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今日から俺の新しい生活が始まる。毎日ギルティ漬けの日々、考えただけで気分が高揚する。
Sammy社立ギルティギア専門高等学校、俺はそこを目指して並木道を歩いていた。
桜舞う季節。春のうららかな陽気が暖かい。
舞い散る桜を見ていると、あることが頭に思い浮かんだ。

「畳返し…」「妖斬扇…」

声が重なった。

「ふふ、君もギル学生?」

隣にいたのは同い年くらいの女子だった。うれしそうに笑っている。

「女もいるのか…意外だ」

本当に意外だったからそのまま口に出した。男ばかりの学校だと思っていた。

「そんなことないよ。人数的には5:5くらいだよ」

5:5か…会話の端々にギルティ的な言葉が顔をのぞかせる。
この女生徒もまた、ギルティを愛する者の1人なのだ。

「使用キャラは?」
「フォモ」

ヴェノムのことをフォモと言うあたり、やはり結構やりこんでいるようだ。

「マジか。俺もだ」
「じゃあキャラ別の授業は同じクラスだね」

そう言って女生徒は手を差し出した。

「よろしくね」

「フ…ハハハ…」

俺は鼻で笑い飛ばした。呆気に取られる女生徒。

「冗談はよせ。俺たちは全員がライバル同士、仲良しごっこなんてクソくらえだ。違うか?」

俺は馴れ合いをしにこの学校に来たわけじゃない。強くなる為に、そのためだけに来たんだ。
全員がライバル、全員が敵。味方などと言う存在はこの世界には無い。

「私、それは違うと思うよ」
「なんだと…?」
「君がどれだけ強いかは知らないけど、仲間がいないと強くはなれないと思うよ」

強くなれないだと?知った風な口をききやがる。仲間?そんな甘ったれた考えで強くなれるものか。

「どうしてそう思う」
「仲間っていうのはね、お互いの弱点を指摘しあったり、色んなアドバイスをしてくれる。それは、1人じゃ絶対にできないことだよ」
「ふん…だが、仲間では気を使ったりしてしまうだろう?そんなことでは強くなれないぞ」
「真剣勝負に気を使うような人は、本当の仲間とは呼べない。確かに、普段は気を使ったりするよ。でも、勝負は本気、そして気兼ねせずにお互いの弱点を指摘する、これが本当の仲間」

はっきりとした口調で女生徒は答えた。
なんだ?まるで俺が間違ったことをいってるような気がしてきた。

「それにね」

女生徒はまだ話を続ける。

「闘劇とか、チーム戦だってあるんだよ。1人じゃ無理だよ」
「うっ……」

言葉に詰まる。それは一番現実的な問題だった。1人じゃ出れない。

「ね、だから」

そう言って、また女生徒は手を差し出した。
いや、手を差しのべているように見えた。
独りぼっちの俺を救うような手。
間違っているのは…俺の方―――

「本当の仲間…か」
「うん」

その手を軽く握った。

「よろしく…」

そうぶっきらぼうに言った。凄く照れくさかった。

「こちらこそ」

女生徒はにこっと笑った。

「仲間として、1回対戦でもしようか?」
「何言ってんだ、早く行かないと入学式始まるぞ」

今戦っても多分勝てないだろう。今まで弱点を指摘されたことなんて無かった。
指摘してくれるやつなんていなかった。生まれて始めて仲間ができた俺にはきっと無理だ。
空を見上げると、雲ひとつ無い青空に桜が舞っていた。

「仲間…か…」

今までよりずっと強くなれる。そんな自信を胸に抱いて俺は校門をくぐった。



重い体育館の扉を開けると、そこには物凄い数の人間でごった返していた。

「すげぇ人数だな」
「全世界のGGプレーヤーがこの学園に集まってくるからね」
「ぜ、全世界!?外人もいるのか!?」
「君、パンフレット読んでないの?今年はいるかどうか知らないけど、『アメリカからの生徒にはチップ使いが多い』とか書いてあったでしょ。日本文化に関心があるみたい。」

日本文化に関心があるのなら梅喧や闇慈を使うのが普通だと思うが…そこはつっこまない事にしよう。

「静粛に!!」

スピーカーから声。一瞬で静まり返る体育館。さっきまでの騒音が嘘のようだ。

「校長から御挨拶があります。」

右…あの時以来あってない。俺の目標。あの人を必ず超えてやる。

ステージの脇から長髪をなびかせて右渡校長が姿を現した。

「ミギィィーー!!俺と戦えーー!!」
「いやっほーぅ!右渡最高ーー!!」

歓声が爆発した。場内は凄まじい騒音で、「うるせぇ!!」と叫んだ自分の声すら聞こえない。
すぐにステージの前には生徒達が群がり、20人以上いる警備員の防衛ラインを突破するのも時間の問題となっていた。




