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「色鮮やかに虹色な従者(後編)」(2009/03/29 (日) 11:15:38) の最新版変更点
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*色鮮やかに虹色な従者(後編) ◆0RbUzIT0To
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「……美鈴?」
不意に、座り込んでいた美鈴は立ち上がりフランドールの前へと進むと片膝をついて頭を垂れる。
片腕を地につけ、もう片腕を胸に押し当て目を閉じる美鈴。
その様子を見て、メタナイトとフランドールは思わず眉を顰める。
一体何事か――思わずそう聞こうとした瞬間、美鈴はその固く閉じていた口を静かに開いた。
「申し訳ありません、フランドール様。
この紅美鈴、そのお話を聞くまではフランドール様の事をお疑いしておりました」
「疑い?」
「はい。 フランドール様がこの殺し合いに乗っているものかと……そう」
「あー……なるほどね」
美鈴の言葉を聞いて、フランドールは頷く。
別におかしな事ではない、というより美鈴がそう思ってしまうのも仕方の無い話だ。
「別にいいよ、気にしてないし。 っていうか、今もそんなに変わらないしね。
テトに"歪みねぇ生き方"を聞くつもりだけど、もし強そうな奴に襲われたら壊しちゃうだろうし」
「ですが、弱い者などは壊さないおつもりなのでしょう?」
「ん……まあ、そうね」
あくまでも最優先事項は"歪みねぇ生き方"とやらを知る事。
弱い者と遊ぶのはあまり興味が引かれないし、無駄な殺生をするつもりは今のところは無い。
もっとも、弱い者でも突っかかってきたりすれば問答無用で壊してしまうだろうが……。
「それに、あまつさえ私は、もしもフランドール様が殺し合いに乗られているならばフランドール様に手をかけようとまでしていました」
「美鈴が? 私を?」
「はい」
「ふーん。 まあ、炒った豆とか持ってたら、美鈴でも私を倒せるかもね。
でもいいよ、別に。 だって美鈴はお姉様の従者なんだし、私はただのおまけだもん。
出来るかどうかはともかく、やろうと思っても仕方ないよ」
咲夜も美鈴も、そして紅魔館で働く妖精メイド達も全てはフランドールの姉、レミリア・スカーレットのものである。
フランドールはそのレミリアの妹だからという理由で世話をされているだけ。
本音を言えば、誰だって無駄に力を持つ気の触れた吸血鬼の世話なんてしたいと思っている訳が無い。
紅魔館にいる誰もが、フランドールに忠誠を誓っていないだろうという事はフランドール自身がよくわかっていた。
「それで? 話は終わり? 私は別に……まあちょっとイラッとはきたけど、そんなに気にしてないし。
美鈴もそんなに気にする事ないよ、っていうかどうでもいい」
手をひらひらと振り、姿勢を崩せと指示するが美鈴はその指示には従わない。
ただ、垂れていた頭を上げ真っ直ぐな視線をフランドールへと向けた。
その瞳には先ほどまでへらへらと愛想笑いを浮かべていた面影は微塵も残っていない。
そこにあるのは紅魔の門として長い年月を過ごし、重ねる毎に増していた主への忠誠心と同じもの。
敬服と羨望、そして畏敬を込めた視線で――美鈴はフランドールを見つめる。
「もしもその無礼が許されるならば、フランドール様に仕える事をお許し願いたく思います」
「……本気で言ってるの?」
「勿論です」
美鈴のその瞳に、嘘は無い。
「……私に仕えたとして、お姉様はどうするのよ?」
「フランドール様への忠誠が、レミリア様への忠誠の妨げになるものでは無いかと存じます。
私は……レミリア様とフランドール様、お二方に仕えたい」
「ふーん……」
本来ならば、美鈴の発言は言わなくてもいい事である。
自分からわざわざ、今まではフランドールに忠誠を誓っていなかったと言っているのと同義なのだから。
もしもフランドールがその事に怒り、美鈴を壊していれば一大事である。
しかし、それでも美鈴はその言葉をフランドールに伝えた――いや、伝えなければならなかった。
言葉にし、忠誠を誓う事を明言し、その者に認められなければその者の従者足り得ない。
心の中で思うだけでは意味が無いのだ。
主従とは、主人が従者を信頼し、従者が主人の言葉を忠実に守らなければならない関係。
ただ誰かの為に勝手な思いを抱いて勝手な行動をしているだけならば、それは従者でも何でもなくただの思い込みの激しい馬鹿である。
だからこそ、美鈴はフランドールに従者として認めて貰わねばならなかった。
「……わかったわ」
小さく溜息をつき、しかし出来るだけ真剣な顔を作ってフランドールは衣服を正し姿勢を伸ばす。
頭の中で完全で瀟洒な従者に何かを命じる時の姉の姿を思い起こしながら、
威厳を見せ付けるかのようにその小さな手を美鈴の方へと伸ばして口を開いた。
「紅魔の門・紅美鈴、貴方は今この時より、この私――フランドール・スカーレットの従者よ。
貴方の血も、肉も、全ては私とお姉様――レミリア・スカーレットの物。
私達の言葉には歯向かわず、ただ全てを私達に捧げ、私達の為に行動なさい」
「かしこまりました、フランドール"お嬢様"」
再び頭を垂れ、伸ばされたフランドールの手にそっと触れる美鈴。
その瞬間、ここに新たな主従が誕生した。
姉の持つ従者に比べれば、とてつもなく頼りないかもしれない目の前のお人好しな妖怪。
しかし、この妖怪は――フランドールの為に、全てを捧げると今ここで誓ったのだ。
その事実にどこか不思議な気持ちになり、思わず笑みを浮かべてしまいそうになる顔の筋肉を必死で押さえながら。
フランドールは美鈴から離れて、言葉を紡ぐ。
「それじゃあ儀式はこれでお終いね。
あー、気持ち悪い。 あんな台詞もう二度と言いたくないわ。
美鈴の血も肉も、捧げられたって美味しく無さそうだし」
「申し訳ありません、私の為に……」
「美鈴もその言葉遣いやめてよ、咲夜のパチもんみたいで何か気持ち悪い」
べー、と舌を出しながらうんざりとした表情でそう言うフランドール。
その言葉を受けて、美鈴はようやく固めていた表情を柔和なものへと変え、笑顔で返答する。
「そうですか? なら、お言葉に甘えて……。
いやぁ、やっぱり堅い台詞って疲れますね。 こんな台詞を毎日レミリアお嬢様に言ってる咲夜さんは凄いです」
「ま、気楽にやりましょ気楽に。 堅苦しいのは嫌いだし、楽しくないもの」
「同感です、フランドールお嬢様」
へらへら笑いながら頭を掻きつつ姿勢を崩し、リラックスしきる美鈴。
心底疲れた顔をしながら、溜息をつき気だるげに視線を明後日の方向に向けるフランドール。
先ほどまでの雰囲気はどこへやら、辺りが一気にだらけた空気になる。
「……話し合いは終わったか?」
「あら、いたの? どっか行っちゃってたと思ったわ」
「第三者が介入出来るような場面では無かったからな……」
不意に声をかけてきたのは、仮面の騎士メタナイト。
美鈴とフランドールが問答をしている間、ずっと近くにいたのだが……。
どうにも、二人だけの空間になってしまったが為に口を挟めない状況にいたらしい。
「どうもすみません、メタさん」
「む……何、構わん。 それよりも、今後の事だがな……」
「ああ、そういえば美鈴とメタナイトは壊し合いしようとしてる奴を壊そうとしてるんだっけ」
「……お嬢様、壊し合いではなく殺し合いです」
「いいじゃない、どっちだって似たようなもんでしょ」
美鈴の突っ込みにまるで動じず、フランドールは言葉を続ける。
「なら、今まで通り二人で一緒に行動なさいよ。
二人は南に向かってたんでしょ? 私は北の酒場に行くんだし、方向は別々。
それに、二組に別れた方がテトを探すのが楽になっていいわ」
「ちょ、ちょっと待って下さいお嬢様! 私はお嬢様のお傍に……」
「いいからテトを探してきなさいって言ってるのよ。 それとも命令に歯向かうつもり?」
「む……うぅぅ……」
そう言われてしまっては、美鈴も反論は出来ない。
