「熱き血潮に」(2009/03/14 (土) 11:42:35) の最新版変更点
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*熱き血潮に ◆0RbUzIT0To
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燃え滾る炎の妖精・熱血漢――松岡修造。
溢れる才能を持った眠れる金獅子――星井美希。
ある意味対極の立場である二人の男女は何故か共に行動をする事となり、
二人は今どことも知れない森の中を突き進んでいた。
「ねぇ、しゅーぞーさん」
「おう! なんだ、美希!?」
この数時間の間に彼の事を下の名前で呼ぶようになっていた美希が口を開く。
それに対して松岡は必要以上に熱く反応してみせ、
美希はそれに対し苦々しげな顔したが松岡は気にする素振りを全く見せない。
ここ数時間でわかった事だが、松岡はとにかく熱い。
歩いている時の情報交換――といっても世間話程度のもので、美希の知り合いの話や松岡の身の回りの話をした程度――をした時も、
やたらと感情を露にしては大声を出して咆哮し、全力全開でボディランゲージを行使する。
何度か美希もその事について注意をした。
大声を出さなくても美希にはちゃんと聴こえている、だからそんな必要は無い、と。
しかしながら松岡はそんな美希の意見は聞き入れず、『今年の僕のテーマはそう! 本気! だからこそ、会話も何も全部本気で答えます!!』
と、実に爽やかに言い切ったのだ。
『本当に熱い人なの……でも、ちょっと疲れるかな』と内心複雑な思いを抱きながら、美希はまあいいかとその松岡の言葉に納得した。
今年のテーマなら仕方ない。
「あのね、ずーっとミキ達歩いているけど、どこに向かってるの?
っていうか、ここどこなのかな? ミキ、疲れちゃったの」
「なんだよ、文句ばっかり……自分の事ばっか考えてんじゃねーのか?」
美希の言葉に対する松岡の言葉は冷たい。
しかしそれを知ってか知らずか、美希は気にするでもなく尚も言葉を紡ぐ。
「だって、ずーっと歩きっぱなしだよ? お空も暗いし、夜だし。
こんな時間に外歩き回るの、ミキ、よくないと思うな」
「俺だってこの暗闇のところ、このゲームをどうにかしようって頑張ってんだよ!?
お前も頑張れ! お米食べろ!!」
「おにぎりはさっき食べたからいいの」
「過去のことを思っちゃダメだよ」
「もう、はぐらかさないで欲しいな……あれっ?」
不意に、美希が歩みを止め、松岡へ向けていた視線を進行方向へと向けて驚きの声を上げた。
それにつられ、松岡も前方へと目をやり――美希と同じように驚いた。
青々と生い茂った葉をつけた木々の中、ぽつんと寂しげに建っていたそれは――。
「富ッ士山だ!!!」
「違うの、旅館なの」
松岡の間違いを適当に訂正しながら、美希は呟いた。
そう、そこにあったのは紛れも無い旅館。
実はこの旅館、美希達が最初に出会った場所の比較的近い場所に存在していたのだが、
二人はそれを知らずその周囲を彷徨っていた為にこうして発見が遅れたものである。
少々古ぼけており、旅館の名が書かれていたであろう汚れた木の板は辺りの暗闇と相まって見えないが――まあ、それは置いておこう。
それよりも問題は、どうしてこんな場所に旅館があるのかという事だ。
辺りは木々で埋め尽くされているというのに、そこだけ整備された旅館が存在するというのは明らかに不自然である。
その存在に疑問を持つのが自然な流れなのだが……。
「早速お風呂に入るの! それで、その後はお布団でちゃんと寝るの」
「汚れ、疲れ。 そんなの全て洗い流しちゃえ!」
二人には、そんな事は些細なものだったらしい。
美希は安眠を求め、松岡はぐつぐつと煮え滾るほどの熱い風呂を求め、その旅館に飛び込もうとした。
だが、その瞬間――。
「まんまんフ○ラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!??????」
二人の背後から突如、松岡のそれと肩を並べるほどの声量を持った怒鳴り声が響いた。
松岡は咄嗟に振り向き、何が起こったのかまだわかっていない様子の美希を庇うように一歩前へと出る。
視線を前へと向けると暗闇の中明らかに正気ではない様子をした眼鏡をかけた外国人の少年が、
刀を片手にこちらへと突進してきている事がわかった。
「松下さああああああああああああああああああああん!!!」
「松下じゃない! 松岡だ!! 松岡ァァァァァァァァッ―――!!」
叫びながら突進してくる少年に律儀に返答しながら、松岡は美希を押し倒して少年の一振りを回避する。
どう見ても話し合いは不可能そうだ、ならば!
