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「闘劇予選の対戦カードが決定したので発表する。
 各クラスをA~Dブロックまで分け、各ブロックの優勝チームが準決勝戦、決勝戦を行い優勝を決める。
 優勝チームが闘劇本戦へ出場できると言うわけだ。それではトーナメント表を見せる。
 E組はAブロック第3試合。初戦の相手はF組だ」

そう言って雁田は大きい紙を黒板に張った。


        Aブロック

              ┃
      ┏━━━┻━━━┓
  ┏━┻━┓      ┏━┻━┓
┏┻┓  ┏┻┓  ┏┻┓  ┏┻┓
┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃
┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃
┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃  ┃
A  B  C  D   E  F  G  H
組  組 組   組  組  組  組  組
∧  ∧ ∧  ∧  ∧  ∧ ∧  ∧
オ  紙 や  っ   マ  M  ソ   ぬ
│  ∨ ら  て  ッ   O  ル  る
ガ    な  言  セ   E  ∥  ぽ
ニ    い  う  マ   ∨  バ  ∨
ッ    か  か  ッ     ッ
ク    ∨  ス  セ      ド
マ        ラ  ∨     ガ
シ         ッ        │
ン        シ        ル
∨        ュ         ∨
          や
         ら
         せ
         ろ
         ∨

チーム名とクラス名が書かれているが使用キャラはわからない…か。
ちなみに『マッセマッセ』というチーム名だが、
適当な名前を考えてくれと三綾に頼んだところ2秒で決定された。
それにしても気になるのはG組だ。
ソル=バッドガール……ソル?悪い少女?なんか嫌な予感がするが…。
あいつが代表に入るなんてことはあり得ない。あんな実力で入れるはずが無い。
だが…修学旅行のとき、俺は奴に負けた。
確かにあの頃から実力はついていた…コンボも出来ていたし、立ち回りも悪くなかった。
でもまさか代表入りなんて事が…。

『オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!ヴォルカニックヴァイパー!!』

「よし、今日で2学期も終わりだ。明日は終業式だから絶対遅刻なんかするなよ」

と言って雁田は教室を出て行った。放課後になって生徒たちも騒ぎ出す。
聖は今日も休んでいるが、明日には復帰できるから大丈夫との事だった。心配は要らないだろう。

「最初はF組だって。どんな相手だろ?」
「さぁな」

三綾が興味半分不安半分と言った顔で話し掛けてくる。
最初の対戦相手は『MOE』か……『えむおーいー』?それとも『もえ』?
後者だとしたらふざけた名前だ。

「おい緒土」

突然背後から冷たい声が響いた。

「うおおおおおおっ!!!?」
「な、なんだ!急に叫ぶな!」
「『なんだ』じゃねぇ!!お前急に出てくるなよ!ビビるんだよ!!」

急に俺に話し掛けてきたのは絶対零度の声を持つ紙野 蘇留であった。
こいつの声は何回聞いても慣れない。

「蘇留ちゃん、どうしたの?」
「聞きたいことがある。緒土、E組の代表はお前か?」
「そ、そう言うお前はまさかG組代表……?」
「ああ」

あの蘇留が。初心者だった蘇留が。
VVやらGVをぶっぱなしまくっていた蘇留が、今やクラスを代表するソル使いだと言うのか!?
信じられん…。

「で、貴様は代表なのか。どうなんだ。他のチームメイトは誰だ」
「あ、ああ…E組からは俺と聖だ」

そんな馬鹿な話があって良いのか。
松瀬 緒土と江辻 聖だと?何故よりによってこの2人が出て来るんだ。
江辻とか言う女は生理的に受け付けないし、緒土はいつもいつも私と弓太の邪魔をする。
2人とも気に入らん。
しかし弓太は江辻と闘ったはず。
当然弓太が勝ったものと思って聞いていなかったが…まさか負けたと言うのか?
おのれ……あの金髪め……。

「…そうか。丁度良い。なら1回戦は絶対勝ち抜いて来い。2回戦で私が貴様らの息の根を止めてやる」

この2人はいずれ倒すと決めていた。絶好の機会だ。公衆の面前でボコボコにしてやる。

「あァ?ンだこの糞餓鬼。好き勝手言ってくれるじゃねェか」

聞き覚えのある声。忘れようと思っても忘れられない声だ。

「お前……ッ!!」

永園 翼。お兄ちゃんを虐めていた糞野郎。そんな…まさかこいつも代表だって言うのか!?