小さく頷き、肯定の意を表す。
「この服を着てても夜みたいに完全に自由に動きまわれる訳じゃないしね。
美鈴はバーッと駆け回ってテトを探して頂戴」
「かしこまりました……」
従者として、そして紅魔の門としての本意は、やはり主人の身の安全を守る事である。
しかし、主命は絶対のものであるしその主命も理に適ったものであった。
正直言って例え肌を隠せる衣服を纏っているとはいえ、昼にフランドールを一人で歩かせる事に不安はある。
だが、主人がそれを望んでいる以上言う通りにするより他に無い。
「では、お嬢様……こちらをどうぞ」
「ん? 何これ?」
不意に美鈴がデイパックから取り出したのは、薄い冊子。
手に取り見てみると、表紙には『上演時刻表』と書かれてある。
「この近くにある映画館という施設に置いてあったものです。
酒場に行ってから寄るとするならば……12:00の開演には間に合うんじゃないでしょうか?」
「映画館? 何それ?」
「私もよくわかんないんですけど、何か白幕に映像を映し出して見世物にする施設らしいです。
まあ、紙芝居の延長みたいなもんじゃないですかね」
「ふーん、それって面白いのかしら?」
「どうでしょう? 私は見てないので、内容までは確認出来てないんですが」
「ま、いいわ。 見てみればわかる事だしね」
受け取った冊子をデイパックに入れながら、フランドールはそう呟く。
この冊子を美鈴がフランドールに手渡した理由は簡単なもの。
もしも酒場にテトがいなかった場合は、美鈴達が探して連れてくるまでこの映画館で待っていろと言っているのだ。
「無理はなさらないで下さいねお嬢様、昼の間は極力施設の中で過ごすようにして下さい」
「わかってるってば。 まぁ、とりあえず日が沈むまではこの映画館ってとこにいるつもりだから」
「はい。 私達も、テトさんが見つかる見つからないに関わらず日が沈むまでには映画館に向かいますので。
もしも映画館が禁止エリアに指定されたら、酒場に集合という事で」
「見つかる見つからないじゃないわ、見つけるのよ美鈴」
「あうっ……し、失礼しました」
ぺちん、と額にデコピンを食らって涙を浮かべる美鈴。
ただのデコピンとはいえ、それがフランドールのものならば下手な者だとあべし!な事になってしまう威力があるのだ。
赤くなった額を擦りながら、美鈴は立ち上がってデイパックを肩に下げ、南の方向へと顔を向ける。
「では、一旦お別れですねお嬢様」
「ん、まあそっちも頑張ってね。 あ、それと美鈴」
「はい?」
「テトの他に、兄貴って奴も探してくれない? ラガナーがそいつの事も言ってたから」
「兄貴……さんですか?」
別に探し人が一人や二人増える事に問題は無い。
だが、気になったのはその探し人の名前だ。
赤さん、という人物は先ほどの放送で呼ばれたし名簿の中にも確かにあった。
しかし、兄貴という名前は名簿には載っていないはずである。
「あの、その方のお名前はわからないんですか?」
「それがわかんないのよね。 話によれば、凄いムキムキのマッチョマンだっていう事だから。
手がかりはそれだけかな」
「なるほど……わかりました」
名前がわからないというのは少しばかり厳しいが、体型がわかっているというのはいい情報だ。
というよりも、こういった状況において人物を探す場合。
名前がわかるよりも体型や服装がわかっている方が、むしろ探しやすいかもしれない。
「では、これで! 行きましょうメタさん」
「うむ」
そう言い、南の方角へと駆け出す美鈴とメタナイト。
流石に身体能力の高い二人だけあって、数十秒経てば二人はあっという間に見えなくなってしまった。
「ふぅ……」
二人が向かった方角を見ながら、フランドールは一人静かに溜息を吐いた。
と同時に、何故か自然に浮かんでくる笑み。
何がそんなに嬉しいのか……未だ己の心中に芽生えた気持ちに納得のいかないまま、しかしそれをどうする事も出来ず。
フランドールはにまにまと引きつる頬を懸命に手で抑える。
『……よかったではないか、フランドール』
「ん、何が?」
不意に、今までそれほど喋っていなかったディムロスがフランドールへと声をかけた。
まだにやつく顔に四苦八苦しながら、フランドールはディムロスの言葉を適当に聞き流す。
『何が? じゃない。 お前の元の世界の仲間に出会えたのだ、これがよかったと言わずに何と言える』
「美鈴は仲間じゃないわ、従者よ従者」
『細かい事だ、気にするな。
それに、彼女はお前の為に全てを捧げると言ったのだろう?
生半可な覚悟で、このような場所でそんな事を言えるはずもない。 それだけお前が慕われているという事だ』
「……慕われている?」
適当に聞き流すつもりだったディムロスの言葉に、思わず反応する。
慕われる? ――この、フランドール・スカーレットが?
『違うのか?』
「……よくわかんないや」
少なくとも、今まで生きてきた人生――もとい、吸血鬼生の中でそんな言葉はフランドールには無縁だった。
大抵の者がフランドールに向ける感情といえば、恐怖と絶望くらいなもの。
紅魔館によく遊びに来る白黒の魔法使いや、自身の姉であるレミリアがフランドールに向ける感情にしても。
親愛や情愛であって、慕うというものとは微妙に違う。
「…………」
美鈴がフランドールに向けた感情は畏敬、畏れ敬うものである。
それは恐らく、フランドールが今までに受けた事の無い感情。
「そっか……」
或いは、フランドールはその感情を美鈴から向けられて……狼狽していたのかもしれない。
数百年と生きてきた中で、生まれて初めて誰かに敬われたのだ。
ただ形だけのものではなく、心の底からの忠誠と共に。
レミリアがいつもは独り占めしていた、その敬い慕われるという立ち位置に。
今、フランドールは初めて立った。
『ところで、まだ移動はしなくていいのか?』
「……あんたって、本当に余計な茶々を入れてくるわね。
メタナイトに無理矢理押し付ければよかったかしら」
『本音を言えば我もあの者に使われたい、少なくともお前よりは大事にしてくれそうだからな。
だが、その本人がそれを否定した以上、それは無理というものだ』
メタナイトが剣を探していると言った時、フランドールはすぐさまディムロスをメタナイトに譲ろうとした。
別に親切心からそうしようとした訳ではない、単に口煩いディムロスから離れたかっただけである。
だが、メタナイトはそれを拒んだ。
彼曰く、既にフランドールとディムロスは相応の信頼関係を築いており。
その関係を断ち切ってまで剣を手に入れようとまでは思わない、という事だった。
フランドールにとって、ディムロスはただの口煩い剣でしかないのだが。
そう言われてしまっては無理に渡す事も出来ない。
「……ま、いいわ。 それじゃ行きましょうか」
外していた仮面を付け、ちゃんと全身の肌が隠れている事を確認してから、フランドールはデイパックを手に取り歩き出す。
先ほど美鈴達が向かった方向とは真逆の方向、北へ向けて。
「まずは予定通り酒場に行きましょう」
『その後は映画館で映画を鑑賞し、彼女達が戻ってくるまでの時間を潰すのだったな。
まあ、幾らその服があるとはいえ昼に動き回るのは流石に危険過ぎる。
どこかの施設の中で無難に過ごすのは正しい判断だ』
「あら? 私はバリバリ動き回るつもりだけど?」
『……はぁ!?』
珍しくフランドールが慎重な案を取ったという事で、関心したかのように呟いていたディムロスにフランドールは無情にも告げる。
「映画っていうのは確かに見るつもりだけど、その後映画館にいるだけじゃやっぱりつまらないだろうしね。
美鈴が帰ってくる前に映画館にいれば、美鈴にはバレやしないわ」
『……お前という奴は』
剣の癖に「頭が痛い」……などと言っているディムロスは放っておいて、フランドールは歩き出す。
ひとまずの目的地は酒場。
そういえば……と、不意にフランドールは思った。
美鈴はつい先ほどまで、フランドールを畏敬の念ではなく懐疑の念を込めて見ていたはずだ。
それがどこをどう間違ったか主従の関係を結ぶような結果になってしまったのだが……。
だとすれば、一体何が美鈴の心境をそのように変化させたのだろうか?
