、ようやくときちくは目的物を引っ張り出せた。
柱の影から更にそれを投げつけようとし……ドナルドの姿がないことに気付いた。
「ドナルドエクササァーイズ☆ 上級編!」
「!?」
横から響く奇妙な声。
回り込んだドナルドに反応する余裕もない。
左肩に銃弾が直撃し、もんどりうって倒れていた。
■
剣が交差する。
互いの得物はそれぞれの刃の色に相手を染め上げようと輝き奔る。
だが、その実力差は歴然だ。
幻想郷最速の剣を、彼女は捌ききれない。
「ぅ……く……!」
チルノの苦悶の声は、もはや何度目かも分からない。
それでも、未だバスタードチルノソードは緋想の剣と火花を散らしていた。
防いでいる。
ただ、反射神経がよいだけでは防げない。
しっかり次手を考えて、チルノは戦っている。
戦闘中の咄嗟の思考。閃きではなく、考えた結果の戦術。
「…………」
真剣な表情で、文はそれを観察する。
妖精ごときが1000年を生きた天狗に敵うわけがない。
それでも、もう保つまいがこうしてチルノと文は互角に戦っている。
再度、火花が散る。
依然剣を動かす腕とは別に、冷静に頭が思考する。
剣を振ることに本気になって、果たして本気になっていると言えるのか。
文の能力は風を操ること。
剣を操ることでは断じてなく、そして今までこの戦闘で文は一回も風の力を使っていない。
(……バカは私か。
チルノさんがなんで変わったのか、何が変わったのか見るために、自分を危機に晒すだなんて)
舌打ちする。
最悪、変化次第では今のチルノが強力な敵となる可能性もあるのに――
いつの間にか、チルノの変化を見極めることに主眼を置いている。
今すべきことは彼女を屈服させ、ドナルドの手元から引き戻すことなのに。
ずいぶんと私も甘いなと心中で吐き捨て、文は緋想の剣を叩きつけた。
■
今まで通り刃が奔る。だが、その剣筋はどこが肩に力が入っている。
(チャンスだ!)
切っ先は真っ直ぐに私の首へと迫り来るはず。迎え撃つように双剣の片割れを。
そして、読み通りに奔る文の剣。弾けると確信した。そうすれば後は簡単だ。
距離を一歩で踏み越え、もう片方を文へと振りぬく。
夜の闇に透き通る剣閃。緋想の剣がアタイの剣とかち合う。手応えあり。
そのまま踏み込んで、会心の一撃を放とうとした瞬間、悪寒が走った。
文の剣は止まっている。それなのに空気が断たれる音が聞こえる。
「あ、く……!」
後先に考えずに地面を蹴った。受身なんて取れずに転がった。
同時に、剣を振った勢いのまま繰り出した蹴りが風のように――いや、風を纏って繰り出されていたのが見えた。
「……あやふやね」
あたいとは正反対に、文が悠然と歩いてくる。
傷一つなく、姿勢が崩れることもなく、息が乱れることもなく。
「バカみたいな反応の速さと剣術。
その割に、ちっとも氷は使わない。あなたは本当にチルノさんですか?」
「何を言って……」
「そうかな。
じゃあ聞きますけど、自分が前のままの自分であるという確信がありますか?
自分の思考が、ちゃんと自分で考えたものかどうかは?」
「…………そんなの」
決まってる、とはとても断言できない。
ずっと悩んでばかりのあたいは――自分さえあやふやで。
喉の空気が留まったのを読み取ったように、あたいの答えを待たず文は続ける。
「確かにあなたは強くなった。その剣技ならば、白狼天狗とも渡り合えるでしょう。
けど、それは決してあなたのものではない。
あなたの剣は、どこか知らない誰かの剣を、
どういうわけかほぼ完璧に模倣しているに過ぎない。
私の推測に過ぎませんが……たぶん当たっているでしょうね」
そうして、文は左手を掲げた。
途端、空気が抜けていく。まるでここが真空になったかのように錯覚させる、威圧感。
あたいにも分かるくらいの……異常な風の流れ。
「そもそも私たちは剣を競うものではない。
――得意分野で、ケリを付けましょうか」
指を鳴らすスナップ。脳裏を走る恐慌の隙間風。
その号令の元真っ向から次々に走り出す風の刃を、
それぞれの速度と軌道を読んで、最初に来た弾を前傾姿勢で潜り抜けながら前進、
その姿勢でも当たる刃へ双剣を振り下ろし斬り払い、
再び一本に組み立て上げると共に地面に突き立て棒高跳びの要領で跳ぶ!