「さっきから聞いてりゃ図に乗りやがってこの餓鬼が。お前はオレがぶっ殺してやるよ」
「野郎…ッ!!」

・・・

それから2人は罵詈雑言の応酬を数分間繰り広げた。
だが口喧嘩をやらせたら蘇留は超一流。永園は「気にいらねェ餓鬼だ…」とか言って教室を出て行った。
紙野と永園はもう和解したとは言え、やはり蘇留はまだ永園の事を認めていないらしい。
「お兄ちゃんの仇は絶対取ってやる」とか言っていた。

「それにしても蘇留のヤツ、あんな口調の癖に紙野のことは『お兄ちゃん』なんて言うんだな」
「うん……前にも言ったと思うけど、蘇留のあの性格は作り物だから」

作り物ねぇ…マジでそうなのか…?俺にはあれが本性にしか思えないんだが…。

「クソ…永園め……」

蘇留の怒りはまだ収まらないらしい。これでもかと言うくらい顔を顰めて不愉快そうな表情をしている。

「弓太っ!行くぞっ!スレイヤー対策をするっ!」

郁瀬のヤツも大変だな……。
あんな暴れ馬の彼氏になるなんて、考えただけで神経性胃炎になっちまいそうだ。

「そ、そんな!今日は兄貴と約束が…」

やはり郁瀬も辛いんだろうか。
っつーか何故よりによってそんな嘘をつく。もっとマシな嘘なんていくらでもあるだろ。

「……緒土」
「な、なんでしょう…?」

このパターンはマズい。蘇留は絶対キレている。ここはさっさと逃げた方がいいか…?

「貴様は彼女がいながら、まだ弓太を誑かすと言うのか」
「彼女?」
「三綾 俣奈。お前らは付き合ってもう長いんだろ?」
「はぁ?何言ってんだ?」
「今更隠すような事でもないだろう。
 クリスマスの日、カップル限定イベントに出ていたのを確かに見たぞ」
「あぁ…アレは違う。三綾も何とか言って……」

隣の三綾を見ると顔を真っ赤にしてうつむいていた。耳まで赤い。ゆでだこみたいになってる。
頭から湯気が出そうな勢いだ。

「あ、あの、わたし用事があるからっ!」

三綾は早口でそう言うと、転びそうになりながら猛然と教室を飛び出していった。

(あ―――あれ?)

「緒土、貴様…」
「ち、違うんだ!いいか蘇留!クリスマスの日は……」

・・・

「……なるほど、な…」

全ての事情を話し終えると、蘇留は今まで見た事も無いくらい嬉しそうな顔で言った。

「アイツはお前に惚れているな。間違い無い」

その日は全然眠りに付けなかった。

(三綾が俺のことを…?)

ベッドに入ってからそのことばっかり考えている。今までそんなことは全く意識してこなかった。
松瀬 緒土、高校1年。彼女いない歴=年齢。自他共に認めるギルヲタ。
というかそれ以前に俺の小、中学校時代は退屈極まりなかった。彼女はおろか友達もいない。
高校に入るまでは女と話したことなんてほとんど無かった。
おそらく、高校に入るまでの全ての時間を合計してみても10時間も話していないだろう。
いや5時間も話してないな……3時間ぐらい…?やっぱり1時間…?うーん……微妙だ……。
その俺が今、1人の女に好意をもたれている……
俄かには信じがたい出来事だった。
ごろんと寝返りを打つ。眠れない。

(三綾は俺のことが……俺は…俺はどうなんだ…?)

三綾の顔をまぶたの裏に思い描く。
初めて三綾と下校したあの日…夕日に映える三綾の顔を見て、正直かわいいと思った。
いつも元気で、いつも笑っている(時には怒ったりもするけど)そして何度も俺を助けてくれた。
でも、『好き』とかそういう感情は抱いたことは無かった。
『良き仲間』『友達』そうとしか考えていなかった。当然三綾もそう思っているものだと思っていた。
いや、実際そうだったハズだ。だから今まで普通に接してこられたんだ。
何で急に?蘇留の発言のせいか?
っつーか蘇留の言ってる事は本当にあってるのか?勘違いでした、じゃ済まねぇぞ…。

(あー駄目だ。考えてもわかんねー)

