※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

日曜日。
本来なら昼頃まで布団の中で惰眠を貪り、一週間に蓄積された疲労を取り除く日。だらしない生活を送る日。
でも最近の俺はそんな日曜日とは無縁だ。毎週毎週忙しい。と言うか、曜日に関わらず毎日忙しい。

『とうるるるる……』

ケータイが鳴り響く。いつからだろう…俺の一日がこの音と共に始まるようになったのは。

「蘇留さん?」
「弓太か。すまんが今日の練習はやめだ。クラスの連中に捕まってしまった」
「あーいえ、全然大丈夫っすよ。それより蘇留さんも練習頑張ってください」
「ああ。それじゃあな」

用件だけをサラッと伝えると蘇留さんは電話を切った。
どうやら今日は久し振りにフリーに動けるらしい。たまには1人でゲーセンでも行くかなぁ。

・・・

「彼氏か?」
「お暑いですなぁ~」

すぐに雹と美里がアホ面で茶化してくる。

「ふん、お前ら2人には無縁な話だ」
「相変わらず口がワリーなぁおい」
「みっさーが言える立場じゃないと思うんだけど」
「あたしは粗野なだけだ。悪かねーよ」
「同じようなもんだよ」
「そんな話はどうでもいいだろ。さっさと練習始めるぞ。まずは雹だったか?」
「うい」

・・・

「お前……松瀬に似てるな」

どうやら私もギルティにかなり慣れたらしい。数ヶ月前はコンボもさっぱり分からなかった。
だが今ではDループをきめながら世間話なんて事も出来る。

「マッセ?何それ?カーカスライド?」
「『何それ』と言われても非常に答え難いんだが……そうだな……ライバル(恋敵)だな」
「ライバル(好敵手)かぁ……強いの?」
「そこそこ」
「じゃあさ、ぼくとどっちが強い?」
「……まぁ……そうだな……お前の方が強いと見て間違いないな」
「ほんと?」
「お前にお世辞なんか言うか」
「じゃあそのマッセって人も闘劇予選出てくるの?」
「さぁな。明日もう1人のヴェノム使いと闘って、勝った方が出て来るらしい」
「じゃあその『もう1人のヴェノム使い』とぼくならどっちが強い?」
「……そうだなぁ……プレイスタイルが違うから比較し難いが……まぁお前の方が強いな」
「じゃあE組と当たったら勝ちだね?みっさーも蘇留も強いし」
「……だといいんだがな」

E組代表にはまず間違い無く弓太が入るだろう。あの金髪女なんかに負けるはずが無い。
弓太とは何度も対戦をしてきたが、未だに勝率は50%を超えない。
それを抜きにしても出来ることなら闘いたくない……どうしたものか。
雹じゃキャラ差がデカイし…美里辺りに頑張ってもらうか…。

・・・

「あ…!?アイツ…郁瀬だ…!」
「しばらく見ねーと思ったら…」

ゲーセンに入ると店内の空気がふっと変わった。
ギル校に入るまでずっと通っていたゲーセン。俺のホーム。でも残念なことに居心地は最悪だ。

『ユウハンハベジタボー!』

カイが乱入してくる。今まで俺は何人のカイを殺してきただろう。
恐らく、最も使用人口が多いキャラ。しかしその大半は所謂量産型とか言われている屑ばっかり。

『み、見切れない……』

試合はすぐに終る。
何の苦労も無くJKを刺し、起き攻めで10割。

(江辻さん……あんたはこんな無様な負け方はしないでくれよ)

「相変わらず強ぇな……」
「でもエディだろ…エディ使う奴なんて池沼ばっかだよ」

ギャラリーの声が五月蝿い。いつもこうだ。だからゲーセンには行きたくなかった。
負けたら弱いと馬鹿にされ、勝ったら勝ったで僻まれる。
でもエディを使うのはやめなかった。俺は勝利にしか興味がなかったから。
そして、それはこれからも変わらない。

「お前、目の下にクマ出来てるぞ……」
「松瀬の方こそ……」

最終選抜テスト前日―――つまり昨日、私は一睡も出来なかった。
それどころか2日前もさっぱり眠れなかった。
徹夜でギルティの練習したのなんて初めてだった。でも練習していないと居ても立っても居られなかった。
おかげで凄く眠たいし、だるい。でもそれは松瀬も同じだったらしい。なんて言うか、目が死んでる。
多分私も酷い顔をしているんだろう。

