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「あ!緒土、どうだった?通知表貰ったんでしょ?見せてよ」

教室に入ると早速聖に声を掛けられた。他のメンバーもそろっている。

「お前ら…雁田に何か言われなかったか?」
「何かって?」

全員「通知表を渡されただけだ」と答えた。

「いや…言われてないならいい…」

(キャラ替えを薦められたのは俺だけか…)

「兄貴、見せてくださいよ。ハァハァ」
「……じゃあお前のも見せろ」
「え!お、オレのも見たい!?そんな…兄貴…ハァハァ」

もう嫌だ。こいつウザすぎ。こっちまで頭おかしくなりそうだ。

「じゃあアタシが先見るねー」
「あ!」

郁瀬に気を取られているうちに聖に通知表を取られてしまった。

「ちっ、三綾!お前の通知表見せろ!」
「あ、兄貴…オレのは」
「要らん!」

今は同じヴェノム使いである三綾の評価を見るほうが先だ。


――――――――――――――終戦管理局報告書:第4386号――――――――――――――

Name. Miaya Matana
Height. 164cm
Weight. 46kg
Birthday. 8/13
Bloodtype. AB
Character. Venom

筆記試験 65点

精神力   3
判断力   7
読み    6
コンボ精度 5
立ち回り  6
攻撃スキル 8
防御スキル 10


瞬間移動を多用した幻惑的な戦闘スタイル。
かなり予測しにくい動きのらめ初見の相手にとっては勿論、対戦を重ねた相手にとっても脅威。
実戦的スキルのレベルが高い。特に防御面は特筆すべき高さ。
洗練された反射神経と動体視力のおかげでガードは鉄壁。
ファジーなどの知識も豊富で生半可な攻撃ではまず崩れない。

ただし精神的に不安定。波に乗れば強いが、相手に飲まれればそのまま一気に殺されかねない。
大会などプレッシャーがかかる場面が不安。

キャラ対策はそこそこ出来ており問題は無い。

攻撃スキル、防御スキルが特に高く、当該固体の評価はBとする。



やばい…やばいぞこれは。このままいけば三綾に差がつけられちまう。闘劇に出れるのはどっちか一人。
なんとかして巻き返さないと…!

「これって高いのかなぁ」
「俺よりは好成績だ」

マジでキャラ替えも考慮に入れないとキツイか…?
でもエディにした所で郁瀬 弓太と言う超え難い壁がある。ならジョニーか?

「緒土、アンタやばくない?評価低いわよ。しかも筆記0点て…」
「うるせーな!お前のも見せろ!」
「はい。見たら落ち込むかもね~」

――――――――――――――終戦管理局報告書:第4515号――――――――――――――
Name. Etuji Hijiri
Height. 170cm
Weight. 46kg
Birthday. 1/25
Bloodtype. B
Character. Ky=Kiske

筆記試験  48点

精神力   2
判断力   7
読み    10over
コンボ精度 5
立ち回り  10
攻撃スキル 6
防御スキル 7


とにかく立ち回りが強く、封殺も珍しくない。
そしてなんと言っても特筆すべきはあまりにも鋭い読みである。
要所要所で繰り出される牽制は信じがたいほどカウンターヒットする。
スタンエッジなどの命中率も非常に高い。
その非常に強力な牽制技術と読みで安定した戦いが望める。

ただし、それは平静時の話である。
キレるとSVTをぶっ放したりひたすらハイリターンの行動ばかりをとる。
これが玉に傷。これさえなければかなり優秀なのだが…。
また、筆記試験もやや悪い。キャラ対策が偏り過ぎている。
もう少し広く対策を練ると良い。

精神力意外は軒並み高い点を考えると評価は最低でもB+はくだらない。



とりあえず最後のAとかBとかいうのを見ればいいらしい。今のところ聖も三綾も俺より高い…。
そして郁瀬

――――――――――――――終戦管理局報告書:第1573号――――――――――――――

Name. Ikuse Kyuta
Height. 178cm
Weight. 67kg
Birthday. 7/5
Bloodtype. O
Character.Eddie

筆記試験  15点

精神力   8
判断力   9
読み    8
立ち回り  9
コンボ精度 10
防御スキル 8
攻撃スキル 8


当該個体は、現在E組で最も強い人間であると思われる。
とにかく全ての点において高水準。その上キャラもエディであるため高評価。有望株である。
特筆すべきは常時エディによる立ち回り。
隙の無い立ち回りと柔軟なアドリブで、起き攻めに行かなくても高威力コンボを叩き込める。
何かしら攻撃を引っ掛ければ当たり前のように5割持っていく。
分身展開時の立ち回りは非の付け所が無い。

だがエディ使いには珍しく、起き攻めは苦手。
さらに筆記試験と点も芳しくない。

以上のことから、当該個体の評価はAとする。キャラ対策を充実させれば評価Sでも良いのだが。



やはりコイツは頭二つ抜けてる。エディにキャラ換えしたところでこの壁を越えられるとは考えにくい。

「す、凄い!筆記100点!?」

三綾が感嘆の声を漏らした。

「誰が?」
「紙野さんだよ。凄いなぁ…」
「ちょっとみせてくれ紙野」
「うん」

――――――――――――――終戦管理局報告書:第5236号――――――――――――――

Name. Kamino Tsuyoshi
Height. 168cm
Weight. 49kg
Birthday. 2/9
Bloodtype. A
Character.chipp

