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時間が早いためか、いつもは騒がしいギル高も閑静としていた。
靴を履き替えて教室へ向かう。
カツ、カツ、と廊下に反響する靴音が一層静寂を引き立てる。
まだ誰も来ていないのだろうか、そんな事を考えながら教室のドアを開けた。

―――ガラッ

先客がいた。1人でCPU戦をしている。

「マッセか…」

ギラついた眼差しを向けられる。
いつもはあんまり近付きたくない奴だけど、何故か永園の姿を見ると少し不安が消えた。
なんだか奇妙な感覚だった。

「ちょうどいい。乱入してこい」
「お前と対戦なんかしたら本番の前に疲れきっちまうだろ…」

永園と闘うのは神経が擦り切れるから嫌だ。精神衛生に悪い。別の筐体で俺も練習を始める。

『ゆくぞ』

体調はともかく、ギルティの調子は悪くない。FRCもスラストもバッチリ出る。
だけど何かが足りない気がする……なんだろうこの感じ。モヤモヤする。

「オイ、お前オレ以外の髭使いに負けたらぶっ殺すからな?」

そう言ってプレッシャーを掛けてくる。こいつは敵なのか味方なのか分からん。

「お前こそ俺以外のヴェノムに負けるなよ」

そう言ったのと同時に教室のドアが開いた。

―――ガラッ

「あ、おはよー」
「おう」
「2人とも早いわね」

聖も教室に入ってくる。これでようやくメンバーが揃った。でも3人の間に会話は無い。
聖もすぐに別の筐体で練習を始める。
流石の永園と聖も緊張しているのだろうか。2人とも顔色が良くない。
校内も不気味に静まり返っている。嵐の前の静けさ、と言うやつだろうか。
今頃生徒たちは全員体育館に集まっているのだろう。

そのまま15分ほど経って、雁田が現れた。

「お前らそろそろ時間だ。前の試合が始まったら控え室に行ってろよ」
「控え室?」
「体育用具室の事だ。ステージの脇にある」

雁田は筐体の電源を落とし、「絶対勝てよ」と言って教室を出て行った。
最後の最後にプレッシャーかけやがって……。

(うっ…また気分が……)

「んじゃあ行こっか」

聖が立ち上がる。

「俺ちょっとトイレ行ってくる…」
「遅れないでよ」
「ああ…」


・・・


体育館の巨大な扉の前まで来る。ここに来ると入学式の時を、松瀬と会ったときの事を思い出す。
すでに体育館は大いに盛り上がっているらしく、廊下にいてもガヤガヤと声が聞こえてくる。

―――キィィィィー…

金属扉を開く。中は溢れんばかりの人だった。軽い眩暈を覚える。ここに全校生徒が集結しているんだ。
ステージの後ろには巨大なスクリーンが設置されている。でも人が邪魔であんまり良く見えない。
たぶんあそこに筐体の画面が映し出されるんだろう。
大きなステージの上には1組のGGXX#Rの筐体がぽつんと乗っている。
しかし筐体は天井からの照明でライトアップされており、確かな存在感を放っていた。
体育館は溢れんばかりの生徒でびっしり埋め尽くされている。
内壁に沿って、囲むように作られている2階にも隙間が無い。
床が震動するほどの騒音と、立っているだけで汗が出そうなほどの熱気。
わいわいと騒ぎ合う普通の生徒も居れば、いつかのテストの時のように賭けをする者、キットカットをばら撒く者など多種多様。
共通しているのは、この大会を心から楽しみにしているという事だけ。

「あ、三綾さん!」

上から声。
見上げると紙野さんと郁瀬さんが2階から手を振っていた。すぐに階段を昇って2階へ行く。

「こっちこっち!」

2人の所まで行く。絶好の場所だった。スクリーンの真正面。
ここからなら筐体に座る選手の姿も見えそう。
2階だから人の頭でスクリーンが見えないといった事もなさそうだ。

「それでは大会の前に校長よりお話があります」

長髪をなびかせて登場したのは、我が校の校長にしてギルティギアの生みの親。右渡太輔。
校長はマイクの前までやってくると、一言だけ言った。

「悔いの無いように闘って貰いたい。以上」

ビックリするほど短い話だった。
でも、その言葉には全てが集約されていると言って良かった。

「それではこれより予選を開催します!実況はわたくし『火丸』が担当いたします!」
「うおおおおおおおおお!!お姉ちゃあああああああああああああん!!!!」

一気に歓声が爆発する。
火丸さん……こう言った行事の際に実況を担当する我が校のアイドル。
実況の登場に生徒たちは盛り上がり、体育館中からお姉ちゃんコールが沸き起こる。
『お姉ちゃん』とは火丸さんの愛称だ。

