~りんくと恭兵とバースディ~




恭兵はシャンパンをあけている。
グラスの準備も万全だ。
今日は彼女のバースデー。


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「あ、恭兵さん。お手伝いしますよ」

向こうから駆けるようにやってくるのは本日の主役。
白を基調としたAラインドレスがよく似合う。
生地は陰影により、水色にみえる。
そして彼女を飾るのは生花。白くて小ぶりな薔薇がたくさん。彼女は白がよく似合う。
まるで花嫁だな、と思った瞬間、花嫁姿を想像して、顔が赤くなった。

「座っているか、挨拶してきてくれ」
「お前さんが今日の主役だ」

自分が手をとって見せびらかしたい気もしたが、やめておく。
代わりにりんくの頬にキスを落とす。


「わ…ありがとうございます。えと、じゃあ、ちょっとご挨拶してきますね」
「ドレス、似合ってる」

率直な褒め言葉にりんくは頬をますます赤くして、「あ、ありがとうございます」と言いながら恭兵に抱きついた。
その様子は変わらず初々しくてかわいい。
なんだかこのまま時間が過ぎても悪くない、なんて恭兵が思った瞬間呼び鈴が鳴る。




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訪ねてきたのは本日の招待客、蒼の夫妻。

「こんばんは」
「本日はお招きいただきありがとうございます。これ、よかったらどうぞ」

忠孝の横のあおひとが、綺麗にラッピングされた箱を渡す。
中身はお手製のケーキ。

「ありがとう、あおちゃん! とっても嬉しいです」
「えへへー、お誕生日おめでとうございます、りんくさん」

りんくとあおひとが、ハグしている。
りんくの嬉しそうな顔に恭兵も満足する。

「改めまして本日はお越しくださいましてありがとうございます」
「こんなところで立ち話もなんですし、どうぞ中へ入ってください」

りんくの言葉に、みな部屋のほうに向かう。

「失礼します。お綺麗ですよ」
「ありがとうございます」
「本当に。ドレス、お似合いですねー」

蒼の夫妻の言葉に顔を赤らめながら、嬉しそうに微笑むりんく。確かに綺麗という言葉が似合うようになった。
出会った頃のりんくを思い出す恭兵。

あのときは、まさか自分が結婚するなんて思いもよらなかった。その相手がまだ固い蕾のようなりんくだとも。
硝煙の臭いのしみついた自分と、幸せの象徴である家庭がイコールで結ばれる日がくるなんて、あの頃の自分が聞いたら鼻で笑いそうだ。
それでもあきらめきれず誰かを探していた。そばにいてくれる誰かを。
初めて会ったとき、りんくに一瞬その希望をみた。
しかし・・。彼女は、若すぎるではないか。
悩んだ。離れなくてはと思った。
それでもりんくはあきらめなくて、自分もりんくを手放せなくなるほど愛していた。
長い年月をかけて、りんくは自分を変えてくれた。
結婚とはよりどころで、自分のすべてが受け入れられるということの安心感がこれほど自分を安らかにさせる。
一人でいたときには感じることのできなかった、想い。
誰かのために生きる、幸せ。
側で微笑む、りんくという女性がすべて教えてくれた。
蕾はやわらかくほころび、女性として美しく花開きつつあるりんく。

今日はそのりんくの生まれた日なのだ。

若宮、蒼の夫妻、岩手、小助。
多くの人々が彼女の生誕を祝ってくれる。

小助はしばらく無言の後、食えと言って猫を持ってきた。
目を丸くするあおひと。
苦笑いするりんく。

「あはは。ありがとうございます。でも、私は猫さんが食べられないので一緒に暮らしてもいいですか?」

小助は猫に「生き延びたな」と言った。
りんくは「今日から一緒に暮らそうね」と雉トラの猫に言い、猫はないた。
あおひとが「あぁ、やっぱり猫さんは可愛いですねー」とほわほわーんとなっている。
それにしても・・。恭兵は思った。