「……ま、どうでもいっか」
きっと考えてもわからない事だ、なら考える必要は無いし正直面倒臭い。
すっぱりとその事に関する考えを止め。
フランドールは、テトがいるかもしれない酒場とまだ見ぬ映画という娯楽に胸を膨らませながら歩いた。
【D-2 中央部/一日目・朝】
【フランドール・スカーレット@東方project】
【状態】:全身に怪我 (再生中。少し良くなった)、疲労(小)、美鈴を信頼
【装備】:ディムロス@テイルズオブデスティニー、ゼロの衣装セット@コードギアス
【持物】:基本支給品×2、映画館パンフレット
【思考】
1、テト達と再び合流して『歪みねぇ生き方』が楽しいか確かめる。テト達はお酒のあるところ(C-1の酒場)にいると思っている。
2、酒場にテトがいない場合、映画館で映画を見た後移動し、日暮れまでに映画館に戻る
3、パンツレスラーになりたい!
4、右上・左上を殺す。
5、もっと色々なことを知りたい。
※ディムロスの声は、誰にでも聞こえるようです。
※ディムロスの使用により、術が使えるようになりました。
※「ゼロの衣装セット」を着ているため、朝でも活動できます。翼は服の中なので飛べない。
※服が破れると太陽に晒される危険があります。
※美鈴達と情報交換をしました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その光景を、離れた木の陰から見つめる者が一人。
銃を片手に持ち、憎悪に歪んだ顔でフランドールを睨みつけるその男は、フランドールが移動した事に安堵しつつ唾を吐きながら立ち上がる。
「畜生……なんでこの俺がこんな乞食みたいな真似しなきゃならないんだ」
這い蹲っていた為に、服についた草や土を払いながら苦々しげな口調で呟く。
彼は元々、南に見えた影を追う為に移動をしていた。
比較的急いで移動した為か、案外あっさりとその影は見つかったのだが……。
「何なんだ、あの丸っこいチビは……!」
近くにあった石ころを蹴飛ばし、吐き捨てるように呟く男。
そう、彼は見てしまったのだ――赤い髪をした女性の隣でひた走るマントを羽織った一頭身を。
その一頭身が恐らくはあの時こちらを見ていた丸い何かなのだろうが……。
学校に纏わる怪談をかなりの数知っている新堂とは言え、マントを羽織った一頭身の話など聞いた事も無い。
みさおと別れる原因になった豹人間といい、もしかしたらこの場所にはもっと多くの妖怪が潜んでいるのかもしれない。
平原で立ち尽くし、その男――新堂誠は考える。
丸い一頭身を見てから、新堂は彼らには気付かれないように極力注意を払って備考しここまでやってきた。
そうして、あの全身黒尽くめの奇妙な衣装をつけたコスプレ少女と一頭身達が合流した場面を見。
その後の展開を隠れながら見守っていたのだが……。
「一体あいつらは、何の相談をしてたんだ?
それに、あいつらはこれから一体何をするつもりだ?」
あの様子からして、コスプレ少女と赤い髪の女性は知り合いと考えて間違いない。
肝心の相談内容までは聴こえなかったが……ともかく、そこはまず確定的な事実だろう。
だとすれば、一見無害かと思っていたあの赤い髪の女性も怪しくなってくる。
よくよく考えてみれば、あの一頭身と親しげにしていたし奇妙なコスプレ少女とも親交があったようだ。
少なくとも、まともな人間だとは思えない。
「って事は、どう考えても相談してた内容はよからぬ事だろうな……どうせどうやって人間を皆殺しにするかとか考えてたに違いない。
放ってなんて、おけないよな……」
それに、"復しゅう"もしてやらなければならない。
あの一頭身達のせいで服は汚れてしまったし、何よりあいつらに集中し過ぎていて途中で流れた放送は殆ど耳に入ってこなかった。
辛うじて禁止エリアについては聞き取れたものの、死亡した者の情報などは全部聞き流してしまったのだ。
それもこれも、全てはあの一頭身達のせい……"復しゅう"をしなければならない。
「あの一頭身は大した事無さそうだが……何せ二人組だし、女の方もタッパが結構あった。
なら……やるならやっぱり、あのコスプレ女の方だな」
そう結論づけると、新堂はデス・クリムゾンを握る手に力を込めて周囲の様子を伺いつつ駆け出す。
向かう先はコスプレ少女――フランドール・スカーレットが向かった方向、北。
わざわざ今まで歩いてきた道程を逆走する事に更に苛々を募らせながら。
新堂誠は、"復しゅう"を決意しフランドールの後を追った。
【D-2 中央部/一日目・朝】
【新堂誠@学校であった怖い話】
[状態]:殺人クラブ新堂、悪霊、精神的イラつき
[装備]:クリムゾン(弾数6/6、予備弾24/36)@デスクリムゾン
[道具]:共通支給品、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本思考:主催者に“復しゅう”する
1:デパートに行く前にコスプレ少女(フランドール)に"復しゅう"する
2:川沿いにデパートに行って人を探すぜ
3:豹人間…?怖くなんか…ない…ぜ?・・・怖い
4:他人とは協力したいけど邪魔なようなら“復しゅう”する
5:ストレスを無くしたいな……
※放送を聞き逃した為、みさおが死んだと思っています。
※アポロを参加者ではなく、豹の化け物と認識しています。
※クリムゾンに最初から装填してあった弾6発は湿って撃てなかったため、使えなくなったと思い廃棄しました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
メタナイトと美鈴が南に駆け出してからしばらく、二人の間には奇妙な沈黙があった。
今の今までならば、美鈴が何かしらメタナイトに話しかけメタナイトが言葉少なくそれに返答するという形で会話があったのだが。
何故か、今の美鈴はきゅっと固く口を閉ざしてメタナイトに話しかけようとはしない。
矢張り心配しているのだろうか……と、メタナイトは内心、今まで美鈴が見せた事の無いその真剣な表情を見て思う。
それも無理からぬ話――何せ、日が暮れるまでは映画館にいると約束したとはいえ。
フランドールは好奇心旺盛な子供のようなものだ……大人しくしているとは到底思えない。
内心溜息を吐きつつ、しかし、メタナイトは何も言わず美鈴と併走する。
一方の美鈴は、やはりメタナイトの大方の予想通りフランドールの身の心配をしていた。
例えば、今が夜だとするならばこの心配も幾らか減るものだろう。
だが、今は朝――これからまだまだ10時間近くは、ずっと太陽が顔を出しているのである。
もしもあの衣服が破れたり、脱がされた状態で日の光に晒されてはフランドールはただでは済まない。
その事を考えると、今こうしてメタナイトと共に参加者を探し回るという行為は主君の為にならないのでは無いか――と思ってしまうが。
しかし、これはその主君が望んだ事なのだ……反故には出来ない。
それに、今更メタナイトの事を一人放っておいて行動するというのも気が引けるし……。
或いは、自身が彼女の傍にいない方が何かしらいい方向に動く可能性もある。
美鈴がフランドールに忠誠を誓ったのは、彼女が紅魔館にいた時と変わったからである。
紅魔館にいた時には狂気しか感じられなかった彼女から――ほんの少しの違う気質。
彼女風に言うならば……"歪みねぇ"気質が、感じ取られたのだ。
もしかしたらそれは、単に狂気の歪みがなくなっただけなのかもしれないが……ともかく、彼女は変わったのである。
美鈴はその事実に対し、驚きと共に喜びを覚えた。
元々、美鈴はフランドールに忠誠こそ誓ってはいなかったものの、決して嫌っていた訳ではない。
レミリアよりは下だが、それでも相応に好意を抱いていた。
あくまでもそれは相応に、というレベルのものであって何に変えても守りたいというものではなかったのだが……。