精神力   1
判断力   8
読み    6
立ち回り  8
コンボ精度 5
防御スキル 7
攻撃スキル 7

筆記試験 100点


当該固体はなんと言ってもプレッシャーに弱いのが難点である。
大会などで本来の実力を発揮するのはかなり困難に思われる。
一度克服してしまえば波に乗れるのだが、一刻も早く改善したい問題である。

戦闘スタイルに関しては柔軟で攻めも守りも得意。
長所は鍛錬に妥協を惜しまないところである。
筆記試験は完璧に解答しており、キャラ対策などの知識では他の追随を許さない。
実戦でこの対策を完全に再現できれば猛威を振るうであろう。

今後の成長にも大きく期待できる。ただしキャラが所謂「弱キャラ」であるのが難点か。

以上より当該個体の評価はCとする。



俺と同じだ…このままだと三綾、聖、郁瀬の3人がクラス代表ってことに?
いや、俺が知らないだけでクラスにはまだまだ強い奴がたくさんいるかもしれない。
とりあえず俺がこの3人に遅れを取っている事だけは確かだ。

「よーし全員渡ったな!それじゃあ解散!」

雁田一言そう言って教室を出て行った。教室内はすぐに生徒の声で埋め尽くされた。
これから長い夏休みが始まる。この1ヶ月で絶対今より強くならないと―――

「もう一回言ってみろよテメェ!!」

その時怒声が教室に響いた。まさに青天の霹靂だった。

「おいおい聞こえなかったのか?もう一度言ってやろうか?」

永園と男が言い合っている。見覚えがある…部活見学の時に永園と一緒にいたヤツだ。

「永園テメェふざけんなよ!!」

―――ゴッ

殴打。
教室内が不気味に静まり返る。
男が鼻と鼻が付くくらい永園に顔を近づける。

「あの雑魚チップ使いにも負けたくせに、いきがってんじゃねェぞ!ああ!?」
「―――ペッ」

ビチャ

「うわ!?目が…!?」

永園の口元ニタリと歪んだ。

「うぜェんだよ雑魚が」

相手の腹を足の裏で潰すような蹴りを繰り出す。

「ウオぇっ…!」

嘔吐する寸前のような悲痛な叫び。男が腰を折り曲げて地面に手をつく。

「これで蹴りやすくなったな」

ブォンッ!!と頭に一撃。バットのスウィングのような、横に振りぬく蹴り。
男はそのまま無造作に地面に倒れた。永園が男の頭をゴリゴリ踏みつける。

「もうお前らみたいな屑と馴れ合うのも飽きたって言ってんだよ」

黒い笑み。下を見ると男は顔面蒼白になって小刻みに震えている。耳からは出血が確認できる。
だが男はただ震えるだけで叫び声一つ上げない。
恐怖のあまり叫び声を上げられない?いや、違う。

あれは震えじゃない―――痙攣。

「脳震盪を起こしてるぞ!!」

思わず叫ぶ。状態を見たところかなりヤバイ。手足の痙攣は脳に異常がある可能性が高い。

「きゃーーーーー!!!!」

俺の一声が引き金となって生徒達が取り乱し始めた。
数分後、悲鳴を聞きつけた雁田が血相変えて教室に入ってきた。
女生徒の悲鳴、雁田の怒号、生徒の取り乱す声…全てが混ざり合って混濁とした狂気が教室に充満していた。


その後教師が数名慌しく教室に入ってきた。男は急造の担架に乗せられて病院へ運ばれた。
かなり重い脳震盪ではあったが、幸いにも後遺症は残らずに済むらしい。
そして永園は今雁田に糾弾を受けていた。

「永園!!お前は自分が何をしたか分かってるのか!!」

永園はぼんやりと突っ立って一言も言葉を発しない。
何をしている?弁解しないのか?
確かに永園の行動は非道なものだったが永園だけに罪があるわけじゃない。あの男が先に仕掛けたんだ。
何故そう言わない?「アイツがさきに殴ってきたんだ」そう言えばいいじゃないか。言えよ!!

「永園の行動は自己防衛の範囲ですよ!」

なんでそんなことを言ったのか、その時は自分でもよく分からなかった。

「先に手を出したのは相手です。行為の程度の差こそあれ、相手にも非はあります。
 永園だけに罪を着せるのはいかがなものでしょう」
「松瀬…?」

雁田が呆気に取られる。無理も無い。俺自身だって…

「自己防衛の範囲…俺には逸脱してるように見えるが?」
「確かに多少逸脱していますが、動機は紛れも無く自己防衛です。
 抵抗しなかったら今頃病院にいるのは永園の方かもしれません」
「本当かお前ら」

教室にいた生徒達も黙って頷く。ここで下手なことを言えば永園の報復に遭うと思っているのだろう。

「……協議が必要だな」

雁田はポツリと呟いて教室を出て行った。
数十分ほどして帰ってきた雁田は「永園 翼は1ヶ月の停学」というような内容を簡潔に話したのだった。

「苛めとか暴力沙汰は見過ごさないんだね」
「…まぁな」
「脳震盪とかも良く解ったね。凄い」
「……小、中学生のころは友達がいなかった」
「え?」
「本の虫だったんだ。本が友達。本が全て。
 最初は普通の子供が見るような小説。愛と友情のファンタジー。特にこれと言って面白いものじゃない。
 陳腐な勧善懲悪で、月並みのストーリーで―――でも大きな憧憬を抱いて読んでいたのを覚えている。
「松瀬?何言ってるの?」

