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「2スレ目4」(2006/11/26 (日) 20:03:24) の最新版変更点
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『私が未熟なばかりに…!』
『はしたないようだが、オードブルでは満足できなくてね』
俺のヴェノムが地に伏す。
「チッ…これでやっと4点かよ…割りに合わねェ…」
「くそ…こっちの台詞だ」
一試合目は俺が勝った。直後に永園が再戦を叫んだ。2試合目は落とす。
そして次は俺が再戦を挑んだ。3試合目を物にして、今4試合目を永園に取られた。
2勝2敗。
カードはあと1枚しか残ってない。だがそれは相手も同じ。
勝っても負けてもこれが最終ラウンドだ。
「再戦しろ」
「チッ…懲りねェ野郎だ…」
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』
悔しいが永園は強い。以前よりも遥かに強くなっている。特にヤバイのが各種無敵付加行動の巧さ。
下手なシューティングは意味をなさない。
必死こいて捕まえたと思ったら、無敵付加行動であっさり逃げられる。
そして類稀なるぶっぱセンスも健在。インファイトの強さは最早死角が無い。
(これで『3』だと…雁田の野郎、いい加減な評価しやがって…)
『ハァッ!』
開幕前ダッシュを6HSに引っ掛かけた。
いきなりチャンス到来。K生成から起き攻めする。
『いかがかね?』
JK弾き>空中ダッシュJSをリバサ無敵付加空投げで返される。
(嘘だろ…化けモンかよコイツ…!)
起き攻めが来る。6Kを見てから立つのは無理じゃない。
屈ガードを基本に、ファジージャンプで逃げる。
スレイヤーが小さく飛び上がる。6Kだ。
(違う―――フェイント…!!)
『すまんな』
咄嗟に投げ返す。もう少し反応が遅れていたら無敵吸血の餌食だった。
ようやく髭の動きにも慣れて来たみたいだ。
この緊張感のおかげで敵の動きが良く見える。
永園は相当焦ってるいると見て間違いない。開幕から攻め急いでるように感じられる。
ならその昂ぶった感情を逆手に取るまでだ。
『行くぞ』
『一押しが足りんよ』
ストラグルにバーストを合わせて来る。思ったとおりだ。
…残念だったな。Sストだ。
『デュービスカーブ!!』
そのままコンボをつなぎ、HSデュビでダウンを取る。
一応俺のメンタル面での強さは雁田のお墨付きだ。動揺は無い。
『行くぞ』
―――ギギンッ!
Sストの直当てをガードされる。だがまだこちらが有利なのに変わりは無い。
『すまんな』
ダッシュ投げ>6P>2Sで弾いてS、HS生成。F式に移行する。
永園 翼に固めは効果的ではない。ぐずぐずしていたらすぐ逃げられる。
それどころか下手をすれば無敵マッパ、無敵吸血で一瞬にして攻守逆転されてしまう。
如何に少ない手数で素早く崩すかが鍵だ。
『そこではない』
瞬間移動>JSでボールを弾く。立ちガードだ。
ここから昇りJHSと下段。ネタがばれていなければ相手の行動は下段ガード一択のはず。
―――グシャァッ!
(良し)
そのままコンボを繋いでHSデュビでダウンを奪う。
(このまま倒す…!)
この男は強い。こいつが『2』なんてことはありえない。
では何故『2』という評価が下されるのか。恐らく、コイツの強さが表層に出ないものだから。
奴の力は判断力、精神力、そういった精神面での強さだ。
そして最も恐ろしいのが相手の―――つまり今の状況ではオレの―――思考を、心中を察することに長けている。
それは相手の一つの行動に対する『読み』とは違う。
敵の性格を、考え方を読む。
焦っているのか、落ち着いているのか―――微妙な心理の揺れも敏感に察知してくる。
こんな時なら相手はこうするし、この状況ではこうする……。
そういった事を恐ろしいくらい的確に捕らえてくるのだ。
ヤツはオレの行動を大局的に読むことが出来る。
ローリスクの攻めを展開してくるのか、ぶっぱなしによる一撃を狙ってくるのか、そういった行動方針がバレている。
流石に『パイルを撃ってくる』といった局所的な読みは出来ない。ヤツの読みは、心理を探る読みだ。
やりにくいことこの上ない。
さっさと攻めようとすればするほど堅実な立ち回りで焦らしてくる。
落ち着いて攻めようとすればいきなり特攻してきて冷静さを損なわされる。
ヴェノムというキャラがそれに拍車をかけている。
だが負けるわけにはいかねェ。全部このふざけた野郎の所為なんだ。
こいつと会って以来、ろくな事が起きやしねェ。
今まで俺に楯突く奴なんていなかった。ちょっと脅してやればすぐに俺の言いなりだ。
ところがこいつはどうだ。
会って2日目でもう生意気な口を利いてきやがった。弱いくせに…雑魚のくせに。俺に負けたくせに。
毅には逃げられるし、挙句の果ては停学だ。
全部このマッセとか言う糞野郎のせいだ。
だから負けねェ…ぶっ殺す。
オレのほうが強いってことをその腐った脳味噌に刻み付けてやる!!