「今大会のルールを説明します。基本的に3人で1チームの3on3となっています。
 勝負は2R先取で制限時間は99秒。同一チームに同じキャラは入れられません。
 最終ラウンドで引き分けとなった場合、エキストララウンドとしてもう1R闘って勝敗を決めます。
 先鋒、次鋒、大将は試合前であれば入れ替えても構いません。
 優勝した1チームのみが本戦へ出場する事が出来ます」

すらすらと大会規定を読み上げる火丸さん。

「それでは早速Aブロック第1試合を行います!A組とB組はステージに上ってください!」

火丸さんの言葉の直後に盛大な歓声が上がる。とうとう闘劇予選が幕を開けたのだ。

(松瀬たちは大丈夫かなぁ…)

「おおおえええぇぇ……っ!」

ビチャビチャビチャ…

「はー…はぁー…はぁー………」

本日2回目の嘔吐。
喉がひりひりして口の中が酸っぱくなる。胃が空っぽになってしまったような感じだ。
酷いニオイだ。クサイ。

―――じゃーーーごぼごぼごぼ……

便器にぶちまけた嘔吐物を流して個室から出る。
鏡に映った顔は死体みたいに青ざめた色をしていた。我ながら酷い顔だと思う。

「がらがらがらがら……ぺっ」

丁寧にうがいをしてトイレから出る。
……こんなに緊張するのは初めてかもしれない。
さっきから手はおろか足まで震えている。こんな状態でまともにギルティなんて出来るんだろうか…。

「あっ…」

聞き覚えのある声。ギル高に入ってから1年間、毎日のように聞いていた声。
振り向くと、三綾が廊下を歩いてきていた。

「三綾…」

何かが足りない気がすると思ってた。でも三綾の顔を見てわかった。
今日はまだこいつに会ってなかったんだ。
なんだろう…三綾の顔を見ただけで心が少し楽になった気がする。

「顔真っ青だよ…大丈夫?」
「大丈夫な訳あるか…」

誇張じゃなくてマジでやばい。
胃がぐにゃぐにゃと波打って中身を全部吐き出そうとしているような感覚。気持ち悪い。
なんでわざわざそんな事をする必要があるんだ。俺の胃よ、言う事を聞いてくれ。
頼むからちゃんとメシを消化してくれ。

「じゃあ楽になるおまじないしてあげよっか?」
「おまじない?」
「目ぇつむってて」
「え…ああ…」

目を閉じた次の瞬間、「おまじない+目を閉じる=口づけ」と言う式が脳内で瞬時にはじき出された。

(ば…何考えてんだッ!!)

そう言い聞かせてみても心臓はいう事を全く聞かない。バックンバックン言って破裂しそうだ。
胃といい心臓といい、なぜ俺の臓器たちはこうも言う事を聞かないのだろう。

(……ん?ちょっとまて!!)

さっき俺は何をした?ほんの数分前、俺は何をしていた?

"おおおえええぇぇ……っ"

―――ゲロ吐いた。

つまり、俺の口内は凄まじい悪臭を放っているという事になる。
ちゃんと濯ぎはしたが、ニオイが完全に取れているとは断言できない。

「ちょっと待てぇ!!」

と言おうとした瞬間、細い腕が胴体に回された。

そのまま10秒ほど経過した。状況は変化しない。
結構強めに、ぎゅっと絞めてくる……それは力強い抱擁だった。
恐る恐る目を開く。
三綾の姿はない。
目線を自分の体に持っていくと、後ろから腕が回って来ているのが目に入った。
どうやら背後から思いっきり抱き締められているらしい。
背中が暖かい。三綾がぴったり抱き付いているのが分かる。