「俺は開幕ぶっぱ生成」
「じゃあ私はぶっぱノビタ」

朝からずっとこんな調子。お互い相手を混乱させようと無意味な掛け合いをしている。

「なぁ、お前闘劇に出たいか?」
「ん?出たいよ。松瀬は出たくないの?」
「出たいに決まってる」
「なんでそんな事訊くの?」
「いや…お前に負けたら全部終わりなんだなぁと思ってさ」
「大丈夫だよ」
「ん?」
「松瀬は来年出ればいいんだよ」
「くっ…ぜってー勝ってやるからな…」

松瀬には可哀相だけど、やっぱり私も負けるわけにはいかない。

「じゃあそろそろ学校行こっか」

・・・

「あー、それでは闘劇予選の代表者3名を決める。まずは江辻 聖と郁瀬 弓太から」

雁田がなんでもないようにさらっと言う。こいつは事の重大さを分かっているのだろうか。
しかし他の生徒はそんな事お構いなしだ。ここは無礼講と言わんばかりに騒いでいる。
登校する時にも「がんばれよ!!」と一度も話した事もない奴に肩を叩かれた。
それにしても皆テンション上がりすぎじゃないか?

「きゃああああああああああ!!聖様がんばってーーー!!!!!!」
「郁瀬ええええええ!!フォモ根性見せろやああああああああ!!!!!!」

教室内の温度が一気に沸点まで上昇。聖様コールとハードゲイコールが鳴り響く。
いつのまにか「江辻様」から「聖様」に変わっている上に人数も大幅に増えている。

「張った張ったぁ!!ただ今江辻 聖が1.9倍で郁瀬 弓太は1.7倍!!一口100円だよー!!」

賭けまで行われている。生徒のテンションが異常に高いのはこれのせいらしい。俺も賭けようかな。

「郁瀬ええええ!!お前には3000円も賭けてるんだからなああ!!負けんじゃねぇぞおおお!!」

教師の目の前だと言うのにこんな絶叫が飛び交う。でも雁田は咎めようとしない。
慣れきってると言った様子だ。

「両名、筐体につけ」

聖と郁瀬がゆっくりと椅子から立ち上がる。

「フォーモ!! フォーモ!! フォーモ!! フォーモ!!」
「ひじりさまああああああああああああ!!!!」

この大歓声、果たして二人の耳に入っているのだろうか。二人とも一言も喋らずに筐体につく。
2人とも目の下にクマが出来ている。さっき見たら紙野もそうだった。加えて、顔色もかなり悪かった。
永園だけはいつも通りだったけど。

「それではテストを開始する」

―――俺は強キャラ厨だ。メインはエディ、サブはスレイヤー。
負けるたびに「強キャラ使って負けてるし」とか言われてきた。悔しかった。
死ぬほど練習した。徐々に連勝数が増えていった。1勝―――2勝―――10勝―――30勝―――
でも今度は「キャラのおかげだろ」とか「エディ使ってれば勝つのは当たり前」とか言われつようになった。

―――大いに結構。何とでも言え。
                  "ジャスティス"
勝利こそが全て、それが俺の   正義   


―――郁瀬 弓太、E組で最も強い男。
とは言うものの、振り返ってみればあたしはこいつと戦ったことが無かった。
だからいまいち実感が無い。弓太の強さを知らない。
だがそんな事は関係ない。相手が誰であろうと、あたしは勝利してみせる。
ここで負ければ全てが終わり。そんなこと、あたしは認めない。

『全力で来る事だ』
『死より深い闇を……』
『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

『捉えた!』

開幕セバーを空中でガードする。
江辻 聖……使用キャラ、カイ。
間違っても牽制の刺し合いに付き合ってはいけない。
もともと技の相性は良くないし、俺じゃあ彼女の常人離れした読みに敵うとは思えない。
ここはセオリー通りに起き攻めで一気に殺す。焦る必要は無い。まずは隙を見て距離を空けるんだ。

『油断しましたね』

(な―――!?)

