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「皆様、残念ですが本日も残すところ後一試合となりました!!
 最後の対戦カードは松瀬 緒土vs三綾 俣奈の同キャラフォモ対決!!
 ただいま松瀬 緒土が2.0倍!三綾 俣奈は1.9倍です!!さぁ張った張ったぁ!!!!」

「私は松瀬くんに1000円賭けるわ!」「オレは三綾さんに2000円!」そんな声が所々からあがる。
試合も最後になったせいか、賭けの金額が軒並み上がっている。
流石に永園みたいに1万円も賭けるような猛者はいないようだが。

(俺も景気付けに自分に賭けてみようかな…)

ポケットから財布を取り出す。

(……50円玉しか入ってねぇ……)

「では松瀬 緒土、三綾 俣奈、前へ」

ギルヲタ丸出し財布をポケットにねじ込み、椅子から立ち上がる。

「マッセェェェェェ!!!!!!フォモ魂見せろやあああああああああああああ!!!!!!!」
「三綾ちゃーん!!!変態なんかに負けないでーーーーーー!!!!」

くそっ…俺はノーマルだっての…調子狂うぜ。
それにしてもこの歓声…結構緊張するな…闘劇に出たらもっと凄いんだろうな…。
こんなに声援を送られるなんて生まれて初めての事かもしれない。

「みあやさーーーん!!!!好きだああああ!!!付き合ってくれえええええ!!!」

どさくさに紛れて愛の告白をしてる奴までいる。もう完全にお祭り状態だ。
三綾は引きつった笑顔で「ごめんなさぁい」とか言ってる。話だけでも聞いてやればいいのに。

「愛してます兄貴ィィィィィィィィ!!!!」
「だああああ!!お前は黙ってろ!!」

さっきまで号泣してたのに……吸血ループを抜けられるくらい早い立ち直りだ。

「ゴホン……あー、ではこれより最終テストを開始する」

キャラクターセレクトの画面になる。2つのカーソルが何の迷いも無く同じ場所へ向かう。

―――ガコーン

画面が切り替わる。
俺はDカラー(青い髪と黒い服)のヴェノム。
三綾はSTカラー(黒い髪に赤い服)のヴェノムだった。

心臓が早鐘のように胸を打つ。呼吸が乱れる。指先が震える。見慣れているはずの画面が大きく見える。
いまだかつてこれほど緊張したことがあっただろうか。
今にも心臓が肋骨を突き破って胸から飛び出すんじゃないかとさえ思わせる。

(……落ち着け……)

ここで負けたら全て終わりなんだ。今までの努力も全部水の泡。そんな事、俺は受け入れない。だから勝つ。
しかし相手は三綾。正直言って闘いにくい。もし俺が勝てば、三綾は闘劇へ行く夢を断念せざるを得ない…。


"君もギル校生?"


あの日―――桜が舞う4月。
振り向けば真新しい制服に身を包んだ女子生徒がいた。手を胸元で組み、ぎこちない笑顔を俺に向けていた。
目を閉じれば、あの日が昨日の事のように鮮やかに蘇る。
お前は初めての友であり、ライバルであり―――俺にとって欠けがえの無い人だ。
初めて会った時から俺は助けられっぱなしだった。ろくに恩返しも出来なかった。
もしお前がいなかったら…お前があの時俺に話し掛けてくれなかったら…きっと俺はつまらない1年間を過ごす事になっていただろう。
そんなお前と闘うのも恩を仇で返すようで気が引ける。
全く……皮肉なもんだ。同じキャラを使っていたばっかりに、こんな結果になってしまった。
でも俺は本気で闘う。手加減なんてしない。
それがせめてもの礼儀だと思っている。ライバルとしてのお前への。


だから俺は、全力でお前の夢を叩き潰す。


『そこを退いてくれないか…』

・・・

        ―――えっと…とりあえず笑顔で……さり気なく―――

目を閉じて思い出を遡る。
あの日の事を思い出すと不思議と心が落ち着く。
私も中学の頃は名前の事でよく馬鹿にされた。だから高校では楽しい3年間を過ごしたいと思っていた。
だから彼に声をかけた。ぼんやりと空に舞う桜を見て「妖斬扇…」と呟いた男の子。
彼は知っているだろうか。あの時、私が一体どれほどの勇気を振り絞って声を掛けたのかを。

"君もギル校生?"

彼は私をひと睨みして言った。

"女もいるのか…意外だな…"

(うわぁ…なんか目つき怖いなぁこの人……変な人に声掛けちゃったかな…)

その瞬間から私の人生は回りだしたような気がした。

"使用キャラは?"
"フォモ"
"マジか。俺もだ"

皆とギルティして、松瀬を毎朝起こして、いつも遅刻しそうになって走って―――

"フルネームで呼ぶのは止めて欲しいな…"
"じゃあ『瞬間移動』でいいか"
"良くないよ!!"

