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2スレ目6」(2006/11/26 (日) 20:13:19) の最新版変更点

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「オラァッ!!」 今大会初となる永園のオーバーサーブ。球威はそこそこ、球速もまぁまぁ。早い話が中途半端なサーブ。 これならいくら疲労が溜まってるとは言え、楽に返せる。 「あっ!?」 と思った。しかし返せなかった。ボールはあたしの目の前までやってくると左に逃げていった。 さては左右の変化球か…。 「すげー!?アイツのサーブめっちゃ曲ってるぞ!?」 ギャラリーが見てもすぐに分かるくらい変化の幅が大きい。これを攻略するには骨が折れそうだ。 「よくやった永園!その調子だ!!」 「テメェは調子に乗ってんじゃねェよ。役立たずが」 しかし敵はチームプレイに難ありの模様。これなら上手く行けば勝てる。 「永園、俺の見たところ聖はもう体力が尽きかけてる。狙うなら聖の方だ」 緒土…こいつは勘が鋭い。洞察力も判断力も一流。身体能力に乏しいのがせめてもの救いと言っていい。 味方なら頼もしいが、敵になるとこれ以上厄介な相手はいない。 「…ふん…これぐらいの疲れ、アンタ達には丁度いいハンデよ」 「ぬかせ」 再び永園がオーバーサーブを放つ。右か、左か。 「くっ!」 左に飛ぶ。しかしボールは右へ。読みが外れてしまった。2-0。 ……今度こそ見切る。 別にこのボールはランダムで曲るわけじゃないし、 ましてや抗鬱音階のように撃った後で任意に曲げることが出来るわけでもない。 回転という物理現象に依存しているだけの話。 要は右回転なのか左回転なのかを見切ればいいんだ。 「オラァッ!!」 目を凝らしてボールを見る。 (右…かな…?) 右に飛ぶ。ボールも右に曲る。でも――― (届かない…!) 予想以上にボールの変化が激しい。腕を精一杯伸ばしてもボールが外へ逃げていく。 随分と厄介なサーブを打ってくる。 もう体力も残ってないから、変化前を叩くとか言った荒技も出来そうに無い。 「これは追わない方がいいわね…」 「先読み?」 「そういうこと。俣奈はコートの左側をお願い。あたしは右をカバーするから。絶対ボールは追わないで」 左右に割れる。 「オラッ!!」 疲労のせいで頭の回転まで鈍ってしまったのだろうか。 左右に割れれば真ん中に無回転のストレートサーブを放ってくるに決まっていた。 変化球を意識しすぎていて全く反応できなかった。4-0。 「聖ちゃん」 「ん…?なに?」 ……ごにょごにょ 「なるほど…うん。分かった。やってみる」 (なんだ…?) 三綾 俣奈がネット際まで前進している。あんなに前に出て何をする気だ? 変化前のボールを叩くつもりか?いや、あいつの運動神経は相当悪いはずだ。 そんな芸当が出来るはず無い。なら何をするつもりだ? ふん…どうでもいい。オレのサーブには指一本触れさせねェ。 「オラァッ!!」 ―――バシッ! 「聖ちゃん!右だよ!!」 「分かった!」 (なに?) ―――ぼんっ! (チッ…そう言うことか…) 三綾に球筋を見切らせ、江辻はそれに従って動く。合理的で無駄が無い。 江辻の卓越した運動神経をもって初めてなせる連携だ。 だが三綾が前に出ているという事は、江辻は広いコートを1人で守っているも同然。 いくらあの女でもスタミナが無くなれば動きも鈍る。 気にする事はない。前後左右に走らせて体力を奪えばいい。 「マッセ!スパイクが来るぞ!!止めろ!!」 「分かってる!!」 江辻が腕を振りかぶる。 