ダストアタックが屈んでいるエディを斬り上げた。

(慎重になり過ぎちまったかなぁ……)

『本気を見せましょう』

受身不能ダストを食らって、チャージスタンの起き攻め。画面端まで到達してしまう。
しかしこれを捌くのは簡単だ。TGが無ければ投げられても大したダメージは受けない。
ダストにさえ注意していればカイの起き攻めなど恐れるに足らず。

『斬ッ!!』

2K>HSをガード。

『捉えた!』
『終わりか?』

ガトリングからセバー…予想していなかっただけにガードするのが精一杯だった。
逃げる隙を与えないつもりか……中距離で刺し合うのは不利。
離れて分身を召喚し、常時でじっくり料理していくのがベストってとこかな。
状況は良くない。浮遊で逃げて一旦体勢を立て直さないと…

・・・

エディが宙に浮かぶ。やっぱり逃げるわよね……でも、そう易々と逃がしてやる義理は無い。

『斬ッ!』

―――バシッ

2HSがJKで潰される。このままでは逃げられる……なんとか止めないと…!

『はっ!』

―――バシッ

思い切ってJKで空対空を狙ったが、呆気なく相手のJKで潰されてしまった。
この強烈な判定……馬鹿にしてるとしか思えない。

『ハッハー!』

続けてJHS>JDで吹っ飛ばされる。間合いが大きく開いてしまった。
エディがサッと片手を振り上げる。

―――ゾワァッ

(しまった…)

―――ゾ、ゾ、ゾワ、ゾ、ゾワァッ、ゾワァッ……

分身を小刻みに動かしてくる。

(くっ……このプレッシャー…)

一瞬思考が鈍くなる。この独特の効果音と動き……いつ見ても怖気立つような気分だ。
…駄目だ。早く頭を切り替えろ。刺し合いは不利。ここは分身を消すことを最優先に行動するべき……。
分身さえ消せば例え攻撃を食らっても大したダメージは無い。ではどうやって潰すか。
スタン、Jスタンはドランカーで返される。チャージは出始めを潰される。
本体と分身の強固な立ち回り……通称"常時エディ"。そしてそれを操るは郁瀬 弓太。
攻略するのは至難の業だ。安全策なんて採っていられない。
ここはダッシュディッパーで…!

―――ピッ

(あ…!?)

「ああああああ!!!2Sに当たったあああああ!!」

クラスメイトが絶叫する。不覚にも置いたあった2Sに当たってしまった。

『ドリル!伸びる!貫け!ハッハー!伸びる!馬鹿め!馬鹿め!』

2S>小攻撃>ドリル>伸びる>低空ダッシュJHS>JD>伸びる>ギャラリー>小攻撃>ギャラリー
レボスペからひろコン。駄目だ……一度でも何か攻撃に当たれば5割は余裕で消し飛ばされる。
完璧なコンボ精度だ。

『超ドリル!!』

ドリハメ>ギャラリーで画面端ダウン。早くも残り2割。
もう一度攻撃に当たったら終わりだ。でも分身は消えている…ここで仕留めなければ……!

『ドリル!』

持続の後半を重ね、2Kなどの小技で地道に固めていく。

―――パシッ

(くっ…!)

ダムドに立ちPで割り込まれる。そのまま近S>6K>近S>6K>足払い。

『本気を見せましょう』『ロマンティーック』

カイが飛ぶ。チャージ青からの2択……敵の起き攻めを見切るのはあまり得意じゃない。
一方的な試合になることが多いエディ使いに良くある傾向だ。

―――バシュウッ!

(くそっ…!)

着地寸前の空中ダッシュからのJS。そのままワンコンボ入れられ、再びチャージ青から同様の起き攻め。

―――ビシッ

着地下段。またワンコンボ>起き攻め。
エディゲージも回復したのに……このまま立てなければ意味が無い。
いや、下手をすればこのまま殺される可能性だってある。体力もあまり残っていない。

『油断しましたね』

チャージ青から即ダスト。受身不能コンボを貰って再び起き攻め。
起き攻めを尽く食らって一気に体力が残り2割まで来る。
しかし相手のTGも空……FRCしなければカイの起き攻めなんて俺でも余裕で見切れる。

『油断しましたね』
『からかってやるか!』

ダストモーションを見てから金サイクをぶち当てる。なんとか起き攻めまで漕ぎ着けた。
これで終わりにする。最強と呼ばれるキャラの力、存分に味あわせてやる…!