いつの間にか俺の意識は深い眠りへと落ちていった。


・・・


頬杖をついてぼんやりと考える。
夜というモノは人を不思議な感情にさせる。その上しんしんと雪まで降っていれば尚更だ。

(私…そんなに松瀬にべたべたしてたかなぁ…)

蘇留ちゃんの言葉が頭に絡み付いて離れない。もしかして周りの人は皆そう思っていたんだろうか。
確かに……紙野さんを永園さんから助けてあげたりしている姿は素直にかっこいいと思った。
でもそれは恋には繋がらなかった。

―――お前らは付き合ってるんだろ?―――

でも蘇留ちゃんの言葉聞いたとき頭の中が真っ白になって…耳までカーッと熱くなって…。

「はぁ……」

溜息をつく。
今までは同じヴェノム使いとして松瀬を多少ライバル視していた。
それが私の心に歯止めを掛けていただけなのだろうか。でも代表も既に決定して、それも無くなった。
そのせいなのだろうか…急に松瀬を意識し始めたのは…。
松瀬はどう思っているんだろう。迷惑だって思ってないだろうか。
私がそばにいるとあらぬ疑いを掛けられるんじゃないだろうか。
これからはあんまり松瀬とは話さないほうがいいかもしれない。
それに松瀬には聖ちゃんがいるんだし、私なんかが割り込んでいいはずがない。
そんな事をすれば聖ちゃんとの関係も壊れてしまう……。
せっかく高校生になって友達が出来たのに…そんなの絶対嫌だ。

(…こんなこと心配しなくてもいいよね…明日になればまたいつも通りに戻ってるはずだもん…)

自分に言い聞かせてみたが、その時重大なことを思い出した。

(朝は松瀬を起こさなきゃいけないんだ…)

頭を振る。

(へ、変に意識しちゃダメ…!いつも通りに起こせばいいだけだよ!)

それから何発大きい溜息を吐いただろう。
起こすべきか、起こさないべきか。考えがぐるぐる頭の中を駆け巡る。
起こさなかったら松瀬は変に思うだろうし、起こしに行ったら私は冷静でいられる自信がない。

(ああ~~どうしたらいいんだろう…)

時計を見る。2時30分。

(ダメだ…もう寝よう……)

明日になれば、何事も無かったように普通の日常がやってくる。そう信じて私は眠りについた。

―――カシャァーッ!

カーテンを一気に全開する。外界が見たかったから。
いつも通りの景色が、いつも通りの日常が見たかったから。
でも視界に飛び込んできたのはいつもの景色ではなかった。
目を劈くような、真っ白な光だった。

「眩しい…」

薄くまぶたを開く。目がだんだん慣れてきた。それでも視界は真っ白のまま。

「あれ…白い…?」

目を擦って外をよく見てみる。

「雪だ…」

ガラス越しに見た世界は昨日とは全く別物だった。一面、純白の雪。
太陽の光が反射され、本当に真っ白な光を放っていた。
積もった雪は表面が僅かに溶けてキラキラしている。

「一晩でこんなに降るなんて…」

昨日までとは全然違う…別世界になってしまったみたいだ。
ふと、昨日のことを思い出す。
彼を起こしに行くべきかどうか。結局結論は得られなかった。どうしたらいいんだろう……


「いってきまーす…」

玄関を開くと冷気が服の中を吹き抜けていった。思わず身震いしてしまう。
さっきまであんなに晴れていたと言うのに、空はどんよりとした灰色の雲に覆われていた。
時計を見る…7時30分。いつも通りの時間。普段ならこのまま彼の家に行く。
そしてなかなか起きない彼を起こして…私の一日が始まるんだ。
そうだ。今日もいつも通りでいい。普通に起こして、普通に話して、普通に学校に行こう。

私は足を一歩踏み出した。やわらかい新雪がギュッと音を立てた。
その足は鉛のように重かった。

『見誤ったな!!』

「んん…」

枕元からヴェノムの声。目を擦る。部屋には誰もいない。いつもならアイツが起こしに来るはずだった。

『見誤ったな!!見あや……』

タンッ!と目覚し時計を叩いて声を止める。

(今日は来てないのか…)

