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「ふわ~ぁ~」
春の陽気で教室はポカポカとしていてとても気持ちいい。思わず、俺は1つ欠伸をした。
入学式はだるかった(右渡校長の話は面白かったけどな)。欠伸のひとつもしたくなる。

ここは、1年F組の教室だ。俺の席は真ん中の前から3つ目。何とも言い難い、非常に中途半端な位置である。
黒板には、『席順は決まってない。適当に座って待つように。』と白で大きく書かれている。
そういうのが一番困るんだ。出席番号順にでもしてくれればいいのに。

ふと、周りを見渡してみる。5列4行の机に、計20人の生徒が座っている。空席はない。
こうして見ると、どこにでもある教室の一室に見える。だが、きっと真相は違う。
一見、普通の高校生に見えるこいつらは、例外なく変わり者なのかもしれない。

何せ、ここはギルティ専門高等学校だ。

普通の高校生が来るような高校ではない。特定の格闘ゲームに特化した教育をする高校だ。
カルチャースクールならまだしも(いや、それでもありえないが)、
高校としてはありえないというほかないだろう。
学校教育法をまるで無視したこの学校がどのように設立されたのか――それは一学生である俺にはわからない。
そんな学校に俺が入学した、その理由は……。

ガラガラガラ!

おっと、先生が来たみたいだ。
辺りが一瞬で静寂に包まれる。……というか、元々静寂に包まれていた。
進学先が進学先なだけあって、友人と一緒に入学したという人間は俺以外にもほとんどいないのだろう。
みんな、雑談するにも話し相手がいないわけだ。

教室に入ってきた教師が静寂を破る。
「入学式お疲れさん。まずは出席取るぞ」

「よし、全員いるな。それでは、ホームルームを始める。
 そうだな……まずは俺の自己紹介から始めるか」
男性教師が言う。
身長は180cm近くありそうだ。割と引き締まった体に爽やかな笑顔。
どちらかと言えば、体育会系の容姿である。

「名前は矢野 義亜(やの ぎあ)。……語呂が悪いし、ちょっと変な名前だけど気にするな。
 趣味は勿論ギルティ。あとは、体を動かすことかな。
 スポーツジムに週3回ほど通っている。
 使用キャラはカイとポチョが主だが、一応全てのキャラを一通りは使える。
 教師としては、色々使えた方が何かと都合がいいんだよ。
 ほぼ、全てのキャラについて知識を有していると自負している。
 わからないことがあったら何でも聞いてくれ。
 ……ま、俺からはこんなところだ」

教師――矢野義亜先生が自己紹介を終える。
その体育会系の見た目からは推し量れないが、やはり彼はギル高の教師かつギルヲタらしい。
それにしてもギアって……すごい名前だな。
しかし、使用キャラが全然ギアじゃないっていうのはいかがなものか。
「それじゃ、君達にも簡単に自己紹介してもらおうかな。
 名前、使用キャラ、今後の意気込みくらいの簡単な自己紹介でいいぞ。
 じゃあ、左手前から順番にしてくれ」
矢野先生に促され、左手前――俺から見れば右手前だ――の生徒から自己紹介が始まった。
……ってことは俺は11番目か。
うーん、普通は自己紹介って言ったら趣味・特技とかを言うもんだと思うんだけどな。
ここはギル高なんだ、というのは実感せずにはいられない。


空気が一変したのは、4人目の自己紹介の時だった。

「神風 悟(かみかぜ さとる)。使用キャラはチップ・ザナフ。
 ま、ざっと見渡してみた感じじゃたいしたやつはいなそうだし、全員俺のチップでボコってやるよ。
 そんじゃ、よろしく」

茶髪を逆立てたその男――神風が不敵な笑いを浮かべながら席に座る。
いきなりクラス全員に喧嘩を売ってやがる……すごい奴だな。
真性DQNか?ただのビッグマウスか?それとも……。

微妙に不穏な空気を漂わせながらも、自己紹介は続いていく。
次は、俺の右隣にいる男の自己紹介だ。
彼は、至極落ち着いた感じの男で、男の俺から見ても美男子と呼べる容姿をしていた。