呆気に取られる私に構わず、松瀬は話を続けた。

「でもすぐに自分が惨めになって、読むのをやめた。
 読んでるうちはいい。楽しい。嫌なことを忘れさせてくれる。
 でも得てしてそういう本は読み終わったときの喪失感が激しい。好きな本であれば尚。
 小説の世界はこんなに楽しいのに、現実はいつだってつまらない。酷だ。
 だから関係ない本を読み漁った。ガキが理解できるわけが無い本も読んだ。
 医学書もそのうちの一つでしかない。
 現実を忘れることが出来れば、何でも良かったんだ」
「嫌なことって…松瀬も苛めに?」

松瀬の顔が翳る。

「違う。むしろ逆だ。返り討ちにしてやったんだ」

淡々とした口調だった。感情が入り込む余地のない機械のような声。血の通っていない言葉。
冷え切っている。これが本来の彼の姿なのだろうか。

「……中学に入ってすぐだ。理由はよく覚えていない。
 たしか、ゲームオタクで気持ち悪いとか態度がムカツクとか言われたんだと思う。
 子供は純粋だからな。『気に入らない』というのは矛先を向けるには十分な理由だ。
 単純で率直。だからに刃は深い所まで刺さる」

溜息。

「多分限界だったんだ。ゲロ吐くまで殴ってやったよ。こんな細腕だが、人体急所は心得ていたしな。
 1人殴れば他の者はビビって怯む。あとは混乱に乗じて適当に、だ」

なんか…松瀬…怖い。

「勿論そんなつもりはなかった。正当防衛の結果だ。
 でも周りはそう見てはくれなかった。そして孤立した。
 今でも時々あのときの光景が甦るんだ。最近も何度かあった。
 胸の奥からムカムカしてくるんだ。そうなるともう自分でも訳わかんなくなる」

松瀬はただ淡々と言葉を吐き出していく。

「紙野を見たときに、像が昔の俺と重なった。すげー不快だったよ。
「なんで?」
「なんも変わってないって思ったから。
 当たり前のように苛めが起きて、当たり前のようにそれを黙認する奴等がいる」
「でもさ、そういうのって自分で克服しないと駄目なんじゃない?松瀬がそうしたように」
「かもな…でも、その前に心がぶっ壊れちまうかもしれない。
 『苛めを苦に自殺』なんて珍しくも何ともないぜ?たまにニュースで見るだろ?
 俺だって、小学生の時点で既に少しおかしくなってた。ギルティが無かったら死んでたかもしれない。
 苛めに立ち向かうのは必要なことだ。でも心が衰弱していくとそんな気力が次第に失われていく。
 どんどん弱っていって、苛めが加速する。悪循環の完成だ。循環。円。終わらない」

息が詰まりそうな沈黙。話題を変えたい。

「そう言えば松瀬はなんでギルティを?」
「知識こそ肥大していたが精神は年齢相応だ。自然と漫画やゲームに興味を持ち、ギルティを知った」

松瀬の顔が少しだけ明るくなる。

「そして少しだけ人との会話も生まれ始めた。ギルティは本とは違った。何でだと思う?」
「えっ?わかんないなぁ…」
「現実と、人と、直接リアルタイムで繋がってるからだ。
 そして今、どうにか真人間として歩んでるってわけだ。全部ギルティのおかげだよ」
「ふ~ん…」
「…軽蔑したか?」
「松瀬は松瀬だしね。それに悪いことしたって反省もしてるし」
「そうか…良かった」

松瀬の顔に安堵の色が広がっていく。

「それにしても、そんなに物知りだとは知らなかったよ」
「お前俺のことアホだと思ってるだろ」
「あはは…そんなことないよ~」
「知識をひけらかすのは馬鹿っぽくて嫌いだ」

そう言って笑った松瀬は普段通りの松瀬 緒土だった。矛盾に聞こえるが、言い得て妙な台詞だった。

「小学校の頃から頭おかしかったのね緒土は…憐憫を誘うわ…」
「松瀬君…暴力少年…少年院行き」と紙野さん。
「包めー!!オブラートで言葉を包めぇぇぇー!!」と松瀬。いつも通りだ。

うん。やっぱり松瀬は松瀬だよね。

「それより明日から夏休みだよ」
「だな。精一杯遊ぶとするか!」

教室を出ようとした。

「おい…ちょっと待てよ」

振り返ると永園さんが松瀬を睨んで立っていた。

「テメェなんの真似だ。俺に恩を売っても返す気なんてないぜ?」

あの時は自分でもよく分からなかった。何故俺は永園を助けた?
―――苛めをするような奴を何故助けた"松瀬 緒土"。殺してやりたいくらい憎いんだろ?
あの時みたいに嘔吐するまで殴ってやれよ。害虫は駆除しなきゃいけないんだ。殺さないといけな