「み、三綾さん……これは一体…」

三綾の奇怪な行動に、どんなリアクションを取ったらいいのか戸惑ってしまう。
どう考えてもこの行動はおかしい。一体何がしたいんだこいつは。

「聞いてるのか…」

三綾は俺の言葉を無視し、一層腕に力を込めてぎゅっと抱き締めてくる。
暖かくてしっかりした感触……なんかだんだん力が抜けていく…。

「…落ち着いた?」

それから数10秒ほど経って、後ろから声を掛けられた。

「あ……うん…」
「良かった」

腕を解かれる。後ろを振り向くと、少し照れたような顔の三綾がいた。

「じゃあ行こっか」
「……ちょっと待って」
「ん?」
「俺にもやらせろ」

「え?なに?」と三綾が言い終える前に、俺は前からがばっと三綾に抱きついた。

「わぁーーっ!?」

三綾が何か叫んだが気にしない。
なんだろうこれ…すごく落ち着く。ストレスとか嫌な事が全部消えていくような感じ。
穏やかな気持ちになれる。

「わ、わ…!?」

抱き締める力を強くすると、それに反応して三綾が言葉にならない声を漏らす。
こいつの緊張感の無いまったりとした声が相乗効果となって、より一層リラックスできる。
もうこのまま眠ってしまいそうだ…。

「…なんか喋ってくれ」
「えっ!?」
「何でもいいから」
「きゅ、急にそんな事言われても…」

そう言いつつも既に会話が成立している。話の内容なんてどうだっていいんだ。
ただこいつの声が聞きたいだけなんだから。

「ねぇ松瀬…そろそろ…」

三綾が困ったような声を出す。
確かにこんな所を誰かに見られたらかなり恥ずかしい。でも

「もう少しだけ…」

「ああああーーっ!?」

聖ちゃんに発見された。

「あたしも混ぜなさーい!」

がばーっと2人まとめて抱き締められる。

「いててて!手加減しろ!折れる!」
「そんなに強くないでしょ!」

そう言いながら松瀬も満面の笑顔だった。聖ちゃんもすごく嬉しそうな顔。
そんな2人の顔を見ていると、今更ながらこんな事を思う。私は本当に幸せ者だ。

「って、こんな事やってる場合じゃない!!もう試合始まるわよ!!」
「分かった。じゃあ行って来るぞ三綾」
「絶対勝つからね、俣奈」

そう言って2人は笑う。
私は試合には出られなかったけど、悔しさは無かった。
松瀬と聖ちゃんと永園さんの3人ならきっと優勝出来る。
今の私に出来ることは、それを信じて応援する事だけだ。

「2人ともがんばってねーー!」

松瀬と聖ちゃんは大きく手を振って廊下を駆けて行った。

・・・

体育館の脇の選手控え室(と言ってもただの体育用具室だけど)に入ると、仏頂面の永園が待っていた。
このボロくさい体育用具室のドアを開けるとすぐにステージの上に出る事になる。
薄いドアの向こうはもう戦場なのだ。

「じゃあ確認するけど、先鋒はあたしで決まりよね?」
「はァ!?オレが先鋒に決まってンだろうが!大将なんて暇でやってられるか!」

聖と永園が口論を繰り広げる。こいつらはそんなに先鋒になりたいのか…やっぱり緊張してないのか?
俺はひとまず現段階では大将と言う事になっている。先鋒は絶対無理だ。
きっと指が震えまくってまともにボールを生成する事も出来ないだろう。

「じゃんッ!!けんッ!!ホイッ!!」

聖:チョキ、永園:パー

「続いてはE組対F組です!」

実況が控え室まで聞こえてくる。歓声が一層大きくなる。

(火丸さんだ…火丸さんの実況が生で聞けるなんて…!)

一瞬、緊張感とかが全部吹っ飛ぶ。
火丸さんは俺が最も尊敬するプレイヤーだ。
もし火丸さんがいなかったら、今日の青リロは誕生していなかっただろう。

「残念だけどあんた達の出番は無いからね」
「チッ…オレが3タテしてやるっつってんのに……」

やはり2人とも緊張はしていないらしい。
…俺は他人の心配より自分の事をなんとかしないとな…早く緊張を解かないと、本当にマズい。

「両チームはステージへ!」

でも闘いの時はもう来てしまったのだ。腹くくって行くしかない。

「準備はいいな…行くぞ」

ドアを開け放った。

鼓膜を破らんばかりの大歓声が体育館に響き渡っていた。
眼球を貫くような眩しい照明の光と、ギルティギアイグゼクス#リロードの筐体。
そしてほぼ同じタイミングで反対の控え室から対戦相手の3人が出てきた。
その3名の中には見覚えのある顔があった。

(あいつ……)