「剣野 騎士(つるぎの ないと)です。使用キャラはカイ・キスク。
 早く皆さんと対戦したいですね。
 対戦の際はお手柔らかに。よろしくお願いします 」

優雅な物腰で着席する。
ナイトって……TVでそういう名前を子につける親が増えてるって話は見たことあるが、
実際に同じクラスになる日が来るとは思わなかった。
しかし……容姿といい物腰といい、非の打ち所がないな。

そして、ついに俺の番がやってきた。

「要 洋(かなめ ひろし)です。使用キャラはブリジットです。
 えーと……皆さん、よろしくお願いします。」
最後にちょっと詰まっちまったが……まあ、無難な自己紹介だろ。
ふう、と一息ついて着席しようとした。

「ブリジット?なんだよ、お前オタクかよ?!」

刹那、右斜め後ろから挑発の言葉とともに嘲笑が聞こえた。
思わず振り返ると、先ほどクラス全員に不敵な宣戦布告した神風 悟が、笑いながらこっちを見ている。

「ありゃ?顔はたいしてキモくないな。こいつは意外だ。
 ま、顔が多少マシだろうとブリジットって時点でアウトだけどな!」

こ、この野郎……!

「あん?鰤使いの分際でガンつけんなや。やんのか?」

………。
ここまで言われて黙っていられるわけがない。
俺は神風に歩み寄ろうと一歩踏み出した。その時――。

「鰤使いだからオタク?君は随分と短絡的なんだね」

俺の隣から声がした。
声の方に向き直ると、そこにはいつの間にか神風へ体を向けている剣野 騎士の姿があった。
短絡的と評された神風が、剣野に噛み付く。

「あん?何だ、てめぇは?てめぇは関係ねぇだろ」
「君の言動には少々目に余るものがあるよ」
「文句あんのか?」
「……いかにも」
剣野が当然と言わんばかりに頷く。
「ついつい、容姿と特異な設定に目がいきがちなブリジットだけど、
 実はキャラ性能で見るとかなり面白いキャラだ。
 そのキャラ性能に惹かれて使っている人間も少なくない。
 君の発言は、単なる程度の低い見当違いの中傷だよ」
「鰤使いにキモイオタクが多いのは事実だろうが」
「そうだとしても、要君がそれに当てはまるとは限らない。
 少なくとも僕には、彼がそういう人間には見えないけど」
「チッ……なんだてめぇ、関係ないくせにしゃしゃり出やがって。うぜぇんだよ!」
「何それ?もう論破しちゃった?単細胞生物並みだね、君の頭は」
「んだとコラ!」
机をバンと叩き、神風が立ち上がり剣野を睨みつける。
一方、剣野も立ち上がりこそしないものの、神風を見返している。
その表情には薄い笑みを湛えている。余裕の表情か?
まさに一触即発の雰囲気。このまま神風がブチ切れて殴りかかるんじゃないのか?と俺が不安になりだしたその時、

「そこまでにしておけ」

教師・矢野の声が聞こえてきた。

「多少のやんちゃは許すつもりでいたが、これ以上は許容できん。
 神風、着席しろ。剣野、前を向け」
チッ、と舌打ちしながら神風が椅子に座る。一方、剣野はやれやれと肩をすくめて前を向いた。
「神風。お前の発言は問題発言だ。以後、慎め」
矢野が忠告する。
チラっと神風の方を見てみたが、神風は頭に手を組んでふてくされていた。
教師にまでこの態度。何様だ、こいつは。
だが、矢野はそれ以上は追及せず、続いて剣野の方を向いた。
「剣野。お前も最後の言い方はよくないぞ。基本的に言ってることは正しいと思うが……」
「確かに僕にも配慮が足りませんでした。反省しています」
流暢に反省の言葉を口にし、剣野は頭を下げた。こうして見ると、ただの優等生にしか見えない。
先程の暴言が嘘のようだ。
矢野はうむ、と満足そうに頷き、俺の方を向いて言った。
「要。あまり気にしないようにな」
「……はい」
実を言うと、俺が使用キャラについてあれこれ言われたのは、今回だけの話じゃない。
地元のゲーセンでは、しょっちゅう他の常連に色々言われたし、
(もっとも、俺がコンスタントに2桁連勝をするようになってからは、何も言われなくなったがな)
クラスのギルヲタ仲間にさえ「ショタ!ショタ!」と馬鹿にされたもんだ。
まあ、慣れてるっちゃ慣れてるわけだ。
流石に、あそこまであからさまに中傷されたことは始めてだったけど。