変わった彼女を見て、美鈴のその考えはあっさりと吹き飛んだのだった。
今のフランドールに、レミリアのような威厳などがあるかといえばそれは嘘になる。
だが、それでも、フランドールにはレミリアには無い何かがあった。
いや、この場に連れてこられて……その何かが、生まれた。
それを見つけた時、美鈴は悟ったのだ。
――この方にも仕えたい、と。 心の底から。
一見して門番の職務を放棄していつも昼寝ばかりしており、黒白に吹き飛ばされるだけの少女という認識がされがちで、
どうも過小評価を受ける事の多い美鈴であるが、それは間違いである。
彼女は紅魔館の門を守る番人――つまり、紅魔の武力の象徴といっても過言ではない役職を務めているのだ。
その戦闘力はちょっとやそっとの妖怪程度なら軽くあしらう事の出来るもの。
加えて、そのような重大な職を任されているという事は、当然主への忠誠は高い。
幾ら実力があろうと、忠誠が無いものを門番などという重大な役割に指名しないだろう。
紅美鈴が主へ向ける忠誠の心は、その側近である十六夜咲夜のものに勝るとも劣らないもの。
だからこそ、今回、美鈴がフランドールにもまた仕える事を明言したという事実は驚くべき事である。
己の当主――レミリアに向ける忠誠の心がそれほど絶大なものである、という事は。
つまり、それだけ美鈴の意思は堅いものであるという事。
忠誠の心とは何を言われても、そしてその者がどれだけ変わってしまおうとも。
その者を信頼し全身全霊を尽くす事なのだから、忠誠心が大きければ大きい程、その者の意思は堅い。
つまり、フランドールはそれだけ堅い美鈴の心を掴み取り。
己の従者にするほどの魅力を持ち合わせていたのだ。
今の美鈴に迷いは無い、その肢体も精神も、全てはフランドールとレミリアのもの。
そして、この場にいるのはフランドールだけ。
ならば全身全霊を持ってして、己はただフランドールに尽くすのみである。
走りながら、美鈴は冷静に考える。
当面の目的が参加者を探し回る事であるが――それとは別に、警戒をしておくべき事があった。
まずはフランドールが見たというブロリーという男の事。
フランドールが怪我を負うという事態にまでなった男なのだ、美鈴ならば相手にするのは絶望的だろう。
だが……もしも見つけたならば、美鈴は問答無用でその男に戦いを挑むつもりである。
己が主人に傷をつけ、また、生かしておいては必ずや主人の害悪ともなろう人物を見過ごす訳にはいかない。
従者としては、戦いを挑み排除するという選択肢以外に取るべき行動は見当たらない。
次に動向が気になるのは……己の知り合い達。
その中で最も気にかかるのは、十六夜咲夜の事である。
彼女もまた、自分達と同じ紅魔に籍を置くもの……ならば共闘が出来るのではないか、と思うかもしれないが……それは違う。
むしろ、この場において最も注意すべきはその十六夜咲夜だ。
美鈴と同じく、彼女もフランドールには絶対的な忠誠を誓ってはいなかったはず。
だとすれば、彼女がフランドールを殺しにかかるという選択を取ってもおかしくはない。
何より、彼女は美鈴よりも格段に冷淡であり、話し合いの通じるような相手でも無いのだ。
今のフランドールの姿を見せ、心変わりを誘発しようとしても、それは徒労に終わる可能性が高い。
「…………」
小さく息を吸い、呼吸を整えて前を向く。
フランドールに忠誠を誓ったその時より、美鈴にとってのこの場で一番大切な存在はフランドールである。
故に、彼女の害となる人物は全て従者であるこの紅美鈴が排除しなければならない。
――否、殺し合いをして彼女を優勝させるという意味ではない。
それは(少なくとも今のところは)フランドールも望んでいない事である。
彼女の害となる人物とはつまり、殺し合いに乗ってる者――彼女を排除しようと向かってくる者全て。
例え、親しいものだったとしても……美鈴に迷う事は許されない。
完全で瀟洒な従者がフランドールに牙を剥こうとすれば、紅魔の門はそれを排除せねばならない。
勝てる勝てないなど、そういう話では無く。
"従者"として、紅美鈴はそのように行動をしなければならないのだ。
己の心中でそう決心し。
フランドールへの忠誠を胸に秘め、"色鮮やかに虹色な従者"――紅美鈴は高らかに咆哮した。
「JAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
全ては、主の為に。
【D-3 北部/一日目・朝】
【メタナイト@星のカービィ(メタナイトの逆襲)】
[状態]小疲労、顔面打撲、決意、ゼロマスクメタナイト
[装備] ネギ@初音ミク(お前ら全員みっくみくにしてやるよ)、ゼロの仮面(顔が入るサイズに改造)@コードギアス
[道具]支給品一式、バトルドーム@バトルドーム 、割れた仮面@星のカービィSDX
[思考・状況]
基本思考:殺し合いを止め、終わらせる
1:もう人影も追えないだろうし、仕方ないから南に向かい参加者を探す
2:美鈴と同行し参加者を見つける
3:美鈴の知り合いの情報集め
4:殺し合いに反対するものを集める
5:殺し合いに乗るものの排除、触覚の男との決着
※呂布との戦いでネギが2cmほど短くなりました。
※北に目撃した参加者は誠、南に目撃した参加者はキョン子とアカギです。
※E-2付近の川底で何か見たようです(気のせいという可能性もあります)
※フランドールと情報交換をしました。また、東方project出展のキャラについてそれなりの情報を得ました
【紅 美鈴@東方project】
[状態]小疲労、フランドールへの絶対的な忠誠
[装備]無し
[道具]支給品一式、スタンドマイク@VOCALOID
[[思考・状況]
1:南に向かいテトさん、兄貴(名前は知らない)さんを探し日没までに映画館へ戻る。フランドールの意思を最優先
2:十六夜咲夜を警戒
3:メタさんと同行し参加者を見つける
4:知り合いの情報集め
5:殺し合いに反対するものを集める
6:ちゃんとした剣をメタさんに持たせたい
7:殺し合いに乗るものの排除(ブロリー優先)
※主催が簡単に約束を守ってくれる、とは考えていないようです。
※フランドールと情報交換をしました。
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|[[時系列順>第二回放送までの本編SS]]|sm99:[[駆け抜けろ!雪原・思考・実は無駄?]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|[[投下順>51~100]]|sm99:[[駆け抜けろ!雪原・思考・実は無駄?]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|フランドール・スカーレット|sm107:[[悪魔の遊戯 -赤木しげるのユベリズム心理フェイズ-]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|新堂誠|sm107:[[悪魔の遊戯 -赤木しげるのユベリズム心理フェイズ-]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|メタナイト|sm:[[]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|紅美鈴|sm:[[]]|
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*色鮮やかに虹色な従者(後編) ◆0RbUzIT0To
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「……美鈴?」