久し振りの独りの朝。
いつも邪魔だと思っていた。2度寝もできないし、朝っぱらからpush a bush とか流すし…
でも、いざ来なくなると寂しいもんだな…。

すぐに階段を下りてリビングへ。テーブルにつき、味気ないトーストと牛乳を胃へ流し込む。
なんかメシがいつもより不味い気がする。独りの朝がこんなに退屈だとは思わなかった。

(何かが足りない。そうだ、アレだ。BGMだ。やっぱり朝は the cat attached to the rust を…)

聴こうとしたが、kill dog as a sacrifice to dog に変更した。

機械的に朝食を取って顔を洗う。一挙手一投足がいちいち面倒臭い。

(学校には来てるよな…)

制服に着替え、黙々と支度を済ませる。時刻は8時10分。いつもより10分も早い登校となった。
こんなに早く来ればアイツもびっくりするだろう。

(行くか…)

ガチャッと玄関のドアを開け放つと、外は一面銀世界だった。

「雪…!?さ、寒…」

思わず声が出る。吐き出された白い息が宙にふわーっと拡散していく。
12月も末、確かに雪が降ってもおかしくない時期だ。
だがいくらなんでも一晩でこんなに積もるか…?

(この寒い道を独りで登校するのかよ…)

考えると余計に寒い。

(早く行こう…)

ギュッギュッと新雪を踏み鳴らして白い並木道を歩く。
そう言えばアイツと初めてあったのもこの並木道……桜舞う空の下だった。
だが、春にはあんなに咲き誇っていた桜の木もすっかり枯れ果ててしまっている。
今では見る影もない。ただの『茶色い木』だ。
灰色の空と相まって何か物悲しい。

(早く…行こう…)

・・・

アイツが学校に来たのは終業式が始まる直前だった。そのせいで今日はまだ顔も合わせていない。
その終業式も終わり、今は雁田が「冬休みもちゃんと練習しろ」とか言っている。

「江辻、永園、松瀬の3人は特にな。あと体調にも気をつけるように」

まだ一言も言葉を交わしていない。今サッと後ろを振り向けば話せる。
でも出来ない……何を話したらいいのか分からない。
今日が終われば、もう明日からは冬休みだ。
そうなってしまっては当分顔を合わすことも無くなる。

(もしかしてこのまま終わっちまうんじゃ…)

「では2学期もこれで終了だ。解散!」

三綾が席を立つ。
駄目だ…ここで別れたらきっともう2度と話せない。今話さないと…!

「三綾!」

「あっ…ま、松瀬…」

と声を掛けてはみたものの、一体どんな会話をしていいのか見当も付かない。とりあえずここは自然に…。

「今日はどうしたんだ?何で来なかったんだよ」

平静を装う。が、そんなことできるわけもない。声が微妙に震えてるし発音もちょっとおかしい。

「う、うん…今日は用事があったから…」
「そ、そうか…」

ぎこちない会話。三綾の顔を直視できない。

(き、気まずい…)

「あの、その…私用事あるから!」
「あ!ちょっと…!!」

三綾はそう言うと髪の毛を揺らせて廊下をぱたぱた駆けて行った。

(くそ…なんでこんな事になっちまったんだ…)

深い溜息をつく。

(これからどうすりゃいいんだよ…)

「ちょっと聞いてんのーーーーーー!?」
「おうあーーー!?」

背後から怒声が響いた。
後ろを振り返ると、白いコートに身を包んだ聖が俺を睨んでいた。

「聖か…」
「『聖か』じゃないわよ。あたしの話聞いてた?」
「なんだよ?」
「これから暇ならギルティの練習しようかと思って」
「風邪はもう治ったのか?」
「バッチリ。それよりなんかあったの?俣奈とケンカでもしたの?」

(…こいつなら相談に乗ってくれるかもしれない)

「なぁ聖……」
「なに?」

俺は聖に相談することにした。
蘇留の発言、三綾の態度、そして俺の今の心境、全て洗いざらい話した。

初めは嘘だと思った。冗談だと思った。
だからツッコミにリアルファフニールを入れてやった。
でも緒土は真面目くさった顔をして話を続けた。
その話が真実味を帯びていくのと同時にあたしの胸の中の不安は増大していった。
そしてそれが本当の話なんだとわかった時、あたしはリアルパイルバンカーをぶっぱなしていた。

「爆砕!!」
「ぐほっ…!な、なんでそこでパイルが飛んで来るんだよ!」

なんで…なんでよりによってあたしにそんな相談するのよ…こいつは人の気も知らないで…!!