冗談を言い合ったり、しょうもない会話で盛り上がったり盛り下がったり、毎日がすごく楽しかった。
今も時々思う。あの時勇気を出して松瀬に声をかけて良かったなぁって。
松瀬は私のことをどう思ってるんだろう。
そして私にとって松瀬はどんな人なんだろう。友達?ライバル?いや……もっと特別な―――


『やむを得んか……』


そう…いつかは必ず通る道だったんだ。それは会った時から分かっていた。
私は松瀬を倒さなければいけない。それは松瀬の闘劇へ行く夢を絶つという事に他ならない。
あの時松瀬と会っていなかったら何も気にせずに闘えたのかな……なんてことを考えたこともあった。
でも手加減なんて馬鹿な真似をする気は無い。
私も闘劇に行きたい。負けるわけにはいかないんだ。


目を開いて筐体の画面を見据える。全ての雑念を振り払い、レバーを握る手に力を込めた。


『へヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

『ふっ』『甘い』

開幕は両者バクステ。2人の最後の闘いが静かに幕を開けた。

『ふんっ』『カウンタ!』

バクステ直後の三綾の生成にダッシュ遠Sを刺し込む。お互いを知り尽くしたもの同士の闘い。
如何に相手の予想を裏切るかが勝負の鍵。三綾の防御は鉄壁。僅かな隙も見逃せない。

遠SをK生成でキャンセル。すぐにダッシュJK打ちで飛び込む。

―――ギンッ!

Kボールをガードさせる。
良し…このまま一気に突っ込む…!

『行くぞ』

空中ダッシュからのJS>Sストを難なくガードされる。
だがまだF的に有利…ここは強気に仕掛ける!

『行くぞ』

―――バシッ!

ダストモーションを見てからの的確な足払い割り込み。やはりこいつの防御精度は異常だ…。
攻守一転。S生成からの起き攻めが来る。

―――ドドッ!

(くそ…中段か…!)

JSからのSストに当たる。続けて近S>Sカーカス>2K>足払いのコンボ。

キャンセルS生成から再び起き攻め。

―――ビシ!

次は下段…まさか癖でも見切られているのか?あまりに的確だ。
2K>近S>Sカーカス>2K>近S>デュービスのコンボ。
相手のTGが溜まってきている。このまま起き攻めされるのはマズイ。

『ファールを犯したな!』

ボール生成にバーストを合わせて弾き飛ばす。
三綾 俣奈に固めは有効ではない。
上手く立ち回ってシューティングから地道に体力を削っていった方が勝機があるな…。

『マッセ!』


・・・

シューティングモードに移行される。こちらもシューティングで対抗するしかない。

『カーカスライド!』

生成、カーカス、スティンガーをフル活用して次々にボールを弾き出していく。
弾き出されてはぶつかり合って消滅し、また生成され、再び射出されては消えていく。
互いに一歩も引かないボールの撃ち合い。
1度でもボールの撃ち出しを間違えれば一気に状況は不利になる。
その美しいボール捌きとは対照的に、神経を削るような緊迫感が襲ってくる。

『ダブルヘッドモービット!!』

(―――!)

均衡を破ったのは松瀬だった。私が地上の弾幕を少し疎かにしたのを彼は見過ごさなかった。
スティンガーを2HITまで溜めて発射、FRC、そして間髪いれずにHSモービットで突撃してきた。

『驚いたな』『すまんな』

受身を空中投げされる。低空だったせいで追撃も入ってしまう。近SからHSマッドストラグル。
起き攻めだ。でもガードには絶対の自信がある。そう簡単には崩されない…!

『SHOT!マッセ!行くぞ!』

「うおおおお!?し、白いッ!?」

ギャラリーが色めき立つ。
それもその筈、三綾は信じられないことに俺の攻撃の殆どを直前ガードしている。凄まじい精度だ。
しかし直ガばっかりしていたらGBの上昇も早めてしまう。
よっぽどガードに自信があるのか……俺の攻撃なんかでは崩れない、そう言いたいのかお前は…!

『それで終わりか』

少しでも気を抜けばすぐに足払いで割り込んでやると言わんばかりに直前ガードをしまくってくる。

畜生…っ!なんなんだよこのプレッシャーは…!
これじゃあどっちが攻められてんのか分かんねぇ…さっさと崩さないと…!!

