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俺たちは頭を冷やす為に廊下へ出ていた。廊下は筐体から流れる音楽もなく、しんと静まり返っている。
熱暴走を起こした脳を冷やすには最適だった。俺は壁にもたれて、今の試合を思い出していた。

『シュッ!パイルバンカー!!……』

あの髭の声が今も耳の奥にべっとりとこびり付いて離れない。直後に響いた『カウンター!』も。

「ごめん緒土…あたしのせいだ…あたしがキレてなければ今頃あんな奴…」

出し抜けに、聖が口を開いた。
態度も言動も強気な聖からこんな言葉が出るとは想像できなかった。
意外と繊細なのかもしれない。

「そんなこと気にすんなよ。
 あいつの紙野に対する態度を見てキレなかったら、逆に俺はお前のこと見損なうぞ」

それに、負けたのは俺のせいだ。永園の態度に聖がキレちまったのはしょうがない。
俺が奴を倒せばよかったんだ…。くそッ…!

「あたしはアンタのこと見直したけどね」

そういって聖が俺の正面まで歩いて来た。向かい合う形になる。

「え?」
「最初はさ、『あーあ、変な奴とチームになっちゃったなー』って思ってたんだ」
「そりゃどうも…」

やべー、こいつ変に美形でスタイルもいいから目のやり場に困る…。

「でも永園に怒ってるアンタの姿を見たらさ、『なんだ、意外といい奴じゃん』って思ったよ」
「『意外と』は余計だ!」

誉めたいのか貶したいのかどっちだ。というか急に何を言い出すんだこいつは…。
面と向かって言われると猛烈に恥ずかしい。

「あ、あのさ…」
「なんだよ?」
「アンタ、三綾 俣奈さんと付きあってんの?」
「はぁ?」

素っ頓狂な声を上げてしまう。何でいきなり三綾が出てくるんだ。

「だ、だってあのDQNが『お前を倒して俣奈はもらう』って言ってたからさ…」
「ああ…そうか…」

説明するのは面倒くさかったが、変な誤解も与えたくなかったので経緯を話した。

「で、それをアイツは馬鹿正直に信じこんでるだけだ」
「なんだ、そうだったんだ」
「それより何でそんなこと聞くんだよ?」
「ア、アンタには関係ないわよ!」

(変な奴…まさか百合なんてことはないよな…?)

「…そろそろ教室に戻ろうぜ」
「そうね…」

教室へ入ると試合は全て終了していた。結局優勝したのは郁瀬、三綾のチーム。
三綾は強いし優勝するのも別に不思議ではなかったが、三綾の表情が妙に暗いのは不思議だった。

「私、なんにもできなかった…」
「え?」

話を聞くと相方の郁瀬 弓太が鬼神の如き強さで対戦相手を片っ端から血祭りに上げていったらしい。
結局一回も負けずに優勝してしまったそうだ。
そんな化け物みたいな奴がいるのか…戦ってみてぇ。

『オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!ネッテロー!!』

「おっと、終業のチャイムだ。今日の授業はこれで終了!以上、解散!」

右のヴォイスが全校に響き渡る。こんなのがチャイムだなんて…頭痛ぇ…。


「松瀬、一緒に帰ろうよ」
「おう」

「ねえ、ちょっと」

椅子から立ち上がると同時に誰かに声を掛けられた。

「アナタ、三綾 俣奈さんよね?」

なんだ、声を掛けられたのは俺じゃなくて三綾か。
前を見ると金髪の…

(ってこのシーン、何か身に覚えがあるぞ…。)

でも今回目の前に立っていたのはDQNではなく、見覚えのある女だった。

「あたし、江辻 聖って言うの。さっきこの男と組ませてもらったんだけど…」

聖だった。まぁ、そんなことは声聞いたときから分かってたけど。

「あ、そうなんですか。どうでした?松瀬は活躍してました?」
「ぜんっぜん駄目ね。こいつ一回も勝ってないのよ」
「てめぇ何しに来たんだ!!」

わざわざ人の評判を貶めに来たのかこいつは。

「あたしも一緒に帰ろうと思ってさ」
「はぁ?何言って…」「いいですよ!一緒に帰りましょう」

三綾が俺の言葉をかき消す。

「ホント?ありがと~!あたしまだ友達いなくてさ、不安だったんだよね」
「1人は寂しいですよね」
「そうそう、そうなのよ!よろしくね!あたしは『ひじり』でいいから。あと、敬語も使わなくていいから」
「うん、じゃあ聖ちゃんって呼ぶね。私は『またな』でいいよ」
「よろしくね俣奈」

…なんだこれは。2人が会話を始めてからまだ1分もたってないのに『聖ちゃん』に『俣奈』かよ。
この2人の人当たりの良さは異常だ。なんてったって俺が知り合いになれたくらいだからな。
1分で友達同士になるなんてお手の物ってわけか…。

「松瀬、じゃあ帰ろうよ」
「ああ…」

別に反対する理由もないし…まぁいいか。2人とも強いし、良い練習相手にもなってくれるだろう。

教室から出ようと、出口のすぐそばまで来た時だった。

―――バンッ!!!