「知らないわよ…この馬鹿ぁっ!!」

リアルパイル―――いや…力の入ってないただのパンチを鳩尾に入れて教室を飛び出した。
教室からは「また松瀬のやつ派手にやられてるな」とかいう笑い声が聞こえてきた。

・・・

廊下を闇雲に走る。
勢い良く飛び出したものの行く当てがなかった。

(とりあえず頭を冷やそう…)

階段を昇り、屋上と校舎を隔てる金属製の扉の前までやってくる。無用心にも鍵は掛かっていない。

キィィーー……

冷たい扉をゆっくりと開く。
扉の隙間から風が粉雪をのせてヒューっと吹いてきた。

「さむ…」

構わず屋上に出ると、そこは一面雪に覆われていた。

「きれい…」

一点の汚れもない純白。…いや、違う。先客がいたらしい。雪に足跡が付いている。

(誰だろう…)

前を見ると、そこには女の子が1人ぽつんと立っていた。

「俣奈ーなにやってんのー?」
「聖ちゃん…?」

微妙に溶けた雪をさくさく踏み鳴らして俣奈のもとに歩み寄る。
靴の中に雪が入ってくるけど今はそんな事は気にしない。

「こんなとこにいたら風邪ひくわよ?なにやってんの?」
「聖ちゃんの方こそ、どうしたの?」
「あたしは……」

俣奈とはこれからもずっと友達でいたいと思っていた。
でも、もしかしたら俣奈とあたしの関係も今日で終わってしまうのかもしれない。
そんなの絶対嫌だ……。

(あたしはどうしたらいいんだろう……)

「あの金髪なら屋上に昇って行く所を見たぞ」

紙野、郁瀬、そして何故か蘇留の3人に助言をもらう事になった。
蘇留は俺を郁瀬から離す絶好のチャンスだと思っているのだろう。気合の入り方が違う。
俺は聖と三綾から好意をもたれているらしい。信じられない事だが3人とも間違いないと言っている。
三綾は昨日の件で明らかになったし、郁瀬曰く「江辻さんはずっとライバル視していました」との事。
紙野もかなり早い時期に気付いており、俺の事を滅茶苦茶鈍感なやつだと思っていたらしい。

「松瀬くん、これからどうするの?」

正直言って分からない。突然の出来事にまだ混乱している。
恋愛未経験のギルヲタにとっては難しすぎる問題だ。
やはり一方に決めるという事なのか……

「どうするもこうするもあるか」
「そ、蘇留…?」
「お前はどっちが好きなんだ。言ってみろ」

優柔不断な奴だとか、根性の無い奴だと思われるかもしれない。
正直な感想を述べれば「どっちも好き」としか言いようが無かった。

「……」
「緒土、お前は重要なことに気付いていない。お前は無意識の内に可能性を閉ざしている」
「どういう事だよ?」
「どっちか一方なんてチマチマしたセコい考えは捨てろ。
 『両方と付き合う』或いは『両方振る』って手がある」
「両方と付き合う!?そんなの無理に決まってんだろ!?」
「その諦めが馬鹿だと言ってるんだ。馬鹿め。
 それで愛想をつかされたら、所詮あの二人の愛はその程度だったと言う事だ」

蘇留の言ってる事は滅茶苦茶だ。こいつは本気でこんなことを言ってるのだろうか。
正直こいつは頭のいい奴だと思っていたが…。

「そんな極端な精神論…無茶苦茶だ」
「ほぉ?『極端な精神論』だと?お前はどうしようもない馬鹿だな」

蘇留の瞳に自信の色が漲る。こいつはいつも自信満々だが、今はいつにも増して凄い。
そんなに自分の言ってる事に自信があるのか?今の滅茶苦茶な理論が?
こんな事、小学生でも駄目だと分かる。

「いいかッ!!よく聞け!!」

―――ビシィィィィッッ!!

と、蘇留は俺に人差し指を向けて言い放った。

「恋愛を心で語らずしてどこで語る!!」

(か、カッコいい…!!)

その一言は俺の冷め切った心に火をつけるのに十分すぎる言葉だった。

(なんて熱いヤツなんだ…こんな熱血キャラだったとは…!)