「学園長の挨拶…聞きたかったなぁ…」

女生徒が肩を落とす。結局右渡はそのままステージから避難してしまい、入学式はぶちこわしだった。

「ここにいればいつでも会えるだろ。気にすんな」
「うん。そうだね」
「それより、いよいよクラス移動だぞ」

いよいよ学園生活のスタートだ。
体育館をぐるっと見回す。もう既にビクビクしている小心者もいれば、やる気満々と言う感じで指をポキポキ鳴らしているヤツ、メモ帳を片手にキャラ対策を必死に覚えているヤツもいる。
面白くなりそうだ。

「私達もクラスに行こうよ」
「そうだな」

全員がそれぞれの思惑を胸に、自分のクラスへと散っていく。
Sammy社立ギルティギア専門高等学校、今ここに開幕。

「俺のクラスはE組だな…」
「え!私もだよ!」
「おいおい…通常授業も同じクラスかよ」
「良かったよね。同じクラスで」
「俺は別に…」
女生徒の表情が曇る。
「そういう時はねぇ、お世辞でも『良かった』って言うもんだよ」
「良かった」
「棒読みで言われても…」
不服らしい。言い方を変えればいいのか。
「マジ最高!!超良かった~!!超うれしい~!!」
「もういいよ……」
女生徒は呆れて教室に入っていった。俺も後を追う。
教壇に黒板、整然と並べられた机に椅子。
後ろにドンッと据えられたデカイ筐体を除けば、そこは全く普通の教室だった。
既に筐体の周りには人だかりができており、対戦もはじまっていた。
「お前もやってみろよ。俺以外のフォモ使いの腕前がみたい」
「今他の人がやってるでしょ。それよりさ、私大事なこと聞いてないんだけど」
「なんだ」
「君、名前なんていうの?」
名前…俺は自分の名前が死ぬほど嫌いだった。
俺に友達がいなかったのもこの名前のせいであるところが大きい。いつもからかわれていた。
「忘れた」
「そんなわけないでしょ!」
でも、こいつなら馬鹿にしないかもしれない。何故かは分からないが、そんな気がした。
それに、遅かれ早かれ分かることだ。腹をくくろう。
「笑うなよ」
「うん」
「ま…松瀬 緒土だ」

それからしばらく、教室内には女生徒の笑い声が響いていた。
筐体から流れる音楽で他の人間は気付かなかったようだが。

「殴るぞ」
「わっ、ごめんごめん!」
俺がマジで怒っている事に気付いたらしく、笑うのを止めた。
「だ、だってさぁ…マ、マッセショットって…」
再び女生徒の顔に笑み。やはり言うんじゃなかった。まぁ、貶されていないだけましか。
「マッセショットじゃない、まっせ『しょと』だ」
「ごめんごめん」
「お前の名前も教えろ」

俄かに女生徒の顔が曇る。
「あはは…私の名前なんて普通だよ。全然面白くないよ…」
バレバレの作り笑いで誤魔化そうと必死だ。
「教えろ」
目で訴える。散々人の名前を笑っただろ、と。
「笑わない…?」
「右渡に誓おう」
それから少し間があいて、女生徒は重い口を開いた。

「み、三綾」
「みあや?なんだよ、本当に普通の名前じゃねぇか」
「はは、だから言ったでしょ?」
「下の名前は?」
「うっ、あの、その…忘れちゃった…」
「 教   え   ろ 」
語気を強める。

「絶対笑わないでよ?」
「ああ」
「ま…俣奈…」
「またな…?確かに珍しいが、そんなにおかしい名前じゃないじゃないか」

―――うん?ちょっと待て。三綾 俣奈……みあや またな…みあやまったな…見誤ったな…

「見誤ったな…ふ…ぶははははははは!!!!!!」

俺はそれからしばらくの間笑い転げた。こんなに笑ったのは久し振りだった。
『見誤ったな』を連発するたびに三綾の顔が真っ赤になっていくのが笑いに拍車をかけた。
この学校の生徒は皆名前がおかしいのか?おかげで今も脇腹が痛い。

「悪かった」

三綾はムスッと頬を膨らませてそっぽを向いている。かなり怒らせてしまったらしい。

「笑わないって言ったのに」
「右に誓ったのが悪かったんだ。悪いのは俺じゃなくて右だ」
「校長は関係ないよ」
ヤバイ、かなり御怒りのようだ。何とか切り返さないと。
「でもお前だって俺のこと笑ったじゃねぇか」
「う、うん………ごめん…」
いつの間にか俺が謝られている。でもこの方が都合がいい。
「じゃあ、おあいこ様ってことでいいだろ」
「うん。」
どうやら機嫌が戻ったらしい。安心した。
「それより見誤ったな、あの筐体を見てみろ」
「今、『見誤ったな』って言わなかった?」
「言ってない。ちゃんと『三綾 俣奈』って言ったぞ」
はぁ…と溜息をつく三綾。
「それは分かったけど、フルネームで呼ぶのは止めて欲しいな…」
やはり、かなり嫌らしい。こいつも俺と同じような経験をしたのだろうか。妙な親近感が湧く。
「じゃあ、『瞬間移動』でいいか」
「良くないよ!!」
なかなか素早いツッコミだった。見た目はのんびりしてそうな顔なのに、意外だ。
「なら何て呼べばいいんだ」
「うーん…『三綾』とか『俣奈』とか…」
「じゃあ『三綾』だな」
「うん。そうしてもらうと助かるよ。私は何て呼んだらいいの?」
俺の場合は『松瀬』も『緒土』両方嫌だった。
「好きに呼んでくれ」
「じゃあ『松瀬』って呼ぶね。ふふ、マッセマッセ~」
「連呼するな!」
畜生、こいつ絶対馬鹿にしてやがる。
「やっぱり『瞬間移動』って呼んでやる」
「いいよ。別に」
「え!?」
意外な返答。俺は有限実行の人だ。マジで瞬間移動って呼んでやるぞ。でも…そうなると……。