「こいつはまた、男ばっかりだな。嬉しくてなによりだ」

りんくが喜ぶならそれでもいいと思っていたら、「外に数名の女性がおられましたが」と若宮が言った。

その言葉に慌てるりんく。

「え! この季節にお外ですか!? それは風邪を引いちゃいますよー」

りんくが迎えにいき、連れてきたのは宰相だった。
髭のおじいちゃん宰相。不思議に思ったが、ちらりと外をみると女官長たちがいて、納得した。
そして恭兵はそのまま集団から離れ、見守る。

蒼の夫妻や、宰相、そして多くの招待客にかこまれて嬉しそうなりんくを見るのは気分がいい。
彼女は多くの人に愛されているなと感じる。
宰相が何かを言い、りんくがグラスを持つ。胸にはあおひとから貰った雪をかたどったブローチが光る。

「はい、では乾杯しましょう! みなさん、お手元にグラスはありますか~?」

りんくの言葉に皆がそれぞれ乾杯をはじめた。
猫がにゃーと鳴いたのを見てりんくが楽しそうに笑う。

「あはは。なんて素敵な誕生日なんでしょう! みなさん今日はありがとうございます、乾杯!」
「ハッピーバースデー。今年もりんくさんにとっていい一年でありますようにー」
「かんぱーい!」

微笑ましいな、と思いながら恭兵もグラスをとる。
シャンパンを一口飲み、こんなにいいシャンパン買ったっけ?と考える。
恭兵のところにりんくが戻ってきて、横に並ぶ。

「恭兵さん、お祝いしてくれてありがとうございます…って、どうかしましたか?」
「いや、なんか。滅茶苦茶よくなってないか。このシャンパン」
「え? あー……もしかして…」

りんくの視線の先では宰相が微笑むと知らん顔をしていた。
恭兵はそれに気づかず不思議顔。

「?? 奮発したつもりだったが、こいつはすごいな」
「ふふ。おいしいシャンパンが飲めて、私とっても嬉しいです」



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その頃。
宰相の横にいたあおひとが笑顔で宰相に話しかける。

「粋なことをなさいますね」
「何、酒蔵からいくつか選ばせただけさ」

言った後でしまったという顔をする宰相。

「おとーさまは娘思いですね」
「なに、手間の掛からない娘でよろこんでいるよ」

自分のことのように嬉しそうなあおひとに宰相が答える。
宰相にとって、あおひとも可愛い娘である。

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りんくと恭兵はパーティーを二人で眺める。
パーティははやくも盛り上がり始めている。

「うわー。なんかみなさん盛り上がってきてますね、恭兵さん」
「猫が人気だな」

猫を交代で抱き上げたりしている様子をみながら、恭兵は笑った。

「名前はなんにする?」
「どうしましょうか。本当は、あの子に自分の名前が聞ければ一番いいんですけどね」
「うーん…そういえば、あの子は雄なのかな、雌なのかな…」

恭兵は猫を抱き上げて確認し、ひっかかれた。

「オスだな。立派なトムキャットだ」
「でかくなりそうだな」
「あら。だいじょうぶですか、恭兵さん」

りんくが猫を受け取る。綺麗な緑色の目をした猫。脚の先が大きい。確かに大きくなりそうだった。まだ4、5ヶ月くらいか。

「いい猫ですね」

やってきた忠孝の言葉にりんくが「ええ、とっても可愛いですよね」と微笑む。
あおひとが「子供が生まれたら、うちも飼いましょうか?猫」と猫好きの忠孝を思いやると「そうですね」と忠孝があおひとの額にキスした。そして微笑む。
猫はわきまえたようにおとなしくしている。

「あ、ありがとうございます…」

額をおさえ、真っ赤になるあおひと。

「うーん、お名前、なんにしようか。ねえ?」
猫と目を合わせながら話しかけるように言うりんく。
猫は丸い目でじーと見ている。
小さい舌を見せてる。
なんとも愛嬌のある顔。あくびした。
かわいさにりんくとあおひとは、猫をなでたりきゅんとなったりしている。

「女好きで物怖じがないか」
「他人とは思えんな」

恭兵は笑った。

「なるほど。じゃあ、このこの名前は『きょうへい』にします?」
「せめてきょうへい2にしよう」
「俺のほうが先だ」
「はい。じゃあそうしましょう。よろしくね、『きょうへい2』」