「私と弓太を見てみろ。最初はあんなに駄目だったのに今では円満にやってるじゃないか」
「た、確かに!」

最初は無謀とも思える恋愛だった。
真性のホモと少女の恋。どう転んでも上手く行く事なんて無いと思っていた。
でも2人はちゃんと上手く付き合っているらしい。郁瀬も蘇留の事を好きだと言っていた。
蘇留の愛があのホモの心を変えたのだ。

「ふっ…ようやく分かってきたようだな。いいか、愛する心は無敵だ…それが本物ならな…」

大昔のドラマの台詞みたいだ。滅茶苦茶クサイ。でも、嫌いじゃない。

「蘇留……わかったよ。俺、何か悟ったような気がする。屋上でいいんだよな!行ってくる!!」

教室を飛び出した。

・・・

「蘇留…ほんとに大丈夫なの?」

松瀬くんは完全に蘇留に乗せられてしまったけど、やはり第三者の目からみると無謀としか思えない。
2人と付き合うなんて無理に決まってる。

「まぁ…我ながら無茶を言ったものだ」
「松瀬くんを嵌めたの!?」
「まさか。私だって緒土にはどっちかと恋人同士になって貰いたいからな。
 ただそうなると片方が居た堪れないだろう。
 ならいっそ両方とくっつくか、誰ともくっつかないか。それしかない」
「でもやっぱり無理があるんじゃないスか?」
「それは百も承知だ」
「ならやっぱり止めた方がいいんじゃ…」
「案ずるな。もしもの事があったらこの私が一肌脱いでやる。
 杞憂などせずに大船に乗った気でいろ。とにかく私達も屋上へ行くぞ」

蘇留には勝算があるのだろうか。一体どうするつもりなんだろう。
どう転んだって丸く収まるとは思えない。
それに、松瀬くんは2人になんて言うつもりなんだろう。

(大変な事にならないといいんだけど…)

キィィィィー……

重い扉を開くと真っ白な世界が眼前に広がった。
肌を斬り付けるような冷たい風に、一瞬思考を奪われる。
だが一瞬。三綾と聖を視界に捉えると、また緊張と不安が戻ってきた。
でも、もう迷ってなんていられない。終わりにするんだ。
ふぅ……っと胸に手を当てて呼吸を整えた。

「三綾ー!聖ー!」
「あ、緒土!?」
「松瀬……」

聖と三綾は呆気に取られているが、そんな事は気にせずに2人の所へ歩いていく。
いや、気にしないんじゃない。気に掛ける余裕も無いんだ。もう心臓が破裂してしまいそうだ。
一歩踏み出すたびに2人の顔がはっきり見えてくる。不安そうな顔。

「話がある」

その音は、自分の声とは思えないくらい弱々しかった。
震えているのは声だけじゃない。膝も。手も。恐怖で全身が震えている。

「私…?それとも聖ちゃん…?」
「いや、2人ともだ」

それでも態度だけは凛然を保つ。
次の言葉を発した瞬間、ここは俺の人生で最初で最後の修羅場と化すだろう。
しかしもう後は野となれ山となれ。ヤケクソだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
どうせ、初めに戻るだけなんだ。元居た所に帰るだけなんだ。独りに―――

「2人とも俺と付き合ってくれ!」

俺のでかい声だけが12月の空に響き渡った。

・・・

この馬鹿は何を言ってるんだ。「二股掛けられてくれ」とあたしに言っている。
正気の沙汰じゃない。空前絶後、史上最低最悪の男だ。
ボコボコにされても…いや、殺されても文句を言えないようなことを口にしたのだ。
何を考えてんだか…そんなこと承知するはず無いじゃない。

「そんなの…そんなの駄目に決まってるでしょ!?」
「松瀬…本気で言ってるの…?」

緒土が頷く。

(こいつは…この馬鹿…!!)