―――「瞬間移動!これから対戦しようぜ。瞬間移動の華麗な瞬間移動を見せてくれ!」
街中で話す俺。突き刺さる周囲の目線。ひそひそ話も聞こえる。だめだ。アホ丸出しじゃねぇか。

「よ~し!お前ら席に着け―!!」

教室に響いたデカイ声で、俺は恐ろしい悪夢から現実へ引き戻された。

全員、名簿順に席につく。
名簿は五十音順なので、俺の真後ろに三綾がいる。窓側から2列目、後ろから3番目の位置だった。
教壇に立っている男は教師と言うには余りにきたならしい格好だった。
その容姿は奇異、と言うよりは変態的という感じだった。アロハシャツに丸めがね、黒い天然パーマ。

「俺が今日からこのクラスの担任になった雁田 凱だ。使用キャラはポチョムキンだ」

そう言って黒板に名前を書き殴った。
雁田 涯……ガンダ ガイ……ガイ ガンダ…ガイガンダー…
本当にこの学校はおかしいのか。頭が痛い。明らかに作為を感じるのは俺だけだろうか。

「ガイガンダーだって」

後ろの席で三綾が笑っている。お前も他人を笑えるような名前じゃないだろ。

「まずはお前達の実力の程を知りたい」

雁田の発言に教室内はざわめく。

「全員、俺と2R先取で戦え!まずは名簿1番の郁瀬 弓太から!!」

間をいれずに生徒を指名する雁田。しかし、郁瀬 弓太…いくせ きゅうた…イクゼキューターか。
全くどうなってんだ。当然エディ使いなんだろうな。

「ねぇねぇ、イクゼキューターだって」

また笑ってる。こいつ本当によく笑うな…。

「『見誤ったな』よりはマシだと思うけどな。」

また頬をムスッと膨らませる三綾。ヤバイ。なんか面白いなこれ。癖になりそうだ。


「おおーーー!!」

筐体の周りから歓声。俺たちが馬鹿をやっている間にもう対戦がはじまっていた。

「見に行くぞ!」
「うん!」


『これからが盛り上がるところだろ?』

画面には影にもたれるエディの姿があった。
おいおい、担任負けたのかよ。
確かに不利な組み合わせだが、いきなり生徒に負けちまうってのはどうなんだ?

「こ、こんなハズじゃあ…」

面目丸つぶれだった。

「ははは…まぁキャラ差っスよ!そんなに落ちこまないで下さい!」

挙句、生徒にフォローまで入れられている。もう見てらんない。

「く、くそォ!次!名簿2番の江辻!!」

雁田の怒号が響く。大丈夫なのかこのクラスは。


『セイクリッドエッジ!!』『すまぬ…大統領ー!!』

2連敗。女にまで負けている。最後はセイクリッドエッジによるチャージスタンのガード不能攻撃。

「教師っていうから強いと思ったのに、期待はずれだわ」

追い討ちを掛ける女生徒。哀れすぎる。

「次ッ!!!」

もうやけくそらしい。


―――べチッ!

あっ……ま、負けた…。1Rも取れなかった…。
最後はうっかりJDに6Pを合わせてしまった。
それからの雁田は連戦連勝。俺もヤツの前に敗れた。ぶっぱハンマーフォールは的確に相手を捉える。流石は教師というわけか。悔しいが、強い。
とすると最初の郁瀬 弓太、2番目の江辻、なかなか強かったらしい。
その後もエディ使いは何人かいたが全員ボコボコにされていた。
結局雁田に勝ったのは、未だに10人にも満たなかった。

「牽制に合わせたぶっぱステ青からの低空ループはなかなか良かったぞ」
「はぁ…どうも…」

それは俺の最も得意とする攻めだった。火力の低いヴェノムで如何にプレッシャーを与えるか。
考えた末に出した結論がこの中距離でのぶっぱステ青。
TGの用途が広いヴェノムにとって、外せば無駄に25%消費はでかいが、
ガードされても強引に接近できないこともない。
命中精度が高ければボール無しでもなかなかのプレッシャーも与えられる。
50%あれば結構なダメージだ。
どうしてもヴェノムは一点読みからハイリターンの技を当てられやすい。
火力が無い分、相手も他のキャラに比べてリスキーな技を振りやすいからだ。
と言うより、立ち回りの強いヴェノムには多少リスクリターンがあっていない技でも強気に振らざるを得ない。
読みの鋭い相手だと負けやすくなってしまうのだ。
それを克服する為のものだった。