「そんなんじゃねぇよ!」
「じゃあなんでだ!」

今分かった。
初めて紙野を見た時、他人のような気がしないと感じた…あれ、本当は永園の方だったんだ。
更生して欲しかった……俺みたいになって欲しくなかった。

「お前みたいな糞野郎を更生させるためだ!!」
「な、に…?」

永園は面食らったようだった。何を言ってるのかわからない。そう言いたそうな顔だった。

「ふ…ふざけやがって…」

永園はそう吐き捨てると教室を出て行った。その表情には困惑の色が滲んでいた。

「ねぇ緒土、あいつに限って更生するなんてことあるの?」
「さぁな。でも俺が意地でも真人間にしてやるよ。また面倒起こされたらたまったもんじゃないからな」
「はぁ…アンタってつくづく何考えてんのか解んないわ」
「ミステリアス?」
「そんないいもんじゃないわよ、変人よ」
「だからオブラートで包んで下さいってばぁぁぁぁ!!」
「うるさいわね!!」

ビリビリビリビリ!!

「いッてぇーーーー!!!?」

封雷剣が放電した。こいつまだこんなもの持ってたのか…早く投棄させないと人類の存亡に関わる。

「でも嫌いじゃないけどね」
「変人が嫌いじゃない?お前の方こそよっぽど変j」「斬ッ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
「俣奈、馬鹿はほっといて帰ろ!」
「あ、聖ちゃん待ってよー!」
「待てお前らーー!!」

身体が痺れて立ち上がれない。

「あ、兄貴…わ、わ、わ、私がか、か、介抱しま、しま、…フォォォォォォ!!!!」

―――!?―――

「ぼ、僕も帰るね…」
「ま、待ってくれ紙野!」
「兄貴ィィィィィ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁ・・・……」


「蘇留がこなかったら死んでたぞ!!」

あの後蘇留が漫画の主人公みたいに絶好のタイミング現れ、郁瀬をぶっきらぼうに投げた。
俺は隙をみて命からがら逃げ延びてきたのだ。
折角明日から夏休みだってのに、滅茶苦茶疲れちまった。

「三綾、ギルティの練習は少し経ってからにしようぜ。しばらくのんびりしたい」
「うんわかった。じゃあ練習するときは電話するね」
「ああ」
「あーあ…あたしも旅行なんてやめとけば良かったかなぁ…」

こうしてギル高一学期は幕を閉じた。長いようで短い4ヶ月だった。


―――闘劇まであと9ヶ月―――

『ダブルヘッドモービット!』
『ここが…墓場になるとは…!』

「だぁぁぁぁぁ!また負けたぁぁぁ!!」

夏休みに入って早や一週間。家で三綾とギルティの練習するのが習慣になっていた。

「お前強すぎるぞ…」

戦績を付けた方がやる気が出ると思い、一回目から付けているのだが俺の戦績は5勝23敗。
逆にやる気を殺がれる結果となってしまっていた。
こいつは卑怯だ。防御技能が高すぎる。ダスト、スラスト、起き攻めの中下2択もサッパリ当たらない。
流石に投げは当たるが、それでもJ逃げや足払い暴れでよく回避される。

「松瀬も動き良くなってきてるから大丈夫だよ。もう一回やろ」

三綾がRETRYにカーソルを合わせる。

「……待ってくれ」
「ん?」
「ちょっとキャラ替える」

俺はCHARACTER SELECTを選択し、
ヴェノムのすぐ斜めのジョニーにカーソルを合わせた。

「ヴェノムの練習しなくていいの?」
「…いや、一回使ってみるだけだ。手加減はいらないからな」


『エレガントに決めるぜ』
『そこを退いてくれないか』
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』

『もらった』『カウンタ!』

ヴェノムの6Pに6HSを合わせる。
ジョニーの牽制はヴェノムと相性が悪い。殆どが6Pで潰されてしまう。
だから相手は自然と6Pが多くなる。読むのは難しくない。6HSの翻りは偉大だ。

ピーン

続けてコインを当て、ダッシュK>LV2ミスト>ダッシュK>HS>コインのワンコンボ。
ミストがLV2の状態なら相手は迂闊に技が振れなくなる。
確かに技の相性ではかなり不利な組み合わせだが、中距離でのリスクリターンは雲泥の差がある。
こちらは何か引っ掛ければ5割。
このゲームにおいて5割というのはたいした数字に思えないかもしれないが、
ジョニーは中距離から一気にコンボに移行して体力を殺ぐ事が出来る。
早い話、コンボが完璧なら"ジョニーの牽制に当たる=5割減る"の式が成り立つ。
凄まじい火力だ。
これの所為で厨キャラとか言われることもある。
コンボしか出来ない厨房でも、コンボが完璧ならそこそこ戦えてしまうからだ。
ジョニーに限らず、これは高威力コンボキャラの宿命と言ってもいいだろう。

一方のヴェノムは最低クラスの火力。
火力という要素はけっこう軽視される傾向にあるが、実は凄く重要だ。
相手の火力が低いというだけでこちらはリスクの大きい技でも振りやすくなる。
捌かれたとしてもたいした被害は受けないし、逆に命中すれば甚大な被害を与えられる。

以上のことから、ヴェノムには"リスクリターンの差を強引に押し付ける攻め"が有効。
これを厨プレイと呼ぶ人間もいるが、他人のプレイスタイルに難癖をつけるほうがよっぽど厨だ。
そもそも立ち回りトップクラスのヴェノムに、立ち回りで付き合うのは厳しい。
ジョニーのように相性まで悪いと来れば尚のことだ。

さて、前置きが長くなったがヴェノム側としては超火力の一発が怖い。
何とかして距離を離してボールを作りたい場面。

―――バシュウッ!