「よっと…」 トン… 「あ!?」「しまった…」 フェイントを掛けてくるとは……。4-1になる。サーブ交代。 江辻の剛速球は果たして健在なのだろうか。体力は一体どれくらい残っているのか。 「今度は…こっちの番ね…」 ―――バシィッ!! 「くっ…!?」 「うお!?速ぇ!!」 体力は確実に切れかけている。1回戦に比べて明らかにスピードが落ちている。 それでもこの球速…半端ねェ。マジで女かコイツ。 「もう一丁…」 ―――バシィッ!! 速すぎる。取れない。触れない。こいつのサーブがある限り、こっちは圧倒的に不利だ。 「マッセ!なんとかしろ!! 「無茶言うな!!」 「良し…このまま…」 ―――バシィッ!! ―――ピーッ!! 「アウト!」 ギャラリーがざわめく。ようやく江辻スタミナが切れたようだ。残るは三綾。楽勝だな。 「聖ちゃん大丈夫?」 「はぁ……はぁ…はぁ…っ、結構…キツイかも…」 もう少し遊んでやっても良かったんだが、ここは遠慮なく決めさせてもらうぜ。金一封はオレの物だ。 「オラッ!!」 懸命に三綾が手を伸ばすが、変化するサーブには届かない。6-3。 「オラァッ!」 「聖ちゃん!左!」 「はっ!」 ―――ぼんっ! 聖がボールを上げる。 「聖のやつ…まだそんな体力が…」 しかしもう体力は完全に切れているようだ。肩で息してるし、呼吸の乱れも激しい。 この状態では強烈なスパイクも打てないだろう。 「えいっ!!」 ―――ばしっ! 「な!?」 (三綾がスパイク…!?) 完全に虚を付かれた。6-4。 「私がサーブ撃つよ」 「大丈夫?」 「聖ちゃんは休んでて」 (私だって…) 「えいっ!」 三綾のサーブは俺のに勝るとも劣らないひょろひょろサーブだった。 いくら運動音痴の俺でもこれは取れる。絶好球だ。 腕を伸ばしてトスしようとしたその時、 「あー!足が滑ったぁぁ!!」 ―――ずさぁぁぁぁぁぁぁ!! 「ぶほぉっ!?」 聖のスタンディッパーFRCが炸裂した。砂が目やら口やら鼻に入りまくる。 口の中がジャリジャリして痛い。 「ぶ…ごふっ!ごほっ!」 「何やってんだ馬鹿!!」 永園の叱咤が飛ぶ。6-5。 「反則だろ!!」 「だから滑っちゃったんだってば」 「思いっきりスライディングしてたじゃねぇか!!」 くそ…聖のディッパー青は警戒する必要があるな…。 「えい!」 三綾のへろへろサーブが飛んで来る。普通なら余裕で取れる球だが……聖のスライディングがある。 「永園!前に出ろ!2人で掛かるぞ!」 「言われるまでもねェ!」 聖はどちらか一方しか潰せない。俺を潰せば永園が、永園を潰せば俺がスパイクを決められる。 このへろへろサーブだ。俺でもダイレクトで打ち返せる。 もし聖がスライディングすれば体勢も滅茶苦茶になるから、返すのは不可能だ。 (さぁ、どっちを潰す!どっちを潰しても結果は同じだ!!) ―――ゴンッ 鈍い音が海岸に響き渡った。 聖はスライディングしなかった。だから俺は構わずボールに向かって飛んだ。 ―――永園も飛んでいた。 「いつ…」 「ってェな!ふざけんなよ!?あァ!?」 「な、仲間割れしてる場合じゃないだろ!」 聖のサーブが来る。 ―――ん?聖のサーブだって!? 「アイツ…もう回復したってのか!?」 いや、流石に早すぎる。 いくら体力が無くなっているとは言え、三綾が撃つよりはマシだと踏んだか。 「ふっ!」 (アンダーサーブ!?) やはり球速は落ちている。体力は回復していない。これなら…取れる! 「うお!?」 ―――べちっ! ボールが顔面に命中した。6-7。 このサーブは見たことがある。何を隠そう、この俺が自ら解説したサーブ。 「ホップサーブだと!?」 「まだまだね、緒土」 聖が某テニス漫画の人みたいになってる…。