俺が6本連続パーフェクトで負けたジョニー使い。
やはりクラス代表だったのか…まさか一回戦で当たるなんて…。

「両チームの先鋒は筐体へ!」

「じゃあ行って来るわね」
「聖」
「ん?なに?」
「あの女は気を付けろ」

聖は一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐに真剣な顔つきになって「分かった」と一言だけ言うと、筐体へ向かって歩いて行った。
ついに始まった闘劇予選。
だが俺の心の中では言いようの無い不安が渦を巻いていた。

「さぁ第3回戦はE組対F組!E組の先鋒は江辻 聖、カイ。
 対するF組は左渡 右二(さわたり ゆうじ)でソル!
 いきなり熱いカードとなりましたが…果たして初戦はどちらが取るのでしょうかっ!!」

「きゃああああああ!!!!ひじりさまぁぁぁぁぁぁ!!!!」

しばらく見ないうちに親衛隊の数は膨れ上がっていた。2階の端っこの方にぎゅうぎゅう詰めになっている。
聖騎士団(ひじりきしだん)とでも言おうか。
それより当の聖は大丈夫だろうか。緊張していないだろうか。
でも今俺に出来る事と言えば、聖を後ろから見守るくらいだ。
大丈夫だ。聖は強い。そう簡単に負けはしない。それは俺が一番良く知ってるじゃないか。

『PLEASE SELECT YOUR CHARACTER!!』

―――ガァン、ガァン

お互いカーソルを全く動かさずにキャラを決定する。
キャラセレクトの画面が一瞬で切り替わり、ソルとカイが対峙する。
筐体から「noontide」が流れ出す。会場の盛り上がりも激しい。

「それではこれよりAブロック第3試合を始めます!!」

『軽く流せると思うな』
『しゃあねえな……』

『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

―――『ヴォルカニックヴァイパー!!』

「左渡、それは貴方の悪い癖ですよ?」

瀬戸はVVが直撃するといつも決まってそう言う。悪い癖ですよ、と。

「でもさぁ、なんて言ったらいいのかな。コレやんないとエンジンがかかんないんだよ」
「はぁ…」
「わかんねーかなぁ?」
「わかりませんね」

俺の癖、それは1回は必ずVVをぶっぱなさないと気が乗らないと言う事。
それは開幕だったり、残り数ドットの時だったり、時は選ばない。
とにかく1回思いっきりぶっぱなさないと気が済まないのだ。
もちろん遊んでいるわけでもふざけているわけでもない。
これは必要な行動。左渡 右二はVVをぶっぱなす事によって勝率が上がるのだ。
「気のせいじゃないのか?」と聞かれれば俺はこう答えるだろう。「ああ、たしかに気のせいだ」と。
そう、"気"のせい。要するにメンタル面の話だ。
VVをぶっぱなした時としていない時とでは、明らかに前者の方が思い切った行動が取れるようになる。
攻めにおいても守りにおいても。
自分なりの解釈としては、思い切ってハイリスクハイリターンの行動を取る事によって「恐怖」を払拭できているんだと思う。
つまり俺にとって最初のぶっぱVVは自分を奮い立たせる為の鼓舞の儀式。

―――だから俺は今日もVVをぶっぱなす。闘劇だろうがなんだろうが関係ない。
それが俺の戦闘スタイルだから。
これは自論だが、ソル使いに一番必要な事は、昇竜を撃つ「覚悟」なんだ。

『ヴォルカニックヴァイパー!!』

・・・

遠Sを振った所にVVを貰った。最もくらいたくない攻撃だった。

「良いぶっぱだ!」

火丸さんの実況が入る。考えてみれば、牽制の刺し合いに付き合ってくれるわけが無かったんだ。
とは言え闘劇という大舞台。しかもチームの先鋒。そんな奴がいきなりぶっぱVVなんてするはずが無いと思っていた。
この左渡って人……どうやらかなり攻撃的な立ち回りのようだ。

(ぶっぱ…嫌いなタイプ…)

一気に画面端に吹っ飛ばされてしまった。
開幕からまだ10秒も経っていないため、当然両者TGは全く溜まっていない。
しかし「画面端の帝王」ソルにそんな事は関係無い。奴の強みと言えば高威力コンボ、通称Dループ。
一見すると、ただオウアーオウアーと叫びながら殴るだけの頭の悪そうなコンボ。
しかしその性能は非常に優秀。補正無しなら約6割の体力を奪い、起き攻めのおまけ付き。しかもノーゲージで出来ると言うのだから恐ろしい。

―――ゲシッ!