前宙返りしながら着地しつつ反撃の氷弾を撃つため掌に霊力を……いや、
反撃の余裕なんてない。着地の隙を縫うように迫る低速の追撃弾を氷の壁で防ぐ。
それでもなんとか距離を詰めようとして――氷の壁が割れた瞬間、絶句した。
防戦一方の相手にチェックメイトを掛ける様に、
文は緋想の剣から竜巻を起こしている――!
(フランにやった、アレだ!!!)
鴉は死を告げる、というどこかの言い伝えを思い出した。
緋想の剣は死者を啄ばむ嘴のごとく逆巻く。とっさにあたいも掌に霊力を集中した。
間違いなく、文の次の一撃は生半可なものじゃない――!
■
「ガッ…………!!」
苦悶の声を上げながら、銃弾を受けたときちくは倒れこみ、床を滑る。
その衝撃で、銃は手から零れ落ちている。
絶好のチャンス。捕らえるにせよ、殺すにせよ。
……しかし、ドナルドはそれを出来ない理由があった。
『トゥートゥー』
「……なにかなぁ、これは?」
ときちくが投げようとしたもの、それはモンスターボールだった。
倒れた際に手から毀れはしたが、それでもしっかりネイティオは出てきたようだ。
未知の生命体相手に、一瞬ドナルドも反応を悩んだ。
それが、ときちくにとっての逆転の隙となる。
「くっ……」
「おおっと☆」
倒れながらもときちくが放ったナイフに、ドナルドは再度跳ぶ。
もっとも倒れながら姿勢を正すこともなく片手で投げたナイフだ、
ドナルドが跳ばなくても致命傷にはならなかっただろう。
ときちくもそんなことは分かっている。牽制の意味合いが強い。
その隙に、ネイティオはマスターをカバーすべくときちくの元へ滑空する。
すぐさま、命令を出した。
■
文字通り、風が変わる。
緋想の剣で気質を変えていきがら、文は嘯きはじめた。
「吸血鬼に放った時のアレね……
緋想の剣でも風は起こせますけど、やっぱり葉団扇とは微妙に違うんですよね、風が。
端から見ていると同じかもしれないんですが、やってみると微妙に質が違います」
風の中に声が響く。ぎしりと空間が軋む。
振りかぶった腕には、気質を司る剣。
「避けるなんて無理なことは考えないように。
私に勝ちたいって言うなら、受け止めてみなさい。
風よ、捲れ――」
月夜に紡がれる声に緋想の剣が応える。
風の天狗は振りかぶった腕を振り下ろし、
出された怒号は、全てをなぎ払う魔風と化す――!