壁に何かを叩きつけるような音が教室に響いた。

「オマエのせいで負けたんだろうが!どうしてくれんだよ!あ!?」

(いちいち癇に障る声…あのDQN野郎か…。)

「ご、ごめんね…」

教室の後ろを見ると、永園が紙野のむなぐらを掴んでいる姿が目に入った。

「オイオイ…それだけ?形の有る誠意ってもんを見せて欲しいんだけど?」
「あ…う、うん…」
「そうそう、そうやっていつも通りに大人しく渡せばいいんだよ」

紙野が制服のポケットから財布を取り出した。

「やめろ!!」

声に反応して永園がこっちに振り向く。

「ったく…またオマエかよ…雑魚のくせに。ウザイんだけど」
「お前…そんなことしていいと思ってんのか!!」
「ハハッ、なに?やんの?殺すよ?」

反省の色など微塵も見せず、にやけた顔をしてポキポキと指を鳴らす永園。

(野郎…ッ!!)

「ちょっと緒土!抑えなさいよ!」
「松瀬、ダメだよ!」

聖と三綾が腕を掴む。

「離せッ!もう我慢できねぇ!!」

ここで引き下がれるか。退学になったって構わん。一発殴ってやんないと気が済まねぇ!

「逃げるなら今のうちだぜ?」

そう言って永園がツカツカと俺の前まで歩み寄ってきた―――その時。

「うおォ!?」

永園が何かに躓いて派手に転んだ。

「誰だァッ!!!」

すぐに起き上がって叫ぶ永園。鼻っ面を床に思いっきりぶつけたようだ。顔が汚れている。

「いやー悪い悪い。足引っかかっちゃたかな?」

出口のすぐそばの席に座っていた男がゆっくりと立ち上がった。目つきの鋭い、黒髪の男。

(背、高ぇ…180あるか…?ガタイもいい。永園みたいなひょろい身体とは比べ物にならない。)

永園もそう思ったのだろう。チッと舌打ちをすると後ろの出口から逃げるように教室を出て行った。

「郁瀬さん…」

三綾がポツリと呟く。郁瀬…たしか三綾が言っていたエディ使い。

「……あんた、松瀬だっけ?」

郁瀬が目の前までやってくる。

「えっ、俺?」

(一体なんだ?でも、俺達を助けてくれたんだよな…悪いヤツじゃ無さそうだけど…。)

「あんた、紙野ってチップ使いのことであのDQNに怒ってたヤツだろ?」
「あ、ああ…そうだけど」

そう言うと、いきなり郁瀬は俺の手を握った。

「俺、あんたの心意気に惚れたんだ!なぁ頼むよ、兄貴って呼ばせてくれよ!!」


―――はぁ?

「それは出来れば勘弁してもらいたいんだが…」
「ええっ!?」

頭を抱え、膝を折る郁瀬。

(いくらなんでもオーバーリアクションだろ…。)

でも本気で落ち込んでいるようにも見える。

(野郎に好かれても嬉しくないんだけどな…。)

「じゃ、じゃあ友達からってことでいいっスか…?」

膝を折ったまま、すがるように俺の顔を見上げてくる。

(それも何か誤解を受けそうな発言で嫌だな…。
 でも無下に断るのも気が引けるし、助けてもらった恩もある。)

「ま、まぁそれなら構わないけど…」

それを聞くや否や、ぐっと拳を握ってガッツポーズをする郁瀬。

(こいつ本当に大丈夫か?これじゃあザトーとヴェノムの立場が逆じゃないか。)


―――持ちキャラはエディ、心はヴェノム。その名も、名GGプレイヤー郁瀬!!


(頭痛ぇ…。)

「あ、あの!」

突然、聞きなれない声が会話に割り込んできた。

「僕、紙野 毅って言います…あの、さっきはありがとうございました!」

話し掛けてきたのはさっき聖にボロ雑巾のようにやられ、永園に恐喝されていたチップ使い、紙野 毅だった。

「お礼ならこっちに言って。あのDQNに文句言ったのこいつだから」

そういって俺を親指で指す聖。

「あ、あの、ありがとうございました!」
「当然のことをしたまでさ。礼なら銀行にでも振り込んでおいてくれ。口座は…」

パァン!と頭からいい音がした。聖のツッコミが入っていたのだ。
かなり痛ぇ。こいつ加減ってもんを知らんのか。

「冗談だ!」
「わかってるわよ」

涼しい顔で言い放つ聖。わかってて叩くなんて…なかなかどうして出来るじゃあないか…。
そんな俺たちのやり取りを見て三綾は笑っている。

「あ、あの…」

紙野が困惑しているようだ。

「ああ、悪い。なんだ?」
「こ、これお礼です!受け取ってください!」

紙野が差し出してきた物……それは薄っぺらい3枚の紙だった。

―――金だった。
3000円。

「お、おい!さっきのは冗談で…」
「えっ…あの、足りなかったですか…金額…」

紙野は本気で言っていた。

―――こいつ、いままで一体どれほどの苦労をしてきたのだろう。
やっぱり俺が感じたのは合っていたんだ。
苛められてきたんだ…。金を渡せば相手が喜ぶと思っている。
きっと今までさんざん苛められ、金を巻き上げられてきたんだ…。人間不信になっちまってる…。