受身から空中バックダッシュ。

(させるかよ)

『油断したなぁ』

距離を離す前に空中投げで捕まえる。すぐに前ステップで距離を詰める。

『もらった、足元注意だ!』

命中。ヴェノムが宙に浮かぶ。
6HSから下段ミストと燕閃牙の2択。普通こんな2択はあまり使わない。
が、相手は鉄壁の三綾 俣奈。使い古された手垢塗れの二択はほぼ確実に見切られる。
見えない2択か、それがなければ奇襲しかない。

『燕閃牙!』

そのままディバコンを決める。燕カスは失敗したが相手は残り2割。
ここでもヴェノムとしては距離を離したいところ。おそらく復帰して空中前ダッシュするはず。

―――バシュウッ

『油断したなぁ』

ドンッ

壁バウンド。K>HS>コインから再び空中投げを狙う。

『すまんな』

(返された…!?)

いや、大丈夫だ。ヴェノムの空中投げは糞弱い…ボールの生成を許してしまうが。

(上から強引に攻める)

こっちはミストLV2。ジョニーの火力なら投げからでも十分SLASHは射程内。
相手にペースを握られる前に畳み掛ける。

『ロマンティーック』

ディバ青。ガードされる。

ガッ、

続けてJPから当て投げ。

『油断したなぁ。いい的だぜ、いい的だぜ、もらった、燕閃牙!!』


「なんでジョニー使わないの?嫌いなの?」
「んな訳あるか」
「ジョニーにすればいいのに…そしたらさ、2人で闘劇行けるかもしれないよ」

俺はキャラ替えした方がいいのだろうか?
俺が使った場合、ジョニーの方が強いということが証明された。しかし…やっぱり俺は―――

「一回使ってみるだけだって言っただろ。俺はヴェノムのままで行く」
「でもこのままだと松瀬私に負けちゃうよ」
「へっ、今に見てろ…吠え面かかせてやる」


結局その後も三綾にボロクソに負けた。そもそも中下2択が効かないなんて反則過ぎる。

「何で勝てねぇんだよ…」

三綾を倒さないと絶対闘劇には出れない。この壁、厚すぎる。破れない。
雁田にはキャラを替えろと言われるし、三綾にもジョニーの方が強いといわれる。

(くそ…どうすりゃいいんだ…)

「悩んでるの?松瀬らしくないね」
「うるせーな」

誰だって悩むだろこれは。

「よーし分かった!明日遊園地に行こう!!」
「―――は?」

「気分転換だよ」

のほほんと言う。何も考えてないなこいつ。

「独りでいけ」
「松瀬も一緒」
「なんで俺がそんなところに行かなきゃならんのだ」
「ふっふっふ~実はねぇ、明日私の誕生日なんだ~」
「だから?」
「祝って」

こうもストレートに誕生日を祝ってくれと言われると流石に反応に困る。

「それにね、松瀬は私の言うことは絶対聞かなきゃいけない理由があるんだよ」
「な、なんだよ?」
「この前松瀬が風邪引いた時に看病してあげたでしょ」

そう言えばそんなことあったっけ…。
ま、別にいいか。三綾には本当に世話になったし、恩返しの一つや二つするのは当たり前だよな。

「わかった。俺もお前に何かお返ししないといけないもんな」
「ほんと?」
「ああ、好きなところに引きずりまわしてくれ。どこに行くんだ?」
「じゃあね、私ディズィーランドに行きたいな。ミッギーマウス凄くかわいいんだよ」

―――ミッギーマウス―――!?

「三綾さん、それは駄目ですよ!!」
「なんで?」
「ミッギーマウスとか言っちゃ駄目ですよ!!版権ギリギリじゃないですか!!」
「ん?なにが?ディズィーランド駄目なの?版権って何のこと?」
「ああああああああああああ!!だから言っちゃ駄目だってぇぇぇぇ!!
 早く撤回して下さい!!怖い人達が来るー!!」

あまりのショックでキャラがおかしくなる。

「ミッギマウス♪ミッギマウス♪ミッギミッギマウス♪」
「おおおおおお願いやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


次の日―――

俺はディズィーランドに来ていた。
入り口の前には精一杯お洒落した三綾が立っていた。一瞬誰だか分からなかったくらいだ。

(…って、あれ…?あいつ誰と話してるんだ?)