不意に、座り込んでいた美鈴は立ち上がりフランドールの前へと進むと片膝をついて頭を垂れる。
片腕を地につけ、もう片腕を胸に押し当て目を閉じる美鈴。
その様子を見て、メタナイトとフランドールは思わず眉を顰める。
一体何事か――思わずそう聞こうとした瞬間、美鈴はその固く閉じていた口を静かに開いた。
「申し訳ありません、フランドール様。
この紅美鈴、そのお話を聞くまではフランドール様の事をお疑いしておりました」
「疑い?」
「はい。 フランドール様がこの殺し合いに乗っているものかと……そう」
「あー……なるほどね」
美鈴の言葉を聞いて、フランドールは頷く。
別におかしな事ではない、というより美鈴がそう思ってしまうのも仕方の無い話だ。
「別にいいよ、気にしてないし。 っていうか、今もそんなに変わらないしね。
テトに"歪みねぇ生き方"を聞くつもりだけど、もし強そうな奴に襲われたら壊しちゃうだろうし」
「ですが、弱い者などは壊さないおつもりなのでしょう?」
「ん……まあ、そうね」
あくまでも最優先事項は"歪みねぇ生き方"とやらを知る事。
弱い者と遊ぶのはあまり興味が引かれないし、無駄な殺生をするつもりは今のところは無い。
もっとも、弱い者でも突っかかってきたりすれば問答無用で壊してしまうだろうが……。
「それに、あまつさえ私は、もしもフランドール様が殺し合いに乗られているならばフランドール様に手をかけようとまでしていました」
「美鈴が? 私を?」
「はい」
「ふーん。 まあ、炒った豆とか持ってたら、美鈴でも私を倒せるかもね。
でもいいよ、別に。 だって美鈴はお姉様の従者なんだし、私はただのおまけだもん。
出来るかどうかはともかく、やろうと思っても仕方ないよ」
咲夜も美鈴も、そして紅魔館で働く妖精メイド達も全てはフランドールの姉、レミリア・スカーレットのものである。
フランドールはそのレミリアの妹だからという理由で世話をされているだけ。
本音を言えば、誰だって無駄に力を持つ気の触れた吸血鬼の世話なんてしたいと思っている訳が無い。
紅魔館にいる誰もが、フランドールに忠誠を誓っていないだろうという事はフランドール自身がよくわかっていた。
「それで? 話は終わり? 私は別に……まあちょっとイラッとはきたけど、そんなに気にしてないし。
美鈴もそんなに気にする事ないよ、っていうかどうでもいい」
手をひらひらと振り、姿勢を崩せと指示するが美鈴はその指示には従わない。
ただ、垂れていた頭を上げ真っ直ぐな視線をフランドールへと向けた。
その瞳には先ほどまでへらへらと愛想笑いを浮かべていた面影は微塵も残っていない。
そこにあるのは紅魔の門として長い年月を過ごし、重ねる毎に増していた主への忠誠心と同じもの。
敬服と羨望、そして畏敬を込めた視線で――美鈴はフランドールを見つめる。
「もしもその無礼が許されるならば、フランドール様に仕える事をお許し願いたく思います」
「……本気で言ってるの?」
「勿論です」
美鈴のその瞳に、嘘は無い。
「……私に仕えたとして、お姉様はどうするのよ?」
「フランドール様への忠誠が、レミリア様への忠誠の妨げになるものでは無いかと存じます。
私は……レミリア様とフランドール様、お二方に仕えたい」
「ふーん……」
本来ならば、美鈴の発言は言わなくてもいい事である。
自分からわざわざ、今まではフランドールに忠誠を誓っていなかったと言っているのと同義なのだから。
もしもフランドールがその事に怒り、美鈴を壊していれば一大事である。
しかし、それでも美鈴はその言葉をフランドールに伝えた――いや、伝えなければならなかった。
言葉にし、忠誠を誓う事を明言し、その者に認められなければその者の従者足り得ない。
心の中で思うだけでは意味が無いのだ。
主従とは、主人が従者を信頼し、従者が主人の言葉を忠実に守らなければならない関係。
ただ誰かの為に勝手な思いを抱いて勝手な行動をしているだけならば、それは従者でも何でもなくただの思い込みの激しい馬鹿である。
だからこそ、美鈴はフランドールに従者として認めて貰わねばならなかった。
「……わかったわ」
小さく溜息をつき、しかし出来るだけ真剣な顔を作ってフランドールは衣服を正し姿勢を伸ばす。
頭の中で完全で瀟洒な従者に何かを命じる時の姉の姿を思い起こしながら、
威厳を見せ付けるかのようにその小さな手を美鈴の方へと伸ばして口を開いた。
「紅魔の門・紅美鈴、貴方は今この時より、この私――フランドール・スカーレットの従者よ。
貴方の血も、肉も、全ては私とお姉様――レミリア・スカーレットの物。
私達の言葉には歯向かわず、ただ全てを私達に捧げ、私達の為に行動なさい」
「かしこまりました、フランドール"お嬢様"」
再び頭を垂れ、伸ばされたフランドールの手にそっと触れる美鈴。
その瞬間、ここに新たな主従が誕生した。
姉の持つ従者に比べれば、とてつもなく頼りないかもしれない目の前のお人好しな妖怪。
しかし、この妖怪は――フランドールの為に、全てを捧げると今ここで誓ったのだ。
その事実にどこか不思議な気持ちになり、思わず笑みを浮かべてしまいそうになる顔の筋肉を必死で押さえながら。
フランドールは美鈴から離れて、言葉を紡ぐ。
「それじゃあ儀式はこれでお終いね。
あー、気持ち悪い。 あんな台詞もう二度と言いたくないわ。
美鈴の血も肉も、捧げられたって美味しく無さそうだし」
「申し訳ありません、私の為に……」
「美鈴もその言葉遣いやめてよ、咲夜のパチもんみたいで何か気持ち悪い」
べー、と舌を出しながらうんざりとした表情でそう言うフランドール。
その言葉を受けて、美鈴はようやく固めていた表情を柔和なものへと変え、笑顔で返答する。
「そうですか? なら、お言葉に甘えて……。
いやぁ、やっぱり堅い台詞って疲れますね。 こんな台詞を毎日レミリアお嬢様に言ってる咲夜さんは凄いです」
「ま、気楽にやりましょ気楽に。 堅苦しいのは嫌いだし、楽しくないもの」
「同感です、フランドールお嬢様」
へらへら笑いながら頭を掻きつつ姿勢を崩し、リラックスしきる美鈴。
心底疲れた顔をしながら、溜息をつき気だるげに視線を明後日の方向に向けるフランドール。
先ほどまでの雰囲気はどこへやら、辺りが一気にだらけた空気になる。
「……話し合いは終わったか?」
「あら、いたの? どっか行っちゃってたと思ったわ」
「第三者が介入出来るような場面では無かったからな……」
不意に声をかけてきたのは、仮面の騎士メタナイト。
美鈴とフランドールが問答をしている間、ずっと近くにいたのだが……。
どうにも、二人だけの空間になってしまったが為に口を挟めない状況にいたらしい。
「どうもすみません、メタさん」
「む……何、構わん。 それよりも、今後の事だがな……」
「ああ、そういえば美鈴とメタナイトは壊し合いしようとしてる奴を壊そうとしてるんだっけ」
「……お嬢様、壊し合いではなく殺し合いです」
「いいじゃない、どっちだって似たようなもんでしょ」
美鈴の突っ込みにまるで動じず、フランドールは言葉を続ける。
「なら、今まで通り二人で一緒に行動なさいよ。
二人は南に向かってたんでしょ? 私は北の酒場に行くんだし、方向は別々。
それに、二組に別れた方がテトを探すのが楽になっていいわ」
「ちょ、ちょっと待って下さいお嬢様! 私はお嬢様のお傍に……」
「いいからテトを探してきなさいって言ってるのよ。 それとも命令に歯向かうつもり?」
「む……うぅぅ……」
そう言われてしまっては、美鈴も反論は出来ない。
小さく頷き、肯定の意を表す。
「この服を着てても夜みたいに完全に自由に動きまわれる訳じゃないしね。
美鈴はバーッと駆け回ってテトを探して頂戴」
「かしこまりました……」
従者として、そして紅魔の門としての本意は、やはり主人の身の安全を守る事である。