あれか?無○の境地ってヤツか? なんか知らんけどスーパーサ○ヤ人みたいな"オーラ"が身体から出てきて、 今まで見てきた技が使えるようになるって言うアレか!? もしかして急に英語喋りだしたりするのか!?果ては分身したりするのか!? 「はっ!」 余計なことを考えている暇はない。今度は次は永園の使ったサーブ。だがこれなら切り返せるはずだ。 こちらにはカーブの本家本元、永園がいる。自分のサーブだ。慣れているはず。 「良しッ!」 永園がボールの曲る方向に先回りする。完璧に見切っている。 「シュリケーン!」  な ん で そ ん な 物 を 持 っ て る ん で す か  確かに一回戦で手裏剣投げは見た。でもなんで聖が手裏剣なんて持ってんだよ! これが無○の境地…!恐るべし!! 「何でもありかよあの女…」 ついに6-8でマッチポイントとなる。次のサーブを決められたら終わりだ。 俺は全く活躍していない。まだ終われない。このままドジっ子では終わらせない!! 「はっ!」 ―――バシィッ!! (ホップサーブ…!) 「くっ!」 振り上げるようにアンダートスを放つ。鼻先まで浮いてきたボールを天高く弾いた。 「永園!撃て!!」 「指図すんじゃねェ!!」 と言いつつも永園が飛ぶ。上体を大きく反らせる。腕だけでなく、上半身のバネをフルに使う。 ―――バシィッ!! 「しまった…!?」 凄まじい速度のスパイク。流石の聖も間に合わない。ボールが猛スピードで地面に落ち――― ―――べちっ! 「あ」「あ」「あ」 3人の音声が重なった。地面に落下すると思われたボールは、三綾の顔面にヒットしていた。 「……いたい……」 「俣奈!大丈夫!?」 ―――ピィーッ!! 「試合終了!!勝者はチーム『見誤ったな』!」 「な、なんでだよ!?」「ハァ!?ふざけんじゃねぇぞ!!」 「良く見て下さい」 「え?」 俺たちのコートにビーチボールが転がっていた。 「が、顔面で返したってのか!?」 確かにルール上は何の問題も無い。でもこんな終わり方って…マジかよ…。 「それではチーム『見誤ったな』にトロフィーと賞品を授与します。皆様、盛大な拍手を!!」 こうしてビーチバレー大会は大きな拍手に包まれながら幕を閉じたのであった。 「あれ?永園は?」 いない。さてはどさくさに紛れて逃げたな…ちょっと目を離した隙にこれか…。 「『ナンパしてくる』って言ってどこか行っちゃったよ」 「そういうところは変わってねぇな…」 「探す?」 「もうすぐメシだし腹減ったら帰ってくるだろ。ホテルで待ってようぜ」 紙野と2人でホテルまで戻る。 「永園怒ってたか?」 「え、なんで?」 「いや、俺足引っ張りまくっちまったからさ…アイツのことだからキレてんじゃないかと思って」 「そんな様子じゃなかったよ。むしろ楽しそうだったよ」 「マジか?」 「うん」 「あの永園がねぇ…」 部屋に戻ってしばらく経ったら郁瀬が帰ってきた。だが永園は帰ってこなかった。 腹が減ったので先に食事と風呂を済ませてしまった。 「もう9時か…」 一応消灯時間は10:00となっている。しかし消灯時間なんて物は破るために存在するのだ。 これを遵守する高校生がいたら見てみたい。そもそも今どき10時に寝る高校生なんていない。 「あ、永園くん」 9:30。不機嫌そうな永園が現れた。 「その様子だとナンパは失敗に終わったみたいだな」 「いちいち五月蝿ェな…」 「メシは?」 「外で食ってきた」 「単独行動は禁止だって言ってるだろ。俺らにも迷惑掛かるんだよ」 「知るか」 「それにしてもハワイにまで来てナンパか…お前らしいな」 「るせェな…テメェは彼女いるもんなァ?