『SHOT! ロマンティーック 行くぞ』

ステ青からスライドストラグル。

―――キィィィン……

『覚悟を決めろ』

(なっ……!?)

『ダークエンジェル!!』

過剰とも思える直前ガードの連発。そのおかげでTGも一気に溜まってしまったらしい。
スラストを無敵で避けられ、こちらの着地硬直にダークエンジェルがヒットする。
ダークエンジェルは出始めに無敵が無い。それなのに割り込みで使ってくるなんて……なんて反応だ……。

『死角を取ったぞ』

画面端に到達してデュービスカーブからのPK陣2個起き攻め。残り体力は3割強。
ダッシュJK弾きから起き攻めが来る。

(ここをなんとか凌がないと…!)


・・・


―――バシッ!

JK弾きからの中段、空中ダッシュJSを当てた。
JHS>近S>Sカーカス>2K>近S>デュービスまで繋ぐ。
再びPK陣、ダッシュJK弾きから起き攻め。
敵の体力はもう2割を切っている。TGは40%程度。こちらはもうすぐ50%に達しようとしている。
このまま画面端から逃がさない。ここで仕留める。

『すまんな』

JK弾きから着地してすぐに投げる。どうやら投げに弱いのは相変わらずらしい。
近S>HSストラグルでダウンを奪う。相手の残り体力は数ドット。

―――キィィィン……

『覚悟を決めろ』

画面が暗転する。何千発と撃ってきた闇天使。削りダメージは頭に入っている。
この状態でガードしたら間違いなく死ぬ。FDを張るしかない。
だがそれも闇天使と同時に攻撃すればTGも空に出来る。あとは適当に固めて、削って倒せばいい。
相手のバーストも溜まってない。

(…これで私の勝ち……)


・・・


ダークエンジェル……何百、何千と撃ってきたダークエンジェル。
ガードしたらも死ぬ。FDを張ってもその後の攻撃で殺られる。
どうする……どうやってこの状況を打開すればいい……。

ここで負けるのか?ここで死ぬのか―――

『ダークエンジェル!!』

―――ギギギギ……

ダメだ……こんな所で死ねるかぁぁぁ!!!

―――ギギギギギギギギギギギギン……キィンッ

気付いたら吹っ飛ばされていた。
一瞬何が起きたのか分からなかった。全く予期していなかった。
松瀬は体力が尽きるギリギリまでダークエンジェルを直ガして、スラストで削ろうとした私にDAAを当てたんだ。
そう理解した時には松瀬はすでに2個ボールを生成していた。P、Sの2個のボール。

どうする?
逃げる?
否。
不利。
迎撃?
無理。
―――生成。

『SHOT!!』

(しまっ―――)

『ロマンティーック』

ダッシュHSステ青をボール生成に合わせられる。ボールが3つ並んで飛んでくる。
3発全てに被弾し、続けて本体の低空ダッシュJK>JS>近S>HSデュビ。
最高のぶっぱステ青だった。
さらにHS、K陣>スラスト弾きからの高速2択起き攻め。

『行くぞ』

スラストで弾いたボールを立ちガードする。ここから高速2択が来る。

―――ビシッ!

2K……下段…。

『デュービスカーブ!』

2K>近S>Sカーカス>2K>近S>HSデュビ。
松瀬の18番……硬直中に食らい判定が変わらない事を応用した高速2択。流石に私でも見えない。
残り体力も約3割……早く……早く切り返さないと……!!

『ファールを犯したな!!』『そこではない』

(しまった…読まれた!?)

バーストを瞬間移動で回避され、JHSで地面に叩き付けられる。
今度はボール一個の起き攻めが来る。だがF式に比べれば大したことない。

『すまんな』

(あ……!?)

中央に向かって投げられる。そのまま弾き出されてP、HS生成。投げからのF式が来る。
私が対応できない高速2択で勝負を決めるつもりだ。

『そこではない』

―――グシャアッ!

(えっ……JHS?しまった……F式を警戒しすぎてた…!!)

そのままコンボを叩き込まれる。
マズい……このコンボで体力が尽きるかどうか……。

『ダブルヘッドモービット!!』

(お願い……耐えて……!)

『驚いたな』

・・・

(しまった…!?まだ数ドット残ってる…仕留めきれてない!)