俺の後ろのやつが自己紹介を始めた直後、剣野が俺に話しかけてきた。
「あんまり気にしない方がいいよ。あの手の輩は、正面から挑発に乗るのが一番逆効果だから」
「ん?ああ、もう気にしてない。それより、さっきはありがとな」
「いや、勝手に僕がやったことだから」

しかし、さっきのは感謝するとともにちょっと驚いた。
剣野の容姿と自己紹介から導き出した俺の分析によると、
『単細胞生物並みだね、君の頭は』なんて台詞を彼が口にする確率は3%未満だったんだが。
意外と、歯に衣着せぬ物言いをする性格らしい。
いやはや、人間ってわからんね。

次は、俺の左隣のやつの自己紹介だ。
「悪原 炎治(あくはら えんじ)。使用キャラはソル・バッドガイだ。
 ま、よろしくな。ククク……」
奇妙な笑いを浮かべながら、着席する。
なんか怖いぞ、コイツ……。その笑い方は、ドカベンの犬神 了を連想させた。
奇怪なオーラを放つ悪原に、奇異の視線が集まる。


しかし、その次の人間が、教室の雰囲気を一気に変えた。


カタッ。
多少、緩慢な動きで立ち上がったのは、身長170cm程の女だった。
黒のロングヘアーが、それに合わせて揺れる。

……すごい美人だ。

そう思ったのは、俺だけではなかったようだ。
さっきまで、眠そうな目を向けて適当に自己紹介を聞いていたやつらが、
目の色を変えて見入っている。
ギルヲタにここまでの美女がいると、誰が予想できただろうか。
その物腰は、クール&ビューティという言葉が似合いすぎている。

「雨宮 美月(あまみや みつき)……」
細い声でそう言うと、彼女は着席した。
教室は相変わらずざわついている。
美月、か。いい名前だな。
……だが、何か忘れてないか?

ガタッ!
先刻の緩慢な動きとは一変して、機敏な動作で雨宮さんが立ち上がった。
「あ、えと……使用キャラはミリア・レイジです……」
再び着席する。
そうか、ミリアか。鰤には辛い相手だな……。

ガタッ!
三度、雨宮さんが立ち上がった。二度目と同様、非常に機敏だ。
その顔は、明らかに紅潮している。
「その……どうぞよろしくお願いします……」
そして着席する。

………。
座った後も、雨宮さんは俯きながら頬を紅潮させていた。
その姿に、先ほどのクール&ビューティな印象は微塵も受けない。
どうやら、ちょっとズレてる人らしい。
いや、ズレてるというか、天然というか……先程のはもはやそういうレベルではない気もする。
教室の生徒達は、ただただ唖然としていた。
まあ、あんなギャップの激しいパフォーマンスを見せつけられたんだ。無理もないかもしれない。


その後は滞りなく自己紹介が進んだ。
生徒の自己紹介は終わった後は、ギル高の授業についての簡単なオリエンテーションをして今日は下校となった。
明日は、生徒の実力審査及び生徒の親睦を深めるための対戦会を行うらしい。
この学校に進学したからには、クラスに集った生徒達はいずれも劣らぬ猛者ばかりなのだろう。
わくわくしてきたぜ!!はやく明日にならないかな……。

翌日。
朝のホームルームもそこそこに、対戦会の準備が進められた。
といっても、俺達がやったのは机を教室の両端にどけただけだ。
その後、数名の大人――教員なのか、それとも筐体のメンテ係として雇われてる者なのかは定かではない――が、
教室の後ろにあった筐体を中央に移動し、電源を入れて設定をいじった。
普通の高校ではありえない……改めて、ギル高に入学したんだということを実感する。