いい御身分だぜ」 静寂が104号室を支配した。 「あ?なに固まってんだ?」 「あ、あ、あ、あ、兄貴に彼女がーーーーーーー!?」 郁瀬が取り乱し始める。頭を抱えて床をゴロゴロのた打ち回る。凄いリアクションだ。 「ま、待て!!なんだそのガセネタは!?」 「はァ?テメェ自分で言ってたじゃねェか」 「嘘つけ!!」 「三綾 俣奈と付き合ってるって」 「フオオオアアアアアアアア!!何と言う…何と言う事だぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「何をデタラメな…」 いや待て。思い当たる節がある。そう、あれは今から5ヶ月ほど前。 俺がギル高に入学した初日の出来事だった。 永園が三綾をナンパしにきた。俺は永園から逃れる為に他愛無い嘘を付いた。 三綾と付き合ってる、と。 「……ああ、なんだあれか…あれはただの嘘だ」 「本当ですか兄貴ィィィィィィィ!!」 「ま、マジだ。だから落ち着け」 「良かった…」 さめざめと涙を流す郁瀬。悲しんだり喜んだり忙しい奴だ。 「じゃあテメェに女はいねェんだな?」 「そう言うこと」 「なら丁度いい。お前明日ナンパに付き合え」 ―――は? 「なんでだよ!!」 「別にいいじゃねェか。1人だと色々勝手が悪ぃんだよ」 「郁瀬とか紙野もいるじゃねぇか!なんで俺が!!」 「ホモはいらねェ。毅は話術も無いし、無理に決まってる」 「俺だって無理だ!!」 生粋のギルヲタで高校に入るまでロクに女子と話したことも無かった。 そんな俺がナンパだって?出来る訳ない。 「江辻とか三綾とは普通に喋ってるじゃねェか」 「それはそうだけど……」 「ん?なんだよオイ。お前もしかしてどっちかに惚れてんのか?  それとも付き合ってないってのはやっぱ嘘か?」 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」 郁瀬が絶叫する。 さっきまでネガティブペナルティくらってテンションゲージ空っぽだったはずなのに。 まるで金サイクを当てたかのようだ。 「んなワケあるか!!」 「正直に言えよ」 「どうなんですか兄貴ィィィィ!!本当なんですかぁぁぁ!?」 いくらギルヲタとは言え、男子高校生が4人も集まればこういう会話が発生するのも至極当然である。 しかも舞台は修学旅行。夜の宿の一室。会話に歯止めが掛からなくなる。 「違うって言ってんだろ!それにお前には蘇留がいるだろうが!!」 「フォ…」 郁瀬の動きが止まる。 そうか。なんだ、簡単なことじゃないか。こいつがフォモードになったら蘇留の名を出せばいい。 「なんだ?コイツ女いんのかよ」 「ビーチバレーに行く前に部屋に女の子が来ただろ?アレだ」 「マジかよ…こんな変態野郎に…」 「し、しかしですね兄貴…」 「あ~あ…お前のこんな姿を見たら蘇留のヤツ泣くぞ?っつーかお前蘇留の事どう思ってんだ?」 「どうって…?」 「好きか嫌いか」 単刀直入に聞く。コイツは今まで蘇留に引っ張られる形で付き合ってきた。 実際郁背が蘇留をどう思ってるのかは謎だった。 「兄としても気になるよなぁ?」 「ははは…僕が口出しすることじゃないよ。…でもやっぱり気になるね」 「ほら、どうなんだ郁瀬」 郁瀬が照れたように頭をポリポリと掻く。 「ま、まぁ…正直最初はなんとも思ってませんでしたけど…」 「お!?って事は今は…?」 「す、好き……ですかね…」 あの郁瀬が。 どうしようもなく馬鹿で、変態で―――ハードゲイの郁瀬が。 ついに真人間としての一歩を踏み出したのだ。 嗚呼!!俺は今猛烈に感動している!! 「祝杯だー!!今宵は無礼講だー!!」 「お?酒か?」 「ちょ、ちょっと2人とも!