「シューーーーーーーーーッ!!! ゾウッ!!!!」
そう叫び、空振りをして無防備になった少年の鳩尾に蹴りを思い切り放つと、急いで美希を立たせて少年と距離を取った。
少年は悶絶し、奇声を上げながらのた打ち回っている。
美希は混乱している様子で、しきりに何かを言おうと口を開いては閉じ、松岡と襲撃者の顔を交互に見ている。
その様子に松岡は苛立ち、美希の腕を掴んだまま言い放った。
「ちゃんと!! 言えよッッッ!!!!」
「あぅっ、ご、ごめんなさいなの」
美希が混乱をするのも無理が無い事くらい、松岡にもわかっている。
しかし、それでも松岡は美希の態度に対して怒り、怒鳴った。
二人が共に過ごした時間はほんの数時間――だが、それでも松岡は美希には死んで欲しくないと思っている。
だからこそ、松岡は美希を怒鳴ったのだ。『本気』で。
ここで美希をただ守り、美希のその態度を何ら責める事なく。
ただ、この状況では混乱しても仕方が無い――と、片付けてしまうのは簡単だ。
しかし、それではこの殺し合いを強制された場では決して生き残れない。
これから先、松岡がずっと彼女を守れるのか? 答えは否だ。
松岡が少年の一撃を回避出来たのはただの偶然に過ぎない。
もしも少年が大降りをせず、咄嗟に地に倒れた松岡を狙い切り伏せていればそこで自分達は死んでいた。
このゲームが開始してまだ数時間程度しか経っていない今でさえ、そうなのだ。
次が上手くいくとも限らない、松岡が美希を確実に守れる道理は無い。
松岡は美希に、覚悟を持ってもらいたかった。
出会った時の松岡の言葉に、美希は確かにこの殺し合いを現実のものだと悟った。
だが、それでもまだ美希の中には甘えがあったのだ。
松岡がいてくれる事への甘え、この場にいる皆も松岡のようにいい人であるかもしれないという甘ったれた考えが。
故に美希はこうして少年に襲われた今、激しく狼狽している。
このままではそう遠くない未来、彼女は死ぬ。
だからこそ、今の星井美希には必要なのである。
戦う覚悟――即ち。
「もっともっとォォ!!!! 熱くなれよォォォォォォォォォッ!!!!!!」
「ッ!!」
松岡は、自身の思いの丈を星井美希にぶつける。
熱くなれよと。
もっともっと熱くなり、本気になり、本当の自分に出会い、自分を変える覚悟を持てと――全てを変える覚悟を持てと。
その思いが伝わったのかどうなのか、ともかく、美希は口を固く結んだ。
目は泳いでいたが、それでも先ほどまでのようにおろおろと狼狽するような様子は少々なりを潜める。
そんな美希の様子を見て松岡は小さく笑み、すぐに表情を真剣なそれへと変えると少年の方へと向き直った。
松岡が熱い思いを美希に伝えている間、少年は地に伏していた。
しかし、その痛みは次第に癒え――少年は再び刀を手に持ちゆっくりと起き上がる。
荒い呼吸をしながら松岡と美希を交互に見つめ、その狂気で歪んだ瞳に美希は小さく震えながら……。
それでも、強い口調で少年に告げる。
先ほどは狼狽しては言えなかった言葉を……熱い気持ちを持って、少年に向けて。
「ミキ達、何もしないよ! 人を殺すなんて、絶対にしない!
だから、その剣、放して欲しいな。 大丈夫だよ、怖くないよミキ達。
ミキ、星井美希。 こっちは松岡修造さん。 大丈夫、怖くないよ」
出てきた言葉は少年への罵声ではなく、少年を落ち着かせる為のもの。
両手を開いて敵意が無い事を示しながら、美希は少年の瞳を見つめる。
まだ身体は震えている……だが、それでも美希はこの少年を説き伏せようと真っ直ぐな瞳で少年を見た。
「ほらっ、しゅーぞーさんも言って!」
美希に促され、松岡も少年に向かって言葉を吐く。
「悔しいだろ、分かるよ。 思うように行かないこと、たくさんあるよな!
こんな殺し合いの場所に連れてこられて混乱する……わかるわかる!
でもな、我慢しなきゃいけないときだってあるんだよ! 人生、思うようにいかないことばかりだ!
でもそこで頑張れば絶対必ずチャンスが来る! 安易に殺し合いをするなんて選択肢を選ぶな! 頑張れよッ!!」
二人の言葉を受けている間、少年はただ無言だった。
しばし、沈黙が辺りを支配し……しかし、それもすぐに終わりを遂げる。
「フッフフフ……アーッハッハッハッハハハハハ……!!
あー、おっかっしっ! ホッホッホッ!!」
少年が突如、肩を震わせながら盛大に笑い声を上げる。
その様子に再び美希は驚きの表情を、松岡は憮然とした表情を少年へと向けた。
美希は、先ほどの自分達の言葉で少年が正気に戻ってくれるものだと思っていた。
突然少年が襲ってきたのは自分達を見て恐怖に駆られていた為。
故に、自分達が安全だと教えてあげれば少年はその手に持った凶器を捨ててくれるだろうと。
しかし現実、少年は明らかに自分達に向けて歪んだ笑みを浮かべている。
どうして? ……そう困惑する美希に向け、少年は邪悪な笑みを浮かべたまま叫ぶ。
「最後の一人になるまで戦わなきゃ生き残れねぇんだろうがあああああああああああああッッ!!!!
ふざけた事抜かしてんじゃねーぞおま○こバーガー!!」
少年は、決して混乱して美希たちを襲ったわけではない。
しっかりとした意思を持ち、美希たちを殺して生還への道を確保するが為に彼女達を襲ったのだ。
「大体俺はもう一人殺してんだよォォォッ!!
それなのに説得だァ!? あー、おっかっしっ!! ホッホッホッ!!!」
少年のその言葉を聞き、美希と松岡に動揺が走った。
確かにこのゲームが開始して数時間が経過している。
だが、まさかもうこの殺し合いの犠牲者が出ているとは、美希たちは思っていなかったのだ。
美希は悲しげな表情を浮かべて少年から一歩後ずさり、松岡は忌々しげな表情を浮かべながら何故か奇妙なステップを踏んでいた。
その隙を見逃さず、少年――キーボードクラッシャーは手にした刀を振り上げて美希へと襲い掛かった。
「どぉぉんべぇぇぇぇちゃああああああああああん!! 死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
松岡のステップが放つキュッキュッキュッ、というあまりにも場に相応しくない音が響く中、キーボードクラッシャーは美希へ接近する。
美希も咄嗟に逃げようとしたが、松岡の動きが気になって一瞬対応が遅れた。
すぐにキーボードクラッシャーは美希の目の前へ近づくと、振り上げた刀を持つ片手に力を込めて振り下ろそうとし――!