「次!三綾 俣奈!!」

……その瞬間移動による幻惑的な攻めは彼女の名前のおかげなのだろうか。
俺は三綾の戦いに見入っていた。まるで掴み所のない動き。全く先が読めない。
防御に入れば鉄壁。下段、投げの2択は一度も当たらず、6K中段にはきっちりと足払いで割り込む。
その守りの強さは、ヴェノムの切り返しの弱さを感じさせなかった。

『ゲームセットだ。』

その戦いは苛烈にして華麗。魅了された者も多かったらしい。周りからも感嘆の声があがっていた。



「今年は豊作のようで何よりだ…」

対戦が終わり、雁田はかなり落ち込んでいた。4人に負けただけなのに…。

「あー、俺に勝ったのは…まずはエディ使いの郁瀬 弓太、カイ使いの江辻 聖、
髭使いの永園 翼、ヴェノム使いの三綾 俣奈、以上4人だ」

髭使い、ながその たすく…永遠の翼か。
カイ使いの方は女。えつじ ひじり、分かりにくいが…セイクリッドエッジだな。
もうツッコミを入れる気にもなれん。俺も他人のこと言えないし。

「あはは、今度は永遠の翼とセイクリッドエッジだね」
「うるさいぞ瞬間移動。」

三綾が怒って何か言っているようだったが、担任が話を続けたのでそっちを聞いていた。

「明日は2人1組でチーム戦を行う。チームは俺が決める。以上、今日はこれで終わりだ」

時計を見るともう5時を回っていた。やることも特に無いし、帰るか。

「松瀬、一緒に帰ろうよ」
「おう」

「ねえ、ちょっと」

椅子から立ち上がると同時に誰かに声を掛けられた。

「君、三綾 俣奈さんだよね?」

なんだ、声を掛けられたのは俺じゃなくて三綾か。
前を見ると金髪の男。Yシャツを胸元まで開けている。
首にはネックレス、妙に細い眉毛、極めつけに尻の辺りまで降ろされているズボン。
典型的なDQNといった感じの男だった。

「オレ、永園 翼っていうんだ。いや~凄かったね~さっきの対戦」
「あ、ありがとうございます…」

永園 翼…確か雁田に勝った4人のうちの1人だ。髭使いと記憶している。
どうやら三綾をナンパしようとしているらしい。
こういう奴に関わるとろくなことが無い。俺は関係ないみたいだし、退散するか。

「じゃあな」

俺はそう言って立ち去ろうとした。

「あっ!松瀬、待ってよ!」

げっ、付いてくんなよ。こういう奴は構ってもらえないと何するかわかんねぇぞ。
永園の顔を見る。あからさまに不愉快な表情を浮かべている。
ほら、言わんこっちゃない。ご立腹じゃないか。

「君達どういう関係?」
「姉弟なの」
「苗字違うんですけど」

永園につっこまれる三綾。こいつ、頭はあんまり良くない方なんだろうか。
それより俺が弟ってことがなんか気に入らねぇ。

「ねぇいいじゃん、ちょっと遊びに行こうよ~」

あー面倒くせー。仕方ない。

「俺達付き合ってるんだ」
「え!?」「え!?」

三綾がビックリして声を漏らす。
馬鹿…お前までリアクションしてどうすんだよ。チッ、ここは強引に行くしかないな。

「ほら行くぞ!」
「わっ、わぁっ!」

三綾の腕を掴んで教室を出る。

「オイ、ちょっと待てよ!!」

永園が何か叫んだが気にしない。廊下を走り、校舎を飛び出した。


「ハァ…ハァ…」

ちょっと走っただけで2人とも息が上がってしまっていた。ギルヲタの宿命だろうか。
外に出ると、夕日が校舎を朱色に染め上げていた。隣にいる三綾もオレンジ色になっている。
…おとなしそうな顔立ち。こういう奴を俗に『守ってあげたい系』とか言うんだろうか。
細い輪郭。鼻はスッキリとしており、高さは普通。
たいてい笑顔だから気付かなかったが、目は普通より少し大きい感じだ。
左右に束ねられた長い髪が風にふわりとなびいた。

「…なに?」
「別に…」

うっかり三綾の顔をじっくり見てしまっていた。可愛い方なんだろうか。
入学初日からナンパされるくらいだ、可愛いんだろうな。
でも永園の美的感覚が狂っていないとも言い切れない。
あのDQNだし、むしろそっちの方が可能性としては高いのではないだろうか。
……まぁ、そんなの俺にはどうだっていい事か…。

「帰ろうぜ」
「うん」

そんなこんなで学園初日はあっという間に過ぎていった。

部屋の中から美しいピアノの音色が聞こえる。まさか彼が弾いているのだろうか…そんなわけないよね。
ギィッ…とドアを開けて中の様子を見る。ベッドの上の布団が盛り上がっている。
本棚の上のコンポからは優雅な音楽。その音は散らかった部屋にはひどく不似合いで滑稽だった。
しばらくするとピアノが止まり、ベースとドラムの音、続いてギターも鳴り出す。聞き覚えのある曲。