まずいよ!」 「良し、オレが買って来る」 「ちょっと永園くん!やめた方がいいって…」 紙野が止めるのも聞かずに永園は部屋を出て行った。時計の針はすでに12時を回っていた。 「このディズィーランドの入場券、聖ちゃんにあげるよ」 「なんで?遊園地嫌いなの?」 「ううん。好きだけど私この前行ったばっかりだから」 「でも2枚も持っててもねぇ…」 「誰か誘って行ったら?」 遊園地かぁ…あんまり好きじゃないのよね…特にアレ―――"お化け屋敷" あたしに言わせれば、あんな所に好んで行くなんて正気の沙汰じゃない。 お化け屋敷なんかに独りで入ったら恐怖のあまり1分と掛からずにシショる自信がある。 「あ、もう消灯時間過ぎちゃってるね」 「じゃあ電気消すよ~?」 「うん」 パチッと電気を消す。部屋が真っ暗になる。 それにしても今日は疲れたなぁ…まだ気分が高揚してるせいで寝付けそうにない。 「聖ちゃん、起きてる?」 「うん?どうしたの?」 「寝るまで何か話そうよ」 「そうね。あたし全然眠くなくてさ」 「私も」 やっぱり修学旅行の醍醐味は友達と過ごす夜。これに尽きる。 やはり持つべきものは友達だ。この時間が一番楽しい。 「聖ちゃん今日大活躍だったよね~」 「でも最後のは俣奈のおかげだったよ。顔面で返すとは流石だね」 「あはは…私なんてちょっとやっただけだよ。聖ちゃんキャーキャー言われてたし」 あの親衛隊の連中か…正直言ってアイツらにはどんな反応をすればいいのか困る。 「女の子にモテてもねぇ…」 「男の子ならいいの?」 「え、まぁ…そりゃそうでしょ…あたしだって女よ?」 「あはは…そんなつもりで言ったんじゃないよ。聖ちゃんかわいいし。中学のころとかモテてたでしょ?」 「ん~…それは別に無かったなぁ」 「本当?」 「その時はまだそういうの興味なかったしね」 「"その時は"って事は今は…」 「え!?ち、違うわよ!そう言う意味じゃなくて!!」 「ふ~~~~ん……」 やけに間の伸びた「ふ~ん」だった。笑いを含んだ「ふ~ん」だった。 ちょっと大げさに反応し過ぎたらしい。後悔する。 「じゃあさ、例えば松瀬なんかはどう思う?」 「え!?緒土!?」 ドキッとする。 電気を消しておいて良かったと痛切に思った。 なぜなら、今あたしの顔面はゆでだこみたいになってるからだ。明るい場所だったら動揺が一発でバレる。 もう顔から湯気が立ち上ってもおかしくないくらい熱い。 「べ、別になんとも思ってないよ!!!」  「ふ~~~~~~~~ん……」 さっきの2倍は長い「ふ~ん」。このままじゃマズイ。何とか切り返すんだ。 暴れだ。暴れろ江辻 聖。 VTがあるじゃないか。そうだ無敵昇竜!! 「ってVTは発生遅いでしょ!!」 「え?なに?」 「う、あ、ごめん!間違えた!」 つい心の声の方を…何やってるんだあたしは。動揺し過ぎだ。こんなんだから電波って言われるんだ。 「俣奈の方こそどうなのよ」 「どうって?」 「そういう恋愛関係の話」 「やっぱり私もギルヲタだしね…そういうのとは無縁だったよ」 なんか勿体無い。折角かわいいのに… 「じゃあウチらの班の男子とかどう思う?」 思い切って聞いてみる。 「紙野さんは優しそうだよね。真面目だし」 「ふ~ん、毅みたいなのがいいんだ?」 「そう言うわけでもないけど…」 「永園は?緒土は?」 弓太は特殊すぎる人種なので省く。彼女いるし。 「永園さんはちょっと怖いよね。あんまり話が合わなそうかな」 妥当な意見。最近は大人しいけどまだ信用できない。 「松瀬は松瀬で変な人だよね」 "変な人"か…。一番しっくり来る形容。確かにあいつはかなり変だ。 