『行くぞ!』
―――コカッ!ブシュウッ!!
スラスト直当てにリバサ無敵吸血を合わせた。
『シュッ!パイルバンカー!!』
一気に端に追い詰める。約4割の体力ゲージを一気に消し飛ばす。
TGを50%近く回収。状況は圧倒的に優位。
この起き攻めで全て終わりにしてやる。
―――バシッ!
6Kが命中。近Sに繋ぐ!
『ファールを犯したな!!』『カウンタ!』
(チッ…!)
『時間を取らせたな』
ダッシュからダークエンジェル。
『貫けぇぇぇぇ!!』
―――ギン、ギギギンギギギギギギギギギギギン……
FDを張って耐える。全ての動きがスローモーションになる。
『行くぞ』
スラストか…!?処理落ちしてんだ…見えるぜ!!
―――バシッ
(なっ―――!?)
JD>JD>HSストの受身不能ダスト。ヴェノムがスティンガーをMAXまで溜める。
これで一気に決める気か…
(やらせねェ…!!殺られてたまるか!!)
『SHOT!!』
黒い球体が弾き出される。
『"ロマンティーック" 行くぞ!』
MAXステ青から先行入力スライドストラグル―――
―――ドドドドド……!!
『ダブルヘッドモービット!!』
『ぐぅおおおおおおぉ!!』
『ゲームセットだ…』
―――負けた……のか…
「それじゃあカードを渡してもらうぞ」
近付いてくる。
なんでオレがこんな奴に……?なんでだ?何故なんだ?
停学くらってから死ぬ気で練習してきた。強くなる為に。この男を含む全ての敵を倒すために。
強くなりたかった。見返してやりたかった。
無敵マッパを練習した。無敵吸血を練習した。ゲーセンにも行って対戦を積んだ。
なのになんで―――
「どうして勝てねェんだよッ!?」
叫ぶ。もう形振り構ってられない。
「マッセとか言ったな!答えろッ!どうしてオレはお前に負けた!?」
「そうだな…俺も実力は伯仲だったと思う。差はほとんど無かった。強いて言えば、俺には仲間が居た」
「ふざけんなよテメェ…そんな下らない綺麗事が聞きたくねェんだよオレは!!
勝負はタイマンだ!!何の関係がある!!」
「じゃあ聞くが、お前はヴェノム使いとどれだけ戦ったことがある?
俺にはサブで髭を使える友達がいる。そいつの対戦を何度も見てきた。
お前にはそう言う仲間がいるか?いないんだろ?それが決定的な差だ」
「仲間がいないと強くはなれない」奴は最後にそう言うと、オレのカード奪って去って行った。
―――ハハハ……なんだよそれ。
じゃあ、オレはどう足掻いても強くなれないってのかよ…
この怒りをどこにぶつけたらいい?
この遣る瀬無さをどう晴らせばいい?
この後悔をどうやって取り返せばいい?