「アンタ何考えてんのよ!?ふざけてんの!?」
「真面目だ」

大きく腕を振りかぶる。抑えられない。
1発…いや、100発でも200発でも―――

「馬鹿はすぐに感情的になるから手に負えんな!」

という声に反応してあたしは手を静止した。声の発信源を探る。
屋上の扉の陰から出てきたのは…あのチビ。

「な、なによ……アンタには関係ないでしょ!?」

チビはやれやれと顔を少し横に振ると、スタスタとあたし達の前まで歩いてきた。

「なんの用!?」
「キンキン怒鳴るな。喧しい」
「これが怒らずにいられるわけないでしょ!?」
「分かった分かった。少し落ち着いて私の話を聞け。緒土をひっぱたくのはそれからでも遅くないだろ」
「……」
「良し。では貴様らのような脳味噌の腐りきった馬鹿でも分かるように例を挙げてやろう」

そう言ってツンツン頭の女は静かに話し出した。
緒土も唖然としている。このチビの登場は緒土が仕組んだものというわけではないらしい。

「一夫多妻制という制度を知っているか?」
「それくらい知ってるけど…そんなの間違った制度でしょ」
「なら婚姻システムとしては一夫一妻に対して一夫多妻のほうが多数だという事は知っているか?」
「え…?」
「これは昔のデータだが、一夫一妻を採る社会が2割に対して一夫多妻を採っている社会は8割。
 お前達はこの国の社会通念に縛られていて多角的に物事を観る事ができていない。
 社会というモノが作り出す価値観を一方的に押し付けられ、それを盲信している状態だ」

たしかに言ってる事は間違っていないかも知れない。でも物の数なんて問題じゃないんだ。

「あたしは社会の奴隷じゃない!あたし自信の価値観で判断して、二股なんて駄目だって言ってんのよ!」
「ふん……おまえ自身の判断か。一番タチが悪い。貴様の価値観は滅茶苦茶だ」
「な…なんですってぇ!?」

二股なんて駄目に決まってる。当たり前だ。
仮に100歩譲って付き合ったとしても、もう一方の彼女に見つかったら―――
そう考えてから気付いた。
そうか、もう一方は俣奈なのよね…。
で、俣奈も同じように二股掛けられてることを知っている。
つまり3人全員が公認の3角関係…?なんか頭がこんがらがってきた。

―――とにかくダメだ。

別の女と同時に付き合うだなんて冗談もいいとこ―――
そこでまた思い出す。もう一方は俣奈だということを。

「そもそも貴様が二股とかいう紛らわしい言葉を使うのが悪い。
 もっと物事の本質を捉えろ。いいか、人間関係とは相互の信頼というものがあって初めて成り立つ。
 その事を忘れるな。それは友達でも恋人でも同じ事。
 そこに信頼が無ければ一切の人間関係は成立しない」

("信頼"―――)

「逆に言えば、そこに信頼さえ存在していればどんな関係であってもそれは認められる」

あたしはその言葉を聞いて思った。自然に、感情としてその思いは湧いてきた。

俣奈なら―――信頼できる。

どこの馬の骨とも知れない女ならいざ知らず、俣奈だったら。
実を言うと凄く悩んでいた。俣奈が緒土のことを好きなのは薄々気付いていた。
俣奈は親友だし、これからもずっと友達でいたい。
でも緒土と付き合ってしまったらその関係も破綻してしまうかもしれない。
そう思うと気が気でなかった。
そして緒土。さっきはあまりにも突拍子のない発言に感情的になってしまったが、緒土は信頼できる人だ。
あたしが好きになった人なんだから。信頼できなくどうする。
そして2人とも信頼できるというのなら何を躊躇うことがある。

・・・

ずっと前から松瀬はおかしいと思ってた。どこか常識はずれなところがある。
でもこれほどとは思わなかった。
私と聖ちゃんの両方と付き合うと言っている。
そんなこと許されるはずがない。普通の女の子なら凄く怒ると思う。
いくら松瀬でもそれぐらい分かるはず。なのに何でこんなことを言うんだろう。
そう、普通なら怒る。でも私は……違った。

聖ちゃんなら―――私は構わない。
私と松瀬と聖ちゃん、3人で仲良くやっていけたらどんなに楽しいだろう。どんなに幸せだろう。
そんな幸せが他にあるだろうか?