「ちょっと待って……」
「あぁん!?」
突然、それまでただステップを踏むだけだった松岡が口を開いた。
先ほどまではあれほど強い口調だった松岡だが、その言葉だけは何故か異様に静々としている。
怪訝に思ったキーボードクラッシャーは、しかし、振り下ろした腕を止める事はなく。
ただ視線だけを松岡がいる方へと向け……見た。
松岡が尚も奇妙なステップを踊りながらも、こちらに向けて満面の笑みを浮かべ――禍々しい色をした液体をグラスごとこちらへと投げつけるのを。
「ホホッ!?」
反射的に、キーボードクラッシャーはそのグラスを身体を仰け反らせて避ける。
中身が硫酸など、何か人体に悪影響を及ぼすものとも知れない。
顔の横をグラスが通り過ぎ、自身の身体に何ら影響が無かった事に安堵しつつキーボードクラッシャーは再び美希の方へと向き直り――。
瞬間、身体を突き飛ばされた。
「ごめんなさいなのっ……!」
謝罪の言葉を吐きながら、美希はキーボードクラッシャーを突き飛ばした。
振り下ろしていた刀は回避行動を取った事により既に矛先は美希から逸れていたのだ。
キーボードクラッシャーがグラスに気を取られている一瞬の隙を突いた、今の美希に出来る精一杯の抵抗。
しかし身体を仰け反らせていたキーボードクラッシャーは、その小さな抵抗で大きく身体のバランスを崩した。
咄嗟に刀を杖代わりにして体勢を取り直そうとする。
美希の予想外の反抗に動揺しながらもキーボードクラッシャーは美希へと再び襲い掛かろうとするが――。
「よくやったじょおっ!! 美希ィッッ!!!!」
その隙を見逃す松岡修造ではない。
刀を地面に突き立てたキーボードクラッシャーは、今は完全に無防備。
ここを逃しては、チャンスはもう無い。
「松岡ァァァァァァッッッッッ!!!」
奇妙なステップを止めると同時、自身の名前を叫びながら地面を大きく蹴ってキーボードクラッシャーへと飛び掛る。
松岡は決して遊びでステップを踏んでいた訳ではない。
キーボードクラッシャーの隙を突き、自身の渾身の一撃を叩き込む準備をしていたのである。
ステップを踏む事により生み出される力――摩擦熱。
それを靴底に極限まで集め、たった一度の蹴りに全てを懸ける!
「シューーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!! ゾウッッッ!!!!」
熱を帯びた靴底を加減などせずキーボードクラッシャーへと叩きつける。
瞬間、キーボードクラッシャーは大きく悲鳴を上げて吹き飛び、旅館の玄関へとその身体を打ちつけた。
その事に美希は一瞬、彼が怪我をしていないか確認する為に近づこうとしたが、松岡が止めた。
「逃げるじょおっ!!」
「えっ、でもっ!?」
「大丈夫! 俺について来い!!」
尚もキーボードクラッシャーの安否を気にする美希を黙らせ、松岡は美希の腕を取って森の中へと走り行く。
後に残ったのは地に倒れ伏し、動かなくなったキーボードクラッシャー。
そして、地面に転がり中身をぶちまけた、あんこ入り☆パスタ☆ライスだけだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
松岡たちが走り去った後、旅館の中から一人の少女が出てきた。
この少女、実を言うと松岡たちが森の中を迷いに迷いこの旅館を発見する前に、あっさりとこの旅館を見つけていた。
薄汚れた家屋に入るなど、正直言って少女はしたくなかったのだが、"心の広い"少女は渋々とその中に入る。
整備されていない森の中を歩いて疲れていたので、しばしここで休憩をしたかったのだ。
旅館の中でその黴臭さと汚さに内心苛々しながら時を過ごしていると、外から松岡たちとキーボードクラッシャーの戦闘の音が聴こえてきた。
しかし、少女は表には出なかった。 叫ぶ松岡とキーボードクラッシャーの声に激しく苛立ちながらも、だ。
別に松岡たちとキーボードクラッシャーの戦闘が怖くて旅館の中に隠れていた訳ではない。
ただ、少女は彼らのように"下賎"な者達が大勢いる場所に出るのが嫌だっただけなのだ。
旅館から出てきたのは、あの金髪でいかにもオツムの弱そうな身なりをした少女と、やたらと叫ぶ暑苦しい男がいなくなったから。
それを言うならば今でも地に倒れ伏したまま動かないキーボードクラッシャーも、
少女にとって忌むべき"下賎"な輩ではあるのだが、そこは"広い心"を持つ少女。
松岡の摩擦熱キックで完全に気絶し、一言も発していない今の彼ならば、苛々しながらもギリギリ許容する事が出来た。
「どうしましょう……」
先ほどの会話から、この男がこの殺し合いというものに乗っている事はわかっている。
常人ならばこの男から逃げようだとか考えるのが普通なのだが……しかし、少女はそうはしない。
何故なら、高貴なる自分が下賎なる輩にやられる訳がないと、本気で思っているが為。
少女の言う『どうしましょう?』とは即ち、この男を自身の家来にするか否かについて。
本来ならばこんな者を家来にしたくないのだが、今は他に家来もいない状況。
だからこそ、少女は考える。
この気絶した少年を自身の家来にするか否か――少年の意思を無視したままに。
【F-6 温泉旅館・玄関/一日目・黎明】
【鏡音リン@VOCALOID2(悪ノ娘仕様)】
[状態]:苛立ち
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
0.家来を見つけて愚民共を皆殺しにしてもらう。
1.目の前の男(キーボードクラッシャー)を家来にする?