叩き落しから起き攻め。ソルが土煙を上げて飛び上がる。
起き攻め……恐らくオーソドックスに詐欺JSと打撃orぶっきらってところね。
まずはファジーJから試してみよう。

―――ガッ!

(JP…!?)

『オラァ』

「ぶっきらに捕まったー!!」

攻撃LVの低いJPの直後のぶっきらに捕まる。見切れなかった……やはりまだ緊張しているのだろうか。

(集中しないと…!)

紛れも無いDループ直行コース。体力を約4割奪われ、再度起き攻め。
これを黙って見過ごすわけにはいかない。

『テエヤー!テエヤー!テエ』『させませんっ!!』

昇りJDにバーストを合わせて弾き飛ばし、すぐに追いかけて2Pを重ねる。
ソルに固めは有効じゃない…さっさと2択を仕掛けて崩す!

―――ガッ

『失礼!』

―――シャアァァァ…

当て投げから昇りJDを重ねての起き攻め。VVを無力化できるのが強みだけど……。

『斬ッ!』
『おいおい』

一応2段Jから裏へ回って崩しを狙ってみるが……バレバレなわけで。崩せる要素は無い。
崩せないとなれば、固めから暴れを潰していくのが常套手段。
しかしソルのVVは強力無比。慎重に固めていかないと逆にこっちが殺られる。

『斬ッ!』

6HSから強引に固めを開始。
JDを撒いたり2Pから打撃を当ててみるが、相手は一向に暴れる気配が無い。
なら…当然投げで崩しに行くべき。でもリターンが小さいのよね…。

『失礼!』

しつこく固めて投げる。ダメージは微小。でもそろそろこっちも本領発揮だ。
TGが溜まったら一気に勝負を仕掛ける。

固めて投げて……丁寧な立ち回りだな。こりゃ下手に昇竜でも撃っちまえば惨事か…。
だがこのまま黙っていても投げられ続けて状況は悪くなるばかり。
なら逃げるか暴れるかのどっちかだが……逃げたところで中~遠距離はカイの間合い。
ここは贅沢にVVで切り返していきたいところだ。せっかくのVVも使わなければ何の意味も無い。

『斬ッ!』

6HSの地上詐欺から固められる。えーっと…たしか1段目FD、2段目直ガが最も有効だったっけか。

『お、おいおい』

相手のTGもそろそろ25%まで溜まろうとしている。
やっぱ暴れるか…それとも逃げるか…。

"なに難しく考えてんだよ、お前らしくもない!ここはVVだ!"
"いやいや!やめとけって!危ないって!!"
"何言ってんだ阿呆がッ!VV撃てよ!切り返して一気に起き攻めだぜ?最高じゃないか!"
"馬鹿!ガードされたらどうするんだよ!TGもないのに!!"
"五月蝿ぇ五月蝿ぇ!早く撃っちまえよ!!"
"撃つな撃つな!耳を貸しちゃ駄目だ!!"

頭の中で天使と悪魔が激しく口論を繰り広げる。
だが、果たしてどっちが悪魔でどっちが天使なのか。それはやってみないと分からない。

(チッ、悩むなんて…らしくねぇッ!!)

6HSからダッシュしてくるカイに攻撃を合わせる。
撃つのはもちろん……!!

『ヴォルカニックヴァイパー!!』

VVで強引に割り込む。このまま起き攻め!

『強い!』

の予定だったのにしっかりガードされた。

『斬ッ!』

着地に6HSから反撃をもらって足払い>チャージ青起き攻め。

『これを使うとは…』
『ロマンティーック』

―――ビシッ

ダッシュJからの着地Kに当たった。
そのままコンボを繋げられて足払い>チャージからまたもや長々と固められる。

"次はガードだ右二。ここは慎重にいこうぜ"
"は?何言ってんだよ阿呆が。今度こそ昇竜だッ!"
"なっ……この馬鹿!お前のせいでさっきフルコン貰ったんじゃねーか!余計な口出しするな!!"

―――ガッ

2Pか…投げか打撃が来る。暴れるか……いや、駄目だ。VVはきっと読まれている。
ここは……投げ返せ!!