「ちくしょう……っ!」
どうして今更になってそんなことに気付くんだ。
どうして…もっと早く気付くことが出来なかったんだ―――
永園 翼は涙した。負けた悔しさのせいか、或いは―――
永園 翼 脱落
戦績:8勝3敗
得点:25点
「ありがとうございました…本当に『2』なんですか?」
「そうだよ。きっと担任の目が腐ってたんだろ」
生徒から『5』のカードを受け取る。
永園との試合でかなり時間を食ってしまった。
(『仲間が居ないと強くなれない』か…アイツの受け売りなんだけどな…)
入学初日のことを思い出す。あのころは俺も―――
おっと……駄目だ駄目だ。気持ちを切り替えよう。
今の俺の得点は18点。内訳は蘇留の1点×1、永園の3点×3
そして今『5』を1人と『3』を1人倒した。
テスト終了までもう時間が無い。最後の追い上げだ。高得点の奴を手早く片付けていきたい。
しかし…誰が強いかなんて分からない。
生徒を1人見つけるだけでも大変なのに運良く強い奴に会えるかなんて…あまり期待は出来ない。
恐らく聖と郁瀬は『5』だ。三綾もそうかも知れない。
でも居場所がわからない。このままじゃ時間が無い。どうすれば…
(そうだ……)
思い出した。
雁田 涯。
そう言えば奴は『5』のカードを持っていた。雁田は「誰と戦ってもいい」と言っていた。
教師も対象なのか。それなら居場所もすぐに掴める。それに、教師なら軒並み『5』だと考えていい。
教務室……あそこなら教師が腐るほど―――
(いや、まてよ…)
いくら教師が大量にいても時間がない。対戦の時間も考えれば、多くても2人くらいしか戦えない。
(どうせなら…)
俺は教務室に向かわず、最上階を目指して階段を一気に駆け上がった。
・・・
移動だけ時間を数分ロスしてしまった。恐らくこれが最後の対戦となるだろう。
俺は意を決してノブを捻った。
―――ガチャ…ギィィ…
部屋に入ると、一人でCPU戦をしている男が目に入った。
キィッ…と椅子を回転させ、男は俺の方を向いた。
俺を視界に捕らえると男は一瞬驚いたような表情をしたが、それはすぐに消えた。
代わりに何とも言えない嬉しそうな顔になった。
「君は…」
「松瀬 緒土。使用キャラはヴェノムだ。
『誰と戦ってもいい』って言われたんでね…勝負してくれよ。拒否権は無いはずだぜ?」
自分のカードを突きつける。
「ふふ…ずいぶん傍若無人な態度だね。実は私もこのテストは大好きなんだ。
毎年君のような者が1人はここに来るからね。久々に血が騒ぐよ。
ちょうどCPUの動作チェックにも飽きていたころだ」
男の顔に笑みが広がる。
男はスッと立ち上がると上着のポケットからおもむろにカードを取り出し、俺の前に突き出した。
そこには破格の『10』と書かれていた。
「一応私も自己紹介をしておこうか。私の名は右渡大輔。
この学校の校長を務めさせてもらっている。使用キャラはソルだ」
右渡はスーツを脱ぎ、筐体の近くにあるソファーの上に放った。
「では、乱入してきてくれ」
もう一方の椅子に座る。まさか『10』なんて物が存在しているとは思わなかった。
右渡を倒せば一気に+10点…相手はソル。こちらが有利だ。
(この試合…なんとしてでも勝つ!!)
『Here comes a daredevil!!』(命知らずがやって来た)
『悪いが終いだ』
『…ブレイクだ』
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』
『ヴォルカニックヴァイパー!!』
『それで終わりか』
―――ガード。着地硬直にコンボを叩き込める。
だが何故だろう。このモヤモヤした感じ……。
ソル戦では開幕は2SかKが安定。普通はこのどっちかを使う。
だが俺が選択したのはガードだった。別にVVを読んでいた訳でも無い。
ただの結果オーライだ。
(右のプレッシャーに圧された…ビビッたってのか?)
今の精神状態は好ましくない。
俺は知らず知らずのうちに……無意識にリスクを減らそうとしている。
リターンを無視して、ただリスクを減らす事を考えている。
―――右を恐れている。
駄目だ。
表面的には真逆に見えるが、これではリスクを省みずにぶっぱをする厨と同じだ。
落ち着け、判断しろ、考えろ、読め、探れ―――
(落ち着け)
最重要事項を反復する。
ある程度の高揚は良い。緊張も良い。慎重になるのも良いだろう。どれも戦いには必要なものだ。
―――だが、恐怖は邪魔でしかない。微細なものでも許されない。
『デュービスカーブ!!』
HSデュビからF式。
『調子に乗りやがって!』『カウンタ!』
K生成にバーストを合わせられる。
『イタダキー!!』
―――バシッ!