2.歩きたくない。荷物を持ちたくない。
3.レンに会いたい
【キーボードクラッシャー@キーボードクラッシャー】
[状態]:気絶・腹部打撲
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
1:優勝して日本国籍を手に入れる
殺し合い打倒するとか現実逃避してんじゃねええええええええええええええええええ!!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時折後ろを振り返りながら美希の腕を掴んだまま森の中を走り続ける松岡。
どうやらキーボードクラッシャーは追ってこないらしく、松岡は安堵の表情を浮かべて走る速度を緩めた。
荒くなった呼吸をどうにか落ち着かせようと深呼吸をしながら、松岡は掴んでいた美希の腕を放す。
見てみると、美希もまた肩で息をしながら――松岡を睨みつけていた。
美希の視線に気付き、苦笑をしながら松岡は言う。
「大丈夫! 俺がやったのはただの摩擦熱キック。 あいつは怪我も何もしてない!!」
美希が気にしていたのは、やはりというか、あの眼鏡の少年の事だった。
実際には大きな怪我はしていないものの気絶をしていたりするのだが……まあ、そこは置いておこう。
ともかく、松岡にそう言われ、美希は少しだけ迷った後に微笑を浮かべ――呟く。
「なら、よかったの。 ミキ、誰にも怪我とか、して欲しくないの」
襲われている間も、常にキーボードクラッシャーを気にかけていた美希。
美希の心の底からの呟きに、松岡はしかし厳しい顔を作り言う。
「俺だってそうよ!?」
「うん、わかってるの。 しゅーぞーさん、優しいもんね」
「熱くなってきた……!!」
美希の素直な言葉に照れ、真っ赤になって誤魔化そうとそんな事を呟く。
美希はそんな松岡の様子を見ながらまた微笑み、しかし、すぐにその笑みを曇らせる。
「ミキは……駄目だね。
しゅーぞーさんが言ってくれたみたいに、もっともっと熱くなろうとした。
熱くなって、あの男の子に……殺し合いなんてしたくない、って。 言ったよ?
でも、駄目だった……ミキの言葉を、聞いてくれなかった。
その上、またしゅーぞーさんに助けてもらって……」
「気にすんなよ……くよくよすんなよ……」
「えっ?」
落ち込んだ美希に、松岡は優しく呟いた。
「言ったろ? "ずっと"やってみろって……すぐに結果がついてくるもんか。
諦めんなよ、必ず目標は達成出来る! だからこそ、Never give up!!!!」
強くガッツポーズを取りながら、そう締めくくる松岡。
その言葉を受けて、美希は強く心を打たれる。
そうだ……自分は何を諦めようとしていたのだろうか。
諦めちゃ駄目だ、どれだけ失敗しようとずっとずっとやり続ける――。
松岡が一番最初に教えてくれた事だったじゃないか。
「それに美希、あいつの隙を突いて突き飛ばしただろ?
それも熱くなってる証拠だ! あいつに襲われたばかりだった時のお前は、何も動こうとしなかった。
でも、俺の言葉を聞いて! 熱くなったお前は!! ちゃんと自分から動いて、あいつを突き飛ばしただろうがッッ!!!!」
それもまた確かな事だった。
結果だけを見ればほんの少しだけ、ただあの少年の胸を軽く押しただけ。
しかし、それでも松岡の言葉を受ける前の美希にしてみれば大きな一歩。
戦う為の――熱くなる為の覚悟が出来たという、確かな証拠。
「誰も殺したくないってんならそうしろッッ!! 殺し合いを止めたいなら、そうしろッッッ!!!
過去の事を思っちゃ駄目、未来の事も思っちゃ駄目。 あはぁ~ん。
一所懸命! 一つの所に命を懸ける!!
誰に言われても、何を言われても、自分の一つの所だけは守るんだッ!!!」
迷うんじゃない、殺し合いに乗っている者が出てこようと何しようと。
自分の信念を曲げず、ただ突き進んでゆく。
それは確かに難しい事――しかし、今の松岡たちにとって一番大切な事。
「……わかったの、しゅーぞーさん。 ごめんなさいなの」
美希は松岡の手を取り――強く力を込めて言う。
「ミキ、絶対に殺し合いなんてしないの。 殺し合いも、絶対に止めるの!
一つのところに、命を懸けるの!!」
美希の言葉を聞き、松岡は顔に爽やかな笑みを浮かべ――しかし、何も言わなかった。
この少女はもっともっと熱くなれる……松岡は確信している。
この少女がいてくれれば、必ずや目標達成出来るとも。
二人の目標――それは殺し合いを止め、このゲームを殺し合いとは違う手段で終わらせる事だ。
「いくじょおっ! 美希!!」
「うん、しゅーぞーさん!!」
松岡と美希は再び歩き出す。
今更あの旅館へと戻っても少年がいるともわからない為に、先ほどまで自分達が走っていた方向へと。
しばらく歩くと開けた場所に出た。
満天の星空と月光が辺りを包む中、二人は後ろを振り返る。
いつの間にか、森を抜け、草原へと出てくるほど歩いていたらしい。
この道の先に何が待っているのか……松岡にも美希にも、わからない。わかるはずもない。
だが、それでも二人は前へと進んだ。
もう迷わない、一つの所に命を懸けるのだと、必ず目標を達成させると言ったのだから。
………。
「……でもミキ、やっぱり疲れたな。
ねぇしゅーぞーさん、ちょっと休憩しない?」
「あはぁ~ん」
しかし、眠れる金の獅子が、灼熱の炎で真に目覚めるのにはまだ時が足りないようだ。
【E-6 平原/一日目・黎明】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:普通・ちょっぴり熱くなってきた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、モンスターボール(おにぽん)@いかなるバグにも動じずポケモン赤を実況、ねるねるね3種セット@ねるねるね
[思考・状況]
1.人は殺したくないの。
2.プロデューサーを探すの。
3.こんなゲームに乗らず、人を殺さずにゲームを終わらせる方法を考えるの。
4.しゅーぞーさんは信用できるの。
【松岡修造@現実】
[状態]:普通
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(おにぎり1個(食料)消費)、鏡@ドナルド
[思考・状況]
1.こんなゲームに乗らず、人を殺さずにゲームを終わらせる方法を考える。
2.美希と行動を共にする。
|sm28:[[遥か遠きおっぱい帝国]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm35:[[F線上の帝王]]|
|sm33:[[明治十一年の相楽サノスケ]]|[[投下順>00~50]]|sm35:[[F線上の帝王]]|
|sm13:[[我が﨟たし悪ノ華]]|鏡音リン|sm64:[[立場、逆転]]|
|sm18:[[卑怯だッ!]]|キーボードクラッシャー|sm64:[[立場、逆転]]|
|sm03:[[SHUZOM@STER]]|星井美希|sm84:[[ツイントカマク搭載ゆとり]]|
|sm03:[[SHUZOM@STER]]|松岡修造|sm84:[[ツイントカマク搭載ゆとり]]|
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*熱き血潮に ◆0RbUzIT0To
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燃え滾る炎の妖精・熱血漢――松岡修造。
溢れる才能を持った眠れる金獅子――星井美希。
ある意味対極の立場である二人の男女は何故か共に行動をする事となり、
二人は今どことも知れない森の中を突き進んでいた。
「ねぇ、しゅーぞーさん」
「おう! なんだ、美希!?」
この数時間の間に彼の事を下の名前で呼ぶようになっていた美希が口を開く。
それに対して松岡は必要以上に熱く反応してみせ、
美希はそれに対し苦々しげな顔したが松岡は気にする素振りを全く見せない。
ここ数時間でわかった事だが、松岡はとにかく熱い。
歩いている時の情報交換――といっても世間話程度のもので、美希の知り合いの話や松岡の身の回りの話をした程度――をした時も、
やたらと感情を露にしては大声を出して咆哮し、全力全開でボディランゲージを行使する。
何度か美希もその事について注意をした。
大声を出さなくても美希にはちゃんと聴こえている、だからそんな必要は無い、と。
しかしながら松岡はそんな美希の意見は聞き入れず、『今年の僕のテーマはそう! 本気! だからこそ、会話も何も全部本気で答えます!!』
と、実に爽やかに言い切ったのだ。
『本当に熱い人なの……でも、ちょっと疲れるかな』と内心複雑な思いを抱きながら、美希はまあいいかとその松岡の言葉に納得した。
今年のテーマなら仕方ない。
「あのね、ずーっとミキ達歩いているけど、どこに向かってるの?