「sheep will sleepだ……」

曲名的には、目覚めの音楽に合わないような気もする。でもいい曲だ。イスカはクソゲーだけど。
目を閉じて聴き入る。やっぱり右渡の曲はいいなぁ。イスカはクソゲーだけど。

「…ん、あの本…」

床に乱雑に散らばっている本の一冊を手にとる。

「やっぱり男の子はこういうのが好きなのかな…」

パラパラとページをめくる。結構面白い。

「って…こんな事してる場合じゃないよ…」

盛り上がった布団に手を掛ける。

「ほら、起きて起きて!!」

ゆさゆさと布団を揺らす。無反応。

「起きて~!!」

ゆさゆさ。

「起きろ~~!!!!」



―――「松瀬、君やっぱり弱いね」
「ンだと、この野郎…」
「そうやって怒るのは、自分が弱いと認めてるからだよね~」
「ふざけんな!同キャラ戦はなァ、開幕デュビって相場が決まってんだよッ!」
「言い訳はよくないぞ松瀬」
「な、雁田!?てめぇ、何しに来た…突然現れやがって!」
「そんな輩にはお仕置きだ!くらえ、ポチョJD!」
「ぐおおッ!?!死ぬ~~!!」
「あははははははは!」
「三綾!笑ってないで助けろ!!」
「姉にむかってその態度はないんじゃない?イスカはクソゲーだけど」
「え…?イスカ…?もう何でもいい!助けてください!姉貴ィ!!」
「あははは、やだよ~」

―――あははははははははは………



重いまぶたを開く。カーテンの隙間から差し込む眩しい光が、痛いほどに目にしみる。
それと同時に腹部に圧迫を感じた。首を擡げて部屋を見渡す。

「あはははははは…」

―――なんだこれは。一体どうなっているんだ。
目の前には馬鹿笑いしている女の横顔。
俺の腹の上に鎮座してギルティの4コマ漫画を熱心に読んでいる。
俺は深呼吸して目を閉じ、対処法を思索した。………良し。
すーっと息を吸い、肺を空気で満たす。


「何してんだテメェーーーーーー!!!」
「うわぁーーーーーーーーー!!」


最悪の夢。最悪の目覚め。最悪の朝だった。

「だって、ずっと待ってたのに全然起きて来ないんだもん」

そういえば昨日の帰り道でそんなことを話していたような気がする。
「こんな学校だ。多少遅刻とか欠席しても関係ないだろ。俺は11時から登校する」とか
そんなことを言ったら、「遅刻はよくないよ」とか言われて一緒に登校することに…。
でも、まさか起こしに来るとは思わなかった。

「おほひにくふとはおもわなふぁっふぁ」
「ちゃんと飲み込んでから言ってね」

コーヒーでトーストを一気に胃へ流し込む。目の冴える苦さだ。やはりコーヒーはブラックに限る。

「空腹にコーヒーはあんまり良くないんだよ。牛乳とかにしたら?栄養もあるよ」
「ああ、考えとく…それより、起こしに来るなんて聞いてないぞ」
「玄関で待ってたら松瀬のお母さんに『起こしてやって下さい』って言われたから」

朝は親がいないんだよな…父親は仕事、母親はパートにいっている。パートに行く時に会ったのか。
…それより、この朝食はなんとも居心地が悪い。三綾が目の前に座っていることもあるが、
いつもならBGMに『the cat attached to the rust』を流し、優雅な一時を過ごしているはず。
それが今は何故か『hunt a soul』だ。『これから一戦交えよう』と言う意味だろうか。
それなら『D・O・A』でも流せばいいのに。こいつ、イスカが好きなのか?

「イスカでもやるか?」
「冗談はやめてよ…」

そうだよな。ただ曲が好きなだけか。

「次は the cat attached to the rust を頼む」
「え~…次は kill dog as a sacrifice to dog の予定だったのに…」

何でこいつは朝っぱらからこんなに激しい選曲なんだ。嫌がらせか?