「強引に永園さんも一緒の班にしちゃうし…」 「自己中だしね」 それでも嫌な感じがしないのは、恐らく自己中心的ではあるが利己的ではないからだろう。 最初のころは毅を永園の毒手から助けた。そして今では独りになった永園を班に入れて修学旅行。 ほんとに何考えているのかよく分からない。 自己中だけど利他的。だから不快じゃない。 ……う~ん、やっぱり変なヤツ。 「そうそう、部活見学とか聖ちゃんに剣道やらせたりしたよね」 あれはただ単に緒土が楽しみたかっただけだろう。 (思い出したら腹立ってきた…) 「そうよ!アイツは他にもさぁ…」 夜が更けていく。それからあたし達は寝るのも忘れて喋りまくった。 「ほんとに緒土って自分勝手だし…」 「でも面白いよね」 自己中で、変で、飄々としてる。真面目にやってるのかふざけてるのか分からない行動。 緒土の奇態を語り始めたら限が無い。 ―――なのに…なんであたしはそんなヤツを好きになってしまったのだろう――― 「蘇留、お前はあんなフォモのどこがいいんだ?」 「弓太の悪口を言うな」 「事実でしょ?アイツビーチバレーの時も男ばっかり見てたし」 初めから分かりきっていたことだ。郁瀬 弓太はフォモ。興味があるのは男だけ。 いつかは克服しなければならない問題だと思っていた。いよいよその時が来たのだろうか。 「美里はどうしたらいいと思う」 「さぁね。フォモの事はわからん」 「雹は?」 「ぼくもわかんな~~い」 「ちっ…使えん奴らだ」 「うわ……毒舌ぅ…」 雹が大げさに悲しそうな声を出す。 「事実だろ。役立たず共が」 「む~~そこまで言うならぼくが打開策を提案しようじゃありませんか」 「良し。さっさと言え」 「そんな態度だと教えないよ?」 「じゃあ要らん。自分で考える」 「うあ、嘘だよ嘘!ほんとに蘇留ってやりにくいんだからぁ」 やりにくい?こっちの台詞だ。 「で、案は?」 「蘇留の彼氏をなんとかできないなら、その松瀬って人をなんとかするしかないね」 「なんとかって?」 「消すしかないね」 雹はテンションが上がってくると周りが見えなくなるタイプだ。冗談なのかマジなのか分からない事が多い。 やはり、"天才電波"を通り名に持つような女にこんな相談すること自体がおかしかったようだ。 「ははは、冗談だよ冗談」 「当たり前だ」 「じゃあこれから案考えるからちょっと待ってて」 そう言って雹はノートとシャーペンを取り出して計画を練りだした。 一方の美里はと言うと、ガーガーと豪快ないびきを立てて眠っていた。 「蘇留~~できたよ~~」 「見せろ」 『蘇留のラブラブ大作戦』 ノートの最初のページにはデカデカとそう書いてあった。 (これは消しておこう…) ノートには10数ページに渡って綿密な計画が書かれていた。 分単位で組まれたデートのスケジュール、一挙手一投足に至るまで事細かに書かれた行動。 予期せぬトラブルの回避法など抜け目もない。 「ほんとにこれで大丈夫なんだな?」 「ふっふっふ…これは精神分析理論の観点に立った超合理的な恋愛論…  いくら蘇留の彼氏が特異な性格であっても人間である以上はこの理論が適用されるはずだよ…」 なんかいつもの雹らしくなってきた。電波モードだ。 「例えばこの吊橋理論なんかは有名だよ。他にもぼくが考案した全く新しい…」 「もういい。わかった。助かったぞ雹」 「ふぁ……とにかくこの赤井式恋愛理論に従って動けば100%間違いないから~~……」 そう言うと雹はすやすや眠りに落ちていった。 …残念ながら、弓太はいまだに緒土に執着を見せている。 今度こそ完全に私に惚れさせてやるんだ。明日が勝負だ。

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