っていうか、ここどこなのかな? ミキ、疲れちゃったの」
「なんだよ、文句ばっかり……自分の事ばっか考えてんじゃねーのか?」
美希の言葉に対する松岡の言葉は冷たい。
しかしそれを知ってか知らずか、美希は気にするでもなく尚も言葉を紡ぐ。
「だって、ずーっと歩きっぱなしだよ? お空も暗いし、夜だし。
こんな時間に外歩き回るの、ミキ、よくないと思うな」
「俺だってこの暗闇のところ、このゲームをどうにかしようって頑張ってんだよ!?
お前も頑張れ! お米食べろ!!」
「おにぎりはさっき食べたからいいの」
「過去のことを思っちゃダメだよ」
「もう、はぐらかさないで欲しいな……あれっ?」
不意に、美希が歩みを止め、松岡へ向けていた視線を進行方向へと向けて驚きの声を上げた。
それにつられ、松岡も前方へと目をやり――美希と同じように驚いた。
青々と生い茂った葉をつけた木々の中、ぽつんと寂しげに建っていたそれは――。
「富ッ士山だ!!!」
「違うの、旅館なの」
松岡の間違いを適当に訂正しながら、美希は呟いた。
そう、そこにあったのは紛れも無い旅館。
実はこの旅館、美希達が最初に出会った場所の比較的近い場所に存在していたのだが、
二人はそれを知らずその周囲を彷徨っていた為にこうして発見が遅れたものである。
少々古ぼけており、旅館の名が書かれていたであろう汚れた木の板は辺りの暗闇と相まって見えないが――まあ、それは置いておこう。
それよりも問題は、どうしてこんな場所に旅館があるのかという事だ。
辺りは木々で埋め尽くされているというのに、そこだけ整備された旅館が存在するというのは明らかに不自然である。
その存在に疑問を持つのが自然な流れなのだが……。
「早速お風呂に入るの! それで、その後はお布団でちゃんと寝るの」
「汚れ、疲れ。 そんなの全て洗い流しちゃえ!」
二人には、そんな事は些細なものだったらしい。
美希は安眠を求め、松岡はぐつぐつと煮え滾るほどの熱い風呂を求め、その旅館に飛び込もうとした。
だが、その瞬間――。
「まんまんフ○ラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!??????」
二人の背後から突如、松岡のそれと肩を並べるほどの声量を持った怒鳴り声が響いた。
松岡は咄嗟に振り向き、何が起こったのかまだわかっていない様子の美希を庇うように一歩前へと出る。
視線を前へと向けると暗闇の中明らかに正気ではない様子をした眼鏡をかけた外国人の少年が、
刀を片手にこちらへと突進してきている事がわかった。
「松下さああああああああああああああああああああん!!!」
「松下じゃない! 松岡だ!! 松岡ァァァァァァァァッ―――!!」
叫びながら突進してくる少年に律儀に返答しながら、松岡は美希を押し倒して少年の一振りを回避する。
どう見ても話し合いは不可能そうだ、ならば!