「では、対戦カードを決める。みんな、ここにあるくじを引いてくれ」
矢野の声が教壇から聞こえる。矢野の手前には、白の四角い箱が置かれていた。
なるほど、あの中にくじが入ってるわけだな。
「中には20枚の紙が入っている。それぞれの紙には、1から10までの数字が書かれている。
 1が2枚、2が2枚、3が2枚……といった具合だ。
 察しのいいやつはもうわかっただろ?同じ数字を引いた人間同士で対戦してもらう。
 対戦順は、くじに書いてある数字の順番だ」
矢野が簡単に説明する。単純かつわかりやすくていいな。

適当な順番で生徒が次々とくじを引いていく。
俺の番号は……4番か。不吉な番号だ。
先に引いたクラスメート達は、みな自分の対戦相手を探しているみたいだ。
「2番は誰だ?」
「6番は君か……うわ、エディ?!勘弁してくれよ……」
そんな声があちこちから聞こえてくる。


「あ、ヨーヨー君も4番?あたしとだね!!」


うおっ!な、何だ?!
突如、背後から聞こえた声にビビりながら振り向く。
後ろに、いつの間にか1人の少女が笑顔で立っていた。
必死に昨日の自己紹介の記憶を手繰り出す。えーと、この子は確か……山田さつきちゃんだったか。
身長は150cmにも満たないだろうと思われる、とても小柄な子だ。
使用キャラは……言うまでもない。

「あたしのメイでやっつけてやるからね。覚悟しろ!」
「あ、ああ……こっちこそ負けないよ」

はちきれんばかりの笑顔とその発言に、俺はペースを崩されていた。
その童顔は、小6か中1あたりで成長が止まってるんじゃないかと疑問を感じるほどだ。
そして、精神の方も……いや、なんでもない。

「ところでさ、山田さん」
「さつきでいいよ?ちゃん付けも可。可愛い感じがするから」
笑顔で言い放つ。うーん、調子が狂うなぁ……。
「……えーと、じゃあさつきちゃん。あのさ、その呼び方で呼ぶのはやめてくれないかな?」
「なんで?妙案だと思ったんだけどなぁ、あたし」
「いい思い出がないんだ、そのあだ名は」
「ふーん……わかったよ」
ちょっとしょげてるが、とりあえず頷いてくれた。

「よし、これで全員くじ引いたな。それじゃ1番の2人、早速前に出てきてくれ」
教室の喧騒の中に矢野の声が響く。
「始まるみたいだよ、ヨーヨー君!」
傍らにいるさつきちゃんが俺に話しかけてきた。

……何がわかったって?

「1番!いないのか?!」
教室は喧々囂々としていて声が通りにくいようだ。
矢野が必死に叫んでいる。

「あ、俺です、オレオレ!」
叫声をあげながら前に出てきたのは、神風 悟だった。
そして、前に出てくるや否や、うそぶいてみせた。
「初っ端から俺に当たるアンラッキーなやつは誰だ?
 ま、俺ほどのプレイヤーに倒されるのはしょうがないことだから、安心してやられ……」
神風の口舌が中断される。そして、あの不敵な笑顔で呟くように言った。
「……てめぇか」
余裕たっぷりの笑顔で出てきたもう1人の1番――それは、剣野 騎士だった。

「てめぇは最初から気に入らなかったんだ。ちょうどいい、ボコってやるよ」
「へぇ、奇遇だな」
「あん?」
「僕も君が大嫌いだったんだ。見る間もないうちに倒してやるよ。
 チップ使いだっけ?得意だろ?瞬殺されるの」
「……ぶっ殺す!!」

「……相変わらずだね、あの2人」
さつきちゃんがやれやれと言わんばかりの表情で言う。全くだ。
特に、剣野の神風に対する毒舌は圧巻だ。
犬猿の仲って、こういうのを言うんだろうな。

「……とにかく、始めてくれ」
矢野が力のない声で言う。もう諦めたんだろう。
確かに、この小競り合いをいちいち注意してたらキリがない。

1P側に神風、2P側に剣野が座る。
キャラクター選択画面に入り、1Pがチップ、2Pがカイを選択する。

そして、


『ヘヴンオアヘル!デュエルワン!レッツロック!』


1年F組で初の対戦が、幕を開けた。