風が、オフィルビルを揺らす。地震のごとく、余波だけで建築物を歪ませる。
だが、チルノは死を受け入れるように目蓋を閉じていた。
――剣を強く握り締めて。
文が訝しみかけた刹那、チルノは目を開け。
「グレイシャ――ウォール!」
見せたことのない氷河を、顕現させた。
■
「吸血鬼に放った時のアレね……
緋想の剣でも風は起こせますけど、やっぱり葉団扇とは微妙に違うんですよね、風が。
端から見ていると同じかもしれないんですが、やってみると微妙に質が違います」
文の動き、そして明らかに異質なものになっていく空気に慄然とする。
強く握り締めすぎたのか、右手から痛みが走る。
思わずそこを見た。……そこにあるのは、剣。唯一の打開策が、ある。
……わかってる。
『今の』あたいじゃ勝てない。
これを振って挑みかかれば勝てるというなら、とっくにそうしてる。
多分文がこれからすることは、剣技でどうにかなることじゃない。
「……ッ」
情けない。分かってるんだ、本当は。
この剣を持ってすべきことは、そんなことじゃない。
今のあたいのすべきことは、柄を覆った氷を解かして、そして……。
でも指だけで握ってるだけでも辛いのに、これを直に握り続けて戦える保証は無い。
流れてくる何かに頼るのは、人間が凍った海に自分から飛び込むのと同じ。
呼吸はできず、動こうとしても寒さで身体は動かなくなって――そのまま溺れ死ぬ。
そんな無謀なことは……
――力を温存しようとするのは無駄です。
ここで本気を出さないのなら、あなたに後は無い。
脳裏に、文が言った言葉が思い浮かんだ。
恐怖を振り払うように息を吐く。それでも怖い。だから柄を凍らせた。
これを握ってたら、ほぼ確実にあたいは死ぬから。
でも、このままでも死ぬ。絶対に死ぬのと、ほぼ確実に死ぬ。その二択。なら。
剣を握っている人差し指を上げる。
その指を氷に下ろして、とんと叩けば柄を包んでいる物が消える。
剣からあたいを守っていたものがなくなる。
あの痛みに耐えられる保障なんて無かった。
けれど、あたいは迂遠な方法でこの剣を持ち続けた。
理由は単純。この剣のおかげで強くなってるって、自覚してたから。
――そう。
結局この剣をどう使うかなんて、最初から決まってた。
「避けるなんて無理なことは考えないように。
私に勝ちたいって言うなら、受け止めてみなさい。
風よ、捲れ――」
もう数秒も待たずに来る。迷ってる暇なんて無い。
深呼吸を一つ。指を下ろす。
そしてあたいは、一気に掌を握り締めて――
意識と言う名の氷が、ぱりんと割れた。
聴こえない。聴こえすぎて、逆に聴こえない。
何も見えない。見えすぎて、何も見えない。
たくさんの音が響いていて、吹雪いている音のようにしか聞こえない。
たくそんの映像が交じり合っていて、真っ白になっているようにしか見えない。
自分が気絶しているのか、していないのかさえあやふや。
声さえ出せない。息すら吐けない。
諦めない。体が動かないなら、せめて目の前に映るものを確認しようとした。
ばかみたいにたくさん現れては消えていく何かを。今状況がどうなっているのかを。
わからない。
吹雪は考えようとするあたまさえ蝕んでいく。
からだもこころも、雪の中にうもれていく。
風は錘のように身体を拘束して、雪は氷のように精神を縫いとめる。
動こうとしても爪の先さえ動かず、見ようとしても心が潰れそうになる。
なにもかも、まっしろになっていく。
それでも、無理やり目を凝らすと。
それを待っていたように、ひとつの光景が止まった。
『ここの池は静かだし、蓮の花が何だかこの世の物じゃない雰囲気を見せるのよ』
……覚えている。
いつも以上に、妖精のみんなが騒がしかった時。
文と出会って、閻魔のやつによくわかんないこと言われて。
その時のあたいは。死ぬっていうことが何なのか、考えていた。
『感傷的になるにはまだまだ早いわ。
だって、花はまだまだ咲き続いています。
今からそんなに感傷的だと、散るときは大変ですよ?』
紛れも無く、文に聞いたこの言葉はあたい自身のものだと胸を張って言える。
もう、あたいはどこまでが本当の自分で、どこからが違う自分のものなのかあやふやだけど、これは。
今だって、死ぬことが何かは、よく分からない。
けれど、分かったことは、ある。
謝らないといけない。
フランを傷つけてしまったことを。
傷つかせたくない。
きっとあたいの帰りを待ってる、大ちゃんを。
失いたくない。
みんなの、あの笑顔を――文の、あの言葉を。
花が散ると、わけもなく気が重くなる。
文にだって、待ってる相手がいる。だからたぶん、失うのは辛い。
誰にだって、待ってる人がいる。だからきっと、失うのは悲しい。
そうだ、だから、迷ってる暇なんてない。迷ってるなんてそれこそバカらしい。
――だから!