「シューーーーーーーーーッ!!! ゾウッ!!!!」
そう叫び、空振りをして無防備になった少年の鳩尾に蹴りを思い切り放つと、急いで美希を立たせて少年と距離を取った。
少年は悶絶し、奇声を上げながらのた打ち回っている。
美希は混乱している様子で、しきりに何かを言おうと口を開いては閉じ、松岡と襲撃者の顔を交互に見ている。
その様子に松岡は苛立ち、美希の腕を掴んだまま言い放った。
「ちゃんと!! 言えよッッッ!!!!」
「あぅっ、ご、ごめんなさいなの」
美希が混乱をするのも無理が無い事くらい、松岡にもわかっている。
しかし、それでも松岡は美希の態度に対して怒り、怒鳴った。
二人が共に過ごした時間はほんの数時間――だが、それでも松岡は美希には死んで欲しくないと思っている。
だからこそ、松岡は美希を怒鳴ったのだ。『本気』で。
ここで美希をただ守り、美希のその態度を何ら責める事なく。
ただ、この状況では混乱しても仕方が無い――と、片付けてしまうのは簡単だ。
しかし、それではこの殺し合いを強制された場では決して生き残れない。
これから先、松岡がずっと彼女を守れるのか? 答えは否だ。
松岡が少年の一撃を回避出来たのはただの偶然に過ぎない。
もしも少年が大降りをせず、咄嗟に地に倒れた松岡を狙い切り伏せていればそこで自分達は死んでいた。
このゲームが開始してまだ数時間程度しか経っていない今でさえ、そうなのだ。
次が上手くいくとも限らない、松岡が美希を確実に守れる道理は無い。
松岡は美希に、覚悟を持ってもらいたかった。
出会った時の松岡の言葉に、美希は確かにこの殺し合いを現実のものだと悟った。
だが、それでもまだ美希の中には甘えがあったのだ。
松岡がいてくれる事への甘え、この場にいる皆も松岡のようにいい人であるかもしれないという甘ったれた考えが。
故に美希はこうして少年に襲われた今、激しく狼狽している。
このままではそう遠くない未来、彼女は死ぬ。
だからこそ、今の星井美希には必要なのである。
戦う覚悟――即ち。
「もっともっとォォ!!!! 熱くなれよォォォォォォォォォッ!!!!!!」
「ッ!!」
松岡は、自身の思いの丈を星井美希にぶつける。
熱くなれよと。
もっともっと熱くなり、本気になり、本当の自分に出会い、自分を変える覚悟を持てと――全てを変える覚悟を持てと。
その思いが伝わったのかどうなのか、ともかく、美希は口を固く結んだ。
目は泳いでいたが、それでも先ほどまでのようにおろおろと狼狽するような様子は少々なりを潜める。
そんな美希の様子を見て松岡は小さく笑み、すぐに表情を真剣なそれへと変えると少年の方へと向き直った。
松岡が熱い思いを美希に伝えている間、少年は地に伏していた。
しかし、その痛みは次第に癒え――少年は再び刀を手に持ちゆっくりと起き上がる。
荒い呼吸をしながら松岡と美希を交互に見つめ、その狂気で歪んだ瞳に美希は小さく震えながら……。
それでも、強い口調で少年に告げる。
先ほどは狼狽しては言えなかった言葉を……熱い気持ちを持って、少年に向けて。
「ミキ達、何もしないよ! 人を殺すなんて、絶対にしない!
だから、その剣、放して欲しいな。 大丈夫だよ、怖くないよミキ達。
ミキ、星井美希。 こっちは松岡修造さん。 大丈夫、怖くないよ」
出てきた言葉は少年への罵声ではなく、少年を落ち着かせる為のもの。
両手を開いて敵意が無い事を示しながら、美希は少年の瞳を見つめる。
まだ身体は震えている……だが、それでも美希はこの少年を説き伏せようと真っ直ぐな瞳で少年を見た。
「ほらっ、しゅーぞーさんも言って!」
美希に促され、松岡も少年に向かって言葉を吐く。
「悔しいだろ、分かるよ。 思うように行かないこと、たくさんあるよな!
こんな殺し合いの場所に連れてこられて混乱する……わかるわかる!
でもな、我慢しなきゃいけないときだってあるんだよ! 人生、思うようにいかないことばかりだ!
でもそこで頑張れば絶対必ずチャンスが来る! 安易に殺し合いをするなんて選択肢を選ぶな! 頑張れよッ!!」
二人の言葉を受けている間、少年はただ無言だった。
しばし、沈黙が辺りを支配し……しかし、それもすぐに終わりを遂げる。
「フッフフフ……アーッハッハッハッハハハハハ……!!
あー、おっかっしっ! ホッホッホッ!!」
少年が突如、肩を震わせながら盛大に笑い声を上げる。
その様子に再び美希は驚きの表情を、松岡は憮然とした表情を少年へと向けた。
美希は、先ほどの自分達の言葉で少年が正気に戻ってくれるものだと思っていた。
突然少年が襲ってきたのは自分達を見て恐怖に駆られていた為。
故に、自分達が安全だと教えてあげれば少年はその手に持った凶器を捨ててくれるだろうと。
しかし現実、少年は明らかに自分達に向けて歪んだ笑みを浮かべている。
どうして? ……そう困惑する美希に向け、少年は邪悪な笑みを浮かべたまま叫ぶ。
「最後の一人になるまで戦わなきゃ生き残れねぇんだろうがあああああああああああああッッ!!!!
ふざけた事抜かしてんじゃねーぞおま○こバーガー!!」
少年は、決して混乱して美希たちを襲ったわけではない。
しっかりとした意思を持ち、美希たちを殺して生還への道を確保するが為に彼女達を襲ったのだ。
「大体俺はもう一人殺してんだよォォォッ!!
それなのに説得だァ!? あー、おっかっしっ!! ホッホッホッ!!!」
少年のその言葉を聞き、美希と松岡に動揺が走った。
確かにこのゲームが開始して数時間が経過している。
だが、まさかもうこの殺し合いの犠牲者が出ているとは、美希たちは思っていなかったのだ。
美希は悲しげな表情を浮かべて少年から一歩後ずさり、松岡は忌々しげな表情を浮かべながら何故か奇妙なステップを踏んでいた。
その隙を見逃さず、少年――キーボードクラッシャーは手にした刀を振り上げて美希へと襲い掛かった。
「どぉぉんべぇぇぇぇちゃああああああああああん!! 死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
松岡のステップが放つキュッキュッキュッ、というあまりにも場に相応しくない音が響く中、キーボードクラッシャーは美希へ接近する。
美希も咄嗟に逃げようとしたが、松岡の動きが気になって一瞬対応が遅れた。
すぐにキーボードクラッシャーは美希の目の前へ近づくと、振り上げた刀を持つ片手に力を込めて振り下ろそうとし――!
