ミーンミンミンミー……
それは、蝉しぐれが聞こえるような夏の終わりだった。

===『SLASH』===

筐体に文字が刻まれる。

バサっ…
「その辺にしときなぁ…」

ピンクのレンチコートを翻し、俺のキャラクター「ジョニー」が今日何回目かの勝ちポーズをする。

「うぜぇー!」
反対側の筐体から聞こえる声。
「ぶっぱ燕ばっかりしやがってよー!」
「……。」
慣れた光景だった。
反論する気なんて既に起きない。
『ぶっぱ』-ぶっぱなし。読み合いからではなく、殆ど適当に、後先考えずに行動を行う事…

『ぶっぱ』そう、俺が呼ばれてどれくらい経つだろう。
最近ではさっきのような厨房にまでぶっぱと呼ばれるようになった。
―――違う。
説明しても誰も信じない…。
戯言と信じて疑わない。けど、俺は―――

ガチャーン!!

コインの投入音と共に筐体の画面がキャラセレへ移行する。

連コか……
周りには余り客もいないし、らしいって言えばらしい行動だよな。

ふー、と溜め息にも似た深い息を吐く。

カーソルが…動かない。

?迷っているのか……?
いや、さっきもソルだったな。

しばらくして筐体の向こうの人物は、やはりソルを選択した。

最初から早く選べよ…ったく。

画面がお互いのキャラを映し出し、戦闘画面に移行する。

ジョニー:ソルか。6:4で俺有利だな。悪くない。

良いか悪いかは別として、俺には対戦前に必ずダイヤを思う癖がある。

開幕は…バクステにするか?
いや、さっきのソルなら開幕グランドヴァイパーも十分ありえるな。
……コイン安定、か。

『先に言っておくが…俺ぁパーヘクトだぜ?』
ピンクのジョニーがバラを投げると同時に
『どうなってもしらんぞ…!』
白いソルが封炎剣を引き抜いた。

===『Duel 1 LetsROCK!!』===
チャリーン!
「ォゥァー!!」
ゴッ!

なに!?

開幕、俺がコインを投げると同時に突っ込んできたソルが6Pを叩き込む!
吹っ飛ぶジョニー、追いかけるソル!
地面から少し上の高度で受身を取る俺。
ソルはジョニーに向かって猛然とダッシュをかける!

この高度、燕は……ダメだ。
出す状況が悪すぎる。ガードされたら、1段目のみ当たったら、目も当てられない。
それに―――今はまだ、『見えない』

着地と同時に2択を迫られる。
中段はダスト以外ない。
コマ投げと下段の2択。

なら、ファジーが有効!
下段>ジャンプで逃げ切る!

着地、それと同時に下d……
『やる気ねぇのか?』
ガシッ

通常投げ!?

頭突きを食らわされたジョニーがさらに吹っ飛び、画面端を背負う!
瞬間、ソルがダウンしたジョニーにガンフレ青を重ねる!!
効果は言わずもがな。
リバサバクステの防止、ガード状態の強制。
つまりは、持続的な攻めだ。

ゴウッ!!
独特のサウンドエフェクトと共にソルが低空を舞う。
一方的に押し付けられる3択!

―――逃げ切れ!!
全身の毛が逆立つ。

『ハッ!』
右渡の声が響く。
初弾はガンフレイム着弾後にJS。セオリー通り上段ガード。
そして……

右渡の声が一瞬止む。

2kかぶっきらか…くそっ!

とっさにレバーを斜め下に倒す!!
ガイン!!
『その辺にしときな』
攻撃の防御に成功したジョニーが呟く。

2k>2Sまで。
もう一度2Sか?それとも足払いか?
2Sは…足払いは……
こない!!

必死のハイジャンプで逃げるジョニー。
ソルの追撃はない…。

仕切りなおしだ

全くジョニーの言うとおりだ。
…その辺にしといてくれ。

しかし、着地後バクステをしながらソルを見て思う。

こいつは、さっきのヤツとは別人だ。

プレイスタイルが違いすぎるのだ。明らかに。
独特のリスクリターンが合わない攻めがない。
慎重なのだ。それも恐ろしく。

2S2Dで刻んで一発Dループに賭けて来るタイプか?

―――。

そこまで考えて俺の思考は急に停止した。

めんどくせ。攻めてみりゃ分かるってね。

少しずつ、前進と後退を繰り返す。
攻めあぐねているのか、相手も同じ行動だ。

開幕より少し離れたこの位置で俺が選んだ選択肢は――
6HS!!
ガキンッ!!

『おいおい……』
ソルが呟く。

まったく、その通りだな。
自分の攻撃の選択肢に自分で呆れながらそれをMCしてステップする。
接近戦でもない、中距離。

この距離は―――俺(ジョニー)の距離だ!