「失って――たまるもんかぁ!!!」
今までに無いほどに強く。
アタイ愛用の剣を、握り締めた。
視界が戻る。経過した時間は、実際は1秒もなかった。
自分の力は全て理解した。今の自分の必要なものも。
剣から流れ込んでくる何かを読み取り、並行世界から能力と知識を汲み取る。
そして、コピーできるのは剣技に限った話じゃない。
他の能力を他の世界にいるあたいに合わせて、汲み取ることも可能。
文の声が響く。時間は無い。
目を閉じて、今の自分に必要な能力をコピーする。
必要なのは、霊力。風を押し返すくらい、強い氷。
――弾幕の風。
能力が大きく向上した世界の、凍らせる能力を大幅に引き上げた「私」が見える!
「グレイシャ――ウォール!」
目を開いて、意識をこの世界に戻し。
あたいが見せたことのない私の氷河を、顕現させた。
「なっ――!」
文の声も、魔風と氷河が激突する音に飲まれていく。
世禁忌の枝の名を冠した炎さえなぎ払った風を、容易く受け止める遠大な氷の海。
だがそれも当然。風ごときが南極の氷を崩すことは無いように、
この守りを魔風が突破できるはずは無い。少なくともあたいはそう思って使ったのだから。
まるで金属音をこすり合わせたような異様な音が響く。
けど、まだ、魔風は決して勢いを緩めない。
同時に、剣から引き出した違う「私」の霊力と知識は、あたいの意識を削っていく。
「く――ああああああああ…………!!!!」
迫る氷河と魔風。
それを直前にして、あたいは吼えながら剣から吸い上げた全霊力を掌に注ぎ込む!
意識が削られるのは問題ない。必要なのは、何よりも強く自分を保つこと。
なら、最強のあたいにそれができないはずがない。
あたいが最強であるのなら、なおさら自分に負けるはずなんてない――!
「ぶっ……とべぇえええええええっ!!!」
風が飲み込まれる。そのまま氷河も共に消える。
残っていたのは、風と氷に飲み込まれて消えた、オフィルビルのすぐそばの家。
……そして例え自分を保っていても、剣を直に握った代償の頭痛。
だから。
「――これくらいで油断する。
バカは死ななきゃ治らない!」
「なっ!?」
気がついた時にはもう、文が目の前にいた。
剣技をダウンロードしなおす暇もなく、無我夢中で技術もないまま剣を翳す。
かろうじて緋想の剣を受け止める。受け止めた、だけだ。
鍔迫り合った剣が押し返される。明らかに体勢が悪い。「私」には筋力も無い。
このまま押し相撲すれば、こっちが負ける。
「……どう見ても剣技が劣化してる。莫大な霊力を得た代償かしら」
冷静な言葉が頭に響く。
こっちは必死に頭痛に耐えているっていうのに、文は疲労さえ見せていない。
なんとか再び剣技をダウンロードしなおそうとして。
「――ところで、聞きますけどチルノさん。
あなたが本当に、最強だと思う定義は何ですか?」
文の刺すような言葉に、あたいの動きは止められた。
「そんなの……誰よりも強いってことに決まってる……!」
「成程。
では、私に苦戦している時点であなたは最強ではありませんね。
無傷で私をあしらえるような実力の持ち主が、ここにはいたんですから」
「な……」
嘘だ。嘘に決まってる。
こうして戦ってみて分かる。文は強い。
そんな文を無傷であしらえるような奴がいるだなんて、とても信じられない。
絶句しているあたいをみて、ふん、と文は息を吐いた。
「……やはり、以前とは違うみたいですね。
「なに、を……!」
「私の知ってるあなたなら、こう言われても子供みたいに暴れるだけでしょう。
あなたが真面目に悩んだりなんてしたのは、私は一回しか知らない。