三綾が受身を取る。
近距離。
互いにボールは無い。
TGも無ければバーストも無い。
体力は両者残り数ドット。


―――最後の勝負。


『ダブルヘッドモービット!!』『ダブルヘッドモービット!!』

『ここが…墓場になるとは…!』

あたしはその音声を聞いて跳び起きた。
その言葉が意味するのは試合の終り。2人の決着がついたんだ。
教室は不気味に静まり返っている。さっきまでの宴が嘘のようだ。

「…どっちが勝ったの!?」

すぐ近くに突っ立ている永園に声を掛けた。だが永園は目を見開いて硬直しているだけで何も言わない。

「ねぇっ!聞いてんの!?」

永園は反応しない。じれったくなって急いで筐体へ向かう。
筐体の周りには生徒達が群がっており画面が全く見えない。

「ちょっと……退いてよっ…!」

群衆をかき分けて前へ進む。画面には2人のヴェノム。
1人は地面に倒れ、もう1人は誇らしげに立っていた。
黒いヴェノムだった。

『ゲームセットだ』

「そこまで!勝者、松瀬 緒土!!」

・・・

私……負けたんだ…。
今まで一生懸命頑張ってきたのに。ギル高に入学してからずっと。闘劇に出る為に毎日練習してたのに。
ああ、私の夢は終わったんだ。
そう思うと涙がとめどなく溢れてくる。泣いちゃだめなのに……人前で子供みたいに泣いて……馬鹿みたい。

でも―――嫌な気分はしない。
負けたのは私の実力不足。また頑張ればいいんだよ。
いっぱい練習して、今度は松瀬より強くなって、来年……ううん、再来年でもいい。
闘劇に出るんだ。まだチャンスはあるんだ。私の夢は終わってないんだ。
いつまでも落ち込んでいないで立ち上がれ、三綾 俣奈。

・・・

歓声が爆発したのはその直後だった。

「ぃぃぃよっしゃああああああああああああ!!!!!!!アンタ漢だぜマッセえええええ!!!!」
「み、みあやさん………そんな…うそだああああああああああああああああ!!!」
「やったあ!これで今月は安泰ねっ!!」
「そんなぁ~…お小遣い貰ったばっかりなのに……」

割れんばかりの大歓声。半分は絶望し、半分は歓喜している。
教室内は暴れ狂う生徒達で滅茶苦茶な状態だった。

「松瀬くんやったね!おめでとう!」
「うおおおおおおお兄貴ィィィィ!!!涙が止まりませええええん!!!!!!!!」
「お、おう……ありがとうお前ら…」

紙野と郁瀬から祝福される。でもなんだか素直に喜べない。
俺は勝った……ってことは三綾は―――

「松瀬……」

気付いたら三綾が隣に来ていた。声が滅茶苦茶暗い。
俯いているせいで表情も全く分からない。だが、少なくとも笑顔ではないという事はわかる。

「み、三綾…お前…」
「……おめでとう」

震える声でそう言うと、三綾はぽろぽろと大粒の涙を落とした。

「う……ぐすっ……」
「ば、ちょっ…おま……泣くなって!」

だらしない声を漏らしながらぐすぐすと鼻を鳴らす三綾。

「だ、だって…っ…!あぅ…っ…ひっく…」

ああああああああどうすりゃいいんだ!?慰めてやった方がいいのか!?
でもこう言う場合どんな言葉を掛けてやればいいんだ!?
「気にするな」とか……?いやそんなんじゃダメだ!
じゃあ「来年がんばれ」とか?……これもダメだ!!

「と、とにかく落ち着くんだ、な?」

「だ、だってぅ…っ…ふぇ…わたし……マッ……セ…っ…が…」

嗚咽と鼻をすする音で何を言ってるのかさっぱり分からない。
今はクラスメイトたちも興奮して騒ぎまくっているが、騒ぎが収まればそのうち見つかってしまう。
くそ…こんなんじゃ俺が泣かしてるみたいじゃないか…

(いや、俺が泣かしてるのか…? そうだ…俺が泣かしてるんだよな……)

「すまん三綾……」

頭を下げて顔を覗き込む。

「わっ!……み、見ないでよぅ…」

でもすぐにぷいっと横を向かれる。

「べつ…に…謝る……ひっく……事なんて……ぐすっ……ないよ…」
「でも泣いてるじゃねぇか…」
「ぐすっ……大丈夫……。これは、私が弱かったせいだから…松瀬のせいじゃないよ…」

そう言って目をこする三綾。そうだ。こいつは外見に似合わずしっかりしていてストイックなヤツだ。
三綾は自分の弱さを嘆いて涙を流しているんだ。

(熱いヤツだ……GGプレイヤーの鑑だよ、お前は)