「いらねぇよ…」
「あ、す、すみません…今日はこれしか持ってないんです…」

紙野がすまなそうにうつむく。

「金なんかいらねぇって言ってんだよッ!!」

水を打ったように教室が静寂に包まれた。

「あ、兄貴…?」

郁瀬を無視して俺は話を続けた。

「お前、今までアイツに苛められてきたのか?」
「え、あの、その…」
「どうなんだ!!」
「は、はい、そうです…永園君とは中学からの付き合いで…」

(やっぱり…。)

「俺が金目当てでお前を助けたと思ったのか?」
「い、いえ!でも、お礼はお金でするものだと永園君にはいつも言われてましたから…」

永園の野郎…マジで許せねぇ…。

「でも、もう大丈夫だよ!」
「三綾…?」
「そうそう、あたし達があのDQNから守ってあげればいいじゃない」
「そうっスよ兄貴!」

(そうか…。できれば紙野自身の力で克服させてやりたいが…。)

紙野に目をやる。俺の大声に驚いてしまったのか、膝が小刻みに震えていた。

(流石にこんな状態じゃ無理だよな…。)

「紙野」

名前を呼んで、俺は手を差し出した。

「は、はい…?」
「友達になろうぜ!」
「え!?あの…その…」

いきなりの予想外の発言に戸惑っているようだ。

「あーもう、じれったいわねぇ!」

そう言って聖は無理やり紙野と俺の手を取って、握り合わせた。
多少強引ではあったが、紙野の表情が少しだけ明るくなっていたから良かった。間違ってなかったようだ。

「私も友達だよ」

三綾も紙野の手を握る。聖、郁瀬もそれに続いた。

「今日は仲間が3人も増えたね」

三綾も嬉しそうだ。こいつらとなら紙野もきっと上手くやっていけるだろう。

「じゃあ俺からお前ら3人に質問がある」
「なによ?緒土」「何すか?兄貴」「な、何ですか…?」

3人の声がハモる。

「お前ら、ギルティで1番好きな曲は何だ?当然 still in the dark だよな?」
「え~、違うよ松瀬。Xの bloodstained lineage だよね?」
「ぼ、僕は noontide が1番だと思うなぁ…」
「な~に言ってんスか兄貴!やっぱXの babel noseっスよ!!」
「緒土、アンタ馬鹿ね…そんなの drunkard does make wise remarks に決まってるじゃない」


………全面戦争の予感を残しつつ、2日目が終わりを告げた。

ドアの向こうからは今日も sheep will sleep が流れていた。
ノブを回し、ドアをゆっくりと開く。例によって盛り上がった布団が視界に入る。

「まだ寝てる…」

部屋の中に足を踏み入れた、その時。

『見誤ったな!!』
「わぁ!な、なに!?」

どこからか、聞きなれたヴェノムの声。

『見誤ったな!…見誤ったな!…見誤ったな!…』

無限に繰り返される『見誤ったな』の声。発信源を探る。
ベッドの上に見慣れない時計が置いてある。犯人はどうやらこれのようだ。
録音機能でも付いているらしい。

(私を驚かす為にこんな事したのかな…。なにやってんだか…)

「ほら、起きて!」

時計を止め、布団を揺する。

「んん……」

寝返りをうっただけ。全然起きる気配がない。
でも、こうして寝顔を見ているのもなんかいいなぁ。ふふ、結構可愛い顔してる。
ちょっといたずらしちゃおっかな。


「グッモーニン!マタナ ミアヤ!」

それから数分悪戯してから起こしてやった松瀬は何故か外人口調だった。
ニッと白い歯を見せ、眩しい笑顔で親指を立てている。
私の悪戯には気付いていないみたい。

「やれば出来るじゃないか。今日は思わず外人口調になるくらい爽やかな目覚めだったぞ」
「そう言ってもらえると光栄だよ」

木製のテーブルにはコーヒーの代わりに牛乳が置いてある。意外にも私の言うことを聞いてくれたらしい。

「でも、朝食それだけ?お昼までもつの?ちゃんと食べた方がいいよ」
「確かに3限の開始時にはもう腹が鳴ってるからな…考えとくよ」

そう言って焼きたてのトーストをほおばる松瀬。カリッといい音。
リビングがパンの焼けた香ばしい匂いで満たされる。

「朝はビックリしたよ。いきなりヴェノムの声が聞こえたから…」
「昨日の仕返しだ」
「はぁ…もうあんな馬鹿なことやめてよ?心臓に悪いよ」
「考えとく」
「『考えとく』じゃなくてやめてよ!!」

私を無視して牛乳を一気に飲む松瀬。

「じゃあ俺、顔洗ってくるわ」

朝食を食べ終え、松瀬が席を立つ。

―――まずい。

「じゃ、じゃあ私先に行ってるからー!」
「お、おい!ちょっと…」

逃げるように松瀬の家を出た。

(怒るかなぁ…。)

そんなことを考えて学校への道を歩いていると、後ろから強烈な殺気を感じた。
振り返るとそこには、土煙を上げて鬼のような形相で並木道を爆走してくる男子高校生の姿。

―――どうしよう。

考える暇はなかった。
防衛本能に任せ、だっ!と学校へ向けて全速力で走った。



「緒土のヤツ、とうとう頭おかしくなっちゃったの?」
「あはは…そうかも…」

緒土は教室に入ってくるなり生徒達から奇異の目で見られ、すぐに『しまった』という顔をしてトイレに駆け込んでいった。
珍しく早めに登校してきたと思ったら、緒土は頭の後ろにシールを張っていた。
ヴェノムの髪の模様のような…あのでっかい目のシール。