・・・

―――マズい……この状況……崩されたら終わりだ。
VTで逃げるか?いや…読まれたら死ぬ―――気合で見切るしかない。

『回る!』

回る>JKからN択。

『悪いなァ』

足払い…ガード。この暴力的極まりない怒涛の起き攻め、これぞエディが最強キャラと呼ばれる由縁。
しかも崩されれば7割8割は当たり前。今の体力なら間違い無く死ぬ。

『伸びる!』

再びN択。JK>浮遊JKの中段も何とかガードする。
この後また伸びる>N択を数回迫られることになる―――ハズだった。
しかし次の瞬間あたしの耳に入ってきた音声は『伸びる』でも『回る』でもなかった。

『もっと怯えてくれ!』

やっと捕まえた……後はドリハメをするだけだ。
一応完璧に重なったドリスペ&JKでも1F間にガードモーションを切り替えれば防御する事は可能だ。
1F…つまり約0.017秒。そんな事は狙って出来ることじゃない。
もはや逃れる術は無い。JKを重ねて終わりだ。

『超ドリ…』
『今しかない!!』

(リバサ金サイク…!?油断した…くそ……ッ!!)

サイクに当たって吹っ飛ばされる。

『本気を見せましょう』

HSドリルを……いや、間に合わない。慌てるな。
TGは100%。ダウンを取る方法なんていくらでもある。
ここは浮遊で逃げてエディゲージを回復―――

―――キイィィィン……

(しまっ――――)

『セイクリッドエッジ!!』

(ガード不能…!)

こちらの中下段同時攻撃に対し、相手は覚醒の暗転を利用したガード不能。
だがダメージは大した事はない…まだ体力は残るはずだ。まだやれる…!

『ロマンティーック』

残り体力は数ドット。カイが青い光を放ち、突撃してくる。
もう抵抗する手段は無かった。俺はただエディが切り刻まれていくのを見ていることしか出来なかった。

(俺は……負けちまったのか…)

・・・

『認めんぞぉぉ!!』
『いい勝負でした』

「そこまで!勝者、江辻 聖!!」

「か……勝てた……」

画面から目を外す。教室内は騒然としていた。
頭を抱えて叫ぶ者もいれば、滝のように涙を流している者もいる。

「ま、マジかよ…俺の…俺の3000円がああああああああ!!!!」
「ひじりさまああああ!!!!素敵ですううう!!!!涙で前が見えませえええええん!!!!」

生徒達のあまりの狂乱っぷりに呆気に取られる。

(そうだ…弓太は…)

立ち上がって向かいの筐体を覗く。

「フ…フフ…そうか…俺は負けたんスね…フフフ…フフ、フ、フォ、フォ、フォオオオオオオオオオオアアアアアア!!!!!!!」

弓太は大地を揺るがすほどの絶叫を発して立ち上がると、教室の後ろに向かって猛然と走り出した。

「兄貴ィィィィィィ!!!!なぐさめて下さあああああああい!!!!」
「く、来るなあああああああああッ!!」

教室の奥に目をやる。すがり付いてくる弓太を必死に引き離そうとする緒土が目に入った。
なんて素早い動きなんだ。
男子はお腹を抱えてゲラゲラ笑い、女子は目を塞いで「きゃー!変態!不潔!」とか叫んでいる。

(……なんだかなぁ…)

ふらふらになりながら椅子から立ち上がる。緊張から一気に開放されて全身が脱力しきっている。

「やったね聖ちゃん!」
「あ…俣奈…ありがとう…」

満面の笑みの俣奈に迎えられる。ようやくオーバークロックした頭が冷めてきた。

(あたし…勝ったんだ……良かった…本当に…)

てっきり飛び跳ねて喜ぶものと思っていたが、聖はふらふらとした足取りで戻ってくると机に突っ伏したままピクリとも動かなくなった。
きっと極度の緊張から開放されて心身ともにクタクタなんだろう。今は休ませておこう。

「さぁさぁ次の試合も凄いよー!!現在紙野 毅は1.4倍で永園 翼はなんと2.5倍!!」

再び教室内が熱気に包まれる。

「なんかやたら差が開いてるな……正直俺は永園有利だと思うんだが…」
「きっと皆紙野さんを応援してるんだよ。永園さんは皆からあんまり好かれてないから」
「なるほどな…」

それにしても紙野の顔色は悪い。今にも吐きそうな勢いだ。見てるこっちが辛くなってくる。
対する永園は余裕。手を頭の後ろで組み、脚を机の上に放り出して暢気に欠伸までしている。