「ひっく……でも…今はもう…ちょっと…泣かせて……」

そう言って三綾はまた泣き出した。ほんの2、3分。でも俺にはとても長い時間に思えた。

・・・

「で……なんでお前が泣いてるんだ」

席に戻ると目にいっぱい涙を溜めている聖がいた。

「な、涙じゃないわよ……汗よ……!!」
「どう見ても涙だろ」
「ちょっ、み、見ないでよッ!!」
「ぐほっ!」

ボディにリアルパイルをもらう。あまりの激痛に膝を床につく。

「…おめでとうの一言も無いんですか…」
「永園にでも言ってもらえば」

そう言って聖は三綾のところまで駆けて行った。きっと三綾が心配なんだろう。
三綾ならすぐに立ち直るだろうけど、流石に今は元気が無い。聖なら自然に元気付けてやれるだろう。
それにしても永園か……まぁアイツは祝福なんて絶対しないだろう。
要らぬ期待なんてせずに今は腹の痛みを何とかしないとな。
…っつーか結局何がしたかったんだアイツは…俺にパイルを食らわせに来ただけか?

「おいマッセ……」

と思ったらすぐ目の前に永園が立っていた。
いつの間に近付いてきたのだろう。と言うか、なんで俺に声を掛けるんだ?
も、もしかして祝ってくれるのか……!?あの永園が!?やべぇ!なんか緊張する!?

「ブッ殺す」
「…………」

鬼のような形相をしで指をポキポキ鳴らす永園。

「あ、あのー…どうして怒っておられるのでしょうか…?」
「てめェのせいでオレの2万5千がパァだ。どうしてくれる」

どうやら有り金を全て三綾に賭けていたらしい。松瀬 緒土、人生最大の危機。
永園の目は本気だ。マジで殺されてしまう。

「よーしお前ら静まれー!」

その時雁田の声が教室に響き渡った。
どうやらギリギリのところで難を逃れたらしい。永園はチッと舌打ちをすると自分の席に帰って行った。

「あー、これでようやく我がE組の代表メンバーが決まったわけだが…。
 代表を逃した奴らも落ち込むなよ。今年は無理でも来年があるんだ。
 これまで通り授業に出て己に磨きをかけてもらいたい。
 もちろん江辻、永園、松瀬の3名はこれからビシビシ鍛えてやるから覚悟しておけ。
 他の奴らもなるべくこの3人を助けてやってくれ。以上だ」

この日はそれで終った。兎にも角にも代表3名は選出された。
でもこれでもうテストは無いし、しばらくの間まったり学校生活が送れそうだ。

私がいなかったら松瀬は何時に起床して学校へ行くのだろう。
もしかして私が起こさなかったら一生起きないんじゃないか……そんな事考えながら松瀬の寝顔を見下ろす。

「松瀬ー…起きてよー…」

つんつんとほっぺたを人差し指でつつく。
当然こんなやり方で起きるはずもなく、すーすーとゆっくりしたリズムで寝息を立てている。
寝顔がかわいい。こんなに気持ち良さそうに寝ているのを見ると、なんだか起こすのが可哀相になってくる。

「けっこう綺麗な顔してるんだよね…」

でもこれと言って特徴の無い顔だ。
鼻は高くも無く低くも無く、目は奥二重でちょっとだけ大きい。意外と長い睫毛が綺麗だ。
顎のラインも細いし、顔の各パーツは整っていてバランスがいい。
女装でもさせたら意外といい線行くんじゃないかなぁ。髪をもうちょっと伸ばして……

・・・

「なんで寝てたんだよ!?」
「つ、つい……」

パタパタと地面を蹴りながら学校へ向かう。
目覚めた時は午前10時を過ぎていた。隣に目をやると三綾がすやすやと眠っていた。

「『つい…』って……人を起こしにきて自分が寝ちまうなんて聞いたことないぞ」
「だって…」
「だって?」
「な……なんでもない!」
「?」

テストが終わってから2週間ほど経って12月になった。
緑でいっぱいだった並木道もすっかり姿を変えてしまっている。
日が落ちるのも早くなったし、なにより手が冷たくなってレバーの動きが悪くなってしまうのが問題だ。
コートとマフラーを装備してもまだ寒い。俺も三綾みたいに手袋でも買おうかな……。

「それより!松瀬がちゃんと起きれば全部丸く収まるんだよ!」
「なに怒ってんだよ」
「怒ってないもん!!」

最近、何故か三綾が妙に馴れ馴れしい。
いや、馴れ馴れしいって言うか……なんて言ったらいいんだろう。
「遠慮が無くなった」ってのが表現としては近いか。今にも下の名前で呼んできそうな感じだ。
元々そういう性格だというのは分かってたけど、あのテストの日を境にそれがより強くなった感じがする。
俺に負けて落ち込むだろうと思ったが、むしろ元気いっぱい。
まるで長年の持病が治り、気に病む事は何も無いといった感じ。
晴れ晴れしくて健やかで、羨ましいくらいだ。

…幸いにも学校についたのは休み時間だった。だが教室に入ると早速雁田に呼び止められてしまった。

「なんで遅刻したんだ」
「あの……妹が病気になってしまって……」

パチーン!