(あんなの売ってるんだ…。この学校で買ったのかな。)

「ほんっとに馬鹿ね。アイツは」
「松瀬はちょっと何考えてるかわからない所あるからね」

「お前のせいだろうが!!
 この世に生を受けて早10数年、あんな恥ずかしい思いをしたのは初めてだ!!」

背後から緒土の声。それと一緒に男連中が2人やってきた。毅と弓太だ。

「兄貴!カッコよかったっス!惚れました!っていうかウホッ!!」
「兄貴はやめろって何度言ったらわかるんだ!!『ウホッ』もやめろ!!」
「松瀬君、朝から元気だね…」

こうしてあたしの1日は始まっていくんだ。
早いもので、昨日の帰り道であたし達5人はすぐに打ち解けた。
最後は『GGの1番いい曲は何か?』ということで大論争になり、収拾がつかなくなってしまったが。

「三綾ぁ!お前のせいで髪の毛が大量に抜けたじゃねぇか!!」

そう言って、さっき頭に張っていたシールを差し出す。髪がボサボサになってしまっている。
もともと無造作な髪型なんだし、気にすることないのに。

「何で俣奈のせいなのよ?アンタが自分で張ったんじゃないの?」
「んなことするかァァーー!!!!」
「あはは…聖ちゃん、それ私が松瀬に朝張ったんだよ」
「………ん?朝張った?俣奈は1人で登校してきたし、どういうこと?
 今日2人が顔を合わせたのはこれが初めてじゃないの?
 それに、こんなのバレないように張ることなんて出来るの?」

そう言ってシールを手に取った。

「ああ、それは松瀬が寝てる時に張ったんだよ」

―――え…?

今、なんて言った?寝てる時に張った?ってことは…


ま、まさか―――



「 同 棲 ! ? 」

「お前、カイ使いなだけに電波系だったってわけか」

そう緒土が言い終えないうちに、鳩尾にリアルパイルバンカーを入れて黙らせた。
というか悶絶させた。
まぁ、しばらくすれば回復するでしょ…。
それよりさっきのは失言だった…。あまりの衝撃で我を忘れてしまっていたようだ。
し、しかし健全な高校生の男女がやっていいことなのだろうか?
姉弟とかならいざ知らず、友達とはいえ他人同士。
緒土はそこそこカッコいいし、俣奈はすごくかわいい。間違いが生じないということも無きにしも非ず…。

………ってあたしは何を想像しているんだぁーー!!

「聖ちゃん、顔真っ赤だよ。大丈夫?」
「あ、ううん平気平気!だいじょーぶだから!」

(馬鹿だ……あたし)

「チクショー!兄貴、明日は三綾さんの代わりに俺が起こしに行きます!!」
「お前は来んじゃねぇよ馬鹿!!」

弓太はヤバイ。目が本気だ。ヤツの目は虎視眈々と獲物を狙うハンターの目だ。ザトーを見るヴェノムの目だ。
それこそ『間違い』どころじゃすまない。
それを悟っているのか、緒土もすばやく気絶から復帰して拒否した。

「よーし!席に着けー!!」

雁田の声が教室に響き、授業が始まった。
1限は歴史か…。思えば今まで授業らしい授業は1度もなかった。どんな授業をするんだろう?

「1973年8月14日、南アフリカのヨハネスブルグで右渡校長はこの世に生を受け…」

―――ひたすら暇な授業だった。
内容は右渡の出生から現在に至るまでの歴史を事細かく丁寧な解説で紐解いていくものだった。
『氏はお茶汲みキングというのが愛称』その言葉を最後に、あたしの脳のブレーカーは落ちてしまった。
「聖、起きろ」と起こされたのは、それから3時間後の昼食の時だった。

「ふぇ~…?なによ~……」
「学食行こうぜ」
「ふぁ……もうそんな時間?」

大きい欠伸をして目を擦る。視界がハッキリすると緒土の顔が目の前にあった。

「お前、爆睡してたろ。雁田が何回か起こそうとしたんだが、無反応でちょっと怖かったぞ」
「マジ…?」

は、恥ずかしい…変な女とか思われてないだろうか…。

「そ、それよりさ、学食ってどんなメニューがあるの?」
「さぁ?俺も行くのは初めてだ」

5人で学食へ行くのはこれが初めてだ。というか学食に行くのは初めてだった。


学食はとても広くて清潔だった。所々に観葉植物が置かれており、なかなか洒落た作りだ。
テーブルは30以上あり、1つのテーブルに6人ぐらい座れる。
中には大量の生徒の姿があったが、全員座ってもまだ席が空いているほどだ。
メニューも実に豊富で安い。だが、そんな完璧な学食も1つ疑問な点があった。

「ねぇ緒土、『ヴォルカ丼』ってなに?」
「俺に聞くなよ…」

メニューが謎だった。何故かキットカットを大量に揃えているし。
『何が出るかな?』でお馴染みのお菓子もある。
ざっと見渡しただけでも正体不明の品目が顔を並べている。
『ヴォルカ丼』はまだ『丼』が付いている分なんとなくわかるが、
『インヴァイトヘル』とかは完全に正体不明だ。というか不吉すぎ。