「紙野 毅、永園 翼、前へ」

永園は立ち上がると、近くにいた男に声を掛けた。

「おい、お前手ぇ出せ」
「はい?」

永園が男の手に一枚の紙を乗せる。

「え、なっ、なんすかコレ?」
「『なんすか』じゃねェよ。博打やってンだろ?」
「え?」
「『俺が勝つ』方に一万賭けるっつってンだよ」

そう言うと永園は悠々と筐体まで歩いて行った。
一万円札を受け取った男は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。

「い、一万……しかも自分に賭けるなんて……すげー自信だな……」
「ははは……永園さんらしいね…」

・・・

「準備はいいな?ではテストを行う」

この2日間で僕は完全に疲弊してしまった。
食べ物は喉を通らないし、夜は眠れないし、胃が痛くなるし―――気が付けば溜息をついて悶々としていた。
今日ほど自分の性格が恨めしいと思った事はない。
なんで僕はすぐに緊張してしまうんだろう。永園くんみたいな性格だったらどんなに楽なんだろう。
今もレバーを握る手が震えている。
もう駄目だ…どうせ僕は負けるんだ…負けて皆の前で恥じを晒して……イヤだ…逃げたい。
どこか遠くへ逃げ出したい。

『あー、あまり妻を待たせたくない。急がせてもらうよ』
『なんだその余裕面ぁ?』

でも僕の意思とは無関係に試合は始まってしまった。

『へヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

えっと…まずは地上の刺し合い…相性的には悪くないけど、リターンに雲泥の差がある。
ここは慎重にいかないと…。まずはそう―――逃げるんだ。とにかく逃げるんだ。

―――バシュウッ!

開幕は空中バックダッシュ。
恐らく予想していたのだろう。永園くんは開幕からレバーを前に入れっぱなしで歩いてくる。
画面端はなるべく背負いたくない。
どうする…?思い切って牽制を振ってみようか…でも、もしパイルで刈られでもしたら…。
ならやはり空中から攻めるべきだろうか…。

そんな僕の心中を知ってか知らずか、スレイヤーは平然と歩いてジリジリと間合いを詰めて来る。
ただ歩いているだけなのに異様にプレッシャーを感じる。
ぐずぐずしてられない。やっぱり空中からだ。3段Jと削キャンである程度は的を絞らせないように出来る。

『シュッ!パイルバンカー!!』

(―――!)

ジャンプでパイルを避ける。そのまま空中ダッシュして再び間合いを離す。
危なかった……。どうしよう…どうすればいいんだ。
永園くんの無敵付加は完璧だ。読みの鋭さも一級品だし、地上で刺し合ったって勝てるわけ無い。
やっぱり僕が勝てる要素なんて―――

・・・

はァ…?なんだァ?なんでそこで逃げる?あのタイミングならパイルの硬直にJHSを刺せた筈。
……あの馬鹿、また面倒臭ぇ事でも考えてンのか?

(チッ…馬鹿が…)

また歩いて距離を詰めて行く。しかしチップは全く行動を起こさない。
……まァ、それもいいだろう。闘う気がねェならさっさとぶっ殺して終わりにしてやる。

―――バシュウッ!

次の瞬間、チップが思い出したように低空ダッシュで突っ込んできた。

『シュッ!パイルバンカー!!』『カウンタ!』

・・・

一瞬、時が止まったような感覚を覚えた。
皮肉にも僕を正気に戻したのはチップ使いなら誰もが恐怖する光景だった。
パイルバンカーCH、それはチップの死を意味する。食らったら最後、即死。

何をやっているんだ僕は。戦う前から負ける気でどうする。
今まで努力してきたのは何のためだ。闘劇に出るためじゃないのか!?
しっかりしろ紙野 毅。逃げるな!闘え!!

『なめんじゃねぇ!!』

咄嗟に青バーストを発動させてスレイヤーを吹っ飛ばす。

『うおおおお!!』

迷彩をかける。
弱気になっちゃ駄目だ。勝ちに行くんだ!!

チップが猛然と突撃してくる。そのダッシュに迷いは見えない。

『くらいな!』

ダッシュ投げか…パイルカウンターを食らって吹っ切れたみてェだな。そう来なくちゃ面白くねェ。
でもチップの投げ性能はかなり悪い。ここから発展もしないし、有利Fも少ない。

『くらいな!』 

2K>近Sから再びダッシュ投げ。
いくらダメージが低いとは言え、このまま投げられ続ける事態は避けたい。

―――ガッ、ガッ

『よそ見はいかんよ?』

投げ返して起き攻め。
チップなら噛み付けば5割持っていける……さっきのパイルカウンターも効いてるから気絶も狙える。
だが吸血なんてファジージャンプで処理されるのがオチ。ここは単純に裏周り近Sあたりで崩していくか。

『βブレー!!』

(チ…ッ!)