と頬を強かに打たれた。雁田もけっこうノリがいい。
でも想像したよりも大分痛い。自分の軽はずみなボケを後悔する。

「それより、昨日も言ったと思うが特訓メニューが決まった」
「なんすか?」

・・・

「特訓なら私が付き合うよ」
「お前Dループなんて出来るのか?」
「練習する」

一体何が三綾にこんなエネルギーを与えているのだろう。
ソル使いなんてこのクラスにもいるんだし、わざわざDループまで覚えて付き合ってくれなくてもいいのに。
きっと声をかければ1人くらいは練習に付き合ってくれるだろう。
最悪、郁瀬に頼めばいい。あいつは蘇留にもDループを教えていたし、ちゃんと使えるはずだ。

「なんか無理してないか?」
「無理なんかしてないよ。私がやりたいだけだから」
「……お前さぁ、なんか無駄にバイタリティー溢れてるよな、最近」
「そうかな」
「なんかいい事でもあったのか?」
「ん?別に無いと思うけど…」

少なくとも俺の耳には悪い知らせばっかり入ってくる。
闘劇予選を間近に控えて精神的にキツイし、雁田から普通の練習とは別に特訓を与えられる。
しかも冬休みは遅く、クリスマスイヴも学校に来なきゃいけない(クリスマスは日曜日だったけど)
でもまぁ……我らギルヲタにとってはクリスマスもバレンタインも関係ない。
俺なんて未だにクリスマスが24日だったか25日だったかハッキリしないくらいだ。
やっぱ三綾みたいな奴でもクリスマスって楽しみなんだろうか……。

それからさらに数日が経過した。

『フッ、オオウ!!イタダキー!!イタダキー!!イタダキー!!イタダキー!!イタダキー!!イタダキー!!』

「くっ……しまった……」

テストも終了し、当分は普通の高校生らしくだら~っとした生活が送れると思ったのに、いきなりの特訓で全然休めない。
でも当然と言えば当然だ。俺たちはクラスの代表なんだから。
散っていったクラスメイト達のためにも、無様な試合なんて絶対にしてはならない。
そんなこんなで練習を重ねる日々が続き、12月も半ばを過ぎて本格的に寒くなってきた。
雁田から俺に与えられた特訓メニューは『投げの克服』だった。
以前からずっと言われ続けていた事だけど、
俺は固められたりした時すぐに保身に走ってガードを固めてしまう癖がある。
これは大きな障害になるので早めに克服しなければならない、と言うのが雁田の意見。
そして考案されたのが「vsソル100本勝負」だった。
打撃、投げのどちらも優秀という事でソルが選ばれた。
もちろんただの対戦じゃない。俺が許可されている行動はガード、ジャンプ、暴れの3つのみ。
この3つの行動でひたすらソルの猛攻を捌き続けるわけだ。

「もっと良く見なきゃ駄目よ。今の間合いなら投げ返せたはずよ」

聖の叱咤が飛ぶ。しかし俺はまだ楽な方だ。
聖は精神面が不安定(キレやすい)との評価を下され、雁田との100本勝負を行うことになった。
偶然にも聖の相手もソル。特に聖は"ソル"に並々ならぬ敵対心を持っているので好都合だった。
もちろんこっちも普通の対戦じゃない。
聖は普通に戦っていいが、対する雁田はそれはもう厨房の如くVVをぶっぱなしまくる。
神経を逆撫でするような闘いが繰り広げられ、見ているこっちまでモヤモヤした気分になる。
今では大分マシになったけど、当初の聖は何度もキレてダッシュSVTをぶっぱなしていた。
まぁ挑発、敬意、一撃をしまくったり開幕金バ>ドライン>挑発のコンボなんてする雁田も雁田なんだけど。

「……ちょっと休憩しようぜ」
「そうだね。休もっか」

そしてそんな俺の特訓に付き合ってくれているのが三綾。
わざわざDループまで会得して一緒に頑張ってくれている。
と言ってもDループなんて1日もあれば余裕で習得できるんだけど。
ちなみに永園にもちゃんと特訓の課題は出されているのだが……あの性格。
真面目に学校に来て練習なんてするはずもなく、紙野を連れまわしてゲーセンに入り浸っているらしい。
しかし雁田もある程度予測していたらしく、あまり気にかけている様子はない。
「あいつなら放っといても練習するだろう」とか言っていた。
確かにああ見えて永園は努力家だし大丈夫だろう。
郁瀬は郁瀬で蘇留に引きずり回される毎日を送っている。
でもようやく恋人同士という関係が板についてきたように見える。私的にはめでたい事だ。