結局、『君子危うきに近寄らず』を固く守って、あたし達は普通のメニューを注文した。

そのハズだったのに緒土だけは果敢にも『インヴァイトヘル』なるものを注文した。
緒土がその名を口に出すと周りが一瞬静まり返ったのが気になった。


テーブルに美味しそうな料理が並ぶ。
俣奈は牛丼。「素人にはオススメできないよ」とかなんとか言って注文していた。肉よりもネギが多い。
弓太はどこにでもありそうな普通の弁当。おかずは漬物から肉まで一通りそろっていてバランスがいい。
毅は寿司。トロ、烏賊、穴子など割と種類は多い。
というかほんとに何でもあるわね…この学食は。
そして、緒土は……


「あははははははは!!」
「笑うなッ!!」

あたしと俣奈はお腹がよじれるくらい笑った。650円の『インヴァイトヘル』…その正体は…

「だってそれ、ただのタケノコじゃない!あははははは!」

緒土の前にあるお皿にはタケノコが2本鎮座していた。

「くそッ!!これで650円だと……詐欺だ!!」
「ひっかかったあんたが悪いんでしょ」
「畜生…聖、お前のもちょっと分けてくれ」
「そう言えば、聖ちゃんは何を頼んだの?」
「え、ああ…あたしはこれ…」

ピンクの布に包まれたお弁当箱を取り出す。

「その弁当お前が作ったのか!?」
「何よ…そのリアクションは」

別に無理して作ってるわけじゃない。
折角一日三回も食事の時間はあるんだし、毎回ちゃんとバランスが良くて美味しい料理がたべたい。
自分で作るならメニューも自由だし、安上がりで済む。なにより好みの味に仕上げられるのがいい。
だからちゃんと勉強して料理が出来るようになっただけのこと。

「お前料理とか出来るキャラじゃねぇだろ」

失礼極まりないわね、こいつは。

「あたしだって一応女の子だって事よ」

って…なに『一応』とかつけてるんだ。

「私は女の子だけど料理できないよ…」
「えっ、そうなの!?」

意外だった。こんなにエプロンが似合いそうな女の子、そういないのに…

「おいしそう…」

俣奈が弁当箱を覗き込む。男3人も釣られて見ている。
自分のお弁当を見せるのなんて初めてだ。恥ずかしい。
今日は豚肉の生姜焼きにサニーレタスを添えたメインの肉料理が一品。
あとは人参やいんげん豆と里芋の煮付け、ほうれん草の御浸し。そしてお弁当の定番、卵焼き。

「今度あたしが教えてあげよっか?」
「本当!?」
「いや、あたしなんかで良ければ、だけど」
「うん、教えて!凄く上手だよ!」
「へへ…ありがと、どう?1つ食べる?」

あたしは里芋の煮つけを一つ差し出した。

「いいの?」
「うん」
「じゃあいただきま~す」

自分の割り箸で里芋を取る。

「ん、おいひ~♪…どうやって味付けしてるの?」
「基本は醤油だね。あとは塩と砂糖を少々…まぁ、量はあたしの好みだね。あとお酒も少し」
「へぇ~」

そんなやり取りをしている間にお昼休みは終わってしまった。
結局男連中にもお弁当を取られ、あまり空腹は満たされなかった。
まぁ概ね好評だったから良しとしよう。

「じゃあ、あとは自習だ。各自学力テストの準備でもやっとけ」

雁田が教科書を閉じた。

…学力テスト…?き、聞いてない…。

「緒土、学力テストって何?」
「ああ、お前寝てたもんな…2週間後にやるんだってよ。ペーパーテストだ。」
「ペーパーって…どんな問題出んのよ?ちょっと問題出してみてよ」
「ん、ああ…そうだな…じゃあ、noontideの和訳は?」
「ええと…『お昼の態度』?」
「……じゃあメイの6Pは気絶値何倍?」
「き、気絶何倍ってどーゆーこと?言ってる意味がわかんないんだけど…」

緒土が黙り込む。これはヤバイ。本気で勉強しないとダメね…。
というかnoontideの和訳ってGGのテストと言うか英語のテストなんじゃ…?


緒土から離れて自分の席につく。

さてと…緒土のリアクションを見ても大体想像がつくが、あたしの学力は随分低いらしい。
自力で勉強するのは危険だ。ここは誰かに教えを請う必要がある。

1.緒土に頼む:馬鹿だと思われるのは嫌だ。これ以上ボロを出すとまずい。
2.俣奈に頼む:これも馬鹿だと思われるのは嫌ね…一番頭は良さそうだけど…
3.弓太に頼む:頭いいのかなぁ?謎だ。対戦は強いらしいけど…
4.毅に頼む :こいつも謎だ。あんまり喋るタイプじゃないし…

とりあえず弓太ね。真正面にいるし。頭良かったら儲けもの、ダメだったら毅を当たろう。

「ねぇ弓太、あんたって馬鹿?」
「いきなりすごい質問ッスね!!」

聞き方が悪かったか。

「勉強教えて欲しいんだけどさ、大丈夫?」
「馬鹿じゃないッスよ!」

弓太の顔が少し引きつっている。…ダメねこいつ。

「あんた誰か勉強できるヤツ知らない?」
「オレはスルーですか…?」
「スルー安定」
「ひ、酷い…」
「いいから、勉強できるヤツ教えてよ!」
「毅がいいんじゃないっスか?さっきの授業でも質問にほとんど答えてたし」