『ハッ!』
2Sを出して素早くMCする。
続いて牽制の遠SをMC。


―――動かない。

ソルに動きが見られない。

どうなってんだ……

疑問が頭をよぎる。

だが、ココで手を休めるわけにはいかない。
ソルの一発は怖いし、何より生来の攻めジョニーである俺が手をこまねくシュチュエーションではない。

―― 一気に叩き潰す!

チャリーン!
金属音と共にコインが舞う。
それを追いかけるようにHS。
コイン>HS>コイン>2SMC

徐々にソルが画面端を背負う。
それと共に赤くなる俺のテンションゲージ。
そして、すでにGB点滅寸前の追い詰められたソル。

画面端、TG、LV2ミスト

この3つのうち、2つを満たさなければジョニーの火力は発揮されない。
…が、

無理やりにでもこの状況を作れば、単発攻撃が多いジョニーはGBを溜めやすく、そこからの一撃は確実に相手のライフを奪う。


――― ぶ っ ぱ な せ !

俺の中の何かが叫ぶ。

そう、しかし、それは俗にいうぶっぱではなく、確信に近い…

『 燕 穿 牙 ! 』

ゴッ!!

煌々と炎を纏って吹っ飛ぶソル!

ロマンティック!
グレッグの渋めなボイスが技をさえぎる!

空ダッシュ>JP>JS>JD>燕カス>2S>コイン

ソルが受身を取ると同時に

『おらよ!』
空投げからダウンを奪い霧。

ソルにはヴォルカがある。
迂闊に起き攻めをするのは危険すぎる。

―――特に霧がかかると相手の強さが3倍くらいになるしな。

ミストファイナーのLVは2……

そんなの関係ねぇんだコラァ!!
大人しくガードしてやがれ!

コイン>コイン>HS>コイン

お 金 祭 り 開 催 

そして――
『足元注意だ!!』
『調子に乗りやがって!!』

たまらずLV2ミストにあわせてサイクするソル。
ガインッ!

元々サイクに強いのがジョニーの強みでもある。
そして……

HS>コイン>HS>LV2上段ミスト>コイン>ディバ追加青>JK>JS>JC>JS>JD>燕

画面に刻まれるSLASHの文字。

……このソル…

納得がいかない。
ライフはもちろん、試合内容も俺の圧勝。
しかしなんだ…この嫌な感じは。
追い討ちコインの後の拾ってくださいと言わんばかりの受身、まるで撃たないVV。

まるで品定めされたような……


そんな俺の疑問を嘲笑うかのように時間は進む。

===Duel2 LetsLOCK!!===

2ラウンド目の幕が、あけた。

ジョニーの第一印象?
そうね…ちょっと、ううん、かなり変わった素材だったってことかな。
試合を見て一目でわかった。
この人は、見える人だって。
1Fが見えるとか小足みてから昇竜とかそういう超人的な視力じゃなくて…
相手の空気が読める人。

だって馬鹿げた数字よね?
3試合数えてたけど…単発の燕が13発中12発HITしてるもの。
確信したわよ…この人は見えてるんだって。

夏休みに地元に帰ってきてよかった。
このままココで埋もれさせるには、勿体無い逸材だわ。

Duel2 LetsLOCK!!

幕が明ける。

両者バクステ。平凡な幕開けだ。

私は私自身を以ってこの人を試す……

ごめんね。試すなんて失礼なのは判ってるつもり。
でも確かめたい。
私の感が正しいのかどうか、確かめなきゃいけない。

『ガンフレイ!ガンフレイ!ガーン…かかったか?』

ガンフレの牽制。
ギリギリのところで前後を繰り返すジョニー。

仕掛けるつもり?
でも、仕掛けるのは……

ゴウッ!
ソルが低空を舞う!

仕掛けるのはコッチからだわ!!

見える距離からの低空ダッシュ。大抵のジョニーならココで……

『そこか…!』
6P対空をしてくるはず!!
『ヴォルカニックヴァイパー!!』
叩き落としまで。

1R目で攻めは見せて貰った。
自分が一番信用している燕を起爆剤にしての爆発力は確かに脅威ね。
このRは……守りを見せてもらうわ!!

起き攻めは無難に2k
もう一度2k>2Sを刻む。

2Sを直ガしてジョニーがバクステ。
さらに低空バックダッシュで距離をあける。

っと、ここで逃がしちゃいけないよね。

ダッシュのコマンドを入力したその瞬間、ありえない台詞が耳に届く!

『燕穿牙!!』

うそっ!?

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最終更新:2006年11月26日 11:00