「変わった趣味だな…」
「それ、こっちのセリフだよ」

―――こいつ…。



「いや、やはり home sweet grave だろ!!」
「松瀬、全然分かってない! push a bush の方が絶対いいよ!」

朝っぱらからギルティのことしか話していない根っからのギルヲタが2人。
大声をだして並木道を歩いている。

「Xのkeep yourself alive の方がいいよ!!」
「いーや、Ⅱの方がいいね!あのサビのワンテンポ遅れたようなリズムが気にいらねぇ!」

校舎に入っても口論は続く。

「わかんねぇ奴だな、holy orders はロボカイverの方がいいんだって!!」
「あんなの邪道だよ!やっぱり通常verだよ!」

雁田に「そこの2人うるさいぞ」と言われるまで俺達は議論を続けていた。

「昨日も言った通り、今日は2人1組でチームを組んでトーナメント形式で戦ってもらう」

『2人1組』…この言葉に何回泣かされてきたことか。でも今は三綾もいる。
それに、今回は雁田が勝手に決めるらしい。いらん心配はしないほうがいいか。

「ではチームを発表する」




「よろしく頼むわね」
「ああ…」

俺が組んだ女は昨日雁田に勝利した4人のうちの1人、江辻 聖と言うカイ使いだった。

これは俺が弱かったから強い奴と組まされたんだろうか。だとしたらかなり屈辱的だ。
でも、昨日の永園 翼とかいう奴と組まされるよりはマシか。
その永園 翼はというと、紙野 毅というチップ使いと組んでいた。
三綾は昨日最も注目を浴びていた郁瀬 弓太というエディ使いとチームだった。
雁田に勝った2人が同じチームと言うことで生徒が何人か不満の声を漏らしたが、
雁田に「このチームに勝てば一気に2階級特進だ」と意味不明なことを言われ、納得していた。
生徒のやる気を出す為にこの2人を組ませたらしい。
江辻は長い金髪がかなり目立つ女だった。でも格好は永園みたいなDQNではない。
金髪ということ以外は至って普通。いや、むしろあまり服装とかに気を使っていないように見える。
変な化粧もない、自然体な感じ。体は細い。目は切れ長で鋭く、すこしだけつりあがっている。
「クールで男前だな」なんて冗談を言ったら殺されそうな雰囲気を醸し出していた。
そして長身。三綾も160cmくらいあったが、こいつはもっと高い。165くらいか。
要するに、スタイルのいい美人だった。

「無愛想ねぇアンタ…ショットだっけ?」
「ショットじゃねぇ!『しょと』だ!!」

くそ…セイクリッドエッジのくせに…。馬鹿にしやがって。

「あたしは『ひじり』でいいから」
「お前なんて呼ばねぇよ。俺1人で優勝してやる。せいぜい足引っ張んないようにしてくれよ」
「威勢だけはいいわね…雁田に負けたくせに」

薄笑いを浮かべて聖が言う。畜生…今に見てろよ、このアマ…。


ところがいざ試合が始まると俺の出番は全くなかった。
聖のKカラーのカイがバッサバッサと敵を薙ぎ払っていき、1人舞台となっていた。

「見た?このあたしの実力♪」
「お前ちょっとは負けろよ!俺の出番がねぇだろ!」

完全に調子に乗っている。これじゃあマジで出番がねぇ。誰だ、名簿が早い方が先鋒なんていった奴は。
だが実際、聖は強かった。派手なコンボもない。三綾のように攻めや守りが凄いわけでもない。
ただその立ち回りは凄かった。
聖の攻撃は面白いように当たるのに(しかもそのほとんどがCH)相手の攻撃は全く当たらない。
ヒット確認も完璧。遠Sや2Sを当てれば確実にディッパーに繋いでダウンを取る。
相手の技に合わせてディッパーで潜ったり、読みも鋭い。
きっと対戦相手はかなりのプレッシャーを感じているだろう。

「また2タテだ!!」

ギャラリーも盛り上がる。クソ…出番がない…。

「ごめんね~あたし強くて~」
「ちょっとは俺にもやらせろ!」

次の試合…永園 翼と紙野 毅というチップ使いのコンビか。
名簿順でいけば最初は紙野が相手だな。頼む紙野とやら、聖を倒してくれ。

「オラ、さっさと行ってこいよ」
「う、うん…」

永園が紙野の背中を押す。

「よ、よろしくお願あqwせdrfgtyふじこpl;@:「」」
「はは…こちらこそよろしくね」

紙野って奴、ガチガチに緊張してるじゃないか。何言ってんのかわかんねぇ。
あんなのでまともに勝負になるのか?

『シッショーウ!!』
『また、いつでもお相手します』
『ユー ウィン! パーフェクト!』

うわ…聖のやつ容赦ねぇ…。
台を離れる紙野の背中からは哀愁が漂っていた。

「な、永園君…ごめんね…」

永園が紙野をキッと睨みつけた。

「チッ…お前マジで使えねぇ奴だな…このクソが。オマエなんでこの学校来たの?ウザイんだけど」
「ご…ごめん…」

「おい!!」

考える間もなく、叫んでいた。永園の暴言をスルーする訳にはいかなかった。
それに紙野ってチップ使い…あの態度、言動、昔の俺とダブる…他人のような気がしない。

「そんな言い方ないだろ」
「はァ?オマエは関係ねェんだよ。オマエはいいよなァ?強い味方がいてくれてよォ。
弱い奴がチームにいると困るんだよ。いい迷惑だぜ全く」

拳を握る。爪が手の平にくい込むほど、強く。

「緒土…アイツむかつくんだけど」
「奇遇だな、俺もだ。…ぶん殴るか?」
「それはやめて」

聖の目が鋭く光る。

「あたしがアイツを倒せば済む話でしょ」
「出来んのかよ?」
「今まで試合見てたでしょ?あたしもアイツ嫌いだから。任せて」

ここは聖に任せるか…。下手なことを言うとこっちまで攻撃されかねない。

「なに話してんだよオマエら!さっさとかかってこいよオラァ!!!」



―――「ぶっ殺す」聖の唇がそう動いたように見えた。

『口で言っても無駄か。』
『あー、あまり妻を…』
『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

聖がボタンを押して登場シーンをスキップさせた。早くボコボコにしてやる、と言わんばかりに。

『ここだ!!』『シュッ!!』

開幕、HSを振る。Dステがバッチリ合ってしまっていた。

『パイルバンカー!!』『カウンター!!』

くっ…開幕パイル…。格好がDQNなら、行動も厨房ね…だが、命中している。
ここは素直に読み負けたのを認めなければならないわね…。
カイの体が大きく横に吹っ飛び、壁バウンドする。そのまま2Pから拾われて空中コンボ。
締めのJDでダウンをとられた。起き攻めが来る。

―――ガッ!