いや―――無い。

「逆に言えば、そこに信頼さえ存在していればどんな関係であってもそれは認められる」

その言葉で蘇留ちゃんの話は終わった。
屋上に長い長い沈黙が訪れる。私は蘇留ちゃんの言った言葉を何度も反芻していた。
蘇留ちゃんの言葉で私の常識は簡単に崩れ去った。反論できなかった。
「人間関係は互いの信頼と言う一点のみに支えられて成り立っている」
私はあのクリスマスの日もそんな事を考えていたから。
そして考える。松瀬のことを。聖ちゃんのことを。私自身の気持ちを。
結論はすぐに出た。だって2人とも信頼できるのだから。迷う事なんて何もない。

「…俣奈」「聖ちゃん…」

互いの声が重なる。不思議と聖ちゃんが何を考えているのか私にはすぐにわかった。

蘇留は言った。『両方と付き合う』或いは『両方振る』って手がある、と。
後者しかないと思った。2人が俺に愛想を尽かせば済む話なんだ。
しかし、だからと言って2人を振るなんて事は俺には出来なかった。
―――好きだから。
自分の気持ちに嘘はつけなかった。
だから両方に付き合ってくれと言って、その結果振られる。それが最良だと思った。
そして、今日で2人との縁は切れる。
もう朝三綾の顔を見る事も無くなる。聖に封雷剣で斬られる事も無くなる。
廊下ですれ違っても他人顔。一緒に馬鹿な話をすることも、一緒にギルティをやる事も無くなる。
そう思うと怖くて仕方がなかった。せっかく友達ができたのに、また独りに戻るのが怖かった。

「じゃあ…その……」

聖と三綾は声を揃えて言った。

「よ、よろしくお願いします…」

何を言っているのか分からなかった。だから俺は「えっ」と、間の抜けた声を出してしまった。

「だ、だから…付き合うって…」
「え……?」

2人は照れくさそうに笑っていた。今までの俺の悩みを洗い流すような笑顔だった。

「だから…何度も言わせないでよ!つ、付き合ってあげるって言ってんのよっ!!」

次の瞬間、腹に懐かしい感覚を覚えた。思わず腰を折って膝を雪の上についてしまう。
この鈍い痛覚は…間違いない…リアル……バンカー……。

「松瀬、大丈夫…?」

三綾が横から顔を覗き込んでくる。
そうか…俺は大切な友達を失なわなかったのか…。
そう分かった瞬間、堰を切ったように涙が溢れてきた。それは安堵から出た涙だった。

・・・

「ちょ、ちょっと!泣く事無いでしょ!?そんなに痛かったの!?」
「ち、ちげーよ…」

そう言って松瀬が顔を上げる。

「お、俺っ……も、もうお前ら2人と…縁が切れちまうんじゃないかと思って…」

初めて松瀬の泣き顔を見た。すごく悩んだんだろう。悩まないわけが無い。
今になって分かる。松瀬は嫌われるのを覚悟で…いや、私達に嫌われるためにここへやって来たんだ。

「大丈夫だよ松瀬。私達なら3人でもきっと上手くいけるよ」
「そうそう。アンタは泣いてる暇なんてないんだからね」
「でも本当に上手くいけるかどうか……」
「まったく…貴様らしくもないな、緒土。常識に囚われるなと何度も言ってるだろう。
 上手くいくかどうかなんてのは、全てお前達次第だ。関係そのものの構造など問題ではない。
 人間関係そのものに"善"も"悪"も無い。あるのは"認める"か"認めない"か、それだけだ。
 確たる信頼があるなら必ず上手くいく。それとも信頼できないのか?この関係に不満があるのか?」

・・・

涙を拭う。
そう…俺はまだこうして2人と話していられる。
独りにならずに、また一緒にギルティができる。それもこれも全て―――

「そ……蘇留!!」
「なんだ?」
「あ…ありがとう!お前のおかげだ!!」

「そこに信頼があればどんな関係でも認められる」その言葉で俺は救われた気がした。
紙野 蘇留……妬けてしまうくらい格好いい。奇抜で大胆で、しかし美しい発想。
俺はそんな蘇留に憧れすら覚えた。

・・・

「まぁこれで一件落着というわけだな。私は暇じゃないんだ。もう帰るぞ」

あたし…馬鹿だ。今まで蘇留の事を嫌っていたりして…蘇留の事を誤解していた。
ちゃんと謝らないと。お礼も言わないと…!

「あ、あの…そ……蘇…」
「ああ、そう言えば1つ言い忘れていた。おい金髪!」
「えっ…」
「よくも弓太を蹴落としてくれたな。
 貴様は闘劇予選で血祭りにあげてやるから覚悟しておけ」

そう言って、校舎に入っていった。
やっぱりあいつと仲良くなるのは無理らしい。
あいつが言ってたじゃないか。互いの信頼が無ければ成り立たない、と。

「あのチビィーーーッ!!!!」
「ひ、聖ちゃん……怖い……」