そしてあたしは毅に教えてもらうことになった。
そこまでは良かったのだが…


「じゃあ早速勉強始めよ~!」

俣奈の元気のいい声が響く。シャーペンを握り締め、やる気満々と言った様子だ。
結局いつものメンバーで勉強することになった。

(これじゃあ、あたしの馬鹿を隠せないじゃない…。何とか乗り切らないと…)

「じゃあ江辻さん、これ解いて」
「え、あ、あたし!?」

毅に渡された問題…『カイの血液型は?』

―――知るか。

だが血液型ならA、B、O、ABの4択だ。ここは勘に頼るかそれとも…。
カイは真面目…A型は真面目とか聞いたことがあった様な気がする…いや、それはB型だったっけ?
いや…あたしがB型だからそれはないか…うー、わかんない…。勘でいくしかない。

「え…AB型!!」
「正解。江辻さん気合入ってるね!今のは常識だから皆も押さえといてね」

(常識なの?危なかった……)

「へ~私カイと同じなんだ」
「俣奈はAB型なんだ…ってか知らなかったの?」
「あはは…私常識ないかも…聖ちゃんはよく知ってたね」
「え?これくらい楽勝よ!」

(ってなに墓穴掘ってんだー!!ここは話題を変えないと!)

「そ、そういえば、最近は血液型の占いみたいなものが流行ってるよね!」
「オレそんな感じの本持ってますよ。見ます?」

何故弓太がそんなものを持っているのかは謎だったが、上手く話が逸れたので本を見せてもらった。


「ええと…A型は『真面目で几帳面』…」
「あ、当たってるかも」と毅。A型らしい。

ページをめくる。

「O型は『大雑把』で…『リーダー向き』?」
「それは当たってないッスね」と弓太。こいつはO型か。

(なんか矛盾してない?統率者が大雑把で勤まるの?)

「AB型は……『天才』!?」
(最早性格でもなんでもない…)

「あはは…わたし天才じゃないよ」と俣奈。

最後、アタシの血液型…。

「B型は……じ、『自己中』!?」
(なんかB型だけ扱いが酷だ……)

「意外と当たってるな」と緒土。
緒土もB型なんだ…。あたし自己中なのかな……まぁこんなの気にすること無いよね。
人間の性格をたった4種類に分けるなんてちょっと乱暴すぎる。しかも根拠も無いみたいだし。

「ちなみに兄貴ィ!O型の男とB型の男は相性抜群って話ですよ!!!!」
「気持ち悪りーんだよ馬鹿ッ!離れろッ!!」
「おお…快感…もっと罵倒してくれーー!!」

(この変態が…。)

ちらっと本に目を移す。
ピンク色のハートにかかれた『相性占い』と言う文字が目に入った。そのまま視線が離れなくなる。
ダメダメ!さっき『根拠が無い』って言ったばかりじゃない。

(……でも、こんなの遊び半分なんだし…ちょっと見るくらい…)

気付いたらあたしの指はページをパラパラとめくっていた。

(B型の女と…)

『オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!ネッテロー!!』

「あ、チャイムだ。江辻、それ返してくれ」

(…変な意地張らないでさっさと見とけば良かった…)

「はぁ~…」

学校からの帰り道、大きい溜息をついて歩く。

「どうしたの?聖ちゃん」
「いや、学力テストが憂鬱でさ…『防御係数』なんて1つもわかんなかったよ」

(本当は占いが見れなかったのが心残りだったから溜息をついたんだけど…)

「私も全然わかんなかったよ…」
「オレも…兄貴はどうでした?」
「俺もわかんねぇ…」

同時に溜息をつく馬鹿4人。空に浮かぶ夕日がより一層哀愁を誘う。

「大丈夫だよみんなこれから勉強すれば…」
「毅ぃ~アンタは何でそんなに頭いいのよ?」

毅はあたし達とは違う高性能な脳を搭載しているに違いない。
全キャラの技の発生、硬直、持続、攻撃LV、最大よろけ時間、攻撃力、硬直差、
この全てを正確に覚えるなんて並みの腕ではない。

「う、うん…僕は技術が無いから、せめて知識くらいは完璧にしたいんだ」

毅はそう言って照れくさそうに笑った。

「そういえば…」

緒土がポツリと独り言のように呟く。

「永園のことも何とかしないとな…」
「どういうこと?」と、俣奈が聞き返す。
「今日は俺たちが紙野と一緒にいたから良かったけど、紙野が1人でいたらまた何かして来るかも知れない」
「そっかぁ…」

全員うーんと唸って考え込む。

「やっぱ永園にガチンコ勝負を挑んで勝つしかないな」
「え、僕が永園君と…ですか?」
「ああ、もちろんギルティだぞ」
「む、無理ですよ!永園君は強いし…それに僕は弱いですから…」
「あのなぁ…そういうネガティブな発想がお前が強くなれない一番の原因だと思うぜ?
 お前の知識は凄ぇじゃねぇか」
「でも、知識だけでは…それに、松瀬君や江辻さんも負けたんですよね?」
「確かに負けたが、次は勝つ。お前も練習すれば絶対勝てるって」
「そうでしょうか…」
「じゃあオレが稽古つけてやるよ」と弓太。

どことなく怪しい響きを含んでいるような気がするのはあたしの気のせいだろうか?