しかし、主命は絶対のものであるしその主命も理に適ったものであった。
正直言って例え肌を隠せる衣服を纏っているとはいえ、昼にフランドールを一人で歩かせる事に不安はある。
だが、主人がそれを望んでいる以上言う通りにするより他に無い。
「では、お嬢様……こちらをどうぞ」
「ん? 何これ?」
不意に美鈴がデイパックから取り出したのは、薄い冊子。
手に取り見てみると、表紙には『上演時刻表』と書かれてある。
「この近くにある映画館という施設に置いてあったものです。
酒場に行ってから寄るとするならば……12:00の開演には間に合うんじゃないでしょうか?」
「映画館? 何それ?」
「私もよくわかんないんですけど、何か白幕に映像を映し出して見世物にする施設らしいです。
まあ、紙芝居の延長みたいなもんじゃないですかね」
「ふーん、それって面白いのかしら?」
「どうでしょう? 私は見てないので、内容までは確認出来てないんですが」
「ま、いいわ。 見てみればわかる事だしね」
受け取った冊子をデイパックに入れながら、フランドールはそう呟く。
この冊子を美鈴がフランドールに手渡した理由は簡単なもの。
もしも酒場にテトがいなかった場合は、美鈴達が探して連れてくるまでこの映画館で待っていろと言っているのだ。
「無理はなさらないで下さいねお嬢様、昼の間は極力施設の中で過ごすようにして下さい」
「わかってるってば。 まぁ、とりあえず日が沈むまではこの映画館ってとこにいるつもりだから」
「はい。 私達も、テトさんが見つかる見つからないに関わらず日が沈むまでには映画館に向かいますので。
もしも映画館が禁止エリアに指定されたら、酒場に集合という事で」
「見つかる見つからないじゃないわ、見つけるのよ美鈴」
「あうっ……し、失礼しました」
ぺちん、と額にデコピンを食らって涙を浮かべる美鈴。
ただのデコピンとはいえ、それがフランドールのものならば下手な者だとあべし!な事になってしまう威力があるのだ。
赤くなった額を擦りながら、美鈴は立ち上がってデイパックを肩に下げ、南の方向へと顔を向ける。
「では、一旦お別れですねお嬢様」
「ん、まあそっちも頑張ってね。 あ、それと美鈴」
「はい?」
「テトの他に、兄貴って奴も探してくれない? ラガナーがそいつの事も言ってたから」
「兄貴……さんですか?」
別に探し人が一人や二人増える事に問題は無い。
だが、気になったのはその探し人の名前だ。
赤さん、という人物は先ほどの放送で呼ばれたし名簿の中にも確かにあった。
しかし、兄貴という名前は名簿には載っていないはずである。
「あの、その方のお名前はわからないんですか?」
「それがわかんないのよね。 話によれば、凄いムキムキのマッチョマンだっていう事だから。
手がかりはそれだけかな」
「なるほど……わかりました」
名前がわからないというのは少しばかり厳しいが、体型がわかっているというのはいい情報だ。
というよりも、こういった状況において人物を探す場合。
名前がわかるよりも体型や服装がわかっている方が、むしろ探しやすいかもしれない。
「では、これで! 行きましょうメタさん」
「うむ」
そう言い、南の方角へと駆け出す美鈴とメタナイト。
流石に身体能力の高い二人だけあって、数十秒経てば二人はあっという間に見えなくなってしまった。
「ふぅ……」
二人が向かった方角を見ながら、フランドールは一人静かに溜息を吐いた。
と同時に、何故か自然に浮かんでくる笑み。
何がそんなに嬉しいのか……未だ己の心中に芽生えた気持ちに納得のいかないまま、しかしそれをどうする事も出来ず。
フランドールはにまにまと引きつる頬を懸命に手で抑える。
『……よかったではないか、フランドール』
「ん、何が?」
不意に、今までそれほど喋っていなかったディムロスがフランドールへと声をかけた。
まだにやつく顔に四苦八苦しながら、フランドールはディムロスの言葉を適当に聞き流す。
『何が? じゃない。 お前の元の世界の仲間に出会えたのだ、これがよかったと言わずに何と言える』
「美鈴は仲間じゃないわ、従者よ従者」
『細かい事だ、気にするな。
それに、彼女はお前の為に全てを捧げると言ったのだろう?
生半可な覚悟で、このような場所でそんな事を言えるはずもない。 それだけお前が慕われているという事だ』
「……慕われている?」
適当に聞き流すつもりだったディムロスの言葉に、思わず反応する。
慕われる? ――この、フランドール・スカーレットが?
『違うのか?』
「……よくわかんないや」
少なくとも、今まで生きてきた人生――もとい、吸血鬼生の中でそんな言葉はフランドールには無縁だった。
大抵の者がフランドールに向ける感情といえば、恐怖と絶望くらいなもの。
紅魔館によく遊びに来る白黒の魔法使いや、自身の姉であるレミリアがフランドールに向ける感情にしても。
親愛や情愛であって、慕うというものとは微妙に違う。
「…………」
美鈴がフランドールに向けた感情は畏敬、畏れ敬うものである。
それは恐らく、フランドールが今までに受けた事の無い感情。
「そっか……」
或いは、フランドールはその感情を美鈴から向けられて……狼狽していたのかもしれない。
数百年と生きてきた中で、生まれて初めて誰かに敬われたのだ。
ただ形だけのものではなく、心の底からの忠誠と共に。
レミリアがいつもは独り占めしていた、その敬い慕われるという立ち位置に。
今、フランドールは初めて立った。
『ところで、まだ移動はしなくていいのか?』
「……あんたって、本当に余計な茶々を入れてくるわね。
メタナイトに無理矢理押し付ければよかったかしら」
『本音を言えば我もあの者に使われたい、少なくともお前よりは大事にしてくれそうだからな。
だが、その本人がそれを否定した以上、それは無理というものだ』
メタナイトが剣を探していると言った時、フランドールはすぐさまディムロスをメタナイトに譲ろうとした。
別に親切心からそうしようとした訳ではない、単に口煩いディムロスから離れたかっただけである。
だが、メタナイトはそれを拒んだ。
彼曰く、既にフランドールとディムロスは相応の信頼関係を築いており。
その関係を断ち切ってまで剣を手に入れようとまでは思わない、という事だった。
フランドールにとって、ディムロスはただの口煩い剣でしかないのだが。
そう言われてしまっては無理に渡す事も出来ない。
「……ま、いいわ。 それじゃ行きましょうか」
外していた仮面を付け、ちゃんと全身の肌が隠れている事を確認してから、フランドールはデイパックを手に取り歩き出す。
先ほど美鈴達が向かった方向とは真逆の方向、北へ向けて。
「まずは予定通り酒場に行きましょう」
『その後は映画館で映画を鑑賞し、彼女達が戻ってくるまでの時間を潰すのだったな。
まあ、幾らその服があるとはいえ昼に動き回るのは流石に危険過ぎる。
どこかの施設の中で無難に過ごすのは正しい判断だ』
「あら? 私はバリバリ動き回るつもりだけど?」
『……はぁ!?』
珍しくフランドールが慎重な案を取ったという事で、関心したかのように呟いていたディムロスにフランドールは無情にも告げる。
「映画っていうのは確かに見るつもりだけど、その後映画館にいるだけじゃやっぱりつまらないだろうしね。
美鈴が帰ってくる前に映画館にいれば、美鈴にはバレやしないわ」
『……お前という奴は』
剣の癖に「頭が痛い」……などと言っているディムロスは放っておいて、フランドールは歩き出す。
ひとまずの目的地は酒場。
そういえば……と、不意にフランドールは思った。
美鈴はつい先ほどまで、フランドールを畏敬の念ではなく懐疑の念を込めて見ていたはずだ。
それがどこをどう間違ったか主従の関係を結ぶような結果になってしまったのだが……。
だとすれば、一体何が美鈴の心境をそのように変化させたのだろうか?