「ちょっと待って……」
「あぁん!?」
突然、それまでただステップを踏むだけだった松岡が口を開いた。
先ほどまではあれほど強い口調だった松岡だが、その言葉だけは何故か異様に静々としている。
怪訝に思ったキーボードクラッシャーは、しかし、振り下ろした腕を止める事はなく。
ただ視線だけを松岡がいる方へと向け……見た。
松岡が尚も奇妙なステップを踊りながらも、こちらに向けて満面の笑みを浮かべ――禍々しい色をした液体をグラスごとこちらへと投げつけるのを。
「ホホッ!?」
反射的に、キーボードクラッシャーはそのグラスを身体を仰け反らせて避ける。
中身が硫酸など、何か人体に悪影響を及ぼすものとも知れない。
顔の横をグラスが通り過ぎ、自身の身体に何ら影響が無かった事に安堵しつつキーボードクラッシャーは再び美希の方へと向き直り――。
瞬間、身体を突き飛ばされた。
「ごめんなさいなのっ……!」
謝罪の言葉を吐きながら、美希はキーボードクラッシャーを突き飛ばした。
振り下ろしていた刀は回避行動を取った事により既に矛先は美希から逸れていたのだ。
キーボードクラッシャーがグラスに気を取られている一瞬の隙を突いた、今の美希に出来る精一杯の抵抗。
しかし身体を仰け反らせていたキーボードクラッシャーは、その小さな抵抗で大きく身体のバランスを崩した。
咄嗟に刀を杖代わりにして体勢を取り直そうとする。
美希の予想外の反抗に動揺しながらもキーボードクラッシャーは美希へと再び襲い掛かろうとするが――。
「よくやったじょおっ!! 美希ィッッ!!!!」
その隙を見逃す松岡修造ではない。
刀を地面に突き立てたキーボードクラッシャーは、今は完全に無防備。
ここを逃しては、チャンスはもう無い。
「松岡ァァァァァァッッッッッ!!!」
奇妙なステップを止めると同時、自身の名前を叫びながら地面を大きく蹴ってキーボードクラッシャーへと飛び掛る。
松岡は決して遊びでステップを踏んでいた訳ではない。
キーボードクラッシャーの隙を突き、自身の渾身の一撃を叩き込む準備をしていたのである。
ステップを踏む事により生み出される力――摩擦熱。
それを靴底に極限まで集め、たった一度の蹴りに全てを懸ける!
「シューーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!! ゾウッッッ!!!!」
熱を帯びた靴底を加減などせずキーボードクラッシャーへと叩きつける。
瞬間、キーボードクラッシャーは大きく悲鳴を上げて吹き飛び、旅館の玄関へとその身体を打ちつけた。
その事に美希は一瞬、彼が怪我をしていないか確認する為に近づこうとしたが、松岡が止めた。
「逃げるじょおっ!!」
「えっ、でもっ!?」
「大丈夫! 俺について来い!!」
尚もキーボードクラッシャーの安否を気にする美希を黙らせ、松岡は美希の腕を取って森の中へと走り行く。
後に残ったのは地に倒れ伏し、動かなくなったキーボードクラッシャー。
そして、地面に転がり中身をぶちまけた、あんこ入り☆パスタ☆ライスだけだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
松岡たちが走り去った後、旅館の中から一人の少女が出てきた。
この少女、実を言うと松岡たちが森の中を迷いに迷いこの旅館を発見する前に、あっさりとこの旅館を見つけていた。
薄汚れた家屋に入るなど、正直言って少女はしたくなかったのだが、"心の広い"少女は渋々とその中に入る。
整備されていない森の中を歩いて疲れていたので、しばしここで休憩をしたかったのだ。
旅館の中でその黴臭さと汚さに内心苛々しながら時を過ごしていると、外から松岡たちとキーボードクラッシャーの戦闘の音が聴こえてきた。
しかし、少女は表には出なかった。 叫ぶ松岡とキーボードクラッシャーの声に激しく苛立ちながらも、だ。
別に松岡たちとキーボードクラッシャーの戦闘が怖くて旅館の中に隠れていた訳ではない。
ただ、少女は彼らのように"下賎"な者達が大勢いる場所に出るのが嫌だっただけなのだ。
旅館から出てきたのは、あの金髪でいかにもオツムの弱そうな身なりをした少女と、やたらと叫ぶ暑苦しい男がいなくなったから。
それを言うならば今でも地に倒れ伏したまま動かないキーボードクラッシャーも、
少女にとって忌むべき"下賎"な輩ではあるのだが、そこは"広い心"を持つ少女。
松岡の摩擦熱キックで完全に気絶し、一言も発していない今の彼ならば、苛々しながらもギリギリ許容する事が出来た。
「どうしましょう……」
先ほどの会話から、この男がこの殺し合いというものに乗っている事はわかっている。
常人ならばこの男から逃げようだとか考えるのが普通なのだが……しかし、少女はそうはしない。
何故なら、高貴なる自分が下賎なる輩にやられる訳がないと、本気で思っているが為。
少女の言う『どうしましょう?』とは即ち、この男を自身の家来にするか否かについて。
本来ならばこんな者を家来にしたくないのだが、今は他に家来もいない状況。
だからこそ、少女は考える。
この気絶した少年を自身の家来にするか否か――少年の意思を無視したままに。
【F-6 温泉旅館・玄関/一日目・黎明】
【鏡音リン@VOCALOID2(悪ノ娘仕様)】
[状態]:苛立ち
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
0.家来を見つけて愚民共を皆殺しにしてもらう。
1.目の前の男(キーボードクラッシャー)を家来にする?
2.歩きたくない。荷物を持ちたくない。
3.レンに会いたい
【キーボードクラッシャー@キーボードクラッシャー】
[状態]:気絶・腹部打撲
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
1:優勝して日本国籍を手に入れる
殺し合い打倒するとか現実逃避してんじゃねええええええええええええええええええ!!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
時折後ろを振り返りながら美希の腕を掴んだまま森の中を走り続ける松岡。
どうやらキーボードクラッシャーは追ってこないらしく、松岡は安堵の表情を浮かべて走る速度を緩めた。
荒くなった呼吸をどうにか落ち着かせようと深呼吸をしながら、松岡は掴んでいた美希の腕を放す。
見てみると、美希もまた肩で息をしながら――松岡を睨みつけていた。
美希の視線に気付き、苦笑をしながら松岡は言う。
「大丈夫! 俺がやったのはただの摩擦熱キック。 あいつは怪我も何もしてない!!」
美希が気にしていたのは、やはりというか、あの眼鏡の少年の事だった。
実際には大きな怪我はしていないものの気絶をしていたりするのだが……まあ、そこは置いておこう。
ともかく、松岡にそう言われ、美希は少しだけ迷った後に微笑を浮かべ――呟く。
「なら、よかったの。 ミキ、誰にも怪我とか、して欲しくないの」
襲われている間も、常にキーボードクラッシャーを気にかけていた美希。
美希の心の底からの呟きに、松岡はしかし厳しい顔を作り言う。
「俺だってそうよ!?」
「うん、わかってるの。 しゅーぞーさん、優しいもんね」
「熱くなってきた……!!」
美希の素直な言葉に照れ、真っ赤になって誤魔化そうとそんな事を呟く。
美希はそんな松岡の様子を見ながらまた微笑み、しかし、すぐにその笑みを曇らせる。
「ミキは……駄目だね。
しゅーぞーさんが言ってくれたみたいに、もっともっと熱くなろうとした。
熱くなって、あの男の子に……殺し合いなんてしたくない、って。 言ったよ?