裏回り近S…大丈夫、見えているわ。

『ヴェイパースラスト!!』

近Sを直ガ。続けて繰り出された遠Sを昇竜で切り返す。ギャラリーがざわめいた。
これくらいで盛り上がってもらっちゃ困るわ。
一気にこのDQNを倒してやるから、目ん玉かっぽじって良く見てなさいよ!

『聖騎士団奥義!』

しかし、重ねたチャージはリバサバクステキャンセルJで難なく避けられた。

『はっ!』

だが、それも読みの範疇。空中の髭に空対空のJKが突き刺さる。

『追い討ちが遅…』
『失礼!』

JSでコンボを止め、復帰した瞬間にJCして空投げ。
ダウンした髭を追いかけて立ちKを重ねた。

―――コカッ!ブシュッ!!

リバサ無敵吸血。驚いた。ただキャラ性能に頼っているだけのDQNだと思ったのに。
そのままガブガブと血を吸われて、画面端に追い詰められていくカイ。

ガチャガチャガチャガチャ!!!

狂ったようにレバガチャをする。余りの激しさにギャラリーが引いているが、そんなの構ってられない。
だが、永園の吸血は機械のように正確だった。
―――だめ…抜けられない…。

『シュッ!パイルバンカー!!』
『くっ、不覚…!』

まずい、気絶した。恐らく6HS>パイルRC>6HS>パイルが来る。
レバガチャしても避けられない。ここはおとなしく食らうしかないわね…。

『さて、もういいか』

ネクタイを締める髭。

ガチャガチャガチャガチャ!!!!!

咄嗟に反応したが遅い。

まずいっ!出遅れた!間に合う!?

『星となれ!』

         ―――邪魔するな 光の速さで 連コイン―――  須齢屋

画面が暗転し、髭がHAIKUを読んだ。復帰は間に合わなかった。
顔を両手で覆う。

―――あ~ヤバイわ、あたし。このままじゃ絶対負けちゃう。でも、抑えらんないのよね、コレ…。

『デュエルツー! レッツロック!!』

2Rからの聖の動きはまるで別人のようだった。
今までの完璧な立ち回りも、冴えていた読みもまるでない。
ただVTをぶっぱするだけになってしまっていた。

『正直、もう少しできると思ったんだがね』

聖が力なく椅子から立ち上がる。

「おい、どうしたんだよ…2R目の…」
「あたし…ダメなのよ…いっつもそう。キレちゃうとさ、ぶっぱVTばっかりしちゃうのよね…」

深い溜息をつき、うつむく聖。

「一撃に当たったのも全部あたしが悪いのにね…。ごめん緒土。あたしの尻拭い、頼むわね…」

女で、しかも美人なんだからもっと気の利いた言葉を使えよ…そんなことを考えて俺は椅子についた。
永園がこっち側をのぞき込んでくる。

「そういやぁオマエ、昨日の松瀬とか言う奴だろ?
雁田にも勝てなかったくせに、俺に勝てると思ってんのか?
俣奈はオレみたいな強い人間にこそ相応しい。オマエを倒して俣奈はもらうぜ」

べらべらと良く喋る。こいつ、昨日のことまだ信じてるのか。おめでたい奴だ。
俺は無視してヴェノムにカーソルを合わせ、STカラーを選択した。

「緒土、気をつけて。アイツああ見えてかなり鋭い読みを持ってるわ。でも立ち回りはぬるいから」

聖が俺の肩に手を乗せ、耳元でささやいた。

「わかった。後は俺に任せろ」

髭…不利な相手だ。だが、こんな奴に負けてたまるか。

『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

『シュッ!パイルバンカー!!』

(やはりな…考えて開幕パイルを振ってるわけでは無さそうだ。
 さっき聖に当てたのはまぐれか…。聖がキレてなければ恐らく倒されていただろう。)

『それで終わりか。』

しっかりとガードして足払いでダウンを奪う。K生成>JK打ちから起き攻めを仕掛ける。

―――バシッ!

空中ダッシュから中段のJSが当たる。ワンコンボ入れて足払いキャンセル生成。

『一押しが足りんよ』

(チッ、バーストか…意外にもポイントは弁えているようだ。)

Kマッパで距離を一気に詰められる。だが髭の機動力では起き攻めには至らない。

(近距離。分が悪いな…。ガードを固めて、隙を見て距離を取った方が良さそうだ。)

『いかがかね?…いかがかね?…』

執拗な6HS。割り込む隙は有る。だが髭の一発は他キャラとは比べ物にならない。
ここは慎重に行動する必要がある。

―――コカッ!ブシュッ!!