『ファールを犯したな!!』『カウンタ!』
ダストに当たっちまうなんて……落ち着け。恐れるな。
距離を離した。この間合いは、ヴェノムの距離だ。
カッ…カッ、カッ…カッ…
シューティングを展開。
『どうしたぁ?』
右はボールを尽く直ガしてゲージを溜めている。さっさと突撃した方が良さそうだ。
牽制しつつ距離を詰め、固めに移行する。
『マッセ!マッセ!』
ボールを主体に固める。本体で直接固めるのは良くない。VVの餌食になってしまう。
適度に間合いを開けて生成とカーカスで固める。
穴は多いが、これなら手痛い反撃は食らわないはずだ。
『どうしたぁ?』
だがこのまま冗長と固めているわけにも行かない。どこかで崩さなくては。
『行くぞ!』『ヴォルカニックヴァイパー!!』
待ってましたと言わんばかりにVVが飛んできた。
叩き落しから起き攻め。
ガッ
2Pを当ててくる。ぶっきらとVVの2択がくる。
『すまんな』
弱気になっていると踏んでいた。
だからガードを読んで"ぶっきらぼうに投げる"を選択した。
だが意外にも彼の心は折れていなかったようで、投げ返してきた。
(まぐれ…か…?)
HSストから起き攻め。さて…どんな攻めを展開してくるのか、お手並み拝見と行こうか。
『行くぞ』
(スラスト…!)
―――ガガッ!!
しっかり封炎剣でガードする。
"スライドストラグル"……ボールが無い状態では、これが中段の崩しのメインとなる。
しかし、その発生は最速で入力しても20F。とてもじゃないが高速中段などと呼べる代物ではない。
ましてや人間の指だ。実際は20F以上に遅くなる。
いくらその後の状況が有利とは言え、崩し能力自体は恐れるに足りない。
『行くぞ』
(なっ―――!?)
―――ガガッ!!
2連続スラスト……この私を相手にして思い切った崩しをして来る。
弱気どころか……随分と強気に出るじゃないか…私の判断ミス、か。
『行くぞ』
(3連―――!?)
―――ガガッ!!
ガード。
『行くぞ』
―――バシッ!
被弾。
なんてヤツだ…スラスト3連発からダストアタック…。
(ふふ…そうでなくては、面白くない…)
『覚悟を決めろ……ダークエンジェル!!』
受身不能ダストからダークエンジェル。
『行くぞ』
スラストを何とかガードする。このまま波に乗らせるのは良くない。
松瀬 緒土、か……私の目に狂いは無かったようだ。
私も全力で相手をしよう。
『ヴォルカニックヴァイパー!!』
固めにVVで割り込まれる。流石に攻め急ぎすぎたか…
『フッ』
2Pを起き上がりに重ねてくる。ここは―――足払い暴れ!
『ハッ!』
ヴェノムの足先がソルを捕らえた。
―――かに見えた。
(すり抜けた…!?)
『イタダキー!!バンデッ!ブリンガー!!』
2HSCHからBBをくらう。
(一体、何が?)
常軌を逸した光景に思考が止まる。
『イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!……』
Dループをくらいながら考える。
信じたくなかったが、思い当たるのは1つだけだった。
(ダッシュの足元無敵で…?)
これが右渡……ギル高校長の実力…
(化け物め…!)
そのまま叩き落される。起き攻めだ。
『フッ、ヴォルカ…』『ロマンティーック!』
2PからVVRC。迂闊に暴れてしまった。ヴェノムの体が炎に包まれる。
『イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!イタダキー!……』
さっきまでこちらがかなり体力をリードしていたと言うのに、気がつけばもう残り2割。
ソルの火力なら何が来ても致命傷だ。この起き攻めに当たれば死ぬ。
(絶対見切ってやる!!)
その気概が逆に仇となった。次の瞬間画面に映った映像を見て、俺は混乱してしまった。
『ドォラゴンインストォーール!!』
(なにやってんだこいつーーーーー!!?)