りんくがきょうへい2を抱き上げ、鼻先にちゅっとすると猫は目を細めた。
恭兵は笑っている。
その様子をみていた宰相がやってきた。

「中々円満そうで何よりだ」
「はい、恭兵さんがそばにいてくれるので、私、とっても幸せです。おとーさま」
「本当に幸せそうですねー。もっと私に恭兵さんとの惚気話聞かせてくださいね」
「冴えないじいちゃんだな」

恭兵が毒づくと、宰相はわはははと豪快に笑い、冴えないが娘は立派だ。それで十分、と言った。
毒気をぬかれる恭兵。ここは素直に受け取ることにする。

「なるほど。ありがとうございます」
「おとーさまの誇れる娘でいられるようにがんばります」
「…わ、私もおとーさまに立派って言われるように頑張ろう、うん」

宰相は笑うと、杯を掲げた。



Fin





 ■□■おまけ■□■


パーティー、その後~




ソファーに二人で腰かけながら、寄り添いあう二人。

「恭兵さん。おみやげのケーキ、おいしいですよ?」

小首をかしげながらりんくはフォークに刺したケーキを恭兵の口元に運ぶ。
ぱくりと口にして、唸る恭兵。

「確かにうまいな・・」
「でしょう?ありがたいですね。こんな暖かなプレゼントをいただけるなんて」

えへへ、しあわせです。と笑うりんく。

「これもうまいぞ」

りんくが、え?と思う間もなく、唇が塞がれ、しゅわりとした熱い液体がりんくの喉を流れてゆく。恭兵がりんくの口元からあふれた酒を舐めるように舌を這わせ、りんくが、あ・・と、かすかに声をあげる。

「きょう・・・、へい、さ・・?」
「さすがは宰相の贈り物だな。こんな酒はめったに飲めないだろうな」

いつもまにかりんくは恭兵の膝に横抱きに座らされていた。
もたれ掛るように恭兵に寄り添うりんく。酒のせいか顔が赤い。
続けて恭兵がまた口移しで酒を飲ませる。
りんくは恥ずかしさのあまり抵抗しようとして、伸ばした手を恭兵にとられる。
落とされる口づけ。
りんくの喉が、ごくりと液体を嚥下する。
無意識に恭兵を探してりんくの手がさまよう。
そのままりんくの手は、恭兵によって恭兵のたくましい首にまわされる。
男らしい匂いが、りんくの鼻孔をくすぐる。


恭兵の大きな手が大事そうにりんくを抱きしめ、背中を触り始める。
羞恥に震える、細い身体。

「こ、こんなところ・・・で?」

りんくの言葉に恭兵は耳元で囁く。それもいいが、今はお前をさわらせてくれ、と。


「・・・恭兵さん、もしかして寂しかったですか?」
「見せびらかしたい気持ちと、独り占めしたい気持ちがせめぎ合っていたな」

強く抱きしめられるりんく。
そういえば、今日のパーティの取り仕切りを恭兵がすべて引き受けてくれたことを思い出す。もちろんりんくも手伝ったが、さりげなく恭兵はりんくに別の用事を頼んだりした。
りんくを立てて、りんくが楽しめるように気を配ってくれたのだろう。

「恭兵さん、今日はありがとうございました。おかげさまでとても楽しかったです」

りんくは恭兵の頬にキスを落とし、そのまま口づけた。
返ってくるのはオトナのキス。
とろけてしまいそうなキスの返答に、ふあ・・と蒸気したりんくの声が漏れる。

「わかっているんだけどな。限界」

自分のものだと主張するようにりんくにキスの嵐を降らせる。
恭兵はそうしてりんくの耳元で囁く。誕生日おめでとう、と。
りんくは、顔を真っ赤にした後、恭兵をぎゅーと抱きしめた。



そのころ、きょうへい2は・・。
空気を読んだのか、もしくは女性に囲まれて疲れたのか、用意された寝床で丸くなって寝ていた。



それは誕生日パーティーの後の出来事。
だれもが知らない愛の物語。


おしまい