裏周り近Sをβで返される。すぐに後ろ受身を取って攻めに転じる。

『マッパハンチ!』『はっ!』『カウンタ!』

無敵マッパを6Pで潰される。続けて近S>6P>近S>脚払い。

『γブレイ!』

起き攻めにγ>ダッシュ立ちP。

『トゥレイ!』

そしてHS転移からの表裏2択。
めくりJHSに当たって再び近S>6P>近S>脚払い。続けて起き攻めの削キャン表裏2択。

―――ザシュッ、ザシュッ

まためくりJHS。
火力が無いのが救いだが、そろそろ相手のTGも50%に達しようとしている。
ここはさっさと切り返すべきか……。

『一押しが足りんよ』

青バーストで吹っ飛ばす。両者TGは50%。相手の体力は7割強、こっちは半分を切っている…
残り3割って所か……バーストは使っちまったし、下手をすればあと1コンボで殺される。
慎重に行くか、それとも一気に仕掛けるか……。

・・・

『マッパハンチ!』

Kマッパで一気に間合いを詰められる。しかし起き攻めには至らない。
近距離……リターンでは負けてるけど、この状況なら刺し合いで勝ってコンボ>起き攻めで上手く行けば倒せる。
何を振るか…HSか?いや、2S?それとも無敵マッパを読んで6Pか―――

『シュッ!』『γブレイ!!』

(読み勝てた…!)

『ロマンティーック』

と思ったのも束の間。即座にDステをキャンセルしてγをガードされる。
距離が開いた…フレームはこちらが若干有利。脚払いを振ろうか?
でも相手には無敵マッパがあるし……。

『はっ!せいや!』

6Pを置いてみる。しかしスレイヤーは突っ込んでこなかった。チップの拳が虚しく空を斬る。

―――バシュウッ!

それを見てスレイヤーが低空ダッシュで突っ込んで来る。

(ならハラキリで……!)

『ふははははははは……』

(く…投げれない…!)

JSで地上まで引き摺り下ろされる。マズい…捕まってしまった。打撃か……吸血か……。
当たれば5割は間違い無く減る。下手をすればそのまま起き攻めされて死んでしまう。

(ここが勝負だ…)

スレイヤーが小さく飛び上がる。6Kだ…見える……ガードできる!!

―――ゴカッ、ブシュウッ!!

(なっ!?………フェイント……吸血…)

その一回のコマ投げで勝敗は決まってしまった。
そのまま完璧な精度で吸血ループを決められ、パイルRC>パイルでチップは気絶。
再び噛み付かれ、とうとうチップの体力は尽きてしまった。

『シッショー!!』
『道草をくったがなかなか楽しめたよ』

「そこまで!勝者、永園 翼!!」


僕は…負けちゃったのか……。もう闘劇にも出られない…これで僕も終わりか……。

「ドンマイ紙野ー!!」「お前は良くやった!!」「紙野くんカッコ良かったよー!!」

クラスメイトが声援を送ってくれる。
闘劇には出られなくなったけど、不思議と悔しさは無かった。むしろ晴れ晴れとした気分だ。
僕はギルティさえ出来れば、それで幸せなんだ。
闘劇に出るのは僕がもっと強くなったら……その時まで取っておこう。

「みんな……ありがとう」

皆から拍手を送られる。少し照れくさかった。

「残念だったな紙野…」
「うん。でもしょうがないよ」

戻ってきた紙野の表情は意外にも晴れ晴れしていた。あまりショックを受けていないみたいだった。
一方の永園は不気味な笑みを湛えている。こんなに嬉しそうな永園を見るのは初めてだ。
それもそのはず、今永園の手には計2万5千円もの大金があるのだ。
もちろん闘劇予選に出られるという喜びもあるのだろうけど。

「ギルティ500回分だな」

札を見つめながら黒い笑みを浮かべる永園。なんて言うか、絵になり過ぎてて怖い。

「PSPと青リロを買うって手もあるが…」

しかし全部ギルティに費やすつもりか……流石ギルヲタ。一般人とは一味違う。