『ハッ!』
(あ…)
生ぶっきら。ヴェノムの体が大きくバウンドする。それはヴェノムの死を意味していた。
「持っていきたまえ」
右渡がカードを投げた。
「俺は負けたはずだぞ…」
「本気を出したのは久し振りだったからね…私を楽しませてくれた礼だ。遠慮なく受け取ってくれ」
「情けのつもりか?馬鹿にするな!!」
負けた上に憐れみまで受けるなんて俺のプライドが許さない。
「じゃあこれは"貸し"にしておこう…君はもっと強くなれる。
君がさらに強くなったとき、私ともう一度戦うんだ。そのときに借りを返すチャンスを与えてあげよう。
だから君はこれを受け取らなくてはならないのだよ」
(…巧く立ち回るヤツだ。対戦の時も…そして今も)
「…この借りは必ず返してやるからな!!」
「ふふ…楽しみにしておくよ」
『オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!ネッテロー!!』
テスト終了の鐘と共に俺は校長室を後にした。
・・・
「郁瀬が10点!?」
教室に戻ると、いきなり凶報が耳に入ってきた。
「なんでもエディ使いに3回勝負挑んで全部負けちゃったんだってさ」
聖も未だに信じらんないと言った顔をしている。
「いやーあんな強い人は初めて見ましたよ…」
「どんなヤツだったんだ?」
「眼鏡の男で…どっかで見たことあるような顔なんですけどねぇ…思い出せないなぁ…」
目を閉じて記憶を辿る郁瀬。
それにしても郁瀬をストレートで倒すなんて一体何者なんだ?
「聖は?」
「あたし?20点だけど」
「私は21点だよ」と三綾。
「僕も21点」と紙野。
…もしかして俺って点数高い方なのか?
「緒土は?」
「28」
「嘘!?」
「嘘じゃねーよ!」
やはり右の+10が効いているらしい。
「あんた一番高いんじゃない?」
「マジか!?」
「だってほとんどの人が10点以下よ?」
っつーことは郁瀬もそこまで酷い点数ではない、ということか。
「思い出しましたよ兄貴ィ!!」
「何が?」
「俺が負けたエディ使いですよ!あの台詞で思い出しました!」
「あの台詞?」
「『オガニー気持ち良かっただろ?』って……」
ギルティをやっていて彼の名を知らない者はいない。
GG界最強の名を縦にするエディ使い。通称暴君、その名も"オガワ"
「全員戻ってきたか?カードを回収するぞ」
雁田が生徒を1人ずつ呼ぶ。
「松瀬」
「はい」
雁田がカードを繰って点数を数えていく。
しかし最後のカードを見るなり、血相を変えた。
「ちょっ、おまっ……」
「どうしたんスか?」
「どうしたもこうしたもねぇ…お前この『10』のカードをどこで…」
雁田の声が無声音になる。俺も調子を合わせたほうがいいのだろうか。
「どこでって…右に貰ったんだ」
「…勝ったのか!?」
「いや、負けたよ。でも右が『楽しませてくれた礼だ』ってさ」
その後雁田は何度も俺の顔とカードを交互に見ていた。
「合計28…か…」
「高いのか?」
「暫定1位とだけ言っておこう」
もしかしてこれで今までのテストの遅れを取り戻せたか?
「良し、もう行っていいぞ…次!三綾 俣奈!」
「あ、はーい!」
「これでテストも終了だ。お疲れさん。
これから修学旅行だし、溜まったストレスとか晴らして来い」
そう言えばハワイとか言ってたっけ。うはー夢が広がりんぐ。
「じゃあ今日はこれで解散!」
雁田がそう言い終えるや否や教室は生徒のはしゃぐ声で埋め尽くされた。
ハワイかぁ……俺あんま泳げねぇんだよな…。クロールがギリギリ出来るかどうかって所だ。
それ以前に身体がヒョロい。あんまり人目に晒したくない。
「ハワイか~いいねいいねぇ~」
俺とは対照的に聖は明るい。こいつは泳げないなんてことはまず無いだろう。運動神経いいし。
何でもこなしそうだ。
「聖ちゃん嬉しそうだね」
「そりゃ嬉しいに決まってるわよ。毎日ギルティ漬けだったからねー
久し振りに体動かせそうだし」
「聖ちゃんどんな水着持ってるの?」
「ん?あたしはねぇ…」
(い、いきなり破廉恥な会話を始めやがってコイツら…!)
いくら根っからのギルヲタとは言っても、俺も男だ。
しかも思春期ド真ん中の高校生。
果てしなく広がっていきそうな妄想を必死に押さえ込む。
(もちつけ!!)