でも、駄目だった……ミキの言葉を、聞いてくれなかった。
その上、またしゅーぞーさんに助けてもらって……」
「気にすんなよ……くよくよすんなよ……」
「えっ?」
落ち込んだ美希に、松岡は優しく呟いた。
「言ったろ? "ずっと"やってみろって……すぐに結果がついてくるもんか。
諦めんなよ、必ず目標は達成出来る! だからこそ、Never give up!!!!」
強くガッツポーズを取りながら、そう締めくくる松岡。
その言葉を受けて、美希は強く心を打たれる。
そうだ……自分は何を諦めようとしていたのだろうか。
諦めちゃ駄目だ、どれだけ失敗しようとずっとずっとやり続ける――。
松岡が一番最初に教えてくれた事だったじゃないか。
「それに美希、あいつの隙を突いて突き飛ばしただろ?
それも熱くなってる証拠だ! あいつに襲われたばかりだった時のお前は、何も動こうとしなかった。
でも、俺の言葉を聞いて! 熱くなったお前は!! ちゃんと自分から動いて、あいつを突き飛ばしただろうがッッ!!!!」
それもまた確かな事だった。
結果だけを見ればほんの少しだけ、ただあの少年の胸を軽く押しただけ。
しかし、それでも松岡の言葉を受ける前の美希にしてみれば大きな一歩。
戦う為の――熱くなる為の覚悟が出来たという、確かな証拠。
「誰も殺したくないってんならそうしろッッ!! 殺し合いを止めたいなら、そうしろッッッ!!!
過去の事を思っちゃ駄目、未来の事も思っちゃ駄目。 あはぁ~ん。
一所懸命! 一つの所に命を懸ける!!
誰に言われても、何を言われても、自分の一つの所だけは守るんだッ!!!」
迷うんじゃない、殺し合いに乗っている者が出てこようと何しようと。
自分の信念を曲げず、ただ突き進んでゆく。
それは確かに難しい事――しかし、今の松岡たちにとって一番大切な事。
「……わかったの、しゅーぞーさん。 ごめんなさいなの」
美希は松岡の手を取り――強く力を込めて言う。
「ミキ、絶対に殺し合いなんてしないの。 殺し合いも、絶対に止めるの!
一つのところに、命を懸けるの!!」
美希の言葉を聞き、松岡は顔に爽やかな笑みを浮かべ――しかし、何も言わなかった。
この少女はもっともっと熱くなれる……松岡は確信している。
この少女がいてくれれば、必ずや目標達成出来るとも。
二人の目標――それは殺し合いを止め、このゲームを殺し合いとは違う手段で終わらせる事だ。
「いくじょおっ! 美希!!」
「うん、しゅーぞーさん!!」
松岡と美希は再び歩き出す。
今更あの旅館へと戻っても少年がいるともわからない為に、先ほどまで自分達が走っていた方向へと。
しばらく歩くと開けた場所に出た。
満天の星空と月光が辺りを包む中、二人は後ろを振り返る。
いつの間にか、森を抜け、草原へと出てくるほど歩いていたらしい。
この道の先に何が待っているのか……松岡にも美希にも、わからない。わかるはずもない。
だが、それでも二人は前へと進んだ。
もう迷わない、一つの所に命を懸けるのだと、必ず目標を達成させると言ったのだから。
………。
「……でもミキ、やっぱり疲れたな。
ねぇしゅーぞーさん、ちょっと休憩しない?」
「あはぁ~ん」
しかし、眠れる金の獅子が、灼熱の炎で真に目覚めるのにはまだ時が足りないようだ。
【E-6 平原/一日目・黎明】
【星井美希@THE IDOLM@STER】
[状態]:普通・ちょっぴり熱くなってきた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、モンスターボール(おにぽん)@いかなるバグにも動じずポケモン赤を実況、ねるねるね3種セット@ねるねるね
[思考・状況]
1.人は殺したくないの。
2.プロデューサーを探すの。
3.こんなゲームに乗らず、人を殺さずにゲームを終わらせる方法を考えるの。
4.しゅーぞーさんは信用できるの。
【松岡修造@現実】
[状態]:普通
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(おにぎり1個(食料)消費)、鏡@ドナルド
[思考・状況]
1.こんなゲームに乗らず、人を殺さずにゲームを終わらせる方法を考える。
2.美希と行動を共にする。
|sm28:[[遥か遠きおっぱい帝国]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm35:[[F線上の帝王]]|
|sm33:[[明治十一年の相楽サノスケ]]|[[投下順>00~50]]|sm35:[[F線上の帝王]]|
|sm13:[[我が﨟たし悪ノ華]]|鏡音リン|sm64:[[立場、逆転]]|
|sm18:[[卑怯だッ!]]|キーボードクラッシャー|sm64:[[立場、逆転]]|
|sm03:[[SHUZOM@STER]]|星井美希|sm84:[[ツイントカマク搭載ゆとり]]|
|sm03:[[SHUZOM@STER]]|松岡修造|sm84:[[ツイントカマク搭載ゆとり]]|
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