その際も結局、あなたはよく分からないままで終わっている。
けど今のあなたは違う。それにあなたの元々の在り方が追いついていない。
バカだったから、負けてもけなされても学習しないで最強だと言い張れた。
けれど、今のあなたはそんな愚かさを失ってきている――不運にも。
だから、自分の幼稚な信念を突っ込まれると、こうして律儀に迷う。
だって、信念の程度と今のあなたの頭の程度が釣り合っていないんだから」
今まで見たことが無いくらい、冷たい瞳で文は言う。
反論できない。違う。違う、定義。
とっさに頭が探る。剣から違う世界の知識が漏れる。
あたいが知らなくても、違う世界のアタイがそれを識っていた。
そうだ、強いってだけじゃただのアビリティだって、レティが……
「ち、がう……」
「?」
「弱きを助け、強きをくじく……
最強の矛を殴り飛ばす、最強の盾、正義の……」
「今の貴女ならもう分かっているでしょう。
あなたが今言っている理想はただの借り物。
その剣の影響で知ったモノ、他人が正しいと信じたモノを真似しただけ」
けれど、それをそのまま言うと、ふん、と文は見下した。
「ち、違うッ!」
「だから借り物だと言ったんです。今のあなたは感傷的以前の問題。
今のあなたの思想は、決して『チルノ』のそれではないのだから!」
まるで心を読んだかのような正確な言葉を伴って奔る緋想の剣。
それで、持っている剣ごと体が10メートルは弾き飛ばされ、地面に転がった。
盛大な土煙を上げながら、地面の砂に削られる。
「――――げ、ほ」
咳き込みながら、それでも倒れることだけは嫌だった。
なんとか膝を起こし、剣を地面に突き刺して持ちこたえる。
歪んだ視界の中で……咳き込んだ時に口から血を吐いていたことに気づいた。
「期待しているとは言いましたし、あなたを題材にしたいとも言いました。
ですがそれはあくまでチルノさんという存在で――
チルノさんの皮を被った誰かではない。今のあなたは成長したわけじゃない。
ただ余所から持ってきたものを継ぎ接ぎしただけなんだから。
あなたは私を止めると言いましたね。あんたの行動は間違ってると。
目を覚ましたらどうですか――大切なものを見失ってるのはどちらでしょうか?」
決してその信念は、あたい自身のものではない。
そう、文は言い切った。
確かに言う、通りだった。
『アタイ』は決して『あたい』ではなく、決して同じ存在であるわけじゃない。
『アタイ』は決して、文の知るチルノじゃない、だから、文は怒って当然だと思う。
それでも。あいつだって、『あたい』と同じ、心を持ってる。
震える体に、力を込める。
さっきまでのあたいなら、この言葉で揺らいでいたかもしれない。
けど、もう決めたんだ。迷わないって。
その信念が自分のものでなかったとしても。
『アタイ』のものをそのまま上書きされただけだとしても。
アイツが『正義の味方』って言葉に憧れたように――
あたい自身もそれをかっこいいと思ったことは、胸を張って言える。
文は言った。それは決してあたいのものじゃないって。そうかもしれない。
それでもこの感情だけは、決して最初から変わってない。
最初、誰も殺さずみんな部下にすると誓った。
それが子供染みた馬鹿な思考から来たものだとしても、それはきっと自分のもの。
――だから、もう迷わない。憧れたとおりに……正義の味方を、貫き通す!
顔を上げる。
自分の力には限界がある。それでも、あいつはそれを突きつけられても戦った。
それなら、同じ「チルノ」という存在なら、あたいにできないはずがない!