この時点ですでに落ち着きを失っている。
前述したが、俺は重度のギルヲタだ(多分この学校の人間は少なからずそうだと思うが)
ぶっちゃけ女に対する免疫なんて全く無い。中学の時に派手に鼻血を噴いたこともある。
「緒土、なに顔真っ赤にしてんの?」
「え!?」
「あ~さてはアンタ……どうしようもないスケベね」
「ち、違うっ!俺は必死に抑えてたんだ!!」
「抑えてたって事はやっぱり…」
聖の顔に薄い笑みが広がる。
「セクシャルハラスメント反対!!」
とか叫んでやりたい所だが、こう言う局面では何故か男の方が不利になるケースが多い。
例えこちらが正論を唱えていようとも。
「あ、兄貴…もしかして俺の裸体を想像して…」
鳥肌が立つ。
「てめーは黙ってろッ!!」
いいような無い不安。大変な修学旅行になりそうだ。
テスト終了から数日後。
「じゃあ今日は修学旅行の班を決めてもらう。適当に5~6人組で班を組んでくれ」
当然すぐに班は決まった。俺、紙野、郁瀬、聖、三綾の5人。
これが中学のころだったら―――そう思うと嫌な気分になる。
でも今は違う。俺には友達がいる。でも…
「おい、どうした?早く班を作れ」
ぼーっと窓の外を眺めている男が1人。永園 翼。
アイツには友達がいなかった。停学処分を受け、復帰して、テスト…あれから2ヶ月。
永園はずっとこんな調子だった。あの日を境に永園は別人のように生気が無くなってしまった。
「永園、早く班を…」
そんな永園は見るに耐えなかった。
こうなったのは自分のせいだという事もなんとなく感じていた。だから、発言した。
「永園は俺らの班ですよ」
「おお、そうか。じゃあ頼んだぞ」
我ながら自分勝手な発言をしたものだ。でも、もう遅い。言っちまったんだ。しょうがない。
「悪いな…つい…」
「別にいいわよ。それに、アンタならそう言うと思ったしね」
「私もいいよ」
「兄貴が大丈夫って言うなら間違いないッスから!」
3人とも快諾してくれた。
「紙野も…大丈夫か?」
形はどうあれ、紙野と永園は深い関係を結んでいた。
一番永園の被害を受けてきた。さすがに紙野に断られたら…
「いいよ」
「…本当にいいのか?無理しなくてもいいんだぞ?俺が勝手に言ってることだ」
「うん。大丈夫だよ。永園くんさえ良ければ、だけどね」
永園の方を向く。その瞳には久しく見なかった覇気が確かに篭っていた。
「テメェ…もうオレにちょっかい出すんじゃねェよ!!」
「そう言うなって。楽しくやろうぜ?」
「ふざけやがって…オレは独りでいい!」
俺は永園を更生させたかった。…いや、普通のクラスメイトとして接してみたかった。
だが永園は俺を拒む。迷惑だと言う。
俺はただ自己満足の為にやっていたのか?永園の気持ちなんて考えてなかったのか?
―――否。
それだけは違うと言い切れる。
独りになることの辛さは知っている。永園には……いや、誰にもそんな思いはさせたくなかった。
出来ることなら友達に―――
でも、やはり俺の力では無理だったのだろうか。
やり方を間違えたのか?話し方がまずったのか?強引にやったのが駄目だったのか?
―――分からない。
「永園くん!」
(紙野…)
「ぼ、僕は…その……気にしてないから!」
永園の動きが止まる。
「…毅…お前…」
―――見つけた。突破口。
永園は確実に変わってきている。停学処分後は髪も黒く染め直した。素行も良くなった。
そして今、永園の中には紙野に対する罪悪感がある。何も感じていなければこんな態度になる筈が無い。
今なら―――大丈夫だ。
「紙野もいいって言ってるんだし、別にいいじゃねぇか」
なるべく普通に。肩肘張らず、自然体で。
「お、オレは……」
素直じゃねぇなぁ。まぁ永園らしいと言えば永園らしい。
あいつプライド高そうだし、あまりストレートに言うのも逆に答えにくいよな。変化球で攻めるか。
「紙野への罪滅ぼしってヤツだ。お前紙野に負けたくせに、断るってのか?」
それから数秒の沈黙があった。
教室内は生徒の笑い声などで賑やかなままだったが、その数秒の間はそんなものは全く耳に入らなかった。
「…勝手にしろ」
そう言うと永園は自分の席に戻っていった。
俺はようやく歩み寄れたような気がした。ここまで…長かった。
―――良かった。