―――ビシッ

FD仕込み投げを狙ったところに2Kが刺さった。
なんなんだよこいつ……こいつ強いじゃねぇか畜生!なんで尽く読み負ける!?
まるで行動が全部バレてるみたいな……くそッ、燕じゃあるまいし…!!

『調子に乗りやがって!!』

「たまらずサイクバースト!」

『ガンフレイッ!!』
『ロマンティーック』

起き上がりにダッシュガン青を重ね、強引に打撃とぶっきらの2択を迫る。
バーストとTGを使ってしまったのが不服だが……ようやくこっちのターンが回ってきた。
このまま押し切ってやる。
見せ付けてやるぜ……どう足掻いても技術では補えない「火力差」って奴をよォッ!!

ガン青からの2択……ソル側大幅有利な読み合いが発生。
とは言っても、そこまで気にする必要は無い。画面中央で相手のTGも無い。

(ここは逃げが安定かな…)

―――ビシッ!

立ちKがJ移行Fに当たる。
無補正の始動技……でもこの距離で打撃を貰ってもTGが無ければDループには移行できないはず。
せいぜい安いガトリングからBRで締める程度だろう。

『テエヤー!』

と思っていたが違った。ソルの攻撃は実に奇怪なものだった。ダッシュK>6P>HS。

(なに…?このコンボ?安い?)

―――バシュウッ!

JC>低空ダッシュからJP…JK…JD―――って

(うそっ!?受身取れない!?こんなの入るの!?)

『テエヤー!』

最後のJDで画面端に到達する。こうなってしまっては何も出来ない。
あとはただソルの発する「テエヤー!」の声を聞きながら、ぼけーっと画面を見つめるしかない。
それにしても中央から端に運んで約5割+起き攻めをノーゲージで…
HSJCから最速低空ダッシュ最速JPって所かな…?大会でよくできる……。

『ヴォルカニックヴァイパー!!』

そして叩き落しから詐欺起き攻め。
さっきは攻撃LVの低いJPからの当て投げに対応できなかった。今度はちゃんと見切らないと…!

―――キンッ!

詐欺JSから2択。セオリー通りだけど……ここでどう出るか。ジャンプか…それとも暴れるか…。

『今だっ!!』

「おっと、ここでVT!強気に切り返す!」

『これを使うとは……』

打撃にVTで割り込んでチャージを撃つ。
状況……体力はお互い残り3割といった所。バーストは両者溜まっていない。
しかしこっちは25%のテンションゲージが溜まっている。

(青から崩す…!)

・・・

『ロマンティーック』

またチャージ青から2択か……面倒臭ぇな…。

『油断しましたね』

(ああああああああああ!?)

「あーっとぉ!?ダストが見えないぞー!」

『とあ!斬ッ!今だっ!!……これを使うとは……』

受身不能ダストからチャージを重ねられて再び固め。
体力は残り1割ほどしか残っていない。下手に暴れて潰されでもしたらそこで終わりだ。

"まだそんな事言ってんのかよ!VV撃てよ!!"
"ちょっ、馬鹿!今度こそガードだよガード!!"
"ガードガードって五月蝿ぇんだよ阿呆がッ!お前このラウンドだけで何回投げられたと思ってんだ!?"
"VV撃ってさっきみたいにガードされたらどうすんだよ!?絶対死ぬぞ!"
"はッ、阿呆がッ!今はTGがあんだよ!ミスってもロマンできんだろうが!"

―――ガッ

相手の2Pが天使と悪魔の口論にピリオドを打った。

(…やるしかない)

623+HS。この技の前では、あらゆる攻撃はその意味を失う。
いかなる攻撃も無力化し、一手で攻守をひっくり返す。
さらにガードされても1段目にRCをかければリスクは皆無。それどころかそのまま攻勢に出ることが可能。
最強の昇竜と呼ぶに相応しい性能。これぞソルがソルである由縁。

(食らいやがれェェェーーッ!!)

『ヴォルカニックヴァイパー!!』

上空へ勢い良くカッ飛んでいったのはソル=バッドガイただ1人であった。
カイはバックステップでVVをエレガントに回避し、飛んでいったソルを追いかけて反撃を叩き込んだ。
火丸さんの「ああーー……」と言う声が惨めな気持ちに追い討ちをかけた。

『SLASH』

『デュエルツー!レッツロック!!』

―――バシュウッ!