「――これだけ言っても」
立ち上がる。文の言葉を、飲み込んで、押し殺す。
そうだ。あたいが最強を目指すなら。強くありたいのなら。
「文、あんたは強いよ、ほんと。それは認める。
けどね――あたいは、負けてなんかいられない!
あんたが言った理屈、全部あたいの力で吹っ飛ばして――
この気持ちが間違いじゃないって、証明する!」
自分に勝つことなんて、最低限の条件に違いない――!
■
立ち上がるチルノに、文はむしろ驚愕を覚えていた。
理想の脆さを突きつけられた。走ってきた理由の矛盾を知った。
今までのチルノなら、泣きじゃくって暴れるだけだろう。
さっきまでのチルノなら、呆然として地に手を着くだけだろう。
それなのに文をまっすぐ見る、強い瞳。
その瞳にあるのは幼稚な反骨心ではなく、自分の中で理を見出した光。
不安定だったはずの道が、自ら編み上げた意志で安定していく。
文にとっては不利益なはずだ。
こうなった以上、チルノがおとなしく文の言うことを聞くことはなく。
今のチルノは、文と言えど楽に勝てる相手ではない。
けれどなにか――彼女の胸中に走るものがある。
「く――なら。
私に言うことを聞かせたいのなら、勝ってみせるくらいは当然の理ですよね!」
それを否定するように、強い言葉を放つ。
言い負かせる相手ではない。暢気に観察できる相手ではない。
ただ待っていれば彼女の剣に、覇気に、意志に押し負ける。
だから、様子見ではなく全力を出す。
ついに文は、チルノが対等の相手であると認めた。
緋想の剣を振りぬく。文の身体能力に、気質と風を重ね合わせて加速した。
今までにないほどの剣速で迫る最速の剣撃――!
「――え?」
ギン、と音がした。弾かれる音が。
これより遅い剣さえ防げなかった筈の相手は、一撃を当然のように弾き返した。
それどころか、文の手元を狙って斬り返される敵の剣。慌てて風を放って流す。
そのまま斬りあうこと十数度。
足へ、首へ、胸へ、腕へ、頭へ奔る緋想の剣。
その悉くを、チルノは弾き返した。
「……これ、が」
だから、文が息を呑むのも当然だ。
チルノは自分の道を、凄まじい速度で踏破していく。
けれど、陥穽はある。
たとえ今は互角であろうと、負担が違う。
精神が定まろうとも、体は、能力は、いまだ不安定。
ここを凌いでも、いつか限界は来るだろう。
なのにいつのまにか――それがどこまで続くのか、見届けたいと思っていて。
「待って……それ以上は、あなたの体が」
思わず、静止する言葉を漏らしてしまう。チルノを、ではない。
いつの間にかチルノを認め始めている、自分を静止しようとする言葉。
自分さえ生き残ればいいという彼女にとって当然なはずの主張が、
幼く、無謀だったはずの意志の前に屈しかけていることから目を背ける言葉。
とっさに放った、文にしては弱い言葉。
「バカは、死ななきゃ治らないって……言ったのは、あんたでしょ!
悪いけど――」
だから、あっさりチルノに、反論される。
■
「待って……それ以上は、あなたの体が」
「バカは、死ななきゃ治らないって……言ったのは、あんたでしょ!
悪いけど――」
力が欲しいわけじゃない。
欲しいのは、みんなが笑ってすごせるっていうこと。
知り合ってる相手にすらそれを貫けないやつが、ずっとそれを貫けるわけがない。
だから、やることはひとつだけ。他には、もう、何もいらない――いるもんか!
「あたいは治す気なんて、毛頭ないッ!!!」
再度、体を起こす。左腕の中で、電流が走る。
――ただの模倣じゃ、どうやったって文には勝てない。
どんな技術をコピーしたって、それは所詮真似だ、あたいの能力じゃない。
だから、あたいの能力は自分で作る。
複数の世界の能力を同時にコピーして、それを元に新たな戦術を編み上げる!