「あたしもちょっと休もうかな…」
「そうか。じゃあ今日はこれまでだな。お前らもあんまり遅くまで学校にいるんじゃないぞ」

雁田はそう言うと筐体の電源を落とし、教室を出て行った。

一転して教室に静寂が訪れる。ビュウビュウと言う風の吹く音だけが耳に入ってくる。
窓の外に目をやると、まだ7時だというのに外は真っ暗だった。
教室は暖房が効いてるから暖かいけど、これからこの寒い中を歩いて帰るのかと思うとテンションが下がる。

「闘劇予選までもうすぐだね」
「そうね……あたしたちって強くなってんのかな」

流石に大舞台を控えてか、聖も時々疲れたような顔をすることが多くなった。

「大丈夫だよ。2人ともこんなに練習してるんだもん」

だから三綾の存在はありがたいものだった。こいつの無駄な元気に何度も助けられた。

「そうだといいんだけどね……へ……ふぇ……」
「『ふぇ』?」
「ふぇ……っくしゅん!」

聖らしからぬ、なんだか可愛いくしゃみだった。
もっと男みたいに豪快にくしゃみをするものと思っていたのに。
「ぶるぁっくしょい!!」みたいな。

「聖ちゃん大丈夫?」
「うー…大丈夫…」
「マジかよ。鼻たれてるぞ」
「えっ!?」

目を丸くして慌てて鼻を触る聖。当然鼻水なんて垂れてない。

「嘘だ」
「斬ッ!」

っと気合いを入れて放った封雷剣もなんだか弱々しい。
寸でのところで剣を回避する。聖の攻撃を避けたのはこれが初めてかも知れない。

「おいおい……ほんとに大丈夫か?体調には気を付けろよ。大事な時期なんだから」
「わ、分かってるわよ…」
「聖ちゃんも本調子じゃないみたいだし、今日はもう帰ろっか」
「そうだな」

電気を消して教室を出る。電気代節約の為か、廊下に明かりはついてない。
この学校の電気代高そうだもんな…。

「う~寒ぅ……」

聖が身震いする。確かに寒いけど……そんなに震えるほどか?こいつ寒いのが苦手なんだろうか。

「マフラー貸してやろうか?」
「えっ!?べ、別にいいわよ!!」

こいつ本当に大丈夫か?声も震えてるし、気のせいか顔もほんのり赤い。
もしかして既に風邪ひいちまってるんじゃ…?

「ほらほら2人とも、は~ってやると息が白くなるよ」

三綾は1人楽しそうに白い息をはいている。小学生じゃあるまいし……。
……なんかこいつを見てるといじめたくなる。なんでだろう。

「うわっ!お前の口臭くせぇな!!たまらんぜこいつはよォ!!」
「えぇっ!?うそっ!?」
「まぁ口の匂いなんて自分じゃ分からんからな…。無理もない」
「そ、そんなぁ…聖ちゃん…そんなにくさいかな…」
「俣奈……嘘よ」
「バ…!おい聖!なんて事を言うんだ!
 そんな事言ったら三綾は一生口のクサイ女として生きるんだぞ!?
 今ここで治してやらないと!!いいか聖、下手な優しさってのは時に人を駄目にす……」
「斬ッ!!」
「ギャー!」

そんな馬鹿な掛け合いをしながら俺達は学校を出た。

「じゃあね聖ちゃん、松瀬」
「おう」
「じゃあね俣奈」

帰り道の途中で三綾と別れる。そう言えば聖の家は知ってるけど三綾の家は知らない。
意外とお嬢様だったりなんかして…。
あり得ないか…。

「なにやってんの?早く帰ろ」
「ん?ああ。分かってる」

それから真っ暗な夜道を2人で帰った。聖は何度もくしゃみをしていた。
やっぱりこいつ風邪ひいちまってるんじゃないのか……?

「あ、俺こっちだから。じゃあな」
「あ……」
「ん?」
「ちょ、ちょっとそこまで付き合って…」

と半ば強引に腕を引っ張って行かれる。

「わ、なんだよ?」
「いいから」

付き合えって…どこに行く気なんだ?方向としては聖の家に向かっているようだが…。

「なぁ、どこ行くんだ?」
「いいから付いて来て、お願い」

そのままズルズルと引っ張っていかれる。
やはり自宅へ向かっているのは間違いないようだ。もしかして家でメシでもご馳走してくれるとか…?
…違うよな。そんな事をする理由がないし、もしそうならちゃんと言うはず。
じゃあなんだ?もしかしてこれからシバかれるとか?
ストレス発散の道具か俺は!?
そうか…日々の特訓に精神が参ってしまい、聖が本来内包している破壊衝動が理性という名の鎖を断ち切っ

「付き合ってくれてありがと」

(あ…え?あれ…?)