開幕、空中バックダッシュで間合いを離す。

『ガァン!かかったか?』

ガンフレフェイントでTGを溜めつつ出方を窺う。
相手は慎重にJDやら各種スタンを撒いてくる。
…分かったぜ、江辻 聖とやら。どうやらお前と俺ではプレイヤー性能って奴にかなりの差があるようだ。

(なら……強引に行くしかねぇッ!!)

―――タタタッ

・・・

いきなり猛然と走ってくるソル。対策を頭から引っ張り出す。
ダッシュからの攻撃と言えば……足払い、FDによる急停止、ぶっきら、VV、2S等…。
JDを置いておくべきだった、そう考えるが今となっては遅い。
もうすぐ敵の足払いの射程に入る。

(…でも、こうならなきゃ面白くない)

この互いの読みが鬩ぎ合い、ぶつかり合う瞬間こそが格ゲーの醍醐味。
こういった刺し合いの時、基本的にあたしは「ガード」という選択肢を考えない。
でもこの左渡という人は注意しないと……開幕からいきなりダッシュVVを撃ってくるような人だ。
半ば読み合い放棄行動であるダッシュVVに牽制など振るわけにもいかない。ガードも考える必要がある。
と来ればここは……ジャンプFDかな……VVはガード、他の技は避けられる。
FD停止による様子見をされた場合はその後の状況が不利だけど…しかたないわね…。

―――ギィンッ!

(くっ…)

どうやら読まれていたらしい。ジャンプFDを張ったところにJPが当たった。
そのまま連打されて地上に引き摺り下ろされてしまう。
近距離はソルの領域……分が悪すぎる。なんとか2択を回避しないと…!

―――バシッ!

J移行Fに立ちKが刺さった。Dループが来る。
やっぱりファジーは対策をとられてるみたいね……。

「捕まえたーー!D!D!D!D!D!」

火丸さんがソルの攻撃に合わせて「でぃー!でぃー!」と叫ぶ。
感激した生徒たちが絶叫し、会場の盛り上がりが最高潮に達する。

『ヴォルカニックヴァイパー!!』

叩き落しから起き攻め。再びソルが詐欺飛びのためにジャンプする。
あと2回読み負けたら終わり…ここはしっかり切り返していかないと…!

良し。詐欺飛びから2択。一気にケリをつける…ッ!

―――フォン!

しかし俺の放ったJSは空を切っていた。

『失礼!』

リバサバクステでJSを回避され、画面端へ投げられてしまった。
VV防止のJD起き攻めが来る。

『これを使うとは…』

ん?チャージ?おいおい、VV確定じゃねぇか。

(ここで一発…)

…っと、危ない。
相手のTGが緑色になってる。青からの2択か。さっきはダストにやられたからな…今度は警戒しないと。

『ロマンティーック』

ダストは振らず、Jから2択。思えば俺は今までこいつの起き攻めを1度として捌き切れていない。
まぐれなのか、それとも燕並みの"読み"を持っているのか…後者だとしたら厄介。非常に厄介。
しかし2択だ。詰まる所、立ちガードかしゃがみガードかという話。50%だ。
確率で考えればそろそろ回避できてもいいはず。前者である事を祈ろう。
所詮はカイ。見えない起き攻めじゃない。集中していれば見切れるハズだ。

『油断しましたね』

着地から……ダスト。

「あーっ!やっぱり立てないー!!」

『とぁっ!斬ッ!今だっ!!とぁっ!斬ッ!今だっ!!』

ちっ…やっぱりこいつはヤバイな。強い。まぐれなんかじゃない。

『これを使うとは……』

またチャージ起き攻め。まともに読み合っても切り抜けられそうにない。
ここはなるべくローリスクな選択肢を選んでいこう。ガード1択で凌ぐ。

―――ギンッ!ギンッ!ギンッ!

2P>2K>HSをFDでガードして間合いを離す。

(距離が空いた…逃げられる!)

『斬ッ!』

HJで相手の2HSを避けつつ、空中ダッシュでなんとか画面端を離脱した。
でも中距離はやはり不利。またダッシュから強引に攻め込むしかない。
ここはリターン重視…CHすれば一気に6割奪えるダッシュ足払いで……!!

―――タタタッ

『カウンタ!』

2Kで潰された。続けて遠S>2S>ディッパーでまたダウン。
なんなんだよこいつ……こっちの攻撃が全然当たらねぇ……。
これが……これがプレイヤー性能の差ってヤツなのか!?