(しまった!ダッシュ吸血!!ガードを固めすぎたッ!)

『シュッ!パイルバンカー!!』

そのまま連続で血を吸われ、パイル。
GBが溜まっていたせいでダメージもかなり高い。しかも相手はTGを約50%回収。
さらに画面端でダウン。

『すまんな。』

足払い重ねをリバサ投げで切り抜けた。近S>HSストを決め、起き攻めに移行する。

『SHOT!!』

HSステ溜めMAXをガードさせる。

(このままGBを上げて一気に倒す!)

『マッセ!マッセ!行くぞ!マッセ!』

カーカスとSストを絡めて固め続ける。だが2択はガードされている。

(それなら…)

『すまんな。』

中央へ向かって投げた。相手のGBは点滅している。ここは一発…

『覚悟を決めろ…ダークエンジェル!!』

投げコンボ。6HSCH>ダークが入る。
ダッシュ6HSでさらに追撃、キャンセルP生成まで行う。
GBがかなり溜まっていたお陰で髭の体力は3割を切った。しかし奴のTGが100%まで溜まる。
サイクゲージもほとんどたまってしまった。

(やはりこのコンボはとどめに使うが吉、か。
 このまま画面端の2個起き攻めから一気に倒したいところだ。)

K生成。2個起き攻めへの布石が完了する。PK陣。2択が決まればSLASHも射程内だ。
JK弾をガードさせる。

―――バシッ!

中段のJSがヒット。Pボールをコンボに絡め、最後はHSノビタで締めてSLASH。

『一度のチョークで、十分だったな。』

『デュエルツー! レッツロック!!』

『甘い』

開幕は両者バクステ。今度は開幕パイルは撃ってこなかった。

(学習したのか?だが、ヴェノム相手に距離を取るとは…やはり大したことはないな。
 このままPボールを生…)

『マッパハンチ!!』『カウンター!!』

生成にしっかりとKマッパを合わせられた。そこからK>Pマッパのワンコンボをもらう。

『いかがかね?』

大振りの踵落し…6HS。

『それで終わりか』

(だが大丈夫だ、ガードしている。近距離は圧倒的に不利。1Rのこともある、ここは追い払っておくか。)

『ふんっ』『シュッ!!』

髭の身体を刺したかに見えた遠Sは、ヤツの超高速スウェイバック”Dステップ”で回避された。


      ―――緒土、気をつけて。アイツああ見えてかなり鋭い読みを持ってるわ―――


聖の言葉が脳裏をよぎった。

『パイルバンカー!!』『カウンター!!』

髭の腕から放たれたのは『杭打ち機』をその名とする、凄まじい速度の正拳突き。
本来は兵器として知られるそれは、鋼鉄製の杭や槍を火薬、または電磁誘導方式を用いて高速で射出し、
敵機の破壊よりも搭乗員の殺傷を優先させている。
『搭乗員の殺傷を優先させている』…なるほど、髭の”パイルバンカー”も然り。

―――くらえば、プレイヤーの心が折れる。

ただ、髭の”パイルバンカー”は機体その物へのダメージも甚大であると言う点で、兵器のそれとは違っていた。

(読まれてるって言うのか…?くそッ!!近~中距離での差し合いじゃ、リターンが違い過ぎる!!)

『ファールを犯したな!!』

青バーストで髭を弾く。離さなければ一気にたたみ掛けられてしまう。
ボールを生成。

(とにかくこの距離を維持しよう。近距離は危険すぎる。
 いくら各種無敵行動があるとはいえ、シューティングを上手く組み立てれば髭の行動も制限できる。
 ここは隙を見てボールと共に飛び込むのが理想的だ。)

永園はすぐに隙を見せた。やはり立ち回り方がぬるい。
HJから逃げようとしたが、2WAYの対空の方に当たった。
一気に間合いを詰め、スラストとカーカスで固める。

『マッセ…』

―――キイィィーーン…という高い音。

『本物パンチ!!』『カウンター!!』

暗転してからガードが間に合わない脅威の突進技”DOT”で固めに割り込まれる。

(くッ、一発が重い!たった数発の打撃でもう5割を切っちまった!)

Kマッパで目の前まで接近される。だが、マッパの硬直がまだ解けていない。

(焦りすぎたな。足払いでダウンを…)

―――コカッ!ブシュッ!

奪おうとしたところを無敵吸血に捕まった。
そのまま噛まれて気絶。そこにコンボもらい、負けてしまった。


…つづく最終ラウンドは完敗だった。
牽制の2Sをパイルで刈られ、起き攻めをループされて気絶>死亡。20秒も持たなかった。
どうしても”パイルバンカー”の恐怖を拭い切れず、攻め込むことが出来なかった。

「ははっ!雑魚がいきがってんじゃねェよ!!」

(畜生…。こんな奴にだけは負けたくなかった…。)

でもここでは強さが全て。
敗者は黙って筐体から離れるしかなかった。