気が付くと聖の家の前まで来ていた。
付き合うって……家までかよ。一体何がしたかったんだ……。

(…そういえば……)

夏の修学旅行のことを思い出す。

(もしかして……一人で帰るのが怖かったとか……?)

お化け屋敷での聖の怖がりっぷりは常軌を逸していた。
まさか…いや、でもあり得なくは無い…そう思うとなんだか頬が緩む。
「『夜道が怖いから付いて来て』なんて言えない」そう考えて「ちょっと付き合って」と言ったのだろう。
こいつも結構かわいい所あるんだなぁ。

「なにニヤニヤしてんのよ…不気味ね…」
「別に何でもねーよ。じゃあ俺は帰るからな」
「うん」

12月23日、クリスマスイヴ前日の出来事だった。

翌日の12月24日、聖は見事に風邪をひいて学校を休んだ。
電話を掛けてみたが、聖曰く「体がだるくて咳も酷い」らしい。
完全に回復するには多分2、3日は掛かると言っていた。
あいつ毎日遅くまでギルティの練習していたし、結構無理してたんだな…。

「今日土曜日だし、学校終わったらお見舞い行こっか」
「そうだな」
「あ、でも聖ちゃんの家どこか知らないや……」
「俺が知ってる」
「行ったことあるの?」
「一回だけな」
「ふーん……」

・・・

「ほら聖、お粥作ったぞ。食べられるか?」
「へぇー、緒土って料理なんて出来たんだ。意外ね」
「何言ってんだよ。お前の為なら料理でもなんでもやってやるぜ」
「な、あ…えぇっ!?」
「聖は照れた顔もかわいいな」

そう言ってお粥をスプーンで掬い、口元まで持ってくる。

(なっ、こ、こいつ何言ってんの!?何やってんの!?馬鹿じゃないの!?)

「ほら、あ~ん」

(馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!?)

でもちょっと嬉し………って 違 う ッ ! !
なにかおかしい!!なんなのよこれ!?

「食べたくないのか?仕方ないな……じゃあ口移しで……」


―――がばっ!!


っと跳ね起きるとそこは自分の部屋のベッドの上だった。

(夢か……なんてアホな夢を見てるんだあたしは……)

軽い自己嫌悪に陥る。きっと疲れているんだ。
クリスマスイヴ、クリスマスの2日をベッドで過ごす事になるなんて…今年は楽しみにしてたんだけどなぁ…。
時計を見ると午後1時を回っていた。もう学校は終わっている時間。
ちょっとお腹すいたな……暇だし…。学校なんて休んだって嬉しいのはせいぜい午前中くらい。
お昼になるとどうしようもなく暇になる。
ゲームでもしようかな……さすがにギルティは1人でやってもつまんないし。
たしかクリアできなくて放置していたRPGとかあったはず。気分転換にやろう。

 "入滅第3波動/HPを1にする"

「どうやって勝てって言うのよ……やっぱり他のやろう」

・・・

『闇の深淵にて重苦にもがき蠢く雷よ、彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!グラビティ・ブレス!!』

 "全滅した"

「勝てる要素無い……」

止めだ。やっぱりあたしにはギルティしかない。
でも1人でやる事なんてない。カイのコンボは単純だからトレモをやる必要もないし…。

―――コンコン

部屋のドアをノックする音。

「聖ー起きてるー?」
「おかあさん…?なに?」
「あ、起きてるみたいですよ」

("起きてるみたいですよ"?)

誰かと話しているみたいだ……誰だろう。

「じゃあよろしくお願いしますね」

というお母さんの言葉の直後にドアが開いた。

「あ……俣奈……どうしたの!?」
「お見舞いだよ」
「お見舞いだよ」

緒土も続けて部屋に入ってきた。あんな馬鹿げた夢を見たせいで顔を直視できない。
緒土は何故か俣奈の言葉を繰り返している。微妙にモノマネをしていてなんか気持ちが悪い。

「も~!!真似しないでよー!!」
「も~!!真似しないでよー!!」
「松瀬のばか!」
「三綾のばか!」
「ああーっ!なんでそこだけ真似してないの!?」
「ああーっ!なんでそこだけ真似してないの!?」

もしかしてこれから漫才でもやってくれるんだろうか。