「……ま、どうでもいっか」
きっと考えてもわからない事だ、なら考える必要は無いし正直面倒臭い。
すっぱりとその事に関する考えを止め。
フランドールは、テトがいるかもしれない酒場とまだ見ぬ映画という娯楽に胸を膨らませながら歩いた。
【D-2 中央部/一日目・朝】
【フランドール・スカーレット@東方project】
【状態】:全身に怪我 (再生中。少し良くなった)、疲労(小)、美鈴を信頼
【装備】:ディムロス@テイルズオブデスティニー、ゼロの衣装セット@コードギアス
【持物】:基本支給品×2、映画館パンフレット
【思考】
1、テト達と再び合流して『歪みねぇ生き方』が楽しいか確かめる。テト達はお酒のあるところ(C-1の酒場)にいると思っている。
2、酒場にテトがいない場合、映画館で映画を見た後移動し、日暮れまでに映画館に戻る
3、パンツレスラーになりたい!
4、右上・左上を殺す。
5、もっと色々なことを知りたい。
※ディムロスの声は、誰にでも聞こえるようです。
※ディムロスの使用により、術が使えるようになりました。
※「ゼロの衣装セット」を着ているため、朝でも活動できます。翼は服の中なので飛べない。
※服が破れると太陽に晒される危険があります。
※美鈴達と情報交換をしました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その光景を、離れた木の陰から見つめる者が一人。
銃を片手に持ち、憎悪に歪んだ顔でフランドールを睨みつけるその男は、フランドールが移動した事に安堵しつつ唾を吐きながら立ち上がる。
「畜生……なんでこの俺がこんな乞食みたいな真似しなきゃならないんだ」
這い蹲っていた為に、服についた草や土を払いながら苦々しげな口調で呟く。
彼は元々、南に見えた影を追う為に移動をしていた。
比較的急いで移動した為か、案外あっさりとその影は見つかったのだが……。
「何なんだ、あの丸っこいチビは……!」
近くにあった石ころを蹴飛ばし、吐き捨てるように呟く男。
そう、彼は見てしまったのだ――赤い髪をした女性の隣でひた走るマントを羽織った一頭身を。
その一頭身が恐らくはあの時こちらを見ていた丸い何かなのだろうが……。
学校に纏わる怪談をかなりの数知っている新堂とは言え、マントを羽織った一頭身の話など聞いた事も無い。
みさおと別れる原因になった豹人間といい、もしかしたらこの場所にはもっと多くの妖怪が潜んでいるのかもしれない。
平原で立ち尽くし、その男――新堂誠は考える。
丸い一頭身を見てから、新堂は彼らには気付かれないように極力注意を払って備考しここまでやってきた。
そうして、あの全身黒尽くめの奇妙な衣装をつけたコスプレ少女と一頭身達が合流した場面を見。
その後の展開を隠れながら見守っていたのだが……。
「一体あいつらは、何の相談をしてたんだ?
それに、あいつらはこれから一体何をするつもりだ?」
あの様子からして、コスプレ少女と赤い髪の女性は知り合いと考えて間違いない。
肝心の相談内容までは聴こえなかったが……ともかく、そこはまず確定的な事実だろう。
だとすれば、一見無害かと思っていたあの赤い髪の女性も怪しくなってくる。
よくよく考えてみれば、あの一頭身と親しげにしていたし奇妙なコスプレ少女とも親交があったようだ。
少なくとも、まともな人間だとは思えない。
「って事は、どう考えても相談してた内容はよからぬ事だろうな……どうせどうやって人間を皆殺しにするかとか考えてたに違いない。
放ってなんて、おけないよな……」
それに、"復しゅう"もしてやらなければならない。
あの一頭身達のせいで服は汚れてしまったし、何よりあいつらに集中し過ぎていて途中で流れた放送は殆ど耳に入ってこなかった。
辛うじて禁止エリアについては聞き取れたものの、死亡した者の情報などは全部聞き流してしまったのだ。
それもこれも、全てはあの一頭身達のせい……"復しゅう"をしなければならない。
「あの一頭身は大した事無さそうだが……何せ二人組だし、女の方もタッパが結構あった。
なら……やるならやっぱり、あのコスプレ女の方だな」
そう結論づけると、新堂はデス・クリムゾンを握る手に力を込めて周囲の様子を伺いつつ駆け出す。
向かう先はコスプレ少女――フランドール・スカーレットが向かった方向、北。
わざわざ今まで歩いてきた道程を逆走する事に更に苛々を募らせながら。
新堂誠は、"復しゅう"を決意しフランドールの後を追った。
【D-2 中央部/一日目・朝】
【新堂誠@学校であった怖い話】
[状態]:殺人クラブ新堂、悪霊、精神的イラつき
[装備]:クリムゾン(弾数6/6、予備弾24/36)@デスクリムゾン
[道具]:共通支給品、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本思考:主催者に“復しゅう”する
1:デパートに行く前にコスプレ少女(フランドール)に"復しゅう"する
2:川沿いにデパートに行って人を探すぜ
3:豹人間…?怖くなんか…ない…ぜ?・・・怖い
4:他人とは協力したいけど邪魔なようなら“復しゅう”する
5:ストレスを無くしたいな……
※放送を聞き逃した為、みさおが死んだと思っています。
※アポロを参加者ではなく、豹の化け物と認識しています。
※クリムゾンに最初から装填してあった弾6発は湿って撃てなかったため、使えなくなったと思い廃棄しました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
メタナイトと美鈴が南に駆け出してからしばらく、二人の間には奇妙な沈黙があった。
今の今までならば、美鈴が何かしらメタナイトに話しかけメタナイトが言葉少なくそれに返答するという形で会話があったのだが。
何故か、今の美鈴はきゅっと固く口を閉ざしてメタナイトに話しかけようとはしない。
矢張り心配しているのだろうか……と、メタナイトは内心、今まで美鈴が見せた事の無いその真剣な表情を見て思う。
それも無理からぬ話――何せ、日が暮れるまでは映画館にいると約束したとはいえ。
フランドールは好奇心旺盛な子供のようなものだ……大人しくしているとは到底思えない。
内心溜息を吐きつつ、しかし、メタナイトは何も言わず美鈴と併走する。
一方の美鈴は、やはりメタナイトの大方の予想通りフランドールの身の心配をしていた。
例えば、今が夜だとするならばこの心配も幾らか減るものだろう。
だが、今は朝――これからまだまだ10時間近くは、ずっと太陽が顔を出しているのである。
もしもあの衣服が破れたり、脱がされた状態で日の光に晒されてはフランドールはただでは済まない。
その事を考えると、今こうしてメタナイトと共に参加者を探し回るという行為は主君の為にならないのでは無いか――と思ってしまうが。
しかし、これはその主君が望んだ事なのだ……反故には出来ない。
それに、今更メタナイトの事を一人放っておいて行動するというのも気が引けるし……。
或いは、自身が彼女の傍にいない方が何かしらいい方向に動く可能性もある。
美鈴がフランドールに忠誠を誓ったのは、彼女が紅魔館にいた時と変わったからである。
紅魔館にいた時には狂気しか感じられなかった彼女から――ほんの少しの違う気質。
彼女風に言うならば……"歪みねぇ"気質が、感じ取られたのだ。
もしかしたらそれは、単に狂気の歪みがなくなっただけなのかもしれないが……ともかく、彼女は変わったのである。
美鈴はその事実に対し、驚きと共に喜びを覚えた。
元々、美鈴はフランドールに忠誠こそ誓ってはいなかったものの、決して嫌っていた訳ではない。
レミリアよりは下だが、それでも相応に好意を抱いていた。