「オレあいつに勝ったし。髭もサブでそこそこ使えるぜ」
「で、でも…」「良し!決まりだな!!テストが終わったら紙野の特訓決定!!」

(ほんとにこいつは強引ねぇ…『自己中』…合ってるかも…あたしはどうなんだろう?)

こうして紙野特訓計画が打ち出され、この日は終わった。

先刻から胸の鼓動が著しく加速している。
『ドクンドクンと大きい音で』などと言った生易しい形容ではない。例えるならそう、
『ハードロックミュージックのドラマーがテンションゲージMAXでドラムを一心不乱に叩いているような』
とでも言おうか。今私の心臓それくらい早く脈を打っているのだ。
こうなるのも無理は無い。なぜなら私は今”あのお方”の部屋の前に立っているのだから。
部屋の中で流れている sheep will sleep が廊下まで聞こえてくる。曲もサビの部分。最も盛り上がる所だ。
ああ、マズイ!これから部屋の中に入るのだと思うと、私の体の一部も盛り上がってくるではないか!
落ち着け、落ち着くのだ。深呼吸、そうだ、深呼吸しよう。


「フォォォォォォ………」


良し。だいぶ落ち着いてきたぞ。
冷たい金属のノブに手をかける。ここは慎重に侵入しなければならない。
気付かれてしまっては最後、その時点で終わりだ。
解る。今なら『餌を目の前にして”お預け”を命令されている犬の気持ち』が痛いほどに解る。
ゴクリ…。
唾液を飲み込む。
さぁ、いざ行かん。禁断の地へ。

―――ガチャ……ギィィ…

細心の注意を払ってドアを開く。sheep will sleep が一際大きくなって耳に入ってくる。
もうすぐ曲も終わりだ。この曲が終わるまでにやってしまおう。
中に入り、部屋をぐるっと見渡す。白い壁が清潔感を醸し出している。
本棚などの家具は綺麗に整頓されており、床にはゴミ一つ落ちていない。まさに白亜の城。
そしてその城のベッドで優雅に寝ている”あのお方”…まさに王子とでも言うべきか…。
一歩一歩慎重にベッドに接近する。距離が縮まるごとに胸の鼓動が一層激しくなる。
そして、ついに”あのお方”のすぐ隣まで来た。

(フォォォォォ………)

行動に移そうとした次の瞬間、

『見誤ったな!!』
「フォ!?な、なんだ!?」

(しまった!!つい声を…!!)

「ん…」

”あのお方”が目を開いた。その瞳には私の焦った顔が映っていた。



「な、何やってんだ…このド変態がぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!」

「あ、おはよう松瀬。どうだった?早く起きれた?」

いつになく三綾の笑顔が眩しく見える。
今更だが、三綾に起こされるのも悪くなかったんだな…郁瀬に起こされて初めて気付いた。

(というよりも郁瀬の起こし方が極端に悪いだけか…)

「あいつはお前の差し金だな」

鞄をドサッと机に置いて椅子に座る。

「なんかキャラがおかしかったぞ」
「どんな風に?」
「なんかフォモっぽかった…いや、それはいつも通りなんだが…
 より磨きが掛かっていたと言うか…『本性』を垣間見たと言うか…」