『斬ッ!』

6HS地上詐欺からの固め。

『失礼!』

投げられる。またJD起き攻めが来る。

(くそ……)

読み勝てない。駄目だ。心が折れそうになる。

"弱気になるなよ右二!体力だってまだそんなに差は付いてないぞ!"
"そうだ!ギルティなんて気合いの勝負だ!お前ならやれる!気合いだ気合い!!"

そうだ。このまま負けるわけにはいかない。
この勝負は俺だけの問題じゃない。チームのためにも、俺は勝たなきゃいけないんだ…!

―――ガッ、

2P……2択が来る。俺は再び「あのコマンド」を入力した。
6、2、3。
あとはHSを押すだけ。天下無敵の昇竜。だが回避されれば終わり。反撃を食らって死ぬ。
昇竜を撃たずにガードすれば死ぬ心配はないだろう。
いくらなんでもガトリングからのダストは見えるし、投げられても死ぬことはない。
でもそれでは何の解決にもならない。
どうする左渡 右二。このままHSを押すのか?それともガードか?ジャンプか?

(……悩むのはもう止めだ。見せてやるよ……俺の覚悟を!!)

『ヴォルカ…』
『ロマンティーック』

TGを50%消費して動作を強制的にキャンセルする。即ち「当てた」と言う事。
だがヒット確認はしていない。ガードされてもヒットしても、どのみちRCをかけるんだ。
ヒット確認はそれからでも遅くない。
そして俺が撃ったVVは……見事にヒットしていた。

「ヴォルカで割り込んだー!!」

『オオッ!テエヤー!』

ダッシュ近S>2HSから慣性を残したJDで画面端に吹っ飛ばす。
さらに空中ダッシュJP>JK>JDを叩き込み、Dループへ。

「ロマンからDループー!D!D!D!D!KDSDヴォルカニックヴァイパー!!」

叩き落して起き攻め。一気に敵の体力は残り数ドット。次の起き攻めを当てれば倒せる。
だが焦りは禁物だ。さっきは詐欺JSをリバサバクステで避けられちまった……ここはどう出る?
素直に詐欺るか……着地寸前の空中ダッシュJSならバクステも刈れる。
どうする……それともすかし下段を当てるか…。

(…悩んでる暇は無い…もう絶対逃がさねぇ……ここで仕留める!!)

『失礼!』

(くそッ…!!)

着地下段を狙ったが、2Kを出す前に投げられてしまった。JDからの起き攻めが来る。

―――ギィンッ!ギィンッ!

2K>HSをFDでガードして間合いを離す。

(良し…ひとまずここで逃げる…)

『斬ッ!!』

(しまった…!)

今度はジャンプを2HSで刈られた。

『今だっ!!とあ!斬ッ!今だっ!!とあ!斬ッ!今だっ!!』

VTループから再び起き攻め。

『斬ッ!!』

6HS…これをガードしたら2択が来る。もう残り体力は数ドット。打撃、投げ、どちらをくらっても終わりだ。
だがそれは相手も同じこと。恐らくこれが最後の2択だ。
こっちだって通常投げを一発当てればSLASH。打撃にはVVで対処できる。投げに対しては投げ返し。

(次こそ読み勝つ…!!)

『ロマンティーック』

読み合いは発生しなかった。
6HS1段目RCからのダッシュ投げ……俺は全く反応できなかった。

『失礼!』
『SLASH』

『へヴィだぜ……』
『私では…不服なのか!?』

・・・

「すまん。負けちまった」
「でもあんまり悔しそうじゃないね」
「ああ、楽しかったからな。あんな強い奴とやったの久し振りだよ」
「やれやれ…無様ですねぇ左渡」
「ちっ……気を付けろよ瀬戸。あのカイ使い強ぇぞ」

左渡にしては珍しく弱気ですね…これは本当に注意したほうが良さそうですねぇ…。

「続いてF組は次鋒の瀬戸 天馬でテスタ!」

火丸さんの言葉に促されて筐体へ向かう。

「油断するなよ瀬戸」
「がんばって」
「ふ……僕が3タテしてきてあげますよ」

僕が負けてしまっては後が無い。
流石の霧原さんでも3人立て続けに相手をするのは相当厳しいだろう。
このカイは僕が絶対に倒す。


『ここから先には行かせない』
『迅雷の由縁をお教えしよう』

『へヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』