あくまでもそれは相応に、というレベルのものであって何に変えても守りたいというものではなかったのだが……。
変わった彼女を見て、美鈴のその考えはあっさりと吹き飛んだのだった。
今のフランドールに、レミリアのような威厳などがあるかといえばそれは嘘になる。
だが、それでも、フランドールにはレミリアには無い何かがあった。
いや、この場に連れてこられて……その何かが、生まれた。
それを見つけた時、美鈴は悟ったのだ。
――この方にも仕えたい、と。 心の底から。
一見して門番の職務を放棄していつも昼寝ばかりしており、黒白に吹き飛ばされるだけの少女という認識がされがちで、
どうも過小評価を受ける事の多い美鈴であるが、それは間違いである。
彼女は紅魔館の門を守る番人――つまり、紅魔の武力の象徴といっても過言ではない役職を務めているのだ。
その戦闘力はちょっとやそっとの妖怪程度なら軽くあしらう事の出来るもの。
加えて、そのような重大な職を任されているという事は、当然主への忠誠は高い。
幾ら実力があろうと、忠誠が無いものを門番などという重大な役割に指名しないだろう。
紅美鈴が主へ向ける忠誠の心は、その側近である十六夜咲夜のものに勝るとも劣らないもの。
だからこそ、今回、美鈴がフランドールにもまた仕える事を明言したという事実は驚くべき事である。
己の当主――レミリアに向ける忠誠の心がそれほど絶大なものである、という事は。
つまり、それだけ美鈴の意思は堅いものであるという事。
忠誠の心とは何を言われても、そしてその者がどれだけ変わってしまおうとも。
その者を信頼し全身全霊を尽くす事なのだから、忠誠心が大きければ大きい程、その者の意思は堅い。
つまり、フランドールはそれだけ堅い美鈴の心を掴み取り。
己の従者にするほどの魅力を持ち合わせていたのだ。
今の美鈴に迷いは無い、その肢体も精神も、全てはフランドールとレミリアのもの。
そして、この場にいるのはフランドールだけ。
ならば全身全霊を持ってして、己はただフランドールに尽くすのみである。
走りながら、美鈴は冷静に考える。
当面の目的が参加者を探し回る事であるが――それとは別に、警戒をしておくべき事があった。
まずはフランドールが見たというブロリーという男の事。
フランドールが怪我を負うという事態にまでなった男なのだ、美鈴ならば相手にするのは絶望的だろう。
だが……もしも見つけたならば、美鈴は問答無用でその男に戦いを挑むつもりである。
己が主人に傷をつけ、また、生かしておいては必ずや主人の害悪ともなろう人物を見過ごす訳にはいかない。
従者としては、戦いを挑み排除するという選択肢以外に取るべき行動は見当たらない。
次に動向が気になるのは……己の知り合い達。
その中で最も気にかかるのは、十六夜咲夜の事である。
彼女もまた、自分達と同じ紅魔に籍を置くもの……ならば共闘が出来るのではないか、と思うかもしれないが……それは違う。
むしろ、この場において最も注意すべきはその十六夜咲夜だ。
美鈴と同じく、彼女もフランドールには絶対的な忠誠を誓ってはいなかったはず。
だとすれば、彼女がフランドールを殺しにかかるという選択を取ってもおかしくはない。
何より、彼女は美鈴よりも格段に冷淡であり、話し合いの通じるような相手でも無いのだ。
今のフランドールの姿を見せ、心変わりを誘発しようとしても、それは徒労に終わる可能性が高い。
「…………」
小さく息を吸い、呼吸を整えて前を向く。
フランドールに忠誠を誓ったその時より、美鈴にとってのこの場で一番大切な存在はフランドールである。
故に、彼女の害となる人物は全て従者であるこの紅美鈴が排除しなければならない。
――否、殺し合いをして彼女を優勝させるという意味ではない。
それは(少なくとも今のところは)フランドールも望んでいない事である。
彼女の害となる人物とはつまり、殺し合いに乗ってる者――彼女を排除しようと向かってくる者全て。
例え、親しいものだったとしても……美鈴に迷う事は許されない。
完全で瀟洒な従者がフランドールに牙を剥こうとすれば、紅魔の門はそれを排除せねばならない。
勝てる勝てないなど、そういう話では無く。
"従者"として、紅美鈴はそのように行動をしなければならないのだ。
己の心中でそう決心し。
フランドールへの忠誠を胸に秘め、"色鮮やかに虹色な従者"――紅美鈴は高らかに咆哮した。
「JAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
全ては、主の為に。
【D-3 北部/一日目・朝】
【メタナイト@星のカービィ(メタナイトの逆襲)】
[状態]小疲労、顔面打撲、決意、ゼロマスクメタナイト
[装備] ネギ@初音ミク(お前ら全員みっくみくにしてやるよ)、ゼロの仮面(顔が入るサイズに改造)@コードギアス
[道具]支給品一式、バトルドーム@バトルドーム 、割れた仮面@星のカービィSDX
[思考・状況]
基本思考:殺し合いを止め、終わらせる
1:もう人影も追えないだろうし、仕方ないから南に向かい参加者を探す
2:美鈴と同行し参加者を見つける
3:美鈴の知り合いの情報集め
4:殺し合いに反対するものを集める
5:殺し合いに乗るものの排除、触覚の男との決着
※呂布との戦いでネギが2cmほど短くなりました。
※北に目撃した参加者は誠、南に目撃した参加者はキョン子とアカギです。
※E-2付近の川底で何か見たようです(気のせいという可能性もあります)
※フランドールと情報交換をしました。また、東方project出展のキャラについてそれなりの情報を得ました
【紅 美鈴@東方project】
[状態]小疲労、フランドールへの絶対的な忠誠
[装備]無し
[道具]支給品一式、スタンドマイク@VOCALOID
[[思考・状況]
1:南に向かいテトさん、兄貴(名前は知らない)さんを探し日没までに映画館へ戻る。フランドールの意思を最優先
2:十六夜咲夜を警戒
3:メタさんと同行し参加者を見つける
4:知り合いの情報集め
5:殺し合いに反対するものを集める
6:ちゃんとした剣をメタさんに持たせたい
7:殺し合いに乗るものの排除(ブロリー優先)
※主催が簡単に約束を守ってくれる、とは考えていないようです。
※フランドールと情報交換をしました。
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|[[時系列順>第二回放送までの本編SS]]|sm99:[[駆け抜けろ!雪原・思考・実は無駄?]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|[[投下順>51~100]]|sm99:[[駆け抜けろ!雪原・思考・実は無駄?]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|フランドール・スカーレット|sm107:[[悪魔の遊戯 -赤木しげるのユベリズム心理フェイズ-]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|新堂誠|sm107:[[悪魔の遊戯 -赤木しげるのユベリズム心理フェイズ-]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|メタナイト|sm119:[[危険人物?いいえ、対主催です]]|
|sm98:[[色鮮やかに虹色な従者(前編)]]|紅美鈴|sm119:[[危険人物?いいえ、対主催です]]|
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