両手での一刀。
そのまま、「私」の莫大な霊力で編み上げた大剣を、「アタイ」の技術で叩きつけた。
■
声は高らかに。
決して解けぬ、絶氷の意志を謳う。
「あたいは治す気なんて、毛頭ないッ!!!」
不吉な音が響く。
とっさに動かした風の剣が、容易くチルノの氷剣に圧倒される。
「なっ――」
まるで鬼のような一刀に放心し、文は我に帰った。
まともに受ける余裕は無い。一閃が、ありえないほど重い。
なんとか受け流して後退する。だが、あれとまともに打ち合うことなど無理だ。
いや、恐らく天狗の中で真っ向から打ち合える存在は天魔のみ。
あれをまともに振らせないよう、こちらから攻めるしか手立ては無い。
「いいでしょう――なら!!!」
文が緋想の剣を振り上げる。
霊力をつぎ込まれたそれは、2m近くまで巨大化した風の剣と化す。
夜闇の中を緋想の剣は夜明けのように照らし、同じ大きさの氷の剣はそれを鏡のように照り返す。
それを見ても、チルノは止まらない……あるいは、止まる余裕が無いのか。
シンメトリーのように、それらは鏡合わせに動き出し。
「たぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」
「――ハッ!!!」
裂帛の気合と共に、爆風を巻き起こして衝突した。
その力に耐え切れず最初に崩壊したのは、二人の足元の地面。
周辺の地面が風と氷の余波に耐え切れず、ひび割れて爆発し、隆起する。
そのまま緋想の剣が弾き飛ばされる。巨大化した氷の剣も、また。
剣と霊力は互角、だが――
「っぐ……!!」
体術なら、まだ文に分がある。
すばやく叩き込まれた追撃の蹴りが、チルノの腹部にめり込んでいた。
その体が宙に浮く。口から血の塊が吐き出される。
「まだ、だぁっ!!!」
「っ!?」
それでも、チルノは止まらない。死ぬまで、死んでも止まらない。
吹き飛びかけた足を無理やり地面ごと凍らせて縫いとめ、腕を振り上げる。
とっさに巻き起こる竜巻。それは風の壁としてチルノを阻む。
けれど、チルノは怯まない。
――この願いが、空の星を掴むように無茶なことでも、諦めない。
「グレー、ト……」
チルノの手が光る。その手には既にバスタードチルノソードは一本も無い。
だがそれでも、先ほどの氷の剣に勝るとも劣らぬ巨大な槌が編み上げられる。
――ましてや、今なら、きっと!
「クラッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
絶叫。
紛れも無い彼女自身が生み出した巨大な氷槌と、文の壁が激突する。
チルノを拒むような風の壁が、グレートクラッシャーと火花を散らす。
金属が擦れるような音を上げながら、氷槌は削れていく。
その中で、彼女は叫んだ。
「文――あたいはあんたに勝つ!
勝って、あんたも、みんなも、助けてみせる!」
そうして、文はそれと向き合った。
叫びながら、まっすぐに向けられるその視線。
愚直でバカで――けれどそれ以上に純粋で。
ただ自分に出来ることを突き詰めて、自分の限界を知っても、
いつかそれを超えてみようとする――その、強さ。
天狗をも圧倒するほどの強さを持った、妖精。
それはかつて、彼女自身が期待していると言った――
グレートクラッシャーは半分近くを削り取られながら――今までと違う音を出した。
音は空気を伝わるもの。それが変わったということは、空気が変わったということ。
「……ぁ」
文が声を漏らした時には戦いは、終わっていた。
風の壁を突き破り、文に迫った巨大な氷槌。
それは文に届く寸前で、止められていた。
――疑うまでも無く。チルノの自身の、手によって。
それが意味することに、文が疑問を差し挟む余地は無かった。
息を荒げ血を吐きながら、それでも強く突き刺さるチルノの視線に、
傷ひとつない文はゆっくりと、目を閉じて。
「……私の、負けね」
愛しむように、呟いた。
■}
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