とにかく恐ろしい体験だった。あの後追いかけてくる郁瀬を何とか振り切って全力疾走してきたのだ。

「席つけー」

雁田のやる気の無い声と共に今日も授業が始まった。


数時間後、授業も終わって放課後。今日は土曜日なので授業は午前中に終わってしまった。

「紙野は?」
「あそこだよ。ほら、聖ちゃんと勉強してるみたい」
「あいつ抜け駆けかよ…」

そう言って松瀬は聖ちゃんの席へ歩いて行った。

「紙野!俺にも勉強教えてくれ!」
「げっ、何でアンタ来んのよ!」
「別にいいじゃねぇか」
「私も勉強教えて欲しいな」
「俣奈まで…」
「オレにも教えて下さい!」

結局全員集まってしまい、今日は紙野さんの家で勉強することになった。

途中のコンビニで適当に食料を調達し、紙野さんの家に向かった。






「これが紙野の家か」

松瀬が呟く。紙野さんの家は至って普通な洋風の2階建て。赤い屋根がお洒落だ。
学校からとても近く、歩いて5分くらいだった。

「そんなにジロジロ見てないで入ろうよ」
「ああ、悪い悪い」

紙野さんが玄関を開ける。

「あ、お帰り」

それと同時に中から女性の透き通るような美しい声が聞こえた。
だが、どことなくぶっきらぼうで冷たい印象を受ける。

「あれ、早いなぁ。ご飯できてる?」
「ああ、出来てるよ…って…あれ?後ろの人だれ?」

女性が私たちに気付いたらしい。こちらからは女性の顔は見えない。

「もしかして…あんたら永園の仲間じゃないだろうな」
「なんですってー!」

聖ちゃんの導火線に火がついた。

「お前たち、またお兄ちゃんを苛めに来たんだろ!」
「こいつ…よりにもよってアタシをあんなヤツと一緒にするなんて…」

早くも一触即発の状態だ。
紙野さんが2人の間に入っているからまだ大丈夫だが、紙野さんがいなければ乱闘になりそうな勢いだ。

「2人ともやめてよ!!」

紙野の一喝が効いたのか、2人はすぐに黙りこんだ。

「ご、ごめん…毅」
「お兄ちゃん、こいつら…違うの?」
「違う違う。永園君とは関係ないよ」
「…そうだったのか。悪かった」

そう言って女性(恐らく紙野さんの妹と思われる)は玄関から出て来て一礼した。

「ごめんねみんな…特に江辻さん…」
「こいつ失礼すぎよ」

聖ちゃんの言葉にムッと顔をしかめる女性。

「ふん、そんなド派手な金髪じゃあ、永園みたいなDQNと思われても仕方ないんじゃないのか?」
「なんですってぇ…!」
「ま、まぁまぁ!!みんな家の中に入ろうよ!!」

紙野さんが2人を無理やり家に押し込む。私たちもそれに続いて家に入った。

(大丈夫かなぁ…)

「こいつ僕の妹で蘇留(そる)って言うんだ。同じギル学生だよ。クラスは違うけど」

その名の通り蘇留ちゃんはソル=バッドガイみたいな性格だった。
女の子とは思えないぶっきらぼうな態度、言葉遣い。聖ちゃんと喧嘩になったのも何か運命的なものを感じる。
ツンツンとハリネズミのように跳ねた髪の毛。目つきは鋭く、一重。キリッとした眉毛がカッコいい。
でもその顔は紛れも無く女の子の顔だった。
すっきりとした鼻筋。肌は白くて綺麗だ。血色が良く、桃色の頬が愛らしい。

そして…

「あんたすっごいチビね」
「あ!え、江辻さん!!それは禁句…」

小柄でかわいい。同じ高校生1年生とは思えない。
私は165cmでそこそこ高い。聖ちゃんは多分170くらいある。
でも私たちと比べるまでも無く、その小ささは突出したものだった。
小さいのに突出と言うのもおかしな表現かもしれないけど。

(150cmくらいかなぁ…かわいい……)

「こ、この女…っ!」

そんな私の心中とは関係無しに再び一触即発モードに突入。

(この2人本当に犬猿の仲だなぁ…初対面でこんなに怖い顔できるものなのかなぁ…)

2人とも筆舌に尽くしがたい形相で睨み合っている。漫画とかなら間に火花が散っているような場面だ。
まるでOPのソルとカイのようだ。今にも斬りかかりそうな危ない雰囲気。

「お前らやめとけよ」

松瀬が2人を制止した。珍しいこともあるものだ。
松瀬の性格から言って、絶対この状況を面白がっていると思ったのに。

「ギルティで決着をつければいいだろ?」
「なるほど…面白い」
「いいわよ。」

(なんだ、そういうことか…)


「私が勝ったら一生チビとは言わせないからな」
「何言ってんのよ。あんたなんかがアタシに勝てるわけないでしょ」

なんだかおかしな事になってきた。私たち何しに来たんだっけ?
とにかく今はソルとカイが雌雄を決する瞬間だ。ひとまずこの勝負の行方を見守ろう。

『少し付き合ってもらうぞ。』
『またお前か…』
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』

『見栄を見せろ!!』
『それでも戦士ですか。』

「あ!こ、この…」「くっ…挑発だと…!」

2人とも開幕と同時に挑発して2人とも相手の挑発にのせられている。傍から見ている分には面白い。

挑発の硬直が切れると、両者一気にダッシュで突っ込んだ。

『ヴェイパースラスト!!』

ダッシュHSVT。ぶっぱVTはキレた証。
それでも命中させるのは流石だ。ソルの体が天高く舞い上がる。
起き攻めのチャンス到来。
しかしカイは全く動く気配が無い。普通ならすぐにチャージを出して起き攻めに移行するはず。

(起き攻めしないのかな?)

ソルが起き上がる。

『50%くらいか?』

腕を組み、体の周りから赤い光を放つソル。
一撃準備だ。だがそれを見てもカイは微動だにしない。

(聖ちゃん…どうしたんだろう?)

「あ、あれ?動かない…」

聖ちゃんがカチカチとボタンを押しているが反応が全くない。

(バグかな?)

PS2に目をやる。

(…コ、コントローラーが抜かれてるっ!!)

「ああーーっ!!」

聖ちゃんも気が付いたらしい。しかし、時既に遅し。

『ナパームデス!!』
『何故なんだ…!』
『…坊やだからさ』

画面に『DESTROYED』の文字がデカデカと表示された。
聖ちゃんが横を向き、ギラリと鋭い眼光を放つ。それをフンッと鼻で笑う蘇留ちゃん。


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………』


某奇妙な冒険ならこんな効果音が背景にかかれている所だろう。

「リアルDOTを入れるしかない…」
「わーっ!ダメだよ聖ちゃん!!」

聖ちゃんの攻撃力&気絶値は半端じゃない。以前にもリアルパイルバンカーを入れて松瀬を悶絶させていた。
しかも今回はリアルDOTときている。それも相手は女の子だ。命の保証は出来ない。

「ちょっと!みんなも聖ちゃんを押さえてよ!!」
「離せーー!!」

こうして、今回は無効試合となった。おそらく2人が対戦することはもう無いだろう。