三綾は男2人組みと話していた。紙野?郁瀬?いや、ちがう。見た事無い。

「おい三綾ー!」
「あ、松瀬おそ~い!」

俺が三綾に話し掛けると、男2人組みは顔をしかめて去って行った。

「時間通りじゃねぇか」
「えへへ、言ってみたかっただけだよ。じゃあ行こっか」
「今話してたヤツら誰だ?」
「ん?一緒に遊園地行こうって言われたの」

ナンパか。こいつ良くDQNに声掛けられるな…騙されやすそうな顔してるもんな…。

「でも断ったから大丈夫だよ」
「当たり前だ」

俺たちは版権ギリギリの名称の遊園地へ入った。
中には長髪で2足歩行のネズミがあちこちにいた。
三綾はその奇怪な着ぐるみを見るなり「ミッギーマウスだ~!」と歓喜の声をあげて走り寄っていった。
多分中の人もビックリしたであろう。いまどき小学生だってこんなものに騙されない。

(っつーかこれ…かわいいか?不気味としか言いようがない…)

俺はそんなことを考えて三綾とミッギーマウスが並んだ写真をとった。(俺の分も取られらた)

「今日はいっぱい遊ぶよ~!まずは何に乗ろっか?」
「任せる」

遊園地なんて来たのは初めてだ。乗り物とか全然知らん。
それにこんな所にきているのは子供連れの家族やらカップルばっかりだ。
高校生が友達同士2人っきりで来るというのは場違いな感じがする。

「じゃあFUJIYAMAに乗ろっか」
「なんだそれ?」
「ジェットコースターだよ。乗ったことある?」
「いや、ない。そもそも遊園地にきたのなんて初めてだからな」
「じゃあ行こ。面白いよ」
「あんまり怖いのは勘弁してくれよ…」
「ん、大丈夫だよ。日本の数あるジェットコースターでも一番怖くないやつだよ」
「ほんとかよ…」
「だってフジヤマだよ?」

その一言で納得してしまう俺は根っからのギルヲタなんだと痛感した。
だが…チップ=弱いという考えと同時に、チップ=シッショーという考えも脳裏を掠めていた。

(まさかな……)

「松瀬怖いの?結構かわいいとこあるね」

なんか腹が立つ。

「はっ!怖くなんかねぇよ!!行こうぜ!!」


「な、なぁ三綾…この立て札って…」

"FUJIYAMA"の乗り場の前には不吉な看板が立てられていた。

       『シショる危険性がありますので紙装甲の方はご遠慮ください』

「あはは、それ冗談だよ。だいじょーぶだいじょーぶ」
「……」
「それではお客様の防御係数と根性値、GB防御力を計らせていただきます」

係員がへんてこな機械を取り出す。

「えーっと、防御係数1.06…根性値2…GB防御が0.88…はい。大丈夫ですよ」

三綾はパスしたらしい。俺の番が来る。

「えー、防御係数1.16…根性値が3…GB防御が1.25…うーん…ギリギリ大丈夫…ですね」

ギリギリってなんだ。それは一体なんのラインなんだ。生命線とか言ったら泣くぞ。

「ず、ずいぶん本格的じゃないか三綾…」
「これも冗談だよ。リアリティ出すためだよ」
「お前の発言はちゃんとリアリティあるんだろうな?」
「あはは、大丈夫大丈夫~」
「……」


「あ、一番前だよ。ラッキーだね私たち」

1時間も並んでようやく順番が回ってきた。本当にこれは大丈夫なのだろうか?
でも三綾はぜんぜん怖がってないし…三綾が平気なら俺だって平気なはずだ。

「松瀬、早く早く」

というか俺はさっきからビビり過ぎだ。一度も乗ったことも無いモノになんでこんな恐怖を抱く?
これはちょっとデカいだけの玩具なんだ。安全だし、何も怖がる必要は無い。

「お、おう」

三綾の隣に座った。

「それでは楽しんできてください」

係員が合図するとジェットコースターがガタガタと音をたてて動き始めた。

「なんだ。滅茶苦茶ゆっくりじゃないか。これ詐欺か?」

ビビって損した。

「まだ本番じゃないよ。これからこれから」

この様子だとマジで大丈夫そうだな。ここはどっしり構えて三綾に余裕を見せ付けてやろう。


ガタンガタンガタンガタン……

ジェットコースターが60度くらいの角度で斜面を登り始める。
かなり急な角度だ。しっかり手摺に掴まってないと後ろに落ちてしまいそうだ。

ガタンガタンガタンガタン……

「結構昇るんだな」
「まだまだ昇るよ~」

地面に目をやると人が豆粒みたいになっている。遊園地の全容が一望できる。なかなかいい眺めだ。

ガタンガタンガタンガタン……

「ちょ、ちょっと昇り過ぎじゃないか?」
「まだまだ昇るよ~」

あんなにデカいギル校が今は俺の遥か下にある。もう俺たちより高い建物は無い。
目線を水平に戻すと視界に入るのは空の青ばかり。
高所は苦手なんだがなぁ…

ガタンガタンガタンガタン……

「………」
「まだまだ昇るよ~」

ここへ来て急激に恐怖心が増殖してくる。
下を見るのは止めた方がいい。もうここまで来ると下にいる人間なんか小さすぎて見えない。
ミジンコみたいなもんだ。
視線を上げて横に目をやる。
山だ。
山がある。
超高ぇ。
あーやばいわ。これやばいわ。落ちたら死ぬわ。
もう山は見たくない。
反対側に目をやる。三綾 俣奈がいる。全然怖がってない。笑顔だ。
そうだ。これは乗客をビビらせる為のモノなんだ。三綾は解ってるから怖くないんだ。
乗客が死を覚悟したところで、ゆったりと地上に降りるんだ。
そして係員が笑いながら「ビビったっしょw」とか言うんだろ、どうせ。
もうネタはばれてんだ。そうだ。そうに違いない。もうこっちは見切ってんだ。

           だ か ら 降 ろ し て く れ 

ガタッ

ジェットコースターが水平になった。てっぺんまで来たんだ。
そう思った次の瞬間に、コースターは垂直になった。

下界が視界に入った。

ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

絶叫と爆音を撒き散らせてコースターが猛然と走り始めた。いや、落下し始めた。
手摺を握る手に死ぬほど力を入れる。
この手摺を放したら、死ぬ。
間違いない。
爆風が顔面を殴りつける。あまりのスピードのため、残像の効果で世界が"線"になる。
地面が凄まじい勢いで近付いてくる。

「ああああああああ当たる!当たる!当たるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

当たらない。
地面に衝突するスレスレでコースターが急激に角度を変える。
昇りだ。どんどん角度が上がっていく。
30度…40度…50度…。
しかし速度は一向に衰えない。暴風が顔面を変形させるほど強く吹き荒ぶ。
70度…80度…90度…。
もうあまりの恐怖で声もあげられない。手摺を握る手にすべての力を集結させる。
ほかのところに力を分散させる余裕など無い。
110度…120度…130度……?

「な、な、な、」

世界が上下逆さまになる。乗っているコースターの最後尾が見える。
一回転しているんだと気付いた時には、次の回転。

「回るぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!??」

エディばり絶叫を上げる。縦回転の次は横回転。顔が右へ左を大きく揺れる。
コースを支える鉄柱が猛スピードで次々と後方に流れていく。

「やめ、とめ、とめ、とめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

また落下、上昇、蛇行、回転―――世界がぐるぐる回る。

「きゃーーーーーーー♪」

三綾が腕を掴んでくる。全く怖がっている様子は無い。それでころか楽しんでいる。
俺ができることは、ただ全身全霊の力を込めて手摺に掴まり、コースターに翻弄されるだけだった。

ガタンガタンガタンガタン……

「お疲れ様でしたー」
「楽しかったね松瀬。もう一回乗ろっか」

ふざけんな。もう一回乗ったら間違いなくシショる。力を入れすぎたせいで両手が痺れてる。

「あれ?本当にもう一回乗るの?」
「んなわけねーだろ!」
「じゃあ早く降りようよ」

そうしたいのはやまやまなんだが…

「こ、腰が抜けて立てん…」
「あはは…じゃあ治るまでここに座ってようよ」

三綾も席から動かない。

「それでは楽しんできてくださーい」

え?

ガタンガタンガタンガタン……

「み、三綾さん、なんか動いてるんですけど」
「うん。後ろに並んでるお客さんいなくて良かったね。連コならぬ連乗りだよ」

ガタンガタンガタンガタン……

「やめろおおおおおおおおおお!!俺は降りるぞおおおおおおおおおお!!」
「もう遅いよ松瀬」

ガタンガタンガタンガタン……ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!

「ぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……ぁ………ぁ…………」


もう2度と地上に降り立つ時はこないと思ったのに、俺はギリギリ生還できた。

「あー面白かったぁ」
「て、てめぇ騙しやがったな…何が『怖くないよ』だ」
「ん?怖くなかったでしょ?怖かったの?」
「くっ……こ、怖くなんかねぇよ!!」
「じゃあいいじゃん」

畜生。

「ほら松瀬、写真。松瀬の顔面白いよ」

写真には白目を剥いてる俺が写っていた。三綾は俺の腕に掴まってるが、その表情には余裕がある。

「早く燃やせ」
「いらないの?じゃあ私が貰うね」
「頼むから燃やしてくれ」
「だめ。次はどこに行こっか?」

俺たちは悪夢のコースター乗り場を後にした。
それからも三綾の巧みな話術に踊らされて色んな絶叫マシーンに乗る羽目になった。
2時間もたつと俺は精神的ダメージで疲れ果ててしまった。

「ちょっと休憩させてくれ…」
「私飲み物でも買ってくるね。松瀬はベンチで休んでていいよ」
「あ、俺はお茶を頼む」
「うん。じゃあ行って来るね」

そう言うと三綾は自販機を探しに向かった。

(よし…この隙に買い物してこよう)

「はぁ~…疲れた…」

買い物を終えてベンチに戻ってくる。自然と言葉が漏れた。

(マジで疲れた…)

魂の叫び。

(でも―――楽しかった)

「ハロー、グロッキーボーイ」
「あん?」

突然背後から声。振り向くとそこには長髪の不気味な二足歩行ネズミ。

(ミ、ミッギーマウス…)

はっきり言って不気味だ。早く去って欲しい。
俺に一体何の用があるんだ?まさか捕って食おうってのか?このネズミなら普通にやりそうで怖い。

「君に素敵なプレゼントを差し上げよう」

そう言ってミッギ―マウスは薄っぺらい紙きれを俺の掌に乗せた。

「なんだこりゃ?」
「あ、見ちゃ駄目!」
「は?」
「君、ジョニー使いで合ってるよね?」
「なっ―――!?」
「驚くことは無いよ。
 目を見ればわかる―――いや、待てよ…やっぱりヴェノム使い…?おかしい…ぼやけるな…?」

何なんだこのネズミは。中の人は一体何者なんだ?なんでギルティの話題が出て来る?

               「ねぇ、君、何使い?」

俺は"何使い"?ジョニー使い?ヴェノム使い?それともエディ使い?
どれだっけ?俺は…何使いだっけ?
俺は―――

「俺は"ヴェノム使い"だ!!」

そうだ。俺はジョニー使いでもないし、ましてやエディ使いでもない。俺は"ヴェノム使い"だ。

「うん。やっぱりそうだったか。じゃあこれをあげよう」

もう一枚紙切れを取り出し、掌に乗せる。さっき貰った紙切れはミッギーマウスに取られた。

「君は将来有望だから、これをあげよう。家に帰ったら見てくれたまえ」
「お、おい!お前一体…」
「私は"ミッギーマウス"だよ。それ以外の何者でもない。じゃあね"ヴェノム使い"君」

ミッギーはいつの間にか姿を消していた。本当に消えてしまったように、一瞬だった。

「松瀬ーー!!」
「うお!?」

三綾が爆走してくる。

「今ミッギーと話してたでしょ!ずるい!」
「お前も散々話してり抱きついたりしてたじゃないか」
「はぁ……ミッギーかわいいよねぇ~……」

かすれた声で甘い溜息をつく。
今三綾は脳内でミッギーとお花畑で楽しく戯れているのだろう。

「あれのどこがかわいいんだよ…不気味だぞ」
「はぁ…松瀬の心は汚れてるんだね…あんなにかわいいのに不気味だなんて…」

またうっとりする。

「早く正気に戻れ」
「あ、ごめんごめん。はい、お茶だよ」
「悪いな」

2人でベンチに座ってお茶を飲む(三綾はオレンジジュースだった)

「楽しかったね?」
「……そうだな」

早いもので、もう夕方になっていた。遊園地が黄昏に染まっている。

「最後に観覧車乗らない?」

「普通の観覧車なんだろうな…」
「はは…大丈夫大丈夫。今度は本当に絶叫マシーンじゃないよ」

もう三綾の言葉は信じられない。でもこうして見る限りは確かに普通の観覧車だ。ゆっくり回ってる。
最後くらい絶叫マシーン以外の乗り物に乗りたい。

「じゃあ乗るか」

2人で観覧車に向かった。


「わぁ~高いね~」

窓に鼻がつくくらいの勢いで観覧車から下を見る。
薄々(と言うか最初のジェットコースターに乗った時から)気付いていたけど、松瀬は高所恐怖症らしい。
下は全く見ようとせず、夕日赤く染まった空と雲をぼんやりと眺めている。
私もつられて夕日を見る。眩しい。

「綺麗だね…」
「三綾」
「ん、なに?」

松瀬が出し抜けに、本当に何の前置きもなしに呟いた。

「これ…やる」

でっかい袋を渡される。実はずっと気になっていた。
ジュースを買って戻ってきたら、松瀬の手にはこの大きい袋がぶら下がっていたのだ。
そのときはミッギーに夢中でそれどころじゃなかったけど。

「なにこれ?開けていい?」
「いいぞ。気に入るかどうかは分からんけどな」

がさがさがさがさ

「か……」

袋を開けると中から熊のぬいぐるみが顔を覗かせた。

「かわいい…」

あまりのかわいさに、それ以外の言葉が出てこない。

「ロジャーだってよ」
「これ…私に?」
「た、誕生日を祝えって言ったのはお前だからな!」
「そんな…悪いよ。高かったんでしょ?」
「た、大した事ねぇよ。それに、こういうのは素直に受け取るのが礼儀ってもんだ」
「でも…」
「返されても困る。熊のぬいぐるみなんて男の部屋に一番あってはならない物だからな」

これ…松瀬が買ってくれたんだ…。松瀬のことだからきっと買う時は恥ずかしかったんだろうなぁ…

「うん。ありがとう…うれしいよ」
「そうか…良かった」

「お疲れ様でしたー」

係員に迎えられながら観覧車を降りる。

「もういいのか?」
「うん。楽しかったよ。ありがとう松瀬」
「俺も楽しかった。いい気分転換になったしな。本当は俺の気分を晴らそうとして誘ってくれたんだろ?」

実際かなり心が晴れた。人間なにがきっかけで持ち直すか分からないもんだな。

「ううん、違うよ。これは私のわがままだよ。それより、このロジャー大切にするね」
「ああ。そうして貰えるとうれしい」

これを買うのはかなり恥ずかしかったからな…


「何かお探しですか?」
「ああ、女友達に誕生日プレゼントを買いたいんだが…」
「彼女ですか?」
「ばッ…ち、ちがいます」
「そうですね、これなんかいかがですか?」
「ロジャー…か…」

たしかにこれなら三綾でも喜びそうだ。
金額は高いが…まぁいいか。どうせ俺が持っててもすぐに筐体に吸い込まれて消えてしまうんだ。
たまにはこういう形ある買い物をしないと金銭感覚も狂う。ロジャーを買おう。

「何て言って渡そうかな…」
『命を無駄にするな』
「ぎゃー!!は、刃物が飛び出したぁ!?」


「ロジャーかわいいなぁ~」

抱きしめて頬ずりしてる。刃物を外しておいて本当に良かった。
こんなに喜んでもらえるとこっちとしても買った甲斐がある。いい買い物した。

「じゃあそろそろ帰えるか」
「うん」

こうして